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[離れてみれば異常がないように見えるワープゾーン。
だが]
まさかとは思うが、どのフロアにワープするか分からないんじゃ……
いったいどうなってるんだ?
[とは言うものの、身をもって確かめるのはためらわれて。
私はただ黙って、次の手を考えていた――**]
― 4F/階段を上がりきった場所 ―
[ そこは疎らな雪が降っていた。けれど、ある参加者は凍り付いて氷像化し、果てに脱落。澄み切った音を響かせ、氷像が壊れ、暗い影のグラフィクスに変化し− target lose −
命が途絶える瞬間にしては呆気ない光景。
無事なのは、ワープゾーン近くに居るLittle Dancer、Chlonoise、そして「Holy Alter」を展開しているIrvine……Black Dahliaを含め、開始当初初期の狂乱に巻き込まれずにいる強者のプレイヤー達だった。]
……。
[ Clock-eye−時計盤を細める。凍り付きそうな冷気が漂っているものと思われたが、徐々に雪は消えている。「雪」が強く存在しているのは、Little Dancerの周囲。]
( これをLittle Dancerが行なったというの?)
[ Little Dancerは今、階段から離れたワープゾーン付近でChlonoiseと対峙をしている。
Irvineは今、複数のプレイヤーと戦闘を行なっていた。「場」とアタックプログラム、その双方を駆使し戦闘を行なっているように見えた。]
あれは……処刑具?
[ 厳かな雰囲気を湛える場が、Irvineを中心とした半径10mに展開されている。
その中で、あるプレイヤーが両腕を拘束されギロチンに掛けられており、その首が刎ねられる瞬間を目撃する。
また、>>0:21別のプレイヤーは、巨大なメスやレーザー光線を発射する器具の攻撃を避け、もしくは攻撃を弾きながら、Irvineへ刀を振るっている。]
― 1階 出入り口 ―
[アーチ型に切り取られた、開け放たれたままの扉をくぐる。
最初の狂乱から逃れようと外へ出たプレイヤーが数名、いたはずだった。
温い雨の中へそのまま踏み出そうとして、ふと自身の濡れた髪に触れる]
あめはいたい
[模倣のプログラムであるinvidiaが付加機能を展開させた。
ソレの灰色の髪の上に、石突きに歪なハートの飾りのついた黄色い雨傘が出現する。微弱な攻撃性プログラムが傘を叩き、世界の音が変わる]
…だいじょうぶ
[素足をグリッドの入った黒い床に進める。
びしゃびしゃと水を跳ねながら、ソレはまず塔の周りを一周しようと扉から離れた]
[ 刀を扱うAI−今、脇差を更に抜き、9つのドームを支える柱の間を、柱を蹴りながら軽々と移動し続け、Irvineを煙に巻こうとしている。
対して、Irvineの指示は的確だったが、AIの反応速度に追いついていない。
鋼鉄製の箱、同じくリッサの鉄柩、圧死を齎す超重量の車輪、赤く熱された棘が構築された檻、触れれば鋸で引いたように醜い傷跡を残す鞭。
「Holy Alter」が展開し追い縋るそれら全てを、刀を扱うAIは回避し、Irvineに接近する。]
……!
[ Irvineの肩口が切り裂かれ、微細なクラスタが辺りに散らばった。血液を飛び散らすようなエフェクトは実装していないのだろう。]
[ 刀を扱うAIは、跳躍・後退。鋸状の鞭を、脇差が掃い、半径10mより下がった。
Irvineは、そのAI−Mushaというエントリーネーム、濃紺色の姿をした−を歪んだ笑みを向けながら睨みつける。
その笑顔は、愉しいのか憎しみを浮かべているのか、分からない。愛憎合い半ばなのかもしれなかった。]
( 彼に、黄金の光は宿っている。)
[ 本来の視界に重ねあわされるように、煌くクラスタ−▲を三等分したようなものが見えている。
その事には、やはり皆気付いていないように思える。]
……。
[ Irvineが笑いながら、別のプログラムを起動する。Mushaが、駆けるその傍らで、先程>>97首を刎ねられたプレイヤーがBack upを利用し、復活を果たす。
収束する光、鮮烈な赤、禍々しい色はアタックプログラムを復帰と同時に仕掛ける事の予兆だった。
凝縮した輝き、赤の魔法陣が先に空間に現れ、続いて人型が構築されてゆく。時計回りに回る魔法陣の周囲に描かれた●から、Irvineの場を破壊しようとする凶悪な凶ツ星が吐き出された。
その数、8つ。]
[ 8つの赤い凶ツ星、破壊を齎す赤い彗星に薙ぎ払われる「Holy Alter」の処刑具。Mushaは、灼熱地獄と化した「Holy Alter」の中を一線に駆ける。
