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―西ブロック・森林公園―
[誰かに会える可能性を考えた結論は、森林公園だった。
いまだに、戦いの傷跡が色濃く残る公園。
それは、夜の戦場としては打ってつけだから]
よし、当たりだ。
[目的の人物がいるかは定かではない。
だけど、確かにそこで戦闘は行われていた]
……え?
[柔かいあか。それは一瞬何の事を言ったのだろうと想像し、
次に自分の瞳のことだと気付く。セムルクがこちらを見ていたからだ。
生き残る。それはまず何においても前提条件であった。
小さく頷いて、それから幾らか考えるように瞳を伏せた]
[ラナから留守を預かり、いつ二人が帰ってきてもいいように
可能な食糧で食事を用意しておくことに決めた。
チーズウインナーロールにチキンのフリカッセ。オクラと根菜のスープ。
総てレンジやトースターで温めれば簡単に用意できる。
もしも自分達が出てしまった時の為の用意だ。
犬だって恩義を忘れないのだから、もと人間としては当然である]
[結局、雨雲の低さから上を行くことにして、空を駆け抜ける。
稲妻が雲の切れ間から見える。
魔力の衝突が感じられて戦いが起きていることを知った]
誰かが、戦ってる。
だれだろ。
行ってみる?
[雲の上には月明かり。照らされたエラトの顔が見えた。
サーヴァント同士が戦うのであれば、余り邪魔なことはしたくなかったが、誰が戦っているのかには興味があった。
少しばかり降下する。
けれども、雲の中に入るには少し厚く思えて、切れ間を探す。
西の方まで行くと、公園がうっすらと見えた]
嗚呼、言いましたっけね。そんな事。
[すっ呆ける様に、口を開く。
それでも相手の真っ直ぐな眼を見れば、
観念したかの如く―――。]
残念ながら、その通りですわ。
どうも、片割れがどっかに旅に出てましてね。
まったく、何処をほっつき歩いてるんだか……っと!
[再び放たれる矢。
それを右手の槍で払いのける。
傷は右脇腹と左肩。
未だ支障はないが……これ以上は拙い。]
そんな恩義知らずの事をするようなマスターであれば
食事抜いてお説教に決まっています。
ルナがいなければ、貴方は其の侭野垂死だったかも知れないんですよ。
アル、貴方はもうちょっとその辺を考えて
[薬。多分、という言葉に肩を竦めた。
自分の身の裡にのこる残量を確認しながらもただ頷くだけ]
…効いてもらわなくては困ります。薬なんですから。
[ただ、そうやって告げてまどろみに落ちる姿を横目に馴鹿たちを回収した]
良く眠りすぎて横に育たないように気をつけるんですよ。
…ええ、まだです。
[アルの続けた言葉に、少し瞳を瞬かせた。ゆっくり息を吐き出す]
…それもまた、戦争でしょうね。私達は、慣れ合いすぎている。
それは、自覚していますし、貴方も。
彼等も、少なくともセムルクには自覚はあるでしょう。
[視線は足元に落ちて、朱はゆっくり瞼の裏に隠れた]
戦う相手同士にもかかわらず、お互いをさらけ出し過ぎています。
…、……。まるで、これでは小さなきょうだいのようだ。
[そんな風に英霊は自分達の関係について口にした。実際に感じていることなのだろう。
何処か感情を帯びていた。それが何かは本人だけが知るけれど]
…戻って来てくれるといい。用意した食事が無駄になりますし。
[そう告げて主がバスルームへ向かったのを見た。
その背は小さくなっていって、ちょっとだけ危なっかしい。
暫くは様子を見るつもりでいたが結局洗うのを手伝ってしまうことにした]
アル。何ですか。言いかけたなら、最後までいうものですよ。
[結局は最後まで聞くことはできなかった。
そうこうしているうちに、家主が帰ってきたことに気づいた。
自分の感覚には何もないので、セムルクは別行動らしい。
取り敢えずは寝るらしいマスターを余所に、英霊は家主へと食事を勧めることにした]
は、破廉恥なっ!
ジュリアはそんなお安い女ではありませんの!
