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[クァルトゥスはゆっくりと目蓋を押し開き、紅玉の両眼でウェスペルを見上げた。紅い瞳には蝋燭の炎が映り、穏やかでいて微酔した様な光を見せていた。]
この眼が気になった──か?
お前に触れるのも良いが。
お前に触れられるのも気持ちよいな…。
[そう云って薄い唇に小さな笑みを乗せ、ウェスペルの頬に手の甲をそっと滑らせた。]
>>259クァル
……!
[声がした。
自分の手に落としていた視線を緋色の眼に向ける。
しまった、というような表情をしていたろうか。]
――……起きて、いたのか。
[何故かばつが悪そうに謂う。
蝋燭の炎を映した緋色の眼は、
惹き込まれそうな色をしている。]
別に、 ただ……
――記憶のとおりだと、思っただけだ。
[視線をそらして蝋燭を見る。ゆらゆら揺れていた。]
[クァルトゥスの唇は、ウェスペルの指先に、手首に。
──かすめるように触れた。]
…ん。
もう、お前からは触れてはくれぬのか?
[クァルトゥスは腕を伸ばし、ウェスペルの下唇を指でなぞった。]
、……ッ
やめろ、と謂うに――
[かすめる、やんわりとした感触に
微かに吐息が零れる。]
……断る。
[顔を背けた。
唇をなぞられれば、横目に睨んで
クァルトゥスの手を払いのけるだろう。]
そうか──。
それは、ならば仕方が無いな。
[クァルトゥスは、喉を鳴らした。
「断る」と云うウェスペルの言葉は、逆に、先刻“触れずの君”が敢えてクァルトゥスに触れたのだと云う事を指し示している様に思えた。]
ああ…。・・ウェス。
ヴァイイ伯の椅子は…、お前が座れば良い。
私は、公爵バティンの座をいただく。
私が公爵になれば、ヴァイイ伯の後継《候補者》は、・・ウェス。お前ひとりしか居ないからな。クックック
お前も見ただろう……。
私が、バティン公を脳天から喉笛まで串刺しにしたのを見て、指示を仰ぐため、慌てて都へ還った公の腹心の姿を…。
[また、クァルトゥスは、寝物語にこの様な事も話すのだった。
クァルトゥス自身、己が不可思議な《契約》をウェスペルと結んでいる事に気付いているのか居ないのか。
“強欲─avaritia─”
両眼と腕を取り戻した男は、変わらずすべてを手に入れようとするのだ。
ウェスペルのくちびるに触れたクァルトゥスの指先が、チリと焦げる様な熱を孕んでいた。欲望は、己自身の与り知らぬ所で、ウェスペルを失う事へのおそれを内包しているのかもしれなかった。]
…仕方が無いならば。クック
お前が…、私に触れたくなればいい。
・・ウェス。
[何時もと変わらぬのは、褥にウェスペルを押し倒す動作まで。
小さな囁きにさえ身を震わす、ウェスペルの鋭敏な耳元。クァルトゥスは、ぴちゃりと──舌を付けた。]
――勝手なことを、
[だが、バティン公が絶えるのも、
腹心が都へと走ったのは紛れもない事実。
遠からず、この『強欲』なる魔の言葉は現実となろう。
全てを望む緋色の瞳と髪が直ぐ傍に。
触れた指は熱を孕んでいる。
あの奇妙な感覚が満ちるのを感じた。
――喪うことを恐れているのかもしれない。
とても奇妙な《契約》すら理由にして]
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