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[何とかクレティアンが魔力を保てているのは、
ヒイラギの集めてくれた竹の魔力、
そして今、キャスターが龍脈を集めている、
恩恵に図らずも預かれているのが大きいだろう。
キャスター――彼もまた、
槍の英霊と交わした約束があるという。
眼を逸らさず、己の全力をかけて対峙する。
ゆえに。――>>221>>222]
[焼ける体に簡易な治癒魔術を掛けていた。
そして、感じる大気の振動。(>>222)]
彼奴、温存の意図はないようだな。
ならば頃合であろうか。
私も少しばかり素人相手にお遊びが過ぎた。
しかし、奴等にとってこの戦いは無駄にはならぬであろう。
それは最終的に私の利にもなるのだ。
[英霊達、そして自身の戦い。
それぞれの様子を見て覚悟を決める。]
[――町並みの一端。建造物が、音を立てて崩壊する。
一つ、二つ、三つ、四つ。
崩落はその場に在った全ての者を取り囲むように連なった。
目を凝らせば、それら全てが
大地より突き立った巨石によるものであったと知るだろう。
巨石の壁が、戦に望む魔術師と英霊を取り囲み、
――やがて、始点と終点は繋がり、完全なる包囲を遂げる。]
[枯竹の檻が炎上する。
ヒイラギがさらに竹を操り、火勢を強める。
閉じ込められたアルフレートが、空間遮断の魔術で炎を防いでいく。
ホワイトアウトしそうな視界で、それを見る]
あれは、遮断……音の浸透しない。完全な隔離。
[指を鳴らし、その音を増やした。
アルフレートに音の弾丸を放つ。同時にノイズ……妨害の魔術を用意する。
もし彼が遮断の魔術を使用するなら、それを僅かに歪ませるために]
[――変質する。
巨石の壁に取り囲まれた空間全てが、侵食されていく。
置き換わる景色は、かつて在った古代の都市。
長大なる城壁に囲われたる城塞の都市
アルゴスの王の下で繁栄を極めた、ティリンスの都。
――――否。
それは既に失われた都市の残骸。
それは風化した都市の名残。
それは、遠く昔に繁栄を終えた、瓦礫の山。
家は壊れ。
道は剥がれ。
宮殿は風化し。
営みの痕跡は失われ。
全てが崩れ落ちた、死せる都。]
[――滅びた街に、あらゆる虚構は許されない。
――滅びた都に、あらゆる幻想は許されない。
――如何なる伝説。如何なる夢想。如何なる神性。
ありとあらゆる理想。
ありとあらゆる生命が辿り着く、退廃の姿。]
[――それでも。
古代の城塞は滅びてなお、かつての領主の呼び出しに応え。
あらゆる理想。あらゆる幻想を崩壊させながら、
――今宵一度限りの、顕現を果たす。]
我が栄光の城塞都市《フォートレス・オブ・ティリンス》
[――かつてを共にした友との記憶。
――かつてを共にした妻との記憶。
――戦の場を駆けた日々。
――復讐に身を窶し、槍を揮い続けた幾年の出来事。
その全てに、心の内で、別れを告げた。]
――ええ、万全とは、いかぬ、
ままならぬのもまた、……戦なれば。
[リュートの弦は血に濡れてもなお輝き
声は濁らず響き、届く。
構え、騎士と詩人、そして地を統べる者は相対す。]
……貴方の物語を、魅せてくれ
[蒼き炎が大地を穿つ。
狼の咆哮の如き空気の震え]
―― っ、これは…!!
[崩壊したの石の大地より、槍を引き抜けば、
――渦巻いていた蒼炎は、粒子となって天へと昇っていった。]
――――これが、
貴君の見たがった俺の幻想の『終わり』だ。騎士よ。
[静かな瞳で。静かな面持ちで。
――何色にもなれない槍を、低く構えた。]
[――変っていく。
空間そのものが、
流れ出した
インクのしみが広がるように
彼の物語に書き換わる。
栄華の果て。
希望の果て。
繁栄の果て。
詩人は瓦礫と風化した滅びの城に、
いつか其処に掛けた者の姿を一瞬幻視した気がした――それはきっと、ヒイラギの書庫の蔵書の一つ、遠い神話の物語と重ねたからだ。それだけ。
其処には何も居ない。
――此処は退廃の果てなのだから。]
[瞠った眼、瞬き一つ己に許さない。
詩人は、キャスターは――この階層に居る誰もが、
今、彼の世界に立っている。]
……、これが
……ティリンス……
灰色の君、
貴方の……“灰色”の 都。
[大きく眸が揺れたのは
感情の揺れか感性の糸か。
天に召されるが如く蒼き炎は失せて、
灰色纏う英雄は――滅びた都市で槍を構える。]
[ランサーの宝具。その凄まじい魔力の圧力が開放され、この階層を構成する風景がまるごと書き換えられる。
突き立つ石壁が見下ろす、崩壊した都市。
ランサーが喚び出したその光景は、かつて栄華を誇っただろうその都が、終わりを迎えた後の姿だった]
[――ランサーの槍がそうであったように、キャスターもまた、操作した龍脈の加護を失い、困惑していたか。或いは、――今に在ってなお、この死した地の測量をせんと動き出していたか。]
…………。
……何事も、いつか終わるものだ。
そうだろう。――――束ねし者よ。
[灰色の槍を握り、血を振り撒きながら
理想を編みし者へ向かって、一直線に槍を突き入れんと奔った。]
ああ、貴様の言葉通り「終わり」を与えてやろう。
[令呪をかざす。]
アルフレート ローヴァインが命ずる。
ランサーよ 令呪をもって命ずる、自決せよ。
[消えていく令呪の一画。
だけど、まだ終わりではなかった。]
重ねて命ずる。
己の槍をもってその身を貫け。
[そして静かに立ち尽くした。]
[強制的に書き換わった場面、
キャスターのはなった火球すらも
槍の英霊の「果て」に、上書きされたであろう。
今、荒れ狂う嵐はふつりと止んで、
耳に痛いほどの寂寞と静寂。
低い槍の男の声は、
ひどく、よく似合っていた。]
[――そして、
目前まで迫った理想を編む者に、
穂先は突き立つことは無く。]
…………。
――――承知した。マスター。
[下された命に逆らうことなく。
――自らの心臓に、槍を突き入れた。]
まずい……!
[空間の書き換え……キャスターの宝具がリセットされたことを悟る。
新たな地形の把握には、大した時間を要さないだろう。だが再度宝具を使用する魔力はない。
歯噛みする。詩人の英霊への援護が止まる]
―― ああ、
貴方は……
――これを胸に、戦っていたのか
[――震える。余りに深い、滅びのいろ。塗りつぶされてしまうような、灰色だ。]
……ええ、おわる。
おわってしまう。
紡ぐ物語も、いずれは、終わるもの、
終わって、しまうもの――――灰色の、君。
けれど、私は……!!!
[>>237 灰色が、駆ける。
紛れもなく、此度最速の英霊。
たとえ間に合わずとも、と。
吟遊詩人はローブの下―――足利尊氏を貫いたのと同じ剣で、応えようとし―――]
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