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[眩みこそしない。
だが、そこには差し込む日差しがあり、蝉の鳴き声があり。
稼動する工場からは人の気配があり、更に遠くには――。]
…………。
[猫を抱えあげる魔術師。
その姿は、事情を知らなければ凡庸そのもの。
もしアレが三毛の猫ではなく、真っ白な猫だったなら、鳩の一つでも想起してしまっただろう。そう、それはこれ以上無い、平和の象徴。
今一度、剣を握り直し、麦藁帽子を被り直す。
揺れる。
揺らぐ。
―――――嗚呼。
狂おしいほどに、平和だ。]
―中央ブロック・路地―
[唐突に闇色のサーヴァントの攻撃が途絶える。訝しく思う間もなく大きく後方へ跳躍。互いの距離はおよそ5メートル。有効射程内、ぎりぎりの間隔。右手を後方へ引き、高々と真名を唱える]
主の御名において、僕(しもべ)たる我が茲に願う!
――《恐るべき御稜威の王(レクス・トレメンデ)》!
[詠唱と共に、鋼弾へと神聖属性を帯びた魔力が収束。まばゆい白光を放った。少年の視線は闇色の姿を捉えたまま。間髪入れずに腕を振り抜き、標的へと調伏の飛礫を射出する]
[それまで検討もつかなかった少年の正体が、子・ソロモンと言う言葉を受けて、一つの名前が浮かんだ]
あなたの名は……、ダビデ?
[彼についての詳しいことは知らず、バト・シェバと言う名も解らなかったが、それに続く言葉に興味を持った。属性の一つ、彼女の声が魔力を帯びて空気を伝わる。歌うようにして、戦いに熱中しようとする少年の発言を促した]
あなたの罪は、バト・シェバを見初めた事と、そして――?
[このままでは、当てるのは難しい。それは結果から導き出した、至極簡単な結論だった。
なら、カタチを変えればいい]
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ――――――!
[醜く肥大した腕。右だけの腕。それが、左も形成されていく。さらに足が、胴が、全身が泡立った。
人の頭が湧き出る。水泡のように。肉で作った醜悪な人形のように、巨大化する。
全てが終わったとき、そこには全身の無数の口で笑う、一つの巨人が居た]
[少年の手から閃光が放たれる。魔力を持つ礫。
関係が無かった。キラーを構成する全ての魂が高揚していた。それは姿形の変移によるものであったし、何より……]
罪無くして、我々は存在できない。
[その声は、混じりのないたった一つの声音]
我は、事件。言うなれば、罪そのもの。
[キラーはその礫を受け止めるべく、その両手を構える。
その腕が、弾けた]
[一瞬、バーサーカーに運んでもらうことも考えたが、昼間だと思い直し、振り返る。バーサーカーがついてくるのを確認して、]
昼間は歩く。運ばれるのは楽だが、どこに人の目があるかわからない。
[先ほど戻ってきた道を逆に、教会へと向かって歩き始めた。腕の中の猫が、小さく声を*あげた*]
[
常人が幸福と感ずる全てを感ぜず、無味乾燥な、意味のない時間と捉える。
それは――なんと、哀しい告白だっただろう。
]
生きる、とは――……そのようなものでは、ないはずです。
[
哀れむような視線を、自らの主へと向けて。
叶うならば、戦い以外の生きる喜びを、この主へと教えてやりたい。
そう思ったのも、束の間。
使い魔を潰された衝撃が、電流のように全身を走った。
]
――……くぅっ!!
ぅ……マスター。
もう一騎のサーヴァントの所在が、判ったようです。
[
苦しげに息を吐いて。
使い魔を置いていたこと、その理由と場所――伝えなければいけないことを、*自らの主へと簡潔に伝えた。*
]
[巨人の姿へ変じた闇色のサーヴァントに、光弾と化した鋼の弾丸が直撃する。巨体を苦にせぬ機敏さで受け止めようとした両腕を白色の爆光が包み込み分解していく]
――消えなさい。邪悪にして混沌なる者。
[”世界の外側”―“いと高き御座”との強制的な接続。
魔力基盤を塗り潰し染め替える筈の光はしかし――蝋燭の灯が吹き消されるように、不意に消失した]
事件、そのもの……?
