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(みんな、みてくれてるかなぁ…?)
[行列を続けながらも、見知った人の顔を探してみる。
遠巻きに佇む烏丸と、誰かを探すように歩き回るシラサワの姿が見えた、気がした。]
(あ、おじさまもいる……!)
[自分に気付いたかはわからないが、松風に向かってそっと微笑む。]
朱……みんな見にきてくれてるよ…!
[すぐ近くで頑張る仲間に耳うちをする]
[調の隣で格好つけながら歩いていると耳打ちされる]
みんな?あのリェンのお店であった人たち、か?
あ!ほんとだ、あの袴のねえちゃんも見かけたことあるし、芙蓉のねえちゃんもきてるね!
芙蓉のねえちゃんにはスープももらったしなあ…
[少年はぼんやりと昨日?の記憶にある顔を発見し、調に話しかける]
[あらゆる見世物が終わり、辺りはいつもと変わらない静けさを取り戻し始めていた。遠くではまだ、誰かが祭りの余韻に浸っているのだろうか。ぼんやりと提灯の灯りが見える。]
…予告のとおり、迎えに来た。
[二人だけの秘密の場所に、ちぃは居た。暗くて表情はよく分からない。が、俺は『花盗人』。盗むのに『花』の意見なんて聞くわけがない。鮮やかな若葉色の髪を隠すように自分の帽子を被せる。]
泣いて嫌がっても連れていく、と言っただろ。……来て、くれるか?
宴もたけなわだけれど。
わたくし、一足お先にお暇するわねぇ。
リェンさん、今度はわたくしのいるところで出店して欲しいわぁ。いっそ、お店構えちゃいなさいな、良い常連になるわよぉ?
甘利ちゃん、わたくしとお酒飲んでくれて、ありがとうねぇ。とーっても、楽しかったわぁ。
また会いましょ♪今度は女通しの語り合いもしたいわぁ。きっとわたくし達、良いお友達になれそうよぉ。
兎面のおにーさんは、ふふっ。また夢で会いましょぉ…?
[夜は良い。俺たち二人を隠してくれる。…残念ながら奇術師でも魔術師でも無い俺は、こうして息を潜めて逃げ隠れするしかないんだ。いなくなった、と気付かれるのはいつになるだろうか。それまでに遠くに逃げなければ。…ああ、でもその前に、伝えなければ]
ちぃ、愛している。
…ずっと、これまでも、これからも。
−−稚児行列の人だかり、噺家松風の此度の祭噺。
おいおいが祭りを楽しんで、日常と非日常の狭間に差し掛かる。
今回の100年の節目も、もう一度迎える頃には、また風化しているのだろう。
それが良いことかは分からない。これまでの100周年はそれぞれの家はどう迎えていたのか、それすらも分からないし、狐と狼を目の当たりにした今でも、カガチはまるで、分からない。
不思議な年に、偶然巡り会えた。そのぐらいでもいいのかもしれない。
「……」
明日からはまた、普通の日々が訪れるのだろう。
もうこの地に残るものはおらず、朱も調もセンも、ゆくゆくはこの村を出て行く。そんな気がする。
そして、
「……そっか。
千代……君も、この村を離れるんだね」
幾人もこの村を離れ行くものを見送ったカガチだが、この時の心情は、常とは異なるものだった。
−−地上のお花披露目は、それは見事なものだった。
側に寄るだけで香り高いキンモクセイの一株に、周りの人々は見入っている。
そこから子供達も連れられ、地の花見から、夜空の花見へと。
少し時節を外して打ち上がる花火を決行するのは、この辺りではカガチたちの村の他にない。それこそ毎年、隣町からも人が訪れ見に来るほど。
−−そんな花披露目が注目を浴びる傍らで、
この会の立役者であるべき花守の少女は、物陰で人知れず、禁断の逢瀬を重ねているところ。
カガチも、それを直面するほど野暮ではない。
だが、彼の家に継がれてきた鬼灯の灯火が、そんな二人の許されざるこの先の行く末を、ぽぅ、と見透かしていた。
見て、カガチは二人の姿を見ずに思う。
「……烏丸。ウチの花守を頼んだよ。
それと千代。もう少し穏やかにたおやかに、ね」
−−キンモクセイでさえ彼らの恋路を手助けするように。
一身に、人目をあらん限りに惹いていた。
「……甘利ねえさんに続いて、もう何度目だろうな」
−−過去に見送った、まだ自分の年頃ほどであった甘利の姿を思い出しながら、カガチは耽る。
もう何度、あと何度、俺はこの地で旅立つ人を見送ることになるんだろうか。
年々重なるごとに寂しくなる我が村を、留めることができないでいる。
勿論、カガチにそのような役目はないのだが、
自分の生まれ故郷が小さく、薄れて行くかのような感覚は、未だに慣れない。
それこそ、この100年に一度の稲荷騒動も、村ごとなくなってしまうのではないか、と思うほどに。
−−縛られているわけでもない。
特別、この村にいつく理由もあるわけではない。
反対に、カガチには出て行く理由もまた、ない。
言いようのない寂寥感だけが、胸に募る。
ただ、今回の稲荷祭の騒動が風化して、村とともに消え去る。
そんな未来は本当に寂しいなと、そう思った。
昨日までいらした稲荷様も、さぞ悲しまれるだろう。
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