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…無い物強請…
[ポツリと彼の者が言った言葉をなぞる。
暫く、瞳は白い壁を無言で見つめていたが…]
…はぁ。
[瞼を閉じれば、小さく息を吐いた]
私が、都合の良い様に…解釈しすぎ、でしょうか。
[誰に言うでもないその言葉は壁の中に消え]
はい。
[声が聞こえた。
聞き覚えのある声に立ち上がれば、診察室のドアを手がけ…]
…居ます。
[隻腕の男に声をかける。
しばし、考えを巡らせ…]
今日は、此処で話すのはいかがでしょうか。
此処でなら、疲れることはありませんから。
[言うや否や、踵を返せば台所の方に茶を淹れに行く]
【軍本部】
[昨夜呑んだ酒は美味かったな。
そんな事を思う。
部屋から出れば血腥い空気、殺気立った気配]
例の学兵の検死結果は出たか?
……引き続き調査を行え。
ウィル、オルステッドはどうした?
巡回中か。
ふ、あいつも複雑だろうがな。
カルヴィネン准尉もだ。
[女の故郷はとうに無かった。
時折遠くを見るような眼になる。]
――コーネリアスが連行されたが、
どちらだったのかは未だに分からんな。
例えそうだったとしても口を割るとは到底思えない。
何も言わなかったろう。
[優しげな銀髪の青年を思い、
小さく息を吐く]
民間人を守ろうとするために
民間人に見えるが疑わしきものを殺す。
因果な事だ。
[トレイにポットとカップを乗せ、テーブルへと向かい…
カップに茶を注ぐと、ジーンに差し出す。
そして、自分の手の中に持つ]
…昨日の、言葉…ですが…
[カップを傾け、琥珀色の液体で喉を潤す。
やがて、切り出すのは昨日の話]
申し訳ございません。
私には…少し、考えが及ばない様です。
[カップに落としていた視線を少しだけ持ち上げ]
…宜しければ、分かりやすく…お願い、出来ますか?
余計判り難いやも知れぬが…
[勧められた席に落ち着き茶を啜り
ポケットから徐に取り出すは髑髏
机に置いて頂頭部を指先がなぞる]
ニーナにも治せぬ者だ。
[髑髏を見詰める眼差しは微か柔らか
顔を上げニーナを見詰めゆるり瞬く]
――生も死も、我には判らぬのだよ。
[静かな黒の眼差しが伏せられる]
是は最早起きぬが未だ此処にあろう。
「死」と言う概念が判らぬ故、
永久の眠りの際に立つ者を治す者が眩しく映る。
[再び目の前のニーナを移す眸は静か]
【――仮宿舎・私室――】
…自らを知ることもまた、難しいものではあります。
充分莫迦者だとの自覚はあるのですがね。
貴官から一顧だにされない程までは
ないらしくて、安堵しておりますよ。
〔やがて血糊を綺麗に拭い去った蛇腹は、
元の鈍い光沢を取り戻している。
此方の部屋を訪ねてくれる相棒を待つ間、
先頃の言葉へと半ば一方的に応えて〕
――改めてこんばんは、ジーン。
…ようこそ、でありましょうか。
〔彼を迎える扉を引く右の袖には、巻取りコードの如く
ぴちぴちと先端躍らせつつ吸い込まれる鉤〕
…練成・装備共に周到な閣下のことです。
きっと此方の持成しようには
消化不良を憶えてお出ででありましょうね。
そのようなわけで、安んじて――とまでは
申せませんが、"捕食"はお任せあれ。
〔クインジーの件を話題に出されると、宛ら出来の悪い
料理人のように死者へと恐縮していたようだ〕
ニーナさんを、…ですか。
宜しいので?
