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["間違った手段"では無いと信じながらも、聖杯戦争にジャックと言うサーヴァントを従えて戦うと言う決意が最後の最後まで出来なかったのは紛れも無い事実だ。あの影を怖いと思い、憎むべきものだと思ったのも事実だ]
……、帰ろう。
[静かに首をゆっくりと振る。太陽はとうにその姿を消し、街をどこまでも暗く染め上げていた。頭上にはただ欠けた月一つが浮かび、星は瞬く事が無い。静かな夜だった]
[答えながら、聞こえてきていたダビデと名塚とのやり取りに思いを馳せる。彼の判断は甘かったのではないと、悪くないと、そうみなみは思った。だがそれを言うかわりに、ふっと先程とは違う笑顔が浮かんだ]
あなたには、負けたわ。
[ジャックの消滅を確認して笑顔を見せた]
そう、か。よ、かった……。
[不意に瀬良悠乎の姿を思い出した。
別に敵討ちなんてつもりはなかった、そんな間柄ではない。
それでも被害者が少しでも報われてくれるならそれでよかった]
[どうするかと言う問いには首を傾げながら、結局答えは出ずに名塚の言葉を繰り返した]
どうするのかな……。
でも、どうするも何も、ジャックは、わたしの、サーヴァントだったから。
出来ることなんて、無いんだけどね。
[青年の呟きと、みなみへの問い。
致死の負傷を負った彼を助ける術は少年の手の中に無い]
――私は、けれど、その甘さこそが、ヒジリに私を呼び出させたのだと思います。
――そして、貴方を良いマスターだ、と感じさせたのだとも。
[少年は自問する。聖杯への願いが叶うなら?
それでも、彼を蘇らせようとは自分には考えられないだろう。
厳然とした数理。ただ一人を救うのと、多くの人を救うのと。
天秤の傾きは間違えようも無かった]
ちゃんと、考えたいの。
[ぽつりと呟いた。今までならばすぐに本家の指示を仰いだだろう。大体彼らが何を指示しそうかは、想像がつく。そう簡単に聖杯を諦める事を良しとする訳が無かった]
……結局悩んでばっかりで、わたしは、何もしなかったから。もっとすべき事はあったはずなのに。
[もう一つ、胸に引っ掛かっている罪悪感とが、みなみの気を重くした]
[負けたとの言葉に苦笑いする。
表情が作れているかも既に怪しかったが]
ぼ、くは、死ぬ。
君は、ま、だ、いき、てる……。
そ、れが、す、べ、てだ。
[そこまで話すと決心がついたように語った]
ダビデと、け、契約してた、たか、いを……つ、づけるといい。
彼は、む、きずだ。
それに、君の答、えは、悪く……、なかった……。
ダビ、デと、なら、うま、くやれる、さ。
[みなみの答えを待った]
[アーチャーの方に視線をやって、それから、目を伏せる。考えたことも無い事だった]
なんで……? わたしは、切り裂きジャックのマスターで、それでも良いと言ったんだよ。
あなたは、それで、いいの?
[ダビデの言葉はなぜか嬉しかった。
自分にとって甘さは恥じるべきものだった。
それを肯定してもらったような気分だったからに違いない]
ああ、君、も、あまい…、か、らね。
似た者、同士だな…。
みな、みと…、一緒…に…、戦うんだ。
君は…、ここで、足を…止める、べ、きでは、ない……。
[手に力を無理やり入れて握り拳を作った]
アーチャーのマスター、名塚聖が令呪により命じる。
名塚聖との契約を破棄せよっ!!
[最後の力を振り絞り一気に叫ぶように言葉を紡いだ。
手に残った最後の令呪が光り輝き消えていった。
その輝きが収まった時、すでに名塚聖という存在はこの世から消えていた]
……ダビデをその身を挺して守ったあなたならわかるでしょ。
今のが死んだからじゃあ次、とは、思えない。
[体内の魔力を共有する人が居なくなった。体の保有する魔力の絶対量が戻れば、体の動きは軽くなる。その感覚を思いながら、地面に横たわった名塚を見た]
……考えたいの。話も、したいしね。
[最後の令呪が起動する。
互いの経路(パス)を一瞬だけ活性化させ、そして消失させた。
もう、青年から送り込まれてくる魔力の波動は感じられない。
触れるほど近くに居るのに――]
先に、進めと。
それが、最後の命令なのですね……ヒジリ。
[――彼自身が持つ、魔力すらも。もう、感じられなかった]
[聖からの魔力が消失するに伴って、令呪の強制力は消失して言った]
……みなみ。その言葉には同意します。
キラーのマスターである事を受容していた、という事実にも。
[小さく息を吐き、みなみを見つめる]
一旦、互いにどうするかを考え、話し合う時間が必要でしょう。
ですが、移動する前に……一度、教会に連絡を入れて頂けませんか? この場の処理は、なるべく迅速に済ませたいのです。
[もはや物言わぬ骸となった青年に視線を向け、黙祷を捧げた]
[魔術使いの家系に生まれ魔術を収めた。
初めての仕事は簡単だった一般人を虐殺した魔術師の始末。
自分が正義で相手が悪とはっきりしていた。
暫くはそんな仕事ばかりで自分が正義の味方だと感じそれを誇りに思った。
だけど、そんな日々はあっさり終わりを迎えた。
自らが殺した相手の真実を知ってしまったからのだ、真実は残酷で、自分が唯の人殺しだった事を思い知らされた。
魔術刻印を継承し、家を継ぐころには完全に歩む道を失っていた。
魔術の世界から離れる事など許されず仕事を続ざるを得なかった。
不幸な事に能力はそれなりにあったお陰で仕事で死ぬ事もなかった。
最後は奇跡にすがる事しかできなかった。
魔術で殺したり殺されたりすることのない世界にいきたい、そんな願いを抱いて聖杯戦争に参加するしかなかった。
結果、死に至った。
中途半端な人生で何も成し遂げる事ができなかった。
後悔があるかと聞かれれば、あると答えるのは間違いない。
それでも満足する死に方だった。
最初に誇りに思った正義の道を貫いて死ねたのだから**]
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