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ひどい、ですよう。
だいじょうぶなのか訊かないでいきなりそんなこと言って……。
[心の底から酷いと思っていないことを示すように、
片方の頬が膨らんで、しぼむ。
視線を合わせてきた花水木の少女に応えてちらり、と持ち上げた顔には安堵が滲んでいた。
端から見れば心配する方とされる方が逆だと思われても不思議でないふたり。
少女は顔を洗ったばかりだから、なおさら]
……わたし、ミズキちゃんをさがしてたんですよう。
お星様のところまで飛んでいく前に、色々、言わないといけない気がして……。
[岬守の手を取った時、彼女は消えそうな声で呟いた。
少しだけ、手にこめる力を強くする]
――ごめんね、でも。
ユメにもはじまりが……ある、かぎり。
おわりも、あるの……。
[子供もいつかは大人になる。
それは自分だって同じだった。
それに、彼女は。
自分がもう大人になってしまった事をきっと、知らない]
[道化師の腕の中、小鳥の鼓動はとくとくと早い。
それが少しずつ落ち着いてくると
ベリー色が微睡から目覚めるように顔を出す。
預けていた体重を引いて。
少し気恥ずかしげに目をこすった。
何処へ行くのか、そう問いを投げられれば]
ぐれいへんは。
[未だ気がかりな花守を脳裏に浮かべる。
収穫を届けに行くというのに]
ハルのようす、みにいく。
それから、カスミとミズキも。
[次に会う時はきっと、2人は心を決めているだろうと。
そう思うと何故だか少し会いにいく気持ちが鈍った]
いまはね………
[長く、にわずか反応したのをみて、年号と日付を伝える。
ついでのように、カルテ上の彼女の年も伝えて]
ここはね、あなたが眠っている間、ご両親が預けられた所よ。
それから、あなたが夢をみたいほどやりたいことを、やれるようにするところ、なの。
[花畑へ向かうのは多分、道化師と一緒。
とてとてと歩調を合わせて。
途中、翳る空を見やれば欠けていく太陽]
――ねえ、リヴリアは。
もしこのせかいがこのまま、いろをなくして。
みんなも、かえってしまったら。
それでも。
ここにのこりたい……?
[花畑の外れまで来てふとしゃがみ込む。
拾い上げた花は一輪だけ、枯れていた]
そうか――……
[合わせていた視線を外した。
思案げにうつむき、眼差しの先を彷徨わせる]
きみは、星のところに、行くんだ。
[そう一言、無感動に呟いた*]
もういいのかい?
[高鳴っていた鼓動が落ち着いてくると、その円らなベリーの眸が開かれた。
目をこする様に仮面の下から我が目を細め、一なでして身を起こすのを手伝ったか?]
そうかい? では一緒に行くかい?
先に行っているかい?
二人も見に行かないとね。
送ってあげようじゃないか。
[そう紡ぎつつ立ち上がる]
[少しの沈黙の後に語られる事実>>44
期せずして零れた溜息は不安の色にも安堵の色にも映ったか]
そうか……
ローザはちゃんと目覚めてくれているのならいいのだけれど。
グレイヘン、キミも本当に疲れたのならキミの巣に帰るんだよ?
キミの友達を連れて、できるだけ早く。
[あの子が聞いたら、また傲慢と言われるか?
このセカイとあの世界を行き来する……
それには理由があるのだろう。
己を危険にさらしいたずらに行き来する必要などどこにもないのだから。
そこに悪意があったのならば、私の対応もまた変わっていたはずだ。
けれど、ローザにそんな様子はなかったし、グレイヘンは
傷つき疲れながら空を駆け、運び渡り続けていた。
── 強制はできない。私には]
[教わった日付。今の自分の年齢。
指折り数えて、途中でやめた]
…。
[視線が、外を見た。
そこにあるのは電線が墨壷のように
くっきりと黒い線を引いた青い空。
細い、細い、溜息が一つ]
…なにも、したくない。
[か細い声は、夢の中とはあまりに違う声]
[ぼんやりとした頭で天井を見る。
記憶はあやふや、あの世界のことは
本当の夢のようにぼやけている。
ゆっくりと体を起こした。
新人でも医者としていつまでも寝ていられない。]
[溜息が零れた口許を見上げる。
赤い三日月、その下の表情までは判らない。
空を見上げてからまた視線を戻す]
ローザは、――だいじょうぶ。
だいじょうぶ、だよ。
[それは確信めいた言葉。
それから、ゆるゆると首を振る]
――ぐれいへんは わたりどり。
だから、すは ないの。
ううん、なくしちゃったの。
[道化師がこちらの世界に来てから僅か1年の間、
まだ自分のユメを描いていられた小鳥は巣を持っていた。
だけど今は]
ミズキは、カスミといっしょに。
かえるの。
[嗤いはするけれど、その嗤いはか細い。
相手が何であるかを知ったからか?
己が何であるかを知られているからか?]
とは言っても、ボクはご覧の通り気まぐれだからね。
そして、認めたくはないが
ボクはとてもお節介焼きらしい。
このセカイに忘れものをした馬鹿がいるらしいんだ。
そんなものはないと思うんだけどね。
そもそも馬鹿はここにいないんだから。
けれど、探すというなら見ておいてあげないとかわいそうだろう?
ひとりぼっちは寂しいものだからね。
探し疲れて帰るまで、まあ見てやって
来訪者なんだからばいばいと手を振ってもやろうかと思っているさ。
[明後日の方を眺めて、これは嘲るように、けれどどこか──
そこで言葉を切って、眩しそうに欠け征く太陽を見つめる]
ボクはね……グレイヘン
このセカイはサナトリウムであり
ゆりかごであり……棺であると考えていたんだよ。
いなくなっていった子たちは、神様のお迎えが来てね。
いなくなっていくものだとね。
中には君たちが連れて行った子もいたのだろうけれど。
[帰って行った少女達の行く末は、私にはわからない。
けれど、己の覚えている己の躯は
正常ではないのだろう…と、それは悟っていた。
私は何も忘れていないのだから]
火によって天に召されるは火葬
その身の全てを大地に還すのは土葬
水に流したり、中にはとり…いや、これはいい。
じゃあ、幻に抱かれて逝くのは
──幻葬 と呼ぶべきなんじゃないかなって?
ボク達はそれを待つ子なんだろうなってね。
けれど、日は陰り、夢は夢に還らなかった。
それは幻のセカイじゃないよね?
どうしてだろうね?
今までそんなことはなかったのにね。
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