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[危険、というのは尤もだったけれど、なんだか少し残念な気がした。
けれど、逢魔ヶ時の夢と現が曖昧になる時間なら、なかなか話せずにいた事を口に出せるように思えて、そっと頷く]
……?
そんなに冷えるかなぁ…。
――ぁ、はい。
[お転婆なこども扱いが大概だったから、なんだか面映ゆかった]
え、と。準備してきますね!
[準備を整え、ショールを巻き付けて。一歩一歩をゆっくり進む。
暮れかかった淡い光のなか、何気ない会話をして少し躊躇ったあと、静かに切り出す]
――何も分からなくなっちゃう前に、話したいなって思ってたことがあるんです。
あの。
あの日の……浜辺のこと。
あるから、ずっと考えてて。
一人ではどうにも出来ない気がしてきたから、少し、頼ってしまってもいいですか……?
[虹に魅せられ変わり果てた神父と、それに立ち向かった男を思い浮かべる。
同じ時を過ごしたフラットと話せたら、少しは思いを整理できるのではと*]
[一瞬だけ、足が止まる。
少女を見ようとするのは思いとどまった。
――あの日。
悪夢のように、消えてしまった諸々。
夢ならば消えなかった人。
夢ならば残らなかった傷。]
あれは――何だったんでしょうか。
本当にあったことなのに……遠いみたいで。
[詳しく尋ねなかったのは、逃げるためではない。
原因を聞いたとしても、理解も訂正もできないからだ。]
――到着が遅くて、すみませんでした。
それと……
見苦しいものを、お見せしました。
[「頼られる」前に、少女に向き直る。
頭を下げて、次の言葉を待った。*]
[言葉を待つ姿に、歩みのようにゆっくりと口を開く。自分でも、まだ整理出来ていない事を]
――あの日。
集積体の元へ行くと聞いていたジムゾンさんと会って。
私、てっきり彼もリュミエールさんみたいに戦いに行くんだと思ったんです。
それで、集積体の事を話して。
あれは神じゃないって。そう言ったら――。
[震えないように、お腹に力を込めて続ける]
ジムゾンさんは、……ああなってしまって。
後はご存知の通り、トレイスさんも――。
[浅くなる息を、意識して吸う]
引き起こしてしまったこと。
巻き込んでしまったこと。
どれも、一人で抱えているのが、重たいんです。自分や、誰かのせいにするのも。
[あの日助けられた時のように、フラットの袖をきゅっと掴む。うまく、考えていることが伝えられるか、自信がない]
でも、これまでみたいに逃げていてはいけない。
こうして生き延びた以上、まっすぐ見つめないと。
いずれ、何もかもが虹色に染まってしまうのだとしても……。
私に泣く権利なんてない。
一生懸命歩き続けて、最期まで、笑ってないと。
――毎日海に出る度、虹色に惹かれたこともあったんです。
海の底に皆がいるんじゃないかって。いっそ行ってしまえばと。
……ジムゾンさんや、リュミエールさんが撃ったアレは、私の末路でもあって。
[俯きがちな顔をあげる。進むうち、風に乗って花弁が運ばれてくるのが分かった]
もう、死ぬのは怖くないの。
いつ来るかは分からないけれど、大切なものの傍で迎えられるから。
――ただ、重たくて。時々歩けなくなってしまいそうで。
いずれ虹色から逃れられなくなる時が、怖い……。
[重たいものを吐き出すことは、一方的に荷を押し付けることにも似て、ずるいような気もしたけれど。
ふぅと息をついて、まとまらない言葉を途切れさせる]
嫌だったら、嘘でもいいの。
夢か本当か分からなくなってしまう最期の時まで、ここにいていいよって言ってほしい。
……時々でいいから、傍に、いさせて欲しいんです。
[散っていく桜のように儚く朧な気持ちで、一人で抱えきれない思いを告げた*]
[袖を掴む手が震えているのを見逃すほど、鈍くはなかった。
その手に自分の手を添えようとして、止まる。
七色に憧れたことはまだない。
きっとこれからもない。
だから、下手な台詞を投げかけることはできなかった。
時折頷いて、相槌を打って。
桜が散るようにはらりはらりと感情が舞う。]
[永遠なんてなかった。
神なんてものもいなかった。
少女の支えになる自信もどこにもない。
それでも、この細い腕を振り払うつもりもない。]
最期――か。
いつやってくるか、分かりませんよ?
……でも。
人として、貴方が存在し続けるなら。
それも、できるかもしれません。
[少女が求めているのは恐らく、
できるかできないかの話ではない。
しても許されるか否かの問題だ。
やんわりと、一度受け止めて、微笑する。
こうやってすり替えるような卑怯な真似も覚えた。
今はそんな答えでも良いのだと思う。]
――やってこないことには、分かりませんね。
[まるで、終末が恋しいみたいだ。*]
そう、ですね。いつだろう――。
[最期。
いつか来る。来るのはいつか。わからない。桜はとてもとても綺麗で、あっという間に過ぎ去ってしまう時間のよう]
……本当に?
出来る、かな。出来たら、いい、な。
[夕暮れと宵闇が溶け合い、すべてが曖昧になった空間を、桜が舞う。
集積体がやってきて以来、夢と現とは反転したように、あるいは境が曖昧になったかのようだった。
あの日も、熱と現実味のない展開に翻弄されていた。フラットの言葉を聞きながら、朧に微笑む]
――やってこないことには、って。
まるで……。
[いつか来る終末を想う。
自分を保ったままで、虹色の向こうに青い海を見ることが出来るだろうか。
はっきりさせてしまうのは、怖くて。
柔らかくすり替えられた言葉を曖昧なままに留めて、静かに隣で桜を見上げていた。今はまだ、それでいい気がした**]
いつ来るか分からないなら――
いつやってきてもいいようにすれば良いんです。
[そう言って、少女に笑いかけた。
待ち遠しいような、切ないような、
先が選べないまま幕切れになってしまうような。]
また、雪が降るといいですね。
[終末まであと何日だろう。
降雪があっても過去が変わらないのは分かっている。
過去をたどれないことも。
雪が降れば――また銀の煌めきと、
気持ちだけでも懐かしいところに帰れるような気がして。
桜の花弁を受け止めた。
そこにはない青い空を仰いで。**]
[結論から言えば、擬人の行いは集積体に多大な影響は与えられなかった。集積体の姿を著しく変化させ、多胞の球体から、紐を捻るような姿に変化させもしたが、最後には球体の姿に戻ってしまった。]
[しかし、一つだけ変化があった。
それまで、地球上を緩やかに膨脹収斂しながら不規則に移動していた集積体は、海辺の街から辛うじて見える海上で静止した。]
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