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『 Fate / desire 』
―― 0/prologue
1人目、吟遊詩人 がやってきました。
吟遊詩人は、村人 を希望しました。
崩れ行く砂の器の様に
想いは満たされず慟哭だけが残る
眠る事すら忘れて閉じる瞳
彼の物の最後の姿が思い浮かぶ
彼の地での約束は
未だ思い出に変わることはなく
流れ出てゆく思いの最後には……
絶望に縋る憎悪のみとなっていた。
村の設定が変更されました。
2人目、桐生 茜 がやってきました。
桐生 茜は、村人 を希望しました。
― 漆路山 ―
[蝉時雨が、頭上から降り注ぐように響いている。昼間だというのに、鬱蒼とした森の中は、木々に遮られて日の光もどこか心細い。
ぽたり。
足元に、水滴が落ちる音が微かに聞こえる。
それが、今、自分の頬を流れている汗なのか、腕を伝わっている赤黒い液体なのか、それを確かめる事すら億劫に感じた。
ふと、後ろを振り返る。
閑散とした陸道寺を通り過ぎ、この奥深い森の中に足を踏み入れてから、もうどれくらい経ったのだろう。
ここは、聖杯戦争の土地の霊山。過去に日本に来た魔術師の末裔が寺の住職として管理している。
ただし、土地が合わなかったらしく回路はなくなり知識のみが継承しているらしい。
日本独自の魔術に興味を持った初代が陰陽寮に接触、交友関係を持っている。
そういう意味では、ここほど自分にとって都合の良い場所は無かった。]
[ぽたり ぽたり
徐々に耳障りになっていく、水滴の音。
目の前を、掌程の大きさの蛾が、視界をかすめてはふわりと消えた。]
……。
[それに小さく舌打ちすると、左腕の傷にずぶりと指を食い込ませる。]
…っ。
[もう、大分痛みも麻痺した腕から、新たな血が流れ出す。その血を指に取り、小さく何事かを呟くと、自分の周りに陣を築いていく。
最後に、目の前の大木に小さめの陣を描き、印を組む。足元が軽くふらつくのを感じた。]
(……これで、三度目。)
[もう、自分の中に流れている血があとわずかだろうということは、薄々わかっていた。]
(…ならば)
[成功【させなければならない】]
[一番、地の霊脈が自分の波動に合う日を選んだ。今日を逃したら、次のチャンスはいつになるかわからない。何より、……ここで屈するのは【負け】を認める事になる。]
冗談じゃ……無い。
[体温が下がっている為か、体が小刻みに震える。
それを、ごくりと喉を鳴らす事で無理矢理押さえ、足に力を込めた。]
…我、汝に命ず。
[大木の陣に、ゆっくりと掌を掲げ、詠唱を続けていく。]
あらゆるものの造り主
その下にあらゆる生が
ひざまずくかたの 名にかけて
万物の生の威光にかけて
我は……汝を呼び起こさん…っ!
[叫ぶように詠唱を終えると、懐から短剣を出し、陣の中央に突き刺した。]
3人目、セイバー がやってきました。
セイバーは、人狼 を希望しました。
[――山が震える
いや、そう感じられただけだろうか。
だがそこに迸る魔力の奔流は、それ以上の何かが起こる予兆のようで。
その奔流は、召喚者の静かな叫びに応えるかの様に血で彩られた陣へと流れを変える。
流れは光へ、光は形を持って己の輝き故に影を生む。
その形は紛れもなく人、されどその内は人からかけ離れた世界の末端。
ここに想いの現界は成された。
さぁ、開始の言葉を紡ごう。
この先、互いを繋ぐ開幕の呪いを。]
――問う、お前がマスターか?
……っ!
[足元に地鳴りのような振動が伝わり、思わず膝をついてしまう。]
あ……。
[目の前から溢れ出す光に目を奪われ、そしてそれが形作られたのを見ると、心臓がどくんと大きく波打った。]
あ…は……あはは…。
私……呼べた…呼べたのね……っ ! あははははっ!
[狂気のような笑い声が、森の中に響き渡る。そんな少女の周りを、先程の蛾がくるりくるりと舞っていた。]
…そう、私が…マスター…よ…。
[途切れ途切れに言葉を吐くと、体から力が抜けていくのを感じた。段々と視界が暗くなっていき、地面が目の前に迫ってくるのを、少女はぼんやりと見つめていた。]
[少女が"マスター"という言葉を発した瞬間、どこか朧げだった物が鮮明になる。
その魔力の流れは目の前の少女から己が内へ。
もはや疑うべき事は何もない。
そう思った時に、突然少女の体が崩れるのを抱き止める。
何があったのかと不思議に思うが、周りをよく見て大体の事は把握する。]
……真名すら言う前に倒れてどうする。
[ため息をつき、辺りを見回す。
現在位置や状況すらも解らないこの状況では動きようがない。
しかたなく、抱き止めたまま樹の幹を背に腰を下ろす。]
ったく、無茶をする奴に呼ばれたもんだ。
[血の気が無い顔を眺める。
死ぬ心配は無さそうだが、確実に体力は限界だろう。
心なしか体温も下がってきているようだ。
暫くは目が覚めないことも確実だろう。
やれやれ……といった様子で少女を抱き寄せると、
胡坐をした自分の足の上にのせて、自分の前面を背もたれにさせる。
そして、その上から自分の外套を掛けてやった。]
これなら大丈夫だろ……。
[男は再びため息をつくと、少女が起きるのを静かに待った。]
[―いつもの 夢を見ていた。
深い深い闇の中に、ゆっくりと意識が沈んでいく。その底の無さに、徐々に恐怖を覚えはじめていたところに、ふわりと何かに抱きとめられる。]
(……あ)
[背中から、包み込まれているような温かさを感じた。その温もりに、心の中で張り詰め続けていた物が、徐々に溶けていく。涙が一筋、頬を流れて落ちた。]
……生きて……たの…?
[緩やかに微笑みながら、背後の人物にそっと頬を摺り寄せる。すると、その途端に感じた何かの違和感。
思わずはっと目を見開いて、後ろを振り向いた。]
…っ! あんた、誰っ!?
[思わずがばりと起き上がろうとするも、その途端に強い眩暈を感じ、相手の膝の上に再び倒れこんだ]
[樹に背を預け、空を何気なく見上げる。
どれくらいそうしていただろうか?数分だったかもしれないし、数時間かもしれない。
少女がごそりと身じろいだのに気が付き、起きたのかと思ってそちらへと視線を向けた。
しかし少女の瞳はどこか虚ろで、その後の心当たりのない言動から、寝惚けているのだろうかと思案すると、少女は突然驚いたように声を上げた。]
おい、大丈夫か?
[膝の上に倒れこんだ少女を抱き起こす。
まだ調子が戻っていないのだろうか、体に力が入っていないようだった。]
おいおい、誰って……お前が召喚したんだろ?
召喚…。
[目を白黒させたまま相手の言葉を反復すると、はたと気付き、ようやく自分の置かれている状況を理解した。]
……悪かったわね、人違いよ。
[吐き捨てるように言うと、抱きとめられたまま、ぷいと怒ったように顔を背ける。]
…ちょっと、いつまで触ってんのよ!離してくれる?
私がこれくらいの事でどうにかなるとでも思ってるわけ?冗談じゃないわ。
[視線を逸らしたまま、居心地悪そうに身じろぎしつつ悪態をつく。]
人違い、ねぇ……。
どうにかって、如何するっていうんだ。
[突然色々と捲し立てる少女に半ば呆れる。
どうやら自分は中々愉快な主を得たようだ。]
とりあえず話してる時くらい眼を見て話せ。
ほれ、立てるか?
[抱き上げながら少女をゆっくりと離す。]
[ようやく開放され、勢いに任せて立ち上がると、かけられていた外套が足元に落ちた。
それを見て、一瞬何とも複雑な表情をして、口を開きかけた。]
……。
[だが、その口から言葉が出て来ることは無く、代わりに思い切り威勢良く鼻を鳴らして、目の前の男を睨み付ける。]
…とりあえず礼を言うわ。介抱してくれてありがとう!
[地面に落ちた外套を拾い、埃を払ってからずいと差し出す。]
それと、名乗っていなかったわね。
私は……、桐生(きりゅう)茜。
貴方の事は何と呼べばいいのかしら。
おう、まさか召喚されて最初にすることがマスターの介抱とは思わなかったがな。
[外套を受け取り、バサリと肩へと掛ける。
その色は暗いながらも、鮮やかで静かな雰囲気が漂う赤。
そして裏には見る者を不思議と惹きつける黒が広がっていた。]
アカネ……か。
[少女が名乗った名前を、静かに繰り返す。]
中々良い名だ。
魔力の量も桁外れとかじゃないが、中々の量と質。
そして何より……
[ゆっくりとアカネの姿を見て、不敵に微笑む。]
――俺を呼んだんだ、マスターとして是非もねぇ。
[その姿は己への自信に満ちていた。
しかし、その笑みはどこか少年の様で……。]
[男の体に、光が走る。
光と共に現れるは、鈍く輝く西洋鎧。
だが、その鎧には所々に日本風の意匠がなされており、どこか不思議な雰囲気と威圧感を漂わせていた。]
サーヴァント・セイバー。
マスターの叫びを聞き、確かに此処に推参した。
此度の戦に於いて、我が武を持って勝利を奉げよう。
[目の前の男が、よく響く綺麗な声で、自分の苗字では無く名前の方を呼ぶのを聞いて、少し微笑む。]
…ありがとう。
私、そう呼ばれるの、好きよ。
[その後に続く男の言葉と、その鎧姿に目を見開く。]
セイバー……?
あの、もっとも優れたサーヴァントと言われている…?
[確かめるように尋ねた。思わず、声が震える。
そんな彼女の肩に、蛾がゆっくりと止まった。その蛾に向かって、どこか恍惚とした表情で呟く。]
……聞いた?
セイバーですって…。これで……何の文句も無いわよね。
[指先に蛾を移動させると、そっと両手で包み込んだ。そのまま、ぐっと力を込める。]
後は……私の好きにやらせてもらうわ。
[ぐしゃりと小さな音がして、蛾がぴくぴくと痙攣すると、その姿は何やら文字の書かれた札のようなものになった。
もはや、ただの紙屑と化したそれを、地面にぽとりと落とす。]
ふふ……あはは…。
[くすくすと笑いながら、セイバーと名乗った男に手を差し出す。]
よろしく。必ず…聖杯を手に入れましょう。
ならアカネって呼ばせてもらおうか。
そしてひとつ訂正するが、セイバーだから強いんじゃねぇ。
――俺が俺だから、強ぇのよ。
[腕を組み、ハッと笑う。
しかし、その後のアカネの言動に若干表情を硬くした。]
……。
嗚呼……宜しくな、アカネ。
[差し出された手を確りと握りかえす。]
……。
[自分の体温が下がっていた為か、握り返された手が、熱い。
少し不思議な顔をして、目の前で不敵なセリフを吐き、からりと笑う男を見上げる。]
(そういえば…こんな風に誰かの手に触れる事は、いつ以来だっけ…)
[一瞬、どこか遠くを見るような目をしたが、セイバーが表情を固くするのを見て、はっと気付いたように頭をぷるぷると振った。]
…じゃあ、行きましょうか。案内するわ。
[感情の無い声で告げ、繋いでいた手を離すと、くるりと体を反転させ、森の出口の方に歩き出した]
つれねぇなぁ、器量好しっつーのに勿体無ぇ話だ。
[出口のほうへと振り返るアカネを見てため息をつくと、アカネの横へ並んで共に歩き始めた。]
……もう、本当に大丈夫そうだな。
んな無理しねーでもいいだろうに。
人生たかが50年。
止まってられるほど長くもねぇが、そんな死に急ぐほど短くもねぇぞ?
無理なんかしていない。
見くびらないで。
[そう言い放つと、しごく当然のように横に並ぶサーヴァントを見て、言いようの無い苛立ちを感じ、小さく溜息をつく。]
…あんたみたいな人、苦手だわ。
[その感情が、ただの八つ当たりに過ぎない事は充分承知していたが、あまりに無遠慮に自分の領域に入ってくるその行為に、思わず吐き捨ててしまう。
そして、そんな自分に、また嫌気がさす悪循環。]
人生50年…。
[どこかで聞いたようなフレーズに、少し不思議な顔をする]
英霊も、時を語ったりするの?
そんなものはもう、達観していると思ってた。
そりゃ残念。
[だが「嫌い」とは言わないんだな、と心の中で付け足す。
それと同時に、何故か笑いがこみ上げてきて、顎に手を当てクッと笑う。]
阿呆か、達観できてりゃ世界に縛られたりしねぇよ。
英霊ってのはな、誰よりも過去って時に縛られてんのさ。
人間誰しもうつけなんだよ。
その上にごちゃごちゃと面倒なもん飾り付けて必死に賢い振りすんのさ。
[笑う相手に、少しムッとした顔で睨み付けたが、続く言葉を聞き、歩を止めて足元を見る。]
…そう。
私と、変わらないのね…。
[傍らの相手に聞こえるか聞こえないかの、ごく小さな呟きを漏らす。
しばらく下を向いていたが、何かを振り切るように顔を上げると、森の出口に向かって歩き出した。]
…そういえば
[まっすぐ前を向いたままで、尋ねる。]
貴方の、名前は?
[その問いが、これからの戦いに必要であったからなのか。それとも、セイバーというクラス名で呼ぶ事に、何故か抵抗を感じ始めていたからなのか。
自分でもよくわからないまま、男の名を問う。
もう、目の前には鬱蒼とした森の終わりが見えていた。]
ああ、そういや言ってなかったな。
[その前の呟きに、セイバーは答えなかった。
それが単に聞こえなかったからか、それとも……あえてなのか。
それは彼にしかわからないだろう。]
俺の名前は……。
――上総介だ。
[セイバーがそう呟くと同時に、森の鬱蒼とした景色が*終わりを告げた*]
…上総介。
[告げられた名を、繰り返す。]
……良い名前ね。
[実を言うと、その名前に心当たりは無かったが、セイバークラスの英霊、それも和名と来れば、おそらく名の知れぬ者では無いはずだ。
だが、知らない、と言うのも自分の無知を曝け出すようで抵抗がある。]
……じゃあ、二人きりの時は「上総介」って呼ぶわ。
いいでしょ?
[少しふくれながら、誤魔化すようにそう言い放つと、ふいっと顔を背けた。
いつの間にか夕暮れも間近で、蝉の声はひぐらしの鳴き声に*変わっていた。*]
4人目、??? がやってきました。
???は、おまかせ を希望しました。
??? が村を出て行きました。
4人目、梧桐 曹 がやってきました。
梧桐 曹は、おまかせ を希望しました。
………消えろ。
[ 部屋の奥の暗がりから、低い呟くような男の声に。女の姿は跳ねた水のように消え去った。
trrrrr... trrrrr...
鳴り続ける電話の音にため息をひとつ。そうしてから男は重い腰をあげ受話器を手に取り口を開く。]
…はい。
………ええ、これからはじめます。バックアップの方は、打ち合わせどおりに。
…もちろんです。必ずや、梧桐の血を本流へと。…はい。では。
[ 務めて、短く会話を打ち切り受話器を置く。そして、深く息を吐いた。]
[ 梧桐の血を本流へと。
それが、梧桐 曹(ゴドウ ツカサ)に託された願いだった。だが、しかし。]
行ってくるよ、マナカ。運命を変えるために…君の力を借りる。
[ テーブルの上にあるフォトスタンドに語り掛ける。そこに写っているのは、さきほど闇に浮かび上がっていた女性の姿。
フォトスタンドの横に置いてあった、正円に一文字が入っただけの家紋が刻まれた懐剣を手にすると、ツカサは部屋を出て行った。]
[ ――深夜:流廻川 河原
ツカサの周囲は不自然なほどに濃い闇が降りてきていた。
創り出された闇の中で、河原に迷うことなく召喚陣を描いていく。右手に握る絵筆で左手に持つパレットより望みの色を取り出すと、ひと振り。
数度これを繰り返した後には、淡く光る召喚陣が描き出されていた。]
………さあ。
[ ポケットから取り出した懐剣を、召喚陣の中央へと捧げる。正円に一文字の家紋が、鈍い輝きを発する。]
我が願いの為に、英霊よ…我が前へと………。
[ 聞こえ難い声が、魔力を持ちマジナイを生み始めた――]
5人目、ランサー がやってきました。
ランサーは、村人 を希望しました。
[召喚陣がひときわ輝いた後、光が弾けた。
まず現れたのは空中で回る長槍、続けて弾けた光が集い、それをつかむ男の姿を形となる。]
よっしゃあぁぁ!久方振りの現世だぜ!
お呼びとあらば答えよう!原田左之助、ここに推参!
[そう名乗りつつ頭上で回していた槍を、力強く傍らに突き置く。
河原に乾いた音が響く中――]
名前は隠しておいた方が良いんだっけか……?
まあ、いいか!
[と言い、からからと笑った。]
[ 弾けた光が辺りを覆っていた闇を吹き飛ばした。
慌てて目を庇ったが少し眩んでしまった。視力の回復しきらぬうちに景気のいい声が名乗りを挙げたのを聞いて、口から安堵の息が漏れる。
よかった。望んでいた英霊を呼べたようだ。
目をこすり、口元に和らいだ笑みが浮かぶのをおさえることもなく、現れた人物に話しかけた。]
ああ、よかった。お会いできて光栄です、原田左之介どの。呼び出された理由はご存知ですね? 私が貴方のマスターとなる梧桐 曹と申します。どうぞ、よろしく。
[ ひとしきりの挨拶と共に、右手を差し出した。]
[相手に手を差し出させたまま、左之助は値踏みするように梧桐の姿を見つめる。
高楊枝をくわえたままくるくると回すと――]
ちょっと硬ぇな!
[と、言いながら梧桐の肩をばんと叩いた。]
マスターって異国語は口慣れないんで、「呼び出し人」って言わせてもらうぜ。
名前を呼べる時はそうするけどな。
呼び出した理由は願いをかなえるため……だろ?
なら、俺たちは同志だ!
マスターとか英霊とかはどうも面倒くせぇ。
俺はそうだな……「左之助」とでも「一文字」とでも好きに呼んでくれや。
[左之助はここで梧桐の右手を握ると、「まあ、よろしくな」と言い、にやりと笑った。]
[ ばんと叩かれた肩に顔をしかめるも、好感の持てる相手の態度に少しづつ緊張がほぐれていく。]
はい。ありがとうございます。では、一文字とでも呼ばせていただきます。…一応、真名は伏せておいたほうがよいと思いますので。
私のことはツカサとでも呼んでもらえれば。こんな喋りをしてはいますが、私も堅苦しいのは好きではありませんゆえ。
[ 笑みをつくり、握られた右手を強く*握り返した*]
やっぱ、硬ぇよ!まあ、いいけどな。
呼び名はツカサね、承知したぜ。
[闇は晴れ、星の光が頭上で瞬いている。
夜の河原に心地よい風が*通っていった。*]
6人目、蒲生 延 がやってきました。
蒲生 延は、村人 を希望しました。
−深夜 西ブロック・蒲生家屋敷−
[寂れた旧住宅街に佇む武家屋敷の一室で、男は左手甲を見つめている。視線の先には数日前に現れた聖痕。現れた当初、それはぼんやりとしていて形も定かではなかった。]
……来たか。
[今、輪郭がくっきりと現れたそれを見て、男は満足そうに呟く。
部屋の中央には血液で描かれた魔法陣。片隅にはその血液を生み出した肉塊――かつて魔術師であったもの――が転がっていた。
充満する鉄の匂い。男は片膝をついて左手で陣の中央に触れ、左肩の魔術刻印を起動させた。]
[男――蒲生延の家は400年続いた武家である。しかし、蒲生家の名を成さしめたのは、魔術だった。魔術によって武器を、鎧を、そして己の身体を強化し、武功を立てて名を後世に残した。
幼い頃よりその技を受け継ぎ磨いてきた延にとって、戦いこそが日常であり生き甲斐だった。さらなる強者との戦い。さらなる強さを得られる場所。聖杯戦争とは、延にとってまさにそういうものである。
延は、魔術師としてはあまり上等ではない。そのため、召喚には代々受け継がれた刻印と霊脈の力を必要とした。加えて、触媒となる所縁の品もなく、強力な英霊を狙って呼ぶことなど不可能である。
しかし、延にとってそれは些細な問題でしかなかった。
魔術刻印による自動詠唱が終わるのに合わせて、一言だけ付け加える。]
……我が召喚に応じよ、“キャスター”。
[魔法陣を象る液体が蛍光色の光を発した。]
7人目、キャスター がやってきました。
キャスターは、村人 を希望しました。
[
膨大な魔力が渦を巻いて召喚陣へと流れ込み、光の嵐が吹き荒れる。
空間を満たす濃密なエーテルが陣の中心へと収束し、徐々にカタチを成していく。
瞬間。
凝集した光が弾け、全てを覆い尽くした。
そして、静寂。
陣の中心に佇んでいたのは、重厚な鎧を着込んだ屈強な大男でも、自信に充ち溢れた精悍な青年でもなかった。
滑らかな絹のローブを纏った、細身の女性。
どれだけ控え目な評価をしてみても、美女の範疇に収まる容貌。
エーテルの残滓が放つ淡い輝きが、整った眉目に陰影を与え、彼女の美貌を強調している。
寸鉄すらも帯びてはいないが、それが人ならざる存在であることは、その華奢な身体に宿った魔力量からして、明白だった。
そんな存在が、たおやかな足取りで陣から歩み出して、小さく身を屈めて蒲生延へと一礼した。
]
――……御目にかかれて光栄です。
از دیدن شما خیلی خوشوقتم
貴方が私のマスターですね?
؟است استاد شما
[
誰もが耳を傾けたくなるような、柔らかく透き通った、心を蕩かせるソプラノ。
優しく、それでいて深い知性の輝きを宿した双眸は、確かに蒲生延へと向けられていた。
]
[立ち上がり、冷たい視線で女性を見下ろす。
女性の可憐な口元から発せられた音は聞き慣れない。
しかし魔術回路の繋がりを感じ、意思が直接頭に流れ込むように言葉として理解された。]
いかにも。……お前はキャスターだな。
真名は何という?
[微かな驚きを瞳に浮かべて、躊躇いがちに首を縦に振る]
――……はい、この身はキャスターのサーヴァントです。
私の名は、シェエラザード。
この国の発音ですと……シエラザード、或いは、シェヘラザードになるのでしょうか。
マスターが御存知かどうかは判りませんが、中世ペルシアの――……魔術師です。
[
言葉が途切れたのは、幾つかの理由によるものだった。
そのなかでも最大の原因は、周囲を漂う錆びついた血臭。
視界の隅に映った、明らかに殺害されたものと思しき人間の死体だった。
]
……シェヘラザード、千夜一夜の女か。
あれが魔術師だったとは意外な話だが、よもや話すだけが芸というわけではあるまいな。
[冷めた視線は変わらず、キャスターの様子を伺う。
――と、彼女の視線の先に気がついた。]
ああ、あれか。身の程を知らぬ愚か者がちょっかいを出してきたから、始末したついでに召喚のための道具として使ってやったのだ。
……確かに、魔術師の血は召喚陣を描くには、好適なものですね。
[それだけを述べて、凄惨な死体からさり気なく視線を逸らし、蒲生延へと向き直る。]
……御安心を。
話術だけでは、キャスターのクラスに該当することはありません。
それは、この身に宿る魔力の量にて、お判りになって頂けるかと。
マスターも召喚直後でお疲れでしょうし、詳しくは、いずれ機会をみてお話することに致しましょう。
して、マスター。
私は、貴方をなんと御呼びすれば宜しいでしょうか?
ふむ……、確かに常人の域ではない。
もっとも、集めるだけならこの俺にもできないことではないが。
お前を召喚するための魔力も、大部分は霊脈を経由して周辺から集めたものだからな。
力とは使うことでのみその意味を成す。
期待しているぞ、キャスター。
[冷たい笑みを浮かべる。
続けて、キャスターの問いに短く答えた。]
私の名は蒲生 延(がもう えん)だ。
好きに呼べ。
[キャスターの返事を待たず、室内とは対照的な空気が支配する庭へ向かった。]
[庭に出ると、深夜の空気が肌に浮かんだ汗を冷やした。そこで初めて自分が汗をかくほどに集中していたことを思い出す。]
……ふ、まだまだ足りんな。
[独り言を呟いた後、背後のキャスターに話しかける。]
既に気付いているだろうが、この屋敷には対魔術師用の結界が張り巡らせてある。
……が、所詮は対人結界だ。サーヴァントには通じまい。
お前の好きなように手を加えることを許す。
それが最初の仕事だ。
それが済んだら俺の部屋に来い。
お前の力を元に、今後の策を考える。
[そう告げて、自室へ*引き上げていった*]
[
立ち去った自らのマスターの姿を見送りながら。
示された名を反芻して、僅かに思考を巡らせていた。
自分の生まれた土地の習慣からすれば、ただ、本人の名を呼べばいい。
しかし、聖杯から与えられた知識は、この時代のこの国で、本人の名を呼ぶのは親しい間柄に限られると教えていた。
"ローマにありてはローマ人の如く生き、その他にありては彼の者の如く生きよ"――ここは、この国の習慣に従うべきだろう。
もっとも、余人の目があるところでは、マスターと呼び掛けることになるのだろうけれど。
]
――ガモー……ガモウ、蒲生。
……発音、これで良いんでしょうかね。
それにしても……落胆されるかと思っていたんですけど。
[
安堵したような、拍子抜けしたような。
小さく肩を竦めて、独り呟いて。
初めて与えられた命令を果たすべく、*静かに精神を集中した*
]
8人目、瀬良 悠乎 がやってきました。
瀬良 悠乎は、村人 を希望しました。
―南ブロック・廃工場―
[交叉市の南にある、寂れた廃工場。そこに、一人の少女がいた。元々置いてあったらしい器具は脇に避けられている。
やや広いそこの中央に、赤く彩られた魔法陣が一つ。]
さてと。何が出てくるかはお楽しみ、と
[その四方に遺物を一つずつ置いていくと、片手を掲げて、詠唱を始めた。]
英霊よ、我が声に応え、この地にその姿を現せ。
共に聖杯を目指す者として、我が魔力を糧に、その力を現世へ。
[魔法陣から光が漏れ始める。力の奔流が、其処を中心に渦巻き、自身から魔力を奪っていくのが感じられた。]
[体から出て行く魔力は、予想していたよりも負荷が大きかった。ちらと視線を横へ動かす。ここを拠点にすると決めてから張った結界は、魔力を漏らさぬよういまだ廃工場全体を包んでいる。
窓から見える群青は、既に夜も更けたことをを示していた。]
……。
[視線を、魔法陣へと戻す。聖杯戦争に参加することは、使命のようなものだった。自身に願いがあるかといわれたなら、聖杯を手にすることが願いだと、口にするだろう。
口元を動かす。何が出てくるかは判らない。ただ、其処に何かが現れようとしていることは、失われていく魔力で判った。]
9人目、バーサーカー がやってきました。
バーサーカーは、村人 を希望しました。
[滑り出る言霊。
流れ出る魔力。
陣が吐き出す紅き明滅に、荒んだエーテルの嵐が混じる。
たった一人が立ち尽くす世界を覆い、視界を隠し、廻り続ける架空の奔流は、留まる様子も見せずにひた狂う。
――風を切れぬならより速く。
――血が途切れぬならより多く。
――青は壊れぬならより強く。
虚ろであった空間を「食い潰し」、新たに形が現れる。
輝きに満ち、破壊に満ち。
力の狂いが触れたものは、四方を司る遺物が一つ。
地に留まろうとするそれは剥ぎ取られ、端へ寄せられていた器具の塊へと弾き飛ばされた。
一つ。
またもう一つ、陣を囲った遺物が飛ぶ。
残った一つが何であったか――視認を許すより先に、暴れ続けた力の奔流が、魔法陣の輝きが、ぴたと止まった。]
[この場所は廃工場。
ならばその床は、硬く在って然るべき。
しかし、床は突如として破壊され、陥没した。
覆っていた表面ごと地中へと引きずり込む。
そうして潰えたはずの魔力放出は再び引き起こった。
再稼動する魔法陣は存在を示す。
輝きは、少女が起動させた時よりも曇った赤。濁った赤。
――無残に陥没したそこは、まさに魔法陣が描かれた場所。
だが、紋様は一つとして傷ついてはいない。
紅い線だけに、最後に残った遺物の一だけに沿うようにして、魔法陣周辺の床は深く深く陥没していた。
ようやく終わる。
奇跡を生み出す魔力の風は、最後に一瞬、周囲のものを薙ぎ倒す為のように膨れ上がり、ようやく儀式が終結した。]
[現れる姿に表情が変わることはない。吹き飛んでいく遺物にも、それが現れていく光景も、少女の視線を動かす理由にはならなかった。
陥没する床も、残る魔法陣も、紅く濁る輝きも。]
現れた、か。
……聞かずとも判るけど。
[腕に描かれた令呪が、びくりと痛む。]
限界させるのに、どれだけの魔力を持っていくのか。今からが思いやられる。
それで、バーサーカー? 真名を、聞こうか。
[奇蹟の奔流が静まり、背後に現れた気配に振り返る。顔を覆う仮面に、初めて表情を変えた。]
一見して私をバーサーカーの役割と見抜くか。
どうやら我がマスターは、得がたい才能を有しているらしい。
……もしくは他の要因なのか。いずれにしても構わないが。
[少女が表情を変える。
濃密な気配の顔は仮面。表情の変化は見とれない。
大柄、布を切っただけのマントのような衣装の男は、振り返らないままに己が真名を答えた。]
スパルタクス。
さて他に、必要なものは?
[刃が欠けに欠けた剥き身の剣が揺れた。
握る手は片手、掌に力が篭る。]
[仮面の下の衣装にも少しだけ眉を顰めたが、それ以上の変化はない。バーサーカーから発された名前に、軽く頷いた。]
ちゃんと、会話は出来るようだ。
これでも、聖杯戦争に参加するために、調べられるものは全部調べたからね。
スパルタクス、奴隷戦争の男か。
英霊は、その知名度でも力が変わるという話だけど、この日本では、その名は少し弱いな。
まあいい。働いてもらう内容に変わりはないのだから。
私は瀬良 悠乎(せら はるか)。好きなように呼んで貰って構わない。
[其処まで言うと、陥没した床を見た。肩を竦める。]
ここを拠点にしようと思ってるのだけどね。床を元に戻せと言って出来るか?
[バーサーカーのほうを振り返る。]
[対等なる会話、通じ合う言葉。
かつてβάρβαροςと呼ばれた彼は、狂気をひた隠す仮面の下で何を想うのか、何を反芻したのかは誰にもわからない。
ただ、ようやく少女の方へと振り返った。]
素晴らしい傾向だ。覚悟か、備えか、力そのものか。
これから戦争を始めようというのだ。
その程度のものは有していて貰わなくては、私が困る。
なに。
君が、無慈悲かつ無情なる戦争に、身を投じる覚悟があるように、私にも戦いの地の選択に意味などない。
――殺し合いであれば、私の手中だ。
[しかし、振り返った少女はまるで別の事柄を口にした。
視線の先には陥没した床――握っていた刃こぼれがひどい剣は、所在なく垂れる。
仮面に描かれた偽りの目は少女を向かず、うなだれたままに一つ頷く。]
訂正しよう。君には少々危機感が足りないようだ。
……だが、その命は承知したぞ。「マスター」。
[示された呼び名を噛み締める気配なく呼び名を返し、剥き身の刃をふらつかせ、陥没した床へと歩く。]
10人目、名塚 聖 がやってきました。
名塚 聖は、村人 を希望しました。
―深夜・北ブロック公園―
[交叉市・北ブロックにある大きな公園に立つ黒い服を着た男が立っていた。
手に持った大きな石と足元に作られた魔方陣。
一般人から見たら怪しい人間と思われるのは間違いない。
だが、男に近寄ってくる者は誰一人として存在しなかった。
なぜなら、男は魔術の使い手なのだから]
さて、人払いの結界が消えない内に済ませてしまおう。
[手に持った石を魔法陣に置いた]
我、聖の名を持ちし者。
英霊よ、我が力に僅かながらでも共感するのならば、世界を救いしその力を分け与えたまえ……。
[滞りなく紡がれた呪文。
輝きだした魔法陣。
そして、体から抜け出していく魔力。
召喚の成功を確信し魔方陣を見守り続けた]
11人目、アーチャー がやってきました。
アーチャーは、村人 を希望しました。
[少年は“いと高き御座”へと聖歌を捧げる]
聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、万軍の神なる主。
主の栄光は天地にみつ。
天のいと高きところにホザンナ。
ほむべきかな、主の名によりて来る者。
天のいと高きところにホザンナ。
[“英霊の座”より遥か彼方へと。尽きることなく賛美の声は響く]
[招請はどこから届いたものだったろうか――否、『いつ』『どこ』の『誰』からであろうと諾否は無かった。少年の出自たる民族だけでなく、世界中に広まった信仰により確立された“英霊の座”に在る者の責務――]
――聖杯戦争、ですね。
[大聖杯を通じて、“世界の外側”から“世界の内側”へと。
彼を喚び出さんとする働きかけは今や頂点に達しようとしていた]
――主よ。私の上に御心が常にあらんことを。
[虚空を見上げて静かに少年は呟く。一瞬の後、彼の意識は奔流の如き魔力に包まれ、遷移していった]
―深夜 北ブロック・公園―
[聖杯の意志は『世界の壁』を越える。伝説と信仰、人々が抱いた理想と幻想に彩られ、無色の力が有色の存在へと受肉していく。現界を果たし、少年の姿は森閑と静まり返った地上に現れた]
こんばんは、と、人ならばそう言うのでしょうが――
[魔法陣に置かれた大ぶりな石に視線を留め、柔らかく微笑んだ]
――問おう、貴方が私を招いたマスターか?
[軽やかに姿を現した少年に若干の驚きを見せた。
自分の中の英霊のイメージと少し離れていたのかもしれない。
きっと、心のどこかで英霊=力と考えていたのだろう……]
ああ、僕が君のマスターだ。
本来なら君の言うとおり、こんばんはとでも挨拶したい所だけどね。
[令呪の反応でお互いを認識をしているのだからマスターの確認など、本来は必要のない行為だったのかもかもしれない。
それでもこのやり取りは必要だった、そう感じた]
[眼前に立つ青年から、自らの内へと流れ込む魔力の経路。現界を可能にするその流路を認識しつつ、彼の言葉に少年は頷いた]
ならば名乗りましょう。
私の名はエッサイの子、ダビデ。
貴方がたの中で“旧約”として知られる聖典に記された契約の民の王――尤も、今の私は主に仕える僕(しもべ)に過ぎませんが。
それでは魔術師よ、貴方の名を聞かせて貰えるでしょうか?
