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[ばさりと大きく羽ばたけば、羽根が舞う。
赤黒い羽根は、宙に舞い。
漆黒へと変わり。
世界を染める。
ばさり
ばさり
ばさり
やがて、すべてが闇に沈めば───……]
[研究所を出てすぐ、
年端もいかない子供ばかりが集められた訓練所へ行かされた。
聞けば、殆どが身寄りを無くした孤児だという。
そして碌な訓練も受けぬまま、戦地へ。
自分たちの役目は理解していた。
前線で少しでも敵の動きを食い止めること。
分かり易い、"捨て駒"だった。
装備を敵に奪われてはいけないからという理由で、
大した武器すら与えてはもらえなかった。
半分が敵襲ですぐ死んだ。
残りは怪我と病苦に苦しんだ。
逃げ出して見つかり、仲間に殺された者もいた。
それは地獄というのも生温い、惨状]
(――――――…絶対に、生きて)
[…そんな、絶望の最中]
[満身創痍の少年の心を救ったのは、白い花だった。
何故か枯れずに咲き続ける白い花。
すっかり煤けてしまったが、それでも彼の宝物]
(どんな卑怯な手を、使っても良い)
[敵の大軍を前にして、
そっと息をひそめて身を隠すこともあった。
臆病者だと仲間から罵られることも多かった。それでも]
(生きて、もう一度―――――…)
[もう一度トロイに逢えたら、我儘沢山言ってやろう。
これだけ苦労したんだ。許されるはずだ、少しくらい。
まずはご馳走と温かい部屋だ。それから、ふかふかの布団。
寝転がりながら、これまでのことを話すんだ。
たくさん、たくさん…]
[戦地で一人夢想していた少年は、
鳴り響く轟音に我に返る。
敵の奇襲だった。
今自分がいる場所なら、きっと見つからない筈。
しかし、彼は気が付いてしまった。
標的となり取り残された戦友の姿。
心細く一人ぼっちにしている姿。
飛び出したところで、
犠牲者が一人から二人へ増えるだけだと分かっていたのに。
気付けば"臆病者"の少年は足を踏み出していた]
[凍えるような空気の中、澄み渡る星空が広がっている。
瀕死の少年は一人、荒れ果てた戦場に横たわる。
助けようとした友は死んだ。そして今まさに、自分も]
…かみさま。
[結局あれだけ意気込んでおいて、
自分の命を無駄にしてしまった。
何一つ、誰一つ、救うことなんて出来はしなかった]
どうか。
どうか世界から、かなしいものが、なくなりますように。
[星に祈りをかけるのだと、教えてくれたのは誰だったか。
幼子の戯言を、神が聞く訳もあるまいに]
――…嗚呼、懐かしい夢を見ていた気がする。
[壮年の男は遠い意識の中、くすくすと笑みをこぼす]
結局お願いは聞いては貰えなかったか。
いや、違うな。違う。
もう一度、彼と出会うこと。
それが何よりの"僕"の願いだったのだから。
[何処かで羽音が聞こえた気がした。
意識の隅に振る灰色の羽根は、一つ一つ赤く染まっていく。
それを何故か、美しいと思った。
村へ来てからの生を思い出す。
拾ってくれた司祭様。愛らしい子供たち。
共に生き抜いてきた村の仲間たち。
物知りな薬屋。心優しい歌姫。口は悪いが親切な隣人。
仲の良い馬と鹿。頑張り屋の道具屋。
つい世話を焼きたくなる無精者の小説家。
そして、]
聞こえるかい。
…"次"は、鮮やかに咲くと良い。
[安らかであるようにと祈りつつ、男の意識も闇に溶ける**]
[どうして、スーさんは涙を流すのでしょうか。
どうして、そんな声で懇願するのでしょうか。
わたしが笑っていないから、スーさんを不安がらせているのでしょうか。
スーさんの声が、だんだんと遠ざかっていきます。
大丈夫、と、不安そうなスーさんに告げる為に首を横に振ると、
しゃりしゃりと、首元で粉のようなものが擦れ落ちる音がしました。
大丈夫です。
わたしは、大丈夫です。
わたしはこのまま失われてしまうのでしょう。
味覚が消えた様に、今、聴覚が消えゆく様に。
だんだんと、灰と変わり、消えてゆくのでしょう。
けれど、スーさんが、スーさんの温もりが傍にあるなら。]
[羽があれば、家まですぐに飛んで帰れたかもしれない。
数時間前に「羽が欲しい」と思ったことを撤回する。]
羽がなくて、良かった。
[足の、腕の、あらゆる節々が痛む。
自分の終わりが近いことも、分かっていた。
色々ありすぎて、一日だけで疲れ切ってしまって。
破れた傘の間から、鈍い光が差し込んでくる。
灰が降りかかるのはもうこの際気にしないでおく。]
[わたしは手を伸ばします。
スーさんの身体を抱きしめます。
暖かさを感じられるうちに、めいっぱい、力を籠めて抱きしめます。
大丈夫だから。
泣かないで、笑って。
わたしのために、笑って。
わたしのお願いはそれだけです。
それだけにしては、とても酷い、我儘だとおもいます。
こんな、愚かな我儘を抱く事を、神様は許してくださいますでしょうか。]
[いっしょにいさせて。]
[最後に聞こえたのは、そんな言葉。
頷き返すことができたかどうか。
“わたし”はもう、“わたし”には感じられない。
そうして、頬笑みも、涙も、全て纏めて灰になる。
真っ白な、細かな細かな欠片になる。
灰化の進行の切欠は、支えであった神の消失か。
無にしてはあまりに重く。
有にしてはあまりに儚く。]
[――さあ、もう未練はないかい?
あたしの最後はどんな服で決めようか。
どんな言葉を口にしようか。
神様や何やらに祝福されなくても、大丈夫。
今までだってそうだったのだから。
それを最後だけ神頼みなんて、癪じゃないかい。]
ああ、他の子達は。
……どうしているんだろうね。
[生き残っているであろう数名の顔がよぎる。
どうか、後悔だけはしないように。
神を信じない女にとって、それが、精一杯の祈り。]
――ただ、幸せに思えるといいね。
あたしも負けないけど。
[ひとりごちて、笑う。
いつものからかうような笑みを。]
――あたしの見る世界は、輝いていたかな?
[光なんて随分長いこと、見ないと思っていたけど。
誰かに肯定されても、否定されたとしても。
きっとこれで良かったのだ、とだけ感じる。]
幸せ――だったかな。
─何時か何処かの蒼穹─
[既に神は疲れ果て絶望の中、諦めを選ぼうとしていた。]
(♪) (♪♪) (♪)
[神の選んだ世界。
秩序と再生のある世界。
神が苦痛と苦悩を持とうと、
星は唄い、世界を癒しに導く。]
『どうか。』
『どうか世界から、かなしいものが、なくなりますように。』
[声を聞いたのはそんな時。
殆どは'かみさま'に向けられて、
星には向けられてなど居なかったけれど。]
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