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呪狼COですかー。ハム生存時
村側が勝つには、狼>ハム>狼ってな感じで吊らないと負けですね。
たぶん、勝てないようなキガス。
魚人が明日も生存していたら、実質4名換算で、
村を吊ったら、ハム生存時ハムの勝利?
ハムいなかったら狼勝利ですかね。
なんとなーく、ハム勝利のオカンがお燗だにゃ。
「そうだ」
「貴方方、貧乏人」
「そうだ」
「だから、貴方方、プロレタリア。――分る?」
「うん」
ロシア人が笑いながら、その辺を歩き出した。時々立ち止って、彼等の方を見た。
「金持、貴方方をこれ[#「これ」に傍点]する。(首を締める恰好《かっこう》をする)金持だんだん大きくなる。(腹のふくれる真似《まね》)貴方方どうしても駄目、貧乏人になる。――分る? ――日本の国、駄目。働く人、これ(顔をしかめて、病人のような恰好)働かない人、これ。えへん、えへん。(偉張って歩いてみせる)」
それ等が若い漁夫には面白かった。「そうだ、そうだ!」と云って、笑い出した。
「働く人、これ。働かない人、これ。(前のを繰り返して)そんなの駄目。――働く人、これ。(今度は逆に、胸を張って偉張ってみせる、)働かない人、これ。(年取った乞食のような恰好)これ良ろし。――分かる? ロシアの国、この国。働く人ばかり。働く人ばかり[#「ばかり」に傍点]、これ。(偉張る)ロシア、働かない人いない。ずるい人いない。人の首しめる人いない。――分る? ロシアちっとも恐ろしくない国。みんな、みんなウソばかり云って歩く」
彼等は漠然
と、これが「恐ろしい」「赤化」というものではないだろうか、と考えた。が、それが「赤化」なら、馬鹿に「当り前」のことであるような気が一方していた。然し何よりグイ、グイと引きつけられて行った。
「分る、本当、分る!」
ロシア人同志が二、三人ガヤガヤ何かしゃべり出した。支那人はそれ等《ら》をきいていた。それから又|吃《ども》りのように、日本の言葉を一つ、一つ拾いながら、話した。
「働かないで、お金|儲《もう》ける人いる。プロレタリア、いつでも、これ。(首をしめられる恰好)――これ、駄目! プロレタリア、貴方方、一人、二人、三人……百人、千人、五万人、十万人、みんな、みんな、これ(子供のお手々つないで、の真似をしてみせる)強くなる。大丈夫。(腕をたたいて)負けない、誰にも。分る?」
「ん、ん!」
「働かない人、にげる。(一散に逃げる恰好)大丈夫、本当。働く人、プロレタリア、偉張る。(堂々と歩いてみせる)プロレタリア、一番偉い。――プロレタリア居ない。みんな、パン無い。みんな死ぬ。――分る?」
「ん、ん!」
「日本、まだ、まだ駄目。働く人、これ。(腰をかがめて縮こまってみせる)働かない人、これ。(偉
張って、相手をなぐり倒す恰好)それ、みんな駄目! 働く人、これ。(形相|凄《すご》く立ち上る、突ッかかって行く恰好。相手をなぐり倒し、フンづける真似)働かない人、これ。(逃げる恰好)――日本、働く人ばかり、いい国。――プロレタリアの国! ――分る?」
「ん、ん、分る!」
ロシア人が奇声をあげて、ダンスの時のような足ぶみ[#「ぶみ」に傍点]をした。
「日本、働く人、やる。(立ち上って、刃向う恰好)うれしい。ロシア、みんな嬉しい。バンザイ。――貴方方、船へかえる。貴方方の船、働かない人、これ。(偉張る)貴方方、プロレタリア、これ、やる!(拳闘のような真似――それからお手々つないでをやり、又突ッかかって行く恰好)――大丈夫、勝つ! ――分る?」
「分る!」知らないうちに興奮していた若い漁夫が、いきなり支那人の手を握った。「やるよ、キットやるよ!」
船頭は、これが「赤化」だと思っていた。馬鹿に恐ろしいことをやらせるものだ。これで――この手で、露西亜が日本をマンマ[#「マンマ」に傍点]と騙《だま》すんだ、と思った。
ロシア人達は終ると、何か叫声をあげて、彼等の手を力一杯握った。抱きついて、硬い毛
の頬をすりつけたりした。面喰《めんくら》った日本人は、首を後に硬直さして、どうしていいか分らなかった。……。
