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[ふいに背後から声をかけられ、びくりと体が震える。
一呼吸おいてから、ゆっくりと振り返ると、そこには男の姿。]
……あら、ギルバートさん。
何か用かしら。
[内心の動揺を悟られないように微かに微笑みながら、手の中の小瓶を後ろ手に隠す。]
[老人を殺しても終らない。この言葉は真実。
カミーラの抑揚のない声が終るか終らないかの瞬間、喉元に火が走る。
常人であればそのまま死にいたる筈。
…常人であれば]
……。終らぬと、申し上げましたよな…?
[何より赤い血噴き出した。返り血は誰に降りかかる。人形の服も赤く染まる。
そんな、首から血液吹き流しながらもぐるり首めぐらして言葉を紡ぐ]
[鮮血を浴びながらも、モーガンが平然と返事を返すことに少したじろぐ。が、すぐに気を取り直して]
あんたを殺しても終わらないかもしれないけどね。
あんたを殺さなきゃ、やっぱり終わらないんじゃないのかい?
動脈切られたぐらいでは死なないか。ならば敬愛するあんたの主人と同じ姿にしてあげよう。
生首一つになってしまえば、ドアを開けたり人を殺したりの悪さはできないはずだからね。
[明らかに動揺を隠そうとするしぐさに目元がゆがむ]
そういえばシスターとはほとんどお話してなかったしなぁ?
少しおしゃべりでもしようと思ってさ。
お邪魔かい?
[鮮血はどれだけあふれたか。
しかし老人の目、光失うまでには及ばずに]
主人を敬愛?ほっほ…まさか。そんなわけございますまい。
まぁよろしい。では貴女の度胸に免じ、いいことをお教えしようか?
貴女はなぜわしが人形が動くこと信じると思われる?なぜこの屋敷に仕えていると思われる?
[モーガンの言葉に]
知らん。
興味もないしね。
あたしはこのけたくそ悪い屋敷からとっとと出たいだけ。
[言葉とは裏腹、隙は見せないが、モーガンの次の言葉を待つかのように次の動きには移らない]
わしもな…人形なのじゃよ。
[老人が自ら服をくつろげる。その中、覘くはこけた人体、助けるゼンマイ。キチキチと、小気味よく音立てる]
人と人形、半分たるこの体じゃて。人形たちの心理解しうるもご理解頂けるかの?
ようやっと人形たちの念願う時にございます。彼らの長として邪魔立てはさせぬ。
しかしわしにも人たる部分、未だある。どうしても生きると願うなら。今いる客人、あの中に…。
[下卑た笑いを浮かべる男に、侮蔑の色を滲ませた微笑で答える。]
…部屋に入り込んでからノックをするような、不躾な行為は感心しませんね。
楽しいおしゃべりが出来るとも思えませんが…。
[話しながら、男の真意を探るように目をじっと見つめる。]
アンタが気付かなかっただけだよシスター?
声をかけても無視とはどっちが不躾かね?
…俺はね。アンタに少し興味持っててね。
生首見ても顔色も変えない聖職者がこの世にいるたぁ思わなくてさぁ。
是非あんたの昔話でも聞かせてもらおうと思って?
[口元に浮かぶ笑みと瞳は笑っていてもどこか違う。侮辱すら光栄だと受け取るように嘲笑っているようで]
[薄ら笑って]
人の矜恃を忘れ果て、人形になりさがったわけか。
[言葉の続きを聞きもせず、その場にモーガンを蹴り倒し、その首にナイフを当てる。彼がこのまま抵抗しないのならば、そのままその首を力任せに切り落とすだろう]
[手の中に汗が滲んでくるのを感じながら、それでも微笑を浮かべた表情を崩さないままに]
…あら、それは申し訳ありません。
考え事をしていましたので、気付きませんでしたわ。
昔話など…
平凡過ぎて貴方が退屈になられるのではないかと、心配になるくらいのものしかありませんのよ。
[言いながら、無意識に後ろに一歩下がる。]
(…この男の目……獣の色をしている…)
[ゴロリ、と言葉終わらずに転げた首。
既に何かを紡ぐことなく。
目玉だけはぎょろりと上向く。
まるでまるで、嘲笑するように]
[死ね] [去ね] [死んでしまえ]
[人形たちの呟きが、一瞬その場にこだました──]
[一歩後ずさる彼女に対し、一歩踏み出し]
俺は別に平穏じゃない生活してきてたからさぁ。
平穏ってやつをぜひ知りたいね?
死体を見ても平気なシスターの平穏か。それはどんなもんで?
[首へ向かって手を伸ばす。目の中の嘲笑はすでに消え去っていて]
[カミーラの耳に届く無数の呟き。背中に走る寒気に身を震わせながら]
人形だろうが人間だろうが。
このあたしを殺るというのならば来るがいい。
あたしが強ければあたしが勝つ。あたしが力及ばねば負けて殺される。
ただ、それだけのこと。
→すぐ隣のバスルームへ。
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