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「おどろいた。売店は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。パンを、売る事が出来ぬ、というのです。このごろは、人気の惣菜パンをも、品薄になり、少しく派手な暮しをしている者には、ひとりずつ学食へ向かえと命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」
聞いて、倖田久美は激怒した。「呆れた売店だ。生かして置けぬ。」
倖田久美は、単純な女であった。のそのそ売店にはいって行った。たちまち彼女は、宿直の女教諭に捕縛された。調べられて、倖田久美の懐中からはええい面倒だ飛ばせ飛ばせ。
倖田久美は生徒指導室から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。倖田久美は跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、開店の刻限までには十分間に合う。
さて、倖田久美は、ぶるんと両腕を大きく振って、矢の如く走り出た。
私は、今日、パンを食べる。食べる為に走るのだ。美味しい菓子パンを食べつくす為に走るのだ。売店の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。
そうして、私は食べる。若い時から名誉を守れ。さらば、空腹。若い倖田久美は、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。
そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、倖田久美の足は、はたと、とまった。
見よ、私の腹を。きのうの空腹で腹の虫は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に即ち腹が減りすぎた。
彼女は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、パンは残らず売店に浚われて影なく、売り子の姿も見えない。
空腹はいよいよ、ふくれ上り、底無し沼のようになっている。倖田久美は廊下にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。
「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う腹を! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に夜明け時です。あれが登ってしまわぬうちに、売店に行き着くことが出来なかったら、この佳い腹が、私のために死ぬのです。」
空腹は、倖田久美の叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。
今は倖田久美も覚悟した。飯を探すより他に無い。ああ、神々も照覧あれ! 空腹にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。倖田久美は、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。押し流されつつも、なんの話だかとにかくわからないが、倖田久美はついに力尽き果てた。
倖田 久美が「時間を進める」を選択しました。
投票を委任します。
中御門 早綾は、森主 空 に投票を委任しました。
―別棟 カフェテリア―
………。
[憮然とした表情でバナナジュースを飲む少女の顔には、無数の絆創膏。]
……今日こそは糞鳥の息の根を止めて、焼き鳥にしてやるデス…。
[ズーーーッとストローで一気に飲み干すと、グラスの氷がかろやかな音をたてた。]
[ストローを口にくわえて軽く上下させると、雫がテーブルの上に落ちる。]
はわっ
[慌てて、テーブルの上に置いてあった紙をどかした。
幸い、紙は濡れてはいなかったけれど。
手に持った紙の文章を見て、少しだけ眉が下がる。]
むー…
恋愛単位 かぁ…。
[大きな溜息を吐くと、テーブルの上に頬をつけて寝転がった。]
―正門付近―
[倖田久美がメロスと化している頃、青木さんは
様々な告知のなされる掲示板を眺めていた。
朝方、もう一度掲示板の前にやってくると
やはり変わらない一つの紙が増えていた。
見間違えではなかったらしい。]
ふう。
厄介な事になったな。
[人混みを避けつつ、ホームである図書室へ向かうべく
別棟へと足を向けた。]
[離棟で何を見たかはさておき。
夜が明けて登校してくると、掲示板を見て小首を傾げた]
わたくし、昨日来たばかりなのですけど…。
この一週間で恋をしなくてはならないのかしら?
でも、お会いした殿方と言うと、森主様とあのロリータ趣味の方くらいですし…。
他にいらっしゃらないか探してみましょう。
[と、その前に授業を*受けに*]
― 中庭 ―
あー、単位なぁ……。
[非常に面倒そうな声で掲示板を見る。
そう、卒業必須単位なのだこれは。
評価60以下で赤点を連発している自分としては
これは非常に由々しき問題であると共に
なんとかしなければいけない壁でもあった。]
ロリっこが空から落ちて来ないかねぇ。
[ぼんやりと空を見上げる]
投票を委任します。
石原 裕三郎は、森主 空 に投票を委任しました。
爆発というものを想像するとき、
僕は夏の夜に流れる星のイメージに捕らわれる。
それは恐ろしく儚く、そして短い生命なのだ。
だから、僕は常に混乱する
今日も安定安心の爆発だな……っくし。
[爆風に煽られてくしゃみを連発した]
被験者が足りない……。
が、中間考査は一週間後。
最早一刻の猶予もならな……へーっくしぃ。
[俯いていたら鼻水が胸元まで垂れそうになる]
あ゛〜〜おっかしぃな。
なんだかだるいし世界が回っている。
自転ってこんなに速かったっけか……。
[もしかして:風邪]
[普段より緩慢な動作で、ビーカー内の液体を混ぜる。
毎度御馴染み、見るからに怪しい紫の発光液。
そして今回はブドウジュースでなく]
……擬態が難しいな。
[エタノールをドバドバ入れている。
ブランデーは、教授秘蔵の品を発見したのだが、
譲って欲しいと懇願しても敢えなく却下された。
――実年齢がロリだから当然と言えば当然の帰結]
要はエタノールが入っていれば、
成分的には同じだろう。
しかし、この色は……
う〜む、如何ともし難いな。
[お世辞にもブランデーの色には見えない]
[せめて外から液体の色が見えないように。
考えた末、何故か近くに転がっていた
バニラエッセンスの瓶に封入した。
残り香が、妙に甘ったるい]
恋愛……恋愛なあ。
ヒトの心は複雑怪奇で難しい。
いつも一定の結果が得られるとは限らないし。
へぷちん。
[水槽内のザリガニに語りかけていたら、
くしゃみで額を側面に強かにぶつけた。ごちり]
うぅ〜〜〜〜立ち止まってなどいられなーい!
[白衣の袖で鼻の下を擦りながら、
今日も今日とて被験者を求めて学内を彷徨う。
その足取りは、大袈裟に左右に揺れて、遅い]
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