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[途中で、魔神は少女へと道行きを示し、姿を消そう。
闇の中では見ているかもしれないが、その方が面白いとばかりに。
少女が無視されるのは、玉座の間の内に入るまでか。**]
[身体は重く。
意識は薄く。
呼吸は苦しく。
正常に育った人間からすれば、少女のそれそのものが狂気の沙汰か。自ら地獄へ歩み行く少女の肌は再び竜鱗が浮き、実を握った指先も、砂へと変じようとする。
時間が足りない。
命が足りない。
身体が足りない。
――それでもまだ、たった一つ。遣り残したことの為に。]
そう、なの?
[少しばかり荒くなった呼吸で、魔神の言葉に目をまるくする。
手の中の赤い実を見つめ、臭いを嗅いでみるが、そこにどのような奇跡が起きたのかなど、分かるはずもなく。]
…………、ん
たべてみる
[意を決したように、齧る。]
[――舌触りとか。味とか。
そういった問題ですら、もはやない。
噛んだ瞬間に広がる腐乱臭は鼻を抜けて脳へ至り。
染み出る液体は口腔いっぱいに飛び散って。
まるで――泥を煮立てて、飲んでいるかのような。
食への冒涜。圧倒的な呪詛の塊。
――嗚呼、この実は腐っている。]
ぅ、…っ
[嘔吐感が襲ったのは、魔素の影響だけではあるまい。
胃からせりあがった酸味と混ざり合い、更に臭気は酷くなる。
口元を押さえ、――ぐっと呑み込んで。]
…………、
[一口。また一口。
涙を堪えながら、なんとか食べきれば。
――確かに、女性の言う通りの効能はあったらしい。
砂化していた指先は、再び元へと戻り。
肌に浮いていた竜鱗はそのままだったが
奥へ進むごとに酷くなっていた息苦しさは、薄れた。]
……ほんとだ
[驚いたように、目をまるくして。
手に付着した実の液体を、まじまじと見つめた。]
[――フリッツが命を賭して遺した『呪い』は、再び少女に歩くだけの力を与える。全てが元通りになることは無かったが、それでも、望みを叶えるだけの時間の猶予を。
途中からは、女性の姿が見えなくなり、一人きりで歩かなければならなくなったが。手に残る実の感触だけを支えに、ひたすらに歩いた。]
[知らない。――知っている。
分からない。――分からないはずがない。
でも、過ぎった"彼"とは、あまりにも違う。
形が違う。いろが違う。気配が違う。
あれではまるで、形を持つことを許されない、化け物だ。
でも。]
…………、
[どろりと溶けた液体のような"それ"を、ただ見つめる。
球体に包まれ。玉座の間からいなくなるまで。
じっと、目が離せないまま、呆けたように瞳に映していた。**]
竜の子 ダリアが「時間を進める」を選択しました。
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