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――観戦スタンド――
[広大な戦闘空域を見渡せるスタンド席は、すでに大半の席が埋まっていた。少女は最上段の立ち見エリアから、階段状に並んだ観客席を眺めおろす]
すごい人の数……まだここから、もっと増えるんだよね。
なんか、想像できないよ。
初めて見た。こんな人だかり。
[と、何かアナウンスが流れた。内容を聞き漏らし、誰かに尋ねようとするものの、手元の端末と空域を見比べる人々の様子におじけづいてしまった]
[青いBFが煌いて、いっせいに星型の散弾が襲い来る]
(分かっているね。このセンスは好きだ)
[私は呟いて、身を翻した。
散弾をひきつけるように大きく大きく空域を移動。
ある程度迫ってきたら、鬣を翻してくるくると時折腹を上向きにして回避する]
[けれど、そのうちのいくつかは、自分の動きだけで回避しきるのは難しい。慣れない大きさのフィールドは、厄介だ]
[風渦巻く人工の谷の上。いくつかの星に、囲まれた。
本戦ならば、何とか駆動だけで切り抜けることを考える位置。けれど、今、傷を負うのは良くない。痛覚はこれでも生きているのだ]
[私は、散弾にわざと追い込まれながら大きく息を吸った]
[そうして、巨大な炎の渦を吐いた。
コストパフォーマンスから見れば、派手に、無駄に]
―格納庫―
[男は機体から、あのへんてこりんなBF、メテログラフトの調整を見ていた。
俺にはさっぱりだが、担当研究員長ならわかるんだろうな]
しかし、あのへんてこりん
屑とぶつかって星屑になったら面白いだろうな。
[オープンチャンネルで機体に乗り込んでいるものなら聞こえるように挑発する]
―格納庫―
スネイルネン、ただいま…!
…あら?
[格納庫に駆け込むと、一目散に自分のBFへと向かった。
ところが、普段見かけないものがマリンブルー・スネイルに追加されている>>188]
スネイルネン、これ…何?
どうして、こんな酷い事…。
[追加されていた物体は、ステーキ肉が付いたままの串。
...は震える手でそれを取り、カバンから携帯用の袋を出してそこに放り込み、口を閉じた]
噂は耳にしているよ。私の記憶している限りでは、大会の参加者は若くても高等教育を出たかその途中、位ではあるが、君はそれよりも若い。
その年齢でBFを操ることが出来、それだけではなく大会に出る事を選んだ、というのは珍しい事だから印象に残っていたんだ。
[ロジャーのへへ、と笑った顔は、昔にあのグレンが見せていたような表情よりはさすがにわかかったが、憧れのパイロットを目の前にした時の目の輝きはそれに近い物であった]
ロジャー・ブルー。いい名前だ。覚えておくよ。
私も君のような可能性を秘めた者と手合わせを出来ると思うと嬉しいよ。
私に敬意を持つのはありがたいが、私も子供だからと言って手加減はしないさ。空に一旦上がれば、そこは年齢も性別もどの位BFに乗っていたかも関係は無い、戦いの世界だ。
私も勝つつもりでこの戦いに、そして君に挑ませていただくよ。
次に会う時は空になるのか。君の戦い方が楽しみだよ。
ロジャー・ブルー。
[ロジャーの見せた参加者用のピンバッジに敬意を示し、ロジャーと別れる]
――観戦スタンド――
[客席のざわめきが、ひときわ大きなどよめきへと変わる。
空中を指差す観客達。
はっと見上げた方向には宙を舞う水晶竜の姿と、地上付近から撃ち出された星型のエネルギー弾の群れ]
あんなのも、出るんだ。
……綺麗、だな。
[それはどちらに向けられたものか。角度の広いコーン型にばら撒かれた弾幕はきらきらと七色に輝きながら、飛翔する竜へと迫る]
おい。
まだ「大会」は始まらないのか。
[後ろを振り返らずに。]
「定刻通りの開始。大会本部の決定はそうなっています。」
フン
悠長な事だ。
―――
[シュッ。
クロノの眸だけを残像として残し、格納庫内を振り返る。]
BF乗りに憧れる子供は決して少なくは無いが、あの年齢でそれを叶える子供はそうそういない……。
面白そうなBF乗りに出会えて光栄だよ。
ロジャー・ブルー。
