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[数刻後に、はたりと瞠かれたまなこがある。
凌霄家の寂びれた地下工房から、一羽の鷲が飛び立ち、
たちまち遥か上空へと舞い上がった。
高く高く霄を凌ぐ、その軌跡で。
俯瞰する街並みは昇りくる朝陽に照らされ
紫外線も含め豊かな色彩を朝靄の向こうに垣間見せる。
投げかけられる光の六角矢、
鳥目に映る画像を視覚共有する先は、
――今は亡い。]
[それでも、僅かな魔力の残滓に惹きつけられ、
低空を滑空し――羽ばたきで灰が散った。
色彩の存在を許さぬように、焼け野原の焦土と化した数ホール。
高音で炙られた遺体は骨まで炭化して原型を留めて居らず。
髪の一筋、爪の一欠とて、故人を特定できるものはない。
残り火は炭を灰へ、後は風にさらわれて還るだけ。
雪よりも微かに、さらさらと。
唯一残るのは、煤けて歪んだ、開かない懐中時計。
秒針は持ち主の鼓動と同じく
深夜二時五十六分で止まったまま。
蓋には引っ掻いたような傷が斜に走り、
その上からどす黒い血痕がこびりついていた。]
[契約主だったものの遺灰を啄ばむこと暫し。
やがて呪縛から解き放たれた鷲は、
野生を取り戻し、有賀市の都会の喧騒から、
逃れるように*飛び去った。*]
……ねえ、
『 』
一晩中──抱いて、抱かれたって。
手に入らないわ。
[回される腕に小さく抗うように首を振りながら。
それでも欲しいのならと、甘い声で囁いて。「サーヴァントとしてではなく」と言う言葉に応えるよう、魔力のパスを一時的に遮断する。
絹のガウンがすべりおちる音。
おしげもなく晒される裸身。
月の光が眩しくとも、カーテンは閉ざさない**。]
(11)3d_4
雨のなか。河川敷から離れながら、久谷は呟いた。
「……赤毛の女、ですか」
暴力団の事務所が潰され、銃と現金が奪われた。
構成員らの証言から、有賀市警察が重要参考人として行方を追っているのが、赤毛の女と金褪髪の男の二人連れだった。
それが、梨和里山の付近で目撃されたという。
河川敷で発生した異常な現象――轟音と共に巨大な竜巻が巻き起こり、川の流れが変わるほどのクレーターが出来た――を調査にきていた幾人かの警官から一人が向かうこととなり。
そちらの巡回を志願したのが、久谷だった。なにしろ、職務中、同僚の前でアープと話すわけにもいかなかったので。
「……どう思いますか、アープさん。その、聖杯戦争……と、関係はあるでしょうか?」
「俺の勘では、あると思うが。関係があろうとなかろうと、犯罪者なら捕えるのだろ、マスター?」
「それは、勿論です」
正確にいえば、まだ、赤毛の女は犯罪者と決まったわけではないのだが。
久谷は、漠然と、その女が少なくとも銃刀法違反と器物損壊を犯していると思っていた。
何故そう思うのかという理由は、考えようとすると、ぼやけてしまって判らなかった。
「――……痛っ」
ぴしりと、右手の甲が痛んだ。令呪――というらしい痣――が、あるあたり。
ちらと、アープの様子を窺う。特に、変わった様子はない。であれば、この痛みは関係はないのだろう。
ひとり得心して、久谷は雨のなかを歩いた。人気の少ない、旧い公園跡のある付近。ばしゃばしゃと、水溜まりを割って駆ける足音がどこからか聞こえる。
ブロック塀で視界の悪い、角を曲がろうとして――勢いよく走ってきた誰かと、正面から衝突した。
慌てて、身体を起こして。同じように立ち上がりかけている女性に、声をかけた――赤毛の、外国人女性。
「あっ、たっ――……だ、大丈夫でありますか!?」
「……お前、あのときの警官――……、」
――よくわからないことを、赤毛の女は言った。
会うのは、初めてのはず。知らないはず。私は何もしていなかった。あの日は何も見ていなかった。
いや、本当にそうか? 本当はなにかを見ていたのではないか? なんだ、何を自分は見ていたのだ?
