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修道女 ステラは学生 ラッセルに投票を委任しています。
吟遊詩人 コーネリアスは修道女 ステラに投票を委任しています。
医師 ヴィンセントは学生 ラッセルに投票を委任しています。
双子 リック は 吟遊詩人 コーネリアス に投票した。
修道女 ステラ は 書生 ハーヴェイ に投票した。
吟遊詩人 コーネリアス は 書生 ハーヴェイ に投票した。
学生 ラッセル は 書生 ハーヴェイ に投票した。
書生 ハーヴェイ は 双子 リック に投票した。
牧童 トビー は 書生 ハーヴェイ に投票した。
見習い看護婦 ニーナ は 書生 ハーヴェイ に投票した。
医師 ヴィンセント は 書生 ハーヴェイ に投票した。
書生 ハーヴェイ は村人達の手により処刑された。
次の日の朝、見習い看護婦 ニーナ が無残な姿で発見された。
《★霊》 書生 ハーヴェイ は 人間 のようだ。
現在の生存者は、双子 リック、修道女 ステラ、吟遊詩人 コーネリアス、学生 ラッセル、牧童 トビー、医師 ヴィンセント の 6 名。
[かつて主のもとへ戻ることあたわずと云ったのは、
あるじの側へ戻るときはこの身の怨を晴らすときと
そう決めたから。
未来永劫己のものにはならぬと知り、憎しと思い
ただその怒りのためだけに刀を抜く。
嗚呼、私は憤らぬだけで、やはり怒っているのだ。
酷く身勝手で、あさましい。]
−廃屋−
[何かを求めるように揺れた指先は、微かにふわり、暗闇に軌跡を描く。
ずっと耳元に聞こえ続けた怖い言葉は、今は感じることはなかったがその代わりになんだか体が重く、胸の上がひどく重い]
……、ぁ……。
[ひくりと小さく、喉が揺れて、霧が晴れるように目が覚める]
[怨]
[怨]
[ォオオオォォオオオオオオ────ン]
[何故あなたは、]
[喰らい尽くし、]
[永劫にお側に]
[お慕いもうしております…]
[堅く冷たい面の下の、
胸のうち、灼熱の劫火、]
[──消え去らぬ、]
(嗚呼、おれはあなたを喰らい尽くしたい)
(もう何も要りませぬ、充分に戴きました)
[浄と穢][怒りと哀しみ][愛しさと憎しみ]
[それら全てが混沌と、渦を巻き]
[どれだけ主の編んだ理をはずれようとも、
主のもとへ往くことなど容易いのだ。
跳び、
五重塔のうえ
そこで主が何をしようとしていたかを知るのも容易いのだ。
静かな従者のように主のそばへ現れて、
刀を抜き、
焼かれようとも、遮られようとも
ただ何かに憑かれたように
ただ呪に突き動かされ
ただ狂おしく刃を振るった。]
[愛しているのか、憎んでいるのか
求めているのは、果たして若宮そのひとなのか、
恋うる想い、それ自体なのか、
分からなくなってゆく。]
─東寺・五重塔上─
[言霊のちからか、思いのちからか
果たして恨みをはたせども
屋根をしとどに濡らす主の骸が
このまま置いては何れ黄泉還りでもせぬものかと
肉を暴き、
骨を暴き、
筋を暴き、
血を暴き、
何れは彼の若君と愛し合ったのだろう
身体のすべてを暴いては散らす。
雨の如く降る。
それから、はるか泰山へ向けて
どうかこれを現に戻すことのないように、
戻ることあらば幾度でも滅ぼそうと唱えた。]
[それら全て、抱えて
あかき怨の海に浸り、
たまごのように、
未だ生まれぬ胎児のように、
まるくまるく、
──おとこはねむる。]
[このことを知れば若君はかなしむだろうか、
もし主の魂が何処ぞにあってはそれを知って
少しでも悔しがるだろうか、
怨み辛みに身を焦がしでもするかと、そればかりを思っていた。]
[そうしてすこし息をついた。]
………。
[掠れを帯びた声が名を紡ごうとして。
上手く紡げず。
いつも包まれていたあたたかい気配がないこと、ひしと感じて喉が小さく震えた]
[狐は突然、ぴくりと身を強張らせ、頭を上げました。]
…ぁ。
[見開いた目に映る光景は、この座敷の中のものではありませんでした。
胸に、腹に、背に、肩に。
鋭く熱い恨みの刃。
幾度も幾度も、
幾度も幾度も。]
[自分が身を横たえていた辺り、ふと見回してみれば少年は後ずさることも逃げることも出来なかった]
…これ、は…?!
[黒髪がうねる床の上、崩れかけた屋根、蜘蛛の巣、埃。
少年が暮らした邸とはあまりにも違いすぎる、場所]
[羅生門、
そのあかぐろきあなぐらのようなところに、
何時の間にやら居るのだった。]
──やれやれ。
おれは、死んだか。
[顔を顰める様子も声音も、常のもので]
[己がこころは、己のものでありながら、他の方のもののようでした。
ただただ、そこにあったのは、胸焦がす想いのみでした。]
…何処に。
[幾度も切られ、刺され、貫かれようとも。
その身が幾千もの欠片となろうとも。
ただただその思いは、失せし想い人を求め虚空へ手を伸ばすのです。]
[ふらふらと、大路を歩く童子の姿。知らぬものが見れば、飢えで死にそうな子どもにも見えて。けれど、その腰には短刀が一つ]
(あいつの邸に、人はいなかった。式がいたけど、それだけ。若君様は、あいつは、どこにいったんだろう)
[下る大路。遥か遠くに、羅生門が見える]
[何処となく、何かを失くした様な心地がする。
そう、まるで今生まれたばかりのように心許無く、
半身を喪ったかのようにぽっかりと虚があるのを感じる。
それでいて、何処かへと繋がる細い糸がこまかい震えを魂に伝えてくるような──]
──廃屋(生母の屋敷)──
[おのが身体を戒める ははの黒髪]
母上は あの時も わたしに
この硯を貸してはくださらなかった。
そして、わたしは────
あなたの声を《聴き》つづけるだけ
…・・今も
[おとこは、あきらめたように首を横に振り、硯からゆびを離した。]
髪を切った後は、
あなたとは、二度とお会いするつもりはなかったのですけどもねえ。
[また暗い目を伏せ──そして まばたき。]
…・目の前で抱き合う恋人たちを見てしまったがゆえ。
めおとも 睦みあう恋人も 許さぬと云う──
あなたの処に還って来てしまった。
[歩く。歩く。歩く。ただ歩いて。辿り着くのは幾度も見た門で、午前のうちに既知のものが死んだ、場所]
……白藤さんの体が、無いや。
その代わりに、灰?
[白藤の倒れた場所まで来ると、そこに散る灰を見つめて]
誰かが、灰を集めた、のかな。汐さん、?
汐さんは、どこに行ったんだろう。白藤さんの灰を持って、どこに。
[あたりを見回して、姿は見当たらず]
――羅生門――
[思いはただただ、赤く煙る雨となりて
いつしか洛中へと、降りしきるのです。]
…あぁ、永劫に…
永劫に、離しは…せぬ……。
[途切れ途切れに呟いて、狐はくたりと倒れ伏します。
その白い肌にはところどころ、彼の従者の髪の色の如く、
朱赤の線が疵のように、刻まれ浮き出たようでした。]
[黒髪は、呪を紡いだ文を送り終えたことに満足したのか、おとこからゆるやかに離れ──ただ、うごめく くろい海となる。]
…若宮さま
目覚められましたか。
[おとこは、ゆっくりと若宮に近づいて行く。]
[その思いは、切られ貫かれながらも、
彼の従者の式のことなど、省みなかったのやもしれません。
けれどもそれは、今となっては誰も判らないのでした。]
……貴方、は…
[誰、と聞かずとも誰かなど知っている。
ゆっくりこちらへと近づいてくる足音、見えていても、聞こえていても、少年は彼から逃げることあたわず]
…ここは、一体……何のために、僕を。
[めおとも、睦みあう恋人も許さぬと思ったのは誰の念か。
裂かれ、嘆き悲しめば良いと思ったのは私の念だ。
刃が脂で鈍れば爪を使い、手指が萎えては歯を用いたから
歯の隙間から、唇を伝って顎から血が滴る。
呪は離れ、そらの上を漂う不吉な雲となる。鳥瞰。]
[ぼう、と暫し灰を見ていたが、道行く人の肩に、背に、血のようなものを見つけて首をかしげ]
[指摘をすると驚いたようにその人は後ろを振り返り]
[振り返った先を見つめて、其方へと歩き出す]
あれはまだ、新しかった。
[肉片があったようにも見えた]
[東寺のほうへと進んで、五重塔を見上げた]
ここは、わたしの母だったおんなの屋敷です。
歳月とは無情なもの。
荒れ果てておりますなあ
[おとこは若宮のすぐ傍まで来ると、身動きがとれぬらし、若宮の足元にひざまずいた。]
─…あなたさまにも、呪が絡みついておりますゆえ。
失礼…。
[そう云って、節くれたゆびで絡んだ黒髪をほどく。
ぬばたまいろの糸の呪縛は── おとこのゆびが触れるたび、煙のごとく空に溶けてゆく。]
・・禍ツ星の 巡るさまが見たいと──
若宮様がおっしゃられましたゆえ
[くろ糸の呪をほどく手は止めずに、おとこは暗い目で若宮を見上げた。]
…────
─花山院邸・奥座敷─
…今の、は……。
[痛み未だ残るまま、ぼんやりと目を開けました。]
何方かが、怨み篭る刃に散りました。
高い高いとこ、都を見渡すところにて。
…奪われた何方かを、捜し求めておいででした。
[かすかな吐息のような、掠れた声で伝えます。]
強き思いに身を焦がせども…あの方は未だ人であったようなのです。
[憎い 悔しい 嫉妬 怒り 嘆き 愛欲 ――殺意]
[水盆に落とされた血は 最初は水に紛れゆく代わりに 波紋を投げかける
次に落とされても同じこと
一度あかく染まりきれば 盆より払うか 多くの水でなければ色消えぬ
喩え色は消えても 薄いか濃いかの違いのみ]
[屋根の端からひたひたと滴り、
下段を流れてまたその下へ、細い糸を引きながら、
近くで見ればそれと知れるだろう──血は流れてゆく。
高いところでは風が吹くから、
纏った血のりが乾いて心地が悪い。]
──東寺・五重塔うえ →地上──
[舞い降りた。
元から髪が赤いから、物の怪にでも見えるかも知れない。血の所為なのか、声を出しにくいと思った。]
……桐弥か。
[遠くで水音がした。]
[揺れる水面]
[どこか――闇の奥 どこかで]
……
[式があるじをころす。]
[霞の向こう見えた]
[それは――愛憎の果て]
[五重塔の上にあるはずのない人影を見つけて、目を瞠り]
あれは……。
[体に入り込んだ何か――甘さかも知れず――が、体のどこかで悲鳴を上げ]
――式。
[名を知らないままだった、と呟いた頃、目の前にそれは降りてきた]
[渦巻く思いに押し流され、吹き飛ばされかけた己がこころは、
その手へと重なる滑らかな手に、繋ぎとめられたようでした。
息乱れ、視界霞むとも、
そのひんやりとした指の感触だけは、己が彼方ではなく此方にあるとしっかり思わせてくれたのです。]
[黒にとけかけた己の体が何かの気配にぴくりとゆれる。
一度は殺意さえ抱いた今となっては昔の悪友]
…お前まできたら、あの桜が穢れるな、影居。
ただでさえ、陰の気こもる場所なのに。
[ぼそり呟く。既に友とも思わぬその相手]
──廃屋(生母の屋敷)──
[呪が 成就したことを その髪は知ることが出来るのか]
[東寺の尖塔より 安倍影居なる陰陽師であった 血肉断片 あかい雨となり 都にふりそそいだ ── そのとき]
[その廃屋の四隅より]
[なきながらわらう おんなの声が響きわたり 黒髪の海は はげしくのたうった。]
[何故、どの様にして死んだのかも、おとこはさだかには憶えておらぬよう]
……まあいい。どうせ碌な死様ではあるまい。
[くっと口の端片方歪める笑いは、自嘲であろうか。]
……なんてこった。
[花、散らす]
こうして恨みは降り積もる かねぇ。
[瞑目。]
[溶けかけた気配が戻るのには]
[少しばかり笑み浮かべ]
[慣れ親しんだ声に、眉間に深い皺浮き立たせ、振り返る。]
……余計なお世話だ。
お前こそ、死んでも大して学ばぬようだな、智鷹?
