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[袖を掴む手が震えているのを見逃すほど、鈍くはなかった。
その手に自分の手を添えようとして、止まる。
七色に憧れたことはまだない。
きっとこれからもない。
だから、下手な台詞を投げかけることはできなかった。
時折頷いて、相槌を打って。
桜が散るようにはらりはらりと感情が舞う。]
[永遠なんてなかった。
神なんてものもいなかった。
少女の支えになる自信もどこにもない。
それでも、この細い腕を振り払うつもりもない。]
最期――か。
いつやってくるか、分かりませんよ?
……でも。
人として、貴方が存在し続けるなら。
それも、できるかもしれません。
[少女が求めているのは恐らく、
できるかできないかの話ではない。
しても許されるか否かの問題だ。
やんわりと、一度受け止めて、微笑する。
こうやってすり替えるような卑怯な真似も覚えた。
今はそんな答えでも良いのだと思う。]
――やってこないことには、分かりませんね。
[まるで、終末が恋しいみたいだ。*]
――彼岸の浜辺にて――
ようこそ彼岸へ………いんふぇるの言うた方が通りがええか?
[男は神父がいつからここにいたのか知らない。
声が聞こえたから応じた、ただそれだけの話。
ここを“いんふぇるの”と称したのも、自らの放った火炎弾が、
おぞましい七色のエキセントリック生命体を燃やしていったから。
その勢い地獄の業火の如し]
本当にあったのかーなんて、神父の言うセリフとは思えんなぁ。びっくりや。
つーか何であんたこっちに来とるん?
そう、ですね。いつだろう――。
[最期。
いつか来る。来るのはいつか。わからない。桜はとてもとても綺麗で、あっという間に過ぎ去ってしまう時間のよう]
……本当に?
出来る、かな。出来たら、いい、な。
[夕暮れと宵闇が溶け合い、すべてが曖昧になった空間を、桜が舞う。
集積体がやってきて以来、夢と現とは反転したように、あるいは境が曖昧になったかのようだった。
あの日も、熱と現実味のない展開に翻弄されていた。フラットの言葉を聞きながら、朧に微笑む]
――やってこないことには、って。
まるで……。
[いつか来る終末を想う。
自分を保ったままで、虹色の向こうに青い海を見ることが出来るだろうか。
はっきりさせてしまうのは、怖くて。
柔らかくすり替えられた言葉を曖昧なままに留めて、静かに隣で桜を見上げていた。今はまだ、それでいい気がした**]
――彼岸の浜辺にて――
[神に焦がれたその身を焼かれ、永遠の眠りについたらしい。しかし、どうやら神はそのまま静かに眠らせてくれないようだ。
天に召される事は無く、魂は浜辺に留まった。何故そのまま消え行く事を許してく無かったのか――、絶望した。
後ろから男の声が聞こえて、力無く振り返る。]
ふふふ、地獄ですか。まあ、私には相応しいーーのでしょうね。
[どうやら、幾人もの人の命を奪って来た……らしい、自分には天国は行けないだろう。男がいんふぇると言うのに思わず笑みが溢れる。
なんだ、お気づきじゃないんですか。貴方が此処に寄越したのでしょう。
[この彼岸の浜辺にて、自分の身体はまだ燃え続けている。その炎の中で銀製の十字架が光っていた。]
いつ来るか分からないなら――
いつやってきてもいいようにすれば良いんです。
[そう言って、少女に笑いかけた。
待ち遠しいような、切ないような、
先が選べないまま幕切れになってしまうような。]
また、雪が降るといいですね。
[終末まであと何日だろう。
降雪があっても過去が変わらないのは分かっている。
過去をたどれないことも。
雪が降れば――また銀の煌めきと、
気持ちだけでも懐かしいところに帰れるような気がして。
桜の花弁を受け止めた。
そこにはない青い空を仰いで。**]
何やて?
[神父の言葉に怪訝な表情になる。
こっちには数メートル級の大きさの、
エキセントリックな姿形の生物を撃って燃やした覚えしかない。
それがどうして眼の前の神父を彼岸に送ることに繋がるのか―――]
………………まさか。
[ざり、と足音を立てて浜辺に転がる焼死体に近付く。
これは自分ではなく、ここにあるのが不思議な代物。
燃えているそれから銀に光る何かを掴んで引っ張り出す。
手袋のおかげで熱さはあまり感じなかった]
…………あぁ、
そういうことかいな。
[神父の言葉の意味を理解した男の表情は清々しいものだった]
そんじゃあ、………一発殴られてくれ、な。
[燃えている身体から引っ張り出した銀の十字架を右手に握りしめると、
男はくるりと向きを変え神父に向かって飛びかかった。
微笑んでいるように見える表情がどう変わろうがお構いなしに、
右手で神父の胸ぐらを掴み、左手で一発喰らわせた。
無論グーの手である**]
[結論から言えば、擬人の行いは集積体に多大な影響は与えられなかった。集積体の姿を著しく変化させ、多胞の球体から、紐を捻るような姿に変化させもしたが、最後には球体の姿に戻ってしまった。]
[男は全てを悟ったらしい。その手には銀の十字架が握られていた。
男は 意気盛んに飛びかかって来た。胸ぐらを掴まれ、男から重い拳を食らう。その間…は無防備にさるがままだった。
…の身体は意外な程軽く、勢い良く浜辺に飛んだ。**]
[しかし、一つだけ変化があった。
それまで、地球上を緩やかに膨脹収斂しながら不規則に移動していた集積体は、海辺の街から辛うじて見える海上で静止した。]
[――数日後・???――
あれから。神に焦がれたその身を焼かれた…は、永遠の眠りについた。けれど、天に召される 事は無く魂は浜辺に留まった。始めはその事に気が付かずに海を眺めていたが、暫くしてその事実を知り――、本当に死後の世界が存在した事に絶望した。何故神はそのまま消え行く事を許してく無かったのか。当たり前だが、神から返事はない。
いつからか夏の日差しは和らぎ、のどかな陽光が七色の海と街とを照らしていた。まるで小春日和のような日々が続いてる。
風に乗って桜の花びらがはらはらと舞い散る。桜の木を近づき、太い木の幹に手をついて空を仰げば、あっという間に視界一面が桜の白に埋め尽くされた。ふと下方に視線を移せば、知った顔をふたつ見つける。]
…頑張った甲斐があったんじゃないですか。
[残された日を必死に生きようとしている2人を見て、誰ともなく呟いた。不思議と数日前殴られた頬が痛い様な気がした。]
[小高い丘からは海を眺める事も出来た。海原は輝かしい七色の斑をなしている。水平線の彼方には虹色に煌めくものがあった。**]
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