「――……クソッ、何故、お前がマスターに……!?」
赤毛の女が、懐に左手を差し入れ、抜き放つ様子がスローに見える――女の手には、大口径のリボルバー。
「――ッ!!」
――三丁の銃が、抜き放たれる。
もっとも早く照準を合わせたのは、もっとも遅く動き始めたアープの銃口だった。赤毛の女の頭部を、しっかりと狙っていた。
「……動くな、とは言っておこう。個性のない台詞で、申し訳ないがね」
赤毛の女の構える銃口は、上がり切る前の中空で、ぴたりと止められている。その延長線上には、久谷の腹部があった。
あれだけの大口径拳銃なら、撃たれるのが頭でも腹でも変わらないのじゃあないか。久谷は、そう思った。久谷の拳銃は、未だ、明後日の方向のアスファルトに向いていた。
「……何者だ、お前。銃を使うサーヴァントなんて、聞いたこともない」
「そうだな。……お前さ、アメリカ人だろ?」
赤毛の女が、僅かに頷く。楽しげに、アープは笑った。こんな状況で、笑えるなんて。自分は、卒倒しそうなほどに緊張しているというのに。
「――じゃあ、当ててみな。俺の得物が、なんだか判るか?」
赤毛の女の瞳に、一瞬、怒りが浮かんだ。馬鹿にされていると、思ったのだろうか。だが、その色は直ぐに消えた。
「……"ピースメイカー"。コルトSAA、だろう」
「……いや、ただのSAAじゃあない。その、非常識なまでのロングバレル――……まさか、お前」
「ハハ、正解だ。この状況で、よく見たな。褒めてやるよ」
「――ご褒美、ってわけでもないが。サーヴァント、喚んでいいぞ。一人歩きのマスターなんて、俺は撃ちたくない」
――赤毛の女は、応えなかった。ただ、降りしきる雨が一瞬、靄となってみえた。奥歯を噛み締める音が、聞こえそうなほどの形相。
「――良い銃だな。コルトか?」
唐突に、アープが言った。言葉とは裏腹に、銃に視線を向けるでもなく。静かに、そう言った。
雨粒が、アスファルトを叩く音。幾らかの間を置いて、探るような、赤毛の女の声。
「……S&Wだよ。M329……少し前まで世界最強だった拳銃の、軽量化モデルだ」
「ほう、世界最強」
「……ああ。グリズリーでもバッファローでも、一発で仕留められる」
「そうか。それは、クールだな?」
数瞬。赤毛の女が、大きく、息を吐いた。肩の力を、微かに抜いたような。瞳には、何かを理解した色。
「……ああ、クールだろ」
(12)3d_5
「――……来い、セイバー」
赤毛の女の左腕――手首と肘の中間くらいが、濡れて張りつく服の上からでも判るほど、輝いて。
迸った光のなかから、それまでなにもなかった空間へ、長身の男が――金褪髪の男が、唐突に現れた。
「……マスター!!!!」
白刃を煌かせ、セイバーと喚ばれた男は、赤毛の女とアープの間を斬り割った。
女をその背に庇うように、割った空間に仁王立つ。
なんという、圧倒的な存在感。彼もまた、アープの同類なのだろう。久谷は、感覚的にそう理解した。
「……済まんね、ヘイズ」
「いや……構わんさ。が――……、」
金褪髪の男、セイバーとやらの訝しげな視線。だが、疑問などなにもない。何故なら。ワイアット・アープという存在にとって、むしろ、これは当然のことなのだ。
「――さあ、決闘だ!!」
アープの叫ぶ、歓喜さえも入り混じる声。OK牧場のつもりか、呟く女の声は忌々しげでもあり、微かに、嬉しそうでもあった。
――小さな公園跡。雨音を裂いて、数多の破裂音と金属音が響き渡る。
アープが銃を放ち、セイバーが弾く。目にも止まらぬ速度で双方が駆け跳んでいても、基本的には、その繰り返し。
ただ、明らかに、圧しているのは輝く剣を振るうセイバーであるようだった。
何かの瞬間に、セイバーが深く踏み込む。赤い血を散らすのは常に、アープの側だった。
久谷には、それが信じられない。銃が、剣に圧倒されるということが。
いや、信じられないのはそこではない。あの、ワイアット・アープが。正義の象徴たる彼が、圧されているということが。
「――……お前、魔術師ではないな?」
「そうですが……それが、何か?」
ぽつりと、赤毛の女が口を開いた。銃口こそ下ろしているものの、互いに、銃は握ったまま。
勿論、久谷は常人である。隠すでもなく、肯定の意を示した。赤毛が、大きく息を吐いた。
「……サーヴァントの能力は、マスターに与えられる魔力に左右される。無論、元々の格もあるがね。
