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道化師 リヴリア は 道化師 ダハール に投票した。
道化師 ダハール は お花畑の ハル に投票した。
渡り鳥 グレイヘン は 道化師 ダハール に投票した。
お花畑の ハル は 道化師 ダハール に投票した。
道化師 ダハール は村人達の手により処刑された。
次の日の朝、道化師 リヴリア が無残な姿で発見された。
闇が村を覆い、村人達は自らの過ちに気付いた。人狼達は最後の食事を済ませると、新たな犠牲者を求めて無人の村を立ち去っていった。
きらと、白く光る、世界の破片。
それは、羽の形をしていたか?
それは、花びらの形をしていたか?
ほつれる様に、世界は
領域の主がいなくなった所から消えていく。
海は砂浜を飲み込み、
山は枯れ果てて。星は降りつくす。
[桜の木にもたれて、少女は空を見上げている。
ひらひら、舞う桜の花びら。
ふわふわ、降ってくるグレイヘンの羽根。
夢のように美しい、滅び行く夢の世界]
綺麗だねえ。
[完成したばかりのたんぽぽの花冠を膝の上に置いたまま、少女は笑う]
今日は本当にいいお天気で、
風が暖かくて、
お昼寝日和、だねえ……。
[幸せそうに微笑んで、少女はお昼寝するように、瞳を閉じる――――**]
[終末のセカイの果てで私が最期に縋ったのは
救済だった──
嗚呼虫のいい話だ。大切な人の全てを奪い
永くの束縛の果て
咎も背負わず、贖罪も受けず
腐り逝く中に埋めようとした想いすら
その今際の今際に吐き出して
縋り 泣いた
生き汚くみすぼらしく
己が吐いた泥水まで啜り
生きたいと願ったのだ。私は]
[そんな醜い私を、救うと言ったのは誰か?
生きて良い世界を望むと言ったのはだれか?
見て良いと言ったのは誰か?
生まれ変われと言ったのは誰か?
── それは]
─ 少女の現実 ─
[そこにはただ闇があった。
眠りから覚醒し、見上げる天井などなく
ただただ闇がそこに横たわっていた。
ここはどこだろう? 誰かいるのだろうか?
わからに。何もわからない。
鼓膜に届くのは無機質な機械音
滴る点滴の雫
静寂のノイズを奏でる空調の音色
身を起こそうとする。
──動かない]
[身体の至る所を侵す生命維持装置という名の鎖がそうするのではない。
身体の全てが言うことをきいてくれない。
まるで鉛の身体。人形の身体。
意志だけが四感を駆けめぐる
耳は聞こえる。鼻腔を擽るのは独特の薬品臭か?
けれど、身体は動かない。目も見えない。
動かそうともがけば、爛れただそこに張り付くだけの
紛い物の皮膚が軋みをあげる。
声を上げようとすれば、
管に残る唾液の味とひゅうひゅうと喉を伝う薬の吐息。
これが現実
四年もの間疎かにしていた身体は既に私の意識を外れ
ただの偶像に成り下がっていた]
[── それがどうした。
私の心はその殻を破ろうと…もがく
指でシーツをまさぐり、渾身の力で身体を傾ける]
ぅぉ……け
ぅ……けぇ
[垂れ流すような言葉にならない声が、ただ息をするだけに用いていた喉を痛めつける。
痛い……灼けるように痛い
── だがそれがどうした?]
[刺さっていた針を、計器という計器を引きちぎるかのように身体を転がした。
転落防止用の衝立もあるだろう。構いやしない。
私は蛇だ。隙間を見つければそこに潜り込むまでだ。
よじらせくねらせもがきながら、私の目覚めた…今まで私を支えてくれていた無機質な籠から抜け落ちる。
ドスン──
衝撃と共に、激痛が体中を駆けめぐる。
まるで安っぽい瀬戸物のように骨が砕ける。
衝撃で息が詰まり目の前が真っ白になる。
── それがなんだというのだ?]
ぅえい…えん
[冷たい床を這いながら、身体を前に進めようとする。
立っては歩けない。それどころか腕だって満足に仕えやしない。
どこへ向かうのかもわからない。
それでも私は……ひたすらに前へと這っていく
会いに行くんだ
そう約束したのだから。
彼女は生まれ変われと私に告げ
私は私を殺して飛んだ。
あのセカイから逃れて飛んだ。
リヴリア・ブロアは腐り堕ち
ただ女が残った。名もなき女が。
その女を彼女は包む
生誕の祝福を私に届ける。
おめでとう<<はっぴー、ばーすでー>>と]
[ああ、覚えている。忘れていない。
忘れるもんか
この魂魄百の輪廻を巡ろうとも
忘れてなんかやるものか!
私の巡ったセカイの旅は
ただ、結論を先伸ばすだけの逃避のセカイだった。
己の欲望に忠実に、歪んだ憎悪を歪んだ愛情をまき散らし
現実を背負い立つ弟を供物に捧げ
ただただ無為に巡らせたそんなセカイだった。
覚えている。全ては私の咎 私の罪。
忘れて自由にと謳ったって忘れられるわけがない。
生まれ変わったって生きたくても
生まれ変われる世界じゃない。
だってあのセカイの中で私が一番大事にしたことは。
独り占めにして譲りたくなかったことは
“忘れない”ということだったのだから]
[夢を語る友がいた
星を奏でる友がいた
太陽を駆ける友がいた
波に揺れる友がいた
花に笑う友がいた
全てを包んで共に最期を紡ごうとした家族がいた
甘きに出会い友にしたかった者が居た
そして……
何も与えず何も成さぬこんな私を
救おうとしてくれた人がいた。
ボロボロになりながら、小さな身体で
勇気の翼を以て
渡らせてくれたヒトがいた
何も果たせず何も返せず
安穏の死を選ぶことはできようか?
──私にはそんな術はなかった]
……れいへん
[誰もいないばしょで一人死にたいと
彼女は言った。
そんなところで死なせない。
あたたかい温もりの中で旅立たせたい。
それが、生きた現実の
私の最期…その灯火尽きる刹那の願いだった。
生まれ変わった私の最初の願いだった。
──彼女に報いたい と]
[その全てがもう終わってしまっていたとしても
僅かな吹けば飛ぶような小さな灯火が、薫りが残るならば
私はそれを包んで送りたい。
彼女が駆けた夢の階は確かにあるのだと。
セカイを包むのだと
教えてあげたい
醜悪に稚拙に愚鈍にはいずり回り
私は目指した。光の下へ──]*
甘い少女は姿を消した。
世界から弾かれ飛ばされそうになって
――羽の生えた少女が助けてくれたなんて知るよしもないのだが
現実の世界に戻ってきた。
楽しいこともつらいこともある世界に。
あの世界で過ごした時間は長くはないが短くもない。
だけどはっきり思い出せないのは目的が目的だったからだろう。
誰かを救いたかった。
自分に、誰が救えたのだろうか。
― カスミのそば ―
ねえ、カスミ。
[隣のモニタを見て、話していいものかと伺いながら]
ミズキって名前の女の子、知っている?
……その子がね、カスミのことを知っているって。
…会ってみたい?
[カスミに聞いてから、ミズキは会いたくないと言うだろうか、と、ふと考えた]
― 何処かの間 ―
[廊下を歩いていた時。
ふと、屋上へつながるドアがわずかに開いていることに気づいた。
……おかしいな、とドアを開けてみれば]
グレートヒェン!?
[そこに蹲る、白い少女。
すっかりっ冷えたその身体を、慌てて抱え込む。
細く軽い身体は女医師でも抱き上げることができた。
そのまま、彼女のベッドへと寝かせ、人工呼吸器と諸々を取り付ける。
……ほんの僅か、脈が確認できた]
ローザ?ローザ、いる?
