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[ くらい森の奥、切り取られた空間。
洞窟に光る水晶が、湖のほのかな明かりが、
佇むグエンと猫ふたりを浮かび上がらせていた。
にゃあ。
オーキィが鳴く。
水面には、ぷかぷか揺れる麦わら帽子。
はんぶんの猫は、今はひとつ。
今はいないその持ち主を捜すように、湖を覗き込むこんだ。]
消えてしまったら、いやって。
言ったのに。
でも。
みんな、いつしか覚めてしまう。
ほんとうは、知っていた。
ただ、そのときに。
何かが、想いが、残っていれば、よかった。
……残るかしら。
[ グエンはじぶんの杖を置いて、
ネネの光る杖と、
ヤコヴレの木彫りの猫、
ふたつを抱いて、目を閉じる。
杖は霞◆、
猫は黒橡◆、
かたちは溶けていろになり、
いろは渦を巻いてかたちをつくる。
猫は、よにんになった。]
[ 気まぐれで、どこにでもあるもの。
グエンは、想いにかたちを与える。
グエンも、想いの、ひとつだった。
ずっとむかし、猫として在った頃。
ずっとむかし、ひとと離れてしまった後。
グエンは、かたちを失っても、たいせつなひとのそばにいた。
いなくなってしまってからは、さみしくて、想いを捜しにいった。
そうして、辿り着いた場所は、森だった。]
……次も、逢えますように。
次は、見つかりますように。
いいえ。そうしないと。
それまで。
わたしはわたしでいる。
ずっと、この気持ちを、抱いておく。
あなたが、それを望んでいるか知らないけれど、
わたしは、勝手だもの。
ね?
[ ちいさく、笑う。
またね、とグエンは言った。
森はなにも、答えない。
森はなにも、伝えない。
森はみんなを呼び、みんなを送る。
いまもむかしも、これからも、きっと変わらない。**]
―街の雑貨店―
[売るためのチーズを持って、訪れた。ここは森に住む私にとって、必要な品物を揃える事が出来る場所]
「おや、いらっしゃい。待っていたよ」
[カラン、とドアに付いたベルの音を立てて店内に入るとそこには多種多様な品々。店内には所狭しと商品が並ぶ。店主のいつもの声を聞きつつ、周囲を見回した
カウンターの奥にもびっしりと瓶が並んでいた。これだけの品を把握しているのだから店主も大したものだ]
[カウンターに、ぼてぼてと売るためのチーズを幾つか置くと店主は丁寧に品定めして代金を払ってくれた]
「丁度品切れしたところで、ね。助かったよ」
そうですか。間に合って良かったです。
私も、少々食料品が入り用なのでお願いしてもよろしいですか?
[そう言って、必要物をメモした紙を渡すと店主はてきぱきと品物を袋に詰めてくれた]
[店主が作業している間。私は見ていた。一枚の絵ー。
店の中にさり気なく飾ってある、その絵に描かれているのは
「まっくら森」]
きっと、この絵を描いたひとも行ったのだろうな…
[夜の闇。眠る森。煌めきながら飛ぶ魚。鳥が住まう湖。
そしてー]
…あれ?
羽のはえた、ひつじ…?
[確か前に見た時には描かれていなかったはずの生き物が、いた。その羊は、わらわがはねるたまごから孵したものにそっくりで
目をごしごしこすって見直しても、それは確かにそこにいて]
………。
[じっと絵の闇の中を見つめれば、この間出会ったみんなの姿が見えるようだった]
絵というものは…見る人によって変わる時があるというが。
この絵には力がこもっているのう。
[自分にしか見られないかもしれない、消えてしまうものの美しさ。その姿をとどめようとしたのだろう]
近くて、遠い場所…。
[それは動き続けて。いつしか自分も追いつけなくなるのだろうか]
「はい、まいど!」
[威勢の良い主人の声に現実に引き戻されて。振り向くと、大きな袋を抱えた店主の笑顔]
「その絵が気に入ったのかい?」
[お金を払い、ずっしりと袋を受け取りながら言葉を返す]
なんだか、懐かしくなれる絵ですね
[店主は目を細めると、絵に視線を移し何かを思い出すように]
ははは。これは私が子供の時に出会った景色と似ていてねー。夢、だったのかもしれないけど
[私はその言葉には何も返さず。笑顔で品物の礼だけを言って。店の表に出た]
夢、か…。
[ため息をつくと、いつものポシェットからチーズを出し。街ゆく人に売り始めた
馴染みの客もいる為か、チーズの在庫はみるみるうちに尽きて。そのうち、完売となり周囲にいた人々も去って行った
ざわめきが遠のき、再びひとりになった時だったろうか]
――にゃあん。
[いつの間にか忍び寄った猫が、私を見上げていた
色のない、真っ白い毛並みの猫]
お前も、チーズが好きなの?ごめんね、もう無いの。
…うちに来て、食べる?ミルクもあるけど。
[そう言って、撫でて。微笑むと森の家に向かって歩き始めた。
もし、猫が一緒に来たなら御馳走するつもりでー*]
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