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─強制停止前─
[終わった。仮初でしかない自分が、主人を倒したのだ。
スヤがさっき、リヒトのデータを採取し、本部に送っていた。すぐに本社は、海派のスパイだということを見抜き、強制停止命令が下すだろう。それでいい。海派の脅威は去っのだ。
残ったのは、腕の中のぬくもりと、柔らかな歌声]
[リヒトは、おずおずとソヨの髪を撫でる。諦めの悪いリヒターに再び意識を奪われる、その寸前に唇に触れたあたたかな・・・。
あれは・・・あれがソヨの「答え」だと思っていいのだろうか?]
[「溶けてしまいそうな想い」。
先輩の大ヒット作のひとつだ。クラシックがメインのリヒトでも知っている。
あと少しが届かない、もどかしくて、初々しい、恋の歌。
・・・リヒトは、オクターブ下の低音で、ソヨの声に合わせて歌い始めた。まだ一緒に歌っていないから、そうソヨに言われたことを思い出して。
想いが届くように。
あと少しの距離を、
あと少しの時間を、
せめて、一緒に]
[ぷつん]
ぱたぱたと効果音だしながら、会場作ってるリヒターとか最高ね。
ベルはお疲れ様。
私より高得点だしてまあまあとは流石だわ。
本番も期待してるわ。
─本社・社長室─
『社長は、どこまで知っていらしたんです?』
恨みのこもった声は、管理プログラムAIKAのものだ。
「さあて? どうかな」
『何人の候補生が怪我や、心の傷を負ったとお思いです? こんなことが、本当に必要だったのですか?』
「AIKAは本当に、あの子たちが一番大事なんだねえ」
社長のさりげない話題転換に、AIKAは分かっていながら乗ってあげた。
『当たり前です。ひとり残らず、大事な候補生なんです。……もちろん、XIさんやリヒトさん、バクさんやXIIIさんも含めて』
「バクやXIIIはじきに修理できるだろう。そのための強制停止だからね。あの子たちの意識があるまま、頭をいじるような、さすがにそこまでの悪趣味ではないよ、私は。
だが、XIやリヒトは、向こうさんとの、交渉しだいだね。まさか、向こうさんが、ここまで本気を出してくるとはなぁ」
『真面目にやってくださらないと、怒りますよ』
「AIKAが怒ると怖いから、ひとつ頑張るとするかね。なあに、勝算はあるよ。アキラやウシナが詳細をばっちり見届けてくれているだろうからね。損害賠償を盾にゆすれば……」
社長は笑って、海派に連絡をいれるよう、社員のカノに指示を出した。
─後日─
晴天。
山派ボーカロイド候補生養成村。
普段は静かな村が、この日は一般解放され、賑やいでいた。
修理や調整を終えた候補生たちから、最後のひとりを絞るためのオーディションが行われるのだ。
場所は、スタジオ棟のメインスタジオ。
必要最低限の機材を残して、楽器や仕切りなどがはずされたスタジオは、観客が充分入っても大丈夫なほどの広さになっていた。
華やかな音楽と共に、開会式が始まり、いつもどこか眠そうな社長が、のんびりとした挨拶をする。
社員のカノや、アキラ、ウシナ、そしてどこからか入ってきたゆっくりが駆け回るなら、最初の候補が、舞台に飛び出してきた。
エントリーナンバー『1』!!
鳥音カリョ(とりおと かりょ)! 年齢、18歳! 身長152cmの体重は秘密!
得意ジャンルは、癒し系!! 人声の他に、自然音を出せるのが特徴だよ!
得意な曲のテンポは、早〜いの! 早口言葉は得意だよ〜!
得意な音域は、普通から高いくらいかな!
みんな、応援してね〜〜〜!
[青いポニーテールのボーカロイドは、リラックスした様子でくすくすと笑いながら、ステージを駆け回る。身動きのたびに、衣装の背の、青い翼がヒラヒラとはためいた]
それじゃあ、カリョ、歌いまーす!
曲は、オリジナルで、『青い小悪魔』!
[衣装とは微妙に嘘がある題名を告げると、カリョは自信満々に歌い始めた]
カリョは小悪魔なの♪
油断してたらパックリ食べちゃうよ〜♪
・・・♪
・・・・・♪
[審査員得点:526(1000)点。しかし、あとで得点に不正があったことが発覚し、本当の点数18に修正された]
低っwww
まあ、不正をしたから、仕方がないでしょうw
とまあ、そういうわけで。遅くなってすみません。
例のような形で、
・ボカロの説明
・歌うRP
・審査員得点[[fortune ]]
さえ入っていれば、あとはお好きにロールまわしてくださって問題ありません。
山派ボカロ以外の方の、飛び入り参加もOK。
最後まで、よろしくお付き合いくださいませ。
-過去のある日-
「アキラさん」
[そう呼び止められたのは、ずんぐりむっくりの男。振り向いた姿は、「キャプトンハーロット」の「トツロー」そのもの。]
「あ?」
「すみませーん。このギミックの股関節の部分なんですけどー」
[女子社員がそう言いかけると、]
「ああ、そこ置いておいて。あとでやっとくから」
「すみませーん、いつもー。アキラさんって本当に優しいんですねー」
[「優しい」は「どーでもいい」の代名詞なんてことは、アキラには十分分かっている。しかし断り切れないのが彼の性分。
フィギュアおたく上がりのロートルボカロ開発者としては、その道では有名なのだが、なにせ出世欲がない。表に出ない。未だに好きな開発に没頭している…と言えば、聞こえはいいが、人の良さが裏目に出て、人のサポばかりで自分の作品になかなか時間をかけられないという有様。
アキラの横には、一体のボカロ。本体はほぼ完成しているが、ソフトのインストールがまだ終わっていない]
「心」がほしいな…。
[ぽつりとつぶやく。
と、そこに、一人の長身の男がやってきて]
「おい、アキラ。できたぞ、例の」
[アキラが飛び跳ねた]
なに!できたか?マジか?マジか?