[声を上げて、新人医師を呼ぶ]
点滴、持ってきて、グレートヒェンの!
[いつになく慌てた口調。
少女たちが目を覚ましていくのにかまけたままで、
彼女のことを気にかけていなかったことを悔やむ。
どのタイミングか、持ってこられた点滴をつけようとして――少しだけ戸惑った]
……もう、眠ってしまいたい?
――グレートヒェン。
[何度も繰り返された自殺未遂。
そのために巻いた包帯に、伸びる前に切っていた爪。
真っ白で細く、まともに睡眠をとる間もないまま、夢のなかで介入者として、何年も。
点滴を脇において、首の包帯を取る。
すこし赤くついた跡。
そっとそれを撫ぜ]
いままでありがとう。
最後――望む形では、なかったかもしれないけれど。
……お疲れ様。
ゆっくり、眠って。
…今度は、幸せに、ね。
[延命のための作業を止めたことを、ローザは咎めるだろうか。
しかし、この何年か。
片方は介入者として、片方は医者として
常に共に過ごしてきた者同士として。
……医師である以前に、グレートヒェンを知るものとして。
最期、彼女が望む結末を、ゆっくりと迎えさせたかった。
――そうして聞こえた、医師として聞き慣れてしまった機械音を
小さな女医は、一生忘れないだろう]
おやすみ、グレートヒェン。
[ぽつり、白のシーツを、濡らした――*]
― リヴリアのそば ―
[ドン…というか、トン、というか
軽いものが落ちた音。
そして少し嫌な予感。
…グレートヒェンの最期を看取って間もない頃
涙を拭いながら、音の方へと走る。
少女の部屋の扉を開け、ひとつひとつカーテンを開けていけば]
……り、リヴリ、アッ…!
[包帯を身体に纏ったままの少女が、
床を這っていた]
どうして――どうやって…?
[言いながらも、彼女を抱え込む。
寝たきりの身体の力など、恐れるに値しない。
暴れられたとて、ベッドに寝かせる]
……遅れたけれど、おはよう。
今から目の包帯を取るわね。
…少し、おとなしくしなさい?
[慣れた手つきで包帯を外す。
まだ残っている火傷の痕は、専門医に任せなければ綺麗にはならないだろう。
――望めば治療を受けさせるが、それにはまだ体力が足りないだろう]
[彼女はおとなしくなっただろうか、動きが止まっている間に衝立を立て直し、
点滴などの装置もつける。
……どこに体力が余っていたのだろうと、少しだけ感心した]
リヴリア。
ここがどこか、わかる?
[真っ白なカーテンで仕切られた、広めの空間。
そこにあるのは、機械と、点滴など、生命維持装置**]
[>>*24顔を出せば、なんともないと二人は散っていった。
あの体でも、こちらの体でも
うまく二人と関われていない気がする。
小さくため息をついて消えるグレイヘンを見送った。*]
グレイヘンの・・・?
[彼女は同じ立場といえる介入者であり
そして、要観察の患者でもあった。
棚からグレイヘンの点滴をつかみ
一式をもって声がしたほうを探す]
[担当医がすることに、・・・は逆らわない。
逆らえない。逆らう理由がない。
安らかに眠ることを選んだ先生に
やせ細ったグレイヘンを見て
瞳を閉じて黙祷をささげた*]
[不意に身体が浮いたように錯覚する。
……いや、錯覚ではない。身体に伝わる微かな体温が、今誰かが私を持ち上げて、そしてさっきまでいたベッドに戻そうとしているのだ。]
ぃや……
[抱え上げる手から逃れようと手足を動かす。
……ばたばたと。
私にとっても多大な苦労だったものが泡沫に帰す。
元より那由他が如き離れていようと行こうとした場所。
それだけ強固に渇望した想いだった。
夢のセカイの私ならば、その飛び逝く翼めがけて一億の夜をも越えていこうと。
それほどに焦がれた想いであった]
[だが……これは夢のの話ではない。
あくまで現実
幻想世界で己が欲望に浸り溺れていた代償は
現実で重く重くのしかかる。
……抗い逃れようと振り絞った力は、いとも容易く防がれる]
やらぁ…!
……ぁましないれぇ!
[抱え上げる腕をふりほどこうと、まとわりつく腕に爪を立てる。
食いちぎろうと歯を立てる。
その者は当然自身の身を案じて籠の中へ戻そうとしていたのだろう。
取り乱しさえしていなければ、きっとわかったことだ。
その者は現実を知る者なのだから。
けれど、その時の私は現実をまだ理解してはいなかった。
だから暴れた。渾身の力を振り絞って逃れようと殴りつけようとした。
自らの行動を阻害しようとする名も顔も知らぬ邪魔者へ──]
ぁして! ぇいへんのぉこいぐのぉ!
[──現実は現実だ。
息の根すら止めてやるつもりで殴った拳は、ただ弱々しく彼女の胸をぽすぽすと叩いただけ。
骨まで砕くつもりで噛みついた歯は、ただあむあむと彼女の皮膚を甘噛みしただけ。
懸命に這った足跡も距離にすればたかが知れてるだろう。
健常者ならば一歩、二歩と闊歩とすら言えぬ距離でしかなかったはずだ。
この距離を進むのにいったいどれほどの時間を費やしたことだろう。
これが現実、これが身の程]
[その、常の者からすればささやかで、けれどうざったい抵抗は
そう、腕や足を縛り付けられるか、弱り切った身体が生命の危機を察知し脳との伝達を遮断して強制的に眠りにつかせるまで続いた。
だから、目の包帯を外され>>20語りかけてくる彼女の声>>21を感知したのはあれからしばらく経った後のこと。
落ちたときの衝撃で、腕の骨と…あとは肋骨もやられたか?
全身を強烈な痛みが駆けめぐる。
病み上がりどころか病んだままの身体が、その無理な行動によってオーバーヒートする。
そんな鬱屈とした熱……熱と痛みを歯を食いしばって耐えながら……
私は“身の程”を知ったのだった。]
……あなたは だれ?
[解かれようとする包帯。その箇所は私の責であり恥部でもあった。
解かれていく感触に、羞恥と恐怖で身を強ばれば、そんなことなどお構いなしに包帯の感触は消えていった。
触れてくる外気がやけに冷たい。
解いたということは目をあけろということだろうか?