危機感が足りないのはどちらだ。
聖杯戦争に望むには、拠点は何より大事になる。他の魔術師に悟られないよう結界を張り巡らし、戦争が終わるまでの日々をここで過ごさなければならない。
其処を元に戻すのは当然のことだと思うのだけどね。
それに。その目立つ装いは、霊体化できない英霊にとって自身がそうであると言っているようなものだ。
服はなんとでもなる。でも、その仮面は、何とかならないか。
まずはどこに相手が潜んでいるのか探す必要がある。
そのために偵察に赴かないといけないというのに、それでは連れて歩けない。
[床へと歩いていく背に声をかけた。]
[名乗られた名前と目の前の姿にイメージの違いに呆然とする。
召喚から驚いてばかりだった。
予想外に自分の頭の固さを改めて認識させられる事となった]
ダビ、デ……。
古代イスラエルの王様がそんな若い姿とは予想外だったな。
僕は名塚聖(なつか ひじり)聖なんて大層な名前を貰った凡人さ。
それと、僕は残念ながら魔術師ではない、魔術使いだ。
とはいっても君に魔力を提供できる事には違いないから安心して欲しい。
そうだな、君のクラスを教えてくれるとありがたい。
[若干自嘲気味に自己紹介をし、
笑いながら問いかけた]
[穴へと向かう背中で少女の声を聞く。
ぼろぼろの切っ先で仮面をこつりと突付く。]
穴倉に篭っていては勝機は掴めない。
ならば拠点とは、防戦を想定しない限りは永続を意図して用意すべきものではない。
第一、私の召喚に関して言っているのであれば不可抗力だ。
狂戦士を呼ぶに必要な二節を組み込まなかったマスターにも原因はある。
[また二つ、仮面を鳴らす。
上質な音楽などとは程遠い、鈍い音が震えて空間に溶ける。
以来、剣は再び所在を無くして仮面を離れ、垂れた。]
私は白兵戦以外では使い物にならん。搦め手には滅法弱い。
故に策を講じなければならないし、偵察を許すほど敵も甘くはあるまい。遭遇したなら殺し合うまで。
思考するならば、その状況へ誘導する想定だ。
それに――。
[最後にもう一度だけ仮面を叩き、それは一際響いた。
言葉がそれ以上を語らない代わりに、一際響いた。]
[穴へと向かう背中で少女の声を聞く。
ぼろぼろの切っ先で仮面をこつりと突付く。]
穴倉に篭っていては勝機は掴めない。
ならば拠点とは、防戦を想定しない限りは永続を意図して用意すべきものではない。
第一、私の召喚に関して言っているのであれば不可抗力だ。
狂戦士を呼ぶに必要な二節を組み込まなかったマスターにも原因はある。
[また二つ、仮面を鳴らす。
上質な音楽などとは程遠い、鈍い音が震えて空間に溶ける。
以来、剣は再び所在を無くして仮面を離れ、垂れた。]
私は白兵戦以外では使い物にならん。搦め手には滅法弱い。
故に策を講じなければならないし、偵察を許すほど敵も甘くはあるまい。遭遇したなら殺し合うまで。
思考するならば、その状況へ誘導する想定だ。
それに――。
[最後にもう一度だけ仮面を叩き、それは一際響いた。
言葉がそれ以上を語らない代わりに、一際響いた。]
[見下ろす先に深く抉れたコンクリートの床。
どこからが土であるのか、どこまでが灰色であるのか、仮面をつけていない人間であっても判別は難しかったに違いない。
左手には刃。
柄が己の掌のように吸い付く。
例え錯覚であったとしても、吸い付いた血の臭いは離れない。
幾度も殺し続け、屍の重みに耐えかねて欠けた刃。
その切っ先を――コンクリートへ叩き付けた。
廃工場の屋根に止まっていた鳥が一斉に飛び立つ。
穴の周りを壊して、壊して、壊して、砕けて出来た欠片を穴へと放り込む。どうやら周りを削って埋めてしまう作戦らしい。
仮面の下の表情は見えないが、しゃがんで作業を続ける姿は鬼気迫る何かがあるように*見えた。*]
―深夜 北ブロック・公園―
[自分よりも頭半分ほど高い位置にある青年の双眸を見つめ、彼の名を繰り返す。承諾の言葉と共に、魔法陣から踏み出した]
ナツカ、ヒジリ。わかりました。
魔術使いたる貴方を今世におけるマスターとして認め、聖杯との契約に於いてその意志に従うことを誓いましょう。
……私のクラス、ですか? この姿を見て想起いただける通り。
巨人ゴリアテと戦った折の如く、アーチャーの階級(クラス)を私は帯びています。
12人目、眞奈 みなみ がやってきました。
眞奈 みなみは、村人 を希望しました。
――早朝/自宅マンション(東ブロック)――
うぅー、わたし、死んじゃう! 死んじゃうよー!
[送迎の車で帰ってきたのは数分前。空は既にべっこう飴の色をして、鳥の囀りが時折聞こえる。下半身の倦怠感を引き摺って、ソファの上で瞼が重くなるままに――。その時、視界に朱色の蝋燭で描かれた魔法陣が映った。召還の儀式を終えなければ、今日を終える事は出来ない]
[体を起こし、カーテンを閉じる。彼女にとって本家からの命は絶対だった。聖杯戦争に参加すること。この日に召還の儀式を行うこと]
あーあぁ、知るのがあと二日早かったら仕事休めたのになー。
でも、今日やることなんて召還と、自己紹介くらいだし、早く終わらせちゃおう……。
[魔法陣の前に立つと、みなみの顔から砕けた表情がすっと落ちる。唇の端だけが微笑みの表情を作り、目を閉じて内部に描かれるイメージに魔力を通していく。安っぽい色をした朱色が、光を帯びて色の深みを増していく]
Ay Amour――
求めるものは貴方の口付け
Me muero por un beso tuyo
それで私の全てを委ねましょう
Tu eres mi vida
どうかその姿を、今此処に――
Solamente Tequiero
魔術師が、人間であることを忘れるな。
魔力を供給するためには休息をとることは大事だ。無尽蔵ではないのだから。
篭るつもりもない、永続的になどここは人が住む場所ではないからな。もとより承知している。身を隠し、魔力を蓄える場所としてここを選んだだけのこと。
……バーサーカー。もしかして穴を埋めてしまうだけとか、そういうことか。
[作業を始めたバーサーカーを、呆れたように見た。]
時間がかかるなら、自分で元に戻す。後十分で全部埋めてくれ。
[呆れた様子のまま、隅に置いたトランクへと、*腰を下ろした*]
[マスターを承認する言葉に安堵の表情を見せながら]
君が望むもの、僕が望むものそれぞれの為に契約成立ってことでいいかな。
名前はナツカでもヒジリでも呼びやすいように呼んでくれてかまわない。
ふむ、三騎士の一角アーチャーか、心強い。
[ゴリアテの話を聞いて少し考え込んで何かを思いついた表情をする]
そうか、あの石は君が投げた石だったんだな。
そしてそれ故に君はアーチャーなんだね。
[召喚の触媒となった石を指差した]
13人目、悪の皇帝 アサシン がやってきました。
悪の皇帝 アサシンは、人狼 を希望しました。
悪の皇帝 アサシン は肩書きと名前を ジェラルド に変更しました。
ジェラルド は肩書きと名前を アサシン に変更しました。
――東ブロック マンション――
[涼やかな、美しい声の詠唱。それが進むにつれ、魔法陣のある場に影が収束していく]
[その儀式はしかし、その声にはまったくそぐわない、禍々しく、黒々しい召還だった]
[先ほどまで通っていた魔力が一段、また一段と勢いを弱める。光が収束し、体から出て行く魔力が繋がった先の何かに落ち着き、そして、彼女は目を開けた。そこに在るのは、一つの影。その存在から放たれる、カーテンの隙間から漏れ出る明りを掻き消すほどの闇]
……え、えーと。
その、は、はじめ、まして?
[声をかけられ、ゆらり、と影が蠢く。その視界に自らを召還した者を捕らえ、数秒、それは沈黙し――]
ゲラ……ゲラゲラゲラ。
[そして――その口が頬まで裂けたかと見えるほど、奇っ怪に笑った]
ひっ、
[そこにただ存在するだけに思えた影が動いた。僅かな安堵と、視線に得体の知れない恐怖を覚えた。再び口を開こうとした瞬間、マンションの一室に響く不気味な笑い声。思わず悲鳴を上げそうになり、口を手で覆った]
え、え、えっ! な、何?
お、驚かさないで……!
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ――――――!
[女の慌てた声に、笑い声はいっそう高まる。狂ったように笑う影]
ボ……ゴン、ゴボ……
[突如、下卑た笑い声とは違う、不気味な音がした。影で構成されているのではと見紛う体躯……その肩口から泡のように、影色の人の頭が無数に湧き出す。見る間に巨人の腕のようなカタチを形成したそれらが一斉に口を開け、狂喜した]
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ――――――!
[その禍々しい腕が、女に向かって振り下ろされた]
[影から発せられる笑い声は高まり、後退し続ける足がリビングの壁で止まった。どうしたものかと思案した瞬間に、日常生活では決して聞くことのない奇怪な音が響く]
ちょ、ちょっと待っ、
[影はどんどんと形を変えて行く。数多の頭。巨大な腕。そしてそれが、振り下ろされる。避けようとして避けられるものでもなく、ただそのまま力が抜けその場にへたり込んだ。次いで来る衝撃に、近くの電話台が形を失っているのを目にする]
――っ!
―深夜 北ブロック・公園―
[少年は自らの姿に思い至ったかのように、己の全身を見下ろし、確認する。使い馴染んだ道具の瑕疵を調べるが如く、念入りに隅々まで。それはどこか偏執的なものを感じさせたやも知れぬ]
……そう。若い時の、この姿で私は喚ばれた。
ヒジリ、英霊とは人々の思い描く最大の理想像を基盤として現界するのです。つまり、最も著名な姿として。
[内面に向かう言葉。それは自責か告白か]
もし仮に、貴方が呼び出したのが私ではなく息子――ソロモンであったなら、《神約の指環(リング・オブ・ソロモン)》を授けられた後の姿。魔術王として現れたことでしょう。
ですが、私は後の半生において――
――罪を犯した。
ヒッタイト人ウリヤの妻、バテシバを孕ませ、彼女を我が物にしようと企んでウリヤを謀殺した。
バテシバがその時孕んでいた子は生まれてすぐに死んだ。
それは私の罪に対する主からの罰だった。
私が――王としての姿ではなく、少年の姿で喚ばれたのは幸いだったのかもしれませんね。
[独り紡いでいた言葉を切り、青年が指差した聖遺物―媒介となった石を見遣る。沈んでいた視線と声に、苦笑の色が混じった]
……ヒジリ、随分と無茶を言うものですね。
あれを投げつけろなどとは。
いいえ、あれは私が王となってからのもの。《神の箱》を私の町に運び入れた折、それを祀る神殿の礎となった石の欠片……です。
そして、私がアーチャーたる所以は――この手の中に。
[内心の思いを断ち切るように目を閉じ、額に巻いた編紐を外す。
さして華美な装飾でもない、ただの飾り紐にしか見えないそれを少年が握り締めると、偽装結界が内側から弾けるように砕けた]
これが私の宝具です。
[投石紐の形をとった物体に充填され横溢する魔力は神聖にして異質。属性を異にする対象を染め変え、平らげる事を主眼とする調伏の飛礫]
主の御名において敵を打ち倒す祝福の石
――《恐るべき御稜威の王(レクス・トレメンデ)》。
…………。
[幾多の哄笑が止まる。電話台を弾け飛ばした「腕」を眺め、そして狙っていた獲物へと視線を移し、もう一度腕へ視線を戻す]
ボゴボゴボゴ……。
[腕が変化した。無数の頭が歪に重なり、組み合わされただけの、醜悪さの塊だったようなカタチが内側へ収束していく。――形成されたのは、手だった。ただし、伸びる六指が刃と化した異形の手だ]
………………ゲラ、ゲラ、ゲラ。
[先刻とは違った、含むような笑い。関節などないのか、腕が蛇のようにぐにゃりとうねり、刃の指が肉食獣の顎のように開かれる。その牙が狙う先には、床にへたり込む女が居た]
[
――命令は、まず充分に果たした。
屋敷に張り巡らされた結界、その性質を調べ尽くした。
結果は、呆れるようなものだった。
魔術師にとっての工房とは、防御のものではない。敵を誘い込み、確実に抹殺するためのものであるはずだった。
それが、どうだろうか。
侵入者の探知のほかは、魔術的な異常を外界に漏らさぬ――といっても、魔術師ならば確実に、下手をすれば勘のいい一般人にも気付かれてしまう程度の、未熟な結界が張られているのみだった。
それを、一定以上の能力を持つ魔術師がその気で探索しなければ判らぬレベルにまで強化し、侵入者に対して重圧を与え、行動を阻害する機能を結界に加えた。
その上で、幾つかの魔術によるトラップを配置し、警戒用に即席の使い魔を作って周辺に放った。
限られた時間では、まずまずの仕事であったと、評価していいはずだった。
]
[
――そう、命令は果たしたのだ。
気になっていたのは、その過程で気付いた一つの異常。
この屋敷に集まる魔力は、霊脈による自然のマナとしては、あまりに多様であり過ぎた。
主は、こう言っていた――『霊脈を経由して周辺から集めた』と。
初めは聞き流していた言葉を思い返して、ある可能性に思い至って、心臓が早鐘を打った。
確かめなくてはならない。
だが――もしも、この疑念を肯定されてしまったならば? 私はどうすればいい?
そんな怖れを胸に、小さく息を呑みこんで、主の自室に繋がる扉を軽く叩いた。
]
――……結界の強化を終えました、入っても宜しいでしょうか?
[声が堅くなっているのを自覚して、小さく溜息を吐いた]
[自らの言葉で若干落ち込むダビデを見て少し後悔を見せながら]
すまない、若いのが問題ってわけじゃない。
僕のイメージがと少し異なっていただけさ。
[苦笑いを見せるダビデをみて少し安心しながら]
おっと、投石じゃないのか、失礼した。
神殿の欠片か……。
[意外と凄い物だったんだなと思ったが口には出さなかった。
そしてダビデに連れれて自身も苦笑いしながら頭をかいた]
――夜・廃工場――
[――10分で全ての命を果たすことは、可能か不可能か?
答えは明らかだった。しかし男は剣を振るい続けた。
元より勝算の無い闘いだったのだ。
向きを変え、速度を変え、最終には愚直に突撃を続けなければならない。
よしんば勝ちを得たとして、失うものはまた大きい。
もし作業を無事終えたとしても、そこへ攻め込まれてしまえば宝具を展開する魔力をマスターから剥がせるかは怪しいものだし、達成感から死への恐怖も薄れかねない。
だが、命は下された。下されてしまった。
故に意味の無い戦いだとしても、彼は穴を埋め続けた。]
マスター。
どうやら私には、これが限界のようだ。
[一つ、叩きつければ、灰色の小さな礫と共に剣が欠けた。
マスターの姿を目指して鋭利な破片が飛ぶ。
だが、大きな手は飛来する刃のカケラを掴んだ。
そちらを向きもせずに、確かに掴んだことを確かめもせずに、どこか遠くへ投げ飛ばした。
作業を終えたバーサーカーは、堂々と工場の出口へ向かう。]
――夜・廃工場――
[――10分で全ての命を果たすことは、可能か不可能か?
答えは明らかだった。しかし男は剣を振るい続けた。
元より勝算の無い闘いだったのだ。
向きを変え、速度を変え、最終には愚直に突撃を続けなければならない。
よしんば勝ちを得たとして、失うものはまた大きい。
もし作業を無事終えたとしても、そこへ攻め込まれてしまえば宝具を展開する魔力をマスターから剥がせるかは怪しいものだし、達成感から死への恐怖も薄れかねない。
だが、命は下された。下されてしまった。
故に意味の無い戦いだとしても、彼は穴を埋め続けた。]
マスター。
どうやら私には、これが限界のようだ。
[一つ、叩きつければ、灰色の小さな礫と共に剣が欠けた。
マスターの姿を目指して鋭利な破片が飛ぶ。
だが、大きな手は飛来する刃のカケラを掴んだ。
そちらを向きもせずに、確かに掴んだことを確かめもせずに、どこか遠くへ投げ飛ばした。
作業を終えたバーサーカーは、堂々と工場の出口へ向かう。]
[最後の遺物。
魔法陣の上に残されていたはずのそれは、いつの間にかなくなっていた。
剣を握らない手をゆっくりと開く。
それは何の変哲も無い、少し黒ずんだだけの鉄塊に見えた。]
後悔してるんだろうな、きっと。
[敢えて触れなかったが、伝承は知っていた。
王になった後は部下の妻を求めて部下自身を謀殺した事
そして、その報いで子供を失った事も]
――……失礼します。
[
厚い木の扉を押し開けて、主となった男の私室へと入る。
その内装に目もやらず、手を加える以前のものへの評価を省いて、屋敷を包む結界に施した細工を掻い摘んで報告する。
これは一先ずの応急の措置である、とも。
些か、気が急いていたのかもしれない。
主が言葉を挟む間もなく報告を終えて、ほんの僅かに荒れた息を整える。
]
――……報告は、以上です。
それと、ひとつ。
御許し頂けるなら、お伺いしたいことがあるのですが。
[
躊躇いがちに、けれども強い意志を込めて。
問い質さなければならないことを、自らに冷たい視線を注ぎ続ける主に向かって、問うた。
]
[頭の中に浮かんだ可能性。それは、彼女が呼んだこの"影"が、バーサーカーである可能性。だとすれば会話をするのは難しく、殺すべき相手を理解させなくてはならない。会話以外の、方法で]
Ay Amor――
[目の前で影が変化を遂げる。手の形をしていても、鋭利な刃物が数本連なっているのと変わりは無い。間に合うか間に合わないかの瀬戸際を感じながら、彼女は詠唱を紡ぐ]
Me doy mandamiento.
[令呪として形を描いていたうちの一本が、宙に浮かび上がる。強い光を持って、その場を照らした]
わたしがあなたのマスターである限り、あなたがわたしを攻撃することは許さない。
―深夜 北ブロック・公園―
ええ。
《契約の神の箱(アーク)》そのものでないとは言え、私を喚び出すには十分な“縁の品”であったかと。
それに、私が投じた石自体は何の変哲も無い石くれに過ぎませんでしたから。ただ、そこに神の祝福が宿されただけです。
尤も、その祝福によってかの巨人も昏倒せずにはいられなかったわけですが。
[笑顔の中に垣間見えるは自信と信仰。さて、と周囲を見回した]
ヒジリ、これから後はどうするのですか。
見たところ、召喚の儀によって少々お疲れではないかと。
本拠にされている幕屋にでも戻るのでしょうか?
[キャスターの報告を頷きながら満足気に聞く。
どれも己に不足している点であった。
そして、最後に決意を込めた声を聞いた。]
……許す。何だ。
[バーサーカーの様子をじっと見ていたが、その作業が止まるのを見て息を吐いた]
元から期待はしていない。
手作業で埋めるなど論外だ。
[飛んできた破片は、届くことなくバーサーカーの手によって掴まれた。気にすることなく、口の中で何事か詠唱する。
腕を伸ばすと、崩れていた床が元の姿へと戻り始めた。数瞬を置いて、魔法陣とともに元の姿に戻る。
ただ、魔法陣の上に、最後まで残っていたはずの遺物だけが欠けていた。
出口へと向かうバーサーカーへと止める様に声をかける。]
どこへ? 偵察に行くのなら、私も行こう。さすがに一人で歩かせるのは色々とまずい。始まったばかりで特攻されても困る。
――……この屋敷は、この地を走る霊脈の支流、その一つに建っているようです。
それ自体は、私としても有り難いと思っています。
御存知のように、キャスターは最弱とされるサーヴァント。その不利を、幾らかなりと補えるのですから。
[僅かに言葉を切って、小さく息を呑み込む。決定的な質問をするために]
私の、勘違いであれば良いのですが。
この屋敷に集まる魔力には――人間の、第二要素(たましい)と第三要素(せいしん)が含まれているように、思われるのですが……。
[
言葉を切って、縋るようにと主を見つめた。
結局、言葉には出来なかった。
――民衆の命を吸っているのですか、とは。
]
[ダビデの差し出した宝具を見つめて息を呑む。
今まで見たことあるアーティファクトとはまったく格が違う。
その象徴に暫くの間魅せられていたのかもしれない。
ダビデが声を掛けてくるまで指一本たり動かせなかった]
そうか、力のある石だとは分かっていたが由来はあまりしらなかったんだ。
実は職業柄、あまりアーティファクトは手に入れづらくてね。
[移動の提案に]
そうだね、少し魔力が足りてないようだ。
それに人払いの結界もそろそろ切れる。
ホテルを取ってあるから、そこに移動しよう。
そこで改めて、今度は僕ができる事などを含めて今後の戦略を立てよう。
[魔法陣の処理を手早く済ませ、荷物を纏めた。
その後、駅の方向へと歩き出した]
[歌声のような、美しい詠唱。喚び出されたときに聞いた声]
……ッ!
[呪言によって放たれた魔力に、影の動きが目に見えて鈍る。何かを感じ取ったのか、あるいはその女が纏う気配に初めて気づいたか、数多の笑みが消えた。無数の瞳が驚愕に見開かれ、一斉に声の主を見る]
グゥォ……オォァ……。
[しかし、それが何なのかを影は理解しない。そもそも知性があるのかどうかも疑わしい異形は、呪の束縛を受けてもその凶刃を止めようとはしなかった。にじり寄るように、無数の顔で構成された腕が女へ迫っていく]
…………。マスター。
[かけられる声にそちらを振り向く。
続いて放られたのは肯定の言葉――ではなく、今しがたまで掌に収まっていた鉄塊。召喚の際、吹き飛ばされた遺物達を追うようにして、その鉄塊もまた器具の中へと突っ込んだ。
闇の中。佇む器具。廃工場となった今では、もう宵闇に没することを続けるしかなくなったのであろう、用済みの物達への仲間入り。]
言動が矛盾している、ということに気付いているか。
君は魔術師は人間であるから、魔力消費への対策に布陣を敷く必要があるのだと言った。
だが、原因は如何であれ、私を召喚し、召喚の際の後始末に魔力を使い――その上、まだ夜の街を歩こうというのか。私と共に。
[出口ではなく、少女の方へと向いたまま、じっとその姿を見据える。壊れた窓から注ぐ月明かり程度では、少女の輪郭はぼやけたままだ。]
私をここから出すわけにはいかないと君は言うが、ならばどのような攻め立てを行うつもりか。
[“最弱”の単語にぴくりと反応したが、キャスターの言葉を黙って聞いた。
彼女が一頻り話し終えてこちらを見つめるのを合図に、語り始める。]
いかにも、この屋敷に集まる魔力は周辺から集めたもの。先ほども言った通りだ。
俺、……いや、蒲生家は魔術師としての素養が秀でているわけではない。足りない分は代々民衆の精を集めて魔力に替えているのだ。
とは言え、我らとて愚かではない。奴らも少々の脱力感こそ感じるであろうが、日常生活に支障のない程度にしか集めてはおらん。
――戦時においては、その限りではないが、な。
我らは、……俺は、無いものねだりはせん。ここにあるものを最大限活かして、最大限の成果を求めるのみ。
それはお前とて例外ではないぞ、キャスター。
―深夜・駅前―
[ダビデと共にゆっくりと歩いた。
その足取りは召喚の疲労が出てきたのか何時もより若干遅かった]
歩きながらで悪いけど、僕の魔術でも軽く説明しておく。
僕は基本的に重力を操ることが可能だ。
自身に使えば高速化となり、相手に使えば妨害となる。
君達サーヴァントには及ばないがマスター相手だったら十分戦えると思う。
というより、元々魔術師を殺すのも僕の仕事の一部ではあるからね……。
[言葉は終わりに近づくに連れて呟くようになっていった……]
[令呪の効果か、影は自らの行動にされた規制へ戸惑っている様子を見せた。ほっとして立ち上がる。しかしそれはほんの束の間のこと。尚も伸ばされる手に、息を飲んだ]
ちょ、ちょっと、待って。もう、ほんと、こんなの、聞いてないよ……!
[叫びだしたくなる衝動を堪えながら、再び後退を余儀無くされる。テーブルがその足を再び止め、彼女は迫り来る手の影に向かい、理解をされないとは考えつつも堪らずに声を荒げた]
あなたは、わたしに呼び出されたサーヴァントなの!
だからあなたは、マスターのわたしを攻撃しちゃ駄目なんだってば!
[バーサーカーの手から放られる遺物には目を向けず、視線は仮面を捉えている。]
侮ってもらっては困る。
後始末に使う魔力など、一歩踏み出すのと大して変わらぬ疲労だ。
召還に魔力は取られたが、それでも偵察して戻ってくるだけの行動に問題はない。
つまり、まだ休むには値しない、といっている。
私の姿が、それを証明しているのだから。
[姿は少女のまま、けれども一瞬だけ、その姿が真実の姿へと変わる。バーサーカーにだけ映すように、少女の姿は変貌した。]
本当にまずければ、まずはこの魔力を解く。
それと。
出すとまずいのは昼間だけだ。注目を集めるのは避けなくてはならない。
その姿で、注目されない自信があるなら、私は止めないが。ただ――、一人で歩いてもらうかな。
―深夜 駅前―
[深夜とはいえ、外気は日中の酷暑を残して生温かった。道すがらに説明を行なう青年を見上げ、少年は聞き入るように見つめる]
……なるほど。例えば、飛ぶ鳥を落としたり泳ぐ魚を浮かび上がらせたりといった事ができると?
[仕事の一部、と続ける魔術師殺し。怪訝そうに繰り返した]
そういえば先ほど、職業柄と言われましたが。魔術師を殺すのがヒジリの仕事なのですか。聖職者……ではないのですよね。
魔術師ではなく魔術使い、というのはどう違うのでしょう。
[
呼吸が、止まった。
召喚と同時に嗅いだ血の匂いが、パスを通じて流れ込む魔力に染み付いているような錯覚さえ、覚える。
]
――……そんな、それは。
私は、そのような手段で集めた魔力など――……私の名を御存知なら、私が何のために千と一の夜を越えたかも御存知でしょう。
民衆を犠牲にするような非道、直ちに止めて頂けないでしょうか。
そのような外法によって魔力を集めずとも、私は――……!
[
――勝てる、とは言えなかった。
この国ではそれなりの知名度があるのか、多少は能力が強化されてはいるが、所詮は最弱のサーヴァントである。
まして、魔術師としての能力によって、英雄に列せられたわけでもない存在。
正々堂々とぶつかり合って勝ち残る見込みは、極めて低い。
それを偽ることは、出来なかった。
]
[自分を喚び出した女の、再度の命令。それでさらに束縛が強くなったことを感じ、異形は自らの限界を持って次の行動へ出た。
即ち、全力で自らの背後、部屋の隅まで跳んだのだ。
グヂュル……ジュル……。と、壊死した肉を潰すような音を立てて「腕」も萎む。
喚び出された時と同じ姿にまで戻った影の瞳は、冷静で狡猾な獣のように自らの召喚者を映す]
[崩壊する輪郭、虫の音色。
重なり合う向こうの気配に、揺れていた剣先が止まる。
先ほどの騒ぎで不安定になっていたのだろう。
工場のどこかで瓦礫が崩れる。
長い、長い沈黙。吹き入る一陣に二人の衣装がそれぞれ揺れた。]
そうか。
ならば、いい。
[どの言葉に対する返答であったのかは分からない。分からないが、少なくとも沈黙の内にバーサーカーは何事かを思案したのだろう。
少女から視線を逸らし、再び足は出口へと向かう。
だが歩は廃工場から出る寸前止まり、外と接する壁を背にした形で座り込んだ。
剣は、それでも離さない。]
そうだな。今はこの衣装を利用する段階に無い。
それに――今の魔術から推測する限りでは、マスターも万能というわけでもあるまい。
君が、今宵は偵察に行くと言うなら、私はここで待つとしよう。
私は気配遮断など持ち合わせてはいないし、偵察には不向きだ。連れて歩いた結果、敵と遭遇し、突然戦闘――という展開はまだ望む段階に無いだろう。
[怪訝そうに繰り返しこちらを見つめるダビデから少し目を逸らしながら]
うーん僕の仕事? 説明が難しいね。
じゃあ、まずは魔術師と魔術使いの違いから話そうか。
魔術師は、根源への到達の為に魔術を使う。
魔術使いはあくまで道具として魔術を使う。
つまり、スタンスの違いだね。
僕は根源を目指していないし、魔術は生きていく為の道具に過ぎないと思ってるってことさ。
[そこまで話すと一息ついた]
[彼女は目の前まで迫っていた刃に目を閉じていたが、何も無いとわかるとおそるおそる目を開ける。その瞬間影は跳び、先程まで彼女を襲った腕が消えて行く。今度こそ令呪の効果を確信し、みなみは緊張を解いた]
ど、怒鳴ったりして、ごめんなさい。
……って言っても、わたしが何を言っても伝わらないのかな。
……ナンダ、ソれハ。
[発した声と共に、ゴボリ、と。血液に空気を吹き込んだような音が漏れた]
……さー……う゛ぁんと? マス……ター……?
[言葉を発する事に、あるいは言葉の中途でも、声色が変わる。男、女、しわがれた老人、年端もいかない子供の声も混ざっていた]
で、続きになるわけだけど。
魔術を道具だと思っている僕がどのような仕事をしているかだね。
それは、やっぱり魔術関係の仕事なんだ。
魔術にも隠匿しなくてはいけない等とかさ色々ルールがあるんだ。
でも根源を目指す上ではそのルールを破る魔術師もいる。
ルールを破った魔術師は魔術協会から罰せられる訳だけど、その仕事を請け負うことがあるんだ。
その仕事上で魔術師を殺した事もあるって事さ。
もっとも、常にそんな仕事ばかりしてるわけじゃないけどね……。
[一気に喋って喉が渇いたのか。
道端にあった自動販売機にコインを入れてドリンクを二つ購入する。
一つは自ら空けて飲み始め、もう一つをダビデに投げた]
―深夜 駅前―
[ターミナルのガードに腰掛けて、聖の様子に小首を傾げた]
ふむ。
根源――“世界の外側”への到達ではなく、それ以外の何か。
魔術師でなく魔術使いだというヒジリが目指すものは、別にあるのですね。
[興味深げに話を聞いていたが、自動販売機に歩み寄る様子に目をぱちくりさせた]
……? それは一体?
しゃ、喋った!
[最初の間に、やはり何の応答もないものと諦めかけていた矢先に聞いたその言葉。喋った事に対する驚きと、そして安定しない声や行動全般に対する頭の中が疑問符で埋め尽くされるのをみなみは感じた]
え、えーと。
あなたは、わたしに呼び出されたの。……聖杯戦争のために。
あなたみたいに呼び出された人のことをサーヴァント、呼び出した人のことをマスターと言うって聞いたよ。
[バーサーカーに見せたのは一瞬の幻のように又元の少女の姿へ戻る。長い沈黙と、その後の行動にもう一度息を吐いた。]
言葉は解してるのだろう。
ならば聞こえたはずだ。私も行こう、と。
他の魔術師とて、進んで一般人を巻き込む輩は少ないはずだ。なら、サーヴァントを連れて動くのは夜。
全員がそうだとは言わないが可能性として高い。
なら、夜は共にいたほうが安全だ。
ここにいないのなら、な。
[バーサーカーの傍まで歩いていくと、座る姿を見下ろした。]
もう一つ。魔力を温存するためには体力の磨耗も極力減らしたい。そういうわけで、バーサーカーの体力の出番だ。
[要は運べと、バーサーカーに命ずるように口元に笑みを*浮かべた*]
[缶の冷たさに驚きながら、表面に印刷された図案を見て取る]
炭酸……葡萄…無果汁? これは一体、何なのでしょう。
[疑問を表情に浮かべつつ、見様見真似でプルタブを開けた。炭酸が勢い良く飛び出し、顔から胸にかけて飛び散った]
……うわっ! ヒジリ! 何ですか、これ!?
[缶を開けて飛沫を浴びているダビデを見て声を上げて笑う。
こんなときは英霊も変わらないんだなと、
少し遠くに感じていたサーヴァントへの距離が縮まった気がした]
炭酸飲料っていってこの時代では人気のある飲み物なんだ。
冷たくて喉を潤すにはいいものだけど、開ける前に注意をしておくべきだったね。
[笑いながら歩いているうちにホテルへと到着した。
手早くチェックインを済ませ、*部屋へと向かった*]
[見下ろしながら息を吐く。
男の表情は見えなかったが、言葉が終わるよりも先に、剣を杖にして立ち上がった。切っ先が体重を支えきれず、僅かばかり床に沈む。]
承知した。
ならば、振り落とされないようしっかりと掴まっておくことだ。
マスター。
[少女を丁重に「おひめさまだっこ」すると、そのまま廃工場の外へと出る。マスターなる少女は何か文句を言ったかもしれないが、意に介さない。
バーサーカーは小さな体を零さないよう、しっかりと抱き抱え、夜へと跳んだ。その姿は、まるで少女を誘拐し、華麗に現場から逃げる怪盗か何かのよう。
――尤も、月の下を行くその姿を視認出来たなら、の話だが。
とりあえずの目的地を聞いていなかったことに気付き、またマスターの不満が口から滑り出るのは、*もう少しあとの話。*]
…………。
[召喚者の言葉に、影はその体躯をほんの少しだけ動かした。置かれた状況と、得た身体を確認するように]
聖杯……。
[聖杯戦争。その響きには、聞き覚えがあった。ここへ喚び出された時、知識は流れ込んできていた]
……戦争。
[呟き、影はニィ、と笑う]
[呆気に取られたようなマスターへと少年は困惑の視線を向けた。視線で促されるまま、口に付けてみる。良く冷えた液体を一口。
未だかつて少年の味わったことの無い感覚が、喉を潤していった]
……ん、っく。ぷ、は。
……う、ん。美味しい、ですね、これ。
冷たい飲み物自体、口にした事なんて無かった、ですから。
それにこの感触……不思議な、感じがします。
[笑顔を向ける青年に感想を述べ、歩き出した後に続いた。やがて到着したホテルの部屋で、少年がまず向かったのは*バスルームだった*]
[聖杯戦争と言う言葉には聞き覚えがあるようで、どことなく楽しげな様子に首を傾げる]
何か叶えたい事でも、あるの? って、あ! そうだ! 大事なこと言うの忘れてたっ!
あーもー、そうだよ、一番最初に言うべきことだったのに……! ごめんね!
わたし、眞奈みなみって言うの。
あんまり眞奈って呼ばれるの好きじゃないから、わたしのことはみなみって呼んでね。
年は21で、普段は夜ソープで働いてるの。
あと、えーっと、何か他にあったかな……。
[簡潔に自分の事を説明すると、影の方に向き直った]
とにかく、よろしくね!
[笑いかけられる。殺そうとした相手に?
数多の自分が戸惑うのを感じた。笑みも消えていた。
しかし、その感情の動きも一瞬のこと]
……眞奈、ミな……み。
[聞かされた名前を確認し、影は再度笑む。禍々しく]
私ハ……。
[言葉の途中で、その体躯が蠢く。壺の中で毒虫が争うがごとく。……だが、その笑みは崩れない。
まるで、とびきりのジョークでも思いついたかのように、影は言った]
私ハ……我々ハ、殺人犯。キラー……だ。
アサシン は肩書きと名前を キラー に変更しました。
[キャスターの悲痛な叫びなど意に介さず、冷たい視線と声で返す。]
私は、どうした。続きを言え。……言えぬか。
必ず勝てると言うのならばともかく、そうでなければ非道かどうかなど、俺にとって何の意味もない。
言ったはずだ。あるものを最大限に活かして最大限の成果を得るのだ、と。
お前に力が足りぬと判断すれば、お前にも奴らから魔力を集めさせるだけだ。
[
男の冷やかな声が、いや、浴びせられた言葉の内容が。
頭に昇った血を、急速に奪っていった。なんと言ったのだ、この男は。
]
……そんなことに、私が従うとでも御思いですか。
この身は、民衆のために生きて……英雄の、末席に列せられたのです。
それを知った上で、私に無辜の民衆を犠牲にせよと命ずるならば、
貴方はまだ戦いにも赴かぬ内から、私の忠誠と一つの令呪を失うことになる。
――……どうか、御再考を。
[寺の門を出たとたん、川原の方から強い光が何度も瞬く。
そして、それが収まると同時に現れる異常な"密度"]
……サーヴァント、だな。
[顎に手を当てて暫し考えるが、楽しげに笑みを浮かべる。]
早速ってわけだな、いいじゃねぇか。
いくぞ、アカネ。
[セイバーは茜にそう告げると川原へと駆け出した。]
……何?
[瞬く光に目を奪われる。]
…ああ、「敵」ね。
[ほんの少し微笑みながら、左手をちらりと見る。傷口はいつのまにか乾いていた。]
(…まだ大丈夫…)
[ごく小さく喉を鳴らすと、走り出したセイバーの後を追う]
[ 硬い…か。タメ口でいいんだろうか?
あっけらかんとした態度に多少の戸惑いを受けたが、それさえも問題ではないのだろう。目の前で笑う男に困り顔ながら笑顔を作り、ひとつ息をつく。
と、握手を終えた右の掌になにやら見覚えのない紋様を見つけた。これが令呪というヤツなのだろう。
…目立たせないほうがいいか。
足元に落としていたパレットを拾うと絵の具を左の指で軽く掬い、紋様を撫でる。それで、朱く輝く令呪は消え失せた。よし、と頷くと改めて原田の方へと顔を向ける。]
わかった。それじゃあこちらも遠慮した喋りはやめるようにしよう。
…さて、まずは一度、私の家に戻ろう。これからどうするかを話し合っておきたい。
[ 言って、誘うように手を挙げた。]
[だが梧桐の挙げた手を左之助は見ていなかった。高楊枝をピンと上向かせ、梧桐に見せていたものとは別の質を持つ笑みが左之助の表情を満たしていく。]
おい……ツカサ、何か近づいてくるのを感じるぜ?