[かそけき煙と消えるくろ糸の
呪を解き終えたおとこは、
薄やみの部屋にしろい雪花石膏、若宮の御脚からゆっくりとゆびを離す。]
──誰が殺されたか、知りたいですか。
淡いろの若宮さま
[やさしいと云ってもよい、おとこのささやき声]
[肯定の言葉を聞き、俯く]
(若君様は、なんと、思うだろう。憎いと、この男を殺しに来るのだろうか。それとも。同じところへ送って欲しいと懇願するだろうか)
やっぱり。心は晴れない。
あんたは、それで満足?
聞くのは愚問か。
でも。その血を見ただけでは、死んだ実感は沸かないな。
死んだというのに、おれの心はまだ曇ってる。
[手は腰に挿した短刀に伸び]
この手で、若君様を斬れば、晴れるのかな。
死して何を学ぶ。どうせ私は来世を待つのみよ。
[皺深い眉間におなじく額に深い溝を刻んで。
浮世から離れても腐れた縁は切れぬものか]
お前がくるとあの桜が穢れる。
悪霊はそこな陰陽師に調伏してもらわぬとな?
[いつぞやの羅生門でのやりあいを思い出し]
穢れる、だと?
[何かこころの痕に触れたか、鉄面皮に少し傷付いたような色が浮かんだが、それも一瞬──]
ならとっとと来世に行け。
お前の顔を見ずに済めば清々する……と言いたいところだが。
お前本当にここから出られると思うているとは、愚かの極みだな。
[ふん、と鼻を鳴らす。]
大体言うに事欠いて、悪霊とは何だ。
おれが悪霊ならお前も死霊だ。愚か者が。
[久しぶり──と言うても僅か一日か二日のことなのだが──に再会した所為か、口調に容赦がない。]
[ふたつのたましいの遣り取りを、
苦笑のようなそうでないような、
曖昧な笑みのまま耳を傾けながら]
櫻は、誰の傍でも櫻だよ。
[やわらかく謂って、眼を閉じる]
出られぬなら出られぬで構わぬ。それも己の業であろうよ。
前世に転生も許されぬ罪犯した身なら神仏恨みもすまい。
お前が狂う様と私が学ばぬ様とどちらが見ものであったかな。
よくも長きにわたって誑かしてくれたものよ。
お前が私がどんな厭う陰陽師であっても人だと信じてはいたのにな。
[過ぎった魂に刻まれた疵は、その肌へと痕を残し、
未だ夢から現へと戻りきれぬまま、寄り添う方へと身を預けるのです。]
…無我、どの……。
[かすかに呼ぶは、その優しい手の方の名。]
ふん。
[白藤の仲裁の言葉にもやはり眉間の皺はゆるまずにいたが]
石木は情を持たぬとはいえその姿は誰に対しても変えぬ所は…人よりずっと好ましいもの、か。
桜め。情はいらぬよ、あんな者に。
だから、お前の業であるとかそういう問題ではない。
この羅城門自体が、呪で死んだ死者を引き付けて離さず留め置く、罠のようなものだと──
[と言い掛けて「誑かして」の言葉に瞠目し、]
お前、何故、おれがひとでないと、
[愕然とした表情で、橘中将を見詰める。]
お前を想わぬ若君が、憎いと思うたのでは無いと言うのか?
何を悲しむ。
若君の哀しむを思うてはお前も心さびしくなると?
[喋るたび、舌に絡む血糊を吐き捨てた]
[気付けば、
おとこはささやきながら。
すでに少女の姿ではなく、元の少年の姿にもどった若宮を抱き寄せた。]
あなたもよく知ってる者ですよ、おそらく。
[おとこの声が 若宮の至近距離にある暗い姿が ][ゆぅらり]
[ゆれる]
[ゆぅらり] [ゆらり]
そうか、それならずっとお前や白藤の顔を見て過ごさねばならんのか。…それも一興、と思っておこう。
京の死霊を留め置くなら数多の魂がたまっていように、ここは静かだな。
…ずっとお前達を見ていたよ。
お前はまるで鬼のようであったな。途中から見るに忍びなくもなったが。
[おのれ自身を怨み それをわらうように]
あなたさまを影居どのから引き離したがゆえに
呪は成りました。
あなたさまは、
おのが目で ──しか と、確かめるがよろしいでしょう…
[おとこは、片腕で若宮を*抱きこんだまま*────]
あるがままに咲く。
あるがままに在る。
……櫻はどう思っているかねぇ。
[こういう仲だったのだろうな、と
そう思いながら見守るように。]
出られないか、そうだろうな―――
[と、口を噤み。]
[愕然としている影居と、その次に橘を見て]
[最後に鏡へ――汐のすがた、其処には映らず]
[何処へ、と小さく呟いた。]
おれを想わぬのが憎かったのじゃない。
そんなものは、初めからわかっていた。
若君様は、自分の姿を嫌っていた。その姿があることで、他のものからの好意すら、信じていないように見えた。
その若君様が、愛しいと思えた人がいなくなり、どれだけの哀しみが襲うのだろうと、思えば――。
悲しいと。おれが、他の人が死んだときに感じたものよりも強い哀しみが、彼の人を覆うなら、やはりそれは悲しいものだ。
あいつを殺したことを、責める訳ではないんだ。もし、あんたがやれなかったら、おれが殺していた。
それは、確かだよ。
[人を、恨み抜くことは難しいと、思う]
でも。そうだな。
これは全部、ただのおれの感傷だから。
若君様がどう思うのかを見て、それからまた変わるんだろう。
おれの中に燻る想いが、ただの情なのか怨みなのかどうか。
自分だけでわかるにはまだ、おれは子どもすぎるんだ。
[赤く染まった式を見上げて、笑う]
…宮のことは?
お前が羅生門でかどわかした宮のことを覚えているか?
その時のお前はまさしく鬼であったよ。
そしてお前の式が…お前を手にかけた。
まさに恨みつらみの一幕というわけか
[白藤にも同意を求めるように視線をよこし]
[橘の視線に、沈黙したまま小さく頷いて。]
――……愛憎、それからうらみ。
糸がいくつもいくつも、絡み合っていたねぇ。
[白い袖をゆるり、翻すと
指先にかかる赤や銀の糸がみえる――幻視。]
宮?
誰だそれは。どの、宮だ。
[本当に心当たりがないようで、]
それに、おれの式がおれを手にかけるなどある筈が……いや、まさか、あれか。
あやつ、おれの素っ気無いのを根に持ってとは言わぬだろうな……
[何やら自己完結してブツブツ呟く。]
矛盾――。そうだね、矛盾してる。
自分でも時々、自分が何言ってるんだかわからなくなるよ。
[肩を竦める。それでも短刀は手放さずに]
殺すかもしれないし、殺さないかもしれない。
それはまだ、判らない。
憎い、と殺したいと思う気持ちと、ただ悲しいと思う気持ちが、おれの中でぐるぐるしてるんだよ。
[眼を瞬かせ]
[不思議そうに影居を見つめて]
……記憶を、落としてきた か?
[手繰り寄せた糸を離す。
ぱらり、闇の中に解けていった。]
分からない、判らないから
――――それで、
私に訊ねるのか?
それらしきものを持つといえ
[そう言うとき、憎憎しげに顔を歪めた]
人でもない私に訊ねるとは気が違ったとしか思えぬ。
[桐弥の胸元に指を突きつける。
赤く、指のあとをつける。]
おまえ自身に訊ねれば良いだろう。
その為の鍵は既に渡した――――
お前の素っ気無さに根を持っているものがいれば命がいくつあってもたりないな?私もそのうちの一人だが。
よびだした者にまで恨まれるとはどういう躾をしているのやら。
[本気で問うてくる様子にまたもや眉を顰めて]
…宮様だ。式部卿宮様。今上帝の末子でいらっしゃるお方。
忘れたのか?あれだけの執着を持っていたのはお前だろう?
おれが記憶を失くしていると言うのか?
式部卿宮……見たことはある、いつぞやの…
[と記憶の糸を辿れば、ぽっかりと穴が開いていて、
顔も姿も声も、何を話したかも無のまま。]
……本当におれは忘れているのか?
[愕然と呟いた。]
あんたに尋ねてるって言うよりそうだな。
言いながら、自分で確認してるんだ。
確かに、あんたは式だ。でも、主を欲してたんだろう?
その思いは、人も式も変わらないさ。
誰かを欲しいと思う気持ちは。
[まだ、欲しいと思うのだろうか]
…忘れて、いるな。
なぁ白藤。憑かれていた者は憑き物が落ちた後はどうなる?
記憶は落ち面もこのようになるものか?
[あの凶相とは程遠い、しかし顰めたその顔は比べてみれば穏やかとも言える程の違い]
ふうん。
変わらぬものかな。
お前が云うのならそうかも知れぬし、
童の戯言かも知れぬ
……それは私には判らない。
欲したことだけは事実だ。
未だ満たされぬ、が
それを満たす術も知らぬ。
……そうだな。
[橘の言葉に同意し。]
憑かれて――いたものは。
その間の記憶も抜け落ちることがある。
形相が 穏やかにも、なる。
[答え、影居を見て]
――……どうして?
何やら──気色が悪い。
おれ自身の知らぬことを他人が詳しく知っているとは……
おれが何かに憑かれるなどと。
考えられぬ。
お前が知らぬ、ではなく忘れているのだろう。
その空白の間が真実ではないのか?
陰陽師形無し、だな。名高い陰陽師、阿部殿?
