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集会場は不信と不安がない交ぜになった奇妙な空気に満たされていた。
人狼なんて本当にいるのだろうか。
もしいるとすれば、あの旅のよそ者か。まさか、以前からの住人であるあいつが……
どうやらこの中には、村人が4人、人狼が2人、占い師が1人含まれているようだ。
あー、諸君、聞いてくれ。もう噂になっているようだが、まずいことになった。
この間の旅人が殺された件、やはり人狼の仕業のようだ。
当日、現場に出入りできたのは今ここにいる者で全部だ。
とにかく十分に注意してくれ。
そうだな……塔にはもう戻らない。
そろそろ飽きてきたところだし、どうせ貰い物なのだし。
[僅かの間持ち物となる契約を結んだ、とある領主のことを思い出してほくそ笑む。
幾つか持っていた別荘の一つに仮初の愛人として彼を住まわせたかの領主は、その地位を保持するのも難しくなるほど魔力を無くし、遂には親族の一人に領土と爵位を奪われた。辺土へと落とされた元領主が今も生きているのか、それとも真の死を迎えたのか。彼にはもう興味のないことであったけれども。
その時、間違えようない銅鑼の音が、彼方より彼の耳に轟いた。]
変なの。
真剣にやるから「遊び」は愉しいんだよ。
[眼を細めて、笑みを形作った]
[琵琶の音色を覆い隠すように銅鑼の音が、五度]
[水もないのに、床を踏む小さな足が、ぴちゃと音を立てた]
アハ。
一緒に、「踊る」?
[誘うように、ゆるりとグラスを持ったままの手を上げた]
[弦の響きが広間に溶けて消える
その間際に]
――…。
[銅鑼が鳴る。
間違いなく 丁度、5つ。]
……始まったか。
[椅子から立ち上がると、腰に手をあて眼を細めた。
場の空気が変わったのは肌で感じ取れる。]
[銅鑼の音を耳元に感じ、顎をくいと上げて周囲を「みわたす」――目はうっすらと開いたままに。]
[殺気と覇気で、空気が揺れる。
ジュアンは肌にビリビリとそれを受け、毛穴の中に針が入るような心地を覚えた。]
…………………。
[琵琶を掻き鳴らす黒い爪の動きが、止まる。]
[確かに五つ、銅鑼の音が聴こえた。
翡翠色の地の先にある彼の館では、宦官の儀を終えたばかりの従僕が、クァルトゥスの帰りを待ちわびているはずだったが──]
――そうか。
[真剣に遊ぶから面白いと幼魔は謂う。
水音。
水の気配か、或いは。]
踊る か、
ステップは上手く踏めるのか?
[ウェスペルの言葉は、
からかい混じりに聞こえたかもしれない。]
……パーティの始まりですねぇ。
[銀糸の弦が、かれの身体と瑠璃色の琵琶に巻き付いた。瑠璃の頭部はかれの顔のすぐ近くに。そして、引き摺られても離れぬようにと、瑠璃の胴は2箇所で固定された。]
あー………
「音」、何もしなくても聴こえますねぇ……
[さらに目を細めて、笑う。]
[ろくでもない。
ウェスペルの憎々しげな呟きを背で聴きながら、ロネヴェは炎の壁を通り抜けた。脂の爆ぜるような音を立てる黒い炎は彼女を灼くことをしない。
その壁の向こう、ウェスペルが遠ざかってしまうと、炎も完全に消えた。]
本当に”可愛い。”
ねえ?
そう思わない?
――――何奴も此奴も。覗き見の好きなこと。
[ロネヴェの振り返った先、庭の片隅で火の手が上がり――]
[”候補者”の放った使い魔が、ロネヴェの手の中で炭化する頃。
銅鑼の音が彼女の耳に届いた。]
――少し、気が早かったみたい。
どうでもいいわね。そんなこと。
[使い魔の残骸はぼろぼろと、崩れ落ちた。
手指の煤を払う。]
上品なのは、苦手。
[手に力が篭められた。
硝子が割れ、皮膚が裂け、入り混じる緋と赤]
上手?
上手なら、教えて?
[欠けた問いかけ。
滴は地に落ちず、宙に留まる。
幾数もの、小さな丸い粒として]
[波紋が広がる如く、大気が波打った]
[彼が伯の居城を訪うことを拒んだのは、驕慢な自尊心の故ばかりではなく、彼の技が大勢を相手にするには向いていない、というのが最も大きな理由であった。
快楽の技は、一対一で用いるのがもっとも効果的な技であり、こんな序盤でそれ以上の手札を見せるつもりのない以上、ひとの多く集まる場所には行かぬのが賢いやり方というものだ。
彼は機嫌良く愛馬の首を軽く叩いた。]
来るぞ。
この己だけを目当てにやってくる輩が。
[ニクスとウィスペルのやりとりを「見て」、かれはすいと目を細めた。]
おやおや。
ニクスさんはダンスのお相手を見つけたでしょうか。
……よろしきことです。ええ。
悪いな。私は戻るより先に、
ヴァイイ伯の心臓と 愛とやらに殉じた銀の悪魔を喰らい──、得た力を試したい。
[何時の間にかクァルトゥスの右手には、彼の身の丈より更に大きな斧槍が握られていた。それは光届かぬ地の底で、クァルトゥスが自らを貫かせていた──あの槍だった。
馬は襤褸の様な外見に似合わぬ速さで、空を駆け抜けて行く。
風音に混じる聞き慣れた愛馬の嘶(いなな)きが、心地良くクァルトゥスの耳をくすぐった。]
少しは愉しめると良いな──
[ククク、と喉を鳴らすと、闇の獣はちらりと黒い眼を背の主に向けて、同意するように鼻を鳴らした。
魔と魔獣は更に速度を上げ、輝く雲海に突っ込んだ。]
[館の中からは、酷く凝縮された殺気、邪念、
交々の気配が波打ち、流れ、染み出しはじめている。
そうした空気を背に、ロネヴェは空へ手をかざす。
美しく整えた爪の先まで、煤が残っていないか確かめる為だ。
それから、口元に指を添えて思案する。
候補者のうちのどれほどかは解らないが、それらの集まる館へ入るべきか、彼らの潰し合うのを待つべきか。]
[節の目立つ武神の掌の内側で、斧槍が歓喜に震えていた。
クァルトゥスはまず最初に、名を良く知る悪魔騎士を狩りに行くつもりだったが、]
… …
[眉間に皺を寄せた。]
[混雑してきた屋敷を出て、ジュアンは外へと向かった。]
[コツリ、と歩くかれの足音――と、羽音。]
――ブウン――…
[――そして、頬にひとつ、傷跡。]
……どなたです?
[振り返ると、そこには無数の羽虫――その身は黒く、ギラギラした赤い目をし、牙と爪と臀部に鋭利さを持つ、言葉を知らぬ虫の群。そして――その虫たちの主の姿も。]
『よお、そこの細いの。』
――……はい。何でしょう?
[にこりと笑うかれの元に、黒い羽の群が襲いかかった。]
[滴り落ちるのは緋色。
それもまた液体だ。
黒い手袋に包まれた指先に淡く銀が編まれる]
生憎と、私は教えるのは不得手でな。
欲しければ盗み取れ。
[背は真っ直ぐに伸びている。
出で立ちも相俟って、ダンスの始まりを待つ者に見えただろう。
波紋が広がる、注視する。]
[エイのような飛魔は彼らの後を、一拍遅れて雲に飛び込む。
視界を遮る熱のない光の隧道を、夜色の魔獣の後姿を求めて一気に貫いた飛魔であったが、]
[突如として、輝雲の壁を破ってか黒い影が横合いから飛び出し、開いた顎に飛魔をがっきと銜えた。]
[次の刹那――…ざわざわざわと羽音がする場所の中心から、瑠璃色の球が浮かぶ。]
いけませんねぇ。
そんなに早すぎたら、あからさまにしょげた溜息ついちゃいますよ。聞きたくないって言ってもダメです。
[ザシュッ――…!
球の八方から瑠璃色の枝が一気に伸び、
ジュアンを取り巻く羽虫を次々に串刺しにしてゆく。
虫たちの哀れな断末魔と緑色の液体が飛び散り、大理石のテラスを思い色に染めた。]
どうするんですか?
こんなにたくさんの使い魔を一気に殺されちゃって。
[ジュアンは琵琶の頚を持ち、瑠璃色の傘をくるくると回す。
生気を失った虫がその動きに振り落とされ、ぼとりぼとりと地面に着地した。]
僕は笑った方がきっとあなたは救われますよね?