いいねぇ、いいねぇ、やっぱ現世ってのはいいねぇ。
早速どなたかおでましかい?
ツカサ構えろ!のんびりしている場合じゃねぇぞ!
[そう声をあげつつ、左之助は長槍を構えた。]
何様のつもりか知らんが、俺の考えは覆らん。
そんなに令呪が欲しければくれてやろう。
[左手甲に意識を集中させて魔力を流し込む。]
“聖杯の寄る辺に従い、蒲生延がシェハラザードに命ず
霊脈で繋がる地域の民から精を吸い取り蓄えろ”
[詠唱と同時に左手の一画が光り、消えた。]
[
令呪の膨大な魔力が、男の命に従うことを強制していた。
それは、サーヴァントたる身では抗うことの出来ない絶対的な命令――その切り札を、よもや、本当に使うとは。
]
――……っ!!
こんなことに、令呪を……なんて、馬鹿なことに!!
[
吐き捨てながらも。
駆け巡る思考は、混乱の合間を縫って結論を出していた。
自らの方針に異を唱えるサーヴァントを、事の最初に無理やりにでも抑えつけ、従わせる。
この男にとっては、それで今後を思い通りに運べるならば、令呪一つとの交換は、そう馬鹿なことでもないのだろうか――と。
]
?!
[ 息を呑む。瞬間、なんのことだか判らなかったが左之助はすでに戦闘態勢だ。なにかが迫ってきているのだろう。]
…召喚時の光か。まずったな、闇で隠せるつもりだったんだが。
[ パレットと絵筆を手に、左之助の一歩後ろへと下がり、同じ方向を睨み付けた。]
[川原へと勢い良く飛び出ると同時に、目に映るは着流しを着た槍持つ者。
その存在は正に異質。
平凡な者が放つであろう魔力のソレからかけ離れた燻る嵐。]
……その風貌、日本人だな。
[日本刀をゆったりと構える。]
おもしろい。
この世界単位からの召喚で、最初に出会うのが同じ日本人とは……
――粋じゃねぇか。
お前がくだらん駄々をこねるからだ。
愚か者はどちらか、自慢の脳漿で答えを求めてみるがいい。
[見下すようにキャスターを一瞥した後、そのか細い腕を掴んで寝台へと放り投げる。]
今宵の伽を命ずる。
これ以上、令呪は必要あるまいな。
[あくまで冷たい表情は変わらず、キャスターの衣服に*手をかけた*]
[セイバーに少し遅れて川原にたどり着く。
そこにはたたずむ二人の男―]
(…画家?)
[おそらく、時代がかった風貌の男は…サーヴァントだ。ならば、片割れの男がマスター。
手に持っている物が、なんとなく魔術師とはかけ離れている気がするが。]
…こんばんは。良い夜ね。
[二人に向かって、にっこりと微笑む。]
[ ソレが現れたのは、身構えるのとほぼ同時だった。
姿を確認して、眉をひそめる。黒い西洋鎧。しかしその顔立ちは日本人。自信満面な笑み。
特徴的な風貌ながら、すぐに誰だとは判らない。]
刀…。セイバーなのか?
[ 戦う気がありありと見える様子に、交渉などという考えを少しながらでも持っていた自分を悔いる。聖杯戦争はやはり血で血を洗うものらしい。]
…一文字、やれるか?
[ 相手方のマスターの姿を探しつつ、目の前で構える左之助に問いかけた。]
…て、なに?
[ 投げかけられた声に思わず耳を疑った。声の方へと顔を向ければ、ひとりの女性がこちらに向けて笑みを浮かべている。
二人、ということは現れた男の知り合いなのだろう。
…男との雰囲気の違いに、調子が狂う。]
あんたが、そいつのマスターってことかい?
[ 戸惑いを見せないよう、挨拶には答えないまま短く問いかけた。]
やれるかだって?愚問だぜい!
[左之助は飛び出してきた男を見つけるなり、槍を持って詰め寄った。日本刀を構える相手の手強そうな気配を強く感じ、血がたぎってくる。]
我ながら救いがてぇが何だかわくわくしてくるぜぇ!
[そう言うと男に向かって槍を回した。]
[槍使い、十中八九ランサーであろう男の様子に、己が内が熱くなるのを感じる。
どこまでも愚直な闘気、だがそれに呼応する己もまた愚直。]
その気概、心地良し!
[その笑みは何処までも楽しげに。
己が存在を世界へと叫び上げる]
――織田上総守信長、推して参る!!
(…のぶ、なが…ですって!?)
[自分のサーヴァントが発した真名の、そのあまりの知名度に一瞬動きが止まる。
その驚きを何とか表に出さないようにして、相手のマスターらしき男にもう一度微笑む。]
ええ、私がマスターです。
そして さようなら
[そう一言告げると、懐から短剣を出し、左手の傷口に切り付け、詠唱を始める。]
彼方より飛来する 薄羽の王
七振りの剣をのべ給はせ…
すまねぇが、知らぬ名だ。
だが、その気迫だけで十分よ!
[突き出された神速の槍。
それを日本刀を持って捌き逸らす。
その時の衝撃、流れを変えただけというのに腕へと痺れが突き抜ける。]
[ 織田上総守信長、という名乗りを聞きじわりと汗が滲む。
知名度・実力・功績…誰が見たって最強クラスのサーヴァントじゃないか。それがセイバーだって? だが…。
ちらりと、女性の方を見ればあちらもセイバーらしきサーヴァントの名前に同様しているようだ。まだお互いの紹介さえままなっていないのか。それにこの場所だ、勝機は充分にある。
――そして さようなら
ちぃ! あちらさんもやる気なのか!
素早く、絵筆を背後へと振るう。筆先より飛んだ絵の具が川の中へと落ち、川全体に淡く微かな光を生み出した。]
一文字、遠慮なんかいらんぞ。この場所であるかぎり君の魔力は無尽蔵だ!
[ 激を飛ばすと同時に、絵筆をパレットへと落とす。詠唱を終わらせれば、面倒なことになるだろう…ならば!]
やらせはせんよ!
[ 振りかざした絵筆から、アカネ目掛けて無数の雫が飛び放たれた。]
おお、お見事!
[信長の剣さばきに、左之助は思わず声をもらす。]
俺の時代じゃ、初手の突きを外せる奴は稀有だったぜぇ!
統治者の織田様は高名だが、武芸者としてはどうだったのか解らなかったからなあ、意外に強くて残念だ!
[そう言いつつ左之助の顔には、ますます笑みが満ちていく。
弾かれた槍を切り返し、柄の部分で頭部を打ちにいった。]
[左手を振り、血の雫を足元に落す。
そこから解き放たれる、赤い、蝶。]
……っ。
[10匹以上飛来していた蝶が、相手の雫によって、大半がかき消された。]
…かのものの肉を
[式神を消された事で、足元が少しふらついたが、構わず詠唱を続けた]
七つに掻き削り
八つに蹴割り
にそつ式
血花に咲かせろ
四方ざんざれ箱乱れ
みじんにそはかと
行い参らする
[詠唱を終えると、空中にふわりと飛んでいた蝶が、鋭い刃に姿を変え、相手のマスターの首元に狙いを定めて切りつけに行く。
―その数は 3匹― ]
[強い…な。
心の中でそう呟く。
スキルで強化してもほぼ互角。
筋力では勝っているかもしれないが素早さで明らかに負けている。
そして闘いにくさの原因は何よりも……]
ちっ、見切れねぇ……!
[相手の槍の動きが何故か見切れない、その上に気配も読みにくいと来た。
それにより自然と後手に回った防戦となってしまう。]
へっ、そりゃすまなかったな!
[頭部への軌道を渾身の力を持って篭手で弾く。]
[ 消しきれなかった赤い蝶が刃に変わる。]
なんとぉーっ!
[ すんでのところで身をひねるも、その刃はさらに向きを変え正確にツカサの首を狙って翻る。]
ええい、この…ッ
[ 仰け反り、僅かだけ開いた隙に絵筆を振るう。半円状に放たれた魔力が刃と衝突し、打ち消しあった。]
…アグレッシヴなお嬢さんだ。
[ 次の矢を危惧し、崩れた態勢を立て直しつつアカネを睨み付けて呟いた。]
[守りに徹する信長を見て左之助はさらに勢いづく。だが攻撃はすんでのところで防がれているようだった。]
ちっ、状況は良いが、相手の攻めの隙を突く事もできねぇ!
らちが明かねぇが、これならどうよ。
[左之助は始めの突きをわざとはずし、槍の柄の中央をひねった。
途端に槍が2つに分離して、刃の無いように見えた柄からは仕込み刃が飛び出す。
2本目の槍を信長の顔めがけて、突き出した。]
……やるじゃない。
[内心に少しの焦りを感じながらも、あくまで表情には出さず、薄く笑う。]
じゃあ、…もう少し強く行くけど、泣かないでね。
[そう言い放つと、深い深呼吸をしてから印を組んだ。]
[突き出される双閃。
今まで眼での回避で回避・防御していた所、つまり眼が慣れていた所への突然の分離。
先ほどまでの慣れで片方は避けれたものの、もう一つの煌きは避けた体勢の肩を、鎧ごと軽く抉る。]
……っ!
[このままでは不味い、局面を打開するには……。
■■■。
頭の中に何かが響く。
それは何処かで聞いた事がある何処かへの誘い。
此れは使うべきではない、知ってはいるのに理解を阻まれる。
使ってはいけない理由を、理解できない。
ならばその欲望に抗えるはずなどなく……。]
できれば、泣きたいけどね。
[ 服についた砂埃をはたきながら強がってみせる。冗談じゃない。戦いはサーヴァントに任せる気でいたのになんということだ。
…そういえば、本流のお嬢さんも妙に好戦的だったっけな。
いらないことを思い出し、苦笑。が、視界の隅でおきていた英霊たちの人ならざる戦いに一際の魔力の高まりを感じ、ひとつ後ろへと飛んだ。]
どうも、お嬢さんの相手どころじゃないねこれは。
[ 背中に、またひと筋の汗。]
[反転する。
信長の意識が、色彩が、輝きが。
天から地へと堕とされる。]
雄応ォォォォォォォ!
[先ほどまでとは異質、だが何者をも嘲笑うが如く荒れ狂う剣戟がランサーへと襲い掛かる。]
っ!
[詠唱を始めようとした口元が、そのままの形で止まる。自分の中の魔力が、どこかに膨大に流れていく感触。
全身にじわりと汗が滲み、小刻みに震えだす。]
……セイバー?
[思わずサーヴァントを振り返った]
な、なんだこれは……!
[膨大な力が高まり、弾けたと感じた瞬間、襲い掛かる激しい剣戟。
それは先ほどまでの理性的で防戦一方だった太刀筋とは,
まるで違う異質のものである。]
くっ……!うぉぉおおおお!!
[左之助にとっては、槍が2本になっていたのが幸いだった。1本では小回りが効かず、即この乱打で命を落としていただろう。
しかし、それもしばしの事。信長の荒れ狂う剣さばきに耐え切れず、左之助は無数の切り傷を負って吹き飛んだ。]
[――頭が痛い。
余りの痛さに、己が消し飛んでしまいそうだ。
嗚呼、何故痛いのか。
……そうか、殺せば止まるのか。
ならば、そう]
是非も……ない。
[再び刀を構えると、吹き飛んだランサーへと襲い掛かる。]
一文字?!
[ それはさながら吹き荒れる嵐のような光景だった。一瞬、動きが止まるも即座に我に返る。飛ばされた左之助の下へと駆け寄り、地面に叩きつけられる前に辛くも受け止めた。
――だが安堵する暇のあるべくもなく。
一瞬、背後が静かになったと思ったがそれは間違いだった。ただ一点に収束された、凍えるほどの殺気。塵さえも残らぬのではないかと思わせるそれに、しかし身体は不思議と冷静だった。
背中越しに絵筆を振るえば、粉塵が巻き起こりその中に自分たちと寸分違わぬ姿の幻が生まれた。
…そのまま、ツカサは振り返ることなく左之助を抱え、川の中へと*飛び込んだ*]
[一瞬対象を見失うが、すぐに見つける。
一太刀で幻を切り捨てるが霧の如く霧散したそれでは痛みが止まらない。
そうだ、止まらない…。
辺りを見回すと、人影が目に入った。]
嗚呼、なんだ次が用意されているんじゃないか……。
[その視線の先に映るのは……茜。
嬉々とした表情で静かに瞼を閉じる、その中で、その細い首を絞める夢を見て。
――意識が浮上した。]
令呪をっ……!
宝具を止めてくれ……!
[膝を突いて、地面に拳を立てながら声を絞り出す。]
[梧桐の叫びにも似た呼び声が聞こえてくる。]
おいおい、ツカサ、そう……慌てるなよ……
まだまだ……勝負はこれから……。
[その後、訪れた水の感触と共に左之助は*意識を失った。*]
[体の震えが止まらず、思わず自らを抱きしめる。]
……っ!?
[振り返った先には
―狂気の目をした サーヴァント ]
……あ…。
[背中に冷たい汗が滑り落ちる。歯が鳴りそうになるのを唇を噛んでこらえると、目の前のサーヴァントの叫び。]
[血の気の失せた左手を天に掲げると、ありったけの念を込め、5行4列の格子を宙に描く。]
……宝具よ、…静まれ…っ!
[手に引きつるような激痛。
叫びと共に、腕に刻まれた令呪がひとつ消えていった。]
[
じき、夜も白み始める。
そんな時間だというのに、声を掛けられたのは、これで五人目。
街の中心部に広がる、酒場が連なる界隈を歩いて回って、一時間程度のあいだにだ。
アルコール臭い息を吐き散らし、粘着いた視線で私の身体を舐め回す、金髪の青年。
小さく溜息を吐きながら、ツクリモノの笑顔を浮かべて応じる。
]
――……はい、なんでしょう?
[
そこから先は、これまでの四人と同じだった。違うのは、ただ場所だけ。
口を塞がれ、障害者用トイレ――というらしい――に、強引に連れ込まれる。
誰も彼も、考えることは同じか。
いや――あの男、蒲生延という魔術師だけは、違うのかもしれなかったが。
ふと瞑目して、数時間前の出来事を思い返した。
]
[
――……抵抗は、しなかった。
最弱のサーヴァントとはいえ、宝具までが最弱なわけではない。
令呪のバックアップを受けて宝具を用いれば、仮に三騎士のクラスとて打倒し得る自信はあった。
その切り札、三つしかない切り札のうち二枚を捨てることは、戦争を勝ち抜く上であまりにも不利に働く。
叶えたい願いを抱いて召喚に応じた以上、それはあまりにも大き過ぎるファクターだった。
全ての令呪を消費させての主殺しを選ぶのならば話は変わってくるが、裏切りなど自分には恐らく出来まい。
それに、魔術師の精は良質な――……そう、ただの人間を喰らうよりは良質な、魔力の供給源となる。
そのことでもし民衆の犠牲を減らせるのならば、抵抗する理由はなかった。
――ただ、『はい、マスター』と。そう応じる声が震えることだけは、抑えられなかった。
どうやら、教わった名を呼ぶ機会はないかもしれない。
魔術師にしては意外なほどに逞しい身体に組み敷かれながら、そんなことを思っていた。
]
[
――……あのとき、王に捧げた初めての夜と同じだった。
あのときと違うのは、このあとに、自らの手で民を害さなければならないこと。
それと――少なくとも、痛みはなかったこと。
千と一の夜を越えた肉体は、男の獣性を受け止め、鋭敏に反応していた。
強制的に与えられる細波のような快楽のなか、意識が切り替わっていくのを感じていた。
男を悦ばせるための手管を遠い夜の記憶を辿って手繰り寄せ、男の精を搾り取った。
荒い息を吐いて横たわった男のものに口寄せて、僅かな残滓を吸い上げさえもした。
都合、三度。
サーヴァントを喚び出した、その晩にだ。流石に限界だったのだろう。
街へ出て、周辺地理の把握を兼ねて、少なくとも五人の人間を"喰らう"こと。
戦いに備えて、適当な道具を作成しておくこと。
それだけを命ずると、必要があれば遣えと、この国の通貨の束を寝台に放り投げて。
こちらが服を纏うのも待たず、去れとばかりに顎先で扉を示して、眠りに就いてしまった。
]
――……王は、話くらいは聞いてくれたのですけどね。
[それだけを言い残して、主の寝室を去ったのだった。そうして、いまは――……]
――……ごめんなさい。
[
それは、誰に対しての謝罪だっただろうか。
たったいま、命を奪おうとしている、不運な男?
それとも、無関係の民を殺さねばならない自分に?
――答えは出ないまま。
他人の目が届かぬ密室へと自分を連れ込んだ少年の胸に、魔力で強化した掌を押し当てて。
そのまま、一息に。まだ未来ある若者の、脈打つ心臓を貫いた。
]
[――……未だ闇の残る街へと、再び歩み出して、数瞬。ふと、自らを包む白絹のローブに視線を落す。]
に、しても――……この格好は、目立ち過ぎるみたいですね。
陽が昇って商店が開いたら、この時代の衣服を何着か、買い求めるとしましょう。
[
サーヴァントとて、女であるには違いない。
身を飾る衣服を選ぶことを思うと、幾らかは、重苦しい気分を紛らわすことが出来た。
なにより、そう。
夜が明ければ、民を害さずに済む。何しろ、神秘は隠匿されなければならないのだから。
これ以上、誰かに声を掛けられないことを願いながら、僅かに軽くなった歩を進めていった。
]
[その瞬間、己の色彩を取り戻す。
令呪による強制力、それによって初めて先ほどまで己を支配していた何かが内へと消え去る。]
……っ。
[額から流れる汗が、異様に冷たく感じられた。
少しふらつきながら立ち上がり、疲労が見える顔で微笑んだ。]
かたじけねぇ。
……怖がらせたな。
[唇を噛み、微かに震えている茜の頬を撫でる。]
……。
[セイバーから発せられた、落ち着きのある声。
それに密かに安堵しながら、深く息を吐く。
ふいに、頬を撫でられ、何かが堰を切って溢れ出しそうになる。
それをこらえるように、目をぎゅっと瞑った。]
…怖がってなんかいないわよ。
意外と……手間をかけさせてくれるのね、お殿様。
[目を瞑ったまま、吐き捨てる。だがその声には、未だにわずかばかりの震えがあった。]
――夜・東ブロック:ビルの屋上――
[二人はそれなりに高いビルの屋上にいた。
高いとは言っても、あくまで回りに比べればの話。このビルの中でどのような日常が展開されているかなど知らなかった。
マスターである小さな体を抱え、夜の街を屋根伝いに移動する。そこまでは良かったのだが――。
多少は自身にも比はあると思っているらしい。釈明の言葉も、末尾に近づくにつれて小さくなっていった。]
結果としては、全景――とまではいかないが、地理を把握する為に必要な場を確保出来たんだ。
そう腹を立てることも無いだろう……。
[ビルの縁から町を見下ろす。
吹き上げる風に、大袈裟に身を巻くマントがはためいた。
空が朝の予兆に鳴動し、一日の始まりを告げる陽の赤と、長い夜の終わりが入り混じった青。境界を告げる輝きは如何とも形容しがたい情景。
――今はまだ、それを眺めることは叶わないようだったが。]
……それに、収穫と呼んで良いものかはわからないが……。
[途中、感じた巨大な魔力。感知に疎い男にも伝わった。尤も、原因となった正体を見ることも出来ず、マスターを抱えている都合上、急に失速することも叶わず――。]
そうか、此方の勘違いならそれでいい。
[頬を撫でていた手をそっと離し、
何故か眼を瞑ったままの茜を少し楽しげに見る。]
なんだ、二人の時は上総介って呼んでくれるんじゃなかったのか?
……あの槍使い、原田とか言ってやがったな。
忠勝とまではいかないが、かなりの武だ。
はっ、面白そうじゃねぇか。
[頭上から降る楽しげな声に、むっとして睨み付ける。一瞬何かが溢れそうで、素早く目元を拭った。]
ああ、そうだったわね!上総介!
[正直、歴史上の超有名人を呼び捨てにする事は大いに抵抗があったが、躊躇する姿を見せるのは癪だったので、少し強い口調で怒鳴るように言った。]
原田左之助…。
[敵の消えた水面に目をやる。
原田と言えば、確か新撰組の一人。そして―]
(あのマスター……さほど強い魔力を持っているように感じなかったのに、あの力は―)
[考え込みながら、思わず爪を噛んだ。]
[ビルの屋上から下を見下ろす。視線はどこかを見つめている。]
別に腹を立ててるわけではない。
ただ……魔術師として少し気になることを見つけた。
バーサーカー、お前には感じられないかもしれないが……この街に何らかの魔術が施してあるらしい。
それが何かまではよくわからない。
私は、魔術協会に属するものとして、それを見過ごすわけにはいかない。
[霊脈に沿って張り巡らされたそれを感じ取ったのは、この街についてからのことだった。それがどこで行われているかまでは、よくわからない。強固な結界がしかれているのか、その痕跡が途中で途絶えていた。]
まあ、他の魔術師に会えば解決するか。問題はあるが、まだ実害は少ないのだから。
それで。先ほどあった戦いをどう見る? あれは明らかに、魔力のぶつかり合いだった。人には出しえないほどの強大な。
サーヴァントだろうな。
[やはり聖杯戦争― 何事も侮れない。
もう一度息を吐くと、見つめていた水面から目の前のサーヴァントに視線を戻す。]
…とりあえず、私の家へ行きましょう。
色々と、話し合わなければならないみたい。
[そう告げると、踵を返して川原の小石の上を*歩いて行った*]
実害は少ない、か。
[風に吹かれながら言葉を繰り返す。
それに対しての感想は述べなかったが、代わりに剣がビルを叩く。小さく小さく、未だ闇に包まれた、それももうすぐ払われるかもしれない町にも届かぬ程度の。
少ない実害。
千里眼を持ち得ないバーサーカーには分からなかったが、眺め下ろすこの先では、人々が確かに日々を営んでいるのだろう。
例え眠りに就いていても、その息吹だけは感じ取れる。]
サーヴァントだろう。
マスターが言うように、魔力の衝突も感じられたし、もう一歩違えば、こちらにも気付かれていたかもしれない。
ただ。
少し、妙でもあった。
…………。いや。
私には細かいことは分からない。
憶測でマスターを混乱させ、策に支障を生じさせるわけにもいかないだろう。
今のところ、正面からやりあって退けられたとしても、消耗が酷ければ後の戦いを勝ち抜けまい。そうなれば、残るのは丸裸の君一人だ。
望ましい展開ではないな。
[尤も、自身が消えたとしても――彼女が聖杯戦争を続ける術は遺されているのだが、それは敢えて口に出さなかった。]
妙……?
黙っているということは、急を要しない? なら言わずともよい。
[白んできた空に目を細める。]
バーサーカーの能力と、私の魔力を考えれば、各個撃破が望ましい。宝具を使われれば、いくら私でも連戦など無理だからな。
それでも、一人で逃げるだけの術は持っている。だから、自分が負けた後の心配など考えなくていい。
地形は把握した。あとは策か。
夜も明ける。そろそろ拠点へ戻ろう。
[バーサーカーを見上げ、その肩に手を伸ばした。]
…………。
[確かに「魔力の衝突」ではあった。故に巨大な奔流を生んだのだ。
言葉にしてしまえば間違いは見当たらない。バーサーカーが感じ取った魔力は確かに「ぶつかった」と形容するに相応しい。
しかし、それが一方のみから放たれたものであったのだとしたら。
確かに他方に「ぶつかった」のだし、言葉の上では間違いは無いのだが――意味合いは大きく違ってくる。
しかし、マスターは「急を要しない」と判断した。
故にバーサーカーは、それ以上何かを続けることはしなかった。]
――――、そうか。ならば、いい。
[消失した後の仮定。
振り返ることなく、受け止めの言葉だけを口にした。]
承知した。一度、拠点へと戻ろう。
[揺れていた剣を握り直し、小さなマスターを抱え上げる。
背後、息づき始めた日常の気配には、視線を落とさなかった。
ただ拠点へと戻るためだけに、ビルから跳躍した。]
[空を翔るように薄闇の中を跳躍していく影。眼下にある地点が見えた。神聖とされる場所。]
教会も、行かなくてはならないな。
[その場所を目で確かめてから、先ほど魔力の衝突があった、と思われる方向を見た。もう、先ほどの残りすらも感じ取れない。一瞬感じたそれは、あまりに強大で、それがなんであったのかは、遠く離れた場所からは判らず、けれど一瞬湧き上がったのは、畏怖という感情]
バーサーカー、帰ったらまずは休息をとる。それから……私は教会に聖杯戦争へ参加することを宣言しに行かねばならない。
[ついてくるなと、暗に口にする。拠点である廃工場が見えてくるころ、ようやく疲れが実感となって現れてきた。]
[――中央通り商店街。
その、アーケードより一本奥路地へと曲がったところに、梧桐古美術店と小さく表札を出している店がある。
表通りに派手な看板を看板を掲げる『あおぎり美術店』の影に隠れてご町内では誰も知らないんじゃないかというその店は、ほとんど電気さえもついていないこともあり傍目からすでに潰れたものとしか思えないだろう。
だが扱われている美術品や古物は歴とした物が多く鑑定書の信用も厚いため客足はそれなりにある。また、店主は若いながら画家としてそれなりに名前も売れており、どうにも町内より市外・国外にて名前が通っている。
…まあそのようなこの店の一般的な評価などはどうでもいい話だろう。ともかくこの梧桐古美術店こそがツカサの自宅であり、拠点であった。]
さて、と。どうしたものかね。
[ 座敷布団に寝かせた原田左之助の姿を見つめ、ひとつため息をつく。
左之助と、織田信長と名乗る英霊との対決をまじと眺めることは出来なかった。だが、その魔力の奔流からどれだけ激しい戦いだったのかはよく判った。
左之助の実力が劣っていたとは思えない。だがしかし、信長の猛攻に左之助はいともあっさり吹き飛んだ。勝ち目など、どこにあるのかと思わせるほどに。]
…はて。
[ テーブルの上のコーヒーカップに伸ばした手が止まる。
思い返していて首を傾げたのは、左之助が攻め込んだ当初との、敵方の力の圧倒的な変化。あれほどの力があったのなら、左之助に対しあそこまで防戦一方であっただろうか。]
実力を隠していたか…それとも。
[ あれが、宝具というものなのかね。
声には出さず呟く。
宝具であるなら、信長と名乗ったあの英霊に対しての情報は大きく集まったことになる。超絶的な近接戦闘力。それがあの英霊の宝具であるならば、如何にそれが恐ろしいものであろうとも対処方法はある。]
………あ、あれ?
[ と・そこまで考えて頭の中が真っ白になった。
すでに冷めて久しいコーヒーをひとくち飲み、眠る左之助の姿を見やる。
どう考えたって左之助も近接戦闘一本。対処法もなにも誰がそれを実行するというのか。]
まずいね、、、どうも。
[ 乾いた笑み。天窓を見やれば、そろそろ夜は明けようとする+*時刻だった――*+]
フ。
[仮面の下から漏れる声は確かに笑い。
それは嘲笑とも如何とも取れない笑い。]
戦争に参加する為には手続きが必要なのか。
愉快な話だ。
[着地すれば、そこは廃工場。
落としてしまわないよう、マスターが地に足をつけたことを確認してから、支えにしていた手を離す。
もうすぐは一日の始まり。
ならば、先ほど見た光景よりも強く、人々の日常が身に凍みて感じられるのだろう。その中に埋没する己の姿を想起し。
静かに、ク、と笑ったように聞こえた。]
承知した。
君が眠りに就いている間は、番犬の真似事でもしておこう。
仮に戦闘になったとしても、君を起こさないようせいぜい気を遣うことにしようじゃないか。可能な限りな。
[本当に戦闘になったとしたら起こす起こさないに気を回す余裕は無い。クラスはバーサーカー。一度、スキルを解除してしまえば――後は狂気に身を任せるのみ。
だが、今度は笑いの声を重ねることはしなかった。]
君が一人で向かうなら私にとっても都合はいい。
危うくなったらすぐに祈りでも捧げることだ。
[剣を引きずり、床を削る。
ぼろぼろの歯はまた少し欠けたようだ。
廃工場の入り口に立ち止まる。
空はどんどん、白みに彩られはじめている。]
――自宅マンション(東ブロック)――
[影が名前を繰り返すのを確認し、再び微笑んだ]
あーもーホントによかったー。
コミュニケーション取れないんじゃ、どうやってこの先戦ったら良いかわかんないもん。
それにほら、暫くの間は一緒にいなきゃいけないんだし、仲良くやりたいもんね。
[先ほど起こった事を微塵も気にしていないかのような、明るい声。その言葉と表情が、次の瞬間再び強張る。影が自らを殺人犯と称した事によって。混じり合う声色と笑い声が、冗句なのか本当なのか検討をつかなくさせる]
……う、うーんと。
真名とか教えたくないよって事なのかな、きっと、そうだよね、うん。英霊を呼んだはずだし、わたし。うん。
[とにかく、と、言葉を続けた。それ以上その話題にはあまり触れたくないと言うかのように]
何か、作戦とか、思いつくことって、ある?
六組のマスターとサーヴァントを出し抜かないと、聖杯は手に出来ないわけだし。
愉快か、そうだな。バーサーカー、これはお前が起こした戦争とは、又違うものだ。魔術師とサーヴァント同士の聖杯を巡る戦争であり、一般人の目に触れていいものではない。
……過去のものには、多くの被害が報告されているが。
だからこそ、教会は誰が、聖杯戦争に参加しているのか知る必要がある。監督役として。
そのための宣言だといえば、わかりやすいか?
[工場の中、置かれたソファの残骸へと目を向けた。骨がはみ出し、皮の捲れたそれはとても使える状態ではなかったが、其処に手をかざし、短く詠唱する。]
Начало.
[ソファが形を変え、巻き戻すように、本来あるべき姿へと戻っていく。新品同様の姿になったソファへと身を沈めると、バーサーカーの言葉に耳を傾けた。]
祈り? 誰に?
危なくなった時は、バーサーカーを呼ぶ。無理だと悟ったら撤退する。それだけだ。
あと。外に人がきても中は見えない。余計な揉め事はなるべく起こさないでくれ。
[口にして程なく、*眠りに吸い込まれていった*]
[先程までの行動から考えて、"まずは偵察"なんと言う回答を望んでいたわけではないが、それでも、影から発せられた簡潔な一言に拍子抜けする]
う、うん、そうなんだけど。
殺す以外にも方法は、一応、あるし。
……でもその調子だと、殺す以外のことには興味が無さそうだね。
[殺す以外の方法。召喚者の言うとおり、キラーには興味無い事柄だった。だがそれは確かに、有する知識にあった]
……聖杯ハ、私モ欲しイ。
[先ほど受けた令呪による束縛。目の前に居る魔術師が放った魔術。得体の知れない力。
興味は無かった。だが、もしそれが必要な場面があれば?]
……作戦ハ、任セる。……私にハ、向カナい……。
[冷静で慎重な獣のように、キラーは召喚者を観察する]
……殺人犯が聖杯に願うこと、かー。
なんかロマンチックな感じがするね!
[心の底からそう思っているわけもなかったが、何となく得体の知れない目の前の"キラー"が聖杯に願う事を考えると、悪寒が少し襲う。誤魔化し茶化すように笑った。その発する言葉の間から思考能力を確かに感じ取って、瞬く]
わたしも、あんまりそういうの、得意じゃないんだけどなー。
でも、そもそも誰が参加者かわかんないんじゃどうしようもないし、まずは情報を集めないとダメだよね。
――南ブロック:廃工場――
[陽は昇った。
特に何事も無く時は経った。
正確な時間は分からなかったが、曇りの無い空は偽りなく経過したことを報せてくれる。
バーサーカーも入り口の近くで座ったまま、剣の握りを確認したり、時折刃を指でなぞってみたり。
過去、過ごした場所と同じ穴倉であっても、ここには静穏と安穏が在る。
影の中は確かに身を隠すには十分だった。安心しているのか信頼しているのか、疲労が溜まっているだけなのかは分からなかったが、少女も魔術を施したソファで眠っている。
眠りに結界の内であっても、蝉の鳴き声は容赦なく届いた。
それは人の気配も同じ。駅が近いせいだろう、気配が近付くことは無くとも、明らかに自然のものではない音がどこかで滑っている。
剣を鳴らす。仮面を叩く。
時の刻みには似ず、より小気味悪く、より不規則に。
あらゆる日常の色が届かないように、塗り潰すように。]
[握る手には血の錯覚。
見つめる仮面に死の幻覚。
まだ戦ってもいない、敵と遭遇してすらいない。
だが、耳には確かに――まだ続いている。
悲鳴だったかもしれないし、怒声だったかもしれない。
嗚咽だったかもしれないし、剣戟だったかもしれない。
何の断末であったのか、既に裁断されて思い出せない。]
――――足りない。
[最後に一際大きく打ち鳴らす。
仮面はヒビ一つ生じない。
呟きは音に紛れ、言葉として形になる前に崩れて消えた。
代わりに、身じろぎしたらしい少女の気配に振り向いた。
歩は向かう。
剣を揺らしながら、己がマスターの元へと向かう。
ソファの前で立ち止まる。
こぼれた刃を持ち上げ、重ね透かして少女を見る。]
―― 古美術店・店内 ――
[左之助は体の痛みを感じ、目を覚ます。
見覚えの無い天井をしばし見つめた後、目だけを動かして用心深く辺りを見回した。
ソファに寄り添いながらうたた寝をする梧桐の姿が目に入り少しホッとする。]
どうやら、ツカサは無事で俺も殺されず、捕らわれずってとこか……。
あの状況を考えれば上々かね……。
[既に包帯で傷の手当ては施されている。
戦った場所が良かったのか、傷の回復は順調のようだ。
首を回すと傍らのかごに血にまみれた衣服が放り込まれているが見える。]
あの着物はもう使えねぇな……。
[ここで左之助は高楊枝がなくなっていることに気づく。
ついでに腹も減ってきた。]
ちょいとあさらせて貰うか。
[左之助は身を起こすと、台所を探し始めた。]
[みなみの声に首を巡らす。
キラーが知り得ることでは無かったが、それはセイバーとランサーの戦闘の気配だった。
その気配の方角だけを特定する。大まかな距離は察知できる。……そうしてから、キラーは自分の行いに違和感を感じた。
この身体は、こんなことまでできるのか、と]
ねえ、これって、
[この区域の流れは、元より自然の在るが侭と言う訳ではなく、手が加えられている。それでも日頃は穏やかな川のような魔力が、突如として盛り上がり、氾濫を起こしているかのようだった。その力は、一介の魔術師に出来る域を優に超えている。言葉は無いものの、何かを感じているのはキラーとて同じのようだった]
……すごい、これが、サーヴァントの力。
今から行っても間に合いそうにないけど、こういう人達を相手にしないといけないのね。
[店内は古めかしい絵画や刀、彫刻で満ちていたが、左之助から見ると、それらはさして珍しい物ではなく、生前身の回りにあったものである。
左之助は上半身は包帯、下半身はふんどしと言う姿のまま、それらを一瞥し、台所らしき場所へと入っていく。]
……何だこれは?飯のある所はどこだよ……。
[冷蔵庫に電子ジャー、それは見慣れないものばかりであり、左之助をひどく戸惑わせた。
ふと電子ジャーの噴出し口から米の炊かれる匂いを感じ取り、それを開ける。
そしてしばしの躊躇の後、炊かれた米を手づかみで頬張り始めた。]
[伝わってくるその気配は初めての感覚だった。
先ほど感じた令呪のそれとは別の、圧倒的な気配]
…………。
[何を思い、何を考えたのだろうか。キラーはアサシンをベースにする自らの能力により、ほぼ無意識に気配を遮断する。影のような身体が、存在感を希薄にする。
そして何も言わず、部屋の外へと足を向けた]
んー、でも、今日は夜ももう遅いと言うか、朝だし、また詳しいことはあし、って、え!?