皆は、「糞壺」の入口に時々眼をやり、その話をもっともっとうながした。彼等は、それから見てきたロシア人のことを色々話した。そのどれもが、吸取紙に吸われるように、皆の心に入りこんだ。
「おい、もう止《よ》せよ」
船頭は、皆が変にムキにその話に引き入れられているのを見て、一生懸命しゃべっている若い漁夫の肩を突ッついた。
四
靄《もや》が下りていた。何時も厳しく機械的に組合わさっている通風パイプ、煙筒《チェムニー》、ウインチの腕、吊《つ》り下がっている川崎船、デッキの手すり、などが、薄ぼんやり輪廓をぼかして、今までにない親しみをもって見えていた。柔かい、生ぬるい空気が、頬《ほお》を撫《な》でて流れる。――こんな夜はめずらしかった。
トモ[#「トモ」に傍点]のハッチに近く、蟹の脳味噌の匂いがムッ[#「ムッ」に傍点]とくる。網が山のように積《つま》さっている間に、高さの跛《びっこ》な二つの影が佇《たたず》んでいた。
過労から心臓を悪くして、身体が青黄く、ムクンでいる漁
夫が、ドキッ、ドキッとくる心臓の音でどうしても寝れず、甲板に上ってきた。手すりにもたれて、フ糊[#「フ糊」に傍点]でも溶かしたようにトロッとしている海を、ぼんやり見ていた。この身体では監督に殺される。然《しか》し、それにしては、この遠いカムサツカで、しかも陸も踏めずに死ぬのは淋《さび》し過ぎる。――すぐ考え込まさった。その時、網と網の間に、誰かいるのに漁夫が気付いた。
蟹の甲殻の片《かけら》を時々ふむらしく、その音がした。
ひそめた声が聞こえてきた。
漁夫の眼が慣れてくると、それが分ってきた。十四、五の雑夫に漁夫が何か云っているのだった。何を話しているのかは分らなかった。後向きになっている雑夫は、時々イヤ、イヤをしている子供のように、すねているように、向きをかえていた。それにつれて、漁夫もその通り向きをかえた。それが少しの間続いた。漁夫は思わず(そんな風だった)高い声を出した。が、すぐ低く、早口に何か云った。と、いきなり雑夫を抱きすくめてしまった。喧嘩《けんか》だナ、と思った。着物で口を抑えられた「むふ、むふ……」という息声だけが、一寸《ちょっと》の間聞えていた。然し、そのまま動か
なくなった。――その瞬間だった。柔かい靄の中に、雑夫の二本の足がローソクのように浮かんだ。下半分が、すっかり裸になってしまっている。それから雑夫はそのまま蹲《しゃが》んだ。と、その上に、漁夫が蟇《がま》のように覆《おお》いかぶさった。それだけが「眼の前」で、短かい――グッと咽喉《のど》につかえる瞬間に行われた。見ていた漁夫は、思わず眼をそらした。酔わされたような、撲《な》ぐられたような興奮をワクワクと感じた。
漁夫達はだんだん内からむくれ上ってくる性慾に悩まされ出してきていた。四カ月も、五カ月も不自然に、この頑丈《がんじょう》な男達が「女」から離されていた。――函館で買った女の話や、露骨な女の陰部の話が、夜になると、きまって出た。一枚の春画がボサボサに紙に毛が立つほど、何度も、何度もグルグル廻された。
[#ここから2字下げ]
…………
床とれの、
こちら向けえの、
口すえの、
足をからめの、
気をやれの、
ホンに、つとめ[#「つとめ」に傍点]はつらいもの。
[#ここで字下げ終わり]
誰か歌った。すると、一度で、その歌が海綿にでも吸われるように、皆に覚えられてしまった。何かすると、すぐそれを歌
い出した。そして歌ってしまってから、「えッ、畜生!」と、ヤケに叫んだ、眼だけ光らせて。
漁夫達は寝てしまってから、
「畜生、困った! どうしたって眠《ね》れないや」と、身体をゴロゴロさせた。「駄目だ、伜[#「伜」に傍点]が立って!」
「どうしたら、ええんだ!」――終《しま》いに、そう云って、勃起《ぼっき》している睾丸《きんたま》を握りながら、裸で起き上ってきた。大きな身体の漁夫の、そうするのを見ると、身体のしまる[#「身体のしまる」に傍点]、何か凄惨《せいさん》な気さえした。度胆《どぎも》を抜かれた学生は、眼だけで隅《すみ》の方から、それを見ていた。
