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[何もなければと聞けば、頷いて]
ええ。暑いせいもあるでしょうし……
噂のせいも、あるでしょうね。……いつものように。
兼正の噂が落ち着いてきたかと思ったところだったのですが。
[眉を下げて小さく笑い]
ですが、まあ……
皆さんが噂が出来るくらい元気なら、それはそれでいい事なのでしょうね。先生も大変だと思いますが。
きっと兼正が越してきたら、また話題に……
……そういえば、まだ越してきていないのですよね。
[己で口にして思い出したように、窓の外を見やって呟いた]
─支倉製材所・支倉宅─
[包み込むような虫と蛙と植物の音。
麓の高校にいる昼間には存在しない、確かな「いきもの」の存在感。
わたしはそれが好き]
…………?
[ふと、近所の家の、いつもは暗い部屋に明かりが灯っているのに気付く]
瞳姉さんのお部屋ね。
姉さん帰ってきてるのかな? それとも、おばさんがお掃除でもしてるだけかなあ。
もし帰って来てるなら、嬉しいな。
[大学に入ってしまって、すっかりご無沙汰になってしまったお姉さんの姿を思い浮かべ、わたしはふふっと笑った]
―自宅―
[日の暮れる中、足を引きずって家の前まで辿り着く]
ただいまー。
……ちょっと、もう夜なんだから、鍵くらい閉めておきなよ。
[二階の気配に眉をひそめる。と、母が慌てて降りてきた]
え、掃除しといてくれたの?
……ありがと。
[短く礼を言うと、父ももうすぐ帰って来るだろうとのこと。
挨拶もそこそこに、二階へと登って窓を開けた]
[見つめていた窓にふいに人影が現れると、思い浮かべたままの姿が現れ、ついていた頬杖がカクンとなるほど驚いてしまった]
ひ、瞳姉さん!
わあ! 本当に瞳姉さんだあ!
おかえりなさい!
[何の変哲もない山林の風景。
密かに溜息を吐いていると、近くの窓から声が聞こえたような]
……あ、桜子ちゃん?
[瞳を瞬かせてから、慌ててにっこり笑う]
ただいまー。
夏だからね、一旦帰ってきたよ。
[ちょっと声は大きめに]
[覚えてるまま、と思ったけど、少し違った。瞳姉さんは少し綺麗になったように見えた。
わたしは、なんだか照れて、意味もなくぱたぱたと手を振ってしまう]
昔みたいにさっちゃんでいいよお。
そっかあ、大学はもう夏休みなんだあ!
高校はまだもう少しあるよ。毎日暑くていやんなっちゃう!
[姉さんはきっと帰ってきたばかり、あまりご迷惑かけちゃいけない……と思いながらも、わたしはついつい好奇心に負けてしまう]
ね。大学楽しい?
彼氏、とか……できた?
[きれいな姉さんはきっとモテるだろうなと思いながらも、都会の男なんかに姉さんをとられるのは嫌だなと、複雑な思いで]
え、いいの?さっちゃんって呼んで。
じゃあ、さっちゃんね。
[村を離れるまではそう呼んでいた。
いつの間にか距離を置いてしまっていたのだろうか。軽く苦笑して手を振り返す]
そうだねー。テストも終わったし。
でも、さっちゃんももう少し頑張ればお休みでしょう?
……ん、楽しいかな。
ちょっと、色々ありすぎて疲れちゃったかも。
[都会は何もかもが目まぐるしい。
早速の質問には、大声で笑って顔の前で手を振る]
ないないない!
そんな、まだ入学したばっかりだし!
もちろん! わたしも姉さんって呼んでいいよね?
……うん! あとは期末テストだけ。
良かったら、また暇な時、勉強見てもらっていい?
ええと、姉さんの専攻は確か……だったよね?
[姉さんの変わらない笑顔に、わたしも自然に笑顔になる。
疲れちゃったかも、というのは帰宅までの道のりのことだろうか?、あ、と小さく声が漏れた]
そっかあ。これからかあ。
えへへ、実は姉さんまで結婚して出て行くって言ったら寂しいな、って思ったの。
[ペロと舌を出して冗談にして]
じゃ、また遊びに行くね!
あのね、あのね。
もう一度言うけど……おかえりなさい!
村の設定が変更されました。
― クレオール2階の私室(畳&ちゃぶ台) ―
ンー、今日の来客数と、売上はー…、まあこんなもんデスカネー。
今日もいいとこトントンデスネー。
[帳簿をつけながら、苦笑いした]
もちろん。
いつも通りに呼んでちょうだい。
うん、もちろんよ。宿題でも一緒にやりましょうか。
……テスト、頑張ってね。
[文学部に進学している。一応英語くらいはそれなりに出来る。
結婚、と口にする彼女に、しみじみと頷く。
出来ることならそうしたかったが、言葉を濁した]
拾ってくれる人、いるかなあ……なんてねー。大丈夫よ、大学に行っている間は、絶対帰って来るから。
うん。ありがとね、さっちゃん。
ただいま。
[頷いて、そろそろと窓から離れる。
向こうから見えなくなったところで、もう一度ため息を吐いた]
…………。
[帳簿で数字と格闘していると…、つい、昔のことを思い出す。
6年前の自分が扱っていた数字は、桁が二つ以上違っていた。今思えば、毎日が利益の数字を上げるための戦争だった。そんな中で自分は身体を壊し、同僚たちに追い抜かれる無念で身を焦がすような想いで休職し…。
結果として、自分はラッキーだった。その後の『バブル崩壊』、あの災厄に直接巻き込まれなかったのだから]
(…もう、トーキョーも、ステータスも、ビッグビジネスも、ゴメンデース。この静かな村で、ゴキンジョのヒトとのツキアイを大切にしながら、お店をヤリマース。この生活がサイコーデース)
[立ち上がり、帳簿を壁際の書棚に押し込んだ]
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