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―本棟・非常階段―
[青木さんはぐったりしている。
肌に触れる硬い棒のような感触に、瞼がゆっくりと開いた。]
……そうなの。
長時間の立ち労働とすし詰め講堂には
(貧血で倒れる的な意味で)
定評のある青木さんとは私のことよ。
[顔を上げた。
急に顔を上げたので、じんわーってきました。]
……あー……
[地より這い出るような声で呻く。
うなだれた。]
青木さん?青木さんさん?
[女性の言葉に小首を傾げて、うなだれた鼻の穴に、箸を一本ぷすり。]
だいじょうぶしっかりして?傷はあさいゾ。
[もう一本の箸で空いている方の穴を、ぐりぐりぐり。]
巷ではドクトル・フランソワーズと呼ばれているわ。
呼びにくいのであれば
ふぉっふぃふぇふぉふふぉひひふぉふぉ
[ぐりぐりぐりされた。
奥深くまで、棒状の硬いものが入り込んで行く。
青木さんは止めようと、箸に指を添えた。
しかし時既に遅く
お箸が突き刺さったままの穴から、赤い液体が滴った。
俗に言う深追い鼻血である。]
だめよ。
このままでは流血の危険性があるわ。
[既に流血しています。]
大変よ。森主苺。
青木さんの含有血液量と出血量が許容範囲を超えてしまったわ。
[その言葉を最期に、青木さんはふらりと手すりに身を預けた。
彼女はもう、息をしていない――わけではないです。]
はわわわっ
たいへんたいへん。
[血の伝った箸をすぽっと抜いて背後に投げ捨てると、ポシェットからごそごそとフリスクを取り出して、青木さんの鼻の穴に詰めていく。]
おーきゅーそち、おーきゅーそち。
[むぎゅるる]
青木さんさんは、血が足りないの?
どれを注入すればいいのカナ。
[ごそごそと、昆虫採取セットの注射器を取り出すと、液体カロリーメイトとトマトジュースとタフマンを取り出して床に並べた。]
[フリスクを大量に鼻に詰められた。
すーすーする。喘ぐように呼吸をいち、に、いち、に。]
人体には造血機能というものが備わっているわ。
失わなければ、後は過剰な使用を防ぐだけ。
でもそうね。しいて言うなら……
[1.液体カロリーメイト
2.トマトジュース
3.タフマン
4.ブドウジュースが飲みたいな(死亡フラグ)
2(4)。]
[ところで、タフマンのラベルって卑猥だよね。]
トマトジュースがいい?
[ぷしゅっとプルタブに手をかけると、赤い液体を注射器に吸わせる。]
はーい、ぷすっとしますヨ☆
[青木さんの右腕の静脈に、ぷすっと注入。]
[空になった注射器を見て、青木さんは息をついた。]
ありがとう森主苺。とても嬉しい。
でも、次からはトマトジュースを静脈に注入してはだめよ。
人体というのは雑菌にとても過敏に反応する場所だから
人口が一人減ってしまう事もあり得るの。
私はトマトジュース耐性があるから問題はないけど。
[鼻からフリスクが赤い液体と共に滴った。
――注入されたトマトジュースです。]
私は、もう少し……眠ってから……
……としょしつに、帰………る……。
[青木さんは就寝したようです。**]
赤いから、大丈夫だヨ。
なにごともきのもちよう。
[注射器一本分入れ終わると、良い仕事したとばかりに額の汗を拭いて笑顔。]
これでよし、と。
からだに気をつけてネ、青木さんさん。
かよわい女の子は、自分を大事に大事にしないと。
全員入りましたか?
確認のため、CO表に「入りました」と記入をお願いします。
全員確認出来たら1日目を始める予定です。
―本棟/医務室前―
皮田 鼻子
しょくしゅ
イカむす○
エタァナル・ロリィタ
まあいっか。このままで。……いだだだだ。
[痛みというものは、必死の時は忘れていて、
ほっと一息ついた時にやたら主張してくるものだ。
どこかで貧血気味の青木さんが
トマトジュース耐性を発揮している頃、
流血で赤い足跡を廊下に残しながら
花子(仮)は医務室へ向かっていた。
つまり、砕けたフラスコを踏んだ足が痛い]
あそこ、苦手なんだよな。
[カチカチと歯が鳴る。
合わせて実験室から拝借してきたピンセットの先も鳴る。
医務室の扉が近づくと、武者震いが走る]
……ヤツは居ないか。よし、今の内だ!
[ヤツ、とは医務室に頻繁に出入りしている
医学部研修生のことである。名前なんて知らない。
妙な方向に熱心で、外見的異常を検知するや、
触手を切除しようと強引に迫ってくるので辟易している。
故に、花子(仮)にとって、医務室は一番の
危険が危ないスポットなのである]
…………。
[挨拶も発さず、そろりと医務室に滑り込んだ]
白衣の方がカッコイイな。
[そういう結論に落ち着き、何故それが落ちていたのかは
全力でスルーした。
足首まで包帯でぐるぐる巻きにされ、
「構内では靴を履くように」と当然の叱責を背で聞きつつ
医務室を後にする]
医務室とは何かと発情し易い地帯らしい。
様式美というやつか。
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