生きるためのものなら寧ろそれを誇れぬものか、お前は。
案外情けないのだな。
[くつくつと笑うがあきれてもいる。ことは重大かもしれないがどこか力が抜けているのはここが死後の世界だから]
誇るだと?
[眉間の皺が一層深くなり]
おれは生まれつき、人とは異なる力を持っていた。
養父がおれに、陰陽の道や召鬼法や符術を覚えさせたのは、無差別に使って周囲を傷つけぬようにするため。
きちんと呪力を制御する術を身につけるようにと、
おれは相当厳しく躾けられたさ。
[思い出したくもない、と言う様な表情に。]
満たす、術、ね。
本当の式であれば、主に聞くのだろうけど。
おれも、あんたも。もらえない答えを探してるんだろうね。
[短刀から手を離し、鳶尾の頬へと当てて]
誰が生きるための術(すべ)に苦労せぬものか。
お前がどのように修行したのかは知らんが私に同情でも求めるのならお門違いだな。
お前の未熟さは事の結末に現れているだろう。
お前がそれを認める認めないは知らぬよ。
死んで安んじるか…。それもありなのだな。
私は逆に未練を持ちそうなのに。己もやはり未熟か
[自嘲気味に唇歪め]
さて…少し疲れた。お前達はまだ…残るものでも見てるのだな
[白藤が咲かせた桜の下、寄りかかるように座るとそのまま眼を閉じた──*]
[橘が目を閉じるを眉間に皺刻んだまま見遣る。]
(欲しかったのは、憐れみではなく)
(……)
[何だったのだろうか?
*何か引っかかるものを感じながら*]
[指が、触れた先から仄かに藤の匂いが立ち上り、はらりはらりと怨みの痕が剥がれて行く。自身は、落ちればいい、と思うただけだったが]
おれの手は、もう汚れてるんだ。
[指で唇に触れ]
[はらり]
[怨みの落ちたそこに、以前されたと同じように唇を重ねて]
[甘い香りが、より色めき立つ様に]
[踊る]
さっきの、お返し、だ。
[甘さに酔わぬ前に離れて]
おれは、若君様を探す。安倍がここにいたのなら、若君様とは別だったのかもしれない。
汐さんも見当たらないから……あの法師なら、あの後どうなったのか知ってるかも。
[その手のここちよさに、未だ消えぬ痛みはやわらいだようでした。]
ありがとう、無我。
ご恩を受けたら返さねばならぬのに…わたくしにはどうしてよいのか分からぬのです。。
[問いには答えず
もし葛木が拒まぬなら 白く透ける衣を肌蹴
ほそりしなやかな胸板に身を寄せ 朱線と痛みを全て請け負うであろう]
[その後]
[文字を狐の繊手に綴る]
双子 リックは、学生 ラッセル を投票先に選びました。
[触れる指、寄り添う肌。
狐は淡く、吐息を漏らしました。
手へと綴られる言の葉のおもい。狐はハッとしてそれを見つめ、
もう片方の腕で、包み込むように
その裂け乱れた墨色の衣纏う肩を抱き寄せるのでした。]
…重うございましょう。
それのほんの僅かでも、代わりに背負う事ができれば良いのに。
―廃屋―
[――――誰が死んだのか]
[けたたましい女の笑い声、うねるぬばたま、足に触れる指先、うっすら感じる、足りない気配]
――――――っ、ぁ―――
[ひくりと、喉が震える。恐怖によって]
[枷のように伸ばされた腕、払い除けて]
―――――っ!
[墨染纏う男を突き放して]
…っ……ぁ……
[上手く、言葉がつむげない。
何かを言おうとしたのに、それは言葉を成さない泣き声に変わって]
[憎いのだと思っていた。それは、確かで]
[鳶尾の赤く染まった姿を見、まるで霧散したようにその気は薄れて]
[それでも]
若君様を探して、おれはどうするんだ。
[震えるのは手と心]
――羅生門――
[その大きな門を見上げる。朝の内は共に見たはずだったもの。日は傾いていて、夕日を受け屋根は橙に輝き]
白藤さん……。
ここで、死んだんだ。
[風にさらわれて、既に灰は薄く残るのみ。それを見下ろし]
おれが同じように死んだら、誰か泣いてくれるのかな。
[ぽとりと、*雫が落ちる*]
[式部卿宮はたしかに居なかった。
居れば居たで怒りもしたろうが、居なかった以上はどうでも良かったことだった。桐弥に言われて思い至る。
――おれの手は、もう汚れてるんだ。
一体なんの罪を犯したと云うのだろう。
盗み、殺しでもしたというのか。
――お返し。
一体何を返されたものだろう。
それとも、桐弥はそうしたかっただけなのだろうか。――それならば滑稽なことだと思った。
小さな背は、何を求めて何処へ向かったのだろう。
気づけば往来が騒がしい。
あちらから人がやってくるようだ。
口々になにか]
――嗚呼、これではまるで悪霊だな。私は。
[桐弥のしたように、己の唇を指でなぞる。
乾いて粘る血糊が指から唇へうつる。
主無く、人にも在らず未だ晴れぬ辛みを抱いては、
己はやはり悪霊怨霊の類に近いような気がする。
一度、東寺を仰いだ。
血、骨、肉。髪。誰が死んだものか、分かるものだろうか。衣の切れ端くらいは、きっと分かるに違いない。
ひとびとの騒がしい声を背に、何処へなと歩いて*いった。*]
[真っ暗な闇の中に時折、現在の現世の有様と思しい場面が切り出されて浮かび上がる。
おとこは渋面のまま、無関心にそれを眺める。
──今生の世には、少しは面白いことも良いこともあったが、それでも胸に開いた虚無を埋めることはできなかった、と思う。
段々とひとに何かを求めたり与えたりすることが面倒臭くなり、結局こころを堅く鎧ったまま、なるようになれと思い日々を過ごしてきた。
その報いが今の有様なのだろう。]
[だが。
廃屋で泣き崩れる少年が映った時、おとこは不意に胸が締め付けられたように息苦しくなり、思わず心の臓のあたりを掴んだ。]
[ふるふると、糸の端から伝わる震え。
……その糸は何処へ繋がっているのだろう?]
(かげ、い、さま―――――)
[澄んだ、か細い声]
[それが糸の震えとともに、ぽかりと胸に湧いて。
隅々にまでじんわりと、染み渡っていく。]
──……誰だ、これは。何故おれの名を呼ぶ。
[全く見覚えがない。
にも拘らず激しくこころが騒いで落ち着かない。]
[ 否 ]
[ 役目 ]
[狐の朱線と痛みを請け負うた証は青の徴と刻まれて]
[ 消えるは正しく ]
[ 時至りて消えぬは ]
[ 不可思議 ]
[ひたりと面を狐の首下につけ]
[ つねひと ]
[ 疾く消えぬなら ]
[ 希う ]
…それがお前の未練なのだろうよ。
無意味と言いながらもその中に意味を見出すのが人たるものよ。
[悪友とはいえ長い付き合い。薄い目を開けて静かに呟き…*]
[東寺と羅生門を離れ、
衣を着たまま川で身を濯いだが、水を離れども髪や衣にさしたる濡れた様子も無い。
血の匂いは、薄らいだところで消えるでもなく、ぬらぬらと身の回りを漂う。]
おれの未練……。
[呆然とただ眺めるうち、霧に浮かんだ景色は変わりて]
[総身を血濡れの緋(あか)に染めた己が式]
鳶尾。
やはりお前がおれを殺したのか。
何故だ。式が仕える主を殺す理由は何なのだ。
誰かに操られたのか。
それとも、おまえに自由なこころを与えたおれが間違っていたのか。
[分からぬ、何もかもが──と惑う声音、低く呟いた。]
[櫻の木に凭れて立って、
戸惑う影居の様子を見ている。]
――未練、ねぇ。
[鳶尾の名が出ると瞑目し]
あいつが、あんたに焦がれているからさ、影居。
恋しすぎて憎い――ほかの者を愛したあんたが。
[暫く佇んでいたが、ようやく顔を上げて]
あの法師もいない、か。誰か、見た人はいないのかと思うけど、もういないかな。
[北へと向かう]
――夕暮れ・羅生門→朱雀大路を北へ――
[人も輛も少なくなった大路を歩く]
(若君様は一人でどこかへ行かれたのかそれとも。あの法師も、若君様に興味を持ってるようだった? 連れて行った、とか?)
[無事でいるのか気がかりではあったが、手にかけたい相手の無事を祈るのも変な話だと、思い]
[まだ遠く、人の顔も見えぬような先に、夕暮れには珍しく人だかりがあって]
なんだ?
[向こうからやってきた男たちの話に聞き耳を立てると、なんとむごい、と小さな声が耳に入る]
[嫌な予感がして、駆け出した]
修道女 ステラは、双子 リック を投票先に選びました。
修道女 ステラは、学生 ラッセル を能力(襲う)の対象に選びました。
[辿り着くのは、八条の大路との四辻。そこに]
ちょっと、どいてくれ。
[人だかりを分け入り、見つけたのは、何度か見た、彼の人が背負っていた箱と、腰から下だけとなった、姿]
――なんだよ、これ。
汐、さん?
[膝を突く。そのまま倒れそうになるのを両手で支えて]
[白藤から聞かされた答えもまた男を愕然とさせるものだった。]
焦がれている──鳶尾が、おれに。
あいつは…そんな素振りなど見せたことは。
いや、そうではなく。
おれが愛した、だと。
まさか、それは、
[最後に見たのは、白藤を見て呆然とする姿だった。
違う人だと思いたかった。けれど、着ていた物は見覚えがあり、その箱も]
違う。……っ!!
[強く頭を振って]
なん、で。こんな姿に。
[違うことを証明しようとして、箱へと手をかける。中には、薬が入っているらしい壷や箱に白い布がいくらかと、そしていつか塗ってくれた軟膏が入っていた]
……。汐さん。白藤さんのところへ、行けた、かな。
[入っていた竹筒を開けると、灰が入っていて、それがなんであるのか一瞬わからず]
[箱を閉めて、汐の姿を眺める]
[屍など何度見ても気持ちいいものでもなかったが、知っているものとなればなお更で]
人が、死ぬのは嫌だ。
それはやっぱり、嫌なものだ。
ごめん、汐さん、おれの力じゃ運べないから。後で誰かに頼むよ。この箱は、誰かに取られないように持って行くから。
灰も、汐さんと同じ場所に埋めてもらえるように、頼むから。
[箱を持とうとして、手を見た。巻いてもらった布はいつの間にか外れていて、掌には傷がまだ残っている。
軟膏を彼がしてくれたのと同じように塗って、布を裂き、両手に巻く]
――!?
[鏡に映ったその光景に、櫻から離れ鏡に近づく]
汐。
[つめたい靄の幕に手を触れ、
眉を寄せて]
――どうしてだ。
なんで――
[言葉尻が掠れた。
首を横に振る]
[残りの布を汐の体にかけてやり、箱を背負って立ち上がる。そして汐を見下ろし、もう一度首を振って]
汐さん、色々ありがとう。
[六条院へと*歩き始めた*]
―花山院邸・奥座敷―
[やっと知れたと、狐は目を細めるのです。
この方が求めうるものあれば、叶えて差し上げたいのです。]
狐は弱く、いとも容易く殺せども、永久近いほどに生き得るもの。
…貴方が望むならば
[その手を取りて、爪先でそっと綴るのです。]
[ とわ に ]
羅生門に?