[それなりに思うところはあるものの、体力の限界が近付いている。そう思い、休息の提案をしようとしたところで、突然、キラーは動き出した。しかも、その気配をマスターで無ければ気付けない程のレベルにまで落として。その意味するところは、一つ]
ちょ、ちょっと、ちょっと待って!
ね、眠いのにっ。うぅ、わたし、死んじゃう……!
[眠りは深く。けれども自身の張った結界に何かあればすぐに目覚めるよう身体ではなく魔術回路に刻まれている。
自身に向けられる殺意についても同じく――]
……何をしている、バーサーカー。
[目を覚ましたのは、まったく別の理由だった。何のことはない、ただの、時間経過による目覚め。]
それを降ろせ。
それとも、つまらないことに令呪を使いたいか?
[ソファから身体を起こし、バーサーカーには構わず、立ち上がると工場の奥へと向かった。
バーサーカーを呼び出す前、いくつかの廃工場を見て回った。拠点とするには陣を敷くための場所と、自身が生活するための環境が必要となる。そして、一般人が立ち入らぬ場所。
それを兼ね備えたのがここだった。
工員が使っていたらしいシャワールーム。そして椅子とテーブルの置かれた休憩室。それらは工場が稼動していた時と同じような、否、建てられた時と同じような真新しさへと変貌していた。]
[ それは、夢。儚く、薄っぺらなただの夢。]
――運命や未来ってさ。変えるものじゃないと思うの。受け入れるもの。その中で一番いいのを掴み取るのが、努力。
――駄目だ。
僕にとっては、それじゃ、駄目だ。
…それじゃあ、もう君に逢えない………………………。]
は。
[ 夢から、醒める。どうやら考えている間にうたた寝をしてしまったようだ。
座敷布団を見やれば、寝ているはずの人物はいない。]
…一文字?
[ 一瞬慌てるも、令呪から繋がる魔力の流れで消えてしまったわけではないのだけは理解する。では、果たして起きた彼はどこにいった?]
[ 家の中を歩けば、すぐに彼は見つかった。]
………もう少し、食べ方というものがないか?
[ 思わず右手で顔を覆う。手当ての関係でそんな姿にしたのは確かに自分だ。自分だが。だがしかし。
炊飯ジャーを抱えて床に座り込み手掴みで飯を食らうとかどこの野蛮人なのか。
………いや、似たようなものか。
考えてみれば昔の人間である。判らないものだらけなのだろう。]
まあいいか。ちゃんとした食事を用意しよう。
[ 話し合うことも、あるし。
言って腕まくりをすると、ツカサは冷蔵庫の扉を開けた。]
…………。
[マスターの問いに答えることなく、言われるがままに剣を下ろす。仮面の目は奥へと向かう背中を追い、役割を逸した剣が掌で握り直される。]
決まっているだろう。
[見送っていた背中が目的の地へ到達すれば、わずかな息を漏らした。言葉は彼女への返答であっても、届かないほど弱弱しいもの。けれど当たり前のように滑り出た言葉。
そこに乗せられた感情は見て取れない。
踵を返して外を見た。
――まだ、遠くの喧騒は聞こえているような気がした。]
――流廻川 河原 戦闘跡地――
[その場へ辿り着き、みなみを地面へと降ろす。自分を追ってくる召喚者は、あまりに遅かったために中途で肩に乗せていた]
…………。
[見回す。感じた気配のわりに、この場には目に見える大した戦痕はない。だがここで戦いがあり、二つの強い力がぶつかったことは理解できた]
おう、ツカサ、起きたのかい。
[梧桐の呆れ顔に、左之助は米にまみれた右手をひょいと上げて応えた。]
俺もどうかと思ったんだけど傷のせいか腹減っちまってなぁ。
箸も椀もどこに有るか解らねぇし、勝手にやらせてもらったぜ。
まあ、用意してくれるならそれに越したことはねぇやな。
ああ、そうそう、あと着る物も頼む。
着物はあの通りだし、なるべく今に溶け込める物が良いんだろうしな。
[左之助はそう言うと、にいと笑って椅子に座った。]
[汗を冷たい水で洗い流す。シャワールームから出ると、休憩室にある古い型のテレビの電源を入れた。テレビの上に置かれたアンテナが、ニュースをノイズ交じりに映し出している。]
……匂うな。
[交叉市内でおきた事件を報道していた。被害者の名前と写真が画面に映し出されている。それがただの死体であればそこまで取り上げられることはなかったのかもしれない。]
魔術師の仕業か、それともサーヴァントか……どちらだ?
マスター。
[ノイズ。
そう、少女の背後で吐き出た声はノイズに紛れた。
手は剣を握る。――いつもより強く。
仮面は少女を見下ろさない。――映し出された死者の顔。]
――監督役とやらは、随分と優秀な輩のようだな。
――流廻川・河原――
え、えええ!? !?
[向かう途中に一言も無く、体を持ち上げられた時は、生きた心地がしなかった。少なくとも物心がついて以来体験した事のない状況に、驚きと、恥ずかしさでむず痒くなる。何を言っても動じそうにないキラーに諦め、漸く目的地に着いた時には頭が真っ白だった]
え、えーと、やっぱり、誰も、もういないね。
[河原に落ちている石に人工的な色が見える。消えかけていて、元が何色だったのかハッキリとは解らなかったが、そこに、確かな魔力の残り香を感じた]
これ、何だろう? 絵の具に、見えるけど。
何か地面に描いた跡……かな?
[ 出来上がった料理を並べると、目の前の男は勢いよく飯にありついた。
…すでにジャーの中身はほとんどなかったからと炊きなおしたのに、またそのほとんどが食べつくされる勢いだ。]
さすがに、よく食べるな。
[ 呆気に取られたかのような声を出すも、それとはまた別の理由でツカサは左之助の顔をまじ、と見つめる。]
[背後から聞こえた声に振り向かず、視線はテレビの画面を捉えている。]
ああ、そのようだ。とはいえ、監督者もすぐにこの状況というのは予想していなかっただろう。
一般人に魔術行使を見られた場合、その命は奪わなくてはならない。もっとも魔術師によっては記憶だけを奪うことも可能だろうけど。
だが、これは……場所を考えればそれではないと思う。
[表情も口調も変わらぬまま、テレビの電源を落とす]
教会に行ってくる。それから、事件が起きた場所も見ておきたい。バーサーカーはここで待機しておけ。
それと、サーヴァントは何か食べるのか。食べるなら、食事を買ってくる。
[みなみに見せられた石。それに付着する塗料は、確かに何らかの力の残滓があった。しかし、それに対して明確な知識があるはずもない。それが何を意味するのかは分からない。
分からないからこそ、キラーは警戒の念を強くする。
キラーはみなみの手から石を受け取ると、食い入るように観察する]
[言葉は無かったが、同じように同じものや残っている力に対して感性を持つ事にほっとした。しゃがみ込み、手で地面に触れる。自然が持つ記憶が、ここで起きた事を感覚として伝えてくれる気がした]
これだけ大きかったら、わたし達のほかにも誰か来るかもね。
今のこの状態で、戦闘態勢になるのは、ちょっと辛いけど。サーヴァントは、疲れたりしないのかな。
[立ち尽くす男に反して少女は終始冷静だった。
冷静に答え、立ち上がり、画面を暗くした。]
そうか。
これも少ない被害、とやらの範疇か。
[バーサーカーの声に震えは無い。
出口へ向かう少女に、数歩送れてついて歩く。]
取り立てて必要というわけではない。
他は知らないが、私は空腹に慣れている。
それに――。
[それ以上は続けずに、廃工場の出口まで送り届ける。
外が近付けば、それだけ日常の息吹も肌に纏わりつく。
出口から外へ出ることはせずに、その場で切っ先を揺らした。]
いや、確かに米粒はついているが…。
[ 問われて、それだけ答える。
さすがに、似ていないか。
亡き妻の面影を左之助に探すも、そんなものはありはしなかった。残念がる内心に、いや、この戦争に勝ちさえすれば本人に逢えるのだと心を横に振り、箸を置き立ち上がった。]
まあなんでもない。すまん、独り言がこぼれただけだ。
それじゃあ、箪笥にでも行こう。気に入った服があったらどれでも自由に持っていってもらって構わない。
[ 隣の部屋へと、案内した。]
[箪笥のある部屋に案内され、早速衣服を選び始める。]
おいおい……一体どれ着れば目立たないんだよ。
俺にはどの服も奇天烈に見えるぜ。
急所が解り難いように、着物みたいにだぶついた服が良いんだがなー。
[いろいろ物色しているうちに、箪笥の奥から見慣れた着物を入れる箱のようなものが出てきた。]
お、こう言うのもあるんじゃねぇか。
[左之助はその箱を開いてみる。]
少ない被害だとは思わない。これを誰がやったにしろ、聖杯戦争という枠の中で起こしたのなら、教会の判断を待つまでもなく、魔術師として手を下さなくてはならない、と思う。
[ただ、感傷はなかった。そのように生まれついた。そのように育てられた。だからこそ魔術師側の矛盾を感じることがあった。
バーサーカーのほうは振り返らずに廃工場を後にする。
施した結界を破られぬよう強固にして、足はまず駅のほうへと向かった]
[他に誰かが来るかも知れない。そう呟いたみなみの懸念は、キラーの耳にも届いていた]
…………。
[改めてその場を見回す。見通しのよい、遮蔽物も何もない河原。気配は遮断してあるが、このような場所で肉眼で察知されれば意味もない。
キラーはみなみの軽い身体を掴むと、来たときと同じように肩に乗せた]
疲れない体って良いだろうなあ。
そうしたら、寝なくて済っ、ひゃあ!
[キラーから目を離し、聳える山々を見ながらそう呟いた時、体が宙に浮いた]
うう、お、お願いだから、驚かさないでよー!
ひ、一言くらい何か言ってよー!
こ、こいつは……
[左之助の目が驚きに満ちあふれる。
それは彼にとって見慣れたなじみの服だったからだ。
あさぎ色で袖と裾にある山形の模様。
そこにあるのは新撰組の隊服であった。]
おい……何故、こんな物がここにあるんだ……。
[左之助は複雑な気持ちを抱きながら、梧桐にそう問いかけた。]
[ どう話したものか。そんなことを考えてよそ見をした間の出来事だった。
隊服を手に驚く左之助の姿。よもや見られるとは思っていなかったため一瞬動揺したが、しかしこれは好都合かなとツカサは口を開く。]
ああ。どう言おうかと思っていたんだが… 一文字、それは多分、君のものだと思う。
私の妻が…いや、もう10年前に他界したんだが…妻の祖父の祖父の母が…いや、なんだこの日本語は。
[ 何故かうまく言葉が出ない。息を大きく吸い込み、言い直す。]
妻のご先祖が原田まさ…まだ言い方が遠いな。要するに、私の妻は君の子孫にあたるんだ。
[ ようやく、なんとか言葉を紡ぎ事実を伝えた。]
[みなみの抗議を無視し、キラーはその場を離れる。これ以上、流廻川に居ても危険が増すだけである。
そして、自分が知らなければならない事柄を否応にも認識する]
……みナミ。コの一帯ノ地理ヲ、私ニ教えロ。
[影から影へ縫うように移動しながら、相変わらずの老若男女入り交じった声で。キラーは己がマスターに言う]
[マスターの背中が見えなくなった頃、バーサーカーは中へと戻った。
蝉の鳴き声が遠ざかる。人の臭いが薄れて行く。
しかし、濃度とは反比例して切っ先の揺れは大きくなった。
次第に、揺れる、というより振り上げる、と形容するに相応しい形となり、放置されたままの器具の群れへ辿り着いた時、ぴたと止まった。
溜められた反動が解放され、勢いよく器具に打ち下ろされる。
バーサーカーが持つ剣は叩き切るには向かない。そして狂化もしていない彼にとって、用済みの有象無象を大破するまでは至らなかった。
亀裂が走り、同じく刃も欠け、破片が仮面を叩く。
刃が止まる時には、器具の一つは原型を留めていなかった。]
[息は切れていない。
腕も疲弊していない。
刃が止まったのは、背後に気配を感じたから。]
…………。
[廃工場の入り口に小さな形。
それが猫というものであることは、知識として知っていた。
生きている物であるということも――知っていた。
刃を握り直し、物音に身を竦ませた形へ向かう。
怯え切った瞳と、仮面の目が交差する。
そして――立ち止まり、バーサーカーは見下ろした。
猫は、呪縛に囚われたかのように動けない。
何の感慨も見せず、大柄の影は振り上げた刃を、
マントの中へしまった。]
[息は切れていない。
腕も疲弊していない。
刃が止まったのは、背後に気配を感じたから。]
…………。
[廃工場の入り口に小さな形。
それが猫というものであることは、知識として知っていた。
生きている物であるということも――知っていた。
刃を握り直し、物音に身を竦ませた形へ向かう。
怯え切った瞳と、仮面の目が交差する。
そして――立ち止まり、バーサーカーは見下ろした。
猫は、呪縛に囚われたかのように動けない。
何の感慨も見せず、大柄の影は振り上げた刃を、]
[車に乗っている時のように、変わっていく景色。来る時は無かった余裕が少し生まれ、キラーの]
家に帰れば地図があるけど、えーっと、簡単に言うとね。
ここへ来る時に通った駅から、山の方を向いて、右手の方角はビジネス街と住宅街。
左手の方角や、山と逆方向は、廃れた住宅街や、工場が多いの。
それから、この聖杯戦争の監視をしてる人が教会にいるよ。駅のすぐ近くだったかな。
[駅へ向かうと、次第に多くなってくる人の姿。自身が過ごした日常とは違う、その空気を感じながら、事件のあった場所へと向かう]
……正確な場所までは伝えなかったが、ここは、静かだな。
[夜とは違う、繁華街の静けさに見回す。夜になればもっと人がいるのだろう。人の姿は少ない。
情報収集を中断して、食事を取ろうとファーストフード店へと足を運ぶ。窓際の席に腰掛けて、コーヒーを口にした。
窓の外を見ていたところで、肩を叩かれて振り返る。]
何か?
[恐らくは、警官。その制服が幻覚でないのなら。自身の姿のせいか、と思案し、バッグから手帳を取り出すと、警官へと見せた。]
ツカサの奥方がまさの子孫……そうだったのかい……。
まさ……あいつには不憫な思いをさせちまった。
俺ときたら隊の事にかかりっきりで、士道って奴を守るためにひたすら奔走して結局……。
[左之助はそこまで言うと隊服から目をそらす。]
そいつをしまってくれ……。
[左之助はそう言い、適当に厚手の服を見繕うと*部屋から出て行った。*]
[説明を聞き、大まかな地図を頭に描く。それが思いの外簡単に行えたのは、召喚時に流れ込んでいた知識故か]
……見テ回る。案内シろ。
[それでも、キラーは満足しない。その眼で見なければ、満足はできない]
……でキレば暗ク、遮蔽物ノ多い場所がイイ。
さ…。
[ それは、まるで予想していない反応だった。なにやらショックを受けた様子の左之助に、かける言葉が見つからない。]
…そっとしておく、べきか。
[ 伸ばそうとした手を下ろし、ツカサはその場に*座り込んだのだった*]
――……少しは、役に立つのでしょうかね。
[
呟いて、小首を傾げる。
二匹のカラスと一匹のネコを即席の使い魔に仕立て上げ、駅前のとあるホテルの付近にと放ち終えたのだ。
大きな魔力。サーヴァントと思われる存在が、その建物にある。
それを、キャスターとしての感知能力が捉えていたのだ。
]
しかし……空飛ぶ絨毯(フライング・カーペット)を用意しておくんでしたね。
あのタタミとかいうものでは……無理そうですね、多分。
[
腕を組んで、未だ暗い空を見上げる。
上空から見下ろせば、楽に周辺を把握出来たのだが――ないものねだりをしても仕方がない。
溜息を吐いて、人気のないビルの合間を再び歩み始めた。
]
[キラーの注文自体は、そんなに無茶ではなかった。西ブロックに眞奈本家があるみなみにとって、この区域は生まれ育った場所だ。だが、暗く遮蔽物が多い場所と言う指定となれば話は変わる]
え、えーっと、じゃあ工場の辺りとか、教会の辺りを見て回るのが良いかな。
女の子は一人歩きできないくらいの暗さだし、遮蔽物も多かったと思うけど。
でも、どっちにしても駅を経由する事になるから、あの辺りは繁華街だし明るいけど。遮蔽物は、そこそこあるんじゃないのかな。
[手帳には免許証が挟まっている。有効期限は2年後を示している。指で隠された生年月日の下、ゴールドのラベルが写真の横に伸びている。]
これで納得された?
[頭を下げて去っていく警官に、ああそうだ、と声をかける。]
ニュースで事件を見たんだが、この近くであったらしいな。犯人は捕まった?
[まだ捕まってないということを聞いて、考え込む。あまり話したがらない警官を引き止めることはせずに、又窓の外を見た。
店内から聞こえる会話を、耳元に引き寄せる。他愛無い雑談、仕事上の愚痴、店員のひそひそ話。]
……口調がおかしいか。
[店員がこちらを見ながら小声で話す。それが耳に入って目を伏せた]
[キラーの注文自体は、そんなに無茶ではなかった。西ブロックに眞奈本家があるみなみにとって、この区域は生まれ育った場所だ。だが、暗く遮蔽物が多い場所と言う指定となれば話は変わる]
え、えーっと、じゃあ工場の辺りとか、教会の辺りを見て回るのが良いかな。
女の子は一人歩きできないくらいの暗さだし、遮蔽物も多かったと思うけど。
あ、あっちの方向を曲がれば、駅が近いけど、ビルも多いし、暗いし良いかも。
[猫の頭は温かかった。
さすがに腹は嫌がったので止めておいたが、わずか数分で猫は仮面の男に懐いている。喉を撫でたせいだろうか。目を細めてごろごろと転がっていた。
――生き物の頭は、温かかった。
瞼の切れ込みから除く瞳は、黒かった。]
ここにいてはいけない。
帰る場所があるのなら、早く帰りなさい。
[首輪はついていなかった。尤も、首輪が飼い猫の象徴であることまでは知識にあらず、バーサーカーは猫から手を離した。
体を起こし、別れを惜しむように見上げる。
座り込んだバーサーカーの膝の上へ足をかけ、擦り寄ってくる。]
…………お前も、帰る場所が無いのか?
[猫は一声、鳴く。
それはもしかすると使い魔かもしれないとか、そういった考えは今の彼に無かった。ひと時の平穏、遠い昔に磨耗してしまった、懐かしい記憶。
思い出せない。
思い出せないから、今の世の日常を生きる、この猫を―――。]
――駅周辺 立ち並ぶビルの合間――
[気配を遮断し、人目につかぬようみなみが指し示す方向へと足を進める。まずは地理を頭に入れなければならない。そういう、冷静な判断が身体を動かす]
…………。
[その、思考が止まった。駅周辺。一つか二つ道が違えば人で溢れるような、ビルとビルの合間の路地裏。
そこに、表情に陰のある……美しい女を見つけたのだ]
[音を集めながら、必要な情報だけを耳に入れていく。その中に、気になる会話を見つけた。
夜の街を歩いていた女性の話。綺麗だったと話す男のほうを見た。
席を立つと、そちらへと歩いていく。]
失礼。少し、会話が耳に入ったものだから。
[先ほどの店員の話を思い出し、一拍置いてもう一度男のほうへ話しかけた]
その話、もう少し詳しく聞かせていただきますか?
今朝方起きた事件との関連性を、調べている者です。
[にこりと微笑んで、男のほうを見た。]
――駅周辺――
[肩に乗せられたまま移動をするというのは、目立つ原因になりかねなかったが、何となく言い出せないままに駅の辺りへ着く。地域の人間でしか知らないような、ビルの間の繋がった細い路地。そこで、一瞬キラーの動きが止まったような気がした。視線を追うように辺りを見れば、一人の女性が、そこには立っていた]
……!
[
――サーヴァントの気配に、気付いたわけではなかった。
ただ、人間の気配を感じて振り向いただけだった。
闇の塊に腰掛けた、若い女――それと、視線が合った。
この距離まで、気付かなかったとは――自分の失態に小さく舌打ちして、けれども、それは表には出さず。
あくまで悠々と、微笑みを浮かべて、口を開いた。
]
――……こんばんは、お嬢さん。
[手に入った情報はほとんどないに等しかった。女性の特徴は聞けたが、実際に起きた事件との関連性はわからないまま。声をかけようとしたが、かけるときには既に姿がなかったのだといっていた。]
怪しい。でも確信がない。夜を待つか?
実際に手を下した場所がわかれば、魔力の類もわかるのに。
[ファーストフード店を後にして、百貨店へと入る。バーサーカーへの服と、食事を用意しなくてはならない。ただ、仮面だけはどうにもならないために頭を悩ませた。
悩んだ末に数枚のシャツとジーンズ、それに帽子を合わせて購入する。やはりバーサーカーを連れてくればよかったかと思いながら、増えた荷物を眺めた。]
[目が離せなくなる。悠然とした振る舞い。みなみが彼女をサーヴァントだとわかるように、彼女もみなみのことも、そしてキラーのことも何らかの形で認識しているに違いなかった。身構えた瞬間に、彼女の唇から発せられたのは、挨拶]
えっ、あ、こんばんは。
……お一人、ですか?
[
どうする。対峙したまま、思考を巡らせる。
戦闘、それは論外だ。
あちらのサーヴァントのクラスがなんであれ、マスターの支援を受ける分、優位のはず。
どうにか、戦闘だけは避けたいものだ。第一、じき夜が明ける。
結局のところ、会話を続けるほかに選択肢はなかった。
]
――ええ、まあ。
夜明けの澄んだ空気に誘われて、つい出歩いてしまいました。
貴女の方は……不思議なものを連れているようですね。
[異質。目の前の女に、キラーは自分と同じ異質を感じ取っていた。そして、みなみと同じ異質をも。
おそらく、相手は自分のように気配を断てる能力を有していないのだろう。
聖杯戦争の参加者。それだけは、確信した]
……みナミ。
[押さえきれず、笑みが漏れる]
……殺シてイイか?
う、うーん、連れているというか、わたしが連れられているというか、なんというか。
[場違いだと解っていても、つい思った事を口に出してしまう。緊張感が無い発言には違いなかったが、実のところ、体は強張っていた。それに拍車を掛ける、特徴的な、ある意味で特徴のない、一連の声]
……ダメって言ったって聞かないでしょ。
[実の所、止めるべき理由があるとすれば、夜明けが近いことのみだった。どんなクラスであれ、どんな能力を有している人物であれ、サーヴァントであることに変わりはない。絶好の機と言えばそうなのかも知れなかったが、コンディションが万全でないのはこちらにも言えること。だけども、それよりも、何よりも]
覚悟が、出来てない……のかな、わたし。
サーヴァントだってわかってても、こうやって普通に会話をする相手が、消えてしまうようなことをするのは、こわい。
甘いのかも、知れないけれど。
……ゲラ……
[笑みが漏れる。全てがどうでもよくなった。理性もなく知性もなく、全身から頭を泡立たせながら、その口全部で哄笑する]
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ――――――ッ!
[右肩が膨らむ。すぐに変形は終わった。歪で醜悪に肥大化した右腕を高らかに挙げ、キラーは疾走する――目の前の、獲物に向かって]
[
言葉を口にするとは、思っていなかった。
微かな驚きと共に、魔術師の腰掛ける闇に意識を集中する。
はっきりと云って、それは、醜悪そのものの存在だった。
陽光の下ならば兎も角、このビルの合間にあっては、闇が蠢いているとしか形容のしようがない存在だった。
あの有り様は、亡霊や怨霊のそれに近い。
キャスターは、嫌悪感を抱きながらも心中で断定した。まず、真っ当な英雄ではないだろう、と。
]
――……そう云わずに。夜明けも近いし、ここは、お互いに退かないかしら?
この狭い場所ならば、貴女が隠れる場所はない。
貴女のサーヴァントが、私を倒せるのだとしても――……その前に、貴女が死ぬわよ。
[
言葉を終えると同時。探索のために抑えていた魔力を解放し、全身の魔術回路を回転させる。
そうして、一冊の書を虚空から取り出し、その手へと握った。威嚇と戦闘への備え、その両方だった。
]
14人目、九鬼 聖法 がやってきました。
九鬼 聖法は、村人 を希望しました。
[教会の中で、一人の男がため息をつく。
無理もない、今回の聖杯戦争は動きが早すぎる。
聖杯出現を観測してから48時間以内での英霊の立て続けの召喚。
そしてその直後の今回の事件。
監督役として後手に回ってしまったことは否めないが、それでもここまで性急に事が動くとは考えていなかった。]
此れは少々、拙いですね……。
[荷物を両手に下げて、足は教会のほうへと向かう。タクシーを使って教会まで乗りつけると、その建物を見た。]
今回のことは、ちゃんと把握してるんだろうか……。
[少し不安を覚えながら、教会の扉を開いた。そこにある空気にふう、と息をつく。]
こんにちは。監督役の神父はどちら?
[
だが、言葉を紡いでいるあいだに敵は動いていた。
重ね重ねの失態。やはり、実戦経験が皆無ではこんなものか。
この場から離脱するべく思考を巡らせ、導き出した手段を即座に実行へと移す。
]
――風よ!
باد بچرخ!
[
凄まじい速度で迫る影に、旋風の呪文を放つ。
幸い、影が迫るのはビルとビルとの合間――谷に強風が吹くのと同様に、風は数倍になって敵を襲う筈だ。
ビルに多少の傷は残るかもしれないが、知った事ではなかった。
]
[その時、みなみが恐怖を抱いたのは、書を抱いた対峙するサーヴァントに対してでもなく、彼女が保有する魔力に対してでもなく、自らのサーヴァントのはずの"何か"に対してだった。触れている肌を通して、自在に変わる姿]
一体、何なの……!?
[敵対するサーヴァントに対する畏怖と、"何か"に対する畏怖は質が違う。サーヴァントに抱く恐れは物理的で、誰もが自分よりも強い人間と対峙したときに抱くものに違いなかったが、自分の下で動いている"何か"に対してのものは、より、生理的で本能的な、恐怖]
[川原の戦闘に関しては対処は終わっている。
警察への根回し及び、付近住民への偽の事情説明。
最も、眼に見える大きな被害がなかったために何とかなったというところもある。
これからはかなり慎重かつ迅速に対処をしなければならない場面が多いだろう……とコメカミを押さえて考え込む。
その時、教会のドアが開かれた。
そして同時に出る監督役という言葉でこちら側の人間だという事を理解する。]
……私ですが。
まぁ、どうぞお座りください。
[女が紡いだ呪文。その意味など知らなかったが、何が起きたかは明白だった。
風。恐ろしい量の風が襲ってきたのだ。
ビルとビルとの合間という、地理的な状況などに考えは至らなかった。
肥大化した方腕のせいでバランスは悪く、重心を捉えるのも難しい。吹き飛ばされそうになり、とっさに巨大化させた腕でビルの壁を掴む。ガリガリと壁を削り、強風に耐える]
[教会の中、促されて椅子へと腰掛ける。]
ありがとうございます。
今回の聖杯戦争に参加することを伝えに参ったのですが。
……この地には以前からいらっしゃるのですか?
この土地では一日に数人も変死体が出るようなことが、以前からあったのですか?
この土地では、一般人から生命力を吸い上げる行為を許しておられるのですか。
[会釈をした後、まっすぐに神父を見つめ、口にした。]
[
――狙い通り。襲いかかってきた影は、風に飛ばされぬように堪えるだけで必死。
追い討ち。僅かに脳裏を過ぎったその誘惑を切り捨てて、脱出に向けて組み上げた次手を解放する。
]
閃光よ、輝け!
!جلوهى تيز
[
瞬間。真昼の太陽が、薄暗い路地にと現出した。
攻撃能力などない、ただの目くらまし。
あの影に効くのかは判らない。だが、少なくともマスターの視界は暫く奪えるはずだった。
踵を返して、全力で路地の奥への走り出す。あの影が追ってこないことを祈りながら。
]
[心の中でため息を突く。
余りに予想通りの内容だ、いや若干予想よりも棘があるが。]
その様に遠まわしに言わなくても宜しいです。
それらは全て、教会側の落ち度に違いはありませんので。
表へは既に死因は薬の過剰摂取によるもの、として情報操作は終わっています。
神秘の秘匿、という件に関しては目撃していると思われる人物は既に居ませんので問題はない……という結論が出ました。
被害者の方には非常に心苦しいのですが、ね。
[魔術師とは一線を駕する詠唱速度。自らを守る為の魔術を汲み上げるだけの時間は無かった。量と密度が桁違いの風に、咄嗟にキラーに掴まる手に力を込める。それでも安定しない体に、キラーから手を離せば、足から地面に着地することはなく、そのまま後ろに体が動く]
っ!!
[それでも多少の怪我を負いながらも地面に倒れこむだけで済んだのは幸いだった]
[攻め手に回れる事はなくとも、出来る事を探し、回路に魔力を通し、詠唱を紡ぐ。その瞬間、目を焼くほどの、光。集中状態が途切れ、目を開けられない状態での魔術行使は難しい]
キラー!
[何が起きているのか把握できない状態で、みなみは咄嗟に自らのサーヴァントを呼ぶ]
そう、ですか。
この様子では今からも被害者が増えるかもしれませんが。把握されているのでしたら、私から言うことはもうありません。
失礼しました。私は、瀬良悠乎と申します。若輩ながら魔術師協会の一員ではありますが、今回はそちらから派遣されたわけではなく、一人の魔術師として、この聖杯戦争に参加いたしました。
……それでは、帰ります。サーヴァントが待ちくたびれて、外に出てないか心配ですので。
[もう一度会釈して、立ち上がる。]
[目くらまし。風もまだ止まないうちに放たれた閃光に、視界が奪われる。
みなみの声が聞こえた。叫ぶような声。
本能に恐怖が走る。風で自由を奪われ、そして視界を奪われた。ここから来る攻撃は……]
……ッ!
[壁面から腕を放す。相手の風も利用し、記憶を頼りに限界まで背後へ跳ぶ。風圧に翻弄されそうになるが、重心そのものを変化で制御する。
着地する。風が止む。効かない視界。身構える。
聞こえたのは、走り去っていく足音だった]
そうですね、今回の事を見る限り……どうも手段を選ばない者が居るようなので。
現在、このことについて何か特別な処置を下すかどうか……という審議が成されています。
近く、何か通達があるやも知れませんね。
それでは、貴女の御健闘を祈っておきましょう。
[
幾つもの路地を曲がり、通り抜け。
既に人がまばらに行き交う駅前の広場に辿り着いて、漸く、足を停めた。
]
――……はあっ、はっ……はあ。
上手く撒いた……みたい、ですね。
[荒い息を整えながら、周囲を確認する。魔術的な気配は、何処にもなかった。]
戻って、報告……するべき、でしょうね。
[
この夜に起きたことを思えば、あの男に対する屈託は禁じえない。
といって、まさか、サーヴァントとの交戦を報告しないわけにもいかなかった。
怪しまれない程度の早足で、*屋敷への道を急いだ。*
]
―新興住宅街・ワンルームマンション―
カチャリ。
[鍵を開けて、ドアノブを回す。
キィと乾いた金属音がして、ドアが内に向かって開かれた。]
……どうぞ。
何も無い所だけど。
[入り口近くの壁にあった、スイッチをパチンと入れる。部屋の蛍光灯が付き、室内を明るく照らした。
そこは、12畳ほどのフローリングのワンルームで、…言葉通り本当に何も無かった。
かろうじて、窓に厚めのカーテンと、一組のシングル布団、壁際に無造作に詰まれたいくつかの段ボールのみで。
例えて言うならば、『刑事ドラマで刑事が張り込みに使っているような部屋』に匹敵するほどの、生活感の無さである。 ]
[部屋の主は、先に室内に上がり、フローリングの床にぺたりと座ってから、何かに気付いたように少し複雑な顔をした。]
…何か途中で買ってくるべきだったわね。
せっかくのお客様だってのに、お出しするお茶すら無かったわ。
[当然、茶道具どころか、ヤカンすら無い。]
[効かない視界に、近寄る気配。マスターとしての感覚が、それはキャスターではなくキラーであることを告げる前に、それがキラーである事を本能的に感じ取った。次いで止まる風と、聞こえる足音。目に不自由さは残るものの、あの光源は姿を消したことがわかる。目を瞑ったまま、溜息が漏れた]
うー、怖かった……。
でも、それとは別に、ありがと!
[部屋の中は正に殺風景という言葉がぴったりだっただろう。
嗜好品どころか、生活必需品すらも欠けている部屋。
その中に、信長はゆっくりと足を踏み入れた。]
なるほど、な。
[そう、此処には色がない。
人が出すであろう己の色。
そして、その色とはその者が長くいる場所を程、色濃く残るものだ。
だが、此処にはそれがない。
強いて言うなら、無色。
それはそうだ、絵の具を出すチューブに何も入っていなければ、色などつくはずがない。
それは、つまり――]
からっぽ……ってことか。
[小さく、そう呟く。
そしてそのまま、床に腰を下ろした。
いつの間にか鎧は姿を消し、最初の着流しの姿へと戻る。]
別に茶なんざ良いさ。
そもそも、俺は客じゃねぇだろ。
これから命を預け合う仲間、戦友、家族……そういったもんだろ。
[審議、という言葉に表情は変えずに頷いて、]
教会の判断に、期待しておきます。
では。
[もう一度礼をして、荷物を手に教会を出る。日はまだ高く、空にある。先ほど降りたタクシーの姿は既になく、工場への道を*歩き始めた*]
……何か言った?
[信長の呟きに首を傾げながら、目の前で腰を下ろした相手を、物珍しげにじっと見つめた。]
鎧を、自由自在に出したり消したり出来るんだ。便利ね。
[こうしていると、英霊というより普通の人間にしか見えない。
『茶なんざいい』という信長の言葉に、なんとなくくすりと笑った。]
…うん、お客じゃない。
「マスター」と「サーヴァント」…よね。
[信長の言った、『仲間、戦友、家族』という言葉を否定するかのように、左手の令呪を見つめながら、やんわりと言い直す]
聖杯を手に入れる為に、お互いがお互いを利用するんでしょ?
貴方と私はそういう関係。
[そうきっぱりと言い放つ。]
私に質問や要望があれば言って。
貴方の力を最大限に引き出す為に、出来る限りの努力をするわ。
正直……貴方の力は桁はずれみたい。
私の魔力だと、貴方がどれくらい動けているのかわからないし…。
――南ブロック・廃工場――
[瀬良悠乎が教会から現れた頃、バーサーカーは猫に別れを告げていた。一通りにおいを付け終わりでもしたのだろう。
自由となった小さな命は、振り返ることなく駆けて行く。
バーサーカーは座り込んだまま、影も見えなくなるまで見つめた。見つめながら、マントから取り出すのは再びの刃。]
それでいい。
[猫に帰るべき家があったのか、バーサーカーには知りようの無いこと。もしかしたら、帰るべき場所もなく、独り無残な飢え死にを迎えるかもしれない。
それでもバーサーカーは見送った。止めることはしなかった。
立ち上がり、剣を握ったまま廃工場の奥へと向かった。]
鎧も結局は俺の魔力の塊だ。
その流れを遮断してやれば消えるってわけだ。
[ああ、ちなみにコレも同じな?と着流しを指差す。
しかし、その後のアカネの言葉を聞いて不機嫌そうに肘をついた。
そして、何かを振り払うように頭を掻いた。]
……粋じゃねぇな。
そういう言い方やめねぇか。
ならアレか。
俺が魔力が足りねぇから更によこせと言えば、そこらの人間を攫うか閨を共にでもするのか?
そういう取引じみたの俺は好きじゃねぇな。
[不機嫌そうな様子の信長を、むっとして睨み付ける。]
粋とか……知らないわよ、そんなもん。
あんたの美学を、私に押し付けられても困るの!
ええ、私はこの戦いに勝つ為にここに居るんだから、その為には
……何だってするわ!
(それに…)
[あの時見せた、一瞬の狂気の目を思い出すと、体がぞくりと震える。あれは、何だったんだろう。]
…宝具って、使う度にあんなことになるの?