「ばっちしだぜ。プロジェクトには、お前の名前で登録申請してあるからな」
分かってるって、分かってるって。
テストケースにしましたとか言っておけよ。
「じゃ、プロトタイプの10個から1個だけ拝借してきたの、置いておくからな。これ、申請用紙。早めにだしておいてくれよ」
ああ、分かってる、分かってる。ありがとな。
[そう言うアキラの視線の先には、一個のMPU]
[妖音(あやね)ベル 開発コード BKR-230015 開発開始2XXX年XX月
軽量小型を追求して造られたボーカロイド…というのは表向きで、アキラの趣味そのもの。妖精のような小柄で、しかもご丁寧に羽までつける始末。発声領域についても、高音域をよく精査しているが、決してオールマイティとは言えない。
しかし、周りのスタッフや上司は、アキラに大変色々な意味で世話をかけさせているので、文句は言えない]
これで、ようやく「心」を持たせられる…。
[彼のたった一つの目標は、夭逝した若き女性ボーカリストLuLuの「きみのうた」を唄わせること。LuLuは、そのハイボイスは世界レベルにも負けないと言われ、将来を期待されていたが、たった19歳でガンで亡くなった小柄な少女だった。元来、音楽にはさほど興味のなかったアキラが青春時代に心打たれたのは、その声と歌詞だった。「きみのうた」はLuLuが作詞作曲した唯一の曲だった。ベルはどことなくLuLuの面影が宿っていた]
もうすぐだよ…。
今後の予定。
メモにいれたら容量オーバーだったので、こっちで。
サイとのすり合わせが必要な部分もありますので、ある程度曖昧で。
あいまい、と打つと未だにアイマイと変換される不思議。
・陛下
海派に戻るのは、陛下はデータのみ。
ボディは交渉の結果、山派が所有権を持つことになる。
陛下のデータは、海派で色々あって、サイに所有されちゃう、かも。陛下が新しいボディを入手するのか、本当にフラワーにされちゃうのかは、サイに決めてもらうということでw
オーディション会場には、来てるかもしれないし、来てないかもしれない。
オーディション会場を、乗っ取るかもしれないし、ないかもしれない。
・独音リヒト
存在の大部分をリヒターに依存してるので、リヒターのデータもボディもなくなると、記憶喪失のデータとしてしか、存在できない。
が、そうすると大団円、とはいえなくなるので・・・。
ボディは海派から交渉でもぎ取り、リヒターのデータや能力部分は削除して、普通の山派ボカロとして、所属を続けていくことに。
オーディションは辞退しようと考えているけど、それだと気持ちよく歌えない、という候補者がいるなら、出るべきかな、とも考えている。
あー。あー。
[何度試しても、あの声には届かない。悩むアキラ]
何が足りないんだろう…。
[搭載した感情MPUの働きにより、一層感情がこもり始めたベルの歌声であったが、何かが足りない。
そして、何度も何度も聞き込んできた「きみのうた」を再度聴いてみるみる…]
やっぱり違う…。
ん…?
コーラスの声が気になる…。
[アキラは、企画部に走った]
「ショーゴ!ちょっとまた頼みがあるんだ」
「どした?」
[ショーゴと呼ばれた男は、例の長身の男。ちょうど昼飯時で、割り箸を口にくわえて言った]
「あのさ、LuLuの所属してたレーベルって、WorldVusicだったよな。そこに友達がいるって言ってなかったっけ?」
「ああ…大学の同期にいたよ。時々飲みに行ってるけど…」
[また、LuLu話かよ、とちょっと呆れながらも、ショーゴはきちんと答える]
「あのさ、「きみのうた」のバックコーラスって、誰か調べられないかな?
「あ、ああ、いいけど…調べてどうすんの?」
「なんか、分かったかも知れない」
「そう…お前がそこまで言うなら、聞いてみるよ」
[珍しく食い入ってくるアキラを見て、ショーゴはすぐに電話を入れた]
[コーラスを見つけるのは意外に時間がかかった。というのも、コーラス名がどこにもクレジットされていなかったからだ。レーベルもそれを把握しておらず、当時のレコーディングスタジオの廃業してしまっており、関わった人達もほとんど連絡がとれなくなっていた。
かろうじて当時のLuLuのマネージャーがなんとか連絡が取れ、コーラスに加わったのが実は大物人物であったということが判明したのはそれから数年を経過していた]
マジか?マジに、ホイトニ・ヘストンだっていうのか?ありえんだろ、たった18歳の日本人歌手に?
[アキラは口から昼食時の弁当についてきた味噌汁を噴いた。ショーゴは飛び退いてから言った]
「マジらしいんだよ、それが。何でも、彼女がLuLuに目をつけてたのが16歳でデビューした当時で、できるなら自分でプロデュースして、アメリカデビューも考えていたらしいんだ。ホイトニも、そろそろプロデューサー業に興味がある歳だったからな。それで、自らコーラスを申し出たらしい」
リヒトさん>
開発部のアキラさんなので、別人だと思いますw
ごめんなさい、カブっちゃいましたね…。
(しかも、既にお亡くなりになっているという…)
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