私はおそるおそる瞼をあけようとする。
──霞む白、ただ白い霧が眼前に広がっていた。
いや、右目は漆黒の中だ。そこには元からもうないものしかないのだから。
では左目は? 思い起こすのは閃光……翻る光と染め上げられる赤の世界。
けれど、今は…ただ白の世界が横たわるだけだ。
嗚呼……見えない。何も見えない。
見て良いと言ってくれたのに、皆を見てと言ってくれたのに。
その術を私は持てず……おめおめと現実に横たわる]
ぅう……
[悔しさでこみ上げてくる涙を必死に堪えながら、それでも私は声の方へ顔を向け、そんも声に向かってひとつを尋ねる]
『ぐれいへんはどこか』……と*
[幼い頃からの病院暮らし、
だれかがだれかの死を嘆く光景なんていくつも見た。
夜空のお星様になって行ったこどもは
そう珍しいものじゃない。
次は自分の番かと怯えることはあっても、
こどもたちの死を嘆き想い弔い
いちいち涙を流すことなんて、美月はしないのに]
………っ、 ひぅっ、
はぁっ、はぁ、 ふぅ……ひぅっ………
[酸素マスクが不規則な呼吸で曇る。
胸が苦しい――苦しくて、詰まりそうで、
動かない腕を動かし動かない身を捩り苦しさを堪える]
[
まっ白なつばさの天使さま
わたしのゆめの天使さま きこえますか
まただれかが死んでしまったようです
どうかどうか、その子を
つれて行ってあげてください
しあわせの空へ
お星さま「とおひさまとおつきさまの近くへ
おねがいします
みんながいる星空へ つれて行ってください ]
[握り締めた右手に左手を重ねて、
重ねた手をぎゅっと握り締める。
夢の中で「天使さま」と繋いだ手を
守るように、祈るように
美月は、ちいさくちいさく身を*丸めた*]
[いや、と小さい…いや、大声を出しているつもりなのだろう声が、胸の中でする>>27。
それを物ともせず、白いシーツへと寝かせる。
……が、それでおとなしくなるはずもなく。
ただ、叩かれる拳は白衣にわずかな皺を作るのみ。
噛まれる腕には、あとひとつ残らない。
いやだ、はなして、じゃましないで。ちくしょう。
そんなことを言いたいのだろう音が、暴れる体の奥から聞こえてくる。
鎮静剤でも持ってくればよかったか、と考えて。
結局のところ、ひとまず手を手近にあった包帯で縛る。
こういったことは好きではないが、
そうでもしないと彼女―リヴリアにとって、危険だった]
[一つ、その中で気になることがあった。
えいへん、と聞こえる発音。
グレイヘン、グレートヒェンとつなげるまで時間はかからない。
彼女もまた、夢のなかにいた一人だ、知らないはずもあるまい。
そんな話は聞いていたのだから。
……ただ、目の前の包帯だらけの少女が、ない力を振り絞ってまで自分に抵抗し、
グレイヘンの名を呼び動こうとしたのか、
…それだけが分からなかった]
[縛り付け、しばしおとなしくなってから。
ふう、と一息、ついた。
……どこにその力があったのだろう、と疑問に思いながら、とんとんと腰をたたく。
そうして外した包帯。
右目はきっと見えないだろう。
左目はまだわからない、が。
苦痛に歪ませながらも、うっすらと開く瞳を覗きこむ]
……ぐれいへんは。
[どう答えるべきか、考えあぐねていた。
死んでしまった。
そう答えるのは、簡単ではあるけれど]
ここには、いないわ。
[まだ身体はあるけれど。
そう答えるしか、なかった]
――さっき落ちた時に、どこか痛めているでしょう?
すこし、触るわね。
[話を変えるように、彼女の身体に触れる。
表情をみながら、歪むところをだいたい把握して、
一旦カルテに記入した。
……入院してるのであるから、その治療は通常に比べて楽であるけれど、
体力のなさと栄養不足が問題となるだろう。
おとなしくしなさいとばかりに、髪を手で梳いた]
ぁる…せん…せ
[息を吐き出しながら、ゆっくりゆっくりとなんとか声に応える。
ろれつが廻らぬ口では、未だ満足に言葉すら紡げない。
身体が……酷く痛い。口惜しい。
聞かれることには、頷きともなんともつかぬように微かに首を動かしたか?]
せんせ……からだぁは いいれす
が…ぁんできるから
[触られれば、その度に飛び上がらんばかりの激痛が走り、声にならない呻きがもれる。
それでも、上げそうになる悲鳴を押し殺して、たどたどしくも告げようとした。
必死に……ただ必死に]
や くそ く したん れす
ぁいにいく…て ぅれいへんと
らから……らから ぅれて て
ぉとあしくぃますか ら
[腕が自由なら彼女の手にすがりついてもいただだろう。
それは叶わなかったから、懇願する。
それしか今の自分にはできないことを知っているから]
『東洋のポップスとは珍しいですね、旦那様』
……ふふ、この歌詞、昔一度だけ見た
夢の世界に微かにていてな。
『……そう夢の話を振られて
詳細はまた秘密になさるのですか?』
……子供の夢とは
大人には秘密と相場が決まっているだろう?
[ ダハール=ブロアが空白であった
ブロア家党首の座についたのは
学校卒業後半年ほど過ぎてからだった。
一つに、左腕に麻痺が発生したこと。
もう一つに……]
リヴリア=ブロア?
父方の祖母がどうした?
[…………実姉、リヴリア=ブロアの存在だけが
彼の記憶からすっぽりと抜け落ちており、
他に何か障害がないか、
綿密な検査を重ねていた為であった。]
[後見人となった、叔父からすれば
あの事件の引き金であり、
ダハール=ブロアが当主になるにあたり
懸念事項も多く含まれる彼女を
彼が忘れており、唯の快活なブロアであるのは
喜ばしいことである。
そのため、他の障害の有無の確認に留まり
知識として伝えはすれど
記憶自体の復旧は勧めることはなく
本人もまたそれを希望しなかった。]
[それでも、姉 リヴリア=ブロアは
名実上はブロア性を持つものだったため
一般的にはブロア家の遠い親戚として
医療費の支給と日常生活可能範囲のリハビリ手配と
庶民の範囲での生活資金は手配されていたが。]
[ダハール=ブロアは当主の座につき、
ブロア家の別荘の一つを邸宅として住まうことになる。
昔よりも狭いそこに、前屋敷の使用人を
すべて呼ぶことは叶わなかった。
が、出来得る限り、望むものに声をかけ。]
……ん、庭はワットに任せ……
あー……いや、その、なんだ。
小さくてもかまわない、
庭の一角に桜を植え、
常春の空間を作れるか?
あと、なんと言ったか……ムラサキ、ツユ、くさ?
は、この庭に育つか……?
[庭師ワットは以前は花の名前も怪しい
少年だったダハールが
具体的な希望を口にしたうえに
花の名前まで口にしたことに目を瞬かせる。]
……いつだったか、夢に見たんだ。
それだけだ、深く気にするなっ
[普段はブロア然とした当主が、
しつこい追求に根負けし
まだ、20前らしく、ふて腐れながら
そうとだけ、零す。
……ワットはダハールが少年時代
自身は夢を見ないことを
聞いたことがあるだけに、その返答も
やはり、目を丸くするが、
それ以上は、彼は何も口にしなかった。]
身体はいい、なんていうんじゃありません。
[たしなめるような口ぶり。
まだ混乱しているのか、頷いているのか、首を降っているのか、動作が混乱している。
…ただ、ひどく変な方を向いているわけではないので、
明るい、暗いの区別くらいは付いているのだろうと判断した]
約束したの?
グレートヒェンと。会うって?
[ううん、と悩む。
その必死な様子に。]
[おとなしくするから、連れて行って。
とぎれとぎれのその言葉を解釈して、真っ白な天井を見上げた。
まだ亡骸はそのままのはずだ。
――ローザには何も言わずに出てきてしまったから。
帰ってこないのか。
その問に、静かに首を縦に振ったのみで。
……しばらくの沈黙の、のち]
本当に、おとなしくしている?
このあと、きちんと治療を受ける?
もう脱走しないで、私のいうことをきいて
ちゃんと療養するというのなら、連れて行ってあげるわ。
……グレートヒェンが、どんな姿であっても、暴れないのなら、ね。
[移動手段は、自分が抱きかかえていくくらいしかない。
そのためには、暴れないということが第一条件だった。
……ついでとばかりに付け加えたこともあるけれど]
[ ――ねえ、きいてる? きこえてる?
