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[一面の泥濘だった。
空は厚い雲が垂れ込めて暗く、地面はそれよりも尚黒かった。
至る所で斃れ、動かなくなった兵士達の姿。
泥と血に満ちた戦場。
雨は今も続く。
俺はただ、その中を歩き続ける]
……ッ、はぁッ……。
[視線を彷徨わせても動く者の姿は無い。
友軍だけでなく敵軍も。
俺の目に映るのは骸と化した兵士どもの成れの果てだけ。
自分がどこに向かっているのか。
自分がなにを目指しているのか。
それすらも思考から消え失せ、ただ俺は歩く]
……ッく、まだ……先、だ……。
[手に提げたサーベルが重い。
刃は血にぬめり、幾つもの刃こぼれを生じさせていた。
全身の傷が苦痛を訴える。身体が軋む。
痛みではなく、常在する熱さ。
熱病に浮かされた患者のように俺は彷徨い歩く]
……あぁ……。
[俺の目はふと空を見上げる。
暗雲。かすかに切れ目が差し、明るい光がこぼれていた]
[ネリーの言葉を心の中で反芻するかのように、
視線を落し小さく頷いては]
ありがとう。
[先ほどより少し和らいだ笑みで言葉を返した。
それから再び階段を昇り始めた]
踊り子 キャロル が参加しました。
踊り子 キャロルは、おまかせ を希望しました(他の人には見えません)。
ちっ。
[舌打ち、肩に銃。
敵兵の手を踏み躙り険しく眉を寄せる。
雑音、無線、手に取った]
此処の掃討は終了だ。
奴等蟻みたいに次から次へと湧いてくるがね。
ああ、酷い有様さ。
デブが殺られた。
そっちは。
……そうか。直ぐ戻る。
……だが……。
[右肩。左腕。脇腹。太腿。腹部。頬。ふくらはぎ。
裂傷。創傷。刺突傷。打撲傷。
無傷な箇所など無い。
一歩進む度に腹腔から臓物がぞろりと洩れ落ちそうな錯覚。
右手で押さえながら、よろよろと進む。
だが、限界だった]
……ッ。
……いい、や……俺、は……いく、ん、だ……。
[サーベルをぬかるみに突き立て、足を止める。
何も動く者の無い風景。
暗く閉ざされた戦場に俺は独り。
崩れ落ちればそれが最期――]
……は、は。
……だからって。
……還ったところで何も待ってなくたって、な……。
[それでも構わなかった。
そう思って俺は此処に来た。
その筈だった、のに――]
退くぞ。
[どうやら女は此の部隊の隊長であるらしい。
彼女の一声で部下達が一斉に行動に移る。]
待て。
おい、其処のお前。
[満身創痍の紅い髪の少年。
銃を向け声を掛けた]
……どう、致しまして。
[小さく返して、シャーロットの姿を見送る。
少し俯いて、薄く笑った。]
有り難う――か。
ふふ。
[仄かな笑みの奥にも、瞳は何も語らない。
緩く瞑目して。
遠い銃声に、静かに息を吐いた。]
……ッ。
[ぎり、と唇を噛み締める。
鈍くもはっきりした痛み。
何の為に還るのかなどどうでも良かった。
ただ死ぬだけの運命に抗う為だろうか。
だとしたら俺はひたすら愚か者で居たいのか。
下らないと自嘲する思考も下らないと思えた]
【 - 自室 - 】
[窓辺にある椅子に腰掛け、一枚の写真を見つめる]
帰りたい、帰れない。
戻りたい、・・・戻れない。
[写真の亡き友人の笑顔にそっと指を下ろす。
傍らにいる自身の表情は今のそれとは違う。
顔をあげると外は過去を抉り取ってしまった光景。
世界の終わり、それすらをも連想してしまう。]
[全身から血を流し。
何を求めてかも分からぬまま。
唯一の頼みは尽きかけた刀だけ]
【それが、どうした】
[それでもただ闇雲に、当て所もなく歩き続ける。
いつの頃からだったろうか。
俺の中に巣食っていた――心象風景]
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