−未明 西ブロック・蒲生邸−
[仮眠していた延は、令呪の繋がりからキャスターの魔力行使を感知して目覚めた。]
愚か者めが……。
[キャスターの気持ちとは裏腹に、先ほどの行為によって二人の回路(パス)は当初より強固なものへとなっていた。その繋がりから、物理的な距離をおぼろげながらも感じ取る。]
恐らく今から駆けつけたところで間に合うまい。
……大人しそうな顔をして、俺の“楽しみ”を奪うとは、な。
[どこか嬉しそうに、くく、と笑った。]
……お前、生きてねぇな。
[ポツリと、そう呟く。
死んではいないかもしれない。
だがそれは……生きている事にはならない。
そう、"死んでない"と"生きている"は同義語では無い。]
だが、それを今言うべきではないのかもしれない。
そう考えて、喉まで出そうだった言葉を飲み込む。]
宝具……か。
[改めて考えると、あの時の自分は異常だった。
己の宝具、確かにそれは"知っている″。
どのような性能かも理解している。
だが何かがおかしい。
そう、そうだ…俺は…。
……っ。
[再び頭痛。
そしてその頭痛が治まると同時に疑問は消えていた。]
嗚呼、そうみたいだ。
あの宝具は俺の能力を爆発的に高めてくれるが、その代わりに使用を続けるとあのような状態になる。
更に、使用の解除は俺の意思でできない……。
[教会を出てしばらく。もう少しで廃工場が見える、というころ。信号待ちをしていた時だった。]
猫か。
[向こうからやってきた猫が、道路を渡りだす。とすぐ後に、道路の中ほどでその足を止める。見れば、別の稼動している工場からやってきたらしい、トラックの姿。
目をそむけた。何もする気はなかったのは一瞬前まで。]
Остановка!
[発した声と同時に、トラックが動きを止める。駆け寄ってくる猫に、手を差し出すと、何事もなかったようにトラックが通り過ぎて行った。]
助けるつもりはなかったのだけど。
[信長の呟きに、思わず顔がかあっと熱くなる。]
……あんたに、あんたなんかに私の何がわかるって言うの!
[膝の上に置いた手を、ぎゅっと握る。その手はわずかに震えていた。]
(―もう、大事なものを失うのはたくさん)
(ならば)
(…そんなもの、最初から、持たなければいい――)
……?
[信長の、続く言葉に不穏な空気を感じ、思わず顔を覗きこむ]
…解除、できない?
[相手の言葉を繰り返す。思わず、爪を噛んだ。]
いくら強力な宝具でも、…それでは意味が無い、わ。
[まさか、使用する度に令呪を行使するわけにはいくまい。無理して使ったとして……]
(あと、一回? それとも…)
[一つ減った令呪を見つめる]
……おいで。この辺りは危ないから。
[猫を腕に抱くと、道路を渡る。猫の餌は買っていなかったと思いながら、廃工場までくると、中へと入った。
荒らされた形跡もない。]
バーサーカー、今戻った。
服と食料と……それから。
[荷物をソファの上において、それから腕から猫を下ろす。]
[廃工場の中は影とは言え、涼しいとはいい難かった。
うだるような暑さが篭り、むしろ風が自由に吹く外の方が涼しいかもしれない。陽射しを差し引けば、だが。
廃工場を支配する影は静かだった。
よく見れば、端に寄せられた器具の中、影で沈む用済み達の中に、酷く打ち壊されたものがあった。
しかし猫は人の知覚より鋭敏に感じ取った。
少し奥まった場所。器具と壁との間。
壊れた窓に腰掛けたバーサーカーがそこにいた。
第一にはマスターの声に、振り向かず。
第二には猫の声に、振り返る。]
……奇妙な縁だ。
お前の帰る場所は、ここではないだろうに。
[呟きは小さなもの。
ただ、それはいつもマスターにかける、どこか皮肉めいて棘のあるものではない。安堵したような、呆れたような。
日溜りに浮かぶ新緑に似た穏やかさがあった。]
―― 古美術店・居間 ――
[左之助は、ソファに腰掛けながら店内で見つけた小刀で割り箸を削っていた。]
へっ、まさか隊服を見てここまで動揺するとはな……。
[新撰組の事を考える時、左之助の心は愛憎入り混じった複雑な心境に満たされる。
それは、左之助が自身の全てを費やし、同時に他の全てを犠牲にした組織だからだ。
その目的は徳川幕府を守る事、そして士道を貫く事。
そして左之助は士道を貫く事を重んじていた。
……だが幕府が倒れ、武士がいなくなった今、あれほどこだわっていた士道が一体何だったのか解らなくなり、省みる事の無かった家族への悔恨だけがふくらんでいる。
気づくと小刀で削った割り箸が、長めの楊枝へと姿を変えていた。
左之助は以前からそれを「高楊枝」と名づけ、自ら好んでくわえている。
だが、「高楊枝」と言う言葉は、悠然と楊枝を使うことを意味し、本来「高楊枝」と言う名の楊枝は無い。
何故自身がそのような事を好んでいるのか、左之助自身にも良く解らなかった。]
[
屋敷に辿り着いた頃には、既に夜は明け、陽が昇っていた。
途中、商店の連なる大通りの近くで、何人もの死体が発見されたのだと噂する中年の女たちの立ち話を、耳に挟んだ。
――……そういえば、死体の始末を忘れていた。
というよりも、わざわざ直接"殺す"必要などなかったのだ。
第二要素(たましい)と第三要素(せいしん)を喰らうだけで――存在そのものを失った人間は、抜け殻となって死ぬのだから。
あのような命を受けて、冷静さを失っていたのだろうか。
現界してから幾度目になるかも判らぬ溜息を吐いて、主の部屋へと続く扉を、小さく叩いた。
]
周辺の探索から、ただいま帰還しました。
幾つか報告があります……入っても宜しいですか、マスター。
へっ、くだらねぇ。
今はそんな事考えてる場合じゃねぇのによ。
[楊枝を手に、左之助は自嘲気味に笑う。
今考えるべき事は、聖杯を手に入れるため何をなすべきかと言う事である。
左之助は抱えていた煩悶を、心の外へと*追いやった。*]
[しかし、それは一時の幻のようなもの。
先ほどは隠した剣も、今度はマントの中へ戻さない。
猫も何事かを感じ取っていたのだろう。バーサーカーに近付こうと歩を踏み出したが、途中で止まってしまった。
まるい瞳がじっと窺う。
壊れた窓の桟に座る仮面を。
仮面は見つめ返すことをやめ、外へ視線を放った。
同時に、桟から降り、マスタ−へ歩み寄る。]
分かりはしない……だがな、想像はつく。
[震えてる手に視線を落として、そう呟く。
きつく握り締められ、震えてる拳に指先で触れる。
確かに、今言うべきではないのかもしれないが。
それでも、背中を押すぐらいはいいだろう。]
震えてるぞ。
誰よりもアカネ自身が"生きたい"って、叫んでるんじゃないか?
自分の内の風に耳を傾けてみろ。
それに素直に乗れば、周りから奇異の目を向けられ"うつけ"と言われる。
だが、乗りたい風に乗り遅れた奴はな……間抜けって言うんだ。
ああ、解除ができない。
その先にどうなるかは……俺も"知らん"。
[そこで静かに目を瞑る。]
だから、あの宝具は極力使わねぇ。
何よりもお前が危ない。
ただし……あの宝具の効果。
それ自体は俺のステータスの殆どをA相当にしていた。
使えば確実に有利になる。
……その事実だけは揺るがない。
[ノック音、続けて可憐な声が聞こえた。どこか落ち込んだような声色とは逆に、延の心は躍る。]
構わん。入れ。
[機嫌の良さそうな声で、短く答えた。]
縁? その猫を知っているのか。先ほどトラックに轢かれそうになるところを拾った。助けるつもりはなかったのだけどな。手が出たのはバーサーカーの所為という事か。
[ふ、と自嘲気味に笑みを作る。]
教会に行ってきた。それと、ニュースで見た件だが……恐らく、あれを起こしたのはサーヴァントだろう。
日本人ではない、美しい女性がいたそうだから。実際に事件に関与したのか、推測でしかないが。
バーサーカー、お前も退治した時骨抜きにされないようにな。
―未明 中央ブロック・ホテルの一室―
[今後の作戦と方針に関する相談を終え、少年は窓に映る己の姿をぼんやりと眺めていた。黒のスラックスに白いTシャツ、薄手のジャケット。どうにか不自然ではないと言われはしたが、何度も裾を折り返したそれらの寸法はどうみても大きすぎた]
ヒジリも、適当な余裕はみてくれていたのでしょうが……矢張り、想定していたのとは違ったのでしょうか。此度の聖杯戦争の進行に関してと同様に?
[先ほどの密議の途中。机上に広げて確認していた地図の上で、異変が起こった。流廻川、と記された区域の一部だけが突然収縮するように歪み、数瞬の後にはまた元通りの状態に戻ったのだ]
サーヴァント同士の激突――恐らくは宝具の使用による重力異常の観測……よくは判りませんが。ともかく、既に少なくとも二騎のサーヴァントが戦闘を始めていた、ということですね……。
[その現象を解説された時と同じ言葉を、魔術使いの眠るベッドに投げて扉へと向かう。廊下を通り向かう先はエレベーターホールではなく非常口。地上三十階の高層から、眼下に広がる町並みを見下ろした]
[拳に触れられ、抑えつけたはずの感情がこぼれてしまいそうになる。]
…やめて。
[かろうじてそう呟く。]
(どうして…)
[どうして、この男は自分を見捨ててくれないのだろう。
全身、「棘」のようになった自分。誰もが、触れるはずは無いと思っていたのに。
弱い自分が出てきそうになるのを、頭を振ってこらえた。]
…どうなるかは…わからない。
[宝具について、告げられた言葉を噛み締めるように繰り返す。]
…私の事は気にしなくていいわ。
そう、それだけの力があるってわかっただけでも、充分。
後は…戦略次第かしら。
[微かに微笑む。]
私の所為、という言葉が何を意味するのか分からないが。
今はその件については構わない。
私は逃がした。その時に私の……それとの縁は切れた。
だが、こうして君に命を救われ、戻ってきた。
それだけの話。
故に、私にはもう関係の無いこと。
[自嘲の笑みに返した言葉は、どこか突き放したような言い方。
猫は見上げていたが、決してバーサーカーは見下ろさなかった。
それどころか、マスターの言葉に気配を硬くする。]
サーヴァントの仕業、か。
どのような過程でそう結論付けたかは知らないが、君がそう報告する以上は、それなりに確かな情報なんだろう。
[服とやらを購入したらしい袋に興味を移す。]
[剣をくるりと回せば、猫が驚き身を跳ねさせた。
掌が切れることも厭わず剥き身の刃を――それも複雑に欠けた刃を握る。袋へ向ける先は柄。
先端に引っ掛けて、持ち上げた。]
…………。
[服、というものの知識はある。
だが残念ながら、それが必要な理由は理解出来ていなかった。
滴る血に仮面を震えさせることも、声を漏らすこともない。
仮面は、微塵も揺らがない。]
[刃を握る力が強まる。
骨の音がごり、と鳴った気がした。]
…………女。
[残念ながら生来、縁の無い話題だった。
いや、一人いたと言えばいたのだが――。
ちらと少女を一瞥した後、また袋の中へ視線を戻した。]
どうとでもなるさ。
[
心なしか、弾んだ声。
上機嫌になる要素など、果たして、何処にあったのだろうか。
昨晩の態度は、召喚の疲労によるものだったのだろうか。
それとも、最弱とされるキャスターを召喚したことへの苛立ちだっただろうか。
いや――この主は、自分がキャスターだと答えた時も、英雄かも怪しい名を名乗ったときも、落胆の色だけは見せなかった。
他にどれだけの欠点があろうとも、そのことにだけは、感謝している。
]
――……失礼します。
早速ですが――……夜明けの直前、敵サーヴァントに捕捉され、戦闘状態になりました。
[
淡々と、されども明確に。
戦闘に至った経緯、戦闘の経過、それらを朗々と語り終えて。最後に、思い返したように付け加えた。
]
それと……相手のマスターが、サーヴァントをこう呼んでいました。
……キラー、と。
[
そのあとに。
マスターの制御が完全ではなかった様子から、
バーサーカーの可能性もあるという私見を付け加えて、口を噤んだ。
]
[微かな言葉と、振られる頭。
その様子に、これ以上は踏み込むべきではないと考える。
もっとも、今は……だが。
触れていた指先を離す。]
何でもするってんなら、俺を信じろ。
悩みとばっか付き合うぐらいなら、俺と付き合え。
[な?と最後に笑った。]
気にしない訳ないだろ。
だが、戦略次第というのには正しい、な。
15人目、平 芽祈 がやってきました。
平 芽祈は、村人 を希望しました。
−教会−
[コトリ......小さな音とともに、扉が開く。聖堂から奥の事務室に入ってきた"聖杯戦争の監督者"を見つけ、お盆を片手に近寄る。]
お疲れさまです。
いよいよ、聖杯に選ばれし者たちが動き始めたのですね。
[そのまま事務椅子に座った監督者の前に、湯気をたてているカップを置いた。]
どうぞ、召し上がれ。
―未明 ホテル三十階・非常階段―
[次第に明るみ始めた東の空。駆逐されていく夜の闇。
夏の最中であれば尚更、その変化は急速だった]
聖杯戦争は既に始まっている。この街のどこかで、私たちの他に六組のマスターとサーヴァントが、心に秘めたる願いを叶えようと望んで――……風?
[轟、と旋風が吹き抜けていった。空を吹き渡る強風とは異なった、地上からビル群を叩きつけ揺り動かすような勢いのある風。ジャケットの裾がばたばたとはためく。少年は顔を覆った腕の隙間から、その源を見定めようと瞳を細めた]
そう。縁はなかなか切れるものではない。現に私はその猫を助ける気になった。
それが、ここでバーサーカーが猫と縁を築いたことによるものだとしたら?
どちらにしても飼うつもりなどないのだけど。ここは仮の宿に過ぎないし、面倒を見ていられるほど暇でもない。
ああ。今度教会にでも預けてこようか。
事件の犯人については、実際に発見された場所まで行けば犯人がどちらなのかは割り出せよう。今は、状況から見てサーヴァントの仕業だといってるだけだ。どちらでもやることは変わりない。ただ、サーヴァントであれば……キャスターか、それか魔術を使うサーヴァントだろうな。
[服を見るバーサーカーに対し、やや語調を和らげる。]
それを着ろ、と強制するつもりはない。だが、バーサーカーのその格好はこの時代において目立つことはわかってほしい。何よりその仮面だ。念のために帽子も買っては着たが……。
[身に付けそうもない、と思い肩を竦めた。]
ああ、ありがとう芽祈君。
[置かれたカップを手に取り、礼を言う。]
まったく……損な物だよ、監視者なんてね。
悲しき中間管理職、いやこれはもはや末端か。
[そう呟いて一口飲む。]
上の審議によっては、参加者全員に通知をしなければいけないが。
[そこで言葉を切る。
そう、今回の聖杯戦争でもう一つ不審な点があるのだ。
どうしてそのような事になってるかもわからない。]
――何故、6体なんだ。
[『信じろ』という言葉に、顔を上げる。
そこには男の、からりとした笑みが見えた。]
……。
[思わず、何かが口からこぼれてしまいそうになったが―]
そうお嘆きにならないで。
ここの果たす役割は、聖杯戦争の黒子みたいなものなのですから。
さきほど、マスターがおひとり来ていましたね。もう、参加者の把握も済んだ頃合いなのかしら。
[そう話しかけながら、続いて、クッキーが乗った皿を事務机の上に置いた。]
あ、こっちは私がさっき焼きました。お好きですよね?
バタン。
[どこか別の家の扉が閉まる音が廊下側から聞こえ、はっと意識が覚醒する。]
……っ。
[自分は何を口走ろうとしたのだろう。
慌てて立ち上がると、早口で捲くし立てる。]
…ご心配、ありがとう。
あんたにそこまで気遣われるほど、弱くは無いつもりだけどね!
[そのまま、足音も荒く、窓際のシングル布団まで歩き、毛布と枕を掴むと信長に向かって投げつけた。]
もう、体力の限界だから寝るわ!
…それ、あんたの分の布団!
一組しか無いから、今日はそれで我慢してちょうだい!
それとも、お殿様はこんな固い床じゃ寝れないかしら?
[猫は足元に擦り寄ろうとしている。
掌から血が滴ろうとも、剣を握ろうとも。]
……………。
好きにさせておけばいい。
居住は、自身で勝手に選ぶだろう。
[どのような心情を以って言ったのかは分からない。
ただ言葉の終わり、ほんの少しだけ仮面が猫を向いた気がした。]
キャスターか。
……正直なところ、今はまだ戦闘は避けたいな。
アサシンとキャスター。両者は搦め手を主にする者だろう。
控え目に考えても、私と相性が良いとはとても言えない。
他のサーヴァントと交戦「させる」か。
或いは――――炙り出すか。
[袋の中から服を取り出す。ジーンズとシャツ。
どちらも馴染みがありようも無いものだ。
仮面は真剣に二つを眺める。]
[その間にも、刃を握る手から血は滴る。
足元で猫がちょこまかと避け、それでも興味は尽きないらしく、恐る恐る前足を伸ばしたりしていた。]
これは…………。
…………私が着ると、見苦しくはないか。
[服を装着した自身を想像する。
それがあまりにも奇天烈だったので、すぐにイメージは崩壊した。音を立てて崩壊した。]
帽子だけなら考慮しよう。
どのような帽子だ。
[自分が柄で吊っている袋の中には無いようだ。]
[そう、今回観測されたサーヴァントの出現回数は"6回"。
なのに既に聖杯戦争は開始されているのだ。
過去の聖杯戦争で7体そろった時と同じ現象が起こっている。
――ああ、何か嫌な予感がする。]
そう…ですね。
裏方は表舞台の演技によって駆けずり回る物と決まっていますから。
[そして差し出されるクッキー。
それを手に取り……。]
……。
[――ああ、何か嫌な予感がする。
口へと運んだ。]
[突然の反応に呆気にとられた後、笑いをかみ殺す。
なるほど、案外わかりやすい奴なのかもしれない。]
別に問題はねぇ。
昔はよく城を抜け出して川原あたりで寝てたもんだ。
ただなぁ……。
[手で枕をいじりながら会話を続ける。
この時代の枕は彼にとって風変わりなのかもしれない。]
英霊は眠る必要ないぞ?
ほう、相手はサーヴァントだったか。
[興味深い、と呟く。
その後も戦闘の様子を満足気に聞いていたが、キャスターの報告を最後まで聞き終えた時には、当初の機嫌の良さは消えていた。]
……どこまでも愚かな女だな。一人で事に及んだまでは褒めてやろうかとも思ったが、獲物の息の根を奪うことなくおめおめと逃げ帰ってきたと言うのか。
いいか、よく聞け。戦闘とは己の全てをぶつけるものだ。中途半端な覚悟で臨むものではない。お前の能力の全てを戦闘に費やせ。
――俺たちは、そのために存在するのだ。
[クッキーを口に入れたのを確認し、満面の笑顔になった]
きゃはっ、くっきー(九鬼)がクッキー共食い〜〜☆☆☆
[嬉しそうにはしゃぎながら、走って事務室を*後にした*]
[バーサーカーの足元でちろちろと動く猫に苦笑する。どんに帽子だと聞かれて、別の袋から麦藁帽子を取り出した。]
その仮面が隠れそう、というとこの類しかなくてな。
[バーサーカーへと投げてよこす。]
……それと。あまり体を傷つけるな。それを修復するのにも魔力は使うのだから。
[帽子の入っていた袋から、食パンを取り出してバーサーカーへと見せる。]
食事は、一応パンを買っておいた。飲み物がほしければ紅茶か珈琲かどちらか入れよう。私もちょうど飲みたい時間だ。
え。
[信長の返答に、きょとんとした顔になる。
相手のあまりの人間臭さに、この次元を超えた不思議な繋がりに関する事が、すっかり頭から抜け落ちていたのかもしれない。]
…ひ、必要無くても、私だけぐーすか寝てたら居心地悪いじゃないっ!
こういう時は空気読んで、余計な事言わずにおとなしく寝る振りでもしてみたらどうなのっ!
[顔を真っ赤にして怒鳴る。
自分の勘違いを正して謝る気は、もはや彼女には無いようだ]
[完全に忘れてやがったな…と心の中で呟く。
口に出さないのはせめてもの優しさだ。]
寝たふりしてなにしろってんだ。
あれか、お前の寝顔でも見ながら寝息でも聞いてろってか?
暇な上に無駄でしょうがない。
[明らかに照れ隠しで怒鳴っているアカネにため息をつく。]
まぁ、閨を共にするってぇなら是非もねぇが。
この村では、時間切れで自動的に追い出されることはありません。
ただし、「村の空気を読んでいない」「村の決まりごとを守っていない」などの状態にあると判断された場合、村からキックされる可能性があります。
[はじまりは唐突だった。
「これがその人である」
たった一言で羊飼いをしていた少年は神に選ばれた。
無垢な少年は何も知らず、疑わず、神に油を注がれ成長し
奏でる音で人々を癒し、また神に捨てられた王さえも救った……]
[戦いとはおおよそ無縁思われたダビデ。
その転機はまたしても突然だった……。
――巨人ゴリアテ――
イスラエル軍にかつてない恐怖をもたらせた豪傑。
彼に前に立った戦士達は怯え竦み力を発揮できぬままその生涯を閉じていった。
そんな男に挑んでいったのが兄弟の陣中見舞いに偶然現れたダビデだった]
……なんで、あんたと閨を共にしなきゃならないわけ…
[あまりの怒りに、肩がぷるぷると震えた。
数分前に、「何でもする」と言った事は、時空の彼方に消えたようだ。]
じゃあ、どうとでも好きにしたらっ!?
鍵は置いておくから、外に行きたきゃ行けばいいわっ!もう知らないっ!
私は疲れたから、もう寝るわ!おやすみっ!
[ふいっと窓の方を向くと、そのままマットレスの上のシーツをはいで頭から被って*寝転がった。*]
[誰もが竦み震え上がった豪傑に対して放った言葉に周囲は驚きを隠さなかった。
「神が味方であるならば、誰が私たちに敵対できますか?」
そう、ダビデは信じていたのだった。
神に選ばれた自らを……
そして
自らを選んだ神を……
故にダビデがゴリアテを倒すのは必然であった。
激闘の末、ダビデはゴリアテの剣を奪い、その首を刎ねた。
見事、信仰の力を持ってゴリアテを倒したダビデはイスラエルの英雄となるのだった]
っと。
[投げて遣された物体M。
それが麦わら帽子、という知識はあった。
受け取る手は、血に塗れてはいない方で。
だが、仮面を隠すという意味合い上、そう小さな麦わら帽子でもない。通常のものよりツバが大きいらしかった。しっかりと受け取るには両手が必要だった。
結果、もう片手を――血に塗れた手で、添える。]
ああ。
[仮面は認める。マスターの言葉と、醒める程の緋色。
――彼は今に至ってようやく気付いたのだ。
掌を、己の刃が深く刻んでいたことに。]
この程度であれば、修復の必要もあるまい。
それに――――、忘れてしまっては困る。
[圧倒的なまでの死の臭い。生命を司る赤。
刃を肉を刻み、遅れて痛みが己を刻む。]
[そこで目が覚める。
夢の世界から現実へと引き戻された]
今のがダビデの物語か……。
信仰だけであんな大男に挑む、か。
僕にはとても出来そうにないね。
一般人にできない事をやるからこそ、彼は英霊なんだろうけどね。
[体を起し洗面台に移動して顔を洗う。
冷たい水が寝ぼけた頭を覚醒させてくれるようで心地よかった]
[
確かに、叱責された通りだった。
荒れ狂う風にて動きを封じ、眩い光球を投じて視界を奪い。
そこまで優位の状況を作り上げておいて。
そこで選んだ行動が、敵を屠るための呪ではなく、背を向けて逃げることなどとは。
自らの主が何故に怒るのか、戦いを終えて冷静に状況を判断してみれば、よく理解できた。
]
――申し訳……ありません。
[
唇を噛み締めて、ただ、それだけを口にして、頭を垂れた。
言い訳も反論も、出来なかった。
交戦したものとは別のサーヴァントの気配を察知していたことすら、口に出せなかった。
]
[余りに愉快な反応に、笑いを必死でかみ殺して膝を叩く。
なんとか落ち着いて視線を前にやると、既に寝息を立てている茜の姿があった。]
……疲れてたか。
無理もねぇな。
[気を張る必要もなく、無垢な表情で眠る茜を暫し見つめた後、窓から夜空を*見上げた*]
―未明 ホテル三十階・非常階段―
この近くでも、戦闘が――誰?
風霊を帯びた英霊か、あるいは魔術師の――?
[少年の体内を循環する魔力が両眼へと集中する。能力(スキル)としての千里眼を持たずとも、アーチャーの役割(クラス)に与えられた基本特性。瞳孔が拡大し捕捉する光量を増大。網膜が活性化し光景を分析。広角で捉えた視野が一点に絞られていく]
……三人。三者のにらみ合いではなく、一対二?
……どちらかが単独で行動しているのでしょうか。
[呟いた時。凝視していたビルの谷間で、強烈な閃光が生まれた。眩む視界に目を閉じつつ、魔力の性質を感じ取る。攻性の魔力ではない。だがその実行速度と規模は人のものと言うよりも――]
――サーヴァント、恐らくはキャスターか。
……逃げて、いった?
[それを境に、戦闘に発展するかと思われた小競り合いは終息し、辺りには静寂が戻った。暫くの間警戒を続けても、此方へ向かう魔力の動きは感じられない]
……互いにここは様子見、といったところですか。
[一人を殺し、二人を殺し。
体は冷たく、瞳には輝きを映さず。
幾度となく重なった屍の山に、空白が挟まる余地はなかった。
死のみが蔓延る世界を、――を繰り返し殺すその無惨を。
決して、忘れ得ぬように。]
――――。必要は無いが、マスターが必要であるなら付き合おう。
[麦藁帽子を目深にかぶる。
完全に、とまではいかなかったが、一目見てその異なる仮面を目にすることは難しいだろう。ただ――頂点に僅か、付着した血液だけは気付かなかった。
剣を回し、握る箇所を刃から柄へと戻す。
まだ、此度の戦争では誰も殺していない。
されど、既に刃は血に濡れている。
既に刃は――絶望の味を知っている。
掌に滲み出た血を振り払う。
赤は飛沫となって、どこか影の中へと堕ちた。
マスターの背を追う麦わら仮面の後ろを、猫もこっそりついて行った。]
[顔を洗い終え身嗜みを整えた。
つづいて、魔術回路に魔力を通し始めた。
全身の回路が稼動し始めて薄い重力の結界がホテルの壁を越えて一帯を包んだ]
うん? 弱い魔力に当たった?
軽い朝の運動のつもりが予想外だね、これは。
[回路の調子を調べるつもりで軽い重力結界を展開したところ、思わぬ拾い物があり喜んでいいのかと少し苦笑いする]
ふぅ、魔力の方は問題なし。
だけど、使い魔を付けられてるのは少しよろしくないね。
[溜息をつきながら荷物を纏めて部屋から出て行った]
[ロビーに到着する。
机においてある時計が指し示す時間は7時を少し回った辺りだった。
手短にサインをしチェックアウトの処理を済ませる]
さて、使い魔を潰しに行こうかな。
[回路に魔力を通して軽く活性化させながらロビー外へ歩き出していった]
[項垂れるキャスターを冷たく見る。]
謝罪が欲しいわけではない。反省があるのならば今後の行動に活かせ。
お前たちサーヴァントは聖杯戦争を戦い抜き、勝利するために現界しているのだろう。つまり戦闘こそが今のお前という存在の本質であり、意義だ。
人間ごときと同列で語られるのが不愉快なのかも知れんが、本質的には同じではないのか。
[当たり前の事を聞くな、とでも言いたげな表情で質問に答えた。]
――……はい、仰ることは御尤もです。この私に関しては、仰るとおりです。
戦うために召喚された、サーヴァント。
その私がリスクを怖れ、打倒し得たかも判らぬ相手に対し、逃げるためだけに全能力を費やした――お叱りを受けて、当然です。
[
項垂れたままで、叩きつけられた言葉にと耐えて。
それでも、その微かな違和感について、自分でも信じられぬほどに食い下がった。
]
ですが――……貴方は、違う。貴方は、サーヴァントではない。
貴方が命じたのは、情報収集。仮に私が退いても、敵についての情報を持ち帰れば、充分以上の成果。
それでいて、敵サーヴァントとの交戦にて、全力を尽くさずして退いた私を、我が事のように責める――……と、いうのは。
――駅周辺――
[キラーに礼を述べたのは、サーヴァントへと対峙する前に、みなみに対し確認を取ってくれた事だった。それが例え形式的なものに過ぎなくても、嬉しかったのは否めない。漸く復帰した視界にキラーを捉え、伝えておくべきことを思い出す]
まさかこんなに早くに戦闘になるなんて思ってなかったから言ってなかったんだけどね。
わたし、こういう、直接的な戦闘用の魔術は使えないの。
自衛くらいなら、なんとか。
"その前"に、なら、役に立てるとは思うんだけど、ね。
―午前 中央ブロック―
[次第に活気を増していく街並みの中、少年は一人歩いていた。
オフィスビルの高さ、所々にあるコンビニの店舗、街行く人の服装にと、次々に興味の対象は移り変わる]
これが…ヒジリの居る時代。ふむ。
民草はさして不幸そうでも幸福そうでもなく。
いや、どちらかというと幸福な者の方が多いのでしょう。
されど……
[熱い陽射しが濃い影を作る。彼の生国と同じように。だが大気の含んだ湿度はじっとりと肌を包み、異郷なのだと思い知らせた]
[ホテルの周りを探索すると二羽のカラスと一匹の鼠の使い魔がそこには存在した。
鼠をしとめカラスの使い魔の片割れを仕留めた
残る一羽に向けて開いた手を向けた]
Desarrollo de gravedad
[紡がれた呪文は飛び去ろうとしたカラスより飛翔を奪い取る。
カラスは、その羽と体を地面へと縫いつけられた]
うーん、使い魔にしても上等だ、危うく逃げられる所だった。
キャスター、と考えておくべきなのかな……?
[地面に縫い付けられたカラスを足で踏みつけ無力化した。
動作の最中も考えるのは仕掛けた相手の考察だった]
……構ワなイ。いヤ、むシろ私ノ獲物ヲ奪うナ……。
[戦闘の収束と共に、気配は断っていた。ベースであるアサシンの能力。便利な身体だと認識する。
逃げた者は追っても捕まるまい。もし追いつけたとしても、アレだけのコトをしでかせる相手である。罠を張られていないほうがおかしい]
…………。
[冷静な獣のように……キラーは気づいていないが、これは本能の内にある臆病さを起因とする判断である。
そして、それ故に警戒心が強い]
……しテ、”その前”とハ?
[上方。ビルのはるか上階を見上げ、キラーはみなみに問いかける]
/*
そろそろ独り言でも。
xaviと申します、恐らくはじめましての方がいっぱいだと思います。
皆様、よろしくお願いいたします。
キャスターの使い魔、さっくり倒しちゃったけど即席だから大丈夫だよね……。
そして、文章も 考えるのは(略)考察だった って日本語おかしいな。
[足を止め、深く呼吸する。大気に満ちる大源(マナ)の成分を吟味するように。息を吐き出した少年の表情は心なしか暗い]
……信仰心が足りません。この時代か、この地ゆえか。
[恋人同士らしき若い男女が傍らを通り過ぎていく。香水と化粧の香り。色彩の乏しい時代に生まれた少年の目には、その服装はいかにも華美なものに映った]
活動に支障を来たすほどではないとは言え――この世には物質的な欲ばかりが満ちているような気がしますよ、ヒジリ……。
[バーサーカーが来たのを見届けて、テーブルの上にパンと自分用のサンドイッチを広げる。紅茶用のお湯を沸かし、ポットに茶葉を入れた。]
残念ながら猫の餌はないな。パンでもやるか。
動物を飼ったことがなくて、何を食べるのか知らないんだ。
牛乳を与えるなというのは、聞いたことがあるが。
[少し考えた後、食パンを半分ちぎって食べられる場所においてやる。がっつく様子に目を細めた。]
[掛けられたのは、意外な言葉。救われたような気がして、すぐに、サーヴァントとマスターの関係はただの"利害一致"でしかないと言う記述を思い出す]
そっか、それなら良かった。その前、って言うのは、うーん、と、
[どう言ったものか考えあぐねていると、ふと、キラーの注意が上方に向いている事に気付く。つられて見上げれば、サーヴァントの出した偽りのものではなく、本物の太陽が頭上に姿を見せ始めていた]
……? 上に、なにかあった?
そうだな、キャスターならサーヴァントの魔力を辿って僕達の本拠地を探れても不思議ではないな。
[想定しておくなら一番最悪の事態にする。
仕事をする上で学んだ生きていくために必要な術だった]
さて、根城を移動したことを伝えておかないとな。
[携帯電話を取り出しコールを始める。
その動作は手馴れていて素早かっただろう。
数回のコール音の後、繋がった電話に話し出した]
聞こえているかい、デービッド?
昨日のホテル、どうやら捉れているようだ……。
次の根城が決まり次第、また連絡するから君は予定通り探索を頼む。
君のほうからなにかあるかい?
[簡潔に用件だけを伝えて相手の返答を待った]
[最初に感じたのは魔力ではなく、視線。それを注意深く辿る。どこにいるのかまでは分からない。だが、明らかにそれは……]
……アれト同じ気配。
[返答は、ぽつりと呟くように]
[麦わら帽子の下では、残念ながら猫を見ているかは分からない。
そして差し出された紅茶を口にする際。
男はテーブルに仮面を置いたのだ。
持った手に血がついていたからだろう。硬い仮面にも、麦わら帽子のてっぺんと同じく血が付着した。
但し微量。
仮面そのものが持つ、装飾の冷たい赤に違和なく溶け込む。
さらされたはずの素顔。
しかしバーサーカーは麦わら帽子を更に深くかぶった。
紅茶を口に運ぶ度に、輪郭らしきものは見える。
後少し、もう少し。
その「少し」は埋まらず、バーサーカーは紅茶を飲み干した。]
……飢餓が限界に達すれば、何であっても食らうだろうさ。
それに、別にこちらから残れと勧めたわけではないからな。
[言いつつも、仮面はがっつく猫を一瞥したようだった。]
―午前 中央ブロック―
[ジャケットの胸ポケットで震える機械。携帯電話というのだと、聖からは説明を受けた。これがあれば離れていても直接会話が出来るし、必要な要件を文字で送る事も出来ると。互いの位置を調べる事も可能だと言われたが、さすがにそこまでは理解の及ぶ処ではなかった]
……っと。呼び出し、ですね。
[着信音ではなくバイブレーションでのコール。内ポケットから取り出し、数秒じっと見つめた。説明を思い出しつつ通話ボタンを押し、耳に当てた]
えっ!
[キラーの言葉に何度か瞬く。視力で捉えられる位置には何もないだろう。河原の時にしたように、しゃがみ込み、地面に手を触れる。けれど、先ほど風を起こし、太陽を空に出した魔力の記録が強く、他の物は察知出来そうになかった]
……何もないのが、どういうつもりなのかわかんないけど、偵察をしてるってことなのかな? 自分が手を下さずに人数が減ってくれるなら、ありがたいもんね。
……帰ろう、キラー。
朝は、わたしたちの時間じゃないよ。
[泡姫としても、魔術師としても、太陽が照らしている区域は行動し難い。立ち並ぶビル街に、露出の多い格好と残った香水が空しく感じられる。それと同じくらい、感知できないと言えど、キラーの存在も、みなみの手に浮かぶ、マスターの証も]
―午前 中央ブロック―
[機械から流れ出す聖の声。魔術具の一種だろうかと感覚を研ぎ澄ませても、魔力の流れは感じられない。だが、実際に今話している相手がマスターその人だということは理解できた。そして、話の内容も]
……はい。ええ、わかりました。幕屋を移すのですね。
朝方、この近くで魔術を伴った小競り合いらしきものがありました。
私はその近辺で何か痕跡がないか確かめてみようと思います。
――ひとまず、この近辺にはそれらしき存在は見当たらないように思います。相手によってはどうかわかりませんが――それはその時の事ですね。
では、行って参ります。ヒジリ、お気をつけて。
[そう続け、相手の声を待って通話を終了する。
脳裏に昨夜の現場の位置を思い浮かべ、歩き出した]
……女だからか。噛み合わんな。
情報収集は手段であって目的ではない。相手の真名やクラスなど知らずとも、倒してしまえば問題なかろう。
それと、サーヴァントでなければ全てを賭して戦闘に臨むのはおかしいか。お前は余程俺を否定したいと見える。
[キャスターの真意を理解できず、苛立ちを覚えた。]
[パンを食べる猫の様子を見ながら、サンドイッチを口に運ぶ。]
無邪気なものだな、動物は。
それで。
地形は把握した。どこかの馬鹿が一般人から吸い取り始めているのがどこなのか、把握しなくてはならない。
実害は少なくても、魔術師としてその行為を認めるわけにはいかないからな。
今夜、できるだけ探りたい。拠点がわからずとも、どこに流れているのか、方向くらいはわかるはずだ。
何か、意見は?