わかってる、ちゃあんとわかってるよ。
例えばあなたが、
遠くの空で星になって輝いてるなんて奇跡は、
誰かが信じなければ成り立たない。
私の他に誰が、それを、信じられる? ]
[悩むような長い長い沈黙のあと、ようやく紡がれる言葉に、私はこくりこくりと頷いた。
グレートヒェン……ああだからグレイヘンだったのかとあの舌っ足らずな声を思い出せば、嬉しくて頬が綻びそうになる……
けれど]
……ぁい
[『どんな姿であっても』その言葉に綻びかけた頬が強ばる。
私を連れて最期に飛んでくれた彼女の翼は、痛々しいまでにボロボロで、それが現実世界とリンクしていることを思えば、良くない予感はいくらでも思い浮かんだ。
最悪の場合……それすらも脳裏をよぎるのは、彼女の傍に常に『死』という影がちらついて見えていたから。
半ば死を受け入れ、それを望んでもいたあの時の自身が微かに被る]
ゃくそくします。
[一度頷いてから少しだけ長く思いにふけり、それから唇を噛みしめるようにして、もう一度呟いてみせた。
どんな再会になろうとも会いに行く。
それが私の告げた約束だったから]
― カスミのそば ―
[ あ と微かに聞こえた音。
その表情は、呆然としているような、放心しているような。
それ以上、喜怒哀楽は読み取れなかった。
何を内心思っているかも分からぬまま、
一文字に結ばれた唇を見て]
…すぐにはわからないわよね。
ごめんね。
もし会いたくなったら、いつでも言って。
私を呼びたくなったら、手元のボタン、押してちょうだい。
― リヴリアのそば ―
約束するのね。
[じ、とその瞳を見つめる。
こくりと頷かれたあと、しばらくの沈黙の後につぶやかれたその言葉を復唱すると
彼女をつないでいた器具を外し出す。
最後に、結ばれた包帯をほどいて
ゆっくりと抱き上げた。
本来ならば、絶対安静。
骨折の様子もまだ完全に分かっているわけではない。
――それでも、少しでも負担がないような体制を取らせる]
― グレートヒェンのそば ―
[そうっと腕で抱きかかえ、静かに移動する。
……たどり着いたその先、グレートヒェンは、
安らかに眠るような表情をしていた。
――わずか、微笑んでいるようにみえるのは、気のせいだろうか。
もう体温もほとんど残ってはいないだろう。
そんな判断をしながら、ベッドへと近づく]
――少しだけよ。
あんまり長い時間、ここにはいさせてはあげられない。
[そう言って、近くの椅子に腰掛け、
少女たちの顔を近づけるようにした]
[所詮自分が傷つきたくない一心で、相手の言い分に乗っただけだと思われても知ったことか。
強い思いを胸に、手を離して身体の力を抜いた。
ふわり、ふわり。意識が浮き沈みする。
時間の流れも分からない空間、まるで夢の続きのような。
だから、すぐには気付かなかった。
どこかのベッドで少女の命の灯が消えてしまったことにも、
消えてしまった少女に会いに、どこかのベッドから飛び出した少女がいることにも、
すぐ隣のベッドから、泣いているような声が聞こえてくることにも]
[繋がれていた器具が外れ、包帯が解かれる。
最後にふわりとした浮遊感。
彼女によって抱き上げられるのは二度目……けれど今度はもう暴れたりしない。
抱かれた胸は暖かくて…つい思い出す。
私を最期に抱いてくれた今から会いに行く彼女のことを。
苦しみと虚栄の北風、私が呼んだ北風なのにそれからも私を護るように包み込んでくれた小さな身体に大きな温もり。
この人とは身体も違うけれど、運んでくれる心地よさに目を細める]
ぁりあとぅ……
[服の胸元を握りしめて、小さな声で呟く]
[『少しだけ』と告げて腰掛ける微かな振動が私の身体にも伝わってくる。
ここにグレイヘンがいる。こみ上げる喜びはまるで買って貰ったばかりのおもちゃに手を伸ばす子どものように。どこかで感覚を狂わせていて、あの時のシャルロッテの言葉もどこかに吹っ飛んでいってしまっていた。
『どんな姿であっても』という言葉すらも。
だから、今か今かと待ちわびて一生懸命身を乗り出した。]
ぅれいへん……
[眠っているのだろうか? 返事はない。
私は呼びかけて手を伸ばす。
顔に近づけてくれたのだろう。最初に胸元だろうか? 衣服に手が当たる。
気付けば良かった。微かな寝息すらなかったことに。
気付けば良かったんだ。
そこに人の気配がなかったことに]
……… だい、…じょうぶ?
[心配する言葉とは裏腹に表情は薄い。
ある程度は動くようになった右腕を床へと伸ばし、
腕の力だけで身体を床へとひきつけようとして、]
―――っあ! ………ぅ、
[途端にバランスを崩し、肩からべしゃり、と投げ出されるように着地。
ゆっくり起き上がると四つんばいの姿勢でまずは足りないもの――眼鏡を探す。
どうにかベッドサイドテーブルから見つけ出したそれをかけるとカーテンへと近付き、
向こう側をのぞきこんだ]
ぐ…れいへん?
[まさぐるように辿々しく這った指先が頬に触れた。
私の手が止まる。
── 冷たかった。
ただただ冷たかった。まるで夢のセカイの北風のように
寒風に晒された人形のように]
ぁあ……ぐれいへん
ぐれいへん ぐれいへん
[ゆっくりと名前を呼んだ。噛まないように、回らないように一字一句を噛みしめるように彼女の名前を呟いた。
…返事があるはずがない。彼女の温もりはもう殆ど費えてしまっていたのだから。
それでも私は何度も呼び続けた。
あの時私を包んでくれた温もりをたぐり寄せようと。
けれど、けれど──]
……
[『ひどいよ』喉元にでかかった言葉を飲み込む。
真白な世界だった目の前が真っ黒に染まっていく。
生まれ変われと、許す世界があるのだとそう言ってくれた彼女
自分を見ろと 拒まぬと言ってくれた彼女
私に生きる光を見せてくれた彼女は
もう飛び立って行ったのだろうか? 彼女の空へ
微かな残り火だけを残して
これが現実か? これが今際の私を寸での所で留まらせ
現実の世界に導いた彼女が見せたかった現実なのか?
への字に曲がる口をぐっと堪える。
泣き出しそうになるのを必死に耐える]
グレイヘン……ただいま。
わたし かえってきたよ
[絶望と悲しみの言の葉のかわりに私は微笑んだ。
絶望? そうじゃない。だって彼女は言ったのだ。
安らかに生きて死ねる場所はあると。
その全てを投げ打って、私を運んで
そして……飛んで]
ぐれいへんに あいにきたんだよ
やくそくだったもの
おぼえているもの
わすれないから……ぜったい
[見えぬ目のかわりに、手を使って彼女を見ようとする。
頬を撫で、唇に触れる。遠慮がちに彼女を見ていこうとする。
少し…大人びて見えただろうか
痩けた頬だとわかるだろうか?
彼女が彼女自身を消そうとした痕はわかるだろうか?
ただ目で見ていたら痛々しい姿だったのだろうか?
