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[
そういう世界しか、知らない――と。
絞り出すように、そう云った。
自分が死ぬか、相手が死ぬか。
そんな、生死の境でしか生きられない、誇り高き戦士の一族。
そういった存在と似通った空気を、この男は発していた。
]
――……まさか。
貴方は、戦いたいのですか――いえ。
――……戦わなければ、生きられないのですか。
―西ブロック・旧住宅街―
[気配を薄くしながら歩く。
目的は蒲生家、400年続く武家だが、その実態は魔術師の家系であある。
今回の聖杯戦争に絡んでくると前々から目を付けていた一派である]
対魔結界か、そしてこいつは……。
これ以上迂闊に近づくのは危険だな。
[かなり離れた位置から自らの重力のセンサーを縦長に展開し念入りに結界を調べる。
結界にはかなり高度な対魔術師用のトラップが張り巡らされていた。
その精巧さは思わず冷や汗をかくほどだった]
しかし、碌な頭首じゃないね。
[同時に辺りからの魔力の流れを感じ取り顔を顰める]
……話ハ、もウいい。
[元より、会話で何かを得ようとしたわけでも無い。
無駄口は必要なかった。キラーはゆらりと動く。影のように。幻のように。
距離を詰め、巨人の腕……肥大化した醜い棍棒を、少年に向けて振り下ろす]
知る必要がない? いや、あるな。
聖杯はマスターとサーヴァント、それぞれの願いをかなえてくれる。
呼び出したとはいえ、それは無条件にサーヴァントを受け入れるということではない。
願いについても然りだ。
英霊の中には、英霊だと奉られていても、その願いは私欲に塗れたものであることも多い。
ただの私欲ならばいいが。
バーサーカー、お前が私の望まない願いを口にするのなら、私は呼び出したものとしてそれを止めなければならない。
それはそれとして。
マスターとサーヴァントには、信頼関係が大事だと思っている。この戦いにおいて、どちらが欠けても望む結果は得られない。又、マスターとサーヴァントが相反しても同じだ。
バーサーカー、私が事切れても、お前が力尽きても、バーサーカーの願いが叶わないことに変わりはない。
切り捨てるのが最善と判断すれば、そうする。けれどそれは最後の手段だ。
外に行ってくる。ついてくるならその帽子を被れ。
[少年の声に、僅かに動揺を聞いたような気がしたが、それは気のせいかも知れなかった。声が敵対しているというのに少し柔らかいものへ変わる]
あんまり頭が良い方じゃないから、わからないといえば、わからないけど。
でも、あなたは、救われたいんだね。
あなたの罪に正しい罰を与えられて、購いたい。
そういうことよね?
[でもそれならば、少なくともみなみにとって、少年も、そしてキラーも、大差は無いように思えた。キラーが動き、少年の手に、力が集まるのを見て口を噤んだ]
生き長らえるだけならば、戦闘など必要ないだろう。息を潜めてさえいれば良い。だがそれは“生きている”とは言えん。生の実感とは、己の存在意義を認識した上で、それを全うした時にこそ感じられるものだと、俺は理解している。
お前の言う通りだな。俺は戦うことでしか“生きている”実感を得られないのだ。
―中央ブロック・路地―
[投石紐の形状をした物体に魔力が収束していく。
ペリシテの巨人ゴリアテを小石の一撃で昏倒せしめた力の具現。射出される物体に祝福を与え、“世界の壁”を刹那の間だけ消失させる、御稜威の業]
これが――神の栄光の顕現たる、我が宝具。
そのごく一部を齎すものにしか過ぎぬが。
[装填された弾丸は鋼のつぶて。
常人に直撃すれば物理的な衝撃だけでも絶命しかねない凶器。だが未だ距離は近すぎた。そして始点さえ気取らせずに襲い来る、敵手の豪腕]
[去ろうとする背中に言葉を投げかけられる。
英霊は立ち止まり、その羅列を静かに受けた。
何事かを思案するように、剣の先で仮面を叩く。]
そうか。
[ひとつ、ふたつ、みっつ。
細かく響く音に、猫の耳が動いた。
持っていた麦藁帽子をかぶり、仮面を隠すように深く。]
私の願いは――困ったことに、特には無い。
そうだな。
強いて挙げねばならないのなら、世界平和などはどうかな。
[冗句めいた答を、さも真剣そうな声色で返す。
少女は外へと向かう為に、立ち止まっていた男を追い越す。
血を拭った刃は、暫くどうすべきか思案するように揺らした後、結局、マントの中へと隠した。
小さな背中を追う。
光溢れる出口へと向かうマスターを追う。]
[私の願いが叶わない――――か。
なるほど。
マスター。お前には、願いが無いということか?]
[心内の言葉は届くはずもなく。
ただ、剣を握り直す、己で傷つけた掌だけが心情を語る。]
[願いが特にない、そう耳にしていくらかの事柄が頭に浮かぶ。けれどすぐに消えた。
世界平和を口にするバーサーカーに、内心苦笑した。彼の言う平和とはどういう平和のことであるのか。当時の心のままか、それとも。
――自身の願いも、それこそ無かった。だから、バーサーカーを失って尚続けるだけの理由は見当たらない。
聖杯を手に入れるのが願いといえば願いだろうと、笑みを零す。]
眩しいな。
[まだ高い日に、手で影を作る。振り返り、着いて来ようとする猫の姿に、一瞬迷い、]
教会まで、連れて行くか。
[腕に抱き上げた。]
――つっ!
[すんでのところで半身に避わし、適正な距離を取るべく後退の機を窺う。魔術師からの追撃は未だなく、だが油断なく二者の動向を見計らった]
違いますね、魔術師。
私の罪は我が子の死によって贖われ、そして次の子ソロモンを主は祝福された。私の罪が未だあるとすれば、そもそもの始め。
バト・シェバを見初めた事。そして――、っ。く。
[次々と振り下ろされる巨大な棍棒。
アスファルトが抉れ、ビルの外壁が飛び散っていく。
かつて名を上げた、この姿の由縁となった戦を想起する。
直感と経験から、次に来る攻撃を予測。最適な動線を脳裏に描き、なぞっていく]
[少年の持つ投石紐に気配が収束するのが分かった。
現世に召喚され、何度も見たその気配。それが魔力というものだと、キラーはこの時初めて理解した。
それはアーチャーのそれが、今まで見た中で最も強大な力を有していたからに他ならない]
……ゲラ……。
[しかし、腕を止める理由にはならなかった。むしろ、それが何なのか分かっただけ、恐怖が薄らぐ]
……、
[投石紐自体は見たことがあれど、義務教育すら曖昧なみなみに、その宝具が一体何なのかもわからなかった。アーチャーだろうという予測が立ち、キラーの間合いであることを冷静に見つめる。詠唱を音に乗せようとしたところで、止めた]
[次々と腕を振るう。全てが空振りに終わる。地面を砕きコンクリートの破片をまき散らすだけの腕]
……ゲラ、ゲラ、ゲラ。
[その攻撃が、不意に止んだ]
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