[穢れとは、彼の思い深き方を殺した恨みのことかと。]
…行くのですか?
[その方の事も、気になりました。
されど、彼の思い深き方が、狂える程に思う方の事も気になっていたのです。
件の武士を取り殺した狐火は、
そう、なぶり殺す事を楽しんでしまった心の欠片は、
ふらり体を離れ、想われ人の所へと。]
[更に見える景色は移り変わり、
都の大路、遠巻きの人だかりの中に倒れた…否、下半身だけの骸]
[それを見て色めき立つ、白藤を振り返り]
白藤、お前、
吟遊詩人 コーネリアスは、双子 リック を投票先に選びました。
[「汐」の名にぼんやりと思い出す、
羅城門の下で遭った、髪を切り揃えた薬師、
それと言葉を交わした──]
「…貴方は。大切な物を失ったら。
本当に…何も、恨まずに。居れるのですか。」
「私は…捨てれはしません。きっと。
ずっと、引きずる… 」
[泣いていた、顔。]
あの、時のか。
[だがそれでも己が吐いた言葉は欠落したまま。]
──廃屋──
[若宮に突き飛ばされ、おとこはさしたる抵抗もせず、抱いた腕を離した。]
・・……
[おとこは足元の、うらみのまま 震えるおぞましきあやかし 黒髪の。
ははを見る──。]
血を分けた ははが
かくも醜くおぞましきものに成り果て・・…
ああ 暗い部屋ですね
若宮さまの 輝く 淡いろだけが まぶしい
[云いながら、おとこはゆるく首を振る。]
―廃屋―
[それは穢れ。
それは怨み。
それは、死に行く者たちが、狐の心をよぎって逝く時に残した残滓。
その姿のひとつは薄紅の衣纏うもののふに、
その姿のひとつは衣冠乱さず纏う陰陽師に。]
『貴方想うが故に。』
『貴方恋うが故に。』
[口々に囁く言葉は、想われ人の、
若宮様の耳元に。
狂わせたも死なせたも、そなたが在るが故と。]
[縁に座るは、透けて薄れた狐の姿。
黒く染まった一ッ尾の。
それは、惑い揺らぐのを楽しむために、悪い夢を若宮様へと紡ぐのです。
総ての咎(とが)はそなたに在りと。]
[差し込む光に照らされ くろかみが消えてゆく。]
[闇が光に混じり消えるその部屋 若宮の耳元に
生きたる若宮に 囁く死者の声は届くか──]
−廃屋−
[体が、震える。
耳元に届く懐かしい声。
耳元で語りかける愛しい声。
すべては自分のせいだと、声たちは語り、語り]
───っ、…ぅ、っ…
[耳聞こえねば楽だろか。
瞳見えねば楽だろか。
けれど、少年の心が、それを許さず、ただ、両の手で顔を隠して泣くばかり。
大きく響く音、少しだけ顔を上げれば]
[世界はひどく、まぶしい]
[六条院に箱を置いて、事後のことを頼んだ後、また外へと出た]
[どこへ行けばよいのか、考えてみても判らず、ただ彷徨うのみ]
(白藤さんも、汐さんも。ただ流れて京に着ただけなのに)
[憎い][憎いと思うたのは何故だったのか]
[憎く、愛しいと]
[藤の香りがふわりと]
[その方を指し示すように導いて]
[気づくと、朽ちかけた廃屋の前に導かれて]
こんな所に、若君様がいるはず、ない、よな。
[けれども、匂いはそこに留まり、中へと誘う様で]
[気になったものは仕方が無いと、中を覗いた]
――廃屋――
[おとこは、数珠を持たぬ片腕で、黒く染まった狐を抱いた。
荒れた庭の向こう、塀の上をちいさな痩せた猫が掛けて行く。 猫の周囲はうすあかく、また目の暗いおとこにその姿がくっきりと見えるからには、それはまた誰かの──呪を運ぶ猫なのかもしれなかった。]
[切り替わる景色、
またあの少年が映る、]
[まだ泣いている、]
[そして、やつれた法師と、黒い尾の妖狐、
囁く言の葉は少年を惑わし、唆し、
穢れに満ちた、 ]
……──違う、違うのだ、私は、
[叫ぶように、喘ぐようにおとこの唇から、我知らず声が洩れ出でる。]
わたしは、あなたを愛したわたしのまま死にたいと、
己が妄執が、あなたを喰らい尽くす前に消えたいと、
[──気が付いて、ハッと口を噤む。]
───僕の、せい?
僕が、影居様と出会わなかったら。
僕が、影秀の気持ちに気づいていたら。
こんなことにはならなかったのかな?
[くるくると]
[意識を苛む言葉]
──廃屋・部屋…→庭先──
[おとこに人としての感覚があるならば、首筋にふれる外気は随分とつめたくなっており、それが、おとこと若宮は長い時間部屋に居たことを示していることに気付いただろう。]
[にゃぁああ]
[泣き続ける若宮を尻目に、しわがれた猫の声に惹かれるように、おとこはくろい狐を抱いたまま、外へ]
誰ぞの怨みを背負うか。
犬、猫、けものに罪は無いと云うのに
ああ、醜いのはひとばかり。
[濡れた琥珀の瞳は、法師の傍らに黒き狐の影を見る。
少年には、呪いの力も、不思議を知る瞳もないはずなのに、それが見える]
……?
[うまく、声を紡げないまま、その光景を瞳におさめる。
少年の足音が近づいていることは、知らぬまま]
[かさり]
[歩けば音が響き、天井の隙間からは赤い光りが差し込み、それもやや紫へと変化して、夜が近いことを告げる]
(ここは。荒れているのに、人の気配がする)
[敗れた御簾の内を覗いても、やはり無人で、奥へ奥へと匂いは指し示し]
[ふるふると、こころに繋がる糸が震える。]
[ずきん、と頭が痛む。
額からこめかみにかけて、内側から疼くような、痛みが走る。]
[ふと、庭の方へと目を向けると、そこに人影を見つけて柱の影に身を隠した]
(あれは、暗くてよくわからないけど。でも)
[あの法師だと、何かが告げる]
(それじゃあ、若君様は、ここに? でも、法師が連れて行ったという確証なんて無い。
でも、法師だけじゃなくて、あれは)
[人影は一人ではなく、何かを抱いていて、揺れる尾を見て人でないことに気づく。
若宮でないことを知ると、御簾の内を通ってまだ奥へと]
[先の会話には滲まなかった色を含ませるそこの二人。
ゆるりと目を開け、わずかな呟き]
…何が違う。
[鏡を見て驚愕するもの二人。その相手は自分と縁がないとは言えぬが二人が持つような感情は持ち合わせず]
それがお前達の本性だろうよ。影居、白藤。
──廃屋・庭先──
[おとこは猫を撫でようと喉元に手を差し出す。
そのゆびに、痩せた猫は噛みつき──おとこの手のひらから、ぽたり 血が流れた。]
・・……
[かさり] [たん たん たん]
[人が何かにぶつかりながら歩く──音が、おとこの耳にも届いた。屋敷の反対側から中庭、おとこの近くへ。足音は近づき、一度ぴたりと止まる。目の暗いおとこは、それが桐弥であることには気付かない。]
[その、より暗い部屋にたどり着いたのは、法師の姿を見てから僅か後の事で、破れ、色もあせた几帳を手で寄せて中を覗く。そこには、淡い光りが一つ]
(若君、さま)
[腰に下げた短刀を握る。蹲り、泣いているように見えた。
几帳を手で払い上げたまま暫し眺めて]
[苦痛に息荒げ──と言うてもおとこはとうに死んでいるのだから、それはおとこの魂がそう感じているだけであるのだが──、顔を歪ませながら橘を見上げる。
何時の間にやら、片膝ついて座り込んでいたようだ。]
本性だと?
[淡き黒狐は、法師の赤き血滴る指を見て、
そっとそれに舌を這わすのです。
それは傷をいたわるものなのか、
滴る生き血を味わうものか。
あるいはそれは、両方なのかもしれません。]
[その、より暗い部屋にたどり着いたのは、法師の姿を見てから僅か後の事で、破れ、色もあせた几帳を手で寄せて中を覗く。そこには、淡い光りが一つ]
(若君、さま)
[腰に下げた短刀を握る。蹲り、泣いているように見えた。
几帳を手で払い上げたまま暫し眺め]
思えば宮も哀れなことだ。
宛てなる者は宮を忘れ、宮は頼む者に忘れられて現世を生きるとはな。
影居よ、次は宮様を鬼とする気か?
それはそれで面白く見させてもらおうか?
泣いて、おられるのですか。
誰の為に。
何故、こんな場所にいるのですか。
あの法師にでも、連れてこられましたか。
何故、あの法師は貴方様をここに連れてきたのですか。
[問う声に責める響きは無く。ただ呟くように口にした]
[暫くは、あてもなく往来を眺めていた。
遣えた屋敷へ戻るつもりにはならなかった。]
……花山院。
[呟き、その名を冠する屋敷へ向かう。
目指すは奥の座敷──]
──……→花山院邸・奥座敷──
つねひと。
[小さな、足音。
次第に近くなってきたそれに、少しだけ、顔を上げる]
…。
[何故、という問い、答えられなくて首を横に振る。
そんなの自分が教えて欲しい、とばかりに。
少しだけ、唇をかんで、そしてまた俯く]
[血をなぞり、触れる舌先のやわらかさ。
薄い笑みを浮かべたおとこのおもては、若宮にどう映ったのかわからない。]
[にゃぁあああ]
[猫がまた鳴き、さかしく素早く獣らしく 塀の向こうへ姿を消す。
何処かへ──誰ぞを怨み あやめんが為──。
猫の去り際、葛木のために汐が薬を分けてくれたときの。
箱を開いた時と、同じにおいがした。]
…・・汐どの か
―花山院邸・奥座敷―
[その薄闇の帳の中、
狐の体は無我と共に在りました。
淡い狐火は傍らには無く、茫とした目で赤き式を見上げるのです。]
――花山院邸・奥座敷――
[帳を破り捨てかねぬほど乱雑に退け――かといって怒っている訳では無いようだ。]
――ふん
邪魔したな。
[添いあう二人を見た。]
つねひと。
お前、花山院明輔という名に覚えはあるか。
[逢うたら、云いたい事があったように思う。けれども、それらは浮かんでこずに]
ご自分の責すら果たさず、愛しい人と共に在る事を望んだ貴方を、怨めしいと、憎んだりいたしました。
貴方の寵を受けるあの男を、憎いと思いました。
それでも、死んだと判るとその憎しみはどこかへと消えたのです。
ただ、悲しい。貴方の悲しむさまを思うと、やはり憎いと思うたのはただ自分が醜いだけであったのだと、思う。
[歩き、若宮の傍へと腰を落として]
[あかい霧が渦を巻く……闇から滲み出てきたそれは、おとこに幾重にも纏わりつくように漂い、]
忘れぬ、おれは決して諦めぬ、
必ずや黄泉還りて、季久さまを、
[地を這う怨みの──否、それは妄執の声。低く低いおとこの声。]
[めり、]
[額からふたつ、何かが生え出でるように皮膚が盛り上がる。]
[ふ、と一息ついて]
…恋う者に忘れられるとはこの世で最も惨いことよな。
愛しいものに先立たれると、どちらが辛いものか。
[ちらりと見える先には狐と僧形のもの。あれらも恨みつらみを全身に受け止める者たちか]
あの狐、私が笛など落とさなければ穢れにまみえることもなかったろうに。憐れなことをした。願わくばそのまま人の世に在うこと能えばよいが。
おれは。
あいつを、安倍の影居を殺したいと思った。
貴方を、殺したいと思った。
それだけ、憎く思えた。
白藤さんが目の前で死んで、手に薬を塗ってくれた汐さんも死んだ。
知っているお人が亡くなってしまうのは、悲しい。
おれが、貴方を手にかければ、六条院の人たちはより悲しむだろう。
貴方の祖父は、おれを正式に養子に迎えたいといってくれた。
その言葉に報いる為に、おれは貴方を手にかけることはしない。
あきすけ…さま。
永漂さまが下仕えの者達にそう呼ばれて居たのを聞いた気がします。
…恐らく、あの方が俗世に居た頃の御名前かと。
[件の法師の事だろうと、いちはつ殿に教えるのです。]
[裂けんばかりに盛り上がった皮膚、]
[しかし、]
違う──!!
