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−−ならば。
自分だけでも、しっかりと覚えておこう。
この村に祀られしお稲荷様の伝承を、後世にも。
そしてその時こそ、我が家系に継がれし鬼灯の灯火が、本来の陽の目を見るように。
−−だから。
「また、いつでも帰ってくるといい。
俺だけは、皆を歓迎しよう」
家を捨て、村を捨て、この地を去ったかつての旧友たちへ。
そして、もはや己はいないだろうもう100年後の未来へ。
その者たちにとっての"故郷"であることを、カガチは止めない。
−−緑の葉っぱに陽が落ちて
紅刺すころオヤシロに
稲荷の神様コンコンと
鳥居の真ん中通りゃんせ−−
−−人が困ってこうべを垂れりゃ
十四(じゅうし)の宮司がぞーろぞろ
いたずら神様閉じ込めりゃ
この先百年安泰だ−−
また、あの唄だ…
…でも、不思議、あの時はあんなに怖かったのに…
いまはこわくない…
…調さまやヤガミさまが、助けてくださったからかな…?
…っあ!そうだ、調さまと朱さまにりんご飴!!
忙しそうだったからって買っておいたんだった…!
はやく渡しに行かなきゃ!
[荷物をまとめ、屋台を引いてリェンは村を出る]
んむ。
一時はドーナルことカと思ったケド、終わってみれば結構楽しかったネ
普段はあんなにお客さんと飲まないからネ!
アザミサンに誘われたケド……確かに、売り上げも貯まってきたシ、ソロソロどっかにお店構えてもいいかもネ
ソノ時は、お酒中心の唐国料理屋カナ〜
じゃ、皆サン、マタネ
またドッカで会えたらショーヒン買ってネ〜
[お祭りも終演のとき、恒例行事の行列も終わり、いつものように貰ったお菓子を持ちながら2人で屋台をまわる]
ねえ、さっき言ってた渡したいものってなんだ?
りんごあめ?
芙蓉のねえちゃんに貰ったのか!
さっきみかけたときにありがとうって言っとけばよかったな!
––––––ヒュ〜〜〜〜、パンッ
[そうこうと話しているうちに、このお祭りの大トリが夜空に花ひらく]
あ!花火だ!
もう今年のお祭りも終わっちゃうなあ
せーっかくの百年目だっていうのに何にもなかったけど!
[ぱんぱんと上がる花火を見ながら隣の調に問う]
ねえ調、俺たちあの行列をいつまで続けるのかなあ
コウセイに必要だからって言うけど、いつ必要になるんだろう?
百年目の今年も使うことなんてなかったのに
来年からもずーっと続けていくのかなあ
[朱の後をついて歩きながら]
…うん。
昨日、おれがたべたいっていったから…。
おれもお礼をいうまえに、“ごしゅじんさま”をさがすって行っちゃったんだ…。
[大きな音と朱の声につられ、顔をあげる。
夜空に大輪の花が咲き、周囲は最後の盛り上がりをみせていた。]
…ほんとうに。
……ふつうの、おまつりだったな。
[と呟き、再び空を見上げる]
(そういえば…やたいに夢中で、お花みのがしちゃったな……。
おねえさま、うまくいったのかなぁ…?)
[その頃、会場から彼女の姿はとうに消えていたとも知らずに]
[朱がいつになく真面目な口調で問うてきたことに驚く]
えっ……。
おれ、そんなこと考えたこともなかったから…わからない……。
“ひつよう”かはわからない…。
けど…みんなが見て、ほめてくれて。
おれはうれしかった…よ。
[朱は…? といった顔で見つめ]
そんなもんなんじゃないかな…って。
レキシとかデントーとか、よくわからないけど、やってみてよかった…と思うから…つづいてるんだとおもう。
おれは、来年もしたいとおもう…よ。
[と答える。
花火は終盤に差し掛かったようで、大玉のものが何発も何発も打ち上げられていた。]
朱と調ちゃん、本番よくやってたね!
2人とも、短い間だけどお話できて、楽しかったよ。またしばらく会うことはないかもしれないけど、これからも2人で、頑張ってほしいなあ。
千代ちゃんと烏丸おにーちゃんは、村をはなれちゃうのかな?また2人に会えて、お話できて嬉しかったよ。
2人が"アイ"で結ばれ続けること、ボクは遠くから祈ってるよ。
撫子おねーさんは、不思議な人だったね。もしかして、撫子おねーさんは……お狐様そのものだったのかもね?
そしたら、またきっと、会えるかな?鳥居で会ったらね、りんご飴を、あげるんだー。
シラサワさんとは、結局お話できなかったんだよねー!ほら、キクヒメ様にも教えたでしょ?杏仁豆腐の句!
でもボクのお仲間だった人だし、きっと届いてると信じてるよ!
芙蓉おねーさんは、これまで通りシラサワさんにお仕えするんだろうね。芙蓉おねーさんの作ったスープ、美味しかったなあ。性別は結局どっちだったんだろう?……まあ、どっちでもいいか!
そうそう、まつ風さんが最後にしてくれたおはなし、とっても面白かったよ!松風さんて本当に凄い人だったんだね!また、ほかのものも、聞いてみたいなあ。
リェンおにーちゃんも、行っちゃったねー。またお店に行けたら嬉しいなあ。肉まんに、餃子に、杏仁豆腐!なんだか怪しいお札に、色々お買い物するんだよ!
アザミおねーさん、たくさんお酒のんでて楽しそうだったねー!またお祭りの時は、アザミおねーさんならきっと、お酒ー!って言いながら村に来てくれるんじゃないかなー?
ヤガミは、どうだろう?また、村に来てくれるかなー?お祭り、とっても楽しんでいたみたいで、なによりだったよ!元の街に帰っても、元気にやってくれていたらいいな。
甘利おねーさん、カガチおにーちゃんとお祭り一緒にまわっていたねえ。見た時、とても楽しそうだったよ。甘利おねーさんも、帰っちゃうのかな?またお話できるといいなあ。
そして、カガチおにーちゃん。お祭りの間もたくさんお世話になったねえ。
誰よりも人が好きで、誰よりも村のことが大好きな人だから……ちょっとだけ、さみしそうだったね。
新しい人がやってきても、誰かがこの村に戻ってきても−−カガチおにーちゃんが、きっと"歓迎"してくれる。ボクはそんなカガチおにーちゃんが、大好きなんだ!
……え、ボク?
うーん、そうだなあ。またお狐様に会える日まで、100年もあるんだもん。ずっとこの村にいてもいいけど、みんなはいずれいなくなっちゃうからねえ。
今がどんなに素敵な思い出でも、ボク、どうせ100年経ったら今年のお祭りのこと何もかも忘れてそうなんだよねー。……楽しかった、って記憶以外はね!
……100年後は、今とは違う、新しい人達が集まってるんだ。
そしてきっとまた騒ぎが起きて、また1からみんなで悩んで、話し合って、
−−だけど最後は、きっとみんなで笑い合えるんだ!
今の楽しい思い出を、少しずつ、少しずつ忘れながらも……ボクはゆっくりと、次の"100年目"を待つことにするよ。
100年経った時……同じお祭りで、100年前にも素敵な思い出があったこと、ボクは絶対に思い出すからね!
……さ、そろそろ夜が明ける。
この稲荷祭りとも、お別れの時だね。
来年、再来年と続いていく、稲荷祭りまで。
そして次の、"特別な稲荷祭り"まで−−
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