[言葉が返ってくるまで少しのラグがあった。
しょうがない事なのだろう、英霊の時代では考えられない物なのだから戸惑っても不思議ではない]
昨日の川原と別にか……。
ずいぶん派手に動くね、他の陣営は。
痕跡の方も頼む、しかし、無理はしないように。
それじゃ、また何かあったら連絡する。
[電話を切りながら他陣営の激しさに少し呆れる。
頭の中でプランの修正を考え始めるも相手の情報が無い状態では具体的な案は浮かぶはずもなかった]
[朝は、我々の時間ではない。そう言われて、ジョークの分かる者たちが一斉に声を挙げて笑う。
だが大半の中身は、今のこの場で笑う気になどならなかった]
……移動ハ、すべキダ。
[それだけ言って、キラーは路地のさらに奥まる方向、影の強い方へと足を向ける]
[
男の言葉に、僅かに困惑を覚えて。
そして、その違和感は――いまここで確かめておかねばならないものなのではないかと、口を開いた。
]
いえ――否定、などでは。
確かに、先の私の行動は、打倒し得たかもしれない敵を、みすみす逃すという、愚かなものでした。
――ですが。
この戦争において、直接対峙した敵を打倒するのは絶対条件ではない。
要は、最後の一騎として残っていればいいのですから。
……それを、マスターたる貴方が知らぬはずはない。
だというのに、貴方の言葉は――……。
[言葉を切って]
――……正面から敵を打ち破ろうという、そのためには手段を選ばないという――そんな気がするの、ですが。
[実害は少ない、という言葉にまた空気が止まる。
しかしそれも一瞬のこと。]
――――。
あると言えばあるが。今は必要の無いことだ。
尤も。
先ほど君が触れたが、相手がキャスターのサーヴァントであった場合、今の私達に妥当する術は無いぞ。
逆にこちらが感知されて、迎撃される可能性もある。
その想定はしているのか。
――中央ブロック――
[キラーが進んでいる道は、家に向けて一番近い道ではなかったが、ビルや建物が並ぶ間を縫うように帰ろうと思えば、その方向で間違っていなかった。キラーの持つ方向感覚に感心をしながら、その後を追い、そして、足が止まった]
……今日は間違いなくぶたの日だなあ。
[みなみの視線の先には、一人の少年。人込みにいたら、外見だけならば決して浮かない身なり。しかし、彼を取り巻く空気は、彼が只者ではないと告げていた。キラーに伝えるまでもなく、キラーはすでに察知しているだろう]
―中央ブロック・路地―
[日陰へと足を踏み入れる。急激に低下する体感温度。今朝方に巻き起こった颶風にかき乱されなかった、夜の残滓。この方向ではないと考えて引き返そうとした、その時だった――]
……影――いえ、闇。
[路地の向こう。
少年が立つのと同じ陰の延長上に、二つの姿があった。
一人は女。人間ではあるが幾ばくかの魔力を身に備えていた。
もう一人は――いや、それは『一人』と呼んで良い存在だったのだろうか? 曖昧模糊とした中にも禍々しさを漂わせる『闇』の印象を少年は思い浮かべた]
ね、どうするの。
[キラーにだけ聞こえるように呟く。聞くまでもないかもしれないけれど、と、心の中で付け加えた。それでも先ほど言った通り、会った人間全てを攻撃するだけが、聖杯戦争の勝ち方ではないことが伝わっている事を祈って]
ではバーサーカー。
他のサーヴァントだったとして、勝つ手立てがないと引きこもるのか?
確実に勝てる相手にしか、手を出さないとでも?
もっとも、私とて勝機のない戦いに赴く気はない。そのための情報収集は行う。それに。キャスターに勝てないなら、そのマスターを討てばいいだけのこと。そう簡単に離れるとは思わないけど。
どのサーヴァントが相手であろうと、英霊である以上強力なのに間違いはない。
そしてバーサーカー、お前も、そのサーヴァントの一人だ。それを忘れるな。
[今日は、なかなか愉快な日だ。視界に映る少年を見て、キラーは笑む。
だが、相手は自らの欲求を満たす獲物ではない。そのことには落胆を禁じ得なかった。さっきの女の方が……あるいは自分の横に並ぶ、自らを喚び出したこの女の方が、獲物としては相応しい]
……我々ヲ、見てイた者ダな。
[それでも、キラーは臨戦態勢を取った。
この状況。この身体に慣れておかなければ聖杯どころか、狩りすらままならない。それは、もはや身に染みて分かっていた]
―中央ブロック・路地―
[全身に微弱な電流が走る感覚。戦闘に向けて高揚していく感情を自らの内に感じ取る。眼前に在るは望むべくもない打ち倒すべき敵手――役割(クラス)も特性(ステータス)も見抜くことは不可能。
だが、自らとは根本的に相容れない属性の持ち主であろうと想定する]
汚らわしい、闇色の存在よ。
――そして、手綱の繰り手たる魔術師よ。汝は何を望むのか?
――――ク。
[小さく漏れた声は、笑い――だったのだろうか。
少女の作戦には穴がある。確かにある。
最弱と呼ばれるが故に搦め手に長けているであろうキャスターが、策謀を巡らすという意味で天敵であろう相手であったとしても。
まだ、打倒するために完全な作戦を考え付いていないとしても、彼女は事態を解決する為に散策に出るべきだと提案した。
そして、まだ召喚してそう時を経ていないサーヴァントに対して、はっきりと言ってのけたのだ。]
そうか。
いい答だ。マスター。
[剣に付着したままだった血を拭う。
麦藁帽子を少しあげて、仮面は己がマスターをまっすぐ見た。]
君の命に従おう。
そして、一つ君も誓ってくれ。
うー、と、とてもじゃないけど、同じサーヴァントとは思えない……。
[少年――とはいっても彼は自らが矮小な存在に思える程の力を持つサーヴァントに違いはなかったが――を眺め、呟きながら距離を一つ置く。キラーの彼に対する態度を見れば、この後の行動は見て取れた]
あなたも、単独行動が好きなのね。
[内部で魔力の流れを映像化しながら、アーチャーの問いを静かに聞く。その問いに、喉元で引っ掛かる何かを感じながら、本家の命を思い出して反芻した]
魔術師が魔術師として生きる以上、望むものはたった一つだけだと思う。
わたしはきっと、それを望んでる。
彼を汚らわしいと言うあなたは、さぞご立派な願いを持っているんでしょうね。
これから君が身を投じるのは戦いの場。
華麗なるものは何一つ無く、輝かしい軌跡すらないだろう。
彩りは血の赤、気配は死の臭い。
仮に私が倒れたとしても。
君は必ず、この戦争を勝ち抜くのだと。
なるほど、な……。お前は戦闘を本質とする存在でありながら、戦闘そのものを好んでいないようだ。内包する矛盾を自覚していないから、中途半端な行動に正当性を求めるのだろう。
先ほども言ったが、戦闘とは己の全てをぶつける行為だ。お互いが全てを出し切って後、己が立っているか、相手が立っているか、その結果こそが真実。痛み分けのような中途半端な結末などに意味は無い。
俺はな、キャスター。
[一瞬迷い、言葉を続けた。]
そういう世界しか知らんのだ。
[額の編紐を抜き去る。偽装の結界は未だ残したままだった]
…あなた、も? 汝は共に行動しているように見えるが。
[マスターたる聖に連絡を取るか否か。戦闘方針は一秒で却下。現れたサーヴァントは恐らくアサシンかバーサーカー。そして彼女の言葉からすれば、単独行動を本分とするアサシンである可能性が高かった。マスターの素性を知らせる訳にはいかない]
魔術師の女よ。ならばそのサーヴァントを駆って辿り着く『根源』に何を求めるのか。目的は手段を正当化しない。
全き手段によってのみ、全き目的は果たされるというのに。
[手の甲の令呪がじわりと熱くなる。
痕跡を探すうちにダビデが敵にあったのかも知れない。
だけど、向かうのは別の方向]
デービッド、悪いけど助けには行かないよ?
君は探索を約束した、そして無理はしないと昨晩約束した。
ならば、それを信じるのがマスターとして僕がすべき事だと思うんだ。
[聞こえる訳がない問いかけ。
見捨てるわけではない、切り抜けることが出来ると信じているからこその行動。
信頼こそが彼に力を与えると思ったから。
ならばこそ、自分は今出来る事をすべきなのだ]
それに、いざとなったら呼び出せるからね。
[手の甲に刻まれた令呪を手袋の上から指で触った]
……望ミ?
[それは聖杯を求める理由。改めて問われて……キラーは、それに対する答えを見つけることができなかった]
……望ミ。……私ノ望みハ……。
[ある。自分は聖杯を明確に欲している。そのためにここにいる。
だが、何を願う? 望みが何でも叶う聖杯に、自分は何を欲する?]
…………。
[げらげらげら、と誰かが笑った。
げらげらげら、と皆が笑った。
げらげらげら、と。それも笑った]
………………。
[無言のまま、キラーは肩口から頭を泡立たせる]
[心中に去来するはかつての過ち。部下から奪い去り我が妻とした女の幻影が、眼前の娘と重なる。魔術王ソロモンの母親―バト・シェバ。魔力による干渉ではなかった。少年の姿として現界しても尚、魂に刻まれた罪過が、直感を鈍らせる]
わたし達のことじゃないわ。
見てたんでしょ? わたし達以外にいた、一人で居たサーヴァントを。
[アーチャーが口を開けば開くたびに、心臓の音が強く、そして早くなって耳に届く。求めているはずの根源の先に何があるのか、そこに何を見出すのか。みなみはそれに対する答えを見つけることが出来ずに、視線が泳ぐ]
……。
じゃあ、あなたは何を求めてると言うの?
聖杯戦争が戦いの場だということは理解している。
それがどのようなものなのかも。
もう、10年になるか。魔術師として最初の戦いに赴いてから。そこに、綺麗な仕事などなかった。この手は既に、血に染まっているんだ。
だからこそ、この聖杯戦争における戦いは、それ以上のものになることも心得ている。
でも、その誓いに頷くことは出来ないな。
お前は、私が呼んだ。だから、私と共に聖杯を手にするよう、最大限の努力をしろ。倒れることは、許されない。
それでも倒れてしまった時は、その時に考える。
だが、どうしてその誓いを請う? バーサーカーにとって、私の願いなど聞いてどうなるものでもないだろう。
お前が倒れたなら、お前の願いが叶うことはないのだから。
[キラーの言葉が耳に届く。そういえば、結局聖杯に何をキラーが求めているのかを聞こうとして、そしてそのまま答えを聞いていなかったことに気付く。みなみは何処となく自分と同じ、揺らぐ響きを言葉に感じ取って、溜息をついた]
全き手段かあ……。
わたしはあなたみたいに、これが全い手段じゃないって、汚らわしいと言えるほど、彼のことを知ってるわけじゃないし、そんなに高尚な人間でもないよ。
何が全き手段なのかを常に正しく把握して、それを目的の為に使い続ける事なんて、出来ないしね。
ふむ。一対二の、ニの側は汝らだったのか。
[望み、と声にしたまま沈黙するサーヴァントから、戦場には似つかわしくない服装の娘へと視線を移す。強い眼光が彼女を射た]
私が求めるのは――贖罪だ。現世総ての人の罪の。
聖杯を用い、“世界の外側”――“いと高き御座”に居られる主の導きをこの世界に降臨させる。聖地を顕わし、罪に穢れた人の魂をすくい上げる。
それが私の願いであり、望みだ。
―中央ブロック・ホテル―
[ホテルに入るとすぐに部屋の空きを確認をする。
返答はYesだった]
じゃ、取りあえず二日間でお願いします。
それとルームサービスは必要ないです。
[事務的に会話をこなし契約を纏めると再び外へと向かった。
手の甲の熱は高まるばかりだったがそれを気にすることはなかった]
[人の頭で創り出した、巨人の腕。その腕を過去に振るったとき、頭は皆笑っていた。今回は笑っていなかった。
だがその少年の発した言葉に、その全てが哄笑した。皮肉に満ちた笑い声を上げた]
……罪……救イ……。
[それは、酷く甘美で。
そして、酷く馬鹿馬鹿しい響きだった]
罪……?
[驚いて、言葉を失う。罪など思い当たるものが多すぎて、彼の望むことが現実になった後のことを思うと鳥肌が立った。贖罪と救いに満ちた世界なんて――]
それが、本当にあなたの望むことなの?
それで一体何が得られるというの? あなた自身に何らかの大きな"罪"があるというのならわかるけど、そういう人でもなさそうだしね。
問いはそのまま返そう。
君にとって、私の望みなど知る必要の無いものだろう。
私にとって大事であるのは、我がマスターの気概があるかどうかだ。
関係性は既に決定付けられている。
私は君に呼び出された者であり、君に従う者。
覚悟の無さか、錯覚か。
いずれが欠けても、殺し合いを勝ち抜く強さは生まれない。
第一。
[席を立つ。
猫は既にご飯を食べ終わり、その場に寝転がっていた。]
君はマスター(主人)であり、私はサーヴァント(奴隷)。
君が事切れれば致命的だが、私が消えたとしても記録の上で処理されるだけだ。いや――記録にも残らないかもしれないが。
[例えるなら地図の上の記号。
例えるなら、「最小限に抑えられた被害」。
ただ言葉の上に纏められ、存在したのかしていなかったのかすら定かでは無い、ただの「その他大勢」。]
[闇色のサーヴァントが生み出した漆黒の巨腕。それが人の頭部の連なりで構成されていると知り怖気を覚えた]
――くっ!
[路地の中、日影から抜け出るように飛び退った。だが同時に少年の中で生まれたのは違和感と敵愾心。――このサーヴァントからは幾つもの気配がする。複数の存在が幾重にも重なっているかのように、明確に分析する事が出来なかった]
[
確かに、自分は戦闘を好んではいない。
というよりは――生前に、誰かを害するために力を振るったことすら、ない。
むしろ自分は、全く、その逆の世界しか知らないのだ……――。
困惑した表情を浮かべて、自らの主へと言葉を紡いだ。
]
ですが――……勝ち易きに勝つ、とも。
[
それだけを口にして。
そこで、ふと。とある可能性に――気付きたくはなかった可能性に、気が付いてしまった。
]
[距離を取ったところに投げ掛けられる、魔術師の声。疑問にしかすぎない筈の問いはしかし、少年を強く打った]
――そう、だ。
人は誰しも罪を備えて生まれ、生きる中で更に罪を重ねる。
英霊の座に列せられた私とても、その例外ではない。
罪には罰を。罰による購いを。だが悲しいかな、人の贖罪には限りがある。それを満たすのが主の導き。“いと高き御座”から降り注ぐ、神の栄光だ。理解できるか、魔術師の娘よ。
[
そういう世界しか、知らない――と。
絞り出すように、そう云った。
自分が死ぬか、相手が死ぬか。
そんな、生死の境でしか生きられない、誇り高き戦士の一族。
そういった存在と似通った空気を、この男は発していた。
]
――……まさか。
貴方は、戦いたいのですか――いえ。
――……戦わなければ、生きられないのですか。
―西ブロック・旧住宅街―
[気配を薄くしながら歩く。
目的は蒲生家、400年続く武家だが、その実態は魔術師の家系であある。
今回の聖杯戦争に絡んでくると前々から目を付けていた一派である]
対魔結界か、そしてこいつは……。
これ以上迂闊に近づくのは危険だな。
[かなり離れた位置から自らの重力のセンサーを縦長に展開し念入りに結界を調べる。
結界にはかなり高度な対魔術師用のトラップが張り巡らされていた。
その精巧さは思わず冷や汗をかくほどだった]
しかし、碌な頭首じゃないね。
[同時に辺りからの魔力の流れを感じ取り顔を顰める]
……話ハ、もウいい。
[元より、会話で何かを得ようとしたわけでも無い。
無駄口は必要なかった。キラーはゆらりと動く。影のように。幻のように。
距離を詰め、巨人の腕……肥大化した醜い棍棒を、少年に向けて振り下ろす]
知る必要がない? いや、あるな。
聖杯はマスターとサーヴァント、それぞれの願いをかなえてくれる。
呼び出したとはいえ、それは無条件にサーヴァントを受け入れるということではない。
願いについても然りだ。
英霊の中には、英霊だと奉られていても、その願いは私欲に塗れたものであることも多い。
ただの私欲ならばいいが。
バーサーカー、お前が私の望まない願いを口にするのなら、私は呼び出したものとしてそれを止めなければならない。
それはそれとして。
マスターとサーヴァントには、信頼関係が大事だと思っている。この戦いにおいて、どちらが欠けても望む結果は得られない。又、マスターとサーヴァントが相反しても同じだ。
バーサーカー、私が事切れても、お前が力尽きても、バーサーカーの願いが叶わないことに変わりはない。
切り捨てるのが最善と判断すれば、そうする。けれどそれは最後の手段だ。
外に行ってくる。ついてくるならその帽子を被れ。
[少年の声に、僅かに動揺を聞いたような気がしたが、それは気のせいかも知れなかった。声が敵対しているというのに少し柔らかいものへ変わる]
あんまり頭が良い方じゃないから、わからないといえば、わからないけど。
でも、あなたは、救われたいんだね。
あなたの罪に正しい罰を与えられて、購いたい。
そういうことよね?
[でもそれならば、少なくともみなみにとって、少年も、そしてキラーも、大差は無いように思えた。キラーが動き、少年の手に、力が集まるのを見て口を噤んだ]
生き長らえるだけならば、戦闘など必要ないだろう。息を潜めてさえいれば良い。だがそれは“生きている”とは言えん。生の実感とは、己の存在意義を認識した上で、それを全うした時にこそ感じられるものだと、俺は理解している。
お前の言う通りだな。俺は戦うことでしか“生きている”実感を得られないのだ。
―中央ブロック・路地―
[投石紐の形状をした物体に魔力が収束していく。
ペリシテの巨人ゴリアテを小石の一撃で昏倒せしめた力の具現。射出される物体に祝福を与え、“世界の壁”を刹那の間だけ消失させる、御稜威の業]
これが――神の栄光の顕現たる、我が宝具。
そのごく一部を齎すものにしか過ぎぬが。
[装填された弾丸は鋼のつぶて。
常人に直撃すれば物理的な衝撃だけでも絶命しかねない凶器。だが未だ距離は近すぎた。そして始点さえ気取らせずに襲い来る、敵手の豪腕]
[去ろうとする背中に言葉を投げかけられる。
英霊は立ち止まり、その羅列を静かに受けた。
何事かを思案するように、剣の先で仮面を叩く。]
そうか。
[ひとつ、ふたつ、みっつ。
細かく響く音に、猫の耳が動いた。
持っていた麦藁帽子をかぶり、仮面を隠すように深く。]
私の願いは――困ったことに、特には無い。
そうだな。
強いて挙げねばならないのなら、世界平和などはどうかな。
[冗句めいた答を、さも真剣そうな声色で返す。
少女は外へと向かう為に、立ち止まっていた男を追い越す。
血を拭った刃は、暫くどうすべきか思案するように揺らした後、結局、マントの中へと隠した。
小さな背中を追う。
光溢れる出口へと向かうマスターを追う。]
[私の願いが叶わない――――か。
なるほど。
マスター。お前には、願いが無いということか?]
[心内の言葉は届くはずもなく。
ただ、剣を握り直す、己で傷つけた掌だけが心情を語る。]
[願いが特にない、そう耳にしていくらかの事柄が頭に浮かぶ。けれどすぐに消えた。
世界平和を口にするバーサーカーに、内心苦笑した。彼の言う平和とはどういう平和のことであるのか。当時の心のままか、それとも。
――自身の願いも、それこそ無かった。だから、バーサーカーを失って尚続けるだけの理由は見当たらない。
聖杯を手に入れるのが願いといえば願いだろうと、笑みを零す。]
眩しいな。
[まだ高い日に、手で影を作る。振り返り、着いて来ようとする猫の姿に、一瞬迷い、]
教会まで、連れて行くか。
[腕に抱き上げた。]
――つっ!
[すんでのところで半身に避わし、適正な距離を取るべく後退の機を窺う。魔術師からの追撃は未だなく、だが油断なく二者の動向を見計らった]
違いますね、魔術師。
私の罪は我が子の死によって贖われ、そして次の子ソロモンを主は祝福された。私の罪が未だあるとすれば、そもそもの始め。
バト・シェバを見初めた事。そして――、っ。く。
[次々と振り下ろされる巨大な棍棒。
アスファルトが抉れ、ビルの外壁が飛び散っていく。
かつて名を上げた、この姿の由縁となった戦を想起する。
直感と経験から、次に来る攻撃を予測。最適な動線を脳裏に描き、なぞっていく]
[少年の持つ投石紐に気配が収束するのが分かった。
現世に召喚され、何度も見たその気配。それが魔力というものだと、キラーはこの時初めて理解した。
それはアーチャーのそれが、今まで見た中で最も強大な力を有していたからに他ならない]
……ゲラ……。
[しかし、腕を止める理由にはならなかった。むしろ、それが何なのか分かっただけ、恐怖が薄らぐ]
……、
[投石紐自体は見たことがあれど、義務教育すら曖昧なみなみに、その宝具が一体何なのかもわからなかった。アーチャーだろうという予測が立ち、キラーの間合いであることを冷静に見つめる。詠唱を音に乗せようとしたところで、止めた]
[次々と腕を振るう。全てが空振りに終わる。地面を砕きコンクリートの破片をまき散らすだけの腕]
……ゲラ、ゲラ、ゲラ。
[その攻撃が、不意に止んだ]
[眩みこそしない。
だが、そこには差し込む日差しがあり、蝉の鳴き声があり。
稼動する工場からは人の気配があり、更に遠くには――。]
…………。
[猫を抱えあげる魔術師。
その姿は、事情を知らなければ凡庸そのもの。
もしアレが三毛の猫ではなく、真っ白な猫だったなら、鳩の一つでも想起してしまっただろう。そう、それはこれ以上無い、平和の象徴。
今一度、剣を握り直し、麦藁帽子を被り直す。
揺れる。
揺らぐ。
―――――嗚呼。
狂おしいほどに、平和だ。]
―中央ブロック・路地―
[唐突に闇色のサーヴァントの攻撃が途絶える。訝しく思う間もなく大きく後方へ跳躍。互いの距離はおよそ5メートル。有効射程内、ぎりぎりの間隔。右手を後方へ引き、高々と真名を唱える]
主の御名において、僕(しもべ)たる我が茲に願う!
――《恐るべき御稜威の王(レクス・トレメンデ)》!
[詠唱と共に、鋼弾へと神聖属性を帯びた魔力が収束。まばゆい白光を放った。少年の視線は闇色の姿を捉えたまま。間髪入れずに腕を振り抜き、標的へと調伏の飛礫を射出する]
[それまで検討もつかなかった少年の正体が、子・ソロモンと言う言葉を受けて、一つの名前が浮かんだ]
あなたの名は……、ダビデ?
[彼についての詳しいことは知らず、バト・シェバと言う名も解らなかったが、それに続く言葉に興味を持った。属性の一つ、彼女の声が魔力を帯びて空気を伝わる。歌うようにして、戦いに熱中しようとする少年の発言を促した]
あなたの罪は、バト・シェバを見初めた事と、そして――?
[このままでは、当てるのは難しい。それは結果から導き出した、至極簡単な結論だった。
なら、カタチを変えればいい]
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ――――――!
[醜く肥大した腕。右だけの腕。それが、左も形成されていく。さらに足が、胴が、全身が泡立った。
人の頭が湧き出る。水泡のように。肉で作った醜悪な人形のように、巨大化する。
全てが終わったとき、そこには全身の無数の口で笑う、一つの巨人が居た]
[少年の手から閃光が放たれる。魔力を持つ礫。
関係が無かった。キラーを構成する全ての魂が高揚していた。それは姿形の変移によるものであったし、何より……]
罪無くして、我々は存在できない。
[その声は、混じりのないたった一つの声音]
我は、事件。言うなれば、罪そのもの。
[キラーはその礫を受け止めるべく、その両手を構える。
その腕が、弾けた]
[一瞬、バーサーカーに運んでもらうことも考えたが、昼間だと思い直し、振り返る。バーサーカーがついてくるのを確認して、]
昼間は歩く。運ばれるのは楽だが、どこに人の目があるかわからない。
[先ほど戻ってきた道を逆に、教会へと向かって歩き始めた。腕の中の猫が、小さく声を*あげた*]
[
常人が幸福と感ずる全てを感ぜず、無味乾燥な、意味のない時間と捉える。
それは――なんと、哀しい告白だっただろう。
]
生きる、とは――……そのようなものでは、ないはずです。
[
哀れむような視線を、自らの主へと向けて。
叶うならば、戦い以外の生きる喜びを、この主へと教えてやりたい。
そう思ったのも、束の間。
使い魔を潰された衝撃が、電流のように全身を走った。
]
――……くぅっ!!
ぅ……マスター。
もう一騎のサーヴァントの所在が、判ったようです。
[
苦しげに息を吐いて。
使い魔を置いていたこと、その理由と場所――伝えなければいけないことを、*自らの主へと簡潔に伝えた。*
]
[巨人の姿へ変じた闇色のサーヴァントに、光弾と化した鋼の弾丸が直撃する。巨体を苦にせぬ機敏さで受け止めようとした両腕を白色の爆光が包み込み分解していく]
――消えなさい。邪悪にして混沌なる者。
[”世界の外側”―“いと高き御座”との強制的な接続。
魔力基盤を塗り潰し染め替える筈の光はしかし――蝋燭の灯が吹き消されるように、不意に消失した]
事件、そのもの……?
あの交じり合った声は、そのせい?
[宝具をまともに受けても立っていられる強さに一つ、避けようとすらしなかったことに一つ、声色の変化に一つ。そして、最後にキラーが言った言葉に一つ、瞬き衝撃を受け、黙ってこの場面に五感全てを集中させる]
…………。
残念ながら、親子と見られるには少し遠いな。
[それは少女の「正体」を知っているが故か。
はたまた、光の下を猫を抱え歩く姿が――――ったからか。
猫が一つ鳴くごとに、バーサーカーは麦藁帽子を被り直す。
――奇妙な縁だ。
本音を言えば、猫が己の下に舞い戻ったことが喜ばしくないわけではなかった。ただ同時に、どうして戻ってきたのかと、自ら自由を棄てたような猫に、憤りを感じたことも確かだった。
不審者と見られないように細心の注意を。
自身はともかく、少女はまったく怪しくは無い。
つかず離れずで歩き続けて、やがて猫の帰るべき新たな家となる、教会へと*辿りついた。*]
[結界を観察し終え、次の手を模索している瞬間にそれは来た。
体から急激に魔力が流出していったのだ]
おいおい、宝具をつかったってこと!?
[体から流出した魔力はさほど多くはなかった。
しかし、このまま探索をするに当たっては致命的だ。
魔力の探索途中にこれ以上の消費があれば、その反動で結界に引っ掛りかねないからだ]
状況がつかめただけよしとしよう、撤退だ。
あとは、デービッドを信じるしかないね。
[宝具の使用には驚いたがダビデに対する信頼は揺るがなかった。
昨晩召喚したばかりのサーヴァントになぜそこまで信頼を置けるのか、自分でも不思議だったが……]
[賭けたものは、己の存在意義。しかし、それが己の理念とは矛盾するであろうコトも理解している]
…………ゲラ…………。
[腕、肩、そして胴の半ばまで弾け飛ばしながら貫通した礫。宝具。その凄まじい威力に、キラーを構成する魂のほぼ半分が滅したのを認識する。
それでも、キラーは薄く笑った]
……邪悪にして、混沌。ソレは確かに、私たちのコトだ。
[幾分か、混ざりの少なくなった声で]
……だが、まだ滅しテないぞ。善と秩序ノ具現よ。
[最大の武器であると共に、信仰する神の奇蹟の顕現たる宝具。必倒を期して投じた聖石が防がれた事実。少年に与えた衝撃は小さくなかった]
……主よ。彼の者はいったい、何者なのです。
[邪悪にして、混沌。肯う巨人の嗤い声。数を減じても口々に笑う闇色の姿。幾つかの思い当たる点が、少年が見上げる内に組み合わさっていく。罪なくして存在できない。存在する所以、その意義は――]
[罪。邪悪と混沌。数多の頭や口。暗殺者というには、あまりにも異様な姿。眼前に在る者と呼び出した者と。答えは導き出された]
――罪びとを模した存在。
英雄たるには異様すぎ、しかし常人たるには異質すぎた域外者。
それらの折り重なった姿……なのでしょうか。
[そうであれば何を置いても滅さなければならぬ存在だった。聖杯戦争とは関係なく、主の使いたる英霊として、見過ごす事など不可能な相手だと認識する]
[それは彼の者の神に対する問いかけであった。
しかしキラーは、ニィィと口の端を歪める。痛みに呻く傷口の頭がボゴボゴと泡立ち、打ち震える。再生していく]
我が名は、アラン。
[ゲラゲラゲラ、と。彼は笑った]
我が名は、トーマス。我が名は、神裂。我が名は、ジョヅズ。我が名は、麗鈴。我が名は、ジョーンズ。我が名は、リヒャルト。我が名は、セガール。我が名は――――
[ゲラゲラゲラ、と。皆が笑った]
――邪悪にして、混沌。
それが、どうして。
[どうして英霊として、自らのサーヴァントとしここに存在するのか。召還を行った際、みなみには誰を呼ぶのかもわかっていなかったし、意識して使った縁の品など存在しなかった。だとすれば、みなみとキラーを繋ぐ何かが他にないのならば。その意味するところは、一つ]
NO!
[一際大きく、その声は響く。男なのか、女なのか、子供なのか老人なのか分からない声。
そう、違う。なぜなら……我々は等しく、こう呼ばれる存在であるのだから]
……我が名は、ジャック。ジャック・ザ・リッパー。
[ゲラゲラゲラ、と。ソレも、笑った]
魔術師よ!
汝が喚びだしたサーヴァントは真正にこの者だったのか?
この者は人の手には負えぬ。
――あまりにも異質すぎ、異様すぎ、邪悪すぎる。
何故、召喚を行なった。この世に罪を振り撒くためか!
[再び宝具を解放する為の魔力は、既に満ちている。
必要なのは彼の者に十分な効果を発揮しうる距離とタイミング。
だが、それだけではないと直感が告げていた。このサーヴァントを滅ぼすには、何かまだ、不足している鍵があるに相違なかった]
ジャック・ザ・リッパー……。
あの、娼婦、殺しの。
[その瞬間、曖昧になったままだった思考が、疑問が残るものの一つに繋がった。どんなに認めたくないと思おうと、目の前で負った傷が塞がっていく様子と連動し、体から魔力がキラーへと流れていく]
……、
[弾け飛ばされたジャックの腕が変化する。細く、長く、そして鋭利に。
魂が混ざり、混沌とした状態では不可能だった。だが、魂の多くがこそげ落ちた今、逆に制御が安定してきている]
オォオォォォ……ォオォォ…………
[さらに、一本、二本、三本……。負荷に無数の頭がうめき声を上げる。しかし、それは歓喜の声であった。
殴り、潰す棍棒など、我らが武器ではない。切り裂く刃こそが、本来の武器。
右に四つ。左に二つ。計、六本。歪な刃の腕を携えた異形が、歓喜に笑う]
わたしにだって、わかんないよ!
[アーチャーの言葉に感じる、棘。責められているように感じるのは、思い当たる節があるから。みなみ自身の手に追える、制御出来るサーヴァントではないことは、確かに違いなかった。でも、それで。それで、どうしたら良いのかは、彼女には、導き出せない結論だった]
呼びたくて、呼んだわけじゃない。
娼婦のわたしが、娼婦殺しを好きで呼ぶわけがないでしょ?
でもね、わたしが召還して、サーヴァントとして来たのは彼だった。だから、わたしは――
/*
さて。
バーサーカーと色々話してうちの攻撃力に問題があることはわかった。
あとはマスターの魔術で底上げくらいだけど、強化系の魔術じゃないので微妙なところ。
/*
どちらにしても投票結果がものを言うので余り気にしてはいないけど。
主人公っぽいのがいない気がする。サーヴァント側に。
アーチャーに期待したのに。
後はランサーか。
*/
/*
と言うか、同じチップだからしかたないんだけども。
聖が大介に見える。
バーサーカーは匡ちゃんに見えないのに。
そこには行かないけど。
と言うかほんとにアサシン!!!?
ゲラゲラ笑いを見るときゅんとするんだけども。
それ以外だとランサーしか該当しない。
でもランサーではないと思うんだ。
やっぱりアサシンかな。
じぇ(ry
だから特攻にいけないんだってバ。もう。
しかしこの口調の所為か、まったくもって恋とかしそうにないなこの人。ちなみに必要とあらば身体も使いますがこの身体です。でもサーヴァントに対しては使いそうにありません。魔力供給できてるし。
*/
―午前 中央ブロック―
[ジャック・ザ・リッパー。
十九世紀の倫敦を騒がせた殺人鬼の名には、古代の王たる少年の心当たりは無かった。だが薄く笑みを浮かべ、彼は言葉を紡ぐ]
なるほど、そういう顛末か。
従卒(ジャック)の名を帯びた従者(サーヴァント)に自らの死命を危うくされたとは。とんだ鬼札を切り出したものだな。
[言葉を投げる間にも、眼前の敵は左右の腕を続々と変化させていった。都合して六つの刃。まずはその脅威を掻い潜らねばならない。新たに生まれた、この戦闘の目的を果たすために]
……娘よ。
そのサーヴァントが娼婦殺しだというのなら、私は今から、そなたを奪い去ろう。彼の者がジャックならば、私は其れを上回る。
魔術師ならば占術の心得もあろう。剣(スペード)の王(キング)たる図象――“契約の民”の王、ダビデこそが我が真名だ。
[真名を告げると共に、異形の哄笑を続ける巨人の傍らを抜き去るべく、身の内に魔力を*精錬し始めた*]
/*
なのでバーサーカーとの関係性には恋とか絡んでこないと思います。せいぜい親子的な何かくらい。
バーサーカーに対する信頼を持とうと頑張ってるところです。
死なないことを考えてるけど、このままいくと死にそうな気配。
さて起源どうしよう。回路は多いはず。刻印は両腕と両腿に。
起源は時間関係の何かにしたい。悠久とか。
*/
[娼婦連続猟期殺人で広く知られるジャック・ザ・リッパー。
しかし彼が本当に殺した人数は、人々が持つイメージとは裏腹に、五指にも満たない。
しかし彼が投じた一石は、混沌としていた社会に波紋を立たせるには十分であった。
数多くの模倣犯が出た。新聞はそれらしき事件をジャック・ザ・リッパーの犯行として報じ、人々の認識もそう凝固していく。
やがて、ジャックの名前……本名ですらないこの仮名は、事件の名前へと昇華された。
切り裂き事件。人が無惨に切り裂かれて殺されているとき。特に、その被害者が娼婦……いや、それでなくとも女性でありさえすれば。
ジャック・ザ・リッパー。
その名前が思い浮かぶことが、現代の人間でも有るのではないだろうか]
[十九世紀より現代まで生きるジャック・ザ・リッパー。
その本質は最初に事件を起こした犯人ではなく、多数の模倣犯にある。
彼は、英霊ではなく。
人々にジャック・ザ・リッパーと認識された魂の群体。
聖杯戦争という儀式により、本来英霊が担う"クラス"という型にはめられて現界した、ジャック・ザ・リッパー事件そのものである]
[薄く笑う。どうやら彼の者と自分は、存在の意義においてとことん争う運命であるらしい。
半数を失ってなお数多の頭が猛る。
彼らは現存した者たちばかりではない。噂や物語が人々の認識という媒介を通して存在している者もいる。架空の伝説の登場人物が、英霊として存在できるように。
その数は、有限。されど、数多。
六本の腕がしなる。
地を這うように、キラーは標的へと駆ける]
――午前/中央ブロック――
[手の色が変わるほど握り締めた掌を解いた。風が一吹き。水分を奪うその風に、体中から熱が抜けていくのを感じた。アーチャーが紡ぐ言葉に、思考回路が擦り減って行く。戦闘中であるにも関わらず、みなみは最早、自らの魔術回路に魔力を通すほどの集中力すら有していなかった]
ジャックが本当の名前なら、その通りだけど。
ジャック・ザ・リッパーは娼婦殺しだけど、でも、わたしはマスターなんだよ。
サーヴァントに、己のマスターは、殺せない。
[自分に、そして、目の前のジャック・ザ・リッパーに言い聞かせるように、力強く言った]
[決意が揺らいでいるのはみなみ自身が良く解っていた。揺らぐ――、即ち、抗わずにアーチャーが彼女を攫った後の未来。ジャック・ザ・リッパーをサーヴァントとして受け入れ、聖杯戦争を戦い抜くと言う、それ以外の選択肢。どうするべきなのか、と言う問いに、応えてくれる人は今傍にはいない。一度は振り切るために口にした先程の言葉だったが、揺らいだままにアーチャー、ダビデを見つめた]
――眞奈みなみ。
それが、わたしの名前。
邪悪にして混沌なものを呼ぶ事が出来たマスターの名前。
/*
ツカサの「わははははっ」にスカさんを見た。
と言うかカンドリさんがいるらしいので(雑談村見た)
どこにいるんだろう。男性だろうなぁと思ってるのだけど、時間的に聖は違う気がする。
ランサーとか?