夢精[#「夢精」に傍点]をするのが何人もいた。誰もいない時、たまらなくなって自涜[#「自涜」に傍点]をするものもいた。――棚《たな》の隅にカタ[#「カタ」に傍点]のついた汚れた猿又や褌《ふんどし》が、しめっぽく、すえ[#「すえ」に傍点]た臭《にお》いをして円《まる》められていた。学生はそれを野糞のように踏みつけることがあった。
――それから、雑夫の方へ「夜這《よば》い」が始まった。バットをキャラメルに換えて、ポケットに二つ三つ入れると、
ハッチを出て行った。
便所臭い、漬物樽《つけものだる》の積まさっている物置を、コックが開けると、薄暗い、ムッとする中から、いきなり横ッ面でもなぐられるように、怒鳴られた。
「閉めろッ! 今、入ってくると、この野郎、タタキ殺すぞ!」
× × ×
無電係が、他船の交換している無電を聞いて、その収獲を一々監督に知らせた。それで見ると、本船がどうしても負けているらしい事が分ってきた。監督がアセリ[#「アセリ」に傍点]出した。すると、テキ[#「テキ」に傍点]面にそのことが何倍かの強さになって、漁夫や雑夫に打ち当ってきた。――何時《いつ》でも、そして、何んでもドン詰りの引受所が「彼等」だけだった。監督や雑夫長はわざと「船員」と「漁夫、雑夫」との間に、仕事の上で競争させるように仕組んだ。
同じ蟹《かに》つぶしをしていながら、「船員に負けた」となると、(自分の儲《もう》けになる仕事でもないのに)漁夫や雑夫は「何に糞ッ!」という気になる。監督は「手を打って」喜んだ。今日勝った、今日負けた、今度こそ負けるもんか――血の滲《にじ》むような日が滅茶苦茶に続く。同じ日のうちに
、今までより五、六割も殖《ふ》えていた。然し五日、六日になると、両方とも気抜けしたように、仕事の高がズシ、ズシ減って行った。仕事をしながら、時々ガクリと頭を前に落した。監督はものも云わないで、なぐりつけた。不意を喰《く》らって、彼等は自分でも思いがけない悲鳴を「キャッ!」とあげた。――皆は敵《かたき》同志か、言葉を忘れてしまった人のように、お互にだまりこくって働いた。もの[#「もの」に傍点]を云うだけのぜいたくな「余分」さえ残っていなかった。
監督は然し、今度は、勝った組に「賞品」を出すことを始めた。燻《くすぶ》りかえっていた木が、又燃え出した。
「他愛のないものさ」監督は、船長室で、船長を相手にビールを飲んでいた。
船長は肥えた女のように、手の甲にえくぼ[#「えくぼ」に傍点]が出ていた。器用に金口《きんぐち》をトントンとテーブルにたたいて、分らない笑顔《えがお》で答えた。――船長は、監督が何時でも自分の眼の前で、マヤマヤ邪魔をしているようで、たまらなく不快だった。漁夫達がワッと事を起して、此奴をカムサツカの海へたたき落すようなことでもないかな、そんな事を考えていた。
監督は「賞品」
の外に、逆に、一番働きの少いものに「焼き」を入れることを貼紙《はりがみ》した。鉄棒を真赤に焼いて、身体にそのまま当てることだった。彼等は何処まで逃げても離れない、まるで自分自身の影のような「焼き」に始終追いかけられて、仕事をした。仕事が尻上《しりあが》りに、目盛りをあげて行った。
人間の身体には、どの位の限度があるか、然しそれは当の本人よりも監督の方が、よく知っていた。――仕事が終って、丸太棒のように棚《たな》の中に横倒れに倒れると、「期せずして」う、う――、うめいた。
学生の一人は、小さい時は祖母に連れられて、お寺の薄暗いお堂の中で見たことのある「地獄」の絵が、そのままこうであることを思い出した。それは、小さい時の彼には、丁度うわばみ[#「うわばみ」に傍点]のような動物が、沼地ににょろ[#「にょろ」に傍点]、にょろ[#「にょろ」に傍点]と這《は》っているのを思わせた。それとそっくり同じだった。――過労がかえって皆を眠らせない。夜中過ぎて、突然、硝子《ガラス》の表に思いッ切り疵《きず》を付けるような無気味な歯ぎしりが起ったり、寝言や、うなされているらしい突調子《とっぴょうし》な叫声が
、薄暗い「糞壺」の所々から起った。
彼等は寝れずにいるとき、フト、「よく[#「よく」に傍点]、まだ生きているな……」と自分で自分の生身の身体にささやきかえすことがある。よく、まだ生きている。――そう自分の身体に!
