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「ん?」
カタン、と音がしたので、後ろを振り返る。
カーディガンを羽織ったサフィが
開けっ放しだったキッチンのドアの向こうに立っていた。
「ダメじゃないか、サフィ。寝てないと。
りんごを切ったら持っていくから、ベッドに戻ってて」
先ほどの強情なサフィを思い出し、
言い聞かせるように話しかける。
もちろん、サフィはあまり納得していない表情だ。
カーディガンの胸元を握って、その場から動こうとしない。
「ほら、サフィ」
「……ベッドで果物を食べるようなものぐさは、
あなた一人で十分です」
「ボクはそんなことしたことないよ!?
食事はちゃんと座って食べるのが美味しいんだから!」
「そう思っているのなら、
私も椅子に座って食べてもいいですよね?」
「あっ」
見事に論破された。
ぐぬぬ……となっているボクを尻目に、
サフィはいつもの自分の席に平然と腰掛ける。
悔しかったので、うさぎさんりんごじゃなくて、
普通に全部皮を剥いたりんごを
ボクはお皿に盛ったのだった。
「……で、サフィ、何してるの?」
「見て分かりませんか? 読書です」
サフィは平然と本を開いている。
今、ボク達はソファに並んで座っている格好だ。
テーブルにりんごを置いた後、
食べ終わったら、きちんとベッドに戻るよう言い含めておいて、
ボクはリビングでお昼ごはんのメニューを考えていた。
栄養があって、消化が良くって、
作るのも食べるのも楽しそうなメニューって無いかなぁと
思いながら料理本のページをめくっていたら、
サフィが隣にやってきたというわけだ。
わざわざ、ひざ掛けまで用意してきている。
「キミはベッドでちゃんと休むべきだよ、サフィ」
「昼間眠ると、生活リズムが崩れますから」
「そういうこと言ってる場合じゃないでしょ。
高熱出してる病人なのに」
「大人しくしているのは一緒ですから、
どこにいても休んでるのと変わりありません」
「……」
文庫本に目を落としたまま、サフィは動こうとしない。
噛み合わない会話と視線に苛立ちが募る。
……こんなに心配してるのに。
サフィはボクの言葉に少しも耳を貸そうとしない。
「サフィ」
「……」
呼びかけにすら応じなくなった。
「もう勝手にすれば?」と呟きたくなるのを
ぐっと堪え、ボクは平常心を装って、
無理やり料理本に視線を戻したのだった。
……メニューが頭に入ってこない。
どれも、いつもだったら美味しそうだなとか、
こういうアレンジ加えてみたいなとか思うのだけど、
今のボクにとっては、ただの写真と文字の羅列だ。
あれからしばらく、ボク達は互いに無言で
それぞれ本を読んでいたのだけど。
心が波立っていて、集中できない。
別のことしようかな、
どのくらい時間を無駄にしてしまっただろうと思い、
時計に目をやろうとしたところで気づいた。
こうして、時計の針の音は聞こえるのに、
隣から、ページをめくる音がしない……?
わざと視線を逸らしていたサフィの様子を
こっそり伺う。
サフィの目は、動いていなかった。
ただ、ぼんやりと手元を眺めているだけだ。
その手にある文庫本は、
いつからページがめくられていないのだろう。
……もしかして、最初からじゃないだろうか。
いつもよりも赤みのさしたサフィの横顔を眺める。
ボクのあからさまな視線にすら気づかない。
「サフィ」
ボクの呼びかけに、一つまばたきをして、サフィが気づく。
その反応の前に、ボクはサフィの額に手を当てた。
ビクッと手の下で、サフィが跳ねたのが分かる。
「……熱が上がってるね」
「……」
サフィは無言のまま。
自分でもそれを分かっていて、ここにいたのだろう。
「ベッドに行くんだ、サフィ」
これ以上は放っておけない。
強い口調で言う。
「……嫌です」
サフィの手にある文庫本を取り上げて閉じる。
手に置いてあるようなものだったそれは、
あっさりサフィの手から離れた。
「ほら」
立ち上がって、サフィの正面に来たボクは、
先ほどの呟きをボクも無視して、右手を差し出す。
もちろん、サフィは手を取ろうとしない。
ボクも、それは同じだけれども。
膝に置かれたサフィの手首を掴んだ。
「っ!?」
ビクンと、先ほど以上に大きく跳ねたサフィが、
ボクに掴まれた手首を振りほどこうとする。
そうさせじと、ボクも握る力を強めた。
「わがまま言ってないで、ちゃんと休むんだ」
「わがままなんて」
「サフィ!」
サフィの熱い手が、ボクに大きな声を出させる。
手首を引っ張って、無理やりソファから立たせようとしたとき。
「あ……」
その声はどちらのものだったか。
顔を上げたサフィの揺れる瞳を見た瞬間、分かってしまった。
伝わってきて、しまった。
力を無くしたボクの手から、サフィが腕を引く。
その手首が指の形に白くなっているのを見て、
ボクは初めて、そこまで自分がサフィの手首を
握りつぶすほどに強く掴んでいたのに気づいた。
「サフィ」
俯くサフィと視線を合わせるように、
ソファに座るサフィの前に膝をつく。
「寂しかったのかい?」
「……勝手に心を読まないのがルールですよ」
「キミのガードが緩みすぎてるんだよ。
驚いたよ、いきなり流れ込んでくるんだから」
ボク達双子はテレパスだ。
どんなに距離が離れていても、心で会話できる。
やろうと思えば、互いの全てに踏み込めるのだろうけど、
それはしないと互いに約束している。
のだけれど。
「ボクの傍にいたかったんだね、キミは」
「……分かってるんだったら、言葉にしないでください」
「言葉にされると、自分のわがままを押し付けているって
突きつけられるから?
