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ならば北へ。
[民家を越え踏切りを通過し、樹那町を南北に縦断する。
叩きつけるような雨の勢いは衰える様子がなく、やがて林立するビル群が行く手に見えてきた]
サーヴァントを御するもマスターの手腕じゃ。
小細工なしの対決を聖杯にまで願う英霊に、
信条に背くような行為を強要はせぬよ。
[顔は彼方に向けたまま。
傍らを疾駆するアーチャーは、病み上がりの身を慮って加減はしてくれているのだろう、呼吸は乱れていない]
……卑怯な手は打たずとも、
おぬしなら無様に敗けることはなかろうと、
信頼しておる故じゃ。
期待に応えてくれれば、それで良い。
[雨は降り止まぬ。
アスファルトに打ち付け
濁流を作って下へ下へ流れていく。
その水音の合間に、主の声を弓兵は確かに拾う]
――…感謝する。コチョウ。
[少し低く、静かな声だった。]
無論。
――応える心づもりだ、我が主。
[廃ビルの群れはもうすぐそこ。
割れた硝子の破片が僅かに届く
街灯の光を捉えて鈍く光った。]
うむ。
[顎を引くようにして頷く。
区画整理され無機質な直線で構成されたオフィス街。
道路脇の排水溝がところどころ増水で溢れているのを確認して、顔を顰めた]
逃走経路に地下は使えぬな……。
[今頃マンホールの下は酷い有様だろう。
舌打ちをしたところで、未だ取壊されていない、数年前に放棄されたらしき建物を見つけた。
外付けの非常階段は、元の色も分からぬほど錆びていて、窓硝子は悉く割れている。
周囲のビルにも人の気配はなく、電灯の明かりは漏れていない]
ここいらなら、多少暴れても問題なさそうじゃな。
ちと、屋上で見張りをしておれ。
敵を見つけたら攻撃しても構わぬ。
[何を敵と見做すかは本人任せ。
半壊した屋上からの雨漏り。事務所だったらしく、置き去りにされた大量のデスク。瓦礫の山と青いシートを踏越えながら、防火扉等をチェックする。
近辺で戦闘になった際、身を隠すにはよさそうだ]
―北ブロック―
[雷雨の中、ビルとビルの隙間を当ても無く歩く。
街灯の灯りは昼と呼ばれる時間から薄暗い街中を照らしていて、夜になった今も、周囲が少しだけ濃い暗闇になっただけで、時間の経過がよくわからない。]
……。
[姫倉との会話から、心の中で渦巻く何かがある。
自分はきっとそれの正体を知っている。
けれど、そんなものは知らない、という風に目を逸らす。]
……あっ
[ぼんやりと思考の闇を彷徨っていると、アスファルトの継ぎ目部分に足を引っ掛け、盛大に前のめりに倒れた。]
ばしゃん
[小気味良い音をたてて、水溜りに顔から突っ込む。
しばらく時が止まったようにそのまま停止していたが、そのうち肩が小刻みに震えだし、かばりと顔を上げた。]
……ええと…。
[傍らの英霊を見上げる。]
[一体何を探しているのか。
戦相手か、
失われた柄か、
それとも、先程の原因か。
未だに胸に燻っている憤りを感じながら、暫く歩けば
突然後ろから、間の抜けた声とベチャリという物音。]
……何してやがるんですかい、嬢。
―北ブロック―
――…そうだな。
[防ぐもののない窓から、
雨は容赦なく降り注ぐ。
きしり、と足の下で硝子が啼く]
承知した。
[云い置き、屋上へと向かう。
昼間駆け上った廃ビルとは違うらしい。]
――…
[視界は不良、額に手を翳して夜に沈む街を見下ろした。]
………急に、この地面が大好きになっちゃいまして、熱い包容を交わしていた所です。
[そう言って、泥水にまみれた顔やら服やらを、被害を免れた袖口で拭うも、汚れは一層広がるばかり。
大きなため息を吐いた。]
…一度、ホテルに戻って着替えてきます。
大丈夫、すぐ戻ってきますから。
[一人にはならないし、と付け加えると、大通りに向かって手を上げて、流しのタクシーを捕まえる。]
……そりゃ、熱烈な話で。
思わず妬けちまいますわ。
[はぁ、と一つ溜息。
ホテルに戻るといえば、了承の意を示す。]
このブロックのどこかに居ますわ。
嬢なら、俺の場所は大体解るんでしょう?
私、情熱的なんです。
[出された溜め息は聞こえなかった事にして、続く言葉にはこくりと頷く。
タクシーに乗り込むと、こちらの格好に少し唖然としていた運転手に行き先を告げた。]
[タクシーで走り去るのを見送れば、再び散策へと。
――今まで行われた戦闘は五度。
黒衣の男
スカアハ
竜
アーチャー
そして、キャスター
中には戦闘の意思を無くした物などもあるが、
討ち洩らしたと言われれば、首を縦に振らざるをえない。]
……あと一手、足りませんな。
―北ブロック/廃ビル屋上―
――…、
[手すりに置いていた手がぴくりと動く。
屋上から見下ろす、遥か下。]
…、 ―
[居る、と。静かに眼を細め
闇夜に金の弓を編み上げた。]
―北ブロック/廃ビル付近―
[未だに強く降り続く雨。
むしろ雨脚は次第に強くなっている感すらある。
そんな中、ふと感じる微かな気配。
傘を降ろし、雨に濡れながら上方を見上げる。]
………。
いやがる、な。
―中央ブロック・ホテルパシフィック―
[タクシーをエントランス前に待たせると、急ぎ部屋に戻り、汚れた服を脱いでから、洗面所で顔を洗う。]
……。
[服を脱いだ自分の姿が、洗面所の大きな鏡に映る。
その下腹部には、蚯蚓腫れのような痕が三つ。
これが自分に与えられた令呪であり、刻印。
そっと、掌でそこをなぞると洗面所を後にした。]
[ベッドの脇に置いてあるバックの中から、変えの服を引っ張り出して急ぎ袖を通す。
着替え終わり部屋を出ようとして、はたと気付くと再度ベッド脇まで戻る。
開けたままのバックの口から、少しだけ見える和紙の包み。]
……そういえば、聞くのを忘れていました。
[そっとその包みを手に取ると、雨に濡れないように懐にしまい、部屋のドアを*開けた*]
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