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けれどオマエは戦火に焼かれ骨に成った。
然しオマエは未だ此処に在る。
未だ我の手の中に在る。
哀しいとは思わぬ。
オマエは未だ在るのだから。
我は先頃もオマエを撫ぜ笑ったか。
為れば今も我は幸せなのだろうか?
そも、我は幸せを知っていたのだろうか?
聡明なオマエは知っていたのであろうな。
〔指先は頭を撫ぜ額部分に唇を寄せられる〕
もう訊いても答えては貰えぬか。
判らずとも構わぬさ。
知りたいモノは其れではない。
〔頷く事も叶わぬから只黙して
眼窩の闇はじっと見詰めるか〕
彼の地に辿り着いた折、
オマエは死んだと言われたよ。
あの時からすれば随分とオマエも変わったか。
けれど我もその間に隻腕と成ったな。
〔相手方の通信が途絶えれば、あとは独り言にも似る。
月明りの届かない路地裏でだけ、声は紡がれ〕
共に帰ることで、貴官が何を得られるのか
…知りたい気もしてきました。
――今は訊きませんよ、叶わなくなりそうですから。
〔時折、休む間際の彼の様子を記憶に追う沈黙。
其処に相槌が挟まったかのように、声音も笑む〕
…お預かり致しましょう、私が血の海に沈むその時まで。
貴方が振り返らないことが分かっているので、
私もその時は――そうしようと思います。
〔飄々とした声音が言葉を裏切るので、これは彼に
看破されるまでもなく嘘。裏表のない所以かもしれず〕
…何も知らない僚軍に、邪魔をされたくありませんのでね。
なに、無理の内には入りません…毎晩繰り返すわけでもなし。
では、…"捕食"に良い場所を見繕うのはお任せすることに。
〔やがて声は、肩から銃剣を下ろす音と共に僅かな緊張も解かれ。
彼の勧めに従って、巡回途中の空家ででも休むことにしたようだ
――どのくらいとは言わなかったが〕
流石に、此方での階級は…拙いでしょう。
――ええ、聴こえています…声だけでなく。
〔相手の遊び心にか、短く面白そうに笑った。
落とした侭の声音は、彼の眠りを妨げるのを憚る響きで〕
よく眠れているでしょうか、ジーン。…
…まだ聴いてはいないでしょうね?
――有難う。…
〔通信は其処で*静寂を置く*〕
― 夜間 ―
[此方からの通信を終えてから
届く言葉に思索の海へ揺蕩い
碌な返事もせぬ侭に瞑目――
聴こえぬ程に小さく息を吐き]
【嘘が下手だな、ルーサーは…】
〔胸に抱かれ温もりに包まれる〕
【嗚呼、我は何処でも軍曹止まり
オマエの階級を忘れていた様だ】
[其の先に言の葉が紡がれる頃は
果たして聴こえて居たのか否か
聴こえた声に相槌は打たぬ侭に
月明りに映る口許は微か綻んだ]
〔一夜明けると其処は何時も以上に閑散としていた
あの頃の彼の地の様に時折軍人の足音が聴こえる
骨ばった指はするりと額を滑り降り眼窩をなぞる〕
嵐の前のなんとやら、かね?
[民間人の殆ど居なくなった村の様子を眺め
緊張感が漂う張り詰めた空気を肌で感じる]
是だけ厳重に包囲されていれば、
外敵に襲われる心配は殆ど無さそうか。
尤も、
――本当の敵は内側に潜んでいる様だが。
〔彼の地で破壊と殺戮の後に残された瓦礫の山と動かぬ躯の山
本来ならば清清しく温かい大気も絡みつく様に生温く不快で
軍人達と風がこの地にも微か漂う血と硝煙の気配を運び込む〕
[村の探索の合間にわき道に逸れて
周囲に誰の気配の無いのも確かめ
半壊した一軒の空家へと忍び込み]
昨夜話した村の資料と地上と下水の地図、
東の外れの廃屋に置いておく。
[ソファの裏に資料を挟み込む
差し込む日差しに粉塵が舞う]
軍の拠点からは少し離れているが、
オマエが見回りとして立ち寄る分には問題無い筈だ。
お偉方と会議中かも知らんし、
詳細の打ち合わせが必要なら後程にするかね。
[来た時と同様に静かに空家を出て
何事も無かった様子で歩き始める]
[遠く起こる風の振動に空を仰ぎ見る
投下される物資の包みが降っていた
長い前髪の合間から覗く眼を眇めて]
さて、待ち侘びた煙草はあるのかね?