そこまでなるくらいに、
体だけじゃなくて心まで弱りきってるキミを見て、
ボクがそれをわがままと思わないことくらい、
キミは分かってると思うんだけど」
「……」
見上げた顔は平静さを保てていない。
いつもは凛とした瞳が揺れている。
寂しい、寂しいと訴えかけてくる。
……どうして気づかなかったのだろう。
こんな、今にも泣いてしまいそうな瞳に。
そこまで考えて気づいた。
ボクは今日、サフィの目を一度も真っ直ぐ見ていない。
朝、平気な振りをしようとしたのも、
ボクと普段の距離で接していたかったから。
ベッドに一人ぼっちで縛り付けられたくなかったから。
けれど、ボクは、ボクの傍にいたいあまりに、
ボクを追いかけてきたサフィを
強情だと決め付けて、その反発から
一度も真っ直ぐ目を見ようとしなかった。
相手の言葉を聞いていないのは、
サフィじゃなくてボクだった。
サフィから目を逸らしていたのは、ボクの方だった。
「ごめんね、サフィ」
手を伸ばして、サフィの頬に触れる。
親指で拭った目元は濡れてはいないけれど、
泣かせちゃってごめんという想いを込めて、
何度も目元をなぞった。
「キミはこれからどうしたい?」
「……それを私に言わせるんですか?」
「心を読むなって言ったのはキミだよ?」
「……」
サフィがふいっと目を横に逸らす。
本当は望んでいることが沢山あるはずなのに。
こんなときにまで、自分の願いを我がままと思い込んで
一人で抱え込むサフィを見て、何だかおかしくなってくる。
笑っちゃいけないんだけどさ。
昔から融通が利かないんだから。
「じゃあ、ボクが決めちゃうよ」
「勝手に決めないでください」
「キミが言わないんだからしょーがない」
もう一度、サフィの目の前に立ち上がる。
ボクの動きにつられて顔を上げたサフィに。
「ほら、ベッドに行くよ」
手を差し出す。
もちろん、サフィはその言葉に顔を俯けた。
「サフィ」
「……」
頑として返事をしようとしない。
両手を膝の上でぎゅっと握り締めているのが分かる。
まあ、そういう反応が来ることは分かっていた。
だから、ボクは、サフィに心で語りかける。
それが届いた瞬間、バッと勢いよくボクの目を見たサフィに。
「おいで、サフィ」
もう一度呼びかけた。
おずおずとサフィが、ボクの差し出した手に、
自分の手を乗せてくる。
掴んだり、握ったりしないのは、
本当に良いのかと思っているからか。
それでも、手を伸ばさずにはいられないほどに
ボクの提案は心惹かれるものだったのか。
語りかけただけで、覗いてはいないのに
手の平から伝わってくるサフィの心。
ボクはその手を優しく引いて、サフィを立ち上がらせた。
***
手を繋いだまま、向かった先はボクの部屋。
扉を開けて、真っ直ぐにベッドに歩み寄った。
一旦手を離して、毛布をめくって、ベッドにごろんと転がる。
「ほら」
ポンポンとシーツを叩くと、
「……お邪魔します」
サフィはカーディガンを丁寧に畳んで枕元に置くと、
ベッドの端に遠慮がちに横たわった。
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