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…………。
ぶつかれるのは、いいこと、か。
[自分も、新たにグラスを満たして]
杏ちゃんの、力になる、のは……、
ここでは、もう無理だから、なあ……。
[ぽろっと。口走った]
…ん、どういうことだ。
矢口は今はまだ、ここにいるだろう。
二越や多くの連中はもういないが。
[一定のペースで淡々と飲んでいく。]
ここを出る当てでもあるのか。
更科もな。随分長いこと会っとらん気ぃするわ。
…でも矢口も、まだおるし。
[それだけでも精神的に違う。
確かに賑やかなのは好きだ。
でも、それだけが寂しい理由ではない気もする]
……城と、ちょお喧嘩してん。
[自分的にはそれだけ。
結局は上手く折り合いをつけられない自分のせいだ。
それぐらいは自分でも理解している。
頭の固い自分がきっと悪いと解っている]
…。
[矢口の言葉に答えられなかった。
ただ、謝りの言葉に首を横に振った。だって、矢口が悪いわけじゃない。
遠くなる足音に、ごめん、と小さく呟いたのは自分の方だった]
ー→206ー
[少しの時間。
立ち上がると、少しだけ考えてから206の扉を叩いた。
小さく、ほんの少し。
ノックした手は、少しだけ震えていた。
扉を開けた先で城がどんな顔を
していたかは確認しなかった。
自分が最初に使っていたベッドへ
漸く戻ってきたと思いながら、
少しだけスプリングを軋ませてよじのぼり背を向ける。
どれくらい、間を開けただろう]
…もう、ほんのちょっとだけ、考える時間、ちょうだい。
[せめて、夜明けまで。
ベッドの上で膝を抱えて、ひとつだけ我儘を言った**]
…。
[三杯目。]
…。
[もうワインの残りが少ない。]
…。
[矢口は酔い潰れて眠ってしまったようだった。
思わせぶりなことを言い残したまま。むう。]
…。
[お仕着せの「特別」は、好きにはなれない。]
…。
[みたいなことを、俺は言ったが。じゃあ、お仕着せじゃない「特別」ってのは、一体何なんだろうな。]
…。
[「特別」になりたいと思うには、やっぱり自分はまだまだ未熟で、幼いまま、だったような気がする。]
…。
[誰かを「特別」と思えるようになったけれど。]
…。
[すると、甘えたことを考え始めるのだ。
「自分は誰かにとって特別だろうか」…]
…。
[「特別」になりたい。
みんなにとってでなくともいい、
誰かにとっての「特別」に。]
…。
[四杯目。ワインがなくなってしまった。]
…。
[またしばらくいいワインとはお別れかもな。]
…。
[あーあ。]
…。
[矢口がこぼした分を舐めたくなってしまったがそれはさすがに諦めることにした。]
…。
[「同じ」になっていく。
すると、「特別」の孤独感が消えていく。]
…。
[けど、それとは少し違う不安が増していく。]
…。
[自分はどこにいるのか、という不安だ。]
…。
[「自分は今ここで生きているんだ」という実感を、なくしてしまうからだろう。]
…。
[それはきっと、「同じなのなら、それは自分じゃなくてもいいじゃないか」という孤独だ。]
…。
[ここまで至って、ようやく「特別」が気持ちいい理由が言えるようになったわけだ。鈍いな。]
…。
[でも、ようやく、「ここ」で生きていく、スタートラインに立てた気がした。]
…。
[この島で、ってのは勘弁願いたいが。]
くっくっ。
[口の奥で笑う。]
…。
[何日か前、双海を怒らせた時。]
…。
[西野は「心配だから」と言っていたが、正直、心配、というのは一番大事なところじゃなかった。]
…。
[あれこそ自分の甘ったれたところだっただろうな。]
…。
[自分は双海に頼り切りだった。]
…。
[けど、頼られはしなかった。]
…。
[それが悲しかったのだろう。]
…。
[自分にとって双海が特別でも、双海にとって自分は特別じゃない、と分かっていくようで。]
…。
[けど、それをもっとまっすぐにぶつけられるような覚悟は、自分にはなかったわけだ。]
…。
[そこは、とても大切な、ようやく見つけた、ひとつの居場所だった。]
…。
[その居心地が崩れることを恐れているだけの自分のまま、それ以上のものが手に入るはずがない。]
…。
[双海が傷つくかもしれないことを、色々なことの口実にしていたんじゃないのか、とも、少し思う。]
…。
[こんな異常な状況下だから、かもしれないが。]
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