此方も似たようなことは考えましたが…
ネリーさんと意見を共にし続けるであろう
シャーロットお嬢さんを考えておりました…
〔ありきたりのアクアピッドを彼のグラスへ注ぎつつ、
通信では把握できなかった、その場の人々の仔細な
所作や表情の移ろいまでに耳を傾けて過ごしたようだ〕
〔やがて退室を申し出る彼に、篤く感謝して立ち上がる。
幾分長い、と感じるだけの間を、逸らさぬ視線に語り合うも
あっただろうか。そのうちに此方へ伸ばされる指先を
おやと視線に追ううちに、其れは頬へと訪れて――一度瞬き〕
…、…
有難う。
…其方にも面白み多い一日であることを。
〔浮かんだと見えたのは驚きか噛み殺す笑みか。〕
――…ジーン。
〔扉を潜りゆく彼が置いていく一言に、
返答でなく名を口の中に呟いて〕
…貴官も容易く身命を投げ出されるより…
続きの頁をその手に繰りたくていらっしゃる――
と、信じております。
〔一人残る部屋で、眉間に指の関節を当てて瞼を閉じる。
染入るものの多さに息が詰りかけるも、其の分声音は
低く慎重に置かれて…感情の涙も流れてくれはしなかった。
――嗚呼、*慟哭とは一体何なのか*…〕
[テーブルの上に置かれる髑髏。
指が滑るその様子をじっと見やり…視線をジーンに戻す]
ええ。
もう、何も物言わない…
言わせることも出来ません。
[カップを微かに傾け…]
医学的に言うなら…心臓が止まることですが。
[そういうことを聞いているわけではありませんよね、と視線をジーンに向ける]
確かに、存在はしますが…意志がありません。
だから、人は、遺書や…書物を遺す。
…つまり、意志が無くなって…
自分で動けなくなれば、ソレは死、なのではないでしょうか?
…そうでなければ、生きていてもしょうがない、というモノも在るでしょう。
…眩しく、ですか…
[微かに視線を落とし…カップの湯気を見やる。
そして小さな声で]
興味以上の好意は無いと言うことなのでしょうか…
[ポツリと呟けば、カップに口を付けた]
[髑髏に手を置いた侭にニーナを見詰め]
では人の意思とは何かね?
世間とは型無き多数の作る集合体でしかない。
選び取っている様で意思とは流れ作られていく。
個人とは、一体何であろうか?
日々を此処で過ごし生きているのかね?
[続く問いに瞬きニーナを見詰め]
単純に好意と言うのであれば、
我はニーナを憎からず想って居るよ。
けれど其れがニーナの言う好意とは別であろう事も判る。
逆に問うのはルール違反かも知らんが、
では、ニーナは我に好意を持ち合わせているのかね?
【――軍本部――】
…此れで教会は無人、ですね。
弔いの鐘は絶えても、屍は増える――
コーニィもさぞ、無念でありましたでしょうに。
〔下士官達の体調管理をと、軍医に付き添って視察を終えた。
其処へ戻り来た、矢張り同郷のオルステッド曹長と
村の現況について言葉を交した。
『――いつまで"教会の子"だ御前は。』
取り乱さないまでも困惑を隠さない此方を案じてか、
士気に関わることを理由に発破をかけてくれる幼馴染へと
此方は、面目ない、と苦笑を返した〕
…ええ。苦しませずに送れただけでも、と思うことにします。
…そうだ…君、スペンサー少尉殿をお見かけしませんでしたか?
〔とある一件で凹まされて以来、すっかりキャロルの
シンパとなっているオルステッドへと、上官の所在を尋ねた〕
【本部外、村の領域内】
少佐殿は何処に居るか知っているか?
あの鉄砲玉、行方が掴めんのだ。
[部下は首を振る。
さても困ったことだと息を吐き]
話を聞こうにも姿が見えんでは話にならん。
クインジーが率いていた部下はどうした。
あれらも取り逃がしてはならん。
[銃の手入れは欠かさない。
腕を組み、皆の顔を見わたす。
何れも憔悴し、或いは疑心暗鬼。
特に此の村を故郷とする者はそれが顕著だった。]
オマエが大莫迦者なれば我は何者に成ろうかね。
人を想い人で在ろうとするオマエを、
如何して狼の我が超えられようか。
狼の我は人に焦がれ精々が遠吠える程度が関の山だ。
〔ニーナの名を聴き触れて呉れる指先に微か力が篭る〕
単純にネリー自身を狙うより余程かく乱は出来よう。
元より須らく壊す心算なれば、
シャーロットを狙うもニーナを狙うもオマエに任せる。
我はどんな状況でも最良を選び足掻くのみ。
[変わらぬ意思の強さは明朗な声音にも滲み]
我とて捜し求めるものが無ければ、
既に永き眠りについておろう。
[柔らかな声は呟いた]
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