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ええ、いいですよ。
できたら、飲み物なんかも持って。
[少し笑ったが、びしりと指を立てた。]
ただし。
痛みや熱が出たらすぐに帰りますよ。
健康第一ですから。
[杖がふらつかないかちゃんと見て、そう言った。
この様子なら、無理しない限り大丈夫だろう。]
ひょっとしたら、もう一度くらい。
桜は咲くかもしれませんし、ね。
[別の患者の様子を聞かされれば、
直接行って説得しなくてはならないなと思いつつ。
訪れるべき患者がいることに安堵する。]
――明日の季節は、何でしょうね。
[夏だろうか、冬だろうか。
嵐でも来るかもしれない。
それでも、不安にはならなかった。]
……と、夜だと危険ですね。
[ロマンを優先させて少女を危険な目に遭わせるのは本意でない。
夕方にしましょうか、と訂正した。]
念のため言っておきますけれど、
その、夜間は上着など着ていた方がいいです。
……女性は特に、危ないでしょう。
[ぽつりと付け足す。
出過ぎたことを言ったような気もした。*]
うーん…温かいのと冷たいの、どっちがいいかしら。
[飲み物を運ぶポットを借りる算段をつけながら、真面目な忠告にふわふわ笑う]
はーい、先生。
いい子にします。
あ、そっか。
何もかも先が見えないけれど、そういう風に考えるとちょっと楽しいですね。
願はくは、穏やかな日和でありますように。
[身を寄せ合う人々の、安らかな生活を願う]
[危険、というのは尤もだったけれど、なんだか少し残念な気がした。
けれど、逢魔ヶ時の夢と現が曖昧になる時間なら、なかなか話せずにいた事を口に出せるように思えて、そっと頷く]
……?
そんなに冷えるかなぁ…。
――ぁ、はい。
[お転婆なこども扱いが大概だったから、なんだか面映ゆかった]
え、と。準備してきますね!
[準備を整え、ショールを巻き付けて。一歩一歩をゆっくり進む。
暮れかかった淡い光のなか、何気ない会話をして少し躊躇ったあと、静かに切り出す]
――何も分からなくなっちゃう前に、話したいなって思ってたことがあるんです。
あの。
あの日の……浜辺のこと。
あるから、ずっと考えてて。
一人ではどうにも出来ない気がしてきたから、少し、頼ってしまってもいいですか……?
[虹に魅せられ変わり果てた神父と、それに立ち向かった男を思い浮かべる。
同じ時を過ごしたフラットと話せたら、少しは思いを整理できるのではと*]
[一瞬だけ、足が止まる。
少女を見ようとするのは思いとどまった。
――あの日。
悪夢のように、消えてしまった諸々。
夢ならば消えなかった人。
夢ならば残らなかった傷。]
あれは――何だったんでしょうか。
本当にあったことなのに……遠いみたいで。
[詳しく尋ねなかったのは、逃げるためではない。
原因を聞いたとしても、理解も訂正もできないからだ。]
――到着が遅くて、すみませんでした。
それと……
見苦しいものを、お見せしました。
[「頼られる」前に、少女に向き直る。
頭を下げて、次の言葉を待った。*]
滅びとしか思ってなかった虹色に、救いを見出だしていた人もいて。
――こんな状況で、何が正しくて何が悪いと、言い切れるだろうか?
まるきり人のような擬人、異形と化した人のように。
あの日さいなまれた熱のように。
曖昧で、複雑で、とても難しい。
[言葉を待つ姿に、歩みのようにゆっくりと口を開く。自分でも、まだ整理出来ていない事を]
――あの日。
集積体の元へ行くと聞いていたジムゾンさんと会って。
私、てっきり彼もリュミエールさんみたいに戦いに行くんだと思ったんです。
それで、集積体の事を話して。
あれは神じゃないって。そう言ったら――。
[震えないように、お腹に力を込めて続ける]
ジムゾンさんは、……ああなってしまって。
後はご存知の通り、トレイスさんも――。
[浅くなる息を、意識して吸う]
引き起こしてしまったこと。
巻き込んでしまったこと。
どれも、一人で抱えているのが、重たいんです。自分や、誰かのせいにするのも。
[あの日助けられた時のように、フラットの袖をきゅっと掴む。うまく、考えていることが伝えられるか、自信がない]
でも、これまでみたいに逃げていてはいけない。
こうして生き延びた以上、まっすぐ見つめないと。
いずれ、何もかもが虹色に染まってしまうのだとしても……。
私に泣く権利なんてない。
一生懸命歩き続けて、最期まで、笑ってないと。
――毎日海に出る度、虹色に惹かれたこともあったんです。
海の底に皆がいるんじゃないかって。いっそ行ってしまえばと。
……ジムゾンさんや、リュミエールさんが撃ったアレは、私の末路でもあって。
[俯きがちな顔をあげる。進むうち、風に乗って花弁が運ばれてくるのが分かった]
もう、死ぬのは怖くないの。
いつ来るかは分からないけれど、大切なものの傍で迎えられるから。
――ただ、重たくて。時々歩けなくなってしまいそうで。
いずれ虹色から逃れられなくなる時が、怖い……。
[重たいものを吐き出すことは、一方的に荷を押し付けることにも似て、ずるいような気もしたけれど。
ふぅと息をついて、まとまらない言葉を途切れさせる]
嫌だったら、嘘でもいいの。
夢か本当か分からなくなってしまう最期の時まで、ここにいていいよって言ってほしい。
……時々でいいから、傍に、いさせて欲しいんです。
[散っていく桜のように儚く朧な気持ちで、一人で抱えきれない思いを告げた*]
[袖を掴む手が震えているのを見逃すほど、鈍くはなかった。
その手に自分の手を添えようとして、止まる。
七色に憧れたことはまだない。
きっとこれからもない。
だから、下手な台詞を投げかけることはできなかった。
時折頷いて、相槌を打って。
桜が散るようにはらりはらりと感情が舞う。]
[永遠なんてなかった。
神なんてものもいなかった。
少女の支えになる自信もどこにもない。
それでも、この細い腕を振り払うつもりもない。]
最期――か。
いつやってくるか、分かりませんよ?
……でも。
人として、貴方が存在し続けるなら。
それも、できるかもしれません。
[少女が求めているのは恐らく、
できるかできないかの話ではない。
しても許されるか否かの問題だ。
やんわりと、一度受け止めて、微笑する。
こうやってすり替えるような卑怯な真似も覚えた。
今はそんな答えでも良いのだと思う。]
――やってこないことには、分かりませんね。
[まるで、終末が恋しいみたいだ。*]
…………どうして、この星に?
[のりものの外に、光を感知できない。
しかしアレは、この星の条件下で発生するものではないはず。
思考がぐるりと巡った。*]
――彼岸の浜辺にて――
ようこそ彼岸へ………いんふぇるの言うた方が通りがええか?
[男は神父がいつからここにいたのか知らない。
声が聞こえたから応じた、ただそれだけの話。
ここを“いんふぇるの”と称したのも、自らの放った火炎弾が、
おぞましい七色のエキセントリック生命体を燃やしていったから。
その勢い地獄の業火の如し]
本当にあったのかーなんて、神父の言うセリフとは思えんなぁ。びっくりや。
つーか何であんたこっちに来とるん?
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