私の手は、それを否定する。
それは彼女の生きた証。苦しみもがきそれでも飛ぼうとした彼女の生き様
それはとてもとても目映くて暖かかった]
ありがとうね ぐれいへん
わたしをつれてきてくれて
ありがとう
わたし さがすから
ちゃんとさがすから
あなたを
あなたがみせようとした せかいを
ごめんね
またせてごめんね
[物見えぬ瞳からぽろりぽろりと雫が流れ
頬を伝い流れた雫は、彼女の頬を穢してしまうだろう。
嗚呼なんでだろう。
彼女はこんなにも輝いて羽ばたいていこうというのに
なんで私の目はその晴れ姿を映してくれないんだろう]
ぁあ ぅうう
[触れて見ることはできても
見つめて見送ってあげることができない。
それがこんなにもこんなにも悔しくて
申し訳なくて悲しいなんて]
[少女だ。
自分より歳下に見える少女が、幸せな眠り、
とは程遠い表情を浮かべている。
泣いたから苦しいのか、苦しいから泣いてるのか]
…… …だめ、 ……しんじゃ、
[青ざめた唇が言葉を紡ぐ]
しなない、で。
[――それからどんな火事場の馬鹿力を出したのか。
気がつけば自分のベッドまで素早く戻って、ナースコールに飛びついてボタンを押していた**]
[身を乗り出しすぎて、落ちてしまわないように。
抱えている彼女の動きに合わせて、自分もすこしずつ動いていく。
ぐれいへんと呼びかける声。
その返事は当然のようにない。
腕の中の表情が変わるのを見る。
――しかし、これが現実。
いつかは受け入れないといけないもの。
夢の世界が歪んだのであれば、もう夢に逃げることもできない。
認めなければならない、事実]
[グレートヒェンに触れる手を、止めたりはしない。
そうして事実を飲み込む事で、前に進めるのなら。
ただ、痛むであろう彼女の身体をなるべく痛くならないようにと、体勢を変えるのみ]
……リヴリア。
[そんなに泣いたら体力が持たないよ、と。
……いおうとした、その時。]
……、何事、
[ポケットの中で鳴り響くナースコール。
常に持ち歩いているそれから、ランプが光る名前を読み取って]
カスミ…?
な、なに、がっ…?
[押せる力があるのかすら、疑問だったのだ。
それなのに、なにが、]
リヴリア。
……ごめんね、すこし、離れるわ。
お願いだから、ベッドからおちたりは、しないで。
ひどく動いたら、だめよ。
[本当は離れたくはない。
離れてはいけないのだろうけれど。
グレートヒェンの亡骸のそばに、リヴリアをそうっと下ろす。
一般のベッドよりもそもそも広めなベッド、しかも細い少女二人。
――大丈夫だと、思いたかった]
[離れたいと思ったのはもうひとつ。
ありがとう
ごめんね
プライドが高いという彼女が。
その言葉を告げるなんて。
……最後に何か、二人だけで言いたいことが、未だあるのだろうか、
すこしだけでも、自分がいない時間があったほうがいいのか、
ほんの少し、考えたから。
それでも部屋を出る寸前まで振り返りながら、少女たちへの部屋へと走る]
― カスミ・ミズキのそば ―
カスミ?
どうした、の、?
[息を切らして、カスミのベッドのカーテンを開ける。
床に崩れて、ぎりぎりナースコールを押したらしいカスミ、そして開いているカーテン]
…そこ、は。
[ミズキのベッド。
そう言う前に、カスミを抱きかかえて、ベッドへと戻す
リヴリアのように骨折まではしていなさそうだ、と軽く触って思う]
で、えっと、どうしたのかしら。
……おとなりの子が、気になったの?
[そうカスミに問いかけながらも、美月の顔を覗く。
頬を流れる涙に気づけば、それを拭い]
大丈夫?
つらい?
[ほとんど動かせるはずもない身体、どちらに頷くのだろうと、注意深く観察した.
そして、少し。
この騒ぎの中、未だ目を覚まさない少女―遥―の方を見た]
………手を、とって、あげて。
[隣の少女にかかりきりになる医者の彼女の背に、ぽつりと声をかける。
こんな時になぜか夢の終わりの光景を思い出していた。
震えを、とめてくれた、ふたつの手。
本当は少女自身が手を取ってあげたいけれど、
情けないくらいに震えているから。
震えを、伝えてしまう気しか、しなかった]
[どれくらい泣きはらしていただろう。
今までまともに使っていなかった喉はとっくに枯れ果て、ただぜぇぜぇとかすれると息づかいと、しゃくり上げるように漏れる嗚咽が零れていた。
気がつけば、いつの間にかグレイヘンのベッドにぽつんと座っていた。
支えてくれていた腕の感触はなく、辺りからは自らの呼吸と遠い空調音だけが聞こえていた。
しゅるという名だったか? 私をここまで連れてきてくれた者の気配も消えてていた。
遠巻きに私たちを眺めている者はいたのかもしれないが、それに気付く術はない。
長く座ることすらままならない。
見えない目で彼女を覗き込もうとしても、四肢を持ってすらこのやつれた身体を支えることはできなかった。
結局、彼女の横で寝そべる形で横たわることとなっただろう]
ぐれいへん あのね
[冷たい身体に腕を伸ばして精一杯抱きしめる。
あたたかくなれば、目を覚ましてあの微睡みのような緩やかな声で『おはよう』と言ってくれるかも知れない。
そんな淡い期待もあったのかもしれない。
彼女が私にそうしてくれたように、その細い身体を、私のやはり細い身体で包み込むように抱いて、そっと髪を撫で続けた。
── 暖かい場所で眠って貰えるように…と]
[涙の流し過ぎで体温が下がる。寒い。
かたかたと肩を震わせながら、
白いカーテンを濡れる円い瞳見開いて見つめた。
不意に開かれる白い扉]
…………!
[視界で揺れる、金の髪。
眼鏡の縁のした、その目と目が合った。気がした。]
……あ、ぁ…… ふぁ、……
[ きみはいったい、だれ? ]
[言葉にならない細い息は、酸素マスクを白く曇らせる。]
[視界は曖昧で、こんなに近くても表情なんてわからない。
少女だとは分かったぐらいだ。
けれど顔を出した少女の眼差しは美月と同じ高さにあって、
いま、美月をたしかに見つめているのだと思った。]
[彼女の唇が開かれるのに気づき、
美月は目を見詰めていた視線を動かし
その口元に意識を集中させる]
[ きみはだれ ]
[ だれなの? ]
………、ぁ、ぅ、
[―――『逃げたい』。
分からないままにそんな気持ちでいっぱいになって、
丸めた身を捩らせようとした。
けれど既に相当の無茶をした身にそんな力は残ってなくて、
びくりびくりと身体を震わせるに終わる。
視線が踊る。瞼が拒絶されるように伏せられる。
けれどそのひとの姿が気になって、薄目を開く。
そんなことを繰り返す]
[時間にしてどれくらいだったか?
とても永い間、彼女を抱きしめていたようにも思える。
勿論体温は暖かくなることもなかったし、夢で聞いた彼女の声が私の耳に届くこともなかった。
現実なのだから、それはきっと分かっていたことなのだ。
もう…飛び立ってしまったのだと。]
ぐれいへん こっちでね
あなたにあったら ききたいとおもってたの
おねがいしようと おもってたの。
わたしにも あなたのような
つばさが もてないかって
[囁き微笑んで、頬に触れる]
そこに ゆめはあるの
ゆめはだいじ まもってくれるから
くるしいこと なにもないから
でもね
そこには みらいは ないんだよね
ぐれいへんがおしえてくれたんだよ
ひととしていきて ひととしてしぬ
だいせつさ
[未来を捨てたはずの自身に 示してくれた未来の光
それに困惑し不安に駆られながらも手を伸ばしたとき
私にできることを 考えた
満足に動かせない身体 いつ果てるかもしれぬ命
償いたくとも償いきれぬ程に重ねられた多くの咎
ならば私の生きる意味はなんだ?