[喉から絶叫迸る。]
違う、のだ……
[がくりと肩落とし、蹲る。
たちまちの内に、二つの突起は縮み、平らかに。]
…ぁ……。
[唇は確かに、あまねのきみ、と軌跡を描いたのに、声は出ず、音にもならず。
彼の独白を聞きながら、少年は少しずつ引いていく涙を袖元で拭いながらまっすぐに視線を向ける。
瞳が一度、二度、と伏せられ、再び唇が軌跡を描く。
今度は「ごめんなさい」、と。
けれど、音にならない]
…?
[自分で、そこで初めて気がついたように喉に手を当てる]
――花山院邸・奥座敷――
永漂。
そう、法名永漂と”綴ってあった”な。
[一人合点をした。]
そいつは呪を、己の意で扱うことが出来るのか?
──大路──
[墨染め法衣のおとこは 大路に立つ。
多くの人々は 空を見上げ 赤い雨の話をしている。
大路の角で見つかった 腰から下だけの死体の話も混じる。]
季久さまに出会うて、影居の生は本当に報われたのです……
生きていて良かったと、初めて思えた……
だから、もう良い、もう良いのです……
[若宮の頬に手を伸ばし、指で流れた涙を拭って]
もしおれが、安倍を手にかけたのだといったら、貴方はおれを怨むのだろうな。
[細い体をそろりと抱いて、すぐに離れる]
六条院に戻るといい。おれはもうあそこへは戻らない。
愛しい人を殺されたと、怨むのならおれを怨め。
六条院には世話になったと、伝えてくれ。
もう一つ。
身分も弁えずに。おれは貴方が好きだったんだ。
貴方がおれを憎いと、忘れずにいてくれるなら、それでいい。残る旅路で、貴方の手に掛かったとしても、おれが申すことは無い。
[若宮の口が動いて、何かをいおうとしていることは判ったけれど]
[しばしあっけに取られていたが元に戻ることに表には出さぬが心底安堵したようで]
…お前に忘れられた宮があまりに哀れとは思わぬか?
気持ちがお前を鬼とする程の物であったら宮はお幸せなのかもしれぬよ。
私には縁のないものだがな。
[泣く様はあえて見ない。ぽん、と肩を叩き*]
[帳から外を見ると、先程の法師の姿はなく]
今なら、あの法師も居ないようだ。
若君様の足でも、六条院まで戻るのはたやすいだろう。
……声が、でない、か。
その内に、心の傷がいえれば、出るようになるだろう。
癒えずとも、文字で伝えればよい。
[短刀に伸びた手にはもう力無く]
[若宮の頭へ伸びた手は、ゆるく撫でて]
――甘いのは、おれだ。
[今ならば、我が物に出来るのかもしれないと思ったけれど。泣いて、尚それを我慢しようとする姿を見て、その気は失せてしまった]
[恨むかと、問う声に。
戻ればいいと告げる声に。
僅かに首が横に振られる。
もう、今更戻れないと、ばかりに]
………っ。
[首を、幾度も横に振る。
伝えたい言葉は幾らもあるのに。
音に、ならない。
だから、涙にしかならない]
呪…を?
[未だ半ば夢の中に居るような様子で、聞き返します。]
己で出来るのであれば、あの方は…
[件の方の兄を死なせた時の事を思い出して、思い至ります。]
あの方は、幾度も兄上様を怨み呪っておりました。
されども…その時には思い果たせず、
…わたくしが、その思いに添うて…ようやく果たせたようなのです。
[その時のことを思うと、やはり胸が痛むのでした。]
怨み辛みに近しきところにあれど、あの方が己で出来るとは、わたくしには思えぬのです。
[労わるような橘の仕草、肩を叩く手、]
きっとおれは、全部抱えて魂の奥底に封じてしまえば、
季久さまをこれ以上傷付けずに済む、と思ったのだ。
一時、苦しんでも……否、死ぬまで忘れられずとも、
おれの手で、季久さまを滅ぼしてしまうよりは……
だが思い出してしまった以上、いつおれは鬼と変じるか分からぬ──。
――花山院邸・奥座敷――
ほう。
[無我と恒仁を見比べ]
……何故お前がそのものへ添うのだ。
お前を此処へ囲っているのは”明輔さま”か?
[何度も横に首を振る姿]
[藤の香りが漂い]
[若宮の思いを伝えるかのように]
戻らなければ、みなが心配するというのに。戻れないと思うのはご自分だけだ。一度捨てたとして、それを誰も責めないだろう。
戻りたくないのなら僧にでもなるといい。
安倍の後を追いたければ、自分で身を投げろ。
冷たい反応に思えても、おれは、貴方の気持ちをはかる事は出来ない。おれは、ただの人なのだから。
でも、そうだな。
さすがに、若君一人残して、ここを出ることは出来ないよ。
[言って、若宮の隣へ腰を下ろした]
[猫の呪は迷うているのか。
民家の軒先をくぐり、湯とともに薬を飲もうとした顔色の悪い女の足元を走り抜ける。
猫に導かれるおとこが、通り過ぎるとき、女は手にした椀を取り落とし、薬と血を吐いて倒れた。
────…猫の駆け抜ける道々で、薬を飲んだものが死んでゆくは偶然か。
おとこは、ただ、数珠をかかげ、経文を唱える。されども、猫を祓うことはなく。]
[ふるふると、糸の伝えるものを今は声として感じ取ることができる、
若宮の声を聞くことは怖ろしい、
若宮の苦しみの声を聞けば、鬼と化すかも知れぬから。]
(今生で手に入らぬのなら、この世の理曲げてでも)
[だが一方で嬉しく、いとしくもあるのだ。]
(ずっとあなたのお側に居りまするよ……)
[その二つは表裏一体、同じ恋うるこころから生ず。]
[憎しみも、愛も、清も不浄も。
はなからそれは不可分のものであるのかも知れぬ。]
[こくりとひとつ頷いて。]
えぇ。
あの方は…かつてわたくしが山河に在りし頃、迷いて行き倒れて居られたのです。
酷くやつれてうなされるあの方を、わたくしは哀れに思いました。
うわ言で幾度も、父と兄への恨み言を。
あの方の辛い心が、兄を妬み恨むこころが、
…少しでも楽になればよい、と。
わたしは、汐どのに「白藤どのを殺した《者》はおらぬ」と、云った。
(怨念はもはや人に非ず)
けれども、汐どのは呪を作られてしまったのですねえ。
[何時の間にか、猫とはぐれたおとこは、以前に汐にそうした様に、傍らにある黒い狐の首筋に触れる。]
ああ…
兄上は、あなたを好いておいでのようでした、汐どの。
[触れた手のひらは、愛撫するように狐の首を上がり、そのまま長い髪を梳く。今は銀ではなく黒く長いぬばたまの髪を────]
……他の事を考えた方が気も紛れるか。
[ふ、と口の端歪めて自嘲った後で、]
ところで。
お前、本当に一度も誰かを愛しいとか恋しいとか、思ったことは無いのか。
せめて、女に文を出すとか、好き男よと思ったとか、抱きたいとか抱かれたいとか。
[*おそろしく真顔で尋ねた。*]
[隣にある人影に、俯いて。
それは、確かに温かい気配なのだけれど]
[求めているものとの違いは、はっきりと]
…っ。
[唇が、何度謝罪の言葉を紡いだのか。
申し訳なさで、彼を見ることも出来ない。
少しだけ、間が空いて彼の袖を少しだけ引く。
迷い子のするように]
――花山院邸・奥座敷――
それで、いまお前はそいつ
[こちらへおもてを向ける無我を指し] をはべらせて居るのか?
[すこしせせら笑った]
[黒髪] [ぬばたまの] [糸ひく おんなの呪]
気がつけば、引き取られた先──花山院の兄弟が
兄をのぞいて、絶えてしまった事も。
その兄が、子を成せぬことも、母上の呪かと思うていたのだけど。
兄は、おとこ──だけを好む性質だったようだ。
わたしはそれも忘れてしまいたかったが、あの大殿の屋敷で、兄が汐どのを見つめるあの気配で、思い出してしまいました…。
わたしが 今更に汐どのを怨むことはなし
ただ…────
─大路─
[黒き狐は法師が胸に擦り寄りて、心地よさげに目を細めるのです。
漏れる吐息すら、その耳に届いたかもしれません。
名も知らぬ人々が死にゆく様を、クスクスと笑み零して眺めているのです。]
[鏡は見ぬようにしていた、
見ればまた揺れる。]
[今は若宮の声、魂に繋いだ糸から伝わる気配だけで、
充分 なのだから。]
[クスクスとこぼれる 黒狐の声]
…・・葛木
おまえは、行き倒れていたわたしを
兄がおとこを愛することが堪えきれぬわたしを
二度助けてくれた。
[抱きすがり座り込んだまま、空に手をのばす。目に見えぬ誰かをくびり殺すような動作。]
―花山院邸・奥座敷―
…はべらせ…て。
[ふと、その言葉に無我をじっと見やるのです。]
わたくしは…、
この方の受けた仕打ちが、背負う重荷が、
痛ましくて仕方がないのです。
それでもこの方は…己が事は顧みず、わたくしの罪すら背負おうとしてくださる。
[裾を握られ、若宮の方を見やる]
謝らなくていい。
若君様が、謝る必要など無い。
おれは、こうやって横にいても、あいつが死んだことを喜んでるかもしれないんだから。
だから、怨まれた方が、いいよ。
――花山院邸・奥座敷――
それが役目だからだろう?
