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「……言ったじゃないか、どんな芸術品も君を前にすればガラクダ同然だ。君はそのくらい僕にとってはかけがえのないもので──君が逝ってしまったら、僕は一体どうしたらいいんだ」
[彼女が死ぬ直前、そのさだめからは免れないと理解しながらも、私は子供のように駄々をこねた。]
[ルフナは生まれたばかりの赤ん坊を腕に抱きながら、三年前と何ら変わらぬ笑顔を携えて、ベッドに縋りつく私に視線を落とした。]
『もう、子供みたいなこと言わないの』
「君が生きていてくれるなら、子供でも鼠でも蝙蝠でもいいさ」
『まあ。蝙蝠でもいいだなんて、貴方を好きだった世の女性が今のレモングラス伯爵を見たら、きっと驚いてひっくり返っちゃうわよ』
「ルフナ、僕は今真剣に話してるんだ」
不幸呼ぶ令嬢 シスル は、なんとなく 養女 ルクレーシャ を能力(食事)の対象に選んでみた。
[私が憤慨して声をあげると妻の腕の中にいたリゼが泣き出した。ルフナは唇に笑みをうかべたまま、赤ん坊を優しく抱きしめてあやす。]
「……大きな声をあげてすまない。ただ僕は……君を失いたくないだけなんだよ。」
[今思えば、私はなんて自分本位だったのだろう。]
[きっと死への恐怖は妻のほうが何十倍もあったはずだ。それなのに、自分ばかりが置いていかれることを嘆いて、我が儘を繰り返して]
『確かに今はつらいかもしれないけど……でも、貴方なら大丈夫よ。きっと娘のいいお手本になるし、私がいなくなってもうまくやっていけるわ』
「そんな……やめてくれ」
[それでも、恐らく最期になるであろう彼女の言葉を無視するわけにもいかなかった。]
不幸呼ぶ令嬢 シスル は、なんとなく 男装の麗人 リアム を能力(食事)の対象に選んでみた。
「今日はリアム様にいたしますわ。
おやすみなさい、ミーチェ。それからグスタフも。
明日もたまにお話しますから、どうか答えてくださいませ。
……それでは」
「……。分かったよ。まだうまくやっていける自信はないが、君の分までこの子と一緒に生きよう」
[空いている手を両手で包み込んで、私は涙をこらえて喉から声をしぼりだす。]
「約束する。母親がいないからといってこの子に不便な思いはさせないし、僕が愛情と責任をもってリゼを優しい子に育てよう。」
『………』
「ルフナ──君をずっと愛してる。きっと僕は、君以外の女性を生涯愛することはないだろう」
[私の言葉に目を細めて頷いていた彼女は、その誓いには首を縦に振らなかった。]
『……駄目よ』
「駄目って、またどうして」
『いつか貴方にとって素敵な女性と出会えたら』
「そんなの君しか──」
『いいから聞いて。今はとてつもなく悲しいだろうし、受け入れることなんてできないでしょうけど、きっと貴方ならそんな人に出逢える日が来るわ』
[どうして彼女は今そんなことを言うのだろう。]
『その時は、貴方が愛したその人と幸せになって。』
[こんな時に、どうして彼女は]
『死んだ人間は、生きてる人を見守ったりはしないわ。死後の世界なんてものもきっとない。いないのと同じなの──だから、生きている人を大切にして』
[彼女は手を伸ばして、私の頬を優しく撫ぜた。指先は氷のように冷たくなっていた。]
『私も愛してるわ、レモングラス。だから貴方には私に縛られず生きてほしいの。でも──貴方が他の誰かと愛し合う姿を想像したらやっぱり妬けてきたから』
『リゼとその人と楽しく生きて、幸せを目いっぱい感じてから死んで──そうしたらいつか、私のことも迎えにきてちょうだいね』
───…!
[私はばっとベッドから起き上がる。そして、どくどくと鳴る心臓を落ち着かせようと、服のうえからそっと心臓のあたりを押さえた。]
……そうか。
『おや、可愛いお客さんだ』
幼い頃、父に連れられて一度だけ行ったエルフの森で一人のエルフに出会った
人見知りをしない自分は鬱陶しそうなエルフを気にもせずしばらく付き纏い、最近読んだ素敵な物語を目を輝かせながら教えてあげた
それは呪いをかけられたお姫様が王子様と両想いになって呪いが解ける話だった
ひとしきり遊んで帰る頃、何の気まぐれかエルフはこう言った
『その物語のお姫様にしてやろう』
そして目元を大きな手が覆い何かを呟いたかと思うとすぐに離れていった
『いつかお前を心から愛してくれる人が現れて両想いになれた時、その呪いを解いてやる
それかーーー』
それは幼すぎて忘れ去られた記憶
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