学生上りは一番「こたえて」いた。
「ドストイェフスキーの死人の家[#「死人の家」に傍点]な、ここから見れば、あれだって大したことでないって気がする」――その学生は、糞《くそ》が何日もつまって、頭を手拭《てぬぐい》で力一杯に締めないと、眠れなかった。
「それアそうだろう」相手は函館からもってきたウイスキーを、薬でも飲むように、舌の先きで少しずつ嘗《な》めていた。「何んしろ大事業だからな。人跡未到の地の富源を開発するッてんだから、大変だよ。――この蟹工船《かにこうせん》だって、今はこれで良くなったそうだよ。天候や潮流の変化の観測が出来なかったり、地理が実際にマスターされていなかったりした創業当時は、幾ら船が沈没したりしたか分らなかったそうだ。露国の船には沈められる、捕虜になる、殺される、それでも屈しないで、立ち上り、立ち上り苦闘して来たからこそ、この大富源が俺たちのものになったの
「…………」
――歴史が何時でも書いているように、それはそうかも知れない気がする。然し、彼の心の底にわだかまっているムッ[#「ムッ」に傍点]とした気持が、それでちっとも晴れなく思われた。彼は黙ってベニヤ板のように固くなっている自分の腹を撫《な》でた。弱い電気に触れるように、拇指《おやゆび》のあたりが、チャラチャラとしびれる。イヤな気持がした。拇指を眼の高さにかざして、片手でさすってみた。――皆は、夕飯が終って、「糞壺」の真中に一つ取りつけてある、割目が地図のように入っているガタガタのストーヴに寄っていた。お互の身体が少し温《あたたま》ってくると、湯気が立った。蟹の生ッ臭い匂《にお》いがムレて、ムッと鼻に来た。
「何んだか、理窟は分らねども、殺されたくねえで」
「んだよ!」
憂々した気持が、もたれかかるように、其処《そこ》へ雪崩《なだ》れて行く。殺されかかっているんだ! 皆はハッキリした焦点もなしに、怒りッぽくなっていた。
「お、俺だちの、も、ものにもならないのに、く、糞《くそ》、こッ殺されてたまるもんか!」
吃《ども》りの漁夫が、自分でももどかしく、顔を真赤に筋張らせて、急に、大きな声
を出した。
一寸《ちょっと》、皆だまった。何かにグイと心を「不意」に突き上げられた――のを感じた。
「カムサツカで死にたくないな……」
「…………」
「中積船、函館ば出たとよ。――無電係の人云ってた」
「帰りてえな」
「帰れるもんか」
「中積船でヨク逃げる奴がいるってな」
「んか※[#感嘆符疑問符、1-8-78] ……ええな」
「漁に出る振りして、カムサツカの陸さ逃げて、露助と一緒に赤化宣伝ばやってるものもいるッてな」
「…………」
「日本帝国のためか、――又、いい名義を考えたもんだ」――学生は胸のボタンを外《はず》して、階段のように一つ一つ窪《くぼ》みの出来ている胸を出して、あくびをしながら、ゴシゴシ掻《か》いた。垢《あか》が乾いて、薄い雲母のように剥《は》げてきた。
「んよ、か、会社の金持ばかり、ふ、ふんだくるくせに」
カキ[#「カキ」に傍点]の貝殻のように、段々のついた、たるんだ眼蓋《まぶた》から、弱々しい濁った視線をストオヴの上にボンヤリ投げていた中年を過ぎた漁夫が唾《つば》をはいた。ストオヴの上に落ちると、それがクルックルッと真円《まんまる》にまるくなって、ジュウジュウ云いながら、豆のよう
に跳《は》ね上って、見る間に小さくなり、油煙粒ほどの小さいカス[#「カス」に傍点]を残して、無くなった。皆はそれにウカツな視線を投げている。
「それ、本当かも知れないな」
然し、船頭が、ゴム底タビの赤毛布の裏を出して、ストーヴにかざしながら、「おいおい叛逆《てむかい》なんかしないでけれよ」と云った。
「…………」
「勝手だべよ。糞」吃りが唇を蛸《たこ》のように突き出した。
ゴムの焼けかかっているイヤな臭いがした。
「おい、親爺《おど》、ゴム!」
「ん、あ、こげた!」
