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―通り―
ありがとうございました。
また、要り用ならば…
[いつもの別れ際の挨拶。
頭を下げると通りへと出て顎に手をやり空を見やる]
…なんとも。昨夜の事が頭より離れぬ。
[小さく息をつけば]
私が変なのか。
それとも、都がおかしいのか。
どちらにせよ芳しくないのは確か、か。
[視線を下ろし、ゆるり、と辺りを見回した]
[空を眺める目は険しい。夜居の僧が何かしらの物の怪を感じ取ったという。出仕に衣を調えながらもその報告は捨て置くものではなく]
いいだろう。御所に先触れを出せ。
市井にて物の怪を見たとあったために遅参するとな。
[数名の供と鷹匠に鷹を連れさせて、外を出る。通りにはまだ人はまばらか。鷹は何かあれば襲ってくれんと目を光らせ手甲に止まる]
―花山院邸傍の通り―
――ん。
[片目を閉じて]
……何だ?
[ゆらり、見えたのは極彩色の輪と
闇に蕩ける漆黒、そして白磁。]
識神か。
[呟く。
白藤は式の眼を通して、光景を見ていた。
白い鳥が羽ばたくのに識神――無我は気づいただろう。
害意は無いように思うが、と独りごち
心持ち足を早めた。]
[無我は痛覚というものを持っていない]
[茫とした面を大殿の部屋へ向ける―― ついで、無我は四季折々を表現した庭の一角に在る池へ向かい懐から紙を取り出して離した。紙は陰陽師が遺したものであった。池に皆の注意が向いている間に、大殿の部屋へと向かったところ――]
[きしり]
[捻れる 軋みを 識 理へと煌く幾何学直線の軌跡がせわしなく走る――強引にゆく ふわり一歩ゆっくりと二歩――]
しかし。
花山院の…法師様に会わなければ、何かしらなっていたのは私の方、か…
[そう言うと、歩き出すのは花山院の屋敷への道]
礼を言う…ついでに、何かしら策を教えて頂こうか。
波紋の様に広がる…ので在れば。
何時、この往来でさえ危うくなるか分からん。
[…箱を背負い直せば、自嘲気味に口元を吊り上げていた]
最も…行き届いた根を切るのが一番の守りなのかも知れぬが。
―六条邸―
[目をさまし、影秀からの伝言を受けとれば着替え、食事を済ませ、彼を部屋まで呼び]
影秀、疲れているところを悪いのだけど頼みたいことがあるんだ。
今日は内裏に上がったあと街に出ようと思うんだ。
供を、頼まれてくれる?
[ことり、首をかしげて返事を待ち]
私も、ひるに出向くが良いのかも知れぬ。
――それに、悪しき気を纏っては今度は鷹をけしかけられてしまうかも知れないな。
[童(と呼ぶには賢しいものだった)の気配が消えてから、
あるじの帰りを迎えるために、中将の屋敷へと取って返した。そのときになってようやく、明かりも持たずに夜道へ来たことに*気がついた。*]
[御簾の奥にあるのは形容するなら 白]
[眠る顔は苦しげであり連日の怯えが顔に刻まれている。身体は蒼白。呪のようなものは外側からは見えてはいない]
[無我は、鶯茶色の御簾の間から音も立てず滑り込み、肌蹴られた胸元へ身体ごと横たわるようにし、肌へ手をひたりとあてた]
……千客万来、ってねぇ。
[――四辻に手を出してくれるなよ、
と口の中でだけ呟き閉じていた片目を開ける。
下手に手を出せば波紋がひどく広がるに相違ないのだ。
肩を竦めて扉前。]
用命を受けてまいりました。
大殿邸より――陰陽師の白藤、と申します。
[告げれば、早々に案内されるだろう。]
−六条邸−
若宮様、お言葉ですがご報告させて頂いたとおり巷ではよからぬ・・・
[言葉を続けるつもりが、若宮様の無邪気な笑顔にそれ以上言葉を続ける事も出来ず]
・・・分かり申した。御供させて頂きます。
但し某よりあまりお離れにならぬようお願い申し上げます。
[事が起きた時にこの太刀が通じるかどうか。否、常に敵あらば斬らねばならぬのがこの富樫の使命]
[くちくちくち 穢れが陰気が怨が 嗚呼呪いが 無我の墨色の衣の下、白い肌の肩下から腹部にかけて茶色い痣が浮かび上がり、また白い肌に飲み込まれてゆく。それらは胎(なか)で凝結し紅碧(べにみどり)の徴を肌に刻み込んでゆく]
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