――…なぁんて。
[ヴァイイ伯の庭、屋敷を仰いでロネヴェは思案を巡らせる。
戦いがどれほど続くかは解らない。今すぐ雑魚の掃討へ力を使うことは、戦略的に考えてあまり得策とは思えない。
しかし、彼女は弱きものをいたぶる事は好きだった。悪魔の集まる中、己の力を誇示するという行為にも、酷く心惹かれた。
だが、いわゆる”露払い”に力を使うことは、己の品格を貶めるようにも思える。]
……。
[御馳走を前に、どれから食べようかと思案するような顔つきで、館の窓に時折映る影を眺めた。
煙が立つように、黒い影が視界へ割り込む。羽虫の群。何者かが交戦しているようだ。いまのところこちらへ攻撃しようとするものでは無さそうだが。]
[瑠璃色が、羽虫を蹴散らす。
弱者の断末魔は耳に快い。
あの羽虫を使役していたものは、恐らくもう永くは保たないだろう。
ひとまずは弱者の滅びるところでも眺めてやろうと、ロネヴェは跳び、切り立つ庭石の上へ。
見ると、羽虫を蹴散らしたのは、ジュアンであるらしい。]
[黒の中に生まれる煌めきに、眼が弧を描く]
意地悪。
でも、その方が面白そうかな――
[続けようとした言葉は、耳に入る細かな羽音の連なりに止まった。
細い眉が顰められ、宙に留まっていた滴は制御を失って地に落ち、床を濡らす]
これだから、狭い場所も乾いた場所もキラいなんだ。
[視線を背後に向け、地を蹴って、跳ぶ。
軽やかに舞う身体は宙で回り、黒く縁取られた裾が蝶の羽のように広がった。片足で着地すれば硝子を背にする形になり、「パートナー」を見つめたまま]
興を削がれた。
[肘で窓を割る]
[闇馬は鋭い牙を飛魔の胴体に深く喰い込ませると、勢いのままに輝く雲を突き抜け、雲海の外へ飛び出した。
獣が駆け抜けた跡には、引き裂いた雲の尾が長く軌跡を描く。
馬上の淫魔はもがく飛魔を笑み含んで眺め遣る。]
覗き見でなく、じかに訪ねて来られよ。
何時でも歓んで迎えましょう……至高の快楽をもって。
[魔獣は首を一振りし、飛魔をバラバラに引き裂いた。]
[耳障りな羽虫の羽音、ウェスペルは眉を寄せた。
弾けた雫、地に染みていく。]
……此処は、其方が存分に踊れる
「舞台」ではないということだな。
[銀の霧を指先に纏わせながら、
空を舞う蝶の様な蒼の魔を見た。
ふわり、花びらの如く。]
それは、残念。
[砕けた硝子は光を反射してきらめいた。]
[けらけらと上がる嘲笑いには、たっぷりの毒と媚がまぶされている。
恐らくは飛魔の眼──視界を通じてその主にも、凄艶な嗤いが見えていた筈だ……飛魔が声にならぬ断末魔の喚きを残して息絶えるまで。
ふと、馬上の淫魔は頭を回らし、空と大地とを見渡した。]
あーもう。
こんなところで力を使うの勿体ないなぁ。
何で僕の所なんですか。
[瑠璃色の傘をくるりと回し]
弱そうだから……ですか?こまりましたねぇ……
[地を蹴り上げる]
それではお邪魔いたします。
[にこぉ、と笑うジュアンの手から、八方に広がった傘の「骨」がひとつの方向へと走り――…鋭い牙を突き立ててジュアンに飛びかかってきた「虫たちの主」の身体に、ざくりざくりと肉を割く音を立てて瑠璃色が突き刺さった。]
あー、僕、噛まれるの好きじゃないんですよ。痛いの嫌いだし。
牙の色って、怖いじゃないですか。綺麗な色にしましょうよ。
[抉るように、ジュアンは瑠璃色の傘の「骨」を何度も相手の肉の中に出しては入れる。そのたびに「虫たちの主」は使い魔たちと同じ緑色の飛沫と叫び声を上げ、大理石の上で身もだえている。やがてその息が切れたのか……「虫たちの主」は、タイルの上にどさりと崩れ落ちた。]
ダンスフロアには、不十分だもの。
[足下に散らばるひかり]
またの機会にしよう。
――銀の君、名は?
[かれの纏う色を眺め、問う]
随分と、奔放に踊る魔と見える。
ああ―――それでは、場を改めて、
次の機会に。
[ウェスペルは眼を細め、薄く笑んだようであった。]
私はウェスペル。
其方は。
――ニクス。
[花の咲くような、明るい笑顔で応える]
ウェスペル。
覚えておくよ。
今度は「盗ませて」貰う。
またね。
[窓辺から飛び立つ、夜の青と淡い白。
外に在る者に意識を向けることもなく駆け、
空気に溶けこむように、闇の中へと*消えた*]
[瑠璃色の傘を畳み、ブンブンと上下に振る。
おびただしい緑色の血と、瑠璃色にこびり付いた「虫」の肉片が雨のように降り注ぎ、べちゃりべちゃりと大理石の上に降りては奇妙な模様を作り上げる。]
ああー。あー……あー……もう……
[せっかくの一張羅である黒いロングタキシードに緑色の血が付着し、ジュアンはそれを左手でぱしぱしと取り払った。]
血の出ない方法って、無いものかなぁ……。
やんなっちゃうなぁ……
[瑠璃色の肌を垂れ落ちる緑の液体を指で拭うと、再び瑠璃を「琵琶」の形に戻してやった。]
村の設定が変更されました。
[そう遠く無い場所で何かが森に墜落する音が聴こえた。
左目は失われているが、クァルトゥスの両耳は悪く無いらしい。それが、バラバラにされた肉塊が、硬質な樹木の葉を叩く複数の音だと分かるのは、愛馬の嘶きと変わらぬほど聞き慣れた種類の音である所為だろう。]
遠からぬ場所、上空に悪魔が居る。
[クァルトゥスは、薄いくちびるを舐めた。]
[再び跳躍。
事切れ、くずおれた”虫たちの主”の骸の傍へと着地する。
風にドレスの裾が捲れ、いっとき顕わになったロネヴェの太股に、敗者の汚らしい色の体液が跳ねた。
琵琶を手にぼやくジュアンに]
素敵なショーだったわ。
[拍手の音を聞き、迷わずそちらの方へと視線を送る。]
ロネヴェさん。
……覗かれていたんですか。
[困ったような笑顔で、小さく首を傾げた。]
いえね、もうホント、瑠璃姫が抜けなくて。
何度も突き刺したら痛いとは思うんですが…致し方無いんです。
[あはは、と笑って一歩を踏み出すジュアンの足元には、肉の塊。それを知ってか知らずか、かれはぎゅむと肉塊を踏みつけた。]
ああっ!踏んじゃった。靴がー……
[大理石の上に、革靴のつま先をぐりぐりと押しつける。
緑色の同心円が大理石の上に描かれた。]
いえいえ。僕のは「素敵なショー」というほどのものでは。ロネヴェさんのダンスの方が、よほど美しいかと存じますよ。
――ニクスか。
[夜の気配がする。]
ああ、受けてたとう。
[溶ける蒼と白を見送ると、
ウェスペルは広間へと顔を向けた。]
……また、随分派手にやらかしたものだ。
[咎める色は全くなく、
寧ろ何処か愉快そうな響きを帯びた呟きである。
瑠璃が爆ぜ、また主の手中へと戻っていく。
近づきすぎた使い魔は
ウェスペルが通り過ぎるたび銀の針で
標本のように縫いとめられていた。]
覗きだなんて。
高みの見物よ。
[ジュアンの足で踏みしだかれる無惨な骸に少しだけ目を向けた]
ただの腰抜けと思っていたけれど、
案外良いセンス。
仕方ないなんて言い訳じゃ興が醒めてしまうわ?
ははは……高みの見物ですか。さすが。
じゃー僕は、さしずめ見せ物小屋のライオンですねぇ。
……や、ライオンっていうガラでもないですけれど。
センスがいいかどうかは判りません。
でも、「楽しんでいただけた」のなら、楽士としては光栄です。
[恭しく、一礼。]
……で、この方、どーなっちゃうんでしょうねぇ。
まさかこのまま放置、っていうわけにも。
こういうのを眺めるのがお好きな方もたくさんいらっしゃるでしょうけれど…ねぇ。
いいええ、ロネヴェさん。どういたしまして。
口づけ、ですか?
……ただの口づけならばお受けいたしますが。
[目を細めて、にこりと笑う。
瑠璃姫は身に寄せたまま。]
そんな残骸、魔物にでも啄まれるか、誰かに利用されるだけでしょう。
どうでも良いじゃない。
[ジュアンの微笑みに、ロネヴェも嗤って唇を舐めた。
力弱きものであれば溶かしてしまう酸の唾液が、ぬらりと光る。]
ただの、口付けよ。
[無論、悪意と害意の籠もったものである。
ジュアンの頬に手を添え、彼を引き寄せようとしたとき]
[全くの不意に
孔が開いた。
黒い孔は、”虫たちの主”を音もなく飲み込み、消える。
撒き散らされ、同心円を描く体液だけが、そこへ何者かの存在があった証として残された。]
ロネヴェさんが僕にご褒美を下さるなんて、珍しいですね。
まあいいですけど……ね?
