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いやー、その、だ。
えっとね。言いにくいんだけど……。
[説明しよう。中辻は誰にでも背後霊をすることは可能だが、完全に憑依するためには霊感の強い者を選ばなければならない。
ならば霊感が殆どないものに憑依したならどうなるか?
憑依対象者の意識を保ったまま、中辻は運動司令部を乗っ取るのだ!
ちなみに中辻は料理が下手である。
ここから導き出される等式を答えよ。]
……………。
あの、さ。いや、なんでもない。
ただ。
更科さんは自分で思っているほど下手じゃないよ。料理。
あれはちょっと、運が悪かっただけ。
[お前が悪い。]
……このワンピはね、アタシよりまなみんの方がずっと似合うよ。
[元気のない碓井の様子に、困った表情を浮かべる。]
無理なんて言わないの。
ねえ、まなみんには話しておくわ。
アタシ、実は女の子なの。
だから、冗談だったかもしれないけれど、まなみんからの想いを受け止めることが出来なかったのよ。
そんなの関係ないのかもしれないけれど、とにかく自信を持って。
ね?
[ワンピースを受け取ってじっと手元を見る。
顔を上げた。]
ありがとう、山田君。
ん、…なんとなく、そうかなって気はしてたけど、でもまさかって思ってた。
冗談じゃなかったけど、でも、『好き』にまではなれなかったのは本当だから、いいんだ。
……駄目ね。
無理に好きになろうなんて、するものじゃないの。
いいなって思うだけじゃ、恋にはならないし、でも、振られちゃったらショックだし。
自分で追いかけたいくらいの執着だってない。
自信を持つとか、持たないとかじゃないんだ。
私の気持ちの問題かな。
[でも、その気持ちはいつ降って来るか分からないのも知っている。]
――。
がんばるわけじゃないけど、もう無理かなって気もしてるけど。
もう少し、待ってはみるよ。
本当に好きだと思ったら、ちゃんと自分で言えるから。
ありがとうね、山田君。
山田さん、かな。
うん、その気持ちよくわかるよ。
[碓氷の言葉を静かに聴いていた。]
そうだね、頑張ってって言うのはおかしいね。
じゃあ、いつの日か……
恋する乙女になったまなみんに会えるのを、楽しみにしとくね。
[微笑んで、一歩後退し、碓氷が扉を閉めるのを見守った。]
[昔のジョジョは忘れろ……。
やつはもう、戻ってこない。]
ああ、楽しみにしてるぞ。
大丈夫、一緒に練習すりゃなんとでもなるさ。
[胸の前で手を重ねる様子を見て、軽く抱き寄せた。
なんだろうか、この可愛い生物。]
おー、勝負なら負けねぇぞ?
絶対潰してやるっちゅう話だ。
[楽しそうに、二カッと笑った。]
[更科の笑顔を見て、中辻も笑んだ。
正直なところ、あの件で気に病んでいた更科が心配だったのだ。
それがこの島で、料理に挑戦した時は嬉しかった。
何たって彼女は女の子で、好きな人だっている。
幾らでもこれから、手料理を作って上げられるのだから。
生きて、その手を離さない限り。]
うん。頑張って。
……頑張って、としか言えないのが歯がゆいけど。
自分の料理を食べて貰えないのは、やっぱり悔しいもんね。
[阿太郎は、ずっと友達がいなかった。
そこに自分が話しかけてしまったものだから、彼はどんどん世間から離れていってしまったのだ。今のツケの一部は、ある意味、自分にもあると言っていい。
それは更科の料理恐怖にも言えること。
でも、もう、二人とも、一人でやっていけそうだ。]
[なぜ結城に殴られたのか、分からなかった。
だが、それは彼にとって必要な事だったのだろう。
日恋の構成員。そんな道を選んでいた彼にとって]
……結城。
そうか、お前が僕を殴るのか。
[結城は多分、いろいろなことを知っている。
だから、彼には自分を殴る理由があるのだ]
[中辻は更科に手を伸ばそうとして、
伸びたのが借りた阿太郎のものではない、
透けている自分の手だと気づいた。]
あれ。もう時間か。
残念だな。
[中辻の活動限界は一日一時間です。ねぼすけなので。]
それじゃあ、僕はいくよ。
――また会える日まで。
[中辻は、笑顔で阿太郎の中から消えた。]
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