そうせねば、在る意味など無いのではないのか?
[無我の面を視線で撫で]
そういうものの筈では無いのか
それとも――――妙に情でも沸いたかな
[むつまじいものどもが憎いという、
誰のものとも知れぬ文が頭を過る。
二人……と、数えたものか
彼らがむつましく見えるのは、呪の所為か。]
まあいい。
私には関係の無いことだよ。
邪魔をしたな。
[つ、と下がる。*]
[恨むことはできないというように、小さく首を横に振る。
それから、袖を引いた手は少しだけ躊躇いがちに彼の手のひらへと伸ばされる。
ゆっくり、描かれる、軌跡のない文字]
『な ま え を お し え て』
『ほんとう の』
『あ な た の な まえ を』
[ゆっくり、読み取りやすいように指先は文字を画き、それから彼を、見る]
[手に書かれた文字を読み取り]
名前、ね。どれが本当の名前なんだかな。
『あまね』で間違っちゃいない。それが父親のつけた名前だから。
『桐(きり)』に『弥(あまね)』と書いて、『桐弥(とうや)』、がおれの名前だよ。
それでずっと生きてきたんだ。
[こちらを見る若宮へと微笑み]
―花山院邸・奥座敷―
[こころ分かたれたまま故か、茫とした目で去りゆく式を見送るのです。
少し遅れて風ひとつ。]
『式は役目が故に在るならば…そなたが役目は?』
[問うは白狐か、黒狐か。]
『そなたが、在る意味は?』
[未だ血糊纏う赤い前髪を、風は揺らして去るのでした。]
[母親亡きあと、花山院の屋敷に引き取られた痩せたこども。
おんなの長い髪がおそろしいと、
義母にちかづかず庭にばかり出たがるこども。
やがて女房たちにも疎まれ、ただしき後ろ盾のないこども。
目が暗くなりはじめたと云い、
人には聴こえぬ声が聴こえると云うこども。
麗しくもないその男子を 戯れに引き倒し手込めにしたのは、どの下男か。こどもが、なついていた父、兄──師輔との間を引き裂いたのは、誰が利を得んがためか。]
あの頃から、兄上がおとこを好むことを知っていた。
・・わたしは、母上から逃れるため
おのが穢れ怨みを捨てるため、
仏門に入ったが──
[唇が、名前を確認するように、ゆれる]
…ぅ、ゃ…。
[少しだけ聞こえる声。
失声は一時的なものだったのか、それとも、漸く何かに対して安心できたからか。
ひどく弱い、よくよく耳を澄まさねば聞こえぬほど、声は小さい]
…と、う……や…。
[漸く見えた、彼の微笑む表情に、少年は少しだけ悲しそうに、そして申し訳なさそうに、微笑んだ]
ごめん、な、さい。
[そろりと、その頬に手を伸ばしかける。
傷を癒すように、まるで慰めるようにそっと、その頬を*撫でようとした*]
[おとこはゆるく首を横に振る。]
[僧坊] [灯りが落ちた部屋で 聞いた 小僧のあまい啜り泣き]
[都を落ちたものの 人の在る寺にはおれず、逃げるように山に籠った────。]
[貧しい山寺に住み着いた流れの僧を村の人々は、ただ僧であると云うだけでありがたく迎え入れた。]
・・…葛木 おまえはやさしいね
あの山の麓の村で──ひどい飢饉があったことはおまえも知っているだろう。
─大路─
[黒狐は、法師の腕の中でこくりと頷いて見せるのです。
あの時は野山も畑も荒れ果てて、狐も僅かな糧を求めて人里近くへ降りてきていたのでした。]
[名前を呼ばれ、謝罪の言葉を受けると、その笑みはやや悲しげに]
だから。
謝る必要はないよ。
名前も。高貴なお人に呼ばれるような名前じゃないんだ。
[若宮の手は払いのけることなく、撫でられるまま]
若君様に謝られると、ほんとに、悪い気がする。
[その小さな肩に手を回した]
(今も、あいつはどこからか見ているだろうか。
安心しろ、傷心の若宮に取り入ることなどしない。
それでも。お前の元に送ってやるのは、嫌だ)
[どこか宙を見て]
[肩に置いた手に、*少しだけ力を入れた*]
[おとこ自身は、その村で山路に倒れ、そのまま死した方が幸福であったのではなかろうか。]
…・・葛木
[おとこは漆黒に染まった狐の髪をわけ、あらわになった耳元に*名をささやく*。]
[名を呼んだ後、続く言の葉は無く。狐の耳元でおとこのくちびるだけが動く。]
わたしが あの村で
人の肉を食った
と云ったらおまえはどうするかい?
[蟲毒と同じ]
[人が人を食らうさま 貧しさと怨みのままに絶えてゆくさま──]
[怨みの声を聴き続け]
[同様に 怨 とならん とす]
[おとこは路端 狐を抱く] [すがるように] [ただだきしめる]
あの時──
[食ろうた肉の半分 怨念が毒に耐えきれず吐きだし おぞましさに 魂も失うて 倒れたか]
わたしは、声に沿う事が出来ず
[主の側近く遣えるべくあった身が
主を弑(しい)するあとも在る意味は。]
──────知らぬ。
[鬱陶しげに、手で風を追った。
風の去ったあと、呟きだけが残る。*]
……「聞く耳持たぬ」と吾が口から出たものが呪となったか
もとより斯様に編まれて居たものか
それとも怨み憎しみに身を焦がした私は既に式ではないのか
ついぞ知らなんだ。
[黒狐は、獣が毛並みを整えあうが如く、
もしくは添うてむつみあうが如く、
法師が胸に身を寄せ、そっとその肌に舌を這わせて、
時折クスクスと笑むのでした。*]
…あったとしてもお前に言う必要はない。
[鉄面皮が度をました真顔で問われ似たような顔で返す。
縁談なら腐る程あったのに全て蹴っていたのは何故だったか]
…もうとうに忘れたよ。
ただそれを知る為にもう少し生きてはいたかったな。
誰がこの歳でみまかると思うものか。
[橘の答(いら)えを待つ間にも、おとこは時折額を押さえては何かに耐える苦痛の表情を見せる。
声は出さぬ、
が、額からは、少し皮膚が破れたものか、血がふた筋流れた。]
……そうか。
中身はどうしようもない朴念仁だが、見た目だけは佳いおとこなのに、な。
まあ来世で探せ、
勿論此処から出て、成仏できれば、だが。
[からかうように、口の端歪めて笑った後、]
何か、話を、してくれ、
そうすれば、少し、気が、紛れる。
[擦れた声に疲れのようなものを滲ませ、囁いた。]
お前と宮様のことは私は関わらぬ。宮にどう執着しようとお前に言うことはないのだからな。
ただ私はお前とは友であったつもりだ。
お前が苦しんでいたのならそれを扶けてやれなんだは…私は上辺だけの人間であったのだな…*
さあな。
おれにも分からぬよ。
おれが元より人ではないからかも知れぬな、
どうやら、ひとならぬものの血を引いているらしいから。
[嘘かまことか分からぬ顔で嘯いた。]
友、か。
すまぬな、智鷹。
おれは……誰も信じていなかった。
こうして……労わってくれるお前のことも、な。
お前は陰陽師としてのおれを信頼してはいるが、心(しん)から友であるとは思っていないと……そう、思っていた。
上辺だけの人間であったのは、おれの方だ。
[詫びる様に目を伏せた。]
[桐弥の名を呼ぶ若宮の声を聞いて、側に居るのがあの童だと知った。
霧に浮かぶ像を見たくなるのを必死で堪える、]
(季久さまの側に生きて在るお前が憎い、)
(季久さまを慰めてくれるのであれば、それで良い。
おれを…忘れても、それで。)
[ふたつの思いが同時に湧き、身がふたつに引き裂かれていくような心地がする。]
おれが死んだのを知りながら、それでものうのうと生きている季久さまがにくい、
あなたに会わねばおれは、凍てついたこころのまま誰とも何とも関わらず、平穏に死んでいけた、
あなたがおれのこころを試し、おれを鬼となるように仕向けたのだ、
あなたがおれを信じてくれていれば、
あなたがあの時素直に助けを呼んでくれていれば、
おれは鬼にならずに済んだ。
おれを鬼にした季久さまが憎い。
あなたが生きて、そこに居てくれるだけで私は喜ばしいのだ、
私を省みなくて良い、忘れても良い、
おれはあなたの琴の音が好きだった、
あなたの笑顔が好きだった、
あなたの孤独を癒したかった、
あなたを愛するものがいるのだと、
孤独でないのだと知って欲しかった、
己のことなどどうなっても良かった、
あなたが笑っていてくれるなら、それで、それだけで、
あなたを無私に愛したかった、
あなたを愛して私は癒されたのだと、
あなたに伝えたかった。
そうか。それならやはり私の独りよがりであったか。
それも仕方なかろうよ、八つ当たりとはいえ私に陰陽が好まぬものであったのは確かだ。
気にするな。どうせ面突き合わせてここに留まるか成仏するか二つに一つ、今更なことよ。
それより素直なお前を見ていると気分が悪しくなるな。
[本気か冗談か。しかし苦しげにもみえる影居が袖握るのは振りほどきもせずに]
それで気が紛れるなら好きにしろ。どうせ私もここですることはない。今位付き合うてやろう。
[眉間の皺は影居より遥かに浅く*]
[ハハ…と力無く笑い、]
それはお互い様だ。おれもお前がこのようにやさしくしてくれると些か気味が悪い…
迷惑ついでに、しばらくおれを、支えていてくれぬか。
少しばかり、痛むのでな。
[*何気ない口調と裏腹に、縋る様に橘の肩に凭れた。*]
[ 嗚 呼 ]
[ に く ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ ]
[ に く し や ]
[薄い靄かかるように澱みが京の空気を侵す中
大路をしずしずと歩み 穢れを胎(なか)に請け負うてゆく
破れている墨色の衣ゆえか 人ならぬような目か それとも片頬にまで刻まれゆく徴ゆえか
人は声もなく見送る]
―花山院邸・奥座敷―
いつか、そなたが消えゆく日まで、
共に在りとうございます。
[その日が来ることをその式は、願って居るのか居ないのか。
狐には分からなかったのです。
二つの式去り、座敷は広く。]
身勝手でしょうか。
共に在りたく願うのは、弱いわたくしが誰かに縋りたいが故か。
[茫としたまま、乱れた襟も正さぬままに、
そのままそこに居るのでした。*]
「いい気味よ。」
「鬼が出たと」 「血の池が」 「あそこの邸にも犬がの」
「もう京は駄目じゃ」 「朱い鬼が出た」
「あそこの婆様の仕業よ」 「鬼の所為にして」
―― 朱雀大路 ――
「様のお邸を見られたか?」 「がお亡くなりに」