[己の頬に寄せられた手はそのままに、ロネヴェの唇をじっと見つめた瞬間――…大理石のタイルから一陣の風が吹き、ジュアンの前髪とインディゴブルーのマフラーが煽られた。]
[がばりと大きな「孔」が開き、哀れな羽虫と「虫たちの主」はその向こうに飲み込まれてゆく。]
[その様子を、ジュアンはただ黙って見ていた。]
[黒い穴が。
貪欲に 堕ちたるものを 相応しい場所へ
誘う穴が開いた。]
……これが末路か、成程な。
[さして感慨もなく。
これから幾人もあの中へ叩き込まれるのだろう。
最後の1人になるまで]
おおー。すごいすごい。
[ロネヴェから身を離し、孔のあった場所を覗き込んだり、タイルの辺りをコンコンとノックしてみた。……が。もちろん、何も無い。]
あの方も…多分「後継者」の候補の方ですよねぇ。
もしああいう無惨な姿を見せたら……ってことですね。あはは。気を付けなくちゃ。
さて……と。一旦ここを離れなくちゃいけませんねぇ。
あの音と気配を知ったら、「後継者」候補の方がここをかぎつけるのは時間の問題です。
[己の身に瑠璃色の琵琶を引き寄せ、そこに付着した緑色を左指で拭い、にこにこ笑った。]
あーあ。
せっかくロネヴェさんの口づけがもらえると思ったのに、とんだ邪魔が入っちゃいましたねぇ。
もうそういうノリじゃなさそうだし、今回はお預けですね。
じゃー、次に機会があったら、よろしくお願いしますね?
[ジュアンは、ケラケラと笑うと、どこかへ*消え去った*]
[踵を返す。
黒が螺旋を描きながらウェスペルを包み
訪れたときのコートの形を成す。
裾が翻った。]
――それでは、よいダンスを踊ろう。
[此処に用はないとばかりに。
獲物を探すためにか。
かれは屋敷を後にしようと足を踏み出す。
ロネヴェと瑠璃の魔が戯れている様子に
矛先が向かないうちに――という思惑がなかったとは謂わないが。]
[一見無邪気に、タイルを叩く様子のジュアン。
琵琶を抱き寄せ笑う彼に]
そんなノリじゃないなんて。
いつでも構わないわ
でも……”姫”が嫉妬するでしょうから、
今度は置いてらっしゃい?
[ジュアンの姿が消えたあと。
ウェスペルのコートの裾が、歩き去るのを見――
それがすっかり視界から消えるまで目で追っていたが追うことはなく、
テラスから、ロネヴェの姿も*消える。*]
[クァルトゥスの左目があった場所
──眼球の無い孔が、どくりと疼いた。
左腕、義手の表面、暗赤色が脈打つ様に蠢き、内側から軋む様な音が響いた。]
…見知った悪魔を、まずは串刺しにしてやろうと思ったが。
[近くの森に肉塊を散布させた悪魔は《候補者》だ。
お互いがこのままの速度でお互いの乗り物を走らせるならば、その《候補者》──ザリチェに先に出会うかもしれぬ。或いは、他の候補者が突如クァルトゥスの目の前にあらわれる可能性もある。
何故なら、すでに銅鑼は五度鳴らされ、始まりが告げられたのだから。
クァルトゥスは、未知の者へ意識を向けながら*愛馬を走らせた*。]
[銀色の悪魔と戦った際に負傷でもあったのか、クァルトゥスの脇腹からは血が滲んでいた。
血の匂いに惹かれたのか、薄紅色に透き通る蝶の様な羽根を持った小さな下級の魔が、傷口に張り付いていた。
クァルトゥスは進行方向から紅の視線を逸らす事無く、脇腹から血を啜ろうとする妖精の様に美しい容貌の卑しい魔を、片手で握りつぶす。]
[ぴちゃり]
[クァルトゥスは、馬を止めた。]
[前方にはまだ何者も見えない──常人の目には。]
ああ…旧知の騎士よ。
私を探していたのだろう?
お前も銅鑼の後、すぐに森へ墜ちた物音を聞いたか。
…気が合うな。
[唇を歪めながら、如何にもお互いが親密であるかの様に、クァルトゥスは嘯(うそぶ)いた。]
[鋭く尖った針のような森の上、
ぽっかりと開いた孔がある。
滑り落ちたのは折れた白い翼だ。
刺し貫くのは、銀の針。]
よい旅を。
[辺土への転落を旅と評したのは黒い外套の魔であった。
高い高い細い枝の上、真っ直ぐ立っている。
それが慇懃に礼をするのと、孔が消えるのは同時。
吹く風には血肉のにおいが混ざる。]
[深い森の中に、白はあった。
銀の枝に腰掛け、投げ出した細い脚を揺らす。
はら、はらり。
木の葉が数枚、黒と藍の狭間を漂いながら、舞い落ちる。
髪に一枚纏わりついたそれを二本の指で挟み、よく似た色の眼で見た。拭いもせずにいた、掌の赤が付着する]
[血の匂いがした。まだ、新しい。
自らのものに香りは無いゆえに、他のものだ。
高きから地を見下ろせど、主は窺えない]
ううん。
愉しそう。
[ふうと息を吹きかけ、風に葉を乗せた。
*虚の空へと飛んでいく*]
[亡き伯の屋敷より響いた銅鑼の音は、
魔界全土に異様な興奮と緊張感を敷いた。
候補者たちは魔界を舞台に互いを賭けて舞う。
あるものは取り入って上手い汁を吸おうとするだろう。
あるものはそれを賭けの対象としたやもしれない。
興味本位でちょっかいをかけては堕ちる者も居る。
祭礼はより派手に、うつくしく。]
……ふん。
[漆黒の外套を風に靡かせて
空を飛ぶように、ウェスペルは往く。
木の幹の、枝の、葉の上に色が映えるそれは果実ではなく
候補者であったものの成れの果てであろう。
金の瞳を細めて、それを見遣る。]
[逃げる悪魔を追い、ロネヴェは駆ける。
追われる悪魔は、既に身体の其此処へ焼け爛れたような傷を負っていた。
森へ逃げ込もうとしたその者の足下に黒い光の筋が趨り、筋は炎の壁となる。更に追って、火球。]
……アレの背は、案外柔らかくって、
気に入っていたのよ?
[立て続けに幾つもの火球が、四肢を打ち、焼く中にロネヴェの声。]
騎乗ひとつといえ。
この私のモノを奪った罪は重いわ。
[炎は音を立てて一層高く燃え上がる。]
脱落など、させてやると思っているの?
[腕をねじ切る、脚を炙る。もいだ腕を火にくべる。
置き去りにしていた騎乗用の魔物を、
戯れか、挑発か。惨殺した者をロネヴェはいたぶる。
彼女の怒りに呼応するように、また、悲鳴を喜ぶように、黒い炎は膨れあがった。
顎を掴み、口の中へ指を二本差し込む。
口から炎が溢れた。腹を食い破って炎が噴き出した。
やがて、燃え滓だけが地に落ち、風に浚われる。]
[ロネヴェの腕にも、長い、刃で引かれた傷があった。
追われる者とて、無抵抗に逃げ回っていた訳では無い。
憎々しげに、傷をなぞる。
やたらに黒い血が滴る。]
―黒い森―
[黒手袋の端をきゅっと引っ張り、
具合を確かめるように手を緩く握っては開く。
先程の「踊り」で、裂けてしまった手袋の再生である。
もう一方の手袋は口にくわえているため、
滅多に見えぬ白い手があらわになっていた。
そこにちらとのぞく傷痕に視線を落とし、
ウェスペルは忌ま忌ましげに眉を寄せた。]
―――何処にいる……。
[低い呟きが漏れた]
[夜色の魔獣が口中の飛魔の残骸を噛み砕き、血と肉片を振り撒いた。
飛魔の薄いひれと棘の付いた尾が比較的原形を保ったまま、足下に広がる大森林に落下していく。
ザリチェはおぼろに薄い笑いを口の端に留め、喰らった肉を満足げに咀嚼する獣の肌を撫でて降下を命じた。]
[槍を構えるクァルトゥスの馬の前方に、突如、騎馬が現れた。
全身を純白の甲冑に包み、クァルトゥスと同じく身の丈よりも長い槍を構える。外見は20代半ばの青年と云った所か、長い髪も膚も甲冑と同様に抜ける様に白かった。引き攣れた様な傷が両目を覆い、美貌を損ねているのが特徴的だった。目蓋が閉じられてる所為で、その表情は伺い知れなかった。]
[態と親しげな口を利く事で相手が怒りに燃える事を、クァルトゥスは知っていた。
クッと喉奥で嗤う。]
──今日は両目を抉るかわりに、
お前を貫き殺してやる。…私の為に散れ。
[純白の騎士は答えず、おのが馬に鞭をくれ速度を上げる。
それに答える様に4つの目を持つクァルトゥスの愛馬も嘶いた。
互いが武器を構える金属音と騎馬が駆ける音だけが響き──。
結着は一瞬だった。
純白の騎士の槍が回転しながら宙を舞い、森へと墜ちた。主を失った馬だけが前方へ駆けて行き、深紅に甲冑ごと深々と貫かれた騎士だけが、クァルトゥスの元に残った。]
[ロネヴェの指がなぞった後、傷口は口を閉じた。
だがそれは、依然黒い筋として目を引く。
傷は大きいが深くはない。しかしロネヴェにとって問題なのは、負傷の程度よりもその外見。彼女は、そのような姿を見られる事を嫌う。
ロネヴェは森へ。
木々の作る影の中へ。]
―闇深き森、川辺にて―
[―――ザバァ……
顔や躯、脚のあたりが血まみれに染まった青年が、躯に纏わりついた血を洗い流していた。側には、戦った跡なのか――…眼球を失った憐れな悪魔の頭部が転がっていた。]
ふぅ………
あー。そういえば、ずうっと戦闘しなくちゃいけないっていう話でしたねぇ……
ということは……
おちおち眠ることも、お風呂に入ることもできませんねぇ……。
[一糸纏わぬ姿の男は、ぱしゃりと顔に水をかけた。]
[クァルトゥスは馬から降りる事も無く、槍に串刺したままの相手の躯を引寄せた。
薄笑みを浮かべ、折れた肋の間、槍で抉られ無惨に花開いた肉に指を埋め、相手の心臓を抜き取った。見れば純白の騎士は、形の良いくちびるをわずかに薄く開いたままで絶命していた。]
・・・良い顔だ。
…もう可愛がってやれないのが残念だ。
以前の私なら、赤児の手をひねる様にしてお前を殺せたとは、今日は云うまい。
お前の魔力は、心臓ごと私がすべて喰ってやる。
[血が噴き出す心臓を口に運びながら、囁いた言葉がそれだった。再び這い上がって行く過程で、対峙し斃した相手を侮ることはしないらしい。或いは、先の《契約》で肝臓を渡した所為で、ヴイイ伯と銀色の悪魔を喰らってもなお、案外と戦いに余裕が無かったのか。
クァルトゥスは、片手で死者を槍から引抜くと言うよりは、千切って剥がした。男が抱く腕を離すと、破れた悪魔の残骸──胸に槍傷と分かる大きな風穴を開き、千切れたそれ──は、支えを失い仄暗い森へと墜ちて行った。]
――!