[大空の色と同じ言葉を名前に持つ少年の方を見ながら呟いていると、空では既に軽い弾幕ショーが始まっている。
観客のざわめきと音に気が付き、空を見上げると二機のBFがいる]
[何か退屈しのぎはないかと、格納庫内を見ていると
あの蝸牛型のBFの前に操縦者らしき女がわなわな震えているのが見えた。
端末を作動させ、データを調べる]
あの女が、気持ち悪いBFの操縦者か。
お前はその蝸牛と共に地を這うほうがお似合いさ。
[いやみのようにひらひらと手を挙げる。
ただ操縦席の中は、外からは見えないつくりなので、女がBFに乗ってから見ることになるだろう]
―格納庫―
[...は頭をぶんぶんと振り、串が置かれていた箇所の汚れをハンカチで拭き取った]
…こんなに人が多い所だもの、よく、ある事だわ。
ごめんね、スネイルネン。
[曲線を描く機体に触れ、声を掛けても返事は無い。それでも...は延々と語り続ける]
――観戦スタンド――
[回避を繰り返しつつも数発の被弾をこうむったドラゴン。
とはいえ“殺意”のある弾幕ではない、いわば模擬戦のための一方的な射撃なのだろうか。そう少女が考えたとき――]
『――おっ! 出るぞ!』
『ウィルアトゥワのブレスか! 撮らなきゃな!』
[周りの男性数人が期待に満ちた歓声を上げた。あるいはハンディカムを構え、あるいは多目的バイザーの操作ダイアルへと手をやっている]
……ブレス?
[全開にされた水晶竜の口から、轟、と大きな火炎の渦が巻き起こった]
―― 空域 ――
(それは、本戦まで取っておくことにするよ)
[オープンチャンネルで入ってきた声。
おそらく、参加者なのだろう。
低い、低い声でくつくつ笑いながら返した。
もっとも、その直後から余裕などなくなってぶつんと切れたのだが]
―― 屋台村 外れ ――
『何、あれ。ウィリーってば、馬鹿なの?』
[溶けかけのアイスクリームを片手に、
マリアはぽかんと口を開けて空を見上げた]
『テスト飛行は弾幕使わないって言ってたのに』
[マリアは首を傾げる。
どうせ、会社の決定なのだろうと分かるけれど。
こうした不測の事態でもマリアが動けるように私がマリアなのだから]
[マリアが手にする、商談中の極彩色な謎の機械が揺れる]
へぇ…あのサイズであの挙動か…
[星屑の群れを避け、炎を吐いて蹴散らす竜を見上げて呟く。]
なるほど、羽ばたき運動の切り替わる瞬間と、ブレス前のタメのタイミング…か。
―― 格納庫 ――
こそこそと呟く卑怯者か。
[かっちん こっち かっち こっちん
騒がしい筈の格納庫内であるのに、時計の歯車のような音が聞こえる。だが、規則正しいというよりは、何処か、狂ったような数種類の歯車の音だ。]
まあいい。
[すぅ、とその音は消える。
クロノの呟きは、BF内部からでは集音されてなければ聞こえない小さな呟きではあったろうが―――]
あと暫くの辛抱だ。
チキュウが有能だと?
有能であるのは、ワレワレラントだ。
忘れさせるか。忘れさせてたまるものか。
[クロノはメテログラフトを斜めに振り返った。]
ふぅん?
ふむふむ…
[星屑の散弾を交わしていくドラゴンの身のこなしは予想していたよりも軽快で、けれど想定の枠を大きく外れるほどでもなく。
追い詰められていながらどこか余裕を感じさせる挙動に、これは何かあるな、と思った、その瞬間]
…おおー…
[ドラゴンの口吻から放たれた、轟炎。渦を巻くそれは迫っていた星屑を焼き尽くして、消えた]
なるほど。
回避できずとも防御の手段はある、と…。
けれど、それをこうもあっさり手の内をさらすということは…
[見たところ、轟炎の威力と効果はすばらしいものがありそうだが、範囲や射程を考えれば迂闊には使えない代物であるように思う。まだまだ奥の手があるのか、それともあるいは勝とうというつもりが元々ないのか。
パフォーマンスを好んだ外観からして、後者の可能性は十分高いように思うけど…などと。
空中での“ショー”に沸いた一般客が盛り上がる周囲をよそに、フヅキが宿った端末とにらめっこをしながらそんな風に分析して]
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