「続く怪異はもしや先の…」 「六条の」
「攫われたと」 「供養をしなかったから」
「はよぅ帰れ。鬼が来る」
[澱み広がる]
[既に京は 鬼も怨霊も棲み易き場 か]
――・・・→羅生門――
[屍(かばね)も材木も朽ち果てた中
奇怪な聲厭いもせず 真ん中に座し
大路の方角へ面を向け 己が役目を果たさん*]
私は愚かでした。
ただ、この世に寄る辺無き己が身を、季久さまに重ねて見ていただけなのです。
あなたの孤独を癒したいと、思う私は自分を偽っていた。
私が癒されたかった。
私のちからなど関係なく、私自身を欲して愛して欲しかった。
──歳若く純粋なあなたのこころを利用したのです。
あなたに愛される、その夢は素晴らしかった。
その心地良さに私はしがみついた、決して手放すまいと。
──それが私のこころの鬼──
私は、あなたを真実は欲していなかったのかも知れません。
あなたを恋うる、私のこころをこそ私は愛していたのかも知れません。
[路端で 人には見えぬ影にすがり まぐわうがごとき]
[おとこの姿は ただ狂人のそれに見えただろう]
… ふ・ ふ ・ふ …ふ
あ は は は は は は は は は は
は は は は は ・・・……
は あ は は は は は は は は は は
は は は は は は は は は は
は は は は は は は は は は
[おとこの肩はうつむいたまま、ただふるえる。
そのまま、ながくわらい続けていたが、やがて「記憶はもどらぬが良かったのだろうよ」と小さく呟き、]
────…
わたしが、閉じ込めてしまった銀の狐…
どうやれば、おまえを──
今更に山に返してやれるのだろうねえ
――羅生門――
[大(Oo)]
[禍(Maga)]
[時(Toki)]
[ あ な に く し や ]
[ あ な く や し や ]
[ ひ も じ や ]
[蟲 蛇 をはじめとし 這うものつばむもの啜るもの齧るもの
鬼に現出す闇を胎(うち)に集め
肌は既に奇怪
虹ともいえず 歪みと呼ぶ相応しき 極彩ひしめく徴ばかり]
[ ずるぅり ずるぅり と 衣の下に潜り寄せ集められる穢れの脈動止まることなし]
[四方八方より迫り来る 白藤死した時如くの蛇蟲 濁流覆われるが前の高く覆われる壁に面向け
今こそ 徴満ちゆき 空に消え去るか … ]
[茫とした面 茫とした湖(うみ)の目]
[ つねひと ]
[狐のぬれそぼつ二対の眸は水晶のように穢れなく
嗚呼 押し寄せる澱みは
皆 寂しく
皆 怒りて
憎く 辛く 痛くて
何をも求めて
何をも喚(おらび)呪う]
[闇色 赤色]
[赤色は汐を喰ろうた翳 其の記憶が無我に流れ込む
…赤い花の宴… ]
[大路歩かん 小さき人影 異界現れ
ひたり 赤い 水溜まり 浮かぶ伸ぶ花は朱く細い花
迎え出でませり 禿(かぶろ)のおとこの背後に
あぁかい お に ]
[あかい うみ の まんなか
ぐろぉり おとこ かしいで
たおれ おった ]
[ や れ お か し き こ と ]
──花山院邸・廊下──
[無我が羅生門にたどり着いた頃。
狐の影にすがるように路端にすわりこんでいたおとこは、おのれが真言で囲みんで、狐を閉じ込めていた花山院の屋敷に戻っていた。]
[中庭がすぐ見える場所、奥座敷に続く廊下にただずみ、おとこは困ったような笑みを浮かべている。]
[うすあかの霧] [穢れ] [怨みの声]
[入りたくとも、添うもの多過ぎて 奥座敷にはいれぬ。]
[おのれが書いた真言の 衣の壁。 御簾越しに、銀色の毛並みをおもう]
──この帳 戒めを破り、
わたしが おまえに触れれば
呪は、あわれなおまえを取り殺してしまうだろうねえ。
[おとこと同化していたあの犬の呪が 他 様々な呪] [あか][くろ][透き通る むらさき] [見えるものの目蓋の裏 点滅する目眩に似た 毒]
[ 怨 …── 渦をえがき、][剥がれ落ちる。]
[怨念の池が廊下を滑り 庭先に広がり ──… ぼこぉり]
[ぼこぉり] [もはや、犬の形状止めぬ それは] [巨大な球形を成し、花山院の屋敷の真上に、不吉なくろい星のごとき姿を晒す────]
[そして、怨の目は] [ぎょろり] [羅生門を向き──]
[うぉおおおおん] [怨] [怨] [怨] [Won oh AAAAAAァアアアアアアアアア アアアアアア] [怨]
[もはや、犬とも人ともつかぬ咆哮]
[黒球がゆれ なまぬるい風にたなびき] [千切れ]
[低い空を漆黒 黒雲で覆い ──羅生門へと 吸い寄せられるようにながれていく。]
[帳、真言の檻に囲い閉じ込められた 銀の狐と
墨染め法衣のおとこの間に、どのようなやり取りがなされたのか
──今は分からぬ。]
・・………
[おとこは、穢れに染まりたる痕跡 澱みの残滓を銀の毛皮に見いだすか。あるいは、部屋に残る藤の花のかおりに、獣が随分と熟れあまくなってしまったと、かなしむか。またひそやかに眉を寄せながらもわらうか。くちづけるか。]
[すべては空白で埋まり──*暗転*。]
[──何時しか羅城門のなかは、
無数のざわめき、
叫(おら)び、呻き、呟き、囁き、嘆き、
怒声、罵声、慟哭、嗚咽、
溢れかえり、響(どよ)もすそのただなかに座すは、
黒白の式、
──── 否、
今や、無数の色が肌(はだえ)犇めく、極彩色の、]
[「向う側」ではどう見えるのかは、おとこには知りようもなく……何故ならおとこは霧が結ぶ映像を見ては居なかったので……ただただ、この深い闇の中に渦巻く気を感じていた。
このみやこに満ちたるあらゆる怨みが、
虚ろなる巨(おお)いなる器に引き寄せられ、吸い込まれ、呑み込まれてゆく、]
[その激流]
[────……]
[怨み]
[彼方より]
[狗の吼えこえ荒々しく 通り歩くもの共 おそろしと逃げ惑い]
[蝗(いなご)の如く空ゆく黒雲 羅生門を潜りて中へ入れば]
[塚の周囲を包み込み 内へ内へと吸い込まれてゆく]
[ 低い 幾つもの哂い声が羅生門の中 響き合う
きちきち 蟲が蠢き 声 は さかしま 憎々しく 喚(おらぶ) ]
[ 禍ツ星 …こごつ ]
[ 幾つもの哂い声が羅生門の中 響き合う
きちきち 蟲が蠢き 声 は さかしま 憎々しい ]
[ *禍ツ星 …こごつ* ]
修道女 ステラは、学生 ラッセル を投票先に選びました。
──幾許かの後/羅生門──
[黒雲 羅生門に潜りてのち]
[声を慰めるため 水晶の数珠かかげ 真言を唱えながら、おとこが門前にたどり着く。墨文字の螺旋 血呪の靄 新たなる澱み穢れ 混沌を身に纏いつつ。
法師はただ困ったような薄笑みを浮かべている。]
[ぬかるんだ 瘴気のなかで そこだけが茫としてしろい。おとこが都にもどって、最初にその識と出会った時と同じおもて。穢れは、今もまた蒲公英色の徴となり、識の陶器の肌に刻まれて行く。
それだけが、怨で暗いおとこの目にもあかるく灯ってみえる。]
[犬の声が聴こえた。]
[おとこは首をかたむける。そして、百足を踏み更に一歩前へ]
[座して、識に向かい合う──]
[灯火のごとく 見えぬおとこを導いたかに見えた 光は目の前の識の肌の上にはすでになかった。
どれほどの穢れ澱み怨みを、その身に請け負うたのか、おとこには分からぬ。]
[ずぅるり]
[ゆびさきに触れるは おとこが慣れ親しんだ 感触]
[再び目を開いたおとこは、震えているのか。
ぬかるんだ、ゆびさきを地につけ、
蟲が這い上がるおぞましき感触さえ忘れ、ちかくちかく無我を覗き込んだ。]
──声が、
否…
[識は文字を書いて話した。 今 ──響く この声は・・… ]
『 ぬ し の 怨(あじ) う ま か っ た ぞ ぉ ぉ 』
[おとこの頬を両手で包んだ。
ひたり
闇より尚黒く
血より尚深い 彩(いろ)が迫る
首を伸ばし、おとこの額にくちづけた。]
[いろが映る]
[あか そして くろ]
[迫るいろは 深過ぎて もはやいろにさえ見えず]
[額に触れる 感触だけがあった。]
『 宮 は 生 か し て
京 爛 れ さ せ よ う か 』
『 そ れ と も 』
『 な ん ぞ ぬ し は し た い か や 』
[おとこは両の手を 目前に迫るもの──に差し伸べ、抱きしめた。]
…・・・
[蟲の海の中 に埋もれ 転がって行く。]
[蠢く あかくろの 蟲蟲は もはや闇を通り越して 極彩色]
[色の悪いおとこの肌 無我を抱き込む 痩せた腕 背を 怨が染め──浸食して行く。]
『 か 、 は は は は 』
『 ま っ こ と お と こ を く ら う は 格 別 、 よ の 』
『 そ う は 思 わ ぬ か ? 』
…・・・わたしを 取り込むかと思うた。
この身、何時 完全に怨そのものと化しても不思議ない。
[けれども、とおとこは近くにある 双眸を見上げ]
わたしはきっと、葛木を連れて行ってしまう。
[おとこは、何かを堪えるように、瞠目し唇を噛みしめる。
まなうらに浮かぶは、誰が 肉体か]
…ああ
わたしは 女は抱けぬ──
『 ぬ し は 半 分 死 ん で お ろ 』
『 最 早 わ れ ら の ひ と つ よ 』
[此度はしわがれた奇笑にて]
[頬に当たる 蟲の感触]
[背筋をのぼるは、影秀を抱いたと同じ陰惨な悦楽]
[どろぉり] [溢れ零れた][あかが咲き誇る] [狂い咲きの様相]
[声に耳を傾け──《聴く》]
[閨で 響いた衣擦れの音] [かの陰陽師、安倍影居はどのようにして、若宮を抱いたか。穢れ知らぬ 無垢にして無知の無とも云えん 澄んだ淡いろを思い出す。]
確かに──
ただ、泣き続けていたあの宮は。
あれは果たして 真に生きていると云えるのだろうか、と思う。
わたしには、分からぬ
穢れぬものが傀儡にしか見えぬ。
修道女 ステラは、牧童 トビー を能力(襲う)の対象に選びました。
投票を委任します。
修道女 ステラは、医師 ヴィンセント に投票を委任しました。
『 嗚 呼 … に く し や 』
[上目遣いに恨めしそうな目をしている]
[一度も開いた事のない口がぱくりと開く]
[ざわり ぼ た … 蟲が落ち]
『 け も の 美 し や な ぁ 』
『 ぅ っ く く く く く 』
[蟲はおとこに潜り込んだ]
[声が云う、式とは──
無我ではなく、安倍影居の式であろう。