私の魔力は、別に多くも少なくもないが――巻き込まれただけの一般人と比べれば、天と地の差があるはずだ」
魔力。そんなものが自分にあるとは思えない。とすると、どういうことになるのだ。久谷は、首を傾げた。
「その……つまり?」
「勝敗は、歴然。お前のサーヴァントが消える、というだけだ」
「そんな、今すぐ、決闘なんて止めないと……!」
「決闘を望んだのは、私じゃない。ヘイズを喚ぶまでもなく、私を殺せたはずなのにな。
ま……ワイアット・アープが、それを選ぶとも思えないが。正々堂々。まさに、アメリカの正義だな」
一瞬、微かに笑ったあと。赤毛の女は、久谷に視線を向けた。剣呑な光に満ちた、冷たい眼。
「……どうにかするとすれば、お前だよ、警官」
「マスターとの繋がりを断たれれば、サーヴァントは一気に力を失い、いずれ消える――お前が、私を撃てばいい」
苦戦するアープを助けるために、眼前の女を撃つ。市民を護るための力で、人を殺す。有り得ない、選択だった。
「そんなことは……出来るはずが、ないでしょう」
「ハッ……なら、諦めるんだな」
鼻で、嗤って。赤毛の女は、拳銃を握った左手を、懐に収めかけた。久谷の両腕が、跳ね上がるように動いた。
「――戦いを、止めさせて下さい!!」
再び構えた銃口を、赤毛の女に突き付けて。久谷は、ただ、戦闘の中止を要求した。
「――私は敵だぞ、警官。止めたければ、撃つんだね」
僅かに、苛立ちを含んだような声。女の視線は、久谷の瞳へ注がれている。銃口など、まるで見ていない。
「止めないと……撃ちます」
「だから。撃てと、そう言ってるだろうが?」
「……なんで、撃つ必要が」
「正義は、力で貫くものだ。平和は、力で維持するものだ――止めたいなら、撃て!」
「――無抵抗のあなたを撃つ理由がありません! 本官は、警察官です!!」
久谷の銃口が、揺らいだ。抱いていた決意とともに、揺らめいた。
アープがまた、血を流す。段々と、捌ききれなくなっているのだ。
「チッ――覚悟もないのに銃を持つな、ジャップ! お前はもう、聖杯戦争の舞台に上がっているんだ!!」
怒りも、露わに。赤毛の女が、銃口を久谷に向ける。黒く深い丸穴が、久谷の瞳を覗き込む。
「さあ――これで理由が出来たか? 撃ってみろ!!」
「どうした――撃てよ、臆病者!!」
≪――撃て!≫
「――C'moooon!」
「くそぉッ――……!」
久谷の指が、引き金を半ばまで絞った――その、瞬間。
白く、滑らかななにかが――奔ったようにみえた。
「――あん?」
ばづん、と。間抜けた音を立てて、女の左腕が飛んだ。
その腕が、握ったままの拳銃ごとばらばらに刻まれ、挽き肉と化して地面に撒かれるまで、数秒と掛からなかっただろう。
その、冗談のような光景を。呆然と、久谷はただ、眺めていた。
「……ば、か――避けろ、警官!!!」
「え――……、」
女に体当たりをされるようにして、久谷は、濡れた地面に倒れ伏した。
二つの、叫び声。銃声。それらはほとんど同時に起きて、そして、久谷が身体を起こす前に、すべて終わっていた。
「……敵を庇って傷を負うなぞ、君らしくないぞ、マスター」
刃を納めた、金褪色の男が。左腕を失い、腹を裂かれた女に、苦い視線を向ける。
「……君もだ。何故、私を無視して、アサシンを撃った」
迫った刃を避けもせず、アープは、アサシン――というらしい――へと、射撃を集中した。
結果、横合いから仕掛けてきた輩の不意を突いて痛撃を与え、撤退に追い込んだものの。
代償として、アープは、真一文字に胸を裂かれていた。傷は、決して浅いとはいえないものだった。
「アメリカ人だからね……不意討ち、闇討ちなんてのは、許せないんだ」
「そのとおり。一対一の決闘に横槍を入れられるなんて、俺は絶対に許せん」
「……理解は、出来んな」
ふるりと、金褪色が首を振る。久谷にもまた、理解は出来なかった。
「かもしれんがね、ヘイズ……これが、アメリカだ」
「ああ、そうだ。これぞ、アメリカだ」
嬉しそうに、アープが頷く。
ぱん、と。軽く、二人のアメリカ人が、手を打ち合わせた。
赤毛の女とアープだけで通じあっているようで、久谷は少し、面白くなかった。
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