駄洒落の人がアサシン>ランサー>アチャなんだけども。
誰がいるのか考えたときに完全外部が3人と言ってたので、9人はGMの知る人がいるわけで、確定してる5人を除くと・・・後一人誰だろう。と言うか今回萌えの人はいるのだろうか。
/*
ちなみにカンドリさんがいると知ってツカサを考えたけども、自己紹介に気づいてなかったので違うかなーと。
しかし
アサシン萌(ry
*/
/*
た:しかし。私はいつになったら特攻できるのだろう。
は:誰にだ。
た:だ(ry
は:無理だろう。
た:ですよねー。
は:そもそも私にそのような気がない。
た:もうはるかはバーサーカーといちゃついてるといいと思うよ
は:それもないな
た:ですよねー。
は:そもそも今回の目的は聖杯だ。そんな物にかまけてる暇などない。
た:私のキャラメイクが間違いでした。でも今からがんばればなんとでもなるよ
は:がんばるつもりもない。そもそも毎回振られてもうしないとか言ってるのはどこの誰だ
た:私です。でも何かしら温かな空間をだね。セイバーT以外にも求めたいじゃないか。セイバーTといいキャスターTといいアサシンTといいなんだねそこのほのかにラブっぽい雰囲気は。
*/
/*
は:アサシンTにあったかそんなの
た:今からあるかもしれない。
は:………。
た:アーチャーTとかこう、女性の心を擽るよね
は:………
た:見た目にも。
は:………
た:と言う話を昨日バーサーカーとしてたんです
は:………
た:はるかはランサーTの方が好みですか
は:………
た:恋愛感情に疎いよね。
は:そこは否定しない。
た:まあその辺の話はおいといて。しかし昼間来たけど何も進展ないな。
*/
―― 古美術店 ――
んー…。
[ 居間の襖を開けることができず、ツカサは廊下に立ち尽くしていた。
左之助になんと声をかけたらいいものか。正直、どうしてどのようにショックを受けたのかさえ判らぬ状況でなにを言えるというのだろうか。
腕を組み、爪を噛む。
…この状態で、すでに1時間が経とうとしていた。]
[左之助は出来上がった楊枝を、静かにくわえると小刀を懐にしまった。]
そう言えば教会に行かなきゃならないんじゃなかったか?
[今の左之助はゆったりとした黒めのジャンバーにジーンズという出で立ちになっている。
このまま、外に出ても特に問題は無いはずだ。]
おい、ツカサ。
[そう呼びかけながら襖を開けると、深刻そうな梧桐の姿が目に入る。]
お前、こんな所で何モジモジしてるんだよ……。
入ってくりゃあ良いのに。
確か教会で何かするんじゃなかったか?さっさとすませようぜ。
[そう話しかけた。]
[ 一瞬遅れて、思わず飛び退いた。が。]
あ、いや…。ああ、そうだな。
教会に行って聖杯戦争参加の旨とか色々あるそうだ。とりあえず顔を出してこよう。
[ 左之助の平常とした態度に、大丈夫そうかと安堵して笑みがこぼれた。
店の鍵はかけっぱなしである。特に気にすることもなく、裏口へと足を向けた。]
[歩きながら、信長との戦いを思い起こす。
左之助は強いものと対峙する瞬間が大好きだった。
相手の構えや太刀筋、そこからは強さへの熱意と鍛錬の蓄積が見て取れる。
相容れぬ敵であっても、見事な動きには敬意すら覚える事もある。
だが、あの荒れ狂う信長は、本当に信長だったのだろうか。あきらかに異質な何かに、左之助は不快感すら覚えた。]
そしてあの信長の声、いや……声ではなく頭に直接響いたものだったのかも知れねぇが……。
ツカサ……「アチャラナータ」って何か知ってるかい?
信長の力が膨らんだ時に聞こえた物なんだが……。
[梧桐に向かってそう聞いた。]
朝から勤勉なことだが、こんな時間から表でやり合うわけにもいくまい。それよりも――。
[床框に飾られた日本刀“蒲生正宗”を手に取って、キャスターに向けて無造作に投げ渡す。]
それが俺の武器だ。サーヴァント相手に通用するとも思えんが、軽量化くらいは施しておけ。
それが済んだら出かけるぞ。お前の魔術を行使して相手の行動を制限させられる場所を増やすのだ。この屋敷でずっと獲物を待つわけではなかろう。そういう罠は数箇所あったほうがいい。
[今後の予定を告げた後はキャスターの存在など無視するかのように、その場で身支度を*始めた*]
ん、え? …ああ。
[ まだ少し、ぎくしゃくとした反応をしてしまう。調子が狂うとすぐに戻せないのは悪い癖だ。術師としてどうなのだろうと我ながら思ってしまう。
アチャラナータ。
聞かれた単語を頭の中で反芻する。知っているものではあるが、詳しくない上に信長に関係あるものとは思えなかった。]
確か、インドだかどこだか…外国の古い言葉で不動明王を示すものだったと思う。それを、あの英霊が言ったのかい?
[ 聞き返す形で、言葉を返した。]
言ったのか、頭に響いたのか良く思い出せねぇんだが、確かにそう聞こえたんだよな。
不動明王様ねぇ……それなら知ってるが、信長の講談には出てこなかったよなあ。
何にせよ、あの時の信長は妙だったぜ。
俺をこんな目に合わせるくらいだ、あれが信長なら桶狭間は1人で何とかしたんじゃねぇの。
[左之助は包帯の傷を押さえ、「あいたた」とうめいた後、笑みを浮かべる。]
何にせよ一筋縄ではいか無そうな戦だぜ。
[空を見ながらそうつぶやいた。]
おいおい、大丈夫か一文字。
[ うめいた左之助に声をかけるも、本当に苦しそうなわけではなさそうで安堵する。が、一筋縄ではいかないという言葉に頷き表情を固くした。]
まあ、そんな簡単に行くような戦いじゃないのは最初から覚悟していたさ。
不動明王についてはこちらで調べてみるとしようか。一文字はまず傷を癒すことに専念してくれ。
…と、着いたぞ。教会だ。
[ 駅裏よりしばらく進んだ先に現れた教会の前に立ち止まると、呼び鈴を叩いた。]
は〜い♪
[歴史を感じさせる古びた教会の、重厚な扉が開き、中から少女が顔を出した。]
あら、どうぞ中にお入りになって。
[一人の男性……魔術師を確認すると、速やかに教会の中へ案内する]
今は生憎、監督者は外出しておりますの。
あ、私も一応、魔術教会から監督者の補佐を仰せつかって派遣されていますから、お話なら代わりにお伺いいたしますわ。
[梧桐をソファに誘導し、目の前にお茶とクッキーを置く。]
ああ、そうですか。安心しました。まさか監督者がこのように若い娘さんだとは、と目を白黒させてしまいましたよ。
[ 苦笑しながら、誘われるままにソファへと腰掛ける。
左之助は教会の外に待機してもらったが… まさか、ここで他のサーヴァントと出会うとかいうことはないだろうか。脳裏をよぎってしまった不安に少し後悔したが、顔には出さないようにした。]
…はい。此度の聖杯戦争に参戦しましたので、その表明にと。サーヴァントは、ランサーの召喚に成功しています。
[ 単刀直入に、用件を切り出した。]
まあ!
そんな軽はずみな発言をしていると、ジェンダーフリー協会から執拗な攻撃を食らいましてよ。
なぁんて。
判りましたわ。それではあなたはランサーのマスターになられたのですね。
御武運を、お祈りもうしあげます。
万が一棄権をされる場合、教会は魔術師の身の安全を保障いたします。そのことは、覚えていてくださいね。
[そして一通り、聖杯戦争についての知識を説明した]
ほかに、御用はおありですか?
[ 説明された内容を、ひとつひとつ頷きながら聞き込んだ。]
いえ、充分です。ありがとうございました。
[ 左之助を外に残している以上、長居はできない。残っていた紅茶を飲み干し、礼をいいながら腰を上げた。]
[左之助は出てきた梧桐に「早かったな」と言って近づきつつ、こっそりと耳打ちする。]
どうも近くに何かいる気がするぜ……。
ま、教会付近で派手な事できねぇから無視するが、尾行だけには注意しとこうや。
俺も気配を消しておく。
[それから歩き始めた。]
…っ
[ 左之助の耳打ちに息を呑む。慌てて周りを見渡したい衝動に駆られたが、もしも本当に“何か”がいるのであればそれは逆効果だろう。気持ちを抑え、何事もなかったかのように振る舞い*歩き出した*]
[―もしも、未来が視えるのならば―
それはもう、かなわぬ夢だけれど
どうして 大切なものほど
後回しにしてしまうのだろう
その大切さに 気付けないのだろう
いつでも そこにあると思っていたから
手を伸ばせば 届くと思っていたから
けれど―]
[虚空に手を伸ばして、何も掴めず、その喪失感から目覚める。]
……。
[いつもの事だ。けして、この手が掴むものは何も無い。
わかってはいるはずなのに、起きる前の自分は『何か』に期待しているのだ。そんな自分に自重気味に笑う。
ふと、いつもとは違う何かの気配にそちらを振り向く。
壁際を背もたれにして、座っている大柄な男が目に入った。]
……。
[こちらが起きた事に気付いていないのか、目を閉じたまま座っている男を、じっと見つめた。]
……。
[声をかけるべきか、戸惑う。
だけど、口を開くと、また棘が出てきてしまいそうで。
小さく開けた口は、そのまま動きを止め、元の形に戻り、この穏やかな時間を楽しむ事にした。]
[起きた気配がして、ゆっくりと眼を開く。
少し離れた場所で寝ていた茜が、どこか穏やかな表情をして佇んでいるのが見えた。
穏やかな空気の中、窓のカーテンの隙間から差し込む日差しが、床を所々照らしている様子がどこか幻想的で心地よい。]
ん、起きたか。
体調はどうだ?
[相手の目が開いて、思わず目を逸らす。
見ていた事を気付かれただろうか。それだけで、なんとも気まずい気持ちになってしまう。]
…おはよう。
おかげさまで、体の方は健康だわ。
そういう貴方はどうなの?
[問われ、自分の中に意識を集中する。]
…五割ってところかしら。
思ったより、持って行かれたみたい。
[正直、回復の遅さに自分自身が驚いていた。
少なからずのダメージがあったようだ。
ふぅ、と息を吐いて、マットレスから立ち上がる。]
宝具を出来るだけ使わない……って方針で行くならば、私の魔力がこうでは心許無いわね。
大地のマナの力を借りに行かないとならないわ。
ふむ、やはりな。
[流れてくる魔力量が昨日より若干少ない。
体が無意識に供給量を少なくしているのだろう。]
じゃあ、行くとするか。
場所は昨日の山か?
[もちろん、共に行くつもりだ。
マスターを一人で行動させるなどありえない。]
[問われた場所に、頷きながら付け加える]
…別に、付いてこなくてもいいんだけど。
[子供じゃないんだし、と少しふくれながら言う。]
気配を絶つくらい、私にだって出来るわ。
二人別々に動いた方が、効率がいいんじゃないかしら?
阿呆か。
効率よりも安全優先だろうが。
いいか、お前が死ぬ時が俺の死ぬ時なんだからな。
というわけで、全力で守らせてもらう。
[そういうと、何かを思いついたように少し笑う。
そして、唐突に茜を抱き寄せた。]
流石は俺だな、アカネを守り目的地に行くのにとても粋な方法を思いついた。
[そして、茜を素早く抱き上げる。
右手を背中へ、左手を膝の裏へ。]
梧桐 曹は、村人 に希望を変更しました。
ちょっ!
[いきなり抱き上げられて、手足をばたつかせる。]
な、ちょっと!馬鹿っ!
降ろしてよっ!
[目を白黒したまま、ありったけの力で抵抗を試みるものの、そのすべては無駄な徒労で終わった。
そのまま軽々と運ばれるのを、せめて相手をその間睨み付ける事で、なんとか平静を*保っていた。*]
―漆路山―
[ようやくセイバーの腕から開放され、その地に降ろされると、まずは抱いていた相手を強く睨み付けてから森の中に踏み入れる。]
……ふぅ。
[一度深く深呼吸。
相変わらず、蝉時雨は降るように響いていた。
短剣を地面に刺し、地面に膝をつくと印を組み、詠唱を始める。]
…山の神のけみだし敷
山の神のさわら敷
九千五人が大森大山爺
山姥山の大そ
犬山みさき小山みさき
荒山みさき鬼人の神
[森の木々がざわめく。]
六面王八面王九面王の
大神様を行い奉る
天や下らせ給え
[茜の詠唱に呼応するように]
[ひんやりとした、静寂な霊気が自分の中に流れてくるのを感じる。その心地よさに目を閉じ、最後に、祈るように手を組んだ。]
降り入り 影向なされて
御たび候へ―
[オン と微かに森が吼え、それですべてが終わった。]
……。
[膝をついたまま、静かに目を開ける。
自分の中に意識を集中させ、探る。
その時に感じた、微かな違和感。]
(……魔力はほぼ全快になった。…けれど)
[―こんなものでは無い。
山の神の力を借りる呪術を使ったならば、溢れる位の霊力が供給されなければおかしい―]
まさか……。
[山に、何か細工されている――?]
そんな、馬鹿な…。
[小さく呟いて、*爪を噛んだ*]
――教会前――
[教会に辿り着くと制されたので、バーサーカーは入り口から数歩遠のいた。
抱えられた猫がマスターの背中越し麦藁帽子を見ている。バーサーカーもこっそりそちらを見ていたが、残念ながら幾らか人通りがあった。
別れの瞬間まで小さな命を見送ることは叶わない。
麦藁帽子を深く被り直し、通りへ仮面の目を向ける。
感知能力に恵まれないバーサーカーにとって、別の組のサーヴァントとマスターの気配は感じ取れなかった。
立ち尽くす彼に届くものは平穏な日常そのもの。
蝉の時雨があらゆる風に乗って歌う。
降り頻る歌の中、一人が通り過ぎ、二人が通り過ぎる。
与えられた知識でしか知らない、珍妙な乗り物に乗る者もいた。
何事かを談笑しながら帰路につく者達もいた。
背に哀愁を漂わせ、不思議な機械を弄くりながら通り過ぎて行く誰かもいた。
犬の首輪から伸びた紐を引き――逆に引っ張られながら、足取り怪しく走って行く者もいた。
流れる先はほぼ同一。
恐らく、駅から旧時代を感じさせる住宅街へと帰る者達だろう。]
[あらゆる普遍。ありふれた普遍。
己の時代には無かったものであっても、バーサーカーにはこれが今の時代の「平和」なのだろうと想うことは難く無かった。
ただ、それらは彼にとって、一縷の思念を浮かばせる。
溢れ出そうになる想いを抑えるように、掌を握った。
拠点で刃が食い込んだ傷口は、既に血を流していない。
ただ凍りつく痛みは、今のバーサーカーを深く苛んだ。
蝉の時雨が歌う度に、人の気配が一つ去る度に。
慣れ親しんだはずの掌の創傷が、醜く疼いた。]
―教会前―
[バーサーカーが足を止めたのを確認して、もう一度教会の中を見る。が、小柄な身長は中を覗うには足りず、ただ正面のほうに人の影を見つけた。体格から察するに、男。
程なく、扉が開いて影が二つに増える。
全身に廻らせた魔力は、自身の姿を変えると共に魔術師としての気配を断っている。魔術師だと気づかれることは無いはずだった。
去っていく後姿。二人組は両方共に男だと認識して、後をつけるかどうか迷った。]
……。
[腕の中の猫が、小さく声をあげた。]
どうした。腹でも減ったか。
[同じように小さく声をかけて、それからバーサーカーの方を見る。どこか遠くを見ているように見えた。仮面の下の視線は、どこを見ているのか判らなかったが。
近寄っていくと、声をかける。]
バーサーカー、さっき教会から出て行く二人がいた。恐らく、同じ聖杯戦争への参加者だろうな。
[サーヴァントが対峙する様子をビルの上から見下ろしている。
位置を確実につかめているのは携帯のGPSのお陰である]
敵サーヴァントのクラスは何だ?
宝具を食らったとしたらあまりに平然としすぎている。
かわされたのか、相手も何かを使ったのか……。
それに強さの判別が全くつかない、油断はできないって相手には違いないね。
[相手のサーヴァントをマスターの眼で探るが全く正体がつかめなかった。
まるで、底なし沼のようだ。
いくら探っても情報はそこには存在せず、闇だけがそこにはあった。
敵サーヴァントの得体の知れなさに体が自然と魔術回路の起動を開始する。
少しずつ高まってゆくマスターの魔力にダビデは気づいただろうか?]
[日常に埋没していたわけではなかった。
だが、猫の鳴き声でようやく我を取り戻し、近付いてくる気配に己の返る。かけられた声はマスターのもの。]
二人、とは。
[麦藁帽子を少しだけ上げて、周りを見渡す。
もちろん、少女が言う存在らしき者は見当たらない。いや、見当たらないというより、見分けがつかない、と言った方が正しかった。]
どうやら私は呆けていたらしい。
それらしい気配も感じなかったが――いや、これに関しては君の方が正確か。
――――それで。
追ってみるのか。もしくは――。
[バーサーカーの答えにため息をつきそうになる。が気を取り直し]
この時期に、教会に来る二人組なら、どちらかがマスターでどちらかがサーヴァントだろう。探っても良かったが、この人通りの多い場所で戦闘は避けるべきだと判断した。
追いたいが……まずはこれを預けてくる。
[猫の首を両手で支えてバーサーカーへ見せる。]
それとも別れが寂しいか?
[少し笑いを見せて、身体を返すと教会の入口の方へと向かった。]
[意識が逸れた瞬間はなかった。警戒を怠ったわけでもなかった。
だが気づいた時には既に、彼女のサーヴァントは全力の疾駆へと転じていた]
――ッ!
[距離は既に己の宝具の有効レンジよりも内側。しなやかな漆黒の腕が、研ぎ澄まされた六本の刃となって狙いを定め、少年へと襲い掛かる]
[そもそも教会の方に注意を払っていなかった――などとは口が裂けても言えなかった。
珍しく溜め息に反抗することなく、思案する。視線は――仮面は自然と猫を見つめる形に。
幾ら疎いとは言え、さすがにここまで近くにいて感知出来なかったとは考え辛い。残り得る可能性は、全てはマスターの盛大な勘違いで、二人とやらは善良な信徒だったか。
もしくは、気配遮断を有したサーヴァントだったのか。
浮かぶクラスは――――アサシン。
キャスターの並び、搦め手の代表だ。気配を遮断され、逆にマスターを狙われたとしたら――――。
――と、真面目な考察を始めた矢先。]
まさか。何を言っている。
惜しいわけが無いだろう。
そもそも廃工場を拠点にしているくらいだ。君の住まいもこの町にはないのだろう。ならば猫を養うことなど出来まい。
[言葉を返した後、入口へ向かうマスター――というより、猫から視線を離すために麦わら帽子を深くかぶる。
ついでにそっぽを向いた。]
くだらない問いを発する暇があるなら、早く猫を預けて、先の二人とやらに対する作戦を――。
[放っておいたらいつまでも続けそうだった。]
――午前/中央ブロック――
[ダビデに問いに、何故だか、くすりと笑いが零れた]
簡単にマスターであることをやめられるくらいなら、聖杯戦争に参加したりなんて、しなかった。
生半可な覚悟で参加してるんじゃないよ、わたしだって。
踏み出してしまったから、もう、自分じゃ、止められない。
少なくとも、今は。
[バーサーカーの言葉を背中で聞きながら、口元に浮かぶ笑み。呼び出したのがバーサーカーだとは思えないほどの反応だ、と思いながら、教会のドアを開けた。]
失礼します。
二度目の訪問ですが、今回はお願いすることがあり、参りました。
[ドアを開けてすぐ、目に入るのはステンドグラス。眩しそうに手を翳した。]
[全身を循環させ四肢の隅々にまで行き渡らせた魔力。
魔力放出の能力(スキル)を備えていたならば、瞬時にして巨人の体躯を飛び越す事も或いは可能だったろう。だが少年にその資質は備わってはいない]
――長剣。厚刃。細槍。小刀。大鉈。手斧。よくも、これ程を――
[迫り来る質量と物量。右の四本と左の二本。
其々に模した形状は異なる。
限りなく鋭利でいて、歪であることだけが共通していた]
[繰り出されるタイミングは無雑作に見えて巧妙。
何れかを避せば何れかの正面。
何れかを弾けば何れかに裂かれる。
退くならば其れこそが死地。
六本の切っ先は過たず終極で邂逅する。
襲撃者の天分が正に殺傷と虐殺にあると示すが如き軌道だった]
は〜い♪
[振り返ると、最初に教会を訪れたマスターがそこに居た]
何かお困りですか?
生憎今、監督者は不在ですが……私でよければお話、お伺いしますわ。どうぞ。
[聖堂にあるソファを勧めると、お茶とクッキーを用意した]
[繰り出されるタイミングは無雑作に見えて巧妙。
何れかを避せば何れかの正面。
何れかを弾けば何れかに裂かれる。
退くならば其れこそが死地。
六本の切っ先は過たず終極で邂逅する。
襲撃者の天分が正に殺傷と虐殺にあると示すが如き軌道だった]
**
訂正版投下。
ありがとうございます。
[会釈して、勧められたソファへと腰掛ける。出されたクッキーの匂いに、鼻をひくひくとさせて手の間から猫が顔を出した。]
実は、この猫のことなのですが。
うちのサーヴァントが手懐けてしまいまして、かといって放り出すわけにも行かず、ならこちらに預けようと思い当たった次第です。
[クッキーを小さく割って、猫に差し出すと、くんくんと匂いを嗅いでから、食べ始めた。]
私の家はこちらにありませんし、両親も海外に住んでおります。探せば親類縁者はいるでしょうけど。どちらにしても、今はこちらに預けるのが良いと判断いたしました。
[距離を詰める。それだけで、無数の頭から笑いが漏れる。
相手の少年はこちらより、明らかに速度が鈍い。そして先ほどの受けたあの凄まじい武器……アレもここまでの近距離では使いづらいコトを、キラーはその本能的な部分で感じ取っていた。
その攻撃は、まさしく必中であり必殺。
顎を開け、喰らうがごとく。キラーは少年を殺人すべく、六本の腕を繰り出す]
[
――……投げ渡されたものを視て、微かに眉を顰める。これを強化しろと、そう云うのか。
それは、恐らくは数百年の時を経た古刀だった。
魔術師の屋敷に、こうまで物騒なものがあるなどとは、信じられなかった。
刃を晒しただけで、結界が断ち切られかねない――……生前の自分が張った結界ならば、確実にそうなるだろう。
長い年月の間に馴染んだのか、屋敷の結界には害はないようではあったが――……。
――鞘の中央を握って、水平にと掲げ。もう片の手を翳して、呪を唱える。
]
[そのまま、数十秒。ふっと腕を下ろすと、額に微かに浮かんだ汗を拭う。]
――……終わりました。
ですが……申し訳ありません、三割ほどの軽量化が精一杯でした。
言い訳になりますが……歴史を積み重ねた武器は、魔術に対抗する神秘を孕みます。
担い手の魔力ならばまだしも、他人の魔力は通りにくいので……。
[
言って。
従者が王に対するように。
両の手を添えて、恭しく刀を捧げ持った――……片手で持つには、まだ重過ぎたので。
]
[瞬きをした一瞬で目の前の光景は全く変わっていた。
敵サーヴァントは飛び出しダビデに迫る、六つの異なる腕を振りかざして……]
あれは……、まずいッ!!
[思わず飛び出しそうになった。
必死に理性を働かせて焦る体を押さえ込んだ。
ダビデを信じると決めた、ならば此処は自分が出る幕ではない。
マスターでは敵サーヴァントの障害にすらならない。
逆に相手に姿を確認されるだけなのだから]
まあ、瀬良さんのサーヴァントは確か……
バーサーカーですわよね。猫を。
[目を丸くして目の前の魔術師の手の中の猫を見つめた。]
ひとつ確認致しますね、この猫を使い魔にするという選択肢は考えず、ここで保護して欲しいという意図で預けに来た、と解釈してよろしいです?
―― 帰途 ――
ついてきては…なさそうか。それはなによりだ。…ん?
[ 左之助の言葉に小さく頷く。と、微かな重みを感じてツカサは腰に手を回した。財布を取り出すと、中から一枚の紙を取り出し広げる。この街の地図だ。
覗き込めば、流廻川の部分が淡く光を帯びているのに気がつく。]
………ふむ、誰かが漆路山を使っているか。
[ 漆路山はこの近隣でも有数の霊山である。そこを活用する者が出ることを予測して、ツカサは流廻川を霊道として施していたのだ。]
しかし、どれだけの効果が現れたかは微妙だな。やはり即席の霊道では抑制しきるのは無理か。
[ 地図を折りたたみ、改めて財布にしまい片付けると、ひとつ呟く。]
え? ああ、実はね…。
[ 何のことかと神妙に覗き込んでいた左之助に気付き、その旨を簡単に説明しながら、ツカサは*帰途についた*]
[片手でカップを握ると、お茶を口に含む。]
使い魔、ですか。
……使い魔にするということは、この猫に魔力を通すということです。それ自体では問題ではない。
ですが、いつどこでその命が尽きるか判りません。
命を問題にしないのでしたら、それは猫を別の場所に捨てることと変わらない。
だから、保護を頼みに参りました。
ただ懐いたというだけで、この猫の命を奪うことはできない。
それで、保護してくださるんでしょうか。
[腕の中の猫は、話に興味なさそうに、大きくあくびをして、丸くなった。]
[闇色のサーヴァントが放つ先鋒は長剣。
到来までには既に一息の間すら無かった。
後続は更に刹那の間隙。厚刃、そして細槍。
少年の姿勢が前傾する]
――ここだッ!
[左腕は捨てた。脳裏を駆け抜けたイメージ。
直感の導きに従い、充溢した全魔力で右方へと瞬発する]
[閃光――否、暗黒。
苦痛と共に呻きが洩れる。だが勢いは止まらない。
細槍に削らせた肩から感覚を切り離す。
左で空を切る手斧は既に意識の外。
大鉈を掻い潜り、巨人の制圧域を抜け出る]
[――シィッ。
空気を切り裂く音すら立てず、最終に控えた小刀が舞い踊る]
――つッ!
[更に深く、地面へと身を倒せたのは天恵のもたらした幸運か。
左胸を切り裂いていった刃は致傷には至らず。
だが代償にジャケットを深々と断裂させた。
聖から手渡された携帯電話が、路上に転げ落ちる]
瀬良さんが、いずれこの猫を使うつもりはない。
それさえ確認できれば問題はありませんわ。
わかりました。この子は教会で保護しましょう。
[小さく頷くと、そっと両手を猫へと差し出した。]
[少々の悪乗りをした後、目的の場所で茜を降ろす。
睨んでいるが、その様子は怒りというより拗ねていると形容したほうが近いあたりが、また笑いを誘う。
そして、アカネは山の魔力を吸収し始めるが……。]
……っ!
[再び頭痛が襲う。]
[腕が肉を裂いたのを感じた。
鼻孔が血液を嗅ぎ取った。
ゴクゴクと、ゴクゴクと、刃からしたたり落ちる液体を頭共が飲み、その味に狂喜した]
…………ゲラ…………
[笑いが漏れる。そうだ。そうだ。ソウダ。
これが、自分の在り方だ。いや、これが自分の存在意義だ。これこそが、己を己とする唯一の……]
ゲラ、ゲラ、ゲラ、ゲラ。
[笑いながら、再度キラーは六本の腕を振りかぶる。
幾多の視線は、もはや獲物と成り果てた少年から離れない]
ありがとうございます。
バーサーカーも猫好きのようでしたから、その猫がいることで何か躊躇ってもまずいですし。
[両手で猫を抱き上げて、平のほうへと近づける。]
行きなさい。ここの方が、安全だから。
[猫へ向けて微笑む。こちらをじっと見ていた猫は、平のほうへと飛び移り、その手に頬擦りをしようとごろごろと喉を鳴らす。]
[一秒を割る速度で交わされる攻防に、みなみは己の無力さを感じていた。サーヴァントを前にすれば、魔術師として何もする事は出来ない。数や敏捷の点、あらゆる点で圧倒するキラーの攻撃に、アーチャーが倒れるのを見る。複雑な思いがこみ上げるのを、みなみは目を反らして押さえつけた]
(……。考えるべきことは、その先のことでも、自分以外のことでもなくて。聖杯を手にすることだけを、考えれば良いんだから。だから、わたしは喜ぶべきなんだ)
[ふと反らした視線の先に、きらりと光る物がある。戦闘中に目を完全に離す程愚かではない。警戒だけは怠らないように、そっとその場に歩み寄った]
……携帯?
[状況から考えて、アーチャーのものだろう。踏み潰す事も、投げつける事も出来た。だが、みなみはそれを拾い上げて、そっと、自分のポケットに忍ばせた]
―午前 中央ブロック―
[転々と地面に身を投げ出し、止まったのはプラスチック製の緑色をしたゴミ箱の横。左肩に受けた裂傷は大きい。傷口からじくじくと蝕まれるような怖気が少年の身体を侵しはじめる]
……くっ、痛ぅ……ッ、、、っ。
[どうにか身を起こし、三者の距離を測る。と、同時に。
少年を現界させる魔力の源――マスターである魔術使いがごく近くに居る事を感じ取った]
[身支度を終え、キャスターの差し出した刀を受け取った。片手で、両手で、具合を確かめるように数度振るう。]
こんなものか。まあよかろう。こいつには蒲生代々の血を吸わせているから、お前とは相性が悪いのかもしれん。
[言いながら蒲生正宗を紫色の布で包んだ。一般人にその存在を認識させないため、布には集中しなければ意識できない暗示の魔術が施されている。]
では、行くぞ。周辺の地図は頭に叩き込んでいるだろうな。まずは流廻川のあたりだ。
[キャスターの返事も待たずに、玄関へ向かった。]
[膝の土を払って立ち上がる。]
……。
[信長にこの事を知らせなければと振り返ると、様子がおかしい。]
…どうしたの?
[少し心配そうに、顔を覗きこむ。]
[再度の襲撃を期して兇器を振り翳す巨人と、その繰り手と。
動向を見遣りつつ、遥か上方に居るらしき青年の存在との天秤に掛ける]
――無理は、するな、と。仰いました、ね……。
[思い出される柔らかな調子の声。結論は明らかだった]
[立ち上がると、もう一度会釈をする。]
それでは、失礼します。外に待たせてるので、色々と心配ですから。
[教会を出ようとして振り返る。猫がこちらを見て、一度だけ鳴いた。それを聞いてから外へとでる。
バーサーカーの姿を見つけると、そちらのほうへと歩いていった。]
[次々に襲い掛かる凶器をダビデは辛うじて回避した。
いや、正確には幾つかの傷を負っているが致命傷はなかった]
まったく、ひやひやさせてくれるね。
[軽口を叩きながらも安堵の表情を見せる]
直感と幸運は伊達じゃないってことか。
[昨晩、確認したステータスを思い出す。
表情は大分緩んでいたかもしれない]
[身を起こすのも精一杯そうなアーチャーを冷静に見下ろした。決着がつくのも時間の問題だ。このまま戦闘を続行すれば結果は明らかだ。逃げると言う行動をアーチャーがとるにしても、そのタイミングはすぐに訪れるだろう]
もしも、神様が居るとして、あなたがさっき言った事を本当に聖杯に願おうとしているなら。
どうして、あなたとキラーの状態が逆じゃないんだろうね。
[
その背に向けて、小さく頷いて。
しなやかな足取りで、主の後を追い。外の光を浴びた、そのときだった。
]
……あら?
[
微かな違和感。
寝室の隅に忍び込んだ蠅の羽音を感じた瞬間のような、不快な感覚。
腕のいい魔術師、なのだろう。
他のサーヴァントであれば、恐らくは気付くまい。それだけの手管と、慎重にも慎重を重ねた動き。
だが、相手が悪かった――……魔術師のサーヴァントたる存在が、自らの結界に干渉する魔力を見落とす筈がなかった。
――……くすり、と。ほんの僅か、口許が緩んだ。
]
[微かな声が聞こえる。
それはまるで地の底から響くように深く。
己の内から囁かれているかのように近い。]
……なんでもない。
少し、頭痛がしただけだ。
[その痛みはじわじわと、己を蝕むが如く。]
――……マスター、少しお時間を。何者かが、この屋敷を探っています。
[
許可の言葉は、待たなかった。
結界を探る波には触れず、好きなようにと泳がせて。意識を集中し、薄く細く伸びる、魔力の糸を辿っていく。
そうして、不埒な監視者にまで、今一歩で辿り着く。その瞬間だった。
]
な――……!?
[
――極めて強力な、神秘を帯びた魔力の波動。
そちらに意識を奪われて、探査に伸ばした魔力は千切れた糸のようにと弾けて飛んだ。
]
[キラーは飛び道具の類は持っていない。
凶器は、刃。それ以外の武器は是としない。
それは肉の感触を楽しむためなのか、切り裂く手応えが無ければ不安であるのか、それこそが美学であるのか……。その全てあることは、内で蠢く数多の魂が証明している。
故に、キラーは距離を詰める。哄笑しながら。
それがこの相手にとっては最善手であることも、キラーはすでに理解していた]
[教会を出て行く瀬良を見送ると、手の中の猫を見つめる。
猫は暫く教会の扉を眺めたあと、芽祈を見上げてにゃぁと鳴いた。]
おお、よしよ〜しいい子いい子。お前はノラか? 飼い猫か? うん?
[唐突に猫を頭上に掲げると、台所に向かって走り出す。]
猫鍋にしちゃうぞ〜〜〜☆☆
もう、済んだのか。
[マスターは振り返らず、道行く人を麦藁帽子の下から見る。
いや――実際に見ていたものは、もっと遠くの。
その過去、小さな動物とは縁が無かった。
人以外の生き物と言えば。
午前の見世物として殺し合いを――火や槍で追い立てられて強制された野獣。
磔にした誰かを食らう――公開処刑を任された猛獣。
奴隷との死闘、海戦を模した戦い。
息を吐くより速く牙を剥き、剣を刺すより正確に肉を貫く。
想起も束の間。息を逃がして、肩の力を抜いた。]
猫のことはいい。
これから如何様に行動するんだ。マスター。
何者か……、そんなことは捕まえてみればわかる。遊んでないで即座に行動し――。
[言いかけた時、延も強大な魔力を感じた。]
キャスター、正確な方角を教えろ。
……?