[森の住人が騒ぎ出す。
葉を幹を削る、硬質の飛来物。
ウェスペルは素早くも片方の手袋を嵌めなおすと、
地を蹴った。]
[空から草生い茂る大地へと、地続きであるかのように闇の馬は疾走の速度を保ったまま着地した。
草を踏みしめ暫らく走りながら徐々に速度を落とす。
その背の魔は鬣を掴んで振り返り、背後に黒々と横たわる森を眺めた。]
[何者かが戦闘を行っているのだろう。
木々を揺らす鋭い音と、枝々の間を小さな魔が逃げて行く音。
不意に騒がしさを得た闇深き森。]
[人目を避けたつもりが全くついていない。
今や全土が戦闘の為に沸き立って居るのだから、人目につかぬ場所など無きに等しいのだろう。
薄い、黒のショールを作る。
軽く肩に羽織り、周囲に目を配りながら森の奥へ。]
[ぞくり。
クァルトゥスは、臓物が濡れた狭い場所に押し包まれた様な感触を覚え、獰猛な衝動を飼い馴らす様な笑みを浮かべた。すでに殺した悪魔の心臓は無い。
クァルトゥスは、近くにある気配では無く、森の向う──遠くに一瞬だけ隻眼を向けた。]
可愛がってやると言えば、
《候補者》の中に、ウェスペルの名が有ったな。
・・・あれもまた、良い声で鳴いた。
[黒い異形の翼がぎゃあと啼いている。
眠っていた下級の魔も眼を覚ましたのやも知れぬ。
血だ、
血だ、
祭礼だ。
騒ぐ声も合点がいく。
紛れもなくこれは、真新しい魔の血の匂いだった。]
……これは。
[高い枝の上、だらりとぶら下がった
白い騎士の手から血が滴り落ちている。
体を穿ったのは、間違いようもなく槍だと分かり]
……クァルトゥス。
[金の眼が、底光りを帯びて鋭く釣り上がる。]
[森全体からざわめく気配が感じられる。
先程散らした飛魔の血肉に下等な小魔が群がり騒いでいるというような可愛らしいものではないだろう。
何よりも精気を、そして魔力を糧として生きる淫魔ゆえに、彼は悪魔の放つ気配には敏かった。
どれほど隠蔽の技に長けた悪魔であろうとも、悟られずして彼に近づくことはかなわなかった。
そしてその鋭敏な感覚は、正しく力持つ複数の悪魔が存在することを告げている。
彼は馬首を返し、しばし考える素振りをした。]
[血塗れた槍先を湿度を持った空気がしっとりと濡らし、馬を進めると先端から薄紅色の雫が滴った。この辺りは湿潤な気候らしい。
クァルトゥスの躯は、魔力を得た事で内側から熱を帯びていた。
今、男が追うのは、先刻の気配──ザリチェ。]
少し離れたか。
[物音の継続する気配は無い。
既に決着は着いたものか
それとも、そもそも戦闘は無かったのか。
ざわめく暗き森を往く。
何者か、森に棲む小さきものでは無い気配を捉え、そっと近付いてゆく。樹々の向こうに、血を滴らせる白い騎士と向かい合うウェスペルの背があった。]
……奴は上か。
[ウェスペルは空を睨み、足元に2対の翼を喚び出す。
上昇しようという目論みであった。]
――…ッ?
[不意に梢が不自然に揺れた音を捕らえてか、
視線を周囲に走らせた。]
[指先でショールを弄びながら、木陰を出る。
良い憂さ晴らしの相手を見付けた、と深い笑みを湛えて。]
まだ生き残って居たのね?ウェスペル――
[言葉を切った。
何者かが森へ現れたようだ。]
[闇馬は大人しく主の命を待ち、立ち尽くす。
その火の如き双眸もまた、主と同じく森を見据える──この獣もまた、只ならぬ気を感じているのだ。]
──ゾクゾクするな……
[笑み刻んだ口より舌が閃いて、血濡れたような唇を舐めた。]
[ギャアギャアと鳴く黒い鳥の影が、あたりを一斉に飛び回る。]
……魔の気配、ですかねぇ。
それも、すごく大きな……。
[目をしぱしぱと瞬かせ、右目を手で覆う。何かを察知したのか、キョロキョロと周囲を見た。]
「候補者」さん、ですかねぇ。
それとも、別の何かか。
[目を細めて、唇を動かし――吐息で旋律を奏でた。]
[相手は戸惑っているのか、分かった上で誘い込むつもりなのか。《候補者》ならばおそらく後者であろうと思われた。
クァルトゥスは自らの足で草を踏みしめてゆっくりと歩き、ザリチェに後ろから近付いた。男からは相手の濡れた紅唇は見えない。]
・・・…──。
この様な場所でひとり、遊んでおられるのか。
それとも、バラした相手が恋人だったか。
[視線を巡らせた先にあった魔が口を開く。
ウェスペルは心底うんざりしたような表情を見せただろう。]
――……無論だ。
しかし、よりにもよってお前が――
[同じく言葉を切った。
緋色の魔物が空より森に降り立ったのを感じ取ってか
眼つきが更に鋭くなる。
クァルトゥス。
声には出さない、無意識で名を紡いだ。
激しい怒りと憎悪と、それから。]
[馬上の淫魔はゆっくりと振り返った。
最初は青く燃える炎のような瞳だけを、次に艶く白い貌を、最後に闇夜の衣に包まれたしなやかな身体を、それを乗せた愛馬ごと。
ただそれだけの動作の全てが、さながら恋焦がれた情人に向けられた媚態のよう。]
[仇、と言われ、口を開こうとしたが
間を置かず続けられた言葉に]
――…ッ!!?
そんなわけがあるかッ!!
