156 The Nightmare ─百鬼・咲麗─
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【墓】 書生 ハーヴェイ
[何故、どの様にして死んだのかも、おとこはさだかには憶えておらぬよう]
……まあいい。どうせ碌な死様ではあるまい。
[くっと口の端片方歪める笑いは、自嘲であろうか。]
【墓】 流れ者 ギルバート
……なんてこった。
[花、散らす]
こうして恨みは降り積もる かねぇ。
[瞑目。]
[溶けかけた気配が戻るのには]
[少しばかり笑み浮かべ]
【墓】 書生 ハーヴェイ
[慣れ親しんだ声に、眉間に深い皺浮き立たせ、振り返る。]
……余計なお世話だ。
お前こそ、死んでも大して学ばぬようだな、智鷹？
医師 ヴィンセント
[かそけき煙と消えるくろ糸の
呪を解き終えたおとこは、
薄やみの部屋にしろい雪花石膏、若宮の御脚からゆっくりとゆびを離す。]
──誰が殺されたか、知りたいですか。
淡いろの若宮さま
[やさしいと云ってもよい、おとこのささやき声]
牧童 トビー
[肯定の言葉を聞き、俯く]
(若君様は、なんと、思うだろう。憎いと、この男を殺しに来るのだろうか。それとも。同じところへ送って欲しいと懇願するだろうか)
やっぱり。心は晴れない。
あんたは、それで満足？
聞くのは愚問か。
でも。その血を見ただけでは、死んだ実感は沸かないな。
死んだというのに、おれの心はまだ曇ってる。
[手は腰に挿した短刀に伸び]
この手で、若君様を斬れば、晴れるのかな。
【墓】 冒険家 ナサニエル
死して何を学ぶ。どうせ私は来世を待つのみよ。
[皺深い眉間におなじく額に深い溝を刻んで。
浮世から離れても腐れた縁は切れぬものか]
お前がくるとあの桜が穢れる。
悪霊はそこな陰陽師に調伏してもらわぬとな？
[いつぞやの羅生門でのやりあいを思い出し]
【墓】 書生 ハーヴェイ
穢れる、だと？
[何かこころの痕に触れたか、鉄面皮に少し傷付いたような色が浮かんだが、それも一瞬──]
ならとっとと来世に行け。
お前の顔を見ずに済めば清々する……と言いたいところだが。
お前本当にここから出られると思うているとは、愚かの極みだな。
[ふん、と鼻を鳴らす。]
【墓】 書生 ハーヴェイ
大体言うに事欠いて、悪霊とは何だ。
おれが悪霊ならお前も死霊だ。愚か者が。
[久しぶり──と言うても僅か一日か二日のことなのだが──に再会した所為か、口調に容赦がない。]
【墓】 流れ者 ギルバート
[ふたつのたましいの遣り取りを、
苦笑のようなそうでないような、
曖昧な笑みのまま耳を傾けながら]
櫻は、誰の傍でも櫻だよ。
[やわらかく謂って、眼を閉じる]
【墓】 冒険家 ナサニエル
出られぬなら出られぬで構わぬ。それも己の業であろうよ。
前世に転生も許されぬ罪犯した身なら神仏恨みもすまい。
お前が狂う様と私が学ばぬ様とどちらが見ものであったかな。
よくも長きにわたって誑かしてくれたものよ。
お前が私がどんな厭う陰陽師であっても人だと信じてはいたのにな。
吟遊詩人 コーネリアス
[過ぎった魂に刻まれた疵は、その肌へと痕を残し、
未だ夢から現へと戻りきれぬまま、寄り添う方へと身を預けるのです。]
…無我、どの……。
[かすかに呼ぶは、その優しい手の方の名。]
【墓】 冒険家 ナサニエル
ふん。
[白藤の仲裁の言葉にもやはり眉間の皺はゆるまずにいたが]
石木は情を持たぬとはいえその姿は誰に対しても変えぬ所は…人よりずっと好ましいもの、か。
桜め。情はいらぬよ、あんな者に。
【墓】 書生 ハーヴェイ
だから、お前の業であるとかそういう問題ではない。
この羅城門自体が、呪で死んだ死者を引き付けて離さず留め置く、罠のようなものだと──
[と言い掛けて「誑かして」の言葉に瞠目し、]
お前、何故、おれがひとでないと、
[愕然とした表情で、橘中将を見詰める。]
学生 ラッセル
お前を想わぬ若君が、憎いと思うたのでは無いと言うのか？
何を悲しむ。
若君の哀しむを思うてはお前も心さびしくなると？
[喋るたび、舌に絡む血糊を吐き捨てた]
医師 ヴィンセント
[気付けば、
おとこはささやきながら。
すでに少女の姿ではなく、元の少年の姿にもどった若宮を抱き寄せた。]
あなたもよく知ってる者ですよ、おそらく。
[おとこの声が 若宮の至近距離にある暗い姿が ][ゆぅらり]
[ゆれる]
[ゆぅらり] [ゆらり]
【墓】 冒険家 ナサニエル
そうか、それならずっとお前や白藤の顔を見て過ごさねばならんのか。…それも一興、と思っておこう。
京の死霊を留め置くなら数多の魂がたまっていように、ここは静かだな。
…ずっとお前達を見ていたよ。
お前はまるで鬼のようであったな。途中から見るに忍びなくもなったが。
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