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[鉈は手に取ることができずに、空振った。]
リーザぁ?
んー、しーらない!
[何の迷いも無いようなその笑み。
子供であれば微笑ましかっただろうそれも、この状況では不気味さだけを増幅して。]
おいで、おいで。
頭を撫でてあげるよ。
[見えない何かをつかみ取ろうとするように、掌が宙を搔く。
そのままふらりと4人へ迫る。]
見せておくれよ。
この世界が終わってしまってもいいからさ。
[杖が鉈を弾いて、からからと床を滑る。
鉈は床に血のラインを引いて、転がって彼女から離れていく]
知らないって、待って、
……カタリーネ、さ……
[羊飼いが腕を伸ばす様を見て、ずるりと躙り下がった。
思い出すのは白金の牙、あれが見えた時には肉に沈んでいったのだ。
まさかリーザを殺したのか。何故、理由は。分からない、人であるならそんなことをする道理がない。それが獣の血であると知らぬが故に、思考は異なる方へと走る。
もし、もしも彼女が人狼であるなら。
ならばあの腕から――獣の爪が現れても、おかしくはないのではないか]
寄らないで、……来るな、
[この体を動かす原動力を知らない。何かの感情が彼女の接近を拒絶し、咄嗟に取り出したのは黒のナイフ。
自らが持つ唯一の、小さな抵抗の形]
殺すの、……僕たちを?
[灯りを反射し鈍く光るナイフを握って、カタリーネに向けて問う。
返事如何に関わらず、彼女が歩みを止めないのなら、それを振り翳すつもりで。
“殺し方”も知らない抵抗が、どれほどまともに傷をつけられるかなど分からないが、逃げるつもりだけはないのだ]
んふふふ・・・・・・
どこ? どこなの?
[ナイフを差し向けられても、赤ずきんの動きは止まらない。
その瞳には何も映ってはいなかった。]
あなたは違うの?
ねえ、教えてよ。
もう人である必要なんて、ないじゃないのさ。
[その言葉は、あるいは違った意味にも取ることができたか。
言い終わると、4人の真ん中に飛び掛かった。]
……、……ッ、
[その言葉>>146が契機に、ナイフを握る右手に力を籠めた。
“人である必要なんてない”――ああ、最早人狼となるのに、一刻の猶予もないのだと、そう思い込んだが故に。
凶器どころかクルーク一つ持たないカタリーネが距離を縮めた時、自らもまた一歩前に出て、下から大きく振り上げる]
う、っ! …… …………
[それはこちらへ伸びていた腕だったか、それとも別の箇所だったか。分からずとも、噴き出した鮮血が顔にかかれば、彼女に傷を負わせたことだけは分かる。
深いか、浅いか。分からない、なにも、わからないけれど。
未だ彼女が動くのなら、ふらりと尚も近付いて]
……終わらせないと、
[唯一この目で見た“殺し方”を真似るように、彼女の首を掻き切らんと。
逃げるか暴れるようなら体を押さえつけてでもして、ナイフを振り上げた]
[前触れのない死がこわい。
鉱山の暗がりや獣の爪牙は恐ろしいけれど
人を殺したとしても 殺されたとしても
たぶん、その方がずっと良かった]
え――。これ、は。
[ニコラス、シモンに指摘されたことに対する反応が一拍遅れたのは、心身の疲労が大きかった。
ヨアヒムの証言に続けて口を開こうとしたその時だ。
真紅の赤ずきんが現れたのは]
[体を傷つけられ、鮮血が吹き出しても動揺する事はなかった。
最期のその時まで、何かに焦がれるように。]
もう、充分さ。
人である私に、抗うのは。
愛してる。
私の・・・・・・大切な・・・・・・を・・・・・・・・・・・・。
[振り下ろされるナイフ。
運命は赤色に染まり、そして再びその瞳が光を宿す事はなかった。]
[まだ鮮やかな赤は何の――誰のものなのか。
戦慄しながら立ち上がれば、シモンがいち早く杖を振り上げる。
投げ出され、それでも止まらないカタリーネ。
とても尋常には見えない狂喜に、発しようとしていた身を守る言葉も猜疑も吹き飛んでゆく。
ただ分かるのは、最早
彼女は狼に喰われる赤ずきんでも
活発な羊飼いでもないということ。
迫り来る彼女をどうにかしなければならないということ――]
―― 明くる朝 ――
[東の村に太い遠吠えがこだました。]
『大変だ、オオカミが来たぞ』
[あわてふためく村人達。
その時、あるものを目に入れた村人がいた。]
『あれはもしかして、リネの飼っていた?』
オオカミの群れの真ん中に佇んでいたのは、カタリーネの飼っていた立耳の牧羊犬。]
[ところで知っているだろうか。
牧羊犬ってのは犬種にも大方相場が決まっている。
それはどれも耳の先端が折れ曲がっていて、ぴんと立てた耳なんてなかなかお目に掛かる事はできない。
そしてこの耳は、誇りあるオオカミの血の証。
群れを引き連れ先頭に立つその姿は、この群れの長である自身を誇示するようだった。]
[雨は小降りになりつつあったが、道が元の状態に戻るには時間がかかる。
しかし村人達も手を決してこまねいていた訳ではない。
と言いたいところだが、こまねく他無かった。
大自然の脅威を前にして、人はあまりにも無力だった。
やがて、西の村人が新たに事態を察知するのはいつになるか。
救援が動き出すまで、まだ今暫く。**]
カタリーネさんがババーンってなってるとこに挟まってしまった。どうせ遅れるなら後から書けばよかったな。
やっぱり人狼騒動のカタリナ、とても好きです…
[何かの血で染まる体を、自らの血で更に赤く彩りながらも。
彼女は取り乱しもせず、……逃げもせず]
…………カタリーネ、
[ふつりと沸いた違和感は、見ない振りをした。
血を浴びようとも、二つの眼は立派にその姿を見てたというのに。
ティーカップが割れる音>>153も、何かを求めるように紡がれた言葉>>149も聞いていたというのに。
彼女を鮮やかな真紅に染め上げて、光を失う瞳をただ、見下ろした。
がちがちに固まって手から落ちもしない、元の色を忘れたナイフは羊飼いと同じ色。
勿論、返り血を浴びた己もまた同様に。
誰かの声があるだろうか、何を言っているか、きちんと理解出来る気はしないのだけど]
……これで、終わるよね。
[色のない眼でぽつりと漏らしたなら、彼女の骸も、エルナの所に運んであげたほうがいいかな、とも続けて、その場にいる人間に手伝いを乞うだろう]
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