[不意打ちを喰らって声を荒げた。]
[花が綻ぶように紅い唇が開き、涼やかに言葉を紡いだ。]
ひとり……そう、ひとりです。
気晴らしに馬を走らせていました。
恋人は居りませぬ。
貴方がそうでないのなら。
[手指で顔を覆い、喉の奥で嗤う。
嗤いながら、一歩踏み出す毎に脚から身体の造型を見せ付けるように、ゆっくりとウェスペルへ歩み寄る。]
だって、
そんな貌をしていたもの。
酷く焦がれて居るかのよう。
瑠璃姫――…
[ジュアンは一糸纏わぬ姿で、瑠璃色の琵琶を抱き寄せ、そっとくちづける。まるで女人の髪を撫でるかのように、ジュアンが銀色の4弦を撫でると、琵琶の瑠璃色がキロリ、キロリと瞬いた。]
さーてと。
こんなに周囲がざわついてるのに、何もできないなんて勿体ないや。とっとと服着て……
[ザクリ――…
近付いてきた小者に、弦の雨を降らせ――…]
うわっ、血なまぐさっ……
[未だ血の匂いが残る服を着込むと、地を蹴り上げて、軽やかに森の中を飛ぶ。]
[振り返ったザリチェを、隻眼が見詰め返す。
しろい膚から匂い立つような媚態は、相手が振り返った事で濃度を増した様に思われた。クァルトゥスは暫しそのまま静止した。
青い炎を燃やす両の目に、くちびる。
ザリチェの視線と気配だけでのみ込まれる者もあるだろう。]
[それはそれは不愉快そうに眉を寄せながら
喉で嗤う女を見た。]
焦がれる?莫迦な。お前の眼は節穴か。
憎みこそすれ焦がれるなど、――あるわけがない。
[しなやかな肉食獣のように歩み寄るロネヴェへと謂い放つ。
地を僅かに足が擦る。]
渇きの君…。
[暫しの沈黙の後、クァルトゥスは口を開いた。]
貴方を満たすほどの相手は、何処にも居ないか。
お噂は予々──
[悪戯めいた笑みを歪めた唇の端に浮かべ、そして、馬上の相手へうやうやしく手を差し伸べた。]
[―――タン…
軽やかに木の枝の上に着地すると、眼下に見慣れた女の影が。]
あー……ロネヴェさん、また誰か苛めてますねぇ。
[ロネヴェが視線を送る先を見やると、そこには先ほどヴァイイ伯の屋敷で「リトル・レディ」ニクスと話し込んでいた男が居た。]
………ありゃりゃ。
この方……苦手なんですかね、ロネヴェさんのこと。
恋慕と憎悪の差など、無きに等しい。
屈辱を受けたか、一夜の愛を受けたか――
何があったのかしらね
[恐らく、距離を取ろうとしているのであろう、ウェスペルの隣へ]
[先刻、ウェスペルの見せた表情を思い浮かべる。
不愉快そうな彼の、いまの表情と見比べて]
嗚呼、少し―――妬けるわ。
[微塵の躊躇いも見せずに、差し伸べられた手を取った。
争わねばならぬ敵である筈の、眼前の男への警戒はまるで見られない。]
その呼び名はどうかご容赦を。
口さがない者達が勝手に付けた名です。
どんな噂かは知りませぬが、私も貴方にお会いしとうございました。
大層御強いのだとか……。
[嫣然と微笑む。]
あの白い塊は何でしょうか。
……誰かの躯、かな。
[ジュアンは木の枝からヒラリと地に降り立ち、白い塊をじいっと見つめた。]
……あ、よく見ると真っ赤ですねこの方。
この傷は……でっかい武器かぁ……一発でドカンと殺られちゃいましたねぇ……。
ま、痛くはなかったんでしょーけど。
[誰に言うでもなく、つぶやく。]
[クァルトゥスにその身を投げ出すように、ふらりと身体傾けて、闇馬の背より降りる。
甘やかな香りが髪から散り、空気に溶けた。]
お前には関わりのないこと、詮索は無用だ。
[ロネヴェに背を見せぬよう動きながら、
眉を寄せて、宵闇の中光る獣ののごとき双眸を見据えた。
金の瞳には少しばかり怪訝そうな色が差しただろう。]
……戯言を。
戯れるなら、相手を選べ。
そうだな、そこの――…
[と視線を向けた先には瑠璃色が見えるだろうか。]
最近は、貴方に吸い尽くされ、木乃伊になったとある屋敷の持ち主の話を聞いた。
私の名をご存知とは、意外。
[触れた指先の、吸い付く様な感触を味わい、もう一度小さな笑みを漏らした。
クァルトゥスは、身体を傾けた相手を腕の中に受け止め、ザリチェの手の甲にくちづけた。]
…成る程、渇きの君は退屈しておいでか。
[拒んだ通り名を繰り返すのは、わざとだろう。
抱き込んだまま、取った手の甲の絹肌に軽く舌を這わせ、ザリチェを見つめた。]
[金色の視線が、青い目にギラリと重なる。]
あー……僕ですか?
[白い「候補者」の動かぬ躯の前で座っていた男は、にこにこと笑った。]
戯言……ですか?
[瞬きをしながら、2人の顔を交互に見る。]
もし会議中だったなら、お邪魔しました。僕のことなら、お気になさらず。
[戯言、と繰り返すロネヴェにはちらと視線をくれただけで]
……広間に居たな。<候補者>か。
[暢気そうににこにこ笑う姿を半眼で見る。
実に血腥い様子に似つかわしくない。
瑠璃色が鮮やかに瞬いていた。]
……何の会議だと謂うのだ。
[手の甲に這う舌の感触に、小さく甘い吐息を洩らす。
男の腕の中の身体が、内部に火を入れられたように熱くなった。]
……私という杯を満たすおつもりがおありなら。
[見詰める視線を受け止めて、蒼い瞳が蠱惑を湛えてさざめいた。]
会議なものですか――――
[ウェスペルのすげない態度に対する怒りと、嫉妬を瞳に宿らせ
ロネヴェは少し身を引いた。
湯でも使ったのだろうか、血の跡は無いのにそれでも血の匂いを漂わすジュアンをもう一度眺め、]
―――また、会いましょう。
[黒いドレスと、ショールをひらめかせて枝の上へ。
それから*森の奥へ。*]
[鳥の鳴き声は聞こえなかった。
代わりに、黒い枝が銀の合間を抜けて墜ちゆく。
枝に腰掛けたまま、見下ろす事も無い。
手の甲を口許に当て、横に引くと、赤が移った。
もう片方の手に持った異形の鳥は、首筋を切り裂かれており、己の体液で黒い翼を赤く濡らしている。大量の血を失ったばかりとは思えず、まるで木乃伊の如き体を晒していた。
黒い枝も、同じだった。
枝ではなく、数多の躯だ。
地に、亡骸を積み上げている]
ん、ンン――
[大きく伸びをする。
手に力を篭めた拍子、パキリと音がした]
潤いはしたけれど、
「遊び」にも成らないや。
[崩れるそれを、手放す]
[瞼が半分閉じてさらに鋭さを増した金色の視線に、ジュアンは目に緩やかなラインを描いた。目尻に、くしゃりと皺が寄る。]
じゃあ……何でしょう?
まあ、この話し合いが何の場かは、どうでもいいことです。
もしかして貴方は、この方をご存じですか?
まさか貴方のように「力」をお持ちの御方が、動かぬ躯を見ただけで震え上がる……なんてことはありえないと思ってるんです。
………ね?
[にこりと微笑んだ。]
……ありゃりゃ。
ロネヴェさん、お出かけですか。
いってらっしゃい。くれぐれも迷子にはならないでくださいね。
[ロネヴェの瞳に宿る嫉妬の炎を知ってか知らずか――…立ち去るロネヴェに、ジュアンはひらりひらりと手を振った。]
[ロネヴェの瞳に宿ったいろを、
ウェスペルはやはり怪訝そうに見返すだろう。
ひらり、ショールは風に舞う。]
……おかしな奴だ。
[ぽそり、と呟いたが、
にこやかに笑う瑠璃音に聞こえたかどうかは定かではない。
ウェスペルは最早動かぬ白い騎士に一瞥をくれ]
そこに斃れているものはどうでもいい。
顔も知らん。
私が用があるのは、それを貫いた魔だ。
[微笑む魔を見る金色は、
若干不機嫌そうに見えただろう。]
[至近距離で見詰められればそれだけで、首筋をチリと灼くものがある。
吐息と視線だけで、更に誘い込もうとする相手。視線を外さぬクァルトゥスの眼差しも熱を帯びている。]
こちらは野蛮な者ゆえ。
…残念ながら、誰かを満たしてやる趣味は無いな。
[今度は己の顔に触れて来る指先を丁寧な動作ではずし、取った手首にくちづけを──する。
と見せかけて、]
私は、奪い、喰らう──だけだ。
[ザリチェの肌に歯を立てた。]
[ぽそりと呟く声が聞こえたか否か――…金色の男の唇の動きを見て、ぱちりとひとつまばたきを。]
ああ、この白い方とはお知り合いじゃあないんですね……。
この方を貫いた傷……ああ、確かにすごく大きくて……槍か何かで一撃!っていうところでしょうか。凄いなぁ……多分、凄い腕力の持ち主ですねぇ。僕が食らったら一撃ですよ。
それにしても、どっかで見たことあるなぁ……そういう戦い方をする人。記憶が遠すぎて、すぐには思い出せないけれど。ええと……
――…で、その方とは、どのようなお知り合いですか?探し人か、何か。誰かの仇……とか?
[丸く開いた唇から驚きの小さな悲鳴が上がった──否、それは本当に苦痛の悲鳴なのだろうか?