おとこが、ははの望むまま、血呪を送った。]
…・・・
[おとこは、声に頷く。閉じた目蓋からは、*ただ落涙*。]
投票を委任します。
医師 ヴィンセントは、修道女 ステラ に投票を委任しました。
[花山院の屋敷をはなれ、黄昏 空はあかいが、
陽のいろではない。
風には死臭がする。路には死の噂と怨みが溢れている。
鳶尾の纏う血臭がまるで気にならぬほど、
空気は何処でも淀んでいる。
都の何処にあっても、
景色は大殿の死んだ屋敷を思い起こさせる。
あれから暦は幾許かしか進んではいないが、
まるで末法の世。
明日にも都が滅ぶと言われたところで、
何の不思議も感じ得ない。]
――廃屋――
[差し込む光りは赤く]
[吐く息は僅かに白い]
[上を見れば空は澱み]
[残る藤は内を蝕んで]
すえ、ひさ。
[名を呼び、肩に置いた手で愛しい人の頭を抱く]
[風雅な池が血の池に変わったという。
猫の駆けていったあとで次々と人が死んだという。
そらから、おおきな眼が見下ろしていたという。
狗が、姿も見えぬのにすぐ側で鳴いていたという。
羅生門へ、黒雲が吸い寄せられて行ったという。
祓い賜え清め賜えと口々に願ったところで寺社には血の雨が降り、陰陽寮ではその頭数を欠いているという。
雇った陰陽師は死に、呪詛は返って大いに災いを起こすという。
大路は騒がしく、けれどひとの気配はすくなく。
それも、北へ下るにつれていよいよひとけは無くなる。
羅生門には鬼が居るという。
並々ならぬ気配のなかであやしきものが座していたという。]
[頬を撫でる小さな手を、片方の手で包んで]
[口付けて、白い指に舌を這わせ、甘噛みし]
(欲しかったんだ)
[言葉無く][抱いた手で頭を撫でる]
[肌寒いその場所で、その温かさは何より愛しく]
[やはり、傷つけることなど出来ないと、思う]
[おとこにとりてはその流れが、嵐の只中にあるように感じるのは、おとこもまた怨の塊であるからか。]
[おとこは己が身体を両腕で、爪の立つほどに強く抱(いだ)く、
身の内より何かが洩れ出でるのを怖れるように、強く強く、]
やらぬ、
おれの想いはおれだけのもの、
愛も憎しみも哀しみも嫉みも穢れも、
全て、季久さまのみに捧げたおれの供物、
誰にも決してやりはせぬ、
[悲痛な叫びが喉から迸った。]
[陽は落ちたのか、それともあたりに闇が凝っているのか
あまり、辺りは見えない。]
……都に怪異の吹き荒れるは
お前の中に取り込んでいたものが溢れたからか。
あ、ぉぁああぁおォぉおゥああああッあああああぁ
[ぎしぎしと、軋む音して
おとこの身体、その背が奇妙に膨らみ歪む。
伸びた犬歯が唇を傷つけ、
破れた額から流れる血と入り混じって、顎から滴った。]
牧童 トビーは、医師 ヴィンセント を投票先に選びました。
[聞こえた音は笑い声とも呼び声ともつかぬ。
門の作る影の、より一層暗いなかへ踏み入れる。
足元を、くろい影がざわざわと通り抜けて行くようだ。先ほどから鳴っている風かも知れぬ。]
あの識は言葉を喋らなかった。
お前は、私へいつぞや語り掛けたものだろう
[目を凝らす。]
『 や れ た の し や 』
『 は ら か ら か え り き お っ た 』
[座し 腰から下は蟲に覆われて 闇の中両手を大きく広げる]
嗚呼。
[胸元へ手をあてた。
識より奪ったものが、笑って応えたものか、しくしくと痛む。還ろうとするのか、やはり痛む。
蟲が這いのぼるも、ひたと手を胸へあてたまま]
これらが亡くなってしまっては
私は消えてしまうのかも知れぬ。
どうも還りたがっているようだが、
私は消えてしまいたくは無い……。
[まるで這い登る蟲のように、
墨色の衣が脚へ絡む。
逃げもせぬ鳶尾の衣の内外へ、ぎちぎちと音をあげながら蟲が這う。 肌があわ立つ。細く息を吐いた。]
……お前はこの都をその怨でもって覆い、滅ぼすのかな
『 み な 望 ん だ こ と 』
『 ぬ し も と も に ゆ く な ら そ の 身 ま だ 喰 ら わ ぬ ぞ 』
[そう云yと、白い蟲わく朱い舌が頬をなぞる]
『 み な 望 ん だ こ と 』
『 ぬ し も と も に ゆ く な ら そ の 身 ま だ 喰 ら わ ぬ ぞ 』
[そう云うと、白い蟲わく朱い舌が頬をなぞる]
[蟲たちは酷く重い。
ずるずると、蟲のなかへ引き込まれてゆくようだ。
舌の通ったあとは、ぬらぬらと気味の悪い肌触りが残る。]
都が滅びては、きっと私も消えてしまう。
そんな気がするのだよ。
この身が消えては、いずれ記憶も消え失せよう……
……私はそれがおそろしい。
[片腕を引かれ、
片腕を、識とも知れぬものの胸にあてて抗った]
無論、喰らわれとうもない。
学生 ラッセルは、牧童 トビー を投票先に選びました。
[つっかえていた身体が離れ、
いきおい、蟲のなかへ膝をつく。]
私はかつて、この都がすきだった。
けれど、それももう遠い昔のことのようだ。
過ぎた話だ。
お前とともにゆくのなら、都は滅びような。
[白い指から滴るような黒いものは蟲だろう。
闇のなかで笑みが浮かぶ]
[闇より黒き長蟲出でて、おとこの衣の裾に脚に絡み付き、這い登ろうと、]
[さりさり、] [きちきちきち、]
[乱れた髪垂らし、おとこは荒い息の下から漸(ようよ)う呟く、]
……──わ たし は
牧童 トビーは、修道女 ステラ を投票先に選びました。
[──嗚呼、されど。
募りて鬼となるほどの想い、
捨てようとて捨てきれるものではない、
捨て去ることができるなら、
人は鬼などなるまいものを。 ]
[引かれた手は抱かれ、抱き返すように。
あいた手は刀へつがえ、ずるりと抜きだし]
私は、お前とはゆけぬよ。
云っただろう。
都が滅びれば、きっと私は消えてしまう。
何処へ居れば良いのか分からぬのだ。
私は消えてしまいとうない。
修道女 ステラは、学生 ラッセル を能力(襲う)の対象に選びました。
[上を見上げたまま]
もし、京がなくなってしまったら、どうなるのだろう。
おれは、命があるのなら京を出ればすむことだ。
若君様は、どうしたい?
[その顔を、覗き込む]
[聖なるものと穢れしもの][慈愛と憎悪][哀しみと怒り]
[それら全てが混沌と、渦を巻く自らの想い、]
[不可分の、まるごと全て己自身である恋、]
[五色の蛇が刀身に螺旋を描き絡みつき、鳶尾の手を腕を巻き伝ってゆかんとす。蛇の上からは蟲がゆく。]
『 ぬ し は 消 え ぬ よ 』
[哂笑]
[かくり]
[首が後ろに倒れ]
修道女 ステラは、牧童 トビー を能力(襲う)の対象に選びました。
[笑いながら、
それら皆、抱えて
くろき闇に揺蕩(たゆた)い、
たまごのように、
未だ生まれぬ胎児のように、
まるくまるく、
──おとこはねむりについた。]
ならば私は一体、何となる。
[あまたのまじものへ絡みつかれ、
身動きもままならぬ。
痛みはない。されど、蛇の肌、蟲の脚は優しくもない。声音ばかりがやさしい。
文字を綴るのは識だったろうか。]
『 主 う ま し や 』
『 鬼 よ 』 『 欲 望 に 』 『 あ ま か ろ ぅ 』
『 鬼 』
『 身 を ゆ だ ね る 』
『 に く み の ろ う 』 『 今 の 侭 の ぬ し 自 身 』
鬼、か。
味など覚えてはおらぬ。
あまいか、にがいかも何も。
ただ憎み、呪っていた。
ただ憎み、怨み果たしたりと思うたけれど、未だ満たされぬ身は 鬼であるものかな。
[蟲が這う
頬へ頬を摺り寄せる。]
お前も鬼か。
そうか。
[笑む]
でもなぁ。
世界ってもっと広くてもいいものだと思う。
おれが、京に来たのだって、昔見た自分の世界以外のものを、もう一度見たいだけだったんだから。
んでも、おれは。
若君には、この京にいて欲しい、かな。
鬼ならば討たねばならぬと
以前は思うたであろうに。
我が身が鬼であるのなら、それも叶わぬなあ。
ならば、お前とともにゆくのも
良いのかも知れぬ――
[まじものに抱き込まれるように、
ひたりと身を重ねた。]
学生 ラッセルは、修道女 ステラ を投票先に選びました。
学生 ラッセルは、医師 ヴィンセント を投票先に選びました。
[ぼこぉり] [黒い 澱みで重い水球と共に、蟲がそこかしこにも湧くは、羅生門にある穢れとも 通じている所為か。]
…・・・
[おとこの目は常よりもさらに暗く──のぞきこむ者があれば、瞳孔なき漆黒を見る事になるだろう。]
[聞こえる声に少しだけ小さく微笑みうなずく]
……僕は、父上を…主上をお助けするのが仕事ですから。
だから…桐弥が京を出るなら、たまに戻ってきて、遠国の情勢とか教えてもらえたらいいな、って……。
……桐弥の帰ってくる邸も、守りたい。
[ちいさな、苦笑]
…僕は、それくらいしか、桐弥にしてあげられること、なさそう…だから……。
―花山院邸・奥座敷―
[囲いし帳の檻の中、狐はゆるりと身を起こしました。]
…あぁ、わたくしは。
[風ひとつ
ゆらり舞い降る
新緑の
木の葉文にて
願い請う也]
学生 ラッセルは、牧童 トビー を投票先に選びました。
な……っ!!
[沸きだした黒い物と蟲に立ち上がる]
あんた……あの、法師か。これは、やっぱりあんただったのか。
……何の、目的があって。何の怨みがあって、あの人を。
[今の おとこは 声を《聴き》──苦悶する者ではなく、都に溢れる怨の声と変わらぬのか。
おもてにいろは無い。だが…・・]
──…
[いらえはなく、桐弥の首を節くれた指が、ぎちりと締め上げる。]
[ぎりぎりぎり]
[己が牙にて小指を咬み、若き木の葉へ綴るのです。]
『うらみ せおい、
けがれ いだきて きえゆくことが、
そなたが やくめと いうならば。
ともにきえてゆきとうございます。』
[つねひと、と綴るかすれた文字。
木の葉は風に、舞って舞って。]
吟遊詩人 コーネリアスは、修道女 ステラ を投票先に選びました。
――?!
[桐弥に捕まれた手、よろめくような重さのままどうにか立ち上がれば引きずられるにも似た雰囲気で手を引かれたまま桐弥の後ろを走り始める]
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