「Black Dahlia」の攻撃、レーザー器具による照射を回避し、レーザー器具の一つを下から上へ断ち割り、Irvineの胴を薙ぐ。
Irvineの傍らを駆け抜けた直後、もう一つの刀で心臓を破壊。Irvineの消失。しかし、光点は消えていない。
復活のポイントを探すように、復帰したプレイヤー−Merlinが辺りを見回す。Mushaとの連携を見る限り、協力体制を一時とっているようにも思えた。]
[ Musha、Merlinの状態が変化したのはその直後だった。
先程、Irvineを破壊したMushaの切っ先がMerlinへ向けられる。]
「チッ、私の次はお前の番か!」
[ Merlinが、憎々しげに叫びながら次は青の陣を展開する。]
「さっさと正気に戻れ!」
[ 知る由はなかったが、仲間割れと見えるそれは「Forgotten」、MushaがIrvineを破壊する前に起動させたプログラムの効果だった。
機動力、そして攻撃力に優れたプレイヤーが混乱に陥れば、これ程怖い事はない。]
[ Musha、Merlinの混乱を横目に、Irvineが、破壊された場所から離れた場所で復帰を行なう。その姿は、影が蠢くように黒い。
やがてIrvineが、黒玄の人型から元通りのカラーへと戻る。しかし、「Holy Alter」は破壊された様子だった。
残るプログラム、対象の解体を目的としたアタックプログラム「Black Dahlia」、そして「Forgotten」を即座に起動出来る待機状態に移し、Irvineは周囲を眺めた。]
「新たに目晦ましのプログラムでも組むか?」
[ Irvineは小さく呟き、アタックプログラムを戦い合う二者へ向けて差し伸ばした。*]
― 1F ―
[少年は1Fを彷徨っていた。
階層を移動するならば、ワープゾーンなり階段なりを見付けねばならない。
今まで使用していたワープゾーンは、先程the noiseと交戦した場所にあったため、彼から逃走した今は必然的に離れてしまっている。
尤も、彼が戦闘直前にやっていた事を考えれば、もはやそのワープゾーンは機能していない可能性すらあった]
この階のおもちゃも楽しいけど、そろそろ他の階でも遊びたいなあ……。
[少年AIの思考は、より有利な状況で戦う事よりも、この遊びに"飽き"を感じない事を優先した。
しかし、絶えず歩き回っていた足も、止まる時が来る]
……なんだ、あの子。
[視界に入ったのは、青色の短い髪の少女>>88だった。
少年の足を止めさせたのは、彼女の外見が自分と同じくらいに幼いから――ではない]
目が赤くて……まぶたが、腫れてる。
……何かの、感情表現、かな?
["泣く"という行為は知っていても、現実世界の人間が泣いた時に身体に残る影響を、少年は知らなかった。
随分と高度な感情表現をするアバターの後を、少年は追った]
―4F なごり雪の降る転移点―
ここにいる、と言ったら信じてくれるので?
[小首を傾げてわざとらしく問うが、MARIAに頭部を踏みつけられたままのアバターが叫ぶ。『誰が信じるものか!』]
生にしがみつくのは良いことです。実に素晴らしい。
誰だって死にたくはありませんからね。――私も、生きましょうとも。
[こちらも同じスタンスである、と言外に告げる。見た目だけなら人好きのするだろう笑みを浮かべたまま、ワープゾーンを使おうとする女を見送ろうと。]
[しかしワープゾーンは作動しない。先ほどとは明らかに挙動を変えたワープゾーンに警戒し、女アバターは身を引いた。]
――ワープゾーンに手を出した者がいるようですね。
面白い。
[何処にワープするかわからない、という予想に興味を惹かれ。戯れに身体を触れさせてみれば、なるほどたしかにノイズを吐くようだ。]
あちらも騒がしくなってきたようです。
下手事に巻き込まれる前に、退散させてもらいましょうか。
[あちら、とIrvineらの戦闘を見やる。舞うように標的を狙う処刑具の数々に(良い趣味だ。)と笑みながら、彼らの"潰し合い"にGood luck.と心のなかでエールを送った。]
それ、眠らせておきなさい。
[MARIAの足元でなおも生かされていた参加者を指す。その指を上へ向けると、女中はアバターの体躯を思い切り蹴り上げた。白いモスリンの内スカートまでも翻り、ドロワーズが晒される。
高い天井にはアバターはぶつからない。空に打ち上げられた身体はそのまま床面に落下し、意識を失ったのか動かなくなった。
敗退者表示は、出ない。]
[男は眼鏡を直すと、MARIAを従え、ちかりと光る瞬きと共にノイズまみれのワープゾーンに飛び込んでいった。**]
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