[不意に喉が渇いた。
傍らのカップに注がれた液体をぐい、と飲み干す。
次の瞬間、そのままソファに倒れこんで、静かな寝息を立て始めた。]
−ラナ拠点−
[さて、今日の話へと移ろう。
英霊は今日も時課をすませて朝食の用意をした。
先にセムルクが何やら出していたので食卓は甘い匂い。
アイスに興味はあるけれど、再度凍らせたそれは少しだけ怖かった。
トーストにハムエッグとサラダ、コーンスープ。
今まで用意した食事の中で一番簡素かも知れない。
薬について話しているのを余所に、ミルクティを用意しながら少し考え事。
服の話、偵察やら何やら。そんな話も右から左に受け流す。
ただ、セムルクの口から出たトナカイ、という単語で顔を挙げた。
その単語が彼から出てくるのはちょっと意外で、素直な驚きがあったからだった]
あ。ええと。…解りました、一番信用できる一頭をお預けします。
[何となくそう答えておけば間違いない気がした。
流石幸運Aランク。ルナになんだかんだで一番なついた紫の馴鹿を預けることに。
そして、洗濯やら何やら言い付かりながら]
−忍神町→樹那町上空−
[こうして、少し前に至るわけである。
荒涼とした街に入った途端、英霊は主とは言葉を交わさなくなった。
其処にあった絶望と、枯渇した魔力の流れ。
総てを読みとるために、状況から想定し、仮定を導き出すために。
英霊はただ主の言葉に従い、そして、今は白い馴鹿を駆る。
サンタさんみたい、という主の言葉に少し笑いながら]
…そのようですね。行ってみましょうか。
上手く雲に、紛れることができればいいのですが。
[流石にまた雪を降らせるわけにはいかない。
手綱を繰ると、白い馴鹿の蹄は夜空を蹴って西へと向かう]
[開始される戦闘。槍を投じるライダー。]
っ、
[駆けそうになって、留まる。
いつぞや聞いた彼女の言葉。
差した傘はそのままに、雪駄で地を踏みしめる。]
……。頑張れ、ライダー。
[届かない程度の呟き。
エウロパが語った英雄の姿。
自分に庇われることを、拒んだエウロパ。
青年と、望月も似たようなことを言っていた気がする。
そして。
――この時代で、普通に生きていきたいと語ったライダー。]
…負けたら承知せんぞ。
[今の自分に出来ることは、彼女の戦いを汚すことではないし、「もしも」を考えて逃走手段を考えるなど、英雄のように勝ちたいと願う彼女の誇りを踏みにじることと、何が違うのか。
――踏みしめるのは、この大地だけで十分。
ただ彼女の戦いを、見守る。]
―北ブロック/廃ビル高層階―
[狙いは違わなかった。
黒い人影が、足音に合わせて窓を過ぎる。
緩やかに斜め上の軌道を取り、放つ手裏剣は風穴に吸い込まれるように]
……何!?
[桟にぶつかったわけではない。
目標に届く前に、見えない壁にでも弾かれるように、室内へと跳ね返ってきた]
まあ、魔術師ならば魔法障壁くらいは朝飯前か。
[リノリウムの床に刺さった手裏剣を回収しながら独白する。牽制にもならなかった]
[気配がある方向へ、走る。
途中で風を切るうねりの音が近付き、近くの樹木に突き刺さらんとしている。
悪い視界ではそれは、何らかの飛び道具であることしか分からない。]
来るが良い。
『鋼 鉄 の 乙 女』
[何時も、フェイント攻撃を避けるのに利用している『鋼鉄の乙女』を召還。
した途端、遠くではなく、すぐ側に複数の落雷。
焦げる匂いは、激しい雨に滲んで消える。]
──…ッ
雷を 使う か!
[居場所が知れる前提で明瞭に叫んだのは、遠距離攻撃が出来る相手に対する防御の必要性をラナに伝えるため。
フェイントの後は、大抵は本体の直接攻撃が来るもの。相手が(キャスターか)ライダーで無ければ。]
…っ!
[急に開けた視界の先には、ランサーといつぞや教会で出会ったサーヴァント。
確か、カリン、という名の。
戦いが始まってしまったのならば、そこに割り込むのは実力的にも条件的にも不可能だ。
ふと、気付いて視線を泳がせる。
――確かに気配を感じたはずなのに、カリンのマスターはどこに居るのだろう。
その時。]
――――!
[突如、自分の周りに壁が発生し、何かを弾き飛ばした。]
はいはい、ストーップ。
[緊張感のない言葉で戦闘に割り込む。
いつもより更にやる気のない声だっただろう]
って、止まるわけないかな?
じゃ、そこのルナと姫倉のにーさん、こっちにおいで。
[マスターでもない人間の命令を聞くとは思えない。
ま、もっともサーヴァントはどうでも良かった。
自分が用があるのは、マスターの方なのだから]
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