波が出て来たらしく、サイドが微《かす》かになってきた。船も子守|唄《うた》程に揺れている。腐った海漿《ほおずき》のような五燭燈でストーヴを囲んでいるお互の、後に落ちている影が色々にもつれて、組合った。――静かな夜だった。ストーヴの口から赤い火が、膝《ひざ》から下にチラチラと反映していた。不幸だった自分の一生が、ひょいと――まるッきり、ひょいと、しかも一瞬間だけ見返される――不思議に静かな夜だった。
「煙草|無《ね》えか?」
「無え……」
「無えか?……」
「なかったな」
「糞」
「おい、ウイスキーをこっちにも廻せよ、な」
相手は
角瓶《かくびん》を逆かさに振ってみせた。
「おッと、勿体《もったい》ねえことするなよ」
「ハハハハハハハ」
「飛んでもねえ所さ、然し来たもんだな、俺も……」その漁夫は芝浦の工場にいたことがあった。そこの話がそれから出た。それは北海道の労働者達には「工場[#「工場」に傍点]」だとは想像もつかない「立派な処[#「立派な処」に傍点]」に思われた。「ここの百に一つ位のことがあったって、あっちじゃストライキだよ」と云った。
その事から――そのキッかけで、お互の今までしてきた色々のことが、ひょいひょいと話に出てきた。「国道開たく工事」「灌漑《かんがい》工事」「鉄道敷設」「築港埋立」「新鉱発掘」「開墾」「積取人夫」「鰊《にしん》取り」――殆《ほと》んど、そのどれかを皆はしてきていた。
――内地では、労働者が「横平《おうへい》」になって無理がきかなくなり、市場も大体開拓されつくして、行詰ってくると、資本家は「北海道・樺太へ!」鉤爪《かぎづめ》をのばした。其処《そこ》では、彼等は朝鮮や、台湾の殖民地と同じように、面白い程無茶な「虐使」が出来た。然し、誰も、何んとも云えない事を、資本家はハッキリ呑み込んで
いた。「国道開たく」「鉄道敷設」の土工部屋では、虱《しらみ》より無雑作に土方がタタき殺された。虐使に堪《た》えられなくて逃亡する。それが捕《つか》まると、棒杭《ぼうぐい》にしばりつけて置いて、馬の後足で蹴《け》らせたり、裏庭で土佐犬に噛《か》み殺させたりする。それを、しかも皆の目の前でやってみせるのだ。肋骨《ろっこつ》が胸の中で折れるボクッ[#「ボクッ」に傍点]とこもった[#「こもった」に傍点]音をきいて、「人間でない」土方さえ思わず顔を抑えるものがいた。気絶をすれば、水をかけて生かし、それを何度も何度も繰りかえした。終《しま》いには風呂敷包みのように、土佐犬の強靱《きょうじん》な首で振り廻わされて死ぬ。ぐったり広場の隅《すみ》に投げ出されて、放って置かれてからも、身体の何処かが、ピクピクと動いていた。焼火箸《やけひばし》をいきなり尻にあてることや、六角棒で腰が立たなくなる程なぐりつけることは「毎日[#「毎日」に傍点]」だった。飯を食っていると、急に、裏で鋭い叫び声が起る。すると、人の肉が焼ける生ッ臭い匂いが流れてきた。
「やめた、やめた。――とても飯なんて、食えたもんじゃねえや」
箸
投げる。が、お互暗い顔で見合った。
脚気《かっけ》では何人も死んだ。無理に働かせるからだった。死んでも「暇がない」ので、そのまま何日も放って置かれた。裏へ出る暗がりに、無雑作にかけてあるムシロの裾《すそ》から、子供のように妙に小さくなった、黄黒く、艶《つや》のない両足だけが見えた。
「顔に一杯|蠅《はえ》がたかっているんだ。側を通ったとき、一度にワアーンと飛び上るんでないか!」
額を手でトントン[#「トントン」に傍点]打ちながら入ってくると、そう云う者があった。
皆は朝は暗いうちに仕事場に出された。そして鶴嘴《つるはし》のさきがチラッ、チラッと青白く光って、手元が見えなくなるまで、働かされた。近所に建っている監獄で働いている囚人の方を、皆はかえって羨《うらやま》しがった。殊《こと》に朝鮮人は親方、棒頭《ぼうがしら》からも、同じ仲間の土方(日本人の)からも「踏んづける」ような待遇をうけていた。
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