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[声の主が立ち去った。闇が晴れていく。]
我が輩はもうこりごりだ。
次の機会は他の輩に任せるであるよ。
[掲げていた右腕をぱたりと床に倒し。
果たして願いは叶うのかなどと考えるも、サーヴァントとなった身ながら、いまは深く眠りたいと意識を閉ざした。*]
[「聖杯」は、最後に肩をすくめたようだった。
その姿は、ナルキッソスのそれと重なっていた。
声は届かないが…
その口は「じゃあね」と動いたようだった。]
[闇が沈み、やがて見えなくなっていく。
すっかり闇が晴れた後には、願望機としての役割を果たすべく力を満たした聖杯だけが残っていた。]
・・・・・・
[空が晴れていく。3年前から続いていた闇が消えていく。
全てを失い、沢山の物を破壊してしまった。
取り戻せはしない過ちを多く背負った。
しかし、無頼はいまだに生存していた]
[自害や介錯の願いも考えた。
だが、最後のナルキッソスの言葉を思い出し、少しだけ踏みとどまっている。
周囲を見回し、神社の境内の隅に退避し事の終わりを見守っていたラナを見つけ、ゆっくりと近づいた]
生きていたか。
ナルキッソスに何を頼まれたかは判らないのだが、最後に君を頼むといわれた。
少なくとも、バーサーカーがいた頃に君に色々嫌な事を言ってしまった。すまないと思っている。
[近付く気配。ゆると其方へ視線を向けて――
じり、と。一歩後ずさる。身構えるのは当然とも言えた。
聖杯戦争は終わったと言え、 流石に、過去にあり過ぎる。]
――…、当然。簡単に死ぬ心算は無いしね。
[死なないよ。 一つ溜息混じりにそう呟いた。
セムルクに、生きてくれと。 そう言われた。
…その彼の望みを叶える為に、此処まで来たのだから。
謝罪の言葉を聞きながら、一つ肩を竦めた。
全く、随分な事を言われた記憶は、ある。]
謝るぐらいなら、初めから言わなければいーのに。
…本心だったんじゃなかったの、アレ。
――其れでいて謝られたら、逆に怒るよ?私。
頼まれた?
…って、おにーさんに判らないのに。
[自分が判る筈がなかった。
ナルキッソス。 先の戦闘の時を覗けば、一度逢ったきり。
セムルクと共に逢って、暫くの会話を交わして。それきりだ。
――それ程に、気を掛けて貰った記憶は、 否。一度灰銀を瞬く。
そういえば別れ際に――彼らの望みと、
矛盾する事を言われた記憶はあるけれど。
…この結末に、彼がどう思ったのか。今更知る術は無い。]
本気だったさ。君からそういう迷いを感じていたから、君なら俺の思いを理解してくれると思った。
だが、今の君の眼はそうではない。
俺とは違う答えを出したんだと感じた。
だから詫びた。
ナルキッソスも、そうだったんだろう。
君はバーサーカーの傍にいながら闇に引き込まれなかった。
ナルキッソスは、俺が闇に飲み込まれることを心配していた。
君にも、似たような思いを持っていたのかもしれないな。
[聖杯のほうを振り返る。もはやあのどす黒い聖杯ではなくなっていた。
ならば、やはりあの聖杯はこの俺の心の闇を具現化したものだったのかもしれない]
――…評価して貰って喜ぶべきところなんだろうけど。
…私が、おにーさんに謝ってもらう権利は、無いよ。
[――確かに、理解していた。ただ、それでも否定し続けたのは
己の黒い部分を、――認めるのが怖かっただけだ。
其れを事実だという事から、眼を逸らしたかっただけ。
きっと根底は酷く似ていたんだろう。
結果として、彼らと異なる答えを出す事が出来たとしても。
その手を取っていた可能性は 幾らでもあったから。]
――私が闇に引き込まれなかったのは、私だけの力じゃないよ。
…セムルクは、ずっと優しかった。
[ずっと、己が闇に触れぬ様に。 ずっと想ってくれていた。
彼が闇に飲まれるのを、心配していて、
…今、無頼がこうして目の前にいるのなら。]
ナルキッソスも、優しかったんだろうね。
・・・・・・そうだな。
[バーサーカーはそんな闇の力に最後まで負けなかったのだろう。ナルキッソスも自分を強く持っていた。
一番弱かったのは俺だったのだろう。やはり、英霊には敵わない]
・・・・・・そろそろ行く。
君は日常に戻るがいい。
[事実、どうなのだろう。
自分が、己の中の闇の存在を認めなかったのは
…ただ己が、遥かに弱かったからでしかない。
目の前の男が、本当に一番弱かったのか――
それは、誰にも判りそうに無い話では、あるけれど。]
――どこに?
