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―東ブロック・ビルの屋上―
[昨晩の少女は、見殺しにした。
助けようとしたマスターを非難さえした。
それが、“戦争”と呼ばれる行為に求められる非情さだと、当然のように確信していた。
だが視線の先の娘に対しては――それが当然だと思えなかった]
何故、だろう。
別段、見た目が彼女と似ているわけではないのに。
……弱さ、から?
……あるいは、率直さ、から?
[思い起こされる生前の記憶。バトシェバとの出会い。
生真面目すぎる夫、ウリヤに顧みられる事のなかった女。
彼女の寂しさと弱さに付けこんだ罪。
出て行くべきか、否か。煩悶を抱え、その姿を追い続けた]
[
一瞬の自失。
その隙に、ゴドウの魔術が視界を覆った。
危険を感じて身構え、風の呪を唱えて、煙を吹き払ってみれば。
戦いの場へと駆ける、魔術師の背。
そして、左之助の槍にと集中する、魔力の渦。
――……あれは、拙い。
考えるまでもなく、サーヴァントとしての本能が、そう告げていた。
極限の鍛錬を積み、魔術の小細工を駆使し、神秘を抱いた古刀を振るっても。
――宝具にだけは。人の身では、届きはしない。
]
[
――……ならば、どうする。
いまゴドウを殺したとて、直ぐ消失するわけでもない。主を殺す時間に充分過ぎるだけの時間は残されているだろう。
で、あれば――ゴドウを殺さず、左之助を止めさせる必要があった。
]
――いかせません!
流砂よ、捉えろ!
ريگ سريع
[
一帯の地面を、足を呑み込む流砂と化す呪。
だが、間に合うかどうか――それを、駆けるゴドウの前方へと撃ち放った。
]
[これまでと明らかに違う、膨大な魔力の渦がランサーの槍に向かって収束していくのを感じる。]
む、……っ。
[それでも、出来ることと言えば、一つしかなかった。
蒲生正宗を正眼に構え、ランサーの一撃に備える。]
な…この!
[ 足元が流砂と化す。即座に絵の具を足元へと投げつけるも、変化はなかった。干渉力が違いすぎる。]
く、一文字…ッ
[ 為す術なく足をとられ、ツカサは腰まで流砂に埋もれた。]
――東ブロック アパート――
[部屋の隅で、影のように座り込んでいる。時折ぼやけた輪郭から顔が湧き出、ブツブツと何事かを呟いた。
みなみが外に出て行ったのには気づいたが、キラーは動かない。昨夜に起こったことが、キラーに何をもたらしたのか……ブツブツと、ブツブツと、浮き上がり消えていく顔たちは呟き続ける]
[信長の言葉に、思わず下を向く。]
…じゃあ、私は…
[その後に言葉を続けようとして、突然、左手の令呪が引きつるように痛んだ。]
……近くに、マスターが居る…っ!
[硬い声で、信長に告げた]
――……彼を止めなさい、魔術師!!
[言って。主の願いを訊ねた、ゴドウの言葉を思い出して、付け加える。]
願いが――貴方にも、生きて叶えたい願いがあるのでしょう!!
こんなところで、死にたくはないはず! そうでしょう!?
[決定的な一撃を放とうとした時、左之助は流砂に埋もれていく梧桐の姿を見る。
続けてキャスターの方へと目を向けた。
今放てば、シエラはツカサを殺すだろう。
マスターの同時消滅と言う事態が頭を掠める。
左之助は次に取るべき行動に悩んだ。]
[ 背中越しに、鋭い魔力の気配。脅しとも交渉とも取れるキャスターの言葉。選べる答えはひとつしかない。だが果たしてそれに乗っていいものか…。]
一文字。
[ こちらへと迷う瞳を向ける左之助。その顔を見て、やはり現状には他に手立てがないと悟った。]
………判った。助けてくれるなら、うちのサーヴァントにも手を引かせよう。
[ 不利な交渉にはならぬよう、言葉を選びキャスターに答えた。]
シエラ!同時だ、俺が槍を納めるのと同時に魔法を解け!
いいな!
[左之助はそうシエラに叫ぶと、ゆっくりと高まった魔力を押さえていく。]
よし。
バーサーカー。明日誰が来るのかわかったところで、歓迎の準備を整えよう。
いつまでも何もない空間で遊んでいるわけには行かない。
しかし夏だからな…コタツは出せない。
プールとかいいかもしれないな。
それともサウナか。
[左之助の言葉に、頷いて。ゴドウへと、言葉を向ける。]
――……安心して下さい、約束は違えません。
それに……。
[
――もう、誰も殺したくないんです。口のなかだけで、小さく呟いて。
流砂と化した地面を、元にと――埋まったゴドウの身体を、大地へと浮かばせながら――戻していった。
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