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― 神社 ―
[明日の段取りを話し合う]
とりあえず明日の朝一に兼正に行こう。
どんな手段を使っても中に入るんだ。
[桜子が来たら話をしたかもしれない]
―屋敷―
[屋敷へ入ると、厳重に鍵を閉める。
電気を点けようとしたが点かない。やはりあの小火で"人形"達が動いたのだと確認出来た。しかし、タイミングは悪すぎる。手探りで1階を移動し、発電室へと辿り着く自家発電に切り替えると、必要最小限の電気のスイッチだけ入れて彼の部屋へと向かった。
いつもと同じ静寂の中、いつもと同じように蓋の閉まった棺が有った。そっと近寄りゆっくりと蓋を開ける……。
完全な"死体"と化し、安らかに眠る彼の顔を見てほっと胸を撫で下ろした。しかし、非力な自分の力ではとてもではないけど抱えて行くのは不可能だ。人形達も居ない。
一旦棺を離れると、彼のクローゼットを開ける。彼のお気に入りの洋服がズラリと並ぶ、大きなウオークインクローゼットの奥から出してきたのは車椅子だった]
―村中―
[男は数人の屍鬼と山を降りて移動し出した。闇に乗じて人々を襲い、また情報を流し合って、屍鬼狩りに対抗するために。――だが、男は途中でその集まりを抜け出した。屍鬼として村を襲う手伝いをする気になど、なれなかったからだ。
己は間違いなく屍鬼となったのだと知っていながら。屍鬼を倒す村人となる事など、屍鬼を倒して元の生活に戻る事など出来ないのだと、知っていながら。
男は村中を潜みながら進んだ。死体となっているのを確認されていない、行方不明扱いになっているだろう身故に、他の死を看取られた屍鬼よりは大胆に。されど堂々とはいかずに]
……
[闇の中を駆ける。幾ら走っても苦しくならなかった。
走りながら、男は周囲の光景を見、また考えていた。顔見知りの村人達が暴動に走る様は、恐ろしかった。杭や槌やから想像される苦痛と二度目の死も、恐ろしかった。己が異形になってしまった事が、人を殺めたという事が、恐ろしかった。
幾多の恐怖と悲しみが胸を占めていた。走り続けたのは、それらから逃げたかったからなのかもしれない。こうなった以上、その全てから逃げられないと決まっているのに。心中で呟いて、自嘲した]
/*
笑ってくれてもいいのよ?w
車椅子使ったところでどうやって地下へ降りるのさw
ま、屋敷の中身を考えたのは自分だからな。何でもありさねw
─村中─
[諦めるタイミングが遅かった。わたしは不安にさいなまれながら、帰途を走る。
たいまつで照らされる人の顔は、いつもと違って、一瞬誰か解らない。誰もかれもが「よそもの」に見える]
大丈夫、急いで帰れば大丈夫……。
[昨夜のことを思い出すと、膝が震えそうになる。建物の影ごとに、あの人が潜んでいそうな気がする]
―村中―
[男はとある場所に行こうかと考えていた。神社。村人達が拠点としているらしい場所だ。考えるだけで、胸がざわざわと騒いだ。想像するだけでも、生前には神聖さや安らぎを覚えていた筈のその場所から、不穏な気配を感じた。先達に教えられた通りだった。入る事は、不可能ではないかもしれない。だがあまり奥に行ったり長居をしたりは出来ないだろう。危険なのは確実だった。
そんな場所にあえて行こうなどと考える理由は、高瀬に会うためだった。屍鬼となった事を知られたくないという思いはあった。狩りの主導者だという恐ろしさもあった。それでも、どうせ逃れられないのなら。どちらの道を選ぼうと、終わりに待つものが同じなら――]
……、
[結局、一番の理由は、単純に会いたいからというものなのかもしれないが。そう考えては、眉を下げて笑った。同僚達や、ハルや、母や――幾つもの姿を思い出し]
……っ、
[足を竦ませた。神社に辿り着いたからではない。その様はまだ全く見えなかった。思い浮かべた姿の一つが、視界に入ったからだ。闇の中、立ち止まった男に、その姿は、桜子は気が付いただろうか]
[ヘッドサポート付きの車椅子を棺の横へと着けると、棺の中から彼を抱き起こす。
体力的にも限界が近いが、最後の力を振り絞るが如く、ゆっくりと棺から引きずり上げ、なんとか車椅子へと移動する事が出来た。
向かうは再び発電室。車椅子を押しながら、一瞬須藤の事も頭を過ぎったが、もう其処まで手を回す余裕は無かった。
とにかく早く、安全な場所へ……。逸る気持ちを抑えながら、発電室の奥に有る隠しエレベータを使って屋敷地下に有る隠し部屋まで辿り着くことが出来た。
ダウンライトが幾つか灯る、薄暗さは有るものの雰囲気の有る良い部屋。上質なソファーに小さなテーブルが一つ。
念には念を入れ、エレベーターのスイッチの蓋を開け、エレベーターの電源を落とした。]
[屍鬼と変えられた村の者たち。命令に逆らえば――制裁が待っている。
自らの意思で嬉々として従っている者もあれば、仕方なく従う者もいる。
新しく屍鬼となったばかりの者の動向には特に気を配るよう、"忠誠心"の強い者を中心に厳命してあった。
何かあれば、責任を持つ者が罰を受けることになる。
新入りの姿を見失ったとあれば、血眼に探すことだろう。
人間を見つければ襲い、さらに"それ"に人間を襲わせる。
それとは別に、高瀬は最優先で襲うよう命令が出されている]
……?!
[ふと、わたしの足が止まった。
背の高い……男の人。わたしはとっさに、「よそもの」が追いかけてきたという恐怖に襲われる。小さな手下げに隠した木杭に手を伸ばす。
……でも]
……ぁっ……。
神威さん? 神威さん!!
[わたしはほっとして力を抜いた]
神威さんも「狩り」に参加してたんですか?
……こんな時間まで。お昼も食べてないんじゃないですか?
おばさんが心配してましたよ。
早く戻るか……神社に行ったらいいと思います。おばさんにもそう勧めましたし。
[ようやく少し落ち着き、ゆっくりと部屋を見渡す。
部屋の隅には小さな冷蔵庫。その横には二丁の猟銃。
これは自分の物だ。引っ越して来た時に、自分でここに置くよう指示した物。だったら、冷蔵庫の中には冷えた水が入ってる筈。猟銃も手入れは出来ている。
それらが視界に入った瞬間、思い出す喉の渇きと血の味。
冷蔵庫から冷えたグラスと水の入ったピッチャーを取り出し、グラスに注ぐ。ゆっくりとグラスの水を飲み干し、人心地ついた。
ふっと彼の方を見やる。彼も"食事"をする時はこんな感覚があるのだろうか……?]
[桜子に、会えて嬉しいという気持ちはあった。だがやはり同時に、会ってしまったという感覚もあった。己は死んでしまっている。桜子はまだ生きている。生と死の狭間を、強く感じた]
……桜子ちゃん。
[ぽつりと、名前を呼び返し]
今晩は。……いや、私は……
ちょっと、別に様子を探っていたんだ。
……母さん、……そうだね、心配しているだろうね。
[生者であるように装って、言葉を返す。母について触れられれば、一瞬、寂しそうな目をしながらも]
神社に……先生は、今も神社にいるのかな?
……先生にも、暫く会えていなくて。
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