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広場へと着けば。
誰のなにを確認せずとも、それはリーンの目に止まるだろう。
彼は自身で作ったマスクを着けたまま、眠るように倒れていた。
その傍らには、無残に砕け散った命の時計。
蓋に取り付けられた小さな歯車たちは時計の針と共にその動きを止め、もう噛み合うことはもうないとでも言うように歪に砕け、彼の髪の色と同じ、青や緑の螺鈿の破片がキラキラと辺りに散らばっていた。
見せてもらったことはなかったが、その時計が、ダズリーのものであることは明白だった。
甘かった。
こんなにも唐突に、彼の刻が止まってしまうだなんて。別れの言葉すら、せめて昨日、話が出来ていれば……
後悔したところで時計の針は左にしか回らない。巻き戻ることはない。
リーンの大切なものは、こんなにも簡単に、その手から零れ落ちる。
「………ダズリーお兄さん。おやすみなさい。」
時計の破片を丁寧にひとつひとつ広い集め、鞄から取り出したハンカチで包む。
彼の傍でしゃがみ、そのマスクを外し、顔にかかった結われた長い髪を梳けば、ふと、自分の髪に飾られた飾りに触れようとして
「!」
「ない、ない、……どうして、…なんで、」
―それからしばらく後―
>>ブレイク
「起きたらいかがかね? 操り人形どの」
肉体を持った悪魔と対峙しようなどと思うはずもない。
あくまでブレイクに話し掛けて、その身体を目覚めるまで足蹴にするだろう。
「彼の眼球を持っているかネ? 素手で引きちぎれるものとは思わなかったヨ、筋組織のちぎれ方を見せてくれないかネ。―――寝起きが悪すぎるのではないかネ、肉というのは腐敗が早いんダ」
家のテラスを整える。
テーブルへとシーツを敷き。
飛びっきりの茶葉を持ち行って、そこへ並べる。
ダージリン・アッサム・アールグレイ・フレーバーティーetc.
ティーポットも、あまぁいあまぁい茶菓子も当然一緒につける。
クロノスティス家の特許出願中技術秘蔵の冷蔵室は、菓子であってもしっかりと鮮度を保ってくれていた。
カヌレ・テーベッカライグロース・ル レクチェ カービングコンポートetc.
そうして。テーブルを向かい合わせる様に、椅子を二つ用意すると
>>魔女シルヴィ
「さて。どうせ全て聞こえているんでしょう?魔女。
貴女。暇を持て余していそうだから。
私と、お茶会でもしましょう?」
そう、虚空へと向け言っただろう。
反応が無かったのなら相当恥ずかしいことになるが、その時はその時だ。
慌てて辺りを見渡すも、失くしたものは見つからず。
「ごめん、ごめんねお兄さん。私、失くしちゃった…大事な…大切なものなのに……。」
ぎゅうと包んだ彼の時計を握り締めて、赤く腫れた目元に涙を溜めながら、返事のない彼に謝るしかできなかった。
広場でダズリーのそばでうずくまるアイリーンの姿を見た。
彼とアイリーンの時間なら邪魔をしてはいけないかしら……?
でも。
>>75 アイリーン
「……ちゃんとお話しするのはお久しぶり。りんご飴のサロンのあなた。
ねぇ、アイリーン。何かをお探しなの?
私でよかったらお手伝いさせてくださらないかしら。」
差し出がましくはないだろうか。
アイリーンの大切な思いにはなるべく触れないように、困っているなら手を動かそう、そんな寄り添い方を考えた。
/☼気を失う形で眠りについた。
これは走馬灯か、夢か。果たして。
白いサナトリウムが遠くに見える丘で読んでいる本のページを捲る。春の陽気に晴れ渡る空がもたらす陽の光は心地よい。
『……ブレイク!何を読んでいるの?』
快活なハンナの声が聞こえれば、顔を上げた。小さなバスケットを下げた彼女は遠慮なく自分の隣に座る。
俺が勧められた本だ。医者に療養しろと言われたと言えば、彼女はくすくすと笑う。
『貴方らしくないと思ったら、そういうこと?また暴れて怒られたのでしょう?』
事実に顔を顰める俺を他所に、ハンナはバスケットからサンドイッチをとりだしてわたす。
『はい、どうぞ。今日はサンドイッチを作ってきてあげたわ。病院食だけでは足りないでしょう?お医者様には内緒よ?』
唇に指を当てて、悪戯をする子供のように微笑む彼女につられて口の端を上げる。
部下の喪失、マーキュリーの家からの重圧、任務で負った傷。精神的にも、肉体的にも追い詰められていた俺にとっての救いは、光は彼女だけだった。☼/
/☼それからは、数年に渡る入院生活。
ハンナは定期的に来てくれた。俺の心が折れそうになる時には、いつも彼女が側にいた。
あの日の約束を、彼女は確かに果たした。
俺は時に厳しく、時に優しい。そんな彼女に惹かれたがーーー彼女は、その恋を受け止めはしなかった。
無理もない。彼女には許嫁がいた。マーキュリー家の親戚であるマルセイユ家もまた、中級階級の家。
幼少から美しかった彼女に、上級階級の貴族は一目惚れしたのだ。
家の繁栄を願っての政略結婚ともいえるそれに、俺が疑念の言葉を掛けた時があった。
だが、それでも彼女は微笑んで言うのだ。
『小さい頃からわかっていた事だし、向こうの家の方には何一つ不自由のない生活を約束してもらっているもの。……これが私の幸せだから。』
どうして、あの時の俺は彼女の手を無理に引いてでも、家から逃げ出さなかったのだろうか。
後悔はいつだって、後に来るもので。彼女の亡骸と対峙するのはまた、別の話。☼/
>>79 ヘンリエッタ
広場を探し回るも見つからず、ダズリーの傍で蹲っている時に、小さな淑女に声を掛けられる。
「ヘンリエッタ、ちゃん……。どうしよう、私、ダズリーお兄さんからもらった髪飾り、失くしてしまって……。」
彼の砕けた命を握りしめながら、縋るように、自分よりも年下のその子に助けを求める。
猫の顔を形取った、小さな。金属アクセサリー職人の彼が作った髪飾り。
とても、とても大切な。
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