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[割れた頭の傷はどうしようもないが、アリスの乱れた髪を撫でつけと整える。
おかしな方向に曲がっていた指も戻し胸の上で組ませた。
慣れた作業に淀みは無い。]
キリクさん、シーツを。
[覆うものが必要だと思い出して、シーツを持っていた牧師を振り返った時。]
─ ─
[朦朧とした意識のなか、赤い眼がちらつく。
「いいよ」と呟いた。
終わりにしてくれるなら。罰を与えてくれるなら。
「もう嫌だ」と誰かが言った。
ぽたり、滴ったのが汗か涙か血か分からない。
可哀想だった。見ていられなくて、刃を突き立てた。何度も何度も。
きっと、霊能者にも狂人にもならなかったのが間違いだった。
自分のことばかり考えているから、皆壊れてしまったんだ。
自分の為に、皆を死なせてあの子も殺した。ひとごろしだ。
唯一残った、若い牧師が何か言っている。
『自分自身が望む自分の姿』>>0:93なんてありません。
彼にはあるんだろうか。キリクさんみたいな人に力を与えれば良かったんだ。
自分も、いかにも『正しそう』で無力な彼も、いっそ壊れてしまえば良かったのに。紅く滲んだ眼が此方を見ている。身勝手でぐちゃぐちゃな思考に吐き気がした]
─ 資料室 ─
[はっと目を覚ます。
グサヴィエと別れた後、資料に当たりながらつい寝てしまったようだ。ぺたぺた頬に触れて、いつもの癖で髪を指先で弄ぶ。
朝は好きだ。
死人のような顔をして、幻とも本物ともつかない影と一緒にいられる。死者に近づけた気がする。壊れたものだけが傍に居てくれる。
夢の名残でうつろな目のまま、虚空に笑いかけた]
おはよう、フィリーネ?
[相変わらず空は荒れているようで、湿った空気が重くまとわりついた。視線を巡らせるうち、受け取った包帯や薬に気がついて手を伸ばす]
包帯、難しいかなぁ……。まぁ、いっか。
見苦しく解けてしまったら、誰かにお願いしましょうね。
[人狼に引き裂かれた左肩と腕の傷。
そちらだけ治療して、不器用に包帯を巻き直す。
せめて意識を奪ってからと思ったのか、締め上げられた首。
吊るされた父と、食い散らされた妹の細首と同じ跡。消えなければいいのに。爪を立ててわずかに滲んだ赤が染みを残している。
赤。血の色。瞳の色。裁きを待つ間の夕日が帯びる色。
大声を出したい気持ちを抑えて、ケーキの味を思いだそうとした。そうすれば、思考がぼやけて、いつも通り。
いつもより寝坊したようだから、食堂に行こうか。
身支度を済ませて誰かにアリスの所在を聞こう]
─ 廊下 ─
……。アリス?
[食堂の前で、一度足を止めた。
虚空に向けていた視線をアリスの部屋の方へさ迷わせて、首を振る。
きっと気のせいだ。
まだ嵐は続いているんだから。赤い臭いからも死の気配からも目を背ける]
─ 食堂 ─
おはようございます……。
他の人たちはもう済んだ、のかな。
[食堂と台所を行き来するニイナに首をかしげてみせる。
そのわりには、配膳された料理が減っていないように見えた]
……。
勢揃いでアリスを問いつめに行くような感じじゃ、なかった気がするよね……。
ニイナ、えぇと。
昨日の話のせいで疲れてるなら、代わるから無理しないで…。
[虚空に呟いてから、ニイナに向き直る。
いつもより顔色が悪く見えたから、手振りで席を勧めてみた]
− 自室 −
[夢の中では自分は幸せそうに赤子を抱いていた。
きっとこの子は女の子だ。
クリスタの様な女の子になるだろう。
そこまで思いながらふと。]
似た様な事……言ってなかったっけ。
[だが何処でだったか、夢の中でクリスタと
もう1人重なる幻想を見た気がするが、
夢の中へ溶けてしまっていた。]
何だかねぇ……喉元まで出かかってるのに。
[結局昨日はお風呂にも入っていない。
タオルや着替えまで脱衣所に置いて来てしまっていた。
何にそこまで取り乱したのか、忘れかけた血の痕に
頭痛を訴えそうになった。]
違うよ。きっと嵐のせいさ。
血も誰かが怪我をしたんだ。
早く傷を診てあげないと。
ああ、後は……アリスを……。
[占い師だと名乗り出た勇気ある彼女。
きっと自分達を試している。
そうでなくとも、誰も人狼じゃないと思っているから。
名乗り出た。
そう信じて、湿度で広がる髪を無理矢理纏めて部屋を出た。
足が僅かに痛んだが、動けないほどではない。]
ー アリスの部屋 −
[アリスに何も無かっただろう?と
笑って肩を叩いて食堂に誘うつもりだった。
何も無ければ心配性だねと笑って、今日も美味しい
ニイナやクリスタの食事を取って、
良ければアップルパイを作る手伝いをして貰うつもりだった。
その前に置きっ放しのタオルと着替えを取りに行かないと。
そんな事ばかり考えていた。]
……おはよう……皆、どうしたんだい?
[一緒に生きようと、声を掛けに来た場所には
既に人が集まっていた。
明るく声を掛けたつもりだけれど、とても場違いな声だと
判っていた。
この光景。
ソレを見なくても判る。
血の匂いと嵐を際立たせるような静けさ。
その部屋の中にあるもの。それは。]
ねぇ……アリスは……そこに、いるんだろう?
[誰か答えてくれただろうか。
命の問いをすれば、認めてしまう。
それが恐ろしいと、震える声と足でアリスがいるはずの
部屋の中へ入ろうとした。]
聞いていれば随分な言い草ですね。
たとえ今は亡骸であろうと、この体は昨日まで確かに「アリス」でした。
それでもあなたにとって、彼女はもはや穢れでしかないと?
お慎みなさい。
なるほど彼女の志は果たせなかったかもしれませんが、彼女はこの亡骸でもって私たちに迫る危機を伝えてくれたのです。
それをまるで刑死体を見るような目で汚らわしいものとして扱うのは、あまりに彼女がかわいそうだと思いませんか。
[彼からすれば、それはまさに異端の言い草かもしれない。
察して、敢えて挑発している]
…マコトさん。
なぜあなたはそこまで彼女を忌み恐れるのですか。
私がこの部屋に入ってきたとき、その鉈を持っていたのはあなただった。
[淡々とした口調ではあるが、声にはわずかに怒りをにじませている]*
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