そう自問したとき、私の中に舞い落ちたのは
未来を紡ぐ 天使の羽根だった]**
[――けれど。]
[ある時、何か思いつめたようにぱちりと強く目を開く。
見上げれば「おいしゃさん」の姿の向こう、
ぼんやりと見えていた筈の
「しらないだれか」の姿は消えていて]
……ぁ、
[びくり、と右手が痙攣するように跳ねた。
云うことを聞かず跳ねる右手。
握りこみすぎたせいで冷えきったその手を、
そろりそろりと、ベッドの上沿わせて伸ばしていった。]
………ぁ、ああ、
うあ、!! ああぁ!!!
[動物のものに似た唸り声が病室に響く]
[ とどいて ]
[ おねがい、とどいて、]
[ ――――とどけ!!]
[その右手にはもう太陽は輝かない。
ここにいるのはちっぽけな美月だけど、
手を伸ばす。必死に、何かを求めるように――――**]
死にそう?
……ミズキが?
[言われて、ミズキのベッドサイドのモニタを見る。
すこしだけ脈が早くなっていたけれど、それは少し泣いているせいだろう。
見上げる瞳は、何かに恐れているような。
強い否定に眉をひそめて、すこしゆっくりと、マッサージするように身体をさすり]
……カスミ。
すこしだけこのこのこと、お願いできるかな。
大丈夫よ、今すぐに、死んでしまうことはないわ。
私、別の子を見に行かないといけないの。
だから、貴女が手をつないであげて。
[ミズキ、と名を告げることはしなかった。
ただ、ベッドをすこし動かして、自由な手を一つ作り
軽く手を伸ばせばふれあえる距離まで近づけた]
― リヴリアの元へ戻る前・ハルのそば ―
[部屋から出る前、一つのベッドの前で足を止める。
ハル。遥。
心拍数も、呼吸も。
ゆるやかに、少なくなっていた。
きっと、止められない。
出来る限りの延命措置はしてある、けれども。
おはなばたけのなか。
そう、聞いた。
ずっと季節は春なのだと。
夏にはならず、ずっと、ずっと]
あなたも、かえりたく、ない?
[グレートヒェンが眠ってしまったように。
彼女もまた、眠ってしまいたいのだろう。
目覚めたとて、絶望しか待っていないかもしれない。
両親も弟も無くして、
夏を終えることなく、夢の中へと入っていった少女]
ハル。
[自分の行為は、見捨てると同義だろう。
まだ手を尽くせることはある、はずなのだけれども]
[まだ夢にいたいと願った少女は。
このまま寝かせてあげるのが、幸せなのかもしれない。
感覚が麻痺しているのだろうか、ぼんやりと思ったけれども]
……おやすみ。
[夢のなかでは、幸せだった?
こんどは、生きて、幸せになってね。
ありきたりの、祈りを捧げて、彼女のそばを後にした*]
― リヴリアのそば ―
……リヴリア。
おまたせ。
[といって、彼女が待っていたかどうか、わからないけれど]
そろそろ、いいかな。
あなたの身体が、限界に近いと思うの。
[す、と目を伏せる。
冷たい身体は、どれだけ温めても温まることはない。
それは、彼女も理解しているはずだけれども]
いくよ。
[リヴリアが満足した頃―、声をかけて、彼女を抱き上げる。
冷えた身体。
代謝もままならない身体にはきつい場所であろう。
静かに廊下を歩いて、ベッドへとまた寝かせる。
折れた腕には添えものをして、
点滴を繋ぎ直し、酸素マスクを取り付ける]
しばらく、あなたはそのままになるわ。
ベッドから動くのも禁止よ。
……落ちたってダメだからね。
[ないと思うけど、というように付け加え]
もうすこし元気になったら。
お花でも、お供えに行きましょう。
それには、すこしは動けるようになることが必要だけれどもね。
いい子にしてるのよ。
[ゆっくりと頭をなぜて。
ベッドサイドモニタを確認すると、少女たちの部屋を後にした]
[それは、諦観にも近い思いだった。
自分にできることは何もないからと、どうにかしたい、という気持ちを封じ込めて眠る。
隣の少女が、全身で苦しみを表しているように見えたのも相まって。>>92
――逆効果、だったのだろうか。『しなないで』と言ったのは。
苦しいならいっそ死んで楽に。分からなくはない。
恋に破れた後、そんなことを考えなかったといったら嘘になる。
振り向いた医者の彼女の顔をぼんやりと見返していると、唐突に響く、声。>>97
ことばを持たないそれに、少女はひどく揺れた。揺らされた]
わたし、が……?
[小さく、首が動く。まるでいやいやをするように]
― 少し先の話・グレートヒェンとハル ―
[墓石が建てられ、最初に花を供えたのは、
あの日からしばらく経ってからの事だった。
ベリーと、花かんむりと。
少女たちから聞き出したものを、すこしだけ。
Ifの話が頭をよぎる。
もし、グレートヒェンが屋上へのとを開ける前に気づけば。
誰よりも早く、遥を夢から覚ましたら。
耳に残る機械音。
ずきりと痛む良心]
……良かったのよね。
[よく晴れた日だった。
2つ並んだ墓石の前に、しゃがみ込む。
この二人は。
また別の夢を見ているのだろうか。
それとも、もう夢はみていないのだろうか。
もし、叶うならば]
[別れの時は訪れた。
どれほど留まろうとも、きっと満足するなんてことはなかったのだけど、促す先生が私の身を案じていたのは理解できたので、拒むような真似はしなかった。
最初に盛大に暴れた後ろめたさもあったのは確かだ]
またね…ぐれいへん
こんどは あなたを……
[それでも名残惜しくて、身体が離れることに抵抗を見せる。
理性をフル動員させて、離れたがらない指を一本一本離して…最後に中指が彼女の身体からはがれたとき、小さく呟のだった。
さよならは言わない
彼女が残してくれた心の温もりは、私の中にしっかりと根付いていたのだから。
それに……また逢えると確信していたから。
この世での生を全うすれば。きっと]
[小さく頭を振る。
さらりとした茶髪が、揺れる]
ちゃんと食べなさいよ。
ベリーだけじゃなくてね。
[ふ、と笑うと、裏の墓地を後にした。
夢から現実へと目を覚ました少女たちが
起き始める時間――*]
ん?どうしたの?
[せんせ、と呼ばれたことに、目をぱちくりとさせる。
そうして紡がれる言葉に、さらに目を見開いて]
……ええっとね。
まずは、骨折を治すことがさきね。
肋骨が治らないと、まず。
いつから…かしらねえ。
[カルテをめくりながら、うーんと顎に指を当てて]
体力がそこそこ戻ってから、ね。
4年間寝たきりだったのだから、相当落ちているわ。
[折れていない方の腕を撫でる。
それこそ、注意していないと折ってしまいそうなほど、細い腕]
しばらくは点滴だけれども、もうすこししたら重湯からはじめて。
ごはんを食べられるようになってから、リヴリアの身体との相談ね。
もちろん、早く歩けるように、すこしずつマッサージはしていくわ。
それも大事なリハビリ、だからね?
