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…せめて優しい人があの子達を、看てくれていますように…!
[心を配る対象を失ったコーネリアスの胸にはどこか、穴でも開いているかのような気がした。
――いつも子供達の不安を慰めているつもりでいて、慰められていたのはこちらの方なのかもしれない。
ぼんやりとそんな事を考えながら、封鎖された村を丘の上から眺め続けている]
[静まり返った中に足音だけが妙に大きく響く
人の気配に不意に足を止め雑貨屋の奥を眺め]
店の者も容疑者なのかね?
こんな時分に店を開けても、
客なぞ殆ど来ないだろうに。
[珍しい客になろうとでも言うのか
殆ど陳列品の無い店内に踏み入り
奥に控える者の纏う装備と気配に]
如何やら店主では無さそうだが。
どちらにしろ、
此処の煙草は以前より品切れだ。
[差し込む西日を背負えばクインジーから顔は見えぬか
自身の影で相手の顔も良く見えず首を傾げ光を通して]
昨日に引き続き是はまた珍しい。
煙草はあるだろうか、クイン。
[診療所に戻れば、中には人の気配は微塵にも感じられなかった。
机の上に置かれたメモを見やれば…なるほど。
皆には嫌疑がかかっては居なかったのだな、と。
驚くほど客観的に見えた]
…でも…患者が居なかったら、薬を届けて貰う理由も無いですね…
[繁盛していれば薬は少なくなり、閑古鳥が鳴けば薬が届く]
まったく…間が悪い。
[椅子に座り、くるりとカウンターに背を預ける。
丁度それは店の中へ背を向ける形になって]
タダじゃねぇぞ。
品物なんだからよ。
[後ろ手に、カウンターへ煙草の箱を置く。
もう片方の手は、何か失敗したという風に頭を掻いていて]
[自室に戻り、ベッドに横になって考えたことは、とてもどうでも良いことだった。
こんな状態になった以上、診療所に訪れる人など居ないのだろう、と。
もし、怪我人は何処にいる?と歩き回れば兵士に怪しまれるだろう、と。
つまり…暫くは仕事をしなくても良いのだろうか、と。]
…
[…最も、トリガーの気まぐれによっては…
もう、仕事などしなくても良いのかも知れない]
…
[そう考えている内に次の日はやってきた。
誰も居ない診療所の中、いつもの日課の掃除、在庫の確認…そして朝食を食べ終われば、看護婦は自由となった。
但し、檻の中の、自由]
[仕事に忙殺されていた看護婦には、何も趣味など無かった。
あるとするならば、薬を眺めたり、患者の話を聞いたり、皆の為に料理を作ることぐらい。
しかし、そのどれもしなくても良いのだ]
…いかが、致しましょうか。
[ポツリと呟いた言葉は自分自身に問う言葉。
しかし、その返答は沈黙で返ってきた]
あの店主、売り切れだと言った割りに、
自分の吸う分を隠し持っていたか。
[日にやけ色褪せたラベルの貼られた缶詰を煙草の横に置き
皺の寄る紙幣をポケットから出し煙草と缶詰の代金を払う]
然しオマエは何時から店番に成った?
こんな寂れた村の雑貨屋に丁稚奉公でもあるまい。
[器用に片手で煙草を開け一本を咥え
ジッポで火をつけゆるり紫煙を吐き]
オマエも退役した筈だが其の形、
今回の件にも首を突っ込んでるのかね?
危機を感じて少尉殿が送り込まれたのは頷けるが、
退役したクインの顔まで拝む事になろうとは。
[思案する様に目の前の男を見詰め]
一体どう言う風の吹き回しかね?
[口許を覆い俯き加減に紫煙を吐き]
成る程、准将…准尉殿の言う通り、
色々な思惑が絡んでいると言う事か。
さぁ、戦禍の村は危険だから重武装の店主でも違和感は無いと思ったんだがな。
[受け取った金をカウンター奥に置いて、向きは変えないままに喋り出す]
私はただ、仕事で来ただけだ。
軍と関係するつもりは無い。
仕事、か。
[ぽつり呟く頃には日も落ち]
金儲けをしている奴等の一端がオマエだったとはな。
軍もオマエの処もどうせ情報開示はせぬのだろうし、
我は民間人として今暫く高みの見物と洒落込むか。
こうして煙草にもありつけたしな。
[煙草を咥え商品を掴んで
ポケットに手を突っ込み]
寄る処があるから今は是で、
「仕事」で此処に逗留するならまた会う事もあるか。
オマエが余り派手にやらかさぬ事を願おう。
[コートの裾を翻し踵を返した]
軍に企業に民間人に、
世辞にも統率が取れているとは思えぬ。
〔缶詰を握る手の甲がこめかみに触れる〕
さて、我は如何動くか。
准将殿にお伺いでも立ててみるかね?
[煙草を咥えた侭に呟き
煙たそうに眼を細めた]
【――牧場、だった地雷原を臨む丘――】
…此処は、流石に包囲されていませんでしたか。
〔見下ろす草原は、牧草を刈る者もなく。
所々に黒ずむ痕と、飛び散った四肢のやはり黒ずんだ欠片〕
食い荒らされたように…見えなくもありません。
〔片手が、僅かに持ち上げられようとするが――止める。
十字を切るのは、今は躊躇われた。
ただひとときの黙祷を捧げ、やがて背後の廃屋を振り返る〕
〔相棒が選んだ其処は、確かに人目を気にせずに
済む場所だった。瓦礫と砕けた硝子が、軍靴の下で
勘に障る音を立てていて〕
…回収しました、有難う。
此れで大分、記憶との差が埋まりそうですよ。
〔ソファの裏から取り出した資料へ軽く目を通す。
頷きながら穏やかな声を届けて〕
ええ、よい場所でした――とても思い出深い。
方々と接触しながらになりますが、暫く話せます。
"捕食"の一人目は、指定をされていたのでしたね。
〔先に入っていた彼からの連絡に、思案げな間をおいて〕
…おや、…しまった。
では昨夜のアレは、通じていませんでしたね。
〔昨夜――愉しい方、とヴェンツェルの傷痕めかして
自らの左頬を指先で辿って見せた仕草を
思い起こしながら、やや恐縮する様子〕
今はワイズのエージェントだそうですよ。
下士官の幾人かから、噂は聞いていました。
接触する気でいたのですが、昨日は避けられましてね。
[焼かれた木々や朽ちた家屋痕を思い返し
以前の光景を想えば美しい村が想像でき]
我は戦前のこの地を知らぬが、
戦火に飲まれこの辺りも随分と変わったのだろうな。
〔こめかみに触れる拳が僅か握りこまれ〕
リッター少佐殿が来た以上、
アレの役目はもう終って居るであろうに。
無能な司令官なぞ放って置いてもさして差し支えるとは思えぬが、
必要以上に情報を握られているのであれば其れも頷ける。
取り敢えずはアーヴァインの捕食から始めるか。
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