[その場を去ろうとする背に、短く問う。
「君は」。男はそう言った。
ならば――無頼は、戻らないのかと。]
全てを、清算しにいく。
[背負ったものを守れなかっただけではない、父と同じく、志乃を・・・・・・同じ退魔の者を殺してしまった罪。
それだけではない、多くのものを破壊した。
そして・・・・・・この眼。
ラナを見つめるこの眼には、まだラナの魂が見えている。
これだけのものを抱えて、生きていけるわけが無い。
例えそれが逃げだとしても]
もう二度と会うことは無いだろう。
君なら心配する必要はないだろうが、俺みたいにはなるなよ。
[そう言って、ラナに背を向けた]
……、心配しなくても。
言われなくたって、ならないよ。
[背を向けて歩きだす男に、
一度だけ、薄く口を開きかけて――噤む。
再度開いた口から出てきたのは、別の言葉。
彼の目が見ている物を――見てきたものを、
知る事は、無い。 これから先も、ずっと。
一度だけその背を見つめて、踵を返す。
そうして振りかえる事無く――駆けて行くのは、男とは逆の方向へ。
空は、宵の色を端から白く染めて。
長い闇に覆われた夜は、 漸く、*明けようとしていた*]
[ゆっくりと、歩き出す。
背後でラナが反対のほうへ走っていくのを感じた。
そうだ、ラナは俺とは真逆の人生をこれからも歩んでいく。
日向の中を生きていって欲しいと願う。
自分はきっとこれからも、*月と太陽に背き続けるのだろう*]
―教会―
[意識が、混濁からゆっくりと浮かび上がってくる。
海の底、暗い部分から次第に海面へと向かうように、ふわりと軽くなる体。
同時に、痛み]
――…。
[名前を呼ぼうとしてとまる。
誰の名前を呼ぼうとしたのか]
……?
[目が、醒めた。
自分がどこにいるのか、一瞬わからなかった。
身をゆっくりと起こす。体が痛んで少しだけ顔を歪めた]
[右手の甲にあった令呪は、もう無い。一度それを見てから、辺りを見回した。静かな部屋。
同じように寝かせられたマスターの姿。
寝台から降りる]
教会、だ。
[ひどく懐かしい気がした]
なんで、アタシここにいるん。
誰かが、運んでくれたの、かな?
[ぽてぽてと歩いてその部屋を出て行く。
廊下を歩いて、次に開いた扉は礼拝堂。
誰かが、祈っている姿。一瞬だけ浮かんだビジョンはすぐに消えて首を傾げた]
[ポケットに入ったサングラス。
それをはめようとして、窓ガラスに映った自分の顔を見た。
違和感が一つ]
……。
どゆことなの。
何。アタシの知らないうちに何があったの。
[緋色をしていた眸は、紺の混じる色になっていた。
髪色にも、ほのかに金が混じる。
それよりも。
今、どうして教会にいるのか、そもそもここはどこなのか、どうして令呪が無いのか――。
覚えてなかった]
[正確には、覚えていたはずなのに、ぽろぽろと抜け落ちていく。
朝見た夢が、時間がたつごとに忘れていくように]
――――……。
んー。
よくわかんないけど。
早くでよ。
休んでたお礼だけは、言っておいたほうがいいかな。
[教会の人間を探してきょろきょろと辺りを見回した]
[姿が見えると、とりあえずはお礼を一つ。お世話になりました、とだけ口にして]
Ja, das ist Japan.
[一つ一つ、考えていけば思い出せたのかもしれない。
教会を出ようとして、ひどく後ろ髪を引かれた。
何故かはわからない。
誰かがここにいたはずなのに]
?
[指先を見た。わからなくて、二度三度掌をぎゅっと握る。
断ち切るように外へと足を踏み出した。
眩しい日の光。
誰かが、一緒だった光景]
[タクシーを拾って、どこへ向かうかと問われた。
一度首を傾げてから、住所を一つ口にする]
樹那町だ。ここ。
聖杯の、――。
止めて運転手さん! ここで、いい。
[見覚えのある看板にタクシーを止めて、車を降りる。
鮨屋の看板。
準備中の文字。
誰かと来た。それは覚えてる。
思い出せずにイライラとした]
締まってるし。後で着たら開いてるかな。
ごめん、やっぱり乗る。
[もう一度乗り込んで、うちへと向かう]
[たどり着いた場所は長く来ていないはずなのに、ほんの数日いなかっただけのような家。
玄関から中へと、キッチンにはまだ使われていない食材。
自分が食事を作るはずはなく、この家の管理をしている人が持ってきたのだろうかと思って、即座に違うと心のどこかで叫んだ]
待って、整理しよう。
Es ist der Heilige Gral Krieg, kamen hierher.
Jemand erinnerte.
Curse läuft nicht in Ordnung?
Die Kirche wurde verloren.
Du meinst, ich bin.
[考えても、わからない。
どちらにしても、負けたのならばもうここにいる必要はなく。
帰国の準備をしようと部屋を片付け始めた]
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