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[涙の流し過ぎで体温が下がる。寒い。
かたかたと肩を震わせながら、
白いカーテンを濡れる円い瞳見開いて見つめた。
不意に開かれる白い扉]
…………!
[視界で揺れる、金の髪。
眼鏡の縁のした、その目と目が合った。気がした。]
……あ、ぁ…… ふぁ、……
[ きみはいったい、だれ? ]
[言葉にならない細い息は、酸素マスクを白く曇らせる。]
[視界は曖昧で、こんなに近くても表情なんてわからない。
少女だとは分かったぐらいだ。
けれど顔を出した少女の眼差しは美月と同じ高さにあって、
いま、美月をたしかに見つめているのだと思った。]
[彼女の唇が開かれるのに気づき、
美月は目を見詰めていた視線を動かし
その口元に意識を集中させる]
[ きみはだれ ]
[ だれなの? ]
………、ぁ、ぅ、
[―――『逃げたい』。
分からないままにそんな気持ちでいっぱいになって、
丸めた身を捩らせようとした。
けれど既に相当の無茶をした身にそんな力は残ってなくて、
びくりびくりと身体を震わせるに終わる。
視線が踊る。瞼が拒絶されるように伏せられる。
けれどそのひとの姿が気になって、薄目を開く。
そんなことを繰り返す]
[時間にしてどれくらいだったか?
とても永い間、彼女を抱きしめていたようにも思える。
勿論体温は暖かくなることもなかったし、夢で聞いた彼女の声が私の耳に届くこともなかった。
現実なのだから、それはきっと分かっていたことなのだ。
もう…飛び立ってしまったのだと。]
ぐれいへん こっちでね
あなたにあったら ききたいとおもってたの
おねがいしようと おもってたの。
わたしにも あなたのような
つばさが もてないかって
[囁き微笑んで、頬に触れる]
そこに ゆめはあるの
ゆめはだいじ まもってくれるから
くるしいこと なにもないから
でもね
そこには みらいは ないんだよね
ぐれいへんがおしえてくれたんだよ
ひととしていきて ひととしてしぬ
だいせつさ
[未来を捨てたはずの自身に 示してくれた未来の光
それに困惑し不安に駆られながらも手を伸ばしたとき
私にできることを 考えた
満足に動かせない身体 いつ果てるかもしれぬ命
償いたくとも償いきれぬ程に重ねられた多くの咎
ならば私の生きる意味はなんだ?
そう自問したとき、私の中に舞い落ちたのは
未来を紡ぐ 天使の羽根だった]**
[――けれど。]
[ある時、何か思いつめたようにぱちりと強く目を開く。
見上げれば「おいしゃさん」の姿の向こう、
ぼんやりと見えていた筈の
「しらないだれか」の姿は消えていて]
……ぁ、
[びくり、と右手が痙攣するように跳ねた。
云うことを聞かず跳ねる右手。
握りこみすぎたせいで冷えきったその手を、
そろりそろりと、ベッドの上沿わせて伸ばしていった。]
………ぁ、ああ、
うあ、!! ああぁ!!!
[動物のものに似た唸り声が病室に響く]
[ とどいて ]
[ おねがい、とどいて、]
[ ――――とどけ!!]
[その右手にはもう太陽は輝かない。
ここにいるのはちっぽけな美月だけど、
手を伸ばす。必死に、何かを求めるように――――**]
死にそう?
……ミズキが?
[言われて、ミズキのベッドサイドのモニタを見る。
すこしだけ脈が早くなっていたけれど、それは少し泣いているせいだろう。
見上げる瞳は、何かに恐れているような。
強い否定に眉をひそめて、すこしゆっくりと、マッサージするように身体をさすり]
……カスミ。
すこしだけこのこのこと、お願いできるかな。
大丈夫よ、今すぐに、死んでしまうことはないわ。
私、別の子を見に行かないといけないの。
だから、貴女が手をつないであげて。
[ミズキ、と名を告げることはしなかった。
ただ、ベッドをすこし動かして、自由な手を一つ作り
軽く手を伸ばせばふれあえる距離まで近づけた]
― リヴリアの元へ戻る前・ハルのそば ―
[部屋から出る前、一つのベッドの前で足を止める。
ハル。遥。
心拍数も、呼吸も。
ゆるやかに、少なくなっていた。
きっと、止められない。
出来る限りの延命措置はしてある、けれども。
おはなばたけのなか。
そう、聞いた。
ずっと季節は春なのだと。
夏にはならず、ずっと、ずっと]
あなたも、かえりたく、ない?
[グレートヒェンが眠ってしまったように。
彼女もまた、眠ってしまいたいのだろう。
目覚めたとて、絶望しか待っていないかもしれない。
両親も弟も無くして、
夏を終えることなく、夢の中へと入っていった少女]
ハル。
[自分の行為は、見捨てると同義だろう。
まだ手を尽くせることはある、はずなのだけれども]
[まだ夢にいたいと願った少女は。
このまま寝かせてあげるのが、幸せなのかもしれない。
感覚が麻痺しているのだろうか、ぼんやりと思ったけれども]
……おやすみ。
[夢のなかでは、幸せだった?
こんどは、生きて、幸せになってね。
ありきたりの、祈りを捧げて、彼女のそばを後にした*]
― リヴリアのそば ―
……リヴリア。
おまたせ。
[といって、彼女が待っていたかどうか、わからないけれど]
そろそろ、いいかな。
あなたの身体が、限界に近いと思うの。
[す、と目を伏せる。
冷たい身体は、どれだけ温めても温まることはない。
それは、彼女も理解しているはずだけれども]
いくよ。
[リヴリアが満足した頃―、声をかけて、彼女を抱き上げる。
冷えた身体。
代謝もままならない身体にはきつい場所であろう。
静かに廊下を歩いて、ベッドへとまた寝かせる。
折れた腕には添えものをして、
点滴を繋ぎ直し、酸素マスクを取り付ける]
しばらく、あなたはそのままになるわ。
ベッドから動くのも禁止よ。
……落ちたってダメだからね。
[ないと思うけど、というように付け加え]
もうすこし元気になったら。
お花でも、お供えに行きましょう。
それには、すこしは動けるようになることが必要だけれどもね。
いい子にしてるのよ。
[ゆっくりと頭をなぜて。
ベッドサイドモニタを確認すると、少女たちの部屋を後にした]
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