戦慄く口唇の、吐く甘い息は悦楽の擦れを帯びてはいないだろうか。
仰のいて細められた双眸の光は、得も言われず濡れてはいないだろうか。
両の手を取られて封じられた身体を、淫魔は抗うように捩った。
スリットの入ったローブの裾が乱れ、白い脚が露わとなる。]
[捲くし立てるように喋る、
その勢いにか片眉を上げる。]
――口のよく回ることだ。
[謂いながら、白い騎士に穿たれた傷痕を睨む。
やがては黒い穴に全て飲み込まれるのか、
或いはそのまま消えてしまうのか。]
名くらいは聞いたことがあるやもしれんがな。
あの、堕ちたる魔槍の――
……
[瑠璃の魔の明るい調子の声、それに呆れた様子で
息を1つ吐く。]
私は誰かの為に仇を撃つほど暇ではない。
あえて謂うなら探し人だ。
[血が香る。
黒の森は、赤を帯びているように思えた。
移りゆくうちに、力に寄せられるように、枝に下がる白に行き当たる]
――わぁ。
[身体に抱いた深紅に、感嘆の声をあげ]
よく、染まっている。
[足の裏をぴたりと枝につけ、揺らして、はしゃいだ]
――…墜ちたる、魔槍。
あー。だんだん思い出してきましたよ。確か背が高くて、大きな槍を、こう……ですよね?
[手をぶんぶんと振るい、槍を動かす真似をした。]
……で、仇討ちでもないんなら、何故魔槍さんを追うんでしょうか。
「御自分のため」ですか?
――かつて、何かを奪われたとか。
[にこりと笑うジュアンの足許に大きな孔が空いた。ジュアンは「おっと」と声を上げ、ヒラリと半身だけ後退する。黒い闇が、無抵抗の白い――否、血に染まって斑色の――気高き騎士を、ごぷりと音を立ててあっけなく飲み込んだ。]
――…敗北した者には、容赦無く「絶望の闇」が与えられるんですねぇ。いやぁ、怖い怖い。
[――微笑みは、絶やさぬままに。]
[先刻までのうやうやしい動作は何処へやら。
ザリチェのしろい太腿に、躊躇い無く乾いた厚い掌を這わせた。
男の舌は捕えた舌を嬲る。噛み付く様な所作の後、強く啜って相手の息を詰まらせてから、わざとゆっくりと口内を舐める様に舌を動かした。]
・…あまい
[不意に、孔が空く。
眼下に在った白が、呑み込まれる。
眉を顰めた]
面白くない。
[せっかく、見つけたのに。
そう言いたげな口調で、小さく零す]
[口接けというには荒々しいそれから開放された時には、軽く息が上がっていた。
それでも瞳は閉じない。
男の瞳の奥を覗き込もうとするかの様に。
ちろ、と舌が動き、「あまい」と洩らした男の唇に触れる。
蕩けたからだが、大樹に絡んだ蔦のように男の逞しい四肢に擦り寄った。]
……そうだ。
[槍を持つ振りに、律儀に頷く。
続く問いには頑なに]
其方には、関係のないことだ。
[声は硬質を帯びる。
――奪われた、
とも謂えぬ、屈辱を思い出してか眉を寄せた。
闇を見てなお笑みを絶やさぬ瑠璃は見ようによっては不気味であろうが]
欠片もそのようには見えんな、候補者。
暢気に笑っていては何れ首が落ちるぞ。
[さして戦意も見せず謂う。ただの脅しだろう。
はらり、樹の上、揺れた枝から葉が落ちる。]
……なんだ、賑しいことだな。
[声がする方へと目を向ける。]
あ、ニクスさん。
こんなところで、お散歩ですか?
[にこりと笑うジュアンの耳元に、ニクスの奇妙な質問が入り込んだ。
無邪気な、跳ね上がるようなニクスの声――「ああ、ニクスさんはこういうことがお好きなのか」と、ジュアンは不意に思ったようだ。]
「やった」?
いいえ。僕が来た時には、既にあの白い方は動いてませんでしたし、その前にウェスペルさんとロネヴェさんが、動かなくなったあの方の前で、何かのお話をしてましたねぇ。
――しかも、ウェスペルさんのお話からすると、あの方は別の「候補者」に殺されたみたいですよ?
……であれば。
奪えるものか試してみると良い。
真に餓え渇くものを食い尽くせるかどうか。
[そう低く嗤いながら囁いた声からは、先程までのたおやかな艶かしさは薄れ、精悍さの片鱗のようなものが覗いていた。]
なるほどー。
――…ええ。触られて痛い所には触れませんよ。
[ウェスペルが黙り込み、ジュアンの様子にすっかり話の矛先を向けたのを聞き、かれは「その話」を止めた。]
あー……何もしない間に首切られるのは怖いですねぇ。気をつけなくちゃいけません。これからは、おちおち寝ることも、のんびりお風呂に入ることも難しくなりますねぇ。
――…いつ「候補者」が襲ってくるやもしれません。こうしている間にも、背中からザックリ……なぁんてこともありますからね。
[鼓膜が微かに揺れ、皮膚に風の揺らめきを感じたジュアンは、ぴくりと目尻を上げ、笑い皺を険しいものに変えた。]
へえ!
[素っ気無いウェスペルとは異なり、興味をそそるジュアンの答えに声が弾む。
一度大きく身体を揺らして、地に降り立った。
スカートが舞い上がり腿までもが一時露になるも、気にした風はない]
ロネヴェ。
知らない名だ。
内緒の話かな。
けれど、それは、とても興味深い。
ウェスペルと「踊る」よりも、愉しいかな。
[前後の繋がりが薄い言葉を、落としていく]
[寄り添ったまま、上下する胸の──小振りであるが蠱惑的なラインに目を落とした。
相手の視線は揺るぎなく、こちらを見詰めている。]
そうやって、誘うのか──
成る程、“渇き”を満たしてやりたくて、己が干涸びて死んで行く者がいるわけだ。
[クァルトゥスは、わずかに声を擦れさせた。
唇に触れたザリチェの舌に指で触れる。両性どちらの魅力をもたたえる美貌を至近距離で見詰め返す。無骨な指先を折り曲げ、ザリチェの顎を掴み、そして指先だけでしっとりと吸い付く様な花のくちびるをなぞった。]
だが、同時に下世話な想像もする。
…「下」がどうなっているのか。
[喉を鳴らして嗤う。太腿を撫でていた掌を、腰骨の上でぴたりと静止させた。]
ああ…。
草上と寝台、どちらがお好みだ?
ロネヴェさん……ですか?
ええ、とても綺麗な女性の方ですよ。一度お逢いしたら、なかなか忘れられそうにないほど……かなり刺激的なお方です。
[ジュアンの目は、笑っているような――そうでもないような。そんな表情も、草葉の蔭から聞こえる音に遮られ……]
あれ。なんか……居ますねぇ。
凄い気配。僕の背中のここら辺に、鋭い何かを感じますねぇ。
……ちょっと、行ってきますね?
ウェスペルさんに、ニクスさん。
「くれぐれもお気をつけて」。
[そう言って片目を瞑ると、ジュアンは気配のする方に*姿を消した*]
[ぬれぬれと艶めく唇は触れた男の指に絶妙な刺激を与えた。
やわらかさと熱と、脚の間にあるもう一つの女の唇を思せる蠢きを。
太腿を這う掌には誘い込むように腰をくねらせ、]
どちらでも……
貴方のお望みのままに。
[女の腕ではありえぬ力を、だが男の腕ではありえぬしなやかさを備えた両の腕を、相対する男の身体に巻きつかせた。]
……別痛くはないだろう。
私は針山ではない。
[無邪気と暢気、
どうにも調子を崩される様子で]
ロネヴェは―――
[無邪気な蒼と、妖艶な魔が
どうしても思考で繋がらず、眉を寄せた。
笑みを浮かべたまま去る瑠璃―ジュアンというらしい―を横目で見る。]
寝首をかかれんようにな。
ふうん?
……面白そうだね。
[たとえ、かれの瞳の奥にある感情を悟ったとしても、返す物言いは普段と変わらず軽かったに違いない]
うん。
いってらっしゃい、ジュアン。
愉しいことあったら、教えて?
[ざわめきの音も生じた気配にも、さしたる興味は向かない。
かれも候補者であるとは知れど、目先の新たな発見が優先であったし、「遊び」は断られていたから、後を追うことはなかった]
痛くないのか。
それは、好かった。
[先刻、血の宴へと繋がる「踊り」に誘ったことなど嘘のように、ゆるりと警戒心の無い様子で、眉根を寄せる魔へと歩を向ける]
[足を踏み出すにつれて、
柔らかなワンピースの裾が揺れる]
誰かに触れるのは、好きなんだ。
[わらう。
容貌と素振りは幼くあれど、浮かべる笑みの奥底には妖しいいろが潜み、白の衣服を彩る赤は魔の残酷さを垣間見せる。
全てを覆い隠すような黒を纏った魔の、唯一、肌の露になった場所。
その顔へと、*小さな手を伸ばす*]
何がよいと謂うのか。
[近づくニクスを特に咎めもしない。
纏うあどけなさに、
少しばかり気が緩んだたやもしれぬ。
――が。]
……ッ!