[焦らず進めていこうね、と含めるように]
[けれど。
内側からひっきりなしに誰かが熱を送ってくるのだ。
ちっぽけな手が何かを掴もうと一生懸命伸ばされているのに、
何をひとりでうずくまってるの? ――と]
――わか、りました。
わたし、が。……そばに、います。
[そして今度は、ふたりきり]
……。
[ゆっくりと起き上がり、ベッドに腰掛けた体勢になる。
軽く伸ばした手が、隣の少女――花飾りの少女の指先に触れる]
……っ。
[離れようとためらいを見せたのは一瞬。
指先を手のひらで包み込むようにする]
…………、ごめん。
[その手に星を抱かないただのカスミは、
さんざん考えた末に、ちっぽけな謝罪の言葉を口にした]
……はい。
[諭されるように優しく釘を刺されれば、しゅんと項垂れる。
実際動かしてみても痛感する。
あまりの自分の思惑とかけ離れた脆弱さに
動かそうとしても動かず、軽い衝撃でも簡単に壊れてしまう身体。
これが今の私の全てだ]
[この目がまともならば、書物を漁ることもできるだろう。
けれど、今もこの瞳は何も映してくれない。
映ることがあるのかもわからない。
こうしえちる間にも、私の身体は回復と同時に崩壊を進めてもいるかもしれないのに……
何も出来ない……嗚呼、口惜しい。
悔しさから、泣きたくなるのを堪え、歯を食いしばりながら、今自分が出来ることを探していく]
[しゅんとたれた項。
だけれど、これが現実。
歩きたくとも、走りたくとも
自力では起き上がることもままならないのが、実情]
できること…?覚えられること?
[彼女の意図が分からずに、首を傾げる。
リハビリを始める前に。
彼女は、何がしたいのは。
動いて、したいことの、その先は?]
今、私の顔……見えている?
[先程はある程度は見えている気がした。
しかし、さっきの手探りは。
もしかしたら、今は暗闇なのだろうか、と。
帰ってきたのは肯定の言葉か。動作か。
ぱちり、と瞬きをする]
多分、今見えないのは一時的なショックだと思うの。
すこし検査をしてみるけれどね。
それから……そうね。
お話、しましょう。
今、他の子よりも喋れているから、大丈夫なはず。
それでも、無理をしたらダメよ。
喉は大事だからね。
[ゆっくりと喋りながら、彼女の目的を探る]
あとは……
何が、したい?何をしてみたい?
[そのはずだが、
”と、ある夢”を研究する病院で
見た夢の話をした時、
それは夢だが、事実でもある。
……少なくても、そこにいた少女は
(姿かたちは違えど)実在した、と。
話を伺った。]
[では、夢の中の少女は、今どこに?
そう尋ねれば、
同じ病院に入院している少女だと。
同じ病院に入院して……いた、少女だと。
話した外見容姿、名前から
案内されたのは墓石の前だった。]
― 何処か ―
ふぁぁ、えぅ……。
[赤子の声が、聞こえる。
生まれて間もない雪のような嬰児。
差し出された母親の指を握る小さな紅葉の手。
蒲公英の綿毛が飛ぶうららかな春の日差し]
『本当に真珠みたいな子ね』
『いや、天使かもしれないよ』
『女の子だからってあなた、喜び過ぎよ』
[子煩悩な両親の会話は幸せ一色で。
お包みの中の娘はその日、真珠と天使の名前をもらった]
『ちっちゃなグレートヒェン、おいで、こっちだよ』
ぁう、ぱーぱ――。
[掴まり立ちをしながら手を伸ばす娘の声に父親が破顔する。
それを見て娘もまた嬉しそうに笑顔を咲かせた]
『聞いたか、グレートヒェンがパパって言ったぞ!』
『まあ、あなたが先なんてずるい』
『グレートヒェン、ママも呼んでごらん、ほら“ママ”』
うー……ぱーぱ、まー……まーま!
『良い子ね!』
[そして、彼女はやがて自分の事をこう呼ぶようになる。
“ぐれいへん”と――]
― 偽りの常春 ―
[だから、もし、
もう一度夢を見ることができても
それは、本当に唯の夢なのだ。
いくら、桜の木を墓石の替わりにしても。
そうとわかっていても、極わずか、
執務のない時間に、
珍しく休日の夜に
桜の木にもたれ目を閉じる。
いつか、また、夢を見るために*]
[それは何処かのマルガレーテという名の少女の話。
かつて眠り病だった母親が、施設にいた頃の夢]
『ママがいた病院にはね、天使様がいたの』
[かつて人魚だったというその母親は、
懐かしそうに古き友人の名を語る。
そして決まって空を見上げるのだ]
ママ、どうしたの?
『ううん、何でもないわ。
こんな天気の良い日は、天使様が飛んできそうな気がして』
天使様、グレイヘンの夢にも来てくれる?
[そう問うと、母親は寂しげに首を振るのだ]
『天使様は、死んでしまったの。
今度、お墓に連れていってあげるわね』
[『見えているか』という問いには悔しそうに首を振る。
右は…そもそもないのだから当然として、左はどうなのだろうか?
全く見えないわけではない。けれど、白く覆い被さった霞は、彼女の言うように一過性のものなのか? 焦燥感だけが募る]
したい……
したいのは ぐれいへんみたいに
なりたいな って
だからせんせ…おしえてほしいの
ぐれいへんがしてきたこと
意志 つぎたいから
[辿々しく紡ぐのは、翼を継いで生きること。
私に羽はないけれど……飛ぶ術
そのためには理を知らねばならない。
この世界の 夢を架ける生き方を]
[呻き声を上げて伸ばした手は、
されど誰にも取られることは無かった。
いまの美月は手を伸ばして、呻くことに必死で、
求める先の少女の心の機微等読み取れない。
やがて、力尽きるようにふっと動きを止める。
白くて細すぎる手からくてりと力が抜けた]
焦るのは、良くないわ。
[表情から焦燥感を読み取ったかのように、頭を撫でる。
目が見えないこと、手も満足に動かせないこと。
すべてがもどかしいのだろう]
グレートヒェンみたいに、なりたいの?
[リヴリアとグレートヒェンの間に何があったのか
女医師は知ることができない。
ただ、なにかが
聞かされていない間に何かが、あったのだろうと推測出来るだけ]
……わかったわ。
すこしずつ、ね。
[教えて欲しいの、その言葉には頷いた。
拒否をすることなど、ない]
いっぺんには、もちろん無理よ。
けれども、グレートヒェンのことは、教えるわ。
彼女がどんな少女だったか、ね。
[安心なさい、と笑う]
[ほんの触れた程度の力。
弱々しいと呼ぶのも生ぬるいような力が、
繋がれたその手をきゅうぅと握り返した]
ふぁあ………。
[口元から小さく息が漏れる。
声にならない小さな声――一度では、通じないだろう。
耳を寄せられたなら、やはりごく小さな声だけれども
ゆっくりゆっくりそっと耳打ちをした。]
― 『いつか』の物語 ―
変わった人もいるんだって、思った
『変わった人……か?』
うん。すごく、変わってた
『というと、どう変わってたんだ?』
お父さん、いまのテレビ観てなかったんだ?
……ばか。
『でも君こそ、お父さんの話よりテレビが大事だったんだろ?』
うっ……。
『それじゃあおあいこだな。
それで? どう変わっていたんだ?』
あ、あのな、 星を探してた!
『星? ああ、そういえば天文台の特集だったか』
『ふむ……美月は、星が好きだったのか』
ちっ……違う! 違うってば!
っていうかばかみたいじゃないかっ、おじいちゃんじゃあるまいし、
あんなに一生懸命星探して空見るなんて
『君はその変わった人を随分好きになったみたいだね』
ばかだって言ってるんだ!
そんなこと、あるわけ―――。
『君の「ばか」はつまり、「好き」だからなぁ』
!?
そんなことない!
ばかばか!お父さんのばーかばーかばーか!
ほんとのほんとにばかだぁぁっ!
『はいはい、分かった分かったから! 落ち着いて』
ぜぇ、はぁ…… あ、あれ、く、苦しい……
『ほら、言わんこっちゃない!