少なくとも薬はあろう、
後で診療所に行くか。
[昨夜の軍曹と呼ばれた折の
ニーナの様子を思い出して]
別段に隠す気も無かったんだが…
我もヒトゴロシに変わりない、
村の者達は良い気はせぬか。
[話す機会も無かった事実を想い呟いて
小さく息を吐き*静かな村を歩き始め*]
さて、考えるべきか。
考えずに、ハニワのふりでもしていようか…。
…この期に及んでハニワはないか。
[話は建物の陰から大方を盗み聞いた。人狼に関しての情報は間違ってはいなかったが・・・]
全く、この作戦を考え出した奴には考えが足りないな。
アーヴァインか?
発想が固過ぎて、まんまと策にはまってやがる…。
こう言う空気はオマエが眠った時を想い出すな。
〔駈け付けられた時にはもう目蓋を下ろした後で
温もりは紅い血と共に抜け落ちて逝くばかりで〕
何を想えば良かったのだろうか?
〔長い前髪の合間から覗く眸がどんな色を浮かべたか
確認する事も叶わずにただ胸に抱かれ眠るばかりで〕
眠るオマエを抱いていたら、
もう死んでいると言われた。
ならば我も夜毎に死んでいると言うのかね?
那由他の命を奪い殺してきた筈なのに、
動かなくなったもの言わぬオマエを前に、
我には判らなくなってしまった。
[髑髏を取り出し眼窩を覗く
眼差しは何処までも優しい]
死とは何であったのであろう?
[目蓋をおろし額に口接け]
オマエは動かずとも、
口を利かずとも、
此処に在るではないか。
我の殺してきた筈の者達も、
何処ぞの地に埋まり未だ眠り続けている。
こんな静まり返っちまって…。
これじゃあ死んだ村と同じだな。
差し詰め、仮死状態の村か。
今夜辺りが峠かもしれんね…。
[気まぐれに入った建物は前までは雑貨屋だったのだろうか。
それらしい物がちらほらと置いてあるものの。
ガラガラの棚に少しだけしか乗っていない品物が、余計に寂しさを際立たせる。
ふと、何かを思いついた様にカウンターの内側に入ってみる。
そこには、店主が疲れた時に休む為に置かれたのであろう椅子等が置かれたままになっていた]
ここからの眺めってのはこんな風なのか、へぇ…。
新鮮だな…。
眠れ愛し子胸に抱かれ
暖かく居心地が良い それは真実
この腕の中 この愛
誰にも貴方を傷付けたりさせない――…
[聴く者のない子守唄が、遠く村の外まで見渡せると信じていた村の丘の上に響く。
歌声の主は唐突にそれを止めて、土がつくのも構わずに座り込んでいた膝の中に顔を埋めた。
途切れ途切れの声は、自分に言い聞かせているかのようでもある]
人狼…
敵国の暗殺部隊が入り込んだから…
この村から連れ出されたあの子達はむしろ安全で…
何も心配することは無いんだよね……?
[昨日唐突に教会に入り込んで来た兵は詳細な事情までは説明しようともせず、泣き出す子供もいた。
次々と連れ出されていく様子はまるで連行だった。
肝心の自分は思わず待って下さいと取り縋り、抵抗と見た兵に突き飛ばされて、呆気なく頭を打ち床に伏してそれっきり]
それがぼくの役目なんだから…
守ろうって思ってたのに…
[――泣きたいのは離れ離れになった、子と親の方であるはずだ。
安全なはずの教会で、いつも大丈夫ですよと言い続けた男は連れられて行く自分達を守れもせずに、村から出された子達は今一体どんな気持ちで居るだろう]
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