[小さな手が己の顔に伸びた途端に、
露骨に身を引き遠ざかった。]
触るな。
[庇うように右腕を体の前に。
ニクスを睨むように*見据える*]
[はた、はたり。
二度、円い眼を瞬かせて、触れることのなかった手に視線を落とす。緩く握り、開いた]
どうして。
痛くはないと言ったのに。
それとも、
痛むのはウェスペルのほう?
[手を身体の後ろに組み、顔を上げた。
遮るような腕の向こうの金を見つめる]
[ウェスペルとニクスからだいぶ離れた場所――2人に音波が届かぬ程離れた場所で、ジュアンはかれを狙った者――おそらく「候補者」だろう――を見つけ出した。]
……凄いですねぇ、貴方。
数百メートルも離れたこの場所から、どうやって僕の心臓をピンポイントで狙ったんですか?背中にビンビンと貴方の殺気を感じました。
もし「僕の目が見えていれば」、視覚ばかりに頼ってしまって、きっと貴方の殺気など感じられなかったでしょうねぇ……
[――カラン。
――響くは、琵琶の低い音。]
ああ、思い出しましたよ。
確か貴方……僕と褥を共にしたことありましたよねぇ。あはは、僕は貴方のアレを食いちぎっちゃったんですよね、確か。……だって、あまりにつまらなかったから。
[――カラン。
――音色に呼応し、弦が蠢く。]
――…この機に乗じて、復讐ですか?
痛くはないだろうが……
好まんだけだ。
[庇うようにしていた右腕を少しだけ降ろす。
ニクスに悪意はないように見えた。
ロネヴェとは対照的だが、
触れられる事には変わりない。]
触れるのが好き、というほうが
私には理解し難い。
[瞑目に見えるほどゆっくりとした瞬きをひとつ。
瞳からやや険はとれたものの、
拒絶の意思は揺ぎ無かった。]
[黒衣の射手が構えた弓が、ジュアンの身体に狙いを定める。一呼吸の静寂――]
[次の刹那、一度の射撃だというに、幾本もの矢がジュアンめがけて襲いかかった。身を翻して交わすも避け切れず、ジュアンの頬と腕に赤い筋が刻まれた。]
まったく……目が見えない者に矢を射るなんて卑怯ですよー。そういえば貴方、そうやって僕の都合などお構いなしで僕を抱こうとしてましたよねぇ、あの時も。
[ケラケラと笑うジュアンの右手が、弦を撫でる。]
ところで貴方……雨は、お好きですか?
[微笑むジュアンの右の耳――鼓膜の細胞がざわりと蠢く。舌打ちするだけであとは無言の射手の「声」――その方向に、ジュアンは「目を向ける」。射手の頭上には銀色の弦の雲の塊が浮かび、雨雲のようにぐるぐると回転していた。]
あはは……そういえば。
火曜日と土曜日は雨が散々降りますので、お気をつけくださいね?
[―――ピン。
ひとつ指を鳴らした音と共に、銀色の弦が豪雨となって黒衣の射手に襲いかかった。身体じゅうに弦が突き刺さり、血を流しながら「雨」を交わす男の頭上に、ジュアンはさらに「雨雲」を作り上げる。]
[――ザシュリザシュリと無惨な音が、木々の間に響き――何故どうしてと涙を流す間も無く血の雨を全身から撒き散らす男の気配を「肌で感じ」、ジュアンは小さく笑った。]
なんだかんだいったって、空しいだけですねぇ……褥を共にした方を葬るのは。
[乾いた琵琶の旋律を静かに響かせ――ぴくりとも動かなくなった惨めな「黒の塊」の上に*そっと流した*]
[首が傾ぐ。
切り揃えた青が、揺れた。
疑問のひかりを抱けど、眼差しの揺らぐことはない]
生きているものに触れたのなら、
多くのものにはあたたかさが在って、
体内を廻る赤の脈動が伝わるのだもの。
[片手を外して、己の首筋に当てる。
そこに、温もりは存在しないけれど]
生命の水の音は、とても心地好い。
[薄い笑み]
私に似た快楽を味わったことはおありでも、
私の快楽(けらく)はまだご存じない筈。
さあ──杯に口を付けられよ。
貴方のために注がれた美(うま)し酒を。
村の設定が変更されました。
ウェスペルは、
それを好く思わない?
[指先を己の肌をなぞると同時に、
かれへと向けた視線をゆっくりと滑らせる。
触れるかの如く。
血の雨に濡れる大気を感じて、*眼を閉じた*]
[薄く笑む、その表情は幼く見えても矢張り“魔”であった。]
……水――否、液体を好むか。
[「乾いているし」
大広間での言葉を思い起こす。
ウェスペルは自分の手を見て緩く握った]
そういうものか。
やはり、理解し難い。
[古傷が痛むかのような表情を浮かべていたかもしれない。]
好む――どうだろうね。
[そう言った感覚の範疇には属さぬゆえに、答えは曖昧になった。
眼を開き、ウェスペルを捉える。
かれが退いた分だけ進み、一定の距離を保って、下から除きこんだ]
なぁんだ。
やはり、痛いのじゃないか。
[小さき鏡の泉は、かれの貌を映している]
――痛い?
[澄んだ湖水のような眼に、自身の顔が映っている。
戸惑ったような表情だった。]
おかしなことを、謂う。
[知らず、手袋に隠れたままの傷跡を覆うように手を重ねた。
それは痛みなのか、どうか。
続いた問いに首を少し傾けた。]
何故そんな事を聞く?
……そうだな、煩わしくないのは嫌いではないが。
[候補者同士が向かい合っての奇妙な会話。
他の者が見たらどう思ったろう。
森がざわりと揺れた。]
見たままを言っただけさ。
思ったままを尋ねただけだよ。
[かれとは付かず離れずの距離]
けれど敢えて理由をつくるのなら、
そうだね、
「踊る」よりも愉しそうだと思ったからかな。
[小さな両の手を大きく広げて、
くるりと回りながら
ぐるりと周りを巡る]
そんな貌をする魔は珍しいのだもの。
キラいじゃないのは、
好きとは違うのじゃないかな。
煩わしくないものって、なんだろう。
静かなもの?
[ぴたりと足を止めると
ふわりと広がるスカートが収まる]
凪いだ水面に映るひかりの波はきれいと思うけれど。
[幼き魔の背後、
ざわめく黒の森]
[穏やかな空気を好機と見たか、
何処よりか飛来する黒の影。
鳥と人の狭間の姿をした異形]
[揺れる濃藍を眼で追う。
ふわふわ、斑の裾が踊っている。]
「踊り」たくて仕方がないようだったのに、
気まぐれなのだな。
[珍しい、と謂われ眉間にしわを寄せた。]
……表現しがたい心持ちになるな。
変わった魔なら幾らでもいるだろう。
大差なかろう。
……静寂は、そうだな。
好ましい。
[深い蒼の幼い魔は、
澄んだ水によく似た無邪気さだ。
その言葉に、凪いだ湖面を思う。]
あぁ、それは佳いものだ―――
[返しかけて、新たな魔に気付く。
素早く構えると指先より銀の針が編まれた。
そのまま腕を薙ぎ、放つ。]
[濡れた唇の蠢きに、クァルトゥスは一瞬目を閉じた。
男は、ザリチェの程よい筋肉の付いた身体のしなやかな動き、巻き付いた腕の力を心地良いと感じたらしかった。クァルトゥスは、か弱き者を従属させ、奉仕させるさせる事もそれなりに好んだが、同様に、力の拮抗や征服し難い相手に挑む事も好んだ。要は、褥でも戦場でもその嗜好にかわりはなかったのだ。]
[巻き付けられた腕、肩、肩甲骨をなぞりながら、妖艶な笑みでも美貌ではなく、婉曲に──ザリチェに内在するであろう力を褒める。]
・・・きれいな身体だが、
草で傷付くほど、やわには見えない…。
絹よりきめ細やかな肌なら、衣を纏わずとも。
…寝台に横たえてやりたい気もするが、屋敷に連れ帰れば、従僕が嫉妬で自殺しそうだ。
[閉ざしていた目を開き、“青”い目を見下ろす。
一瞬の沈黙と 獰猛な視線。
ザリチェの腰を抱き寄せ、草上に押し倒した。]
お前に似た酒を私は知らない。
・・・渇きの君 ザリチェ
──貴方を遠慮なく味わわせていただく。
[態とザリチェに重みを掛けながら、耳元へ寄せた唇は低く囁いた。]
[衣の内側に滑り込む掌は、直接的に性感帯と思われる場所を濃密に愛撫しはじめる。
性器を避けると云うわざとらしい手管は使わず、また、クァルトゥス自身がザリチェより快楽をもたらされる事によって、多少の魔力が*奪われる事も厭わない*。]
[「迷子にはならないでくださいね」
気の抜けたようなジュアンの言葉は、彼の本意はさて置き世辞でも冗談でも無く森のある側面を表している。
黒く、闇深き森。
魔界のこの森には、魔をも惑わすものが棲んでいる。