[どこか様子がおかしい。わずかでしかないけれど、そう、口調に余裕が無いように感じる。
けれど、『なんでもない』と言われれば、それ以上追求する事は避けた。
心配するような目の色は隠せなかったが。]
…そう。
ならばいいのだけれど。
ところで、どうやらここには…誰かが何かを仕掛けてあるみたい。
見事に妨害されたわ。
当面は問題無いけれど…。
[そう言うと、状況を説明した。]
これから、か。時間がもう少し経てば、いってみたい場所もある。
それまでは、そうだな。夕べサーヴァント同士の戦いがあったはずだ。そこへ行こう。何か手がかりがあるかもしれない。既に教会が手を回して入るだろうが。
[先を問われ、バーサーカーへと返す。視線は、二人の男が消えていったほうへ。]
はい。ここから東――……駅の方角です。
[
応じながら。屋敷の周囲に配置していた、監視用の使い魔。
そのうちの一匹。薄茶色のハトを、戦いが行われている方角へと羽ばたかせた。
戦闘が続く間に辿り着ける可能性は低いだろうが、僅かでも情報が得られれば、儲けものだ。
]
大丈夫だ……心配するな。
[心配そうな視線に気がつき、髪を撫でる。]
ただ、此処は離れたほうがいいかも知れねぇな。
[ああ、そうだ此処にいると。
前と同じ様に。]
なるほど、霊的拠点を防ぐ、か。
確かに戦略としては効果的だな。
如何する?
[ゆらり。陽炎が揺らぐように凶手の姿が動く。
常人が立ち向かおうとまず認識不可能な、『無拍子』の動き。
だが三度目ともなる今では、極僅か――あるかなしかの“起こり”を知覚する事が出来た。立ち上がり、宝具へと魔力を籠める]
――来るがいい。至近から受ける覚悟があるのならば。
[言葉が通じるとは思えなかった。だが陽動とはいえど魔力の集中は明らか。利き腕に構えた宝具を射出する体勢に移る]
朝の駅前で宝具を放つとは、な……。余程乱暴な奴ららしい。
力押しは嫌いではないが。
[キャスターが使い魔を放つのを確認して、再び移動し始めた。]
こそ泥も今ので逃げただろう。
我々は予定通り流廻川へ向かうぞ。
…………それは構わないが。
[巨大な魔力の衝突を感じたあの場所。
感じた違和をまだマスターには告げていないが、もし張本人が現場に戻っていたとしたら、果たして勝利を齎すことは出来るのだろうか。
マントの下で、剣を確かめるように握る。]
どの道、拠点に戻ったところで収穫は望めない、か。
承知した。
[少女に近付き、いつぞやのように抱えようとして、止まる。
廃工場から出る時に彼女は何も言わなかった。
それに――今はまだ人通りもある。
近付く為に踏み出した歩をそのままに、何やら巨大で不可思議な物体――線路を通貨する電車の方へと歩き出す。]
感知には疎い。尾行や監視の類は、君に任せる。
[片手はマントの懐へ。
いつでも、何があっても、刃を交えられるように。
位置はマスターの少し前。
――突然飛び出した誰かがいても、壁となれるように。]
[髪を撫でられて、思わず頭を振って振り払う。妙にどこかがくすぐったくて居心地が悪い。]
…いちいち触らないでよっ!
[眉間に皺を寄せて、抗議する。]
そうね…。
おそらく、仕掛けたのは魔術師…。
そいつを見つけ出して消すのが、一番手っ取り早いかしら。
[物騒な事をさらりと言う。]
手当たり次第に敵に当たって行けば、その内見つけられるかもしれないけど、魔力が補給できなければ、どうしようも無いもの。
[少年の手に、武器に魔力が収束していく。キラーはニィ、と笑む。
それしか攻撃の手段は無いのか。その武器は、近距離では使用しづらいと言うのに。
距離を詰め、切り裂く。やることはそれだけである]
…………ッ!
[キラーの取った行動は、しかしその思考とは真逆であった。横に跳び、距離を開け、身をかがめる]
すまないな。
不安そうな顔してたからな、俺には撫でるぐらいしか思いつかねぇんだ。
[払われた手を引っ込める。]
魔力不足となるのは痛いな。
特に俺の宝具は気軽に使えそうにない。
その事を踏まえても常に万全にしておきたい所だ。」
[思惑は通じたのか、或いはまた異なる戦闘論理が敵手の内で回答を出したのか。どちらにしても機はこの瞬間しかなかった]
――破ッ!
[真名は解放することなく、ただ鋼のつぶてのみを放つ。
単なる鉄では霊的存在であるサーヴァントには通じない。射線のはるか先には、巨人ではなく魔術師の娘。弾丸の行方を見届けることなく、腕の反動を利用して身を反らし、跳躍する]
[少し前に立って歩くバーサーカーの姿に、少しだけ眉を顰めた。]
そのマントはどうにかならないものか……。
[口に出したが、バーサーカーには聞こえなかったかもしれない。]
場所は西のほうだったな。線路沿いに行こう。何か感じたら、声をかける。余り急ぐな。
[小さく口の中で唱えるのは、感知するための魔術。音を集めるように、存在する魔力の糸を手繰る。]
[傷は自分が思ったより深かったのだろう。
ダビデは苦しげな表情を顔に浮かべて敵サーヴァントと対峙していた。
限界を悟り念話で撤退を促そうとしたが、そんな杞憂は必要なかった。
ダビデ自身も己の状態を理解していたに違いない。
宝具の展開を遣う振りをして通常弾を放ち、その隙に撤退を始めた]
よし、僕もそろそろ離れようか。
[高めた魔力を空に霧散させダビデが去っていった方向へと重力を操りビルを伝って移動し始めた。
距離があったせいだろうか、最後までダビデが落とした携帯電話の存在に気づくことはなかった]
[キラーの真名は、ジャック・ザ・リッパー。それは本来戦士ではなく、殺人者。それも女性を凶刃で殺してきただけの、真の意味での戦いとは遠い者たちである。
先刻受けた攻撃を耐えきったことには、キラーに高揚と安定をもたらしはした。だが、その甚大なる被害はキラーという存在の根底に恐怖心を植え付けるに十分でもあった]
……グゥァァ。
[魔力が収束していく少年の武器を、獣のような唸り声を上げキラーは警戒する。
その少年の腕が、武器が振るわれる。鋼の礫。それはキラーではなく、そのマスター、みなみを狙ったものだった]
(……う)
[こちらの理不尽な怒りに素直に謝られると、なんだか申し訳なくなる。
わかっていた。
信長が純粋に気遣ってくれている事は。]
……別に、謝ってくれなくてもいいわよ。
[口から出るのは、そんな言葉でしかなかったが。]
とりあえず…今はほぼ魔力は全快だわ。
ただ、これから先も上手く補給できるとは限らない。それが不安ではある。
仕掛けた魔術師を消すまでは……力をセーブして戦う事になるかもしれない。
…そんな戦い方、お互い似合わなそうだけど。
まさか丸裸で出歩くわけにも行くまい。
[確かに、先ほど観察した限りではバーサーカーのような服装の人間はいなかった。しかし――積極的にこちらを振り向こうとする者がいなかったのも事実だ。
麦藁帽子の効果なのか。
はたまた怪しすぎて振り向けなかったのか。
その辺りはバーサーカーの与り知るところではなく、とりあえず「振り向かれてはいないらしい」という結果だけは十分だった。
急ぐな、と言われれば歩速を緩める。
次の電車はまだ来る気配が無い。日光に照らされた鉄のレールはいかにも暑そうだ――などとどうでもいいことに気を遣っている余裕は無かった。
先ほど考えたように、相手はアサシンかもしれないのだから。
マスターの足音が消えていないことを確認する為に、何度か立ち止まり、振り返る。結果その行為は、歩幅の違う二人の速さを調節するに十分だった。]
[キラーの六本の腕が一本、伸びる。
それは自分の獲物を他人に横取りされたくはないという単純な理由であり、それが苦もなく可能であるという明確な確信が持てただけの話だ。少年の投石紐に収束した魔力は霧散していて、キラーの目をしても、ただの礫にしか見えなかった。
みなみに迫る礫をはたき落とす。
逃げる少年の姿は、視界に捉えていた]
−西ブロック→流廻川−
[川原に到着して周囲を見渡す。]
ここなら少々派手にやっても問題あるまい。
キャスター、川原の石に結界を仕込め。
魔力の塊、お前たちサーヴァントを縛り付ける結界だ。
どれほどの効果が見込めるかはわからんが、何もしないよりはよかろう。
まぁ、気にするな。
アカネは綺麗な髪の色をしているからな。
気軽に触られるのが嫌な気持ちはわかる。
[そうして、背を木の幹へと預ける。]
宝具を使わなければ問題はねぇだろうが……。
戦闘面では不安が残るのは確実だな。
前途多難だ、な。
――判りました、マスター。
相応のものを仕掛けるとなると、恐らく、何時間かは要すると思います。
[
応えて、作業にと取りかかる。
真夏の太陽は、容赦なく日差しを注いでいて。
どことなく、あの砂漠の国が脳裏に過ぎった。
]
[川のほうへと近づくに連れて、手繰る糸は色を付けていく。何者かの魔力。そうではない霊道。昨日の痕跡のような、淡く、けれど激しい残滓。]
どのサーヴァントかまではわからないな……。
[移動する欠片。それはとても微弱な波動。古い過去の遺物。語りかけてくるのは、それに流れた幾千の夜。]
バーサーカー、待て。
[留まるように投げる声。視界に入ってくるのは川の流れ。そこに、何かがいると糸は告げた。]
[ぐらりと、体が揺れた。一睡もしていない状態での召還と、立て続けに起こった戦闘。多少の魔力消費では動じることがなくとも、それが多量となれば体調へ影響を及ぼすのは魔術師として必然だ。意識が遠退き掛け、必死にそれを戻す。
その時、視界に映ったものは、態勢を立て直したアーチャーの手元から放たれる、鈍色のつぶて]
っ!
[頭の中を様々な選択肢が浮かぶ。だがそのどれも間に合わない――]
[恐れていた衝撃は、なかった。かわりに、足元から伝わる衝撃。見れば、キラーの足元に、迫っていた鋼は落ち、地面が凹んでいた。アーチャーの姿はすでに無い]
……助けて、くれたの?
[その行動はとても意外なことには違いなかったが、驚きよりも先に、嬉しさが先立った。戦闘の為に距離を取っていたその位置から、一歩、キラーに近付く。ポケットに入っている携帯が、ずしりと重く感じた]
ありがとう!
[信長の言葉に、こう、なんとなく抗議したくなるのだけれど、上手く自分の感情を言葉に出来なくて、そのまま飲み込んだ。]
…手が無いわけでは無いけれど。
[ぼそりと呟くと、左手の令呪を見つめる。
よく見ると、その証の周りの皮膚は、茜の皮膚の色と少し違っていた。それを見て、目の色がふっと暗くなる。]
…まぁ、最終兵器は最後に取っておくものだわ。
今は、やれる事だけを考える。
まずは、情報収集かしら。
考えてみたら、対峙した敵以外に、わかっている事が皆無だもの。
[立ち止まったのはマスターの声ではない。
足元に、枯れそうな野花が根を張っていたから。
立ち止まり、それは結果として支持に従う形となる。
そう、支持にしたがって立ち止まったように見えたのは結果だけ。
本当に止まった理由は違ったから、余計な一歩を――野花を避ける為に踏み出してしまうこととなり。
振り向く暇も無く、せせらぎの歌に、踏みつけた小石の音を紛れさせてしまった。]
――私には、まだ見えないようだが。
[小声で問う。
裏腹に、マントの懐で剣を握る手へ力が篭った。]
[
ふと、僅かに漂う痕跡を見付けた。サーヴァント同士の戦闘の残滓。
そんなものがあっただろうか――魔力の薄れ具合から時間を逆算して、思い至った。
伽を命じられて、絡み合っている最中のことか――……いや、絶対にそうだ。でなければ、気付かないわけがない。
報告をするべきかどうか迷って、口を噤んだ。
理由が理由であったし、それに、きっと過ぎ去った戦闘のことなどに興味はあるまいと。
]
[礼を言われても、キラーはみなみを振り向かなかった。少年の去った方角を凝視する。
相手の武器は投石紐。それが普通の品であれば射程距離は知れているが、そうでないことなど分かり切っている。ならば、逃げ去ったと見せかけて遠距離から攻撃される可能性はあった]
……この場を離レる。
[みなみの返答も聞かず、気配を遮断。少年の逃げ去った方角に背を向け、影に紛れるように歩き出す]
[
作業自体は、存外に楽に進んだ。
どうやら霊道となっているらしき川から、魔力を汲み上げて。
幾つかの基点を作り、結界のカタチを成していく。
全身に汗が滲むのを自覚して、手の甲で拭う。
ふと、表情を崩さない主はどうなのだろうと、思い至った。
暑気にあたって戦争から脱落などということになれば、洒落にもならない。
]
――涼風よ。
نسيم سرد بكن
[
主に気付かれぬように、小さく呟いて。作業にと戻った。
]
[ビルの屋上を走りながらダビデの携帯にコールをする。
暫く待っても反応はなかった。
負傷で電話に出る余裕が無かったのだろうと判断しコールを止める]
電話にもでれないとなると、ちと拙いね。
[走る速度を上げて合流を急いだ]
いやな、気配だ。
[術を解く。遠く、目に映る川原に、二つの人影。目を凝らすまでも無く、そこにいるのが魔術師だと知る。]
何があるかわからない。私たちと同じように、昨日のことについて調べに来たのかもしれないが。
[バーサーカーの背に隠れる。つ、と汗が流れた。暑さからではない。魔術師としての、勘のようなもの。]
[みなみの言葉に対し、キラーは振り返る事も、独特の声を発する事も無かったが、それでも、自然に浮かんだ微笑は消えなかった]
あ、ちょ、ちょっと待って!
わたし、眠くて死んじゃいそうなんだからー!
[考えるべき事は山ほどあれど、とりあえず頭を白紙に戻す。ふっと力を抜けば、辺りに張っていた結界が収束した]
[――……七割方、結界が組み上がった。再び、息を吐いたとき。]
――……これは?
[
こちらに触れた魔力の糸、そして、サーヴァントの気配。
川に流れる魔力と、作成途中の結界。
それに、自分の唱えた魔術に紛れて、至近に迫られるまで探知出来なかったようだった。
]
……マスター!
魔術師とサーヴァントが……至近にいます。
[静粛の中でバイブレーションの音は響くもので、タイミングの悪さにぎゅっと目を瞑る。振り切ろうとしても振り切ろうとしても、出会い、そして拾ってしまった物は、そう簡単に落ちはしないと言う事なのだろう。それでも今は、目を反らしていたかった]
あ、マネージャーから電話だ。
そういえば後で電話するって言ってたんだったー。
[聞かれてもいない事をキラーの背中に説明をしながら、声の震えが伝わらない事をただひたすらに祈った]
[キャスターの報告と時を同じくして、左手甲の令呪が反応する。]
どうやらそのようだ。結界は……、まだ使えんか。
已むを得んな。警戒は怠らず、相手の出方を見る。
[転がった小石の行方を知る間も無く、背に新たな感覚。
目を離すべきではない。
マスターは何処かに気配があると言った。
ならば川から――川原から目を離してはいけないのに。]
…………。
[小さなマスターは、そこにいた。
背に隠れるようにして、様子を窺っている。
――――その姿に。
何を思い出したのか、思い出さないよう、つよく柄を握った。]
[少女の視線を追う。
遠く、霞むほごでもない場所に、二つの形。]
そこにいろ。
[マスターを制し、バーサーカーは川に沿って歩いて行く。
剣はまだ出さない。スキルも、まだ解除していない。
足に蹴られて転がる小石に視線を取られている余裕などない。
策も無く、未知の誰かへと近付いて行く。]
――――ク。
[笑いのような、溜息のような、音が、仮面の下で漏れた。]
[キャスターの報告と時を同じくして、左手甲の令呪が反応する。]
どうやらそのようだ。結界は……、まだ使えんか。
已むを得んな。警戒は怠らず、作業を続行しろ。
(ダビデ、聞こえるかい?)
[携帯が反応しないので念話で語りかける。
やはり余裕が無いのかしばらく応答がなかった]
(ダビデ? 聞こえているなら返事をくれるかな?)
[再度、呼びかけをする。
その声は若干焦りを含んでいたかもしれない]
―中央ブロック―
[みなみのサーヴァントが追いかけて来る様子は無かった。
跳躍を繰り返し、流血する傷口を極力意識から排除してマスターへと繋がる経路(パス)を追う]
――幕屋は移動させる、とヒジリは言っていた。なら、合流するのが最善でしょうね……。
[先ほどの戦闘は彼も見ていただろう。無理をするな、と叱られるだろうか。思考の片隅に沸いた益体も無い考えが、少年にとって今は逆に有難かった]
[
指示に頷き、基点にと魔力を流す作業を続けるも。
間に合わないだろうということは、ほぼ確信していた。
何故なら。
]
――……あれ、ですか。
[
もう、その姿は。
堂々と歩んでくる異装の姿は、既に視界にと入っていた。
]
[響く振動音。そして、みなみの言葉。それが携帯電話だと言うことは、自らの内にある比較的近代の魂が知っていた。
興味はない。
元よりキラーは犯罪者の魂が寄り集まってできた群体である。唯一の繋がりは殺人であり、存在の在り方がその一点に収束することで、危うい安定を得ているのだから]
[圧倒されるような、その気配。魔力。術を解かなければ、侵食されてしまいそうな、感覚。
走り出したバーサーカーのほうを咄嗟に見た。]
逸るな!
[だが、自身が出るわけには行かない。相手は恐らく、とサーヴァントであろう女性のほうを注視する。]
キャスター、か……。ならば、まずい。対魔力など期待できない上に、キャスターに私の魔術がきくとも思えない。なら。
[自分が目指すのはマスターのほうだと、ジリ、と場所を動く。]
[馬鹿な行動だと思う。
あれだけ策を練るべきだと進言していた男の行動ではない。
――余計なことを思い出させるから。
お前が悪いんだぞ。マスター。
そんな思念を端に抱いて。最後に、一つまた「笑って」、]
[駆ける体は疾駆というより跳躍に近い。
マントの中から既に刃は抜いている。
麦藁帽子はさも当然のように吹き飛んで、仮面が露に。
その表情は無ではなく、笑みに固定された紋様。]
[こちらを案じる様な青年の呼びかけ。息を整えながら、大よその距離を測って答える]
(……ええ、なんとか。大丈夫、です)
(……ヒジリ、あなたの大体500メートルほど後方に私はいます。追いつきますから、少し待っていてください)
[ある意味では予想通り、キラーがみなみの不自然な言葉や、携帯電話の存在に興味を示す事もなく、家へ向かって足を進め続ける]
キラーは、聖杯を手に入れたいの?
それとも、――ただ、殺したいの?
[マスターとしてサーヴァントに聞くべき事は、たくさんあった。だが、歩み寄る道が利害の一致と言う一点である以上、そこを確認しておく事は、今一番大切なことのように思えた。マスターとしてだけではなく、魔術師としても]
――……よくよく、愉快な姿のサーヴァントと縁があるようですね……!
[
吐き捨てて。魔力回路を全開に、身体の隅々までも魔力を巡らせて。
]
――……マスター、退がって下さい!
[先ほど感じた微弱な波動は、キャスターの魔力とは異質のものだった。
バーサーカーとは逆のほうから、川原のほうへと近づいていく。]
……この、感じは。
[近づくに連れて、令呪が疼く。同時に、「馬鹿」と評した魔力の主だと気づいた。]
そういうことか。
[敵わないのは理解していた。それでも身体が勝手に動いた。]
キャスター、援護しろ。
[言いながら、駆ける。紫の布を投げ捨て、鞘から得物を抜く。]
“軽身”、“妖刀”。
[一節。風が術者の身体を包み、抵抗を消した。
二節。愛刀に魔力が流れ、切れ味を増した。
鞘も投げ打ち、眼前のサーヴァントに向かって疾る。]
[返事が戻ってきた事で焦りは消えた。
一息つきながら足を止めるとすぐにダビデは姿を見せた]
お疲れ様、とりあえず無事で何よりだ。
状態はどうだい?
[労いの言葉をかけながらダビデの様子を伺うと遠目から見ているよりダメージは大きかったようだ。
その様子を見てダビデに向けているラインを少し広めに開き、魔力を多少多めに送り出した]
[背後からかけられた、みなみ問い。それはキラーにとって単純で、簡単で、明快な愚問だった]
……聖杯が要る。
[視線だけ振り返り、簡潔に言う。しかし、キラーはそれ以上を説明しようとはしない。
あの少年に問いかけられたとき、キラーはなぜ聖杯が必要であるのか答えることができなかった。
ただ漠然と、使命のように、それが何故なのかも理解せず。キラーは聖杯を求める]
――馬鹿な! マスター、何を……!!
[それでも、最早、駆ける主を止める術はない。ならば。]
くっ……!
――筋力強化!
زور حيوان تقويت
肉体よ、鋼に――!
اتو بزن
[咄嗟に、援護の呪を送った。]
[聖からの問いかけに首を振り、押さえていた左肩の傷を晒す。
流血は徐々に収まりつつあったが、未だ血の色は真新しい]
……状態はあまり芳しくありません。すみません、少々無理をしました。戦闘の報告は、できれば落ち着いてからに。
[少年の身体へと流入する魔力が増大し、蓄積された疲労と消耗が軽減されるのを感じる。とはいえ、その場で回復が可能なほど軽い傷でもなかった]
[弾かれるように此方へ向かってきたのは男。
その武器は長い刀。
対してバーサーカーが持つ剣は、剣としてのカテゴライズの中では短い。ならば問題となるのは間合い。
だが、今のバーサーカーにそのようなことを構う暇などない。
水平に「跳躍」したバーサーカー。
回避など知らないと、間合いなど知らないと、向かってくる男へと突っ込み、何の技巧も無く力任せに剣を横一文字に薙いだ。
疾駆し突撃した全体重が、剣の重みへと上乗せされる。]
[川原へと降りる。相手のマスターと思われる男は、バーサーカーに向けて駆けていた。]
……愚かな。
あの刀がどれほどのものかしらないが、素人の腕で敵うとでも。
[一瞬呆気に取られた。例え人間として達人の域だとしても、無謀に思えた。]
了解。じゃあ簡易的に治療をしておこう。
話はホテルでゆっくり聞けるしね。
Un principio curativo
[手を傷口の上にかざし癒しの魔法を発動させた]
すまない、癒しの魔法はそんなに得意じゃないんだ。
それでもないよりはマシだと思う。
[魔法の効果かダビデの傷は表面上は先程より治って見えた]
これでは、援護といっても……!
[
魔術を使おうにも、狙うべき敵に対して斬りかかっているのは、自らの主。
得意とするのは、この状況では役に立たぬ使役の魔術のほかは、広範に影響を及ぼす――要は大雑把な――魔術ばかり。
細かな精度にはあまり、自信もなく。
まして、武芸者ではないこの身には、剣舞を捉えることも出来ず。
]
そっか、それなら、良かった。
[それ以上を聞く気は無かった。キラーの目的を聞くことも、先ほどの会話を思い返すことも、そして、キラーに問い掛ければ自らにも無意識に問い掛けてしまう。それは彼女にとって今、一番避けたい事だった]
うーん、お家帰ったらいっぱい寝よう。
起きたら、ご飯作ってあげるね! わたし結構料理上手いんだよ。一人暮らしが長いから。
あ、あと、起きたら、案内の続きをしつつ、偵察にも行こうね。
[みなみは楽しそうな声で、キラーの背中に向かって話し掛ける。例えもし、振り返られても表情が見える事のないように*俯きながら*]
[サーヴァントの剣戟を愛刀で受け流そうと試みる。
――が、力量差は触れるだけでその肉体を弾かせた。
刀の力とキャスターの肉体強化が無ければ、腕ごと飛んでいたかもしれない。]
ぐ――ッ、“空”。
[真横に吹き飛ばされる身体。それを風が包み、かろうじて地面への激突を避けた。
――が、勢いは殺しきれずに激しく転がる。]
―中央ブロック→ホテル・館内―
[治癒の魔術。
信奉する力の体系が異なるとはいえ、一部の例外を除けば技術としての側面はさほど大きく変わるものではない。抉られた左肩の裂傷が、少年の見守る内に縮小していった]
癒しの技に、感謝を。ヒジリ、助かります。
それで――マスター、新たな幕屋というのは?
[尋ねると、青年はこちらだと示し、先に立って歩き出した。
その後を追い、新たな拠点となったホテルの内部に入っていく]
ヒ。
[何かが当たった。何かで防がれた。
刃は肉を奪わず、男を吹き飛ばした。
だがそれは不自然に失速し、転がり――。
そんな様相など観察する隙も無く。]
ひッひひひひッひひひ
[片足で、突撃した際の己の体にブレーキをかけた。
触れた小石の群が、小さな爆発を起こしたように飛ぶ。
そして勢いを殺した巨躯が、追撃を試みる為に男へ駆けた。
疾駆の間に片手が柄から離れ、マントの中へ。
そして、取り出す。]
[既に握っていた左手。
そして――新たに握った右手の剣は、まったく同じ形。
あまりに短い刃渡り70cm。
幾度も人の命を奪った刃は、二つとも欠けてぼろぼろ。
先ほどは一撃だった。
防がれるならより強く。
肉を貪り損ねたならより速く。
――だが、男へと到達するまでに。
間に割り込む魔術は、第三者の――キャスターの炎。
既に地を蹴っていた体は失速も叶わず。
直線に、爆ぜる炎へと衝突した。]
[ダビデを連れてホテルに戻るとカーペットの上に六つの宝石を置いた。
宝石に魔力をこめて術式を固定すれば簡易的な魔法陣を完成である。
六芒星魔法陣を選択したのはその出自を考えた為だった]
この中なら回復も早いだろう。
じゃ、疲れてるところ悪いんだけど経緯を教えてもらえるかな?
[宝具の使用された魔力、癒しの魔法に、魔法陣。
自身も連続して魔力を使用した為、体を休める為に備え付けのソファーへと座り込みながら声をかけた]
[自分が割り込んだところで、バーサーカーにとって邪魔にしかならないのはわかっていた。
そしてバーサーカーの体躯に、強化するための魔術をかけたところであまり意味を持たないだろうことも。
その体が、バーサーカーにとっての武器。それは、魔術師に手を出せる範囲ではなかった。]
それに、今は無駄な魔力を使うときではない。
[詠唱を始めようとして、やめる。今でも、魔力は失われ続けているのだから。バーサーカーの、狂化によって。]
[激しく転がりながらも、風の助けを借りて体勢を整える。肉体は既に大小の打撲・擦過傷に覆われていた。それでも戦意は衰えず、両手で愛刀を構える。
――と、獲物との間に爆風が生じた。]
ち、余計な事を……。
[その時、川原に駆け寄る少女の姿が視界に入る。
次の瞬間にはそちらに駆け出していた。]
[
どうする、どうすればいい。
恐怖を噛み殺して、混乱する頭脳を叱咤する。
――……結界は未だ使えない。
必勝を期すならば、ここは退いて再戦するべきだ。
だが、主はそれを認めまい。ならば、どうする。
……宝具を使えば、援護も幾分か楽にはなるだろう。
だが――……使えば、確実に真名は知られてしまう。
最弱のクラスの、そこに該当したのさえもおかしいような存在が。
この序盤に、真名を知られることは、あまりにも不利に働く。
――どうすればいい、のだろうか。
魔術の知識はあれど。戦の機微など、知る機会など終ぞなかったのだ。
迷う間に。
主は迷わずに、動いていた。
]
―中央ブロック・ホテル室内―
[少年―あるいはダビデ王として生きた人物―の経験と歴史の中には、『ダビデの星』として知られる図形を考案した記憶は無い。だが“英霊の座”に奉られ、付与された伝承が、彼のマスターが描いた図形との親和性を少年に齎していた]
――そうですね、ええと――
[気遣いに感謝して、その中央に座する。通常よりも遥かに効率的に、大源(マナ)から魔力が集積されていくと感じ取れた]
こっちにくるか。ちょうどいい。手持ちの武器が無いのが惜しいところだな。
[こちらへと向かってくる男に、いつもとは違う笑みを見せる。]
とはいえ、それほど魔力は使えない。面倒だ。
Свободно
Быстрее света
[短くした詠唱は、それでも効果を発揮する。自身の中に向けて発される魔術。それは、内から「時間」を切り取っていき、術者の速度を変化させるもの。肉体の限度を知らず、加速する。]
[炎の中から形が現れる。
爆炎でマントはぼろぼろ。中に収納されていたグラディウスが幾つか見て取れる。破れた布の間、皮膚についた傷跡も、焦げ後も。
だのに。
珍奇な笑みに歪む仮面には、傷一つついていない。
殺気が――視線がにらむ先は、女。
己のマスターに襲い掛かる男になど目もくれず。
自身に炎を浴びせた相手。
傾いた首とともに斜めになった仮面が見つめる。]
ひ。
ひッひッひャひャひひひッ
ひは、ひャッひひゃひゃひゃは
[二剣を握り直し、疾駆する。]
[男の発した声と共に、周りに浮かぶ真空。恐らくは傷つけるためのもの。けれども意に介すことは無い。]
牽制のつもりか?
[地を蹴る。軽く浮いた身体は、「鎌鼬」の合間を縫って宙へと躍り出る。落下はしない。正確には、ゆっくりと降下していた。]
キャスターが危ないとは、思わない?
私に構ってる暇がある?
[遭遇した娘。
傍らに居た闇色のサーヴァント。
不可思議な“間”を持って襲い来るその戦闘形式。
不定形であり、かつ高速の再生を為した異形。順に語っていく]
あのサーヴァントは、数多の名を口々に述べ立てた後に。
『ジャック・ザ・リッパー』と名乗りました。
恐らくは、それが真名だと思われます。
複数の存在―魂?が融合したものなのでしょうか……。
[魔法陣に戸惑うダビデを不思議そうに見つめた。
戸惑う本人を他所に魔法陣が効果を発揮しだすのを見て満足そうな表情を浮かべた]
さて、本題に入ろう。
[一瞬でこれまでの和やかな空気は消えた。
顔に浮かぶ表情はまるでこれから戦いが始まるかの様な表情だった]
[
呆けていたのは、ほんの一瞬。
その一瞬に、自分に目標を定め直した狂犬が、けたたましく笑いながら迫り来ていた。
]
――……マトモに喋れるサーヴァントはいないのかしら!!
[呪を紡ぐ暇もなく。後ろに跳びながら、碌に狙いを定めぬまま、単純な魔力弾を立て続けに撃ち放つ]
[記憶を辿る。みなみ―マスターの娘が口にしていた言葉の切れ端を拾い上げる]
そうだ。眞奈みなみと名乗ったマスターの娘。
彼の者の言葉を彼女が繰り返していたんです。
――「事件?」と。また、娼婦殺しだ、とも。
[
――不味いな、と。
このサーヴァントに対魔力はないようだったが、にしたところで、サーヴァントを殺し切れるだけの魔術を紡げるわけでもない。
加えて、敵マスターと自らの主。
刀の間合いにまで踏み込めるのならば兎も角、魔術師としての力量は明らかに、敵マスターが勝っている。
このまま戦いを続ければ、敗北は必定だった――……主従のいずれが先に滅ぶかは、兎も角として。
]
[自在に変化する腕と形状。
巨体を意に介さぬ機敏さと、それに見合った耐久力。
標的の殺害のみを目的として純化されたような行動様式。
戦闘の中から導き出した答えを、少年はマスターに告げる]
ひとつの推測ですが――彼の者は、『人殺しの罪』を中核として具現した、架空の英雄像ではないでしょうか。
英雄、と言うにはあまりにもおぞましい存在では、ありますが。
死ね、小娘。
[両手に握った刀を、跳躍する少女に向けて袈裟切りに振り下ろした。
が、少女は常識を逸脱した速度で移動する。
風の動きから不自然さを感じた。]
こ、これは……、時間干渉?魔法の域ではないか!この娘、何者だ……!?
ひ ッ ひャ
[突撃する――。
しかしそれは真正面からの大いなる力に迎撃される。
一撃、二撃、三撃。]
ひゃ
ひ ッ ひ
[愚直な前進しか知らぬバーサーカーは避けきれるはずもない。
粗野に振り回す両剣――だが概念宝具ですらないそれらで、霧散出来るはずもなく、全弾が直撃した。
威圧は弱まる。
足は、止まる。]
[全身から爛れたような煙が上がった。
――それでも、仮面は白いまま。]
ひ、ぎぎ、ひひゃ カ
[苦悶のような声を漏らし、力強く一歩を踏み出す。
崩れかけた己の体を支えるためだ。]
[ ――ジャック・ザ・リッパー ……。
切り裂きジャックとも呼ばれたブリテンの殺人鬼の名前だった]
なるほど、比較的最近のイギリスの殺人鬼だな。
数多くの女性を猟奇的に殺害したんだけど結局捕まってないんだよね。
類似の事件も起きているから複数の存在の英霊となっていても不思議ではないな。
クラスで考えるなら恐らくアサシンだろうね。
ただ、英霊に値する存在なのかってのが気になる。
彼の場合はただの犯罪者だから……。
[自分の持っている知識、そして疑問点をダビデへと伝えた]
そして、彼の者に人の身で接敵する事は、あまりに危険です。
マスターである、みなみが殺害されていないのが不思議なくらいに――ああ、成程。
[サーヴァントに、己のマスターは、殺せない。
そう言い切った彼女の強い口調を思い出した]
――令呪で縛っているのでしょうね。自らにその刃を向けるな、とでもいう形で。
[
幸運に恵まれたか。
――それとも、回避するだけの知能がないのか。
足の止まったサーヴァントを見遣って、決断した。
]
――……マスター! 宝具を使います!!
[ダビデの言葉に]
それは十分ありえるね。
100年以上がすぎた今でもジャック・ザ・リッパー、あるいは切り裂きジャックと言えばこの日本でも多くの人が知っている。
まさにその事件の伝承が彼を産んだというか。
元々ただの犯罪者なのにあれだけの強さを持っているのは知名度があるからって事かもしれない……。
[振り下ろされる刀は、今の視界にはスローモーションのように映る。避けることは造作も無かった。]
魔法? フ。
私はただの魔術師だ。
[相手の驚きがくすりと笑みを誘った。それでも、武器の無い状況では避けることしかできないと、思案した時だった。キャスターの声が耳に届いた。]
[
握った本に、魔力を注ぎ込む。
御誂え向きの、存在が手の内にはある。
古びた本が輝き、目にも止まらぬ速さでページが捲れ出す。
]
ハザール・アフサーナ
――千夜一夜の幻想譚
[力を込めて、呟いて。開かれたページから、眩い光が迸る。]
[
その光に紛れて。
小山のような影が、羽ばたいて。
]
――……マスター、舌を噛まないように!!
[
主を鷲掴みにしようとする怪鳥の背から、*主へと叫んだ。*
]
[耳に届いたのは、キャスターの声と、そして発せられる膨大な魔力。]
宝具か!? まずいな――。
構うな、一時撤退する!
[マスターの男を振り切るように駆ける。一瞬、光に包まれるバーサーカーの姿が*目に映った気がした*]
[麗しい声が聞こえる。
理性を失ったとて、本能だけの狂戦士とて。
その光が――仮面の内へ侵食して晦ませるのが分かった。]
ひ、ひャひャ
ギ
ガかか
ヒ ―――
[見上げればそれはそれは大きな鳥。
長い刀を有したあの男をも鷲掴む巨大な影。
二剣を握る手に力が戻る。
全身を包む爛れの煙が、勢いを増す。]
ひあああああああああああああああああああああ
ああああああああははひはあああひゃ―――――。
[慟哭は悲鳴。
狂気は怒号。
入り混じった声は、最早言葉と言う形にすらならない叫び。
それもやがて、怪鳥が生ずる時に生まれた光に飲まれる。
全身に血の気が戻るように。
徐々に取り戻されて行く理性の中で聞いたのは、少女の声。
己の背に隠れていたはずの、*少女の声*。]
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