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―回想―
[セシリアが無言のまま本を読む様子や、ネリーの瓶を不思議そうに眺める。
酵母なんて今まで縁がなかったから、酒か…なんて思いながら。]
布団剥がなくたって、部屋に入っただけで分かるさ。
若い女は、婆さんとは違っていい匂いがするからな。
[デボラにはふんと鼻を鳴らし、グレンに答える。
昨夜、集会場の外で話した時に漂った甘い匂い。]
[ミッキーとは自己紹介くらいは済ませただろう。
ネリーが居間に戻ってくれば、煙草を消して笑みを向ける。]
―――いい女探し。
[旅の目的はない。
気まぐれに旅を続けているのだが、冗談の通じないらしいネリーには言葉通りに受けられたか。
その後、自分もまた部屋に戻り、朝を迎えるのであった。]
―回想・了―
[朝早く目が覚めて、居間の窓を全開にする。
まだ、誰の姿もない。]
アーヴァインはまだ……か。
一体、いつになったら戻って来るんだか。
[文句を漏らし、窓際で乾いた肺に紫煙を満たす。
肺が満ちると、今度は喉を満たすために厨房へと]
[厨房で、ネリーが大事そうにしていた瓶をみつけて手に取る。
どう見ても、酒にしか見えない。
瓶を元に戻し、喉を潤いながら呟くことは]
いい天気だし、村の案内でも頼んでみるか。
[一ヶ月居たとはいえ、この村のことは何も分からない。
昨日みつけた湖以外に、何かあるのか知るのも悪くは無い。
男はそんな気まぐれを起こし、ネリーに会えば誘ってみる心算。*]
―回想―
いい女探し。
[ギルバートの言葉を復唱する。さすがのネリーにもその意味は理解できた、らしい?]
ああなるほど、結婚相手を探してらっしゃるのね。私のおじもお眼鏡に適う女性を見つけるために王都まで旅をしていましたわ。
ギルバートさんって、なかなかのロマンティストですのね。どんな女性を選ばれるのかしら…?やはり、華やかでスタイルの良い方?
[窓際に戻り、紫煙を燻らす。
僅かに空腹が襲っているが、三度の飯より煙草が良いらしい。]
しかし、あいつはどこまで冗談が通じないんだか。
結婚なんて、考えたことねぇよ。
[昨晩は、からかうのが面白くてネリーの言葉に頷いた。
尤も、問われた好みの女には、”胸がデカい女”と本気か嘘か分からない言葉を返したのだが。]
[階下に下りると既にギルバートの姿があり、多少意外に思いながらも。]
おはようございます、ギルバートさん。旅をする方の朝は早いのですね。
瓶は強く振らないでくださいね。驚いてしまいますから。
[エプロンをすると、ギルバートが手にしたのとは違う、内部が泡だらけになった一番大きい瓶を取り出す。既に元種になっている。
粉などに混ぜ込んで平台の上でパン生地を捏ねる姿は、思ったよりも力強い。]
ああ、良い香りね。麦とバターと、それに少しお酒の匂い。
[厨房にほんのりと朝の匂いが充満しだす。焼きあがる頃には、広間にまで流れ出すくらいパンの香りが溢れるに違いない。
捏ね終わるとボウルに入れて濡れ布巾をかぶせて、二倍以上になるまで放置。]
…ん、これでしばらくのんびりね。普段は平行して他にもお店用に色々と作るのだけれど…。
[少し淋しそうに呟いた。]
―回想―
そうだわ。ギルバートさんは後でおばあちゃんの若い頃の姿絵を見せていただくと良いわ。
おばあちゃんはとても美人で、胸も豊かなのよ。きっとギルバートさんの好みにぴったりだと思うわ。
[見て好みぴったりだったとして、それでどうするのだと呆れられそうだが。]
―回想・了―
やっと起きたか。
この村の奴は、皆朝が遅いのか?
[似たような意味の言葉を返し、煙草を消して厨房へ。
ネリーが生地を捏ねる様子を、感心の息を吐きながら眺め]
ずいぶん、力強いんだな。
お前と喧嘩したら、俺が負けそうだ。
[相変わらず冗談を口にする。
漂ってきた匂いは、すぐに煙草の匂いを消し去るように広がり、一つ大きく息を吸った。]
昨日の話だが、婆さんの写真はいらねぇよ。
興味もない。
[もともと、女の好みなど存在しない。
言い寄ってきた女は受け入れるが、本気になることなど一度もなかったのだから。]
なぁ、それ膨らむまで少し時間かかるんだろう?
ちょっと外行かねぇ? 軽く案内してくれよ。
煙草も買い足しておきてーし。
[エプロン姿の女を見ているのも悪くはないが、
あまりの天気の良さに、外に出かけたい気持ちが勝った。]
[ネリーがパンを捏ねるのをじっと見ていたギルバートの姿を見返して、たずねる。]
パン作りに興味がありますか?生き物相手だから、面白いのよ。へそを曲げてしまうと、ぺちゃんこになっちゃうの。
それは、ギルバートさんは女性相手に本気でけんかをするような人では無いということね。素敵なことだわ。
おばあちゃん綺麗なのに…。でもそうね。今の年齢を重ねたおばあちゃんも、歳相応の美しさがあるものね。
村の案内?私はあまり出歩くほうではないし、そんなに色々と知っているわけではないの。でも、そうね。パンが膨らむまでの間ならば。
[エプロンを外しながら返事をする。]
朝が遅いわけではないのよ。みんな単にちょっと、のんびりしているだけ。
朝露が消えないうちには起きるわよ。
[手を洗うと、小さな籠を用意した。せっかく出かけるならば、何かを採集するつもりらしい。]
パン作りというか……パン作りしているお前に興味がある。
エプロン姿、なかなか似合ってるしな。
[へらと笑い、からかってみる。
興味があるかどうかは別として、ネリーのエプロン姿に対しては本心だった。]
そんなに俺を持ち上げても何もないぜ?
お前、あの婆さんのこと、本当に好きなんだな。
[集会場を出た後、煙草に咥えながら歩き出す。
紫煙を吐き出す向きは、ネリーとは逆の位置。]
昨日、この奥で湖みつけたんだよな。
夏なら泳いでみたかったが、流石にこうも涼しくなると…な。
[気づいたら、ネリーより早く歩いていることに気がつき、歩を遅める。]
この村って、何か名物な場所とかあるのか?
似合っていますか?ありがとうございます。
なるほど、胸の大きな女性を好む男性は母性を求めると聞いたことがあります。エプロンやパンを作る姿も、似たようなものなのかも…。
ギルバートさんは家庭的な女性を求めてらっしゃるのね。
[すっかり勘違いが定着してしまったらしい。]
おばあちゃん、大好きよ。強がって見せることが多いけれど、優しくて朗らかな女性だわ。
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