あるものは明かりを灯し、またあるものはあらぬ所へ沼地を作り、樹に擬態し、空間を歪ませ、ときに森の奥や遙か辺土へと、不用意な者を誘い込む。]
[さりとて、道なき途を違えることは無かった。
森の一角。
川を辿り往くと、やがて木々が開ける。
道々、血の匂いが漂い、戦闘や虐殺のあった事を示していたが、既に辺土へと送られたのだろう。亡骸は一つも無かった。]
興を削がれることばかりだったのだもの。
それに。
より愉しいものに惹かれるのは当然だし、
幾らでも居てもウェスペルはひとりだよ。
[銀の針は、違わず黒に突き刺さる。
振り下ろされかけた爪は、水面を揺らす事は無かった。
咆哮。
上体を逸らして背後を見る]
うるさいなあ。
[噴き出した血を掴むように手を伸ばす。
指先が触れた途端、液体は刃となる。
逆流する赤が傷口を深く抉り]
静かにして。
[貫いた]
[交わされた炎の視線が開戦の合図となった。
ザリチェは戦の魔に組み敷かれるまま、草の褥に横たわった。
力強さを感じさせる武骨な手が絹の手触り持つ膚の上を這う。
圧し掛かる男の身体の下で、淫魔の膚はオパールの如き輝き宿してうねった。]
……ほう。
[飛び散る緋色と、遡る翼ある魔の体液にを眺め
小さく声を漏らす。]
それが、お前の力か。
面白い、いっそ服も緋色に染めてみてはどうだ。
[こちらは血飛沫を殆ど浴びていない。
頬に少しだけ掛かった赤を、鬱陶しげに手で拭った。]
……ひとり か。
[ニクスの言葉を繰り返し]
此方の感想を述べるならば、
お前の方こそ、随分と変わっているぞ。
[森のはずれにかけて川幅は広くなる。
辺りに樹が無くなると、岩場を挟んで海へ注ぐ。
空に月の無い所為か、夜が明ける事の無い所為か、海面は黒い。
ただひたすらに、黒い水面は、それでも波立つ度に割れた黒曜石のような、硬質な光を放つ。翼のあるものの影が空を舞い、時折啼いた。]
[海の傍、川の水に潮の混じるより僅かに上流。辺りの開けた場所。
ストールを離した。薄布は肩から背、脚を撫でて足下へ滑り落ちる。ドレスもその場へ脱ぎ落とし、装飾品だけを身に付けた姿で爪先から川へ入った。]
[追った傷は、表面的には癒えて居た。
血の跡を洗い流す。何時だったか飛散した、誰かの緑色の血液も川の流れで溶かした。]
白から赤に染まるのが好いんだよ。
遊ぶうちに染まるのが好きなんだ。
[ゆるりとかぶりを振り、赤の飛沫を散らす。
金目の魔へと眼差しを戻して、青の眼を瞬かせた]
“ありがとう”?
[不意に、礼の言葉を紡いだ]
[予測の範疇を遥かに飛び越えた。
そんな言葉がよく似合う。
意味を理解するのに、少し時間が掛かった。
ニクスにはきょとんとしたウェスペルの表情がよく見えただろう。]
―――…………何故礼を謂う。
[やはり変わっている、へんな魔だと
内心繰り返した。]
放って置けば候補者が減っただろうに、
というのと、
変わっているのは唯一ということだからかな?
[口許に立てた指を添え、小首を傾げる。
幼い動作と、緋色に濡れた姿は不釣合いだった]
[川面に、影が浮かんだ。
水の流れに従い、身を退く。]
[襲撃者は、水を高く跳ね上げて降り立った。
開けた場所で、身を隠しながら襲い掛かる事が出来なかったからだろう、上空から訪れた”候補者”は、飛沫の向こうで両手に番えた刃を掲げる。]
[ゆっくりと、敵を振り返った。]
[水しぶきの向こうの目が、己の身体に引き付けられる様子を見てロネヴェは満足げに笑い]
[炎を放った。]
……。
[難しい表情を浮かべる。]
あのままなら――……次の標的は私になったろう。
だから殺した。それだけだ。
[血腥い中に幼い魔、不釣合いでありながら
とても自然な姿のようにも思えた。]
“ただひとつであること”に拘るのだな。
[男は正しく灼き尽くす劫火であり、貫く槍であった。
ザリチェは自らその劫掠を受け入れ、自身もまた炎と化して燃え上がった。
引き裂かれた大地となり、赫灼たる溶岩流をその裂け目から溢れさせた。
鉄床となり、熱せられた刃の下で打ち据えられた。]
アハ。
[無邪気に咲う]
ひとつには成れないから、
ひとつで在りたいと思うのさ。
[振り返り、物言わぬ躯となった魔を見下ろす。
ああ、あの鳥の主だろうかと、そんな思考が過ぎった。
音も無く現れる虚無の孔。
横に跳び、逃れた。
ウェスペルとの距離が開く]
[攻撃を防ごうと交差させられた腕を、烈しくうねる魔の炎が砕く。名も知らぬ魔を襲う、殴り付けるような、強い衝撃。
ひときわ強い一撃は、ロネヴェの心中で燃える嫉妬の為せる業だった。
特別な執着がある訳では無い。
唯、己の美しさを信じて疑わぬ心。
己以外のものへ目を向ける事を許さぬ傲慢。
その衝撃でもって魔を打ち倒した。追って、川面に腕を突き入れる。相手の手にしていた刃を奪い取り、水中で首を撥ねた。
水面に血が溢れ、二刀の使い手は二度と浮かび上がることは無かった。]
[ロネヴェの手にあった刃も消え失せた。
持ち主が彼方へと落とされたからなのだろう。
力と共に感情を放出し、一時の高揚に頬を染め、しかし茫洋とした貌で水面の血が流れ去ってゆくのをただ眺める。]
[彼はまた、そそり立つ塔であり、侵略者の破城槌を幾度と無く受けて開く城門でもあった。
杯であり、飲み干す唇でもあった。
やがて、昇りつめた灼熱の槍が幾千幾万の火花を散らして落下するのを、炎の海となったザリチェは感じ、自らも己が海の中に熔けていった。]
故の――ただひとつか。
[闇が広がる。
ニクスと反対側へ飛ぶ。距離が開く。
深淵は口をあけて、敗者を飲み込んでいった。]
私には目的がある。
[離れた蒼へ顔を向けて]
それを果たしたとき、
再び合い見えるのも面白いかもしれんと思えたぞ。
変わり者のニクス。
[眼を細めた。
笑んだように見えたかもしれない。]
生きていれば、いずれ。
[立っていた時、候補者であるならば逢うは必然。
そうでないなら――自明の理。
次の瞬間、
黒の外套を翼のようにはためかせ
ウェスペルは森の奥へと消えた。]
[触れる掌、指先、唇、舌、クァルトゥス自身の躯で。味わうザリチェの膚は、それ自体が魔物であるかの様だった。クァルトゥスは、己の動きに合わせて蠢き、内側から得も云われぬ貴石のごとく輝く、その様に魅せられた。
貫いたザリチェの肉体は、男の力強さと誇り高さを見せながらも、誘い込む娼婦の媚態。しなやかな身体の奥に秘められた女の裡は豊潤で、灼熱の槍に絡み付き果て度無く快楽をもたらした。]
…離したく無い、
と飽きるほど懇願されただろう。
[悦楽の海を泳ぎ終え、互いの汗が混じり、ぬめる相手の首筋を撫でながら囁く。青い髪を撫でるクァルトゥスの声は、以前より心無しか親密な物に変化していた。
森は二人の周囲だけが異様な静寂に満ちており、互いの呼吸音だけが響いていた。]
ふうん?
[目的の如何は、問わなかった。
ウェスペルの描いた表情を捉えたのは刹那、黒の中へと消えゆく黒を見送り、口の端を上げる]
アハ。
それは、愉しそうだ。
それまで、呑まれないようにね。
それと、好きなものが見つかると好い。
[終わり際の言葉は、やはり「変わって」いただろう。
高きには昇らず、地を歩く。
乾いた昏き地面は、緋に濡れている]
[クァルトゥスは、ザリチェのこめかみと手の甲にくちづけてから、身を起こした。]
…無粋だと云いたいが。
私の従者の気配だ。
[軽く鼻を鳴らす。]
しかも、死にかけている。
[身体の奥で、臓器がしなやかに鼓動を刻む。
――まるで、それ自身が意思を持つかのように。]
あははっ………
[――ドクリ。]
おかげで……
[目を細めて、笑う。]
――…恍惚の女神の膝元に居るみたいです。
[ジュアンの視界は快楽の波に揺さぶられ――かれの目の前は、黒い霞に覆われていた。]
[クァルトゥスが起き上がったを見、ザリチェもまた片肘をつき、ゆっくりと半身を起こした。
しっとりと汗ばんだ首筋と額に張り付いた蒼い髪が、ぞっとするほど艶かしい。]
嫉妬で死ぬかも知れぬと仰ったあの従者殿ですか。
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