あの交じり合った声は、そのせい?
[宝具をまともに受けても立っていられる強さに一つ、避けようとすらしなかったことに一つ、声色の変化に一つ。そして、最後にキラーが言った言葉に一つ、瞬き衝撃を受け、黙ってこの場面に五感全てを集中させる]
…………。
残念ながら、親子と見られるには少し遠いな。
[それは少女の「正体」を知っているが故か。
はたまた、光の下を猫を抱え歩く姿が――――ったからか。
猫が一つ鳴くごとに、バーサーカーは麦藁帽子を被り直す。
――奇妙な縁だ。
本音を言えば、猫が己の下に舞い戻ったことが喜ばしくないわけではなかった。ただ同時に、どうして戻ってきたのかと、自ら自由を棄てたような猫に、憤りを感じたことも確かだった。
不審者と見られないように細心の注意を。
自身はともかく、少女はまったく怪しくは無い。
つかず離れずで歩き続けて、やがて猫の帰るべき新たな家となる、教会へと*辿りついた。*]
[結界を観察し終え、次の手を模索している瞬間にそれは来た。
体から急激に魔力が流出していったのだ]
おいおい、宝具をつかったってこと!?
[体から流出した魔力はさほど多くはなかった。
しかし、このまま探索をするに当たっては致命的だ。
魔力の探索途中にこれ以上の消費があれば、その反動で結界に引っ掛りかねないからだ]
状況がつかめただけよしとしよう、撤退だ。
あとは、デービッドを信じるしかないね。
[宝具の使用には驚いたがダビデに対する信頼は揺るがなかった。
昨晩召喚したばかりのサーヴァントになぜそこまで信頼を置けるのか、自分でも不思議だったが……]
[賭けたものは、己の存在意義。しかし、それが己の理念とは矛盾するであろうコトも理解している]
…………ゲラ…………。
[腕、肩、そして胴の半ばまで弾け飛ばしながら貫通した礫。宝具。その凄まじい威力に、キラーを構成する魂のほぼ半分が滅したのを認識する。
それでも、キラーは薄く笑った]
……邪悪にして、混沌。ソレは確かに、私たちのコトだ。
[幾分か、混ざりの少なくなった声で]
……だが、まだ滅しテないぞ。善と秩序ノ具現よ。
[最大の武器であると共に、信仰する神の奇蹟の顕現たる宝具。必倒を期して投じた聖石が防がれた事実。少年に与えた衝撃は小さくなかった]
……主よ。彼の者はいったい、何者なのです。
[邪悪にして、混沌。肯う巨人の嗤い声。数を減じても口々に笑う闇色の姿。幾つかの思い当たる点が、少年が見上げる内に組み合わさっていく。罪なくして存在できない。存在する所以、その意義は――]
[罪。邪悪と混沌。数多の頭や口。暗殺者というには、あまりにも異様な姿。眼前に在る者と呼び出した者と。答えは導き出された]
――罪びとを模した存在。
英雄たるには異様すぎ、しかし常人たるには異質すぎた域外者。
それらの折り重なった姿……なのでしょうか。
[そうであれば何を置いても滅さなければならぬ存在だった。聖杯戦争とは関係なく、主の使いたる英霊として、見過ごす事など不可能な相手だと認識する]
[それは彼の者の神に対する問いかけであった。
しかしキラーは、ニィィと口の端を歪める。痛みに呻く傷口の頭がボゴボゴと泡立ち、打ち震える。再生していく]
我が名は、アラン。
[ゲラゲラゲラ、と。彼は笑った]
我が名は、トーマス。我が名は、神裂。我が名は、ジョヅズ。我が名は、麗鈴。我が名は、ジョーンズ。我が名は、リヒャルト。我が名は、セガール。我が名は――――
[ゲラゲラゲラ、と。皆が笑った]
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