看護婦さん、ちょっとごめんなさい。看護婦さぁん!』
あのね、お月さま。
さっきの話だけど。
すきじゃないけど。
ただ、思っただけ。
あの人、もしかして毎晩
私と同じ空を見上げてるのかな……って
そしたら、いつか……ともだちに、なれるかな って。
いっしょに、星空を見たいんだ。
一緒に笑ったり、泣いたり、
いっぱいけんかもするのかな。
けれど、仲直りもしてみたい。
仲直りの時はきっと同じ空を見上げて、
きれいなお月さま、きらきら輝く星をひとつひとつ辿って
一晩中おしゃべりしてみたい。
夜明けにのこる、最後の星が消えるまで。
ばかみたいだね。
こんなカラダじゃどこにだって行けやしないのに、
ぜんぜん知らない人にあこがれて。
いっちばんばかなのはやっぱり、私だよ。
けどね…… がんばれる気がしたんだ。
この星空の下のどこかで、
あの人もがんばっていると思ったら
キライなあなたのことだって
好きになれるかもしれないって……そう思ったんだよ。
もしも、もしもの話だけど……
いつかあのこに出会えたら、言えたらいいな。
ごめんね。
ありがとう。
"はじめまして"
『カスミ』 ―――って**
はい……
[彼女の言葉に呟いて、大きく頷いた後、少女は瞳を閉ざした。
今はこれが精一杯。どんなに背伸びをしても足掻いても、走るどころか立ち上がることすらできない。
今私に語りかける彼女の顔も見ることができない]
わたしのことも はなします
ぐれいへんとすごした ゆめのなかのはなしも
わたしをすくってくれた ひのはなし……も
[深い闇が訪れた。終わりではない
はじまりの……闇が]*
─ 時は過ぎゆきて ─
じゃあ、行ってくるわ。
安心して。連れ戻してくるから。
この前もちゃんとできたでしょう?
この身にかえても…ね。
だから、せんせはアフターケアの準備をよ・ろ・し・く!
あ、よろしくついでに晩ご飯? 朝食?
どっちでもいーや。用意もよろしく!
[自由になる目でウインク一つ。カクンと私の身体が堕ちていく。
見せる様ほど楽なものではない。いや、私の身体を知るシャルロッテなら、薄々感づいてもいることだろう。
むしろ何度も何度も混濁と覚醒を繰り返し、身体より先に精神が悲鳴をあげている。
もう限界がきていることを]
[── だがそれがどうしたというのだ?
私は彼女の翼を追いかける。
追いかけても追いかけても届かなかった光の翼
追い続けて追い続けて
いったいどれくらい旅をしたのだろう。
今ようやく私の手の届くところまでおりてきた。
その翼に手が届くとき
その刻私は 彼女の逢えるのだろう。
ああ……もうすぐだ。
だからその瞬間まで、私は未来を紡ぎに夢へ赴く]
『やあ、楓の子 今日も良い紅葉じゃないか?
これから栗拾いかい? では私がイガを取ろうじゃないか
刺さると痛いからね。大丈夫だよ。私は痛くないから』
[顔に変わったペイントを施した少女がにっこりと笑って手をさしのべる。
蒼く透き通るような瞳に対峙する少女は初めは躊躇する素振りを見せていたが、やがておそるおそるその手を取った。
『いくよ! あの暮れなずむ空まで!
……ねえ、楓の子。君の夢は何色だい?』
[リヴリア・ブロア それは名もなき女
彼女の最期の夢が今架けだした]***
いい子ね。
[頷き、瞳を閉じる彼女を見つめる。
もう体力をだいぶ使ってしまっただろう。
そろそろ休みをとったほうがいいはずだ]
そうね、それも、あとでたくさん聞くことがあるわ。
だから、今貴女ができることは、
元気をつけること。
…ね。
[すぅ、と寝息が聞こえた頃、ゆっくりとその場を離れた]
― だいぶ後の話 ―
[ある者は退院し
ある者は病院を移り
ある者は永遠の眠りにつき
ある者は再び夢に取りつかれ。
季節はめぐり、様々な少女を見てきた。
人出も増え、あの頃のように少女の最期をだれも看取れない、ということもなくなった。
……だが、それと同時に]
――この前できたからといって、今回も出来るなんて、
どこにそんな保証があるというの?
[そんな小言もどこ吹く風
幾年か前に、グレイヘンのようになるんだと行った少女は
無事に身体は回復し、介入者としての日々を送っていた]
まったく、もう。
[食事の準備に取り掛かる前に。
かくん、と堕ちた身体に毛布をかける]
[介入者になる。
そう告げた彼女に、まっさきに反対したのも、最後まで抵抗していたのも、
彼女を眠っていた時から知っている女医師だった。
身体に多大な負担がかかる。
身体だけではない。
もっと、心の奥底まで。
……それでも。
頑として意思を、意志を、曲げない彼女に、最終的に折れた。
その時に出した条件など、彼女はさらさら覚えてないだろう]
もう、休んでいいのよ。
[ここにいれば、嫌でも介入してしまう。
―否、彼女は嫌だと思っていないだろう。
むしろ好いと思っているはずだ。
この状態を]
………。
[彼女のカルテはまだページ数を増やしている。
消費されたエネルギーに見合うだけ、食べてはいるだろうけれど。
その点、グレートヒェンとは違うけれども。
だからといって、]
…いいわけ、ないのに。
[頑張りすぎているのだ。
グレートヒェンを追うことに。
それが全て間違っているなんて言えやしない。
けれども、正しいとまでも、いえない。
それは、その消耗した身体からもわかる。
ぱっと見、健康的。
けれど、起きている時の目元に、
考えが漏れる端々に
そう遠くない未来、彼女が限界を迎えてしまうことが]
[自分より先に逝かないで欲しい。
もっと別の幸せも見つけてほしい。
眠る少女たちの未来と、彼女の未来。
天秤にかけることでもないけれど]
今度起きたら、話をしてやらなくちゃ。
[そう決めて、起こしてくると予告された子のカルテを見る。
彼女のお陰で、かなりの量があった。
楓の子。
現実では、どんな子だろうか]
[リブリアの頭を撫ぜると、立ち上がる。
今日はそのグレートヒェンの墓をみたいという少女が訪問してくる日だ。
その昔、自分が面倒を見た子が、子供を連れてくるという。
……そういう幸せをだってあるのになぁ、と、つい思ってしまう。
何人もの少女を見送ってきたというのに
彼女は人一倍気にかけてしまう]
リヴリアは、幸せ?
[おせっかいで未だに童顔といわれる女医師は、ゆっくりと彼女のそばを後にした*]
[どうしよう?
何を、何から話そう?
先に名前言う? それとも謝った理由からにする?]
……… あ、の。……っ!?
[手を握ったままぱきりと固まっていると、
――聞こえた。息に混じってかすかに何かを言おうとするのが]
な、に?
[酸素マスクの恩恵を受けられなくなった身体はさっきまで苦しそうに喘いでいて、
比喩でなく死にそうなほど苦しんでいるのに、
それでも手を握り返している。
それでも何かを伝えようとしている]
[この手は今、
すごく尊い思いを持つ人の手を握っているんだと思えば、
指先から全身にかけて痺れるような思いがきた。
実際に痺れてはいないから、
花飾りの少女の言葉を聞こうと顔を近付けることはできる]
ば か ……―――
[そうして聞こえた言葉を一字一句間違えずに復唱した後、
急速に顔を赤くしていった。
なんだろうこの、してやられたような気分は。
彼女にそのつもりはないかもしれないけれど]
…………ん、 ばかで、ごめん。
[きっと自分はこれからも、彼女が死なないことを望み続けるだろう。
その日、少女はひとつの星を見つけた*]
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