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[後ろの霧鏡から目の前の男が苦しむ声が聞こえる。
呪いが軋む音がする。汐や少年の悲鳴が聞こえる。
何より白藤の断末魔]
痛むか。お前の翡翠は結局役にはたたなんだな。
[下がる翡翠は濁ったようにも見えるか?]
魔除けの翡翠、か。
[もう一度、その翡翠に手を伸ばし]
綺麗な色をしていたのに。今はしかと見ることもかなわぬか。
呪いに抗する事が出来る…
呪いを仕掛けようとする者にとっては邪魔、なのだろうよ。
[ぽつりと。聞こえてきた問いに答える]
…そう、何か。理由が、あったと。
思わせて、おくれ…
[あらかた食い終えたのか。
どんどん出てくる蛇に小さく紡ぐ]
…あの、男…?
[振り返り、桐弥の姿を見ようとすれば。
一人の男が見えて]
──大路──
[ふくよかな猫だけを抱いた若宮が、路に佇んでいる姿を認めた。色薄き髪の色、間違うはずもない。]
…おや。
あなたは─、(供もつれず)
ああ、もしや…中将どのか、影秀どのをお探しですか?
[眼を伏せる。
聞こえてくる。
汐の慟哭も、桐弥の叫びも。]
――及ばないばかりだ。
[すまないな、と。それは誰に向けてか。]
翡翠は――魔除けだが
人喰いには……なんということもなかったんだろう。
[翡翠に伸ばされる手を伏せたままの瞳で見て。
ひやりとして揺れる魔除けは、微かに濁っている。]
[辺りを、きょろきょろと見回していると白く丸く太ったねこはぴょん、と器用に大路へと降り立つ。
そのまま、少しだけ駆けるとぴたっととまり、こちらを向いてにゃあとなく。
ついて来い、ということらしい]
…え、と。
[にゃあ]
…わ、わかった。行きます。
[そのまま、猫と少女の追いかけっこが始まる。
終着地は───羅生門]
[東寺から此処まで、多少の誤魔化しはしたが、最大限に急いでも間に合わぬと分かっていたから派手な技は使っていない。
酷薄かも知れぬ、が、若宮の身に危険が迫った訳でもなければそんなものであった。]
−大路・羅生門手前−
…え…?
[ぴたり。足が止まる。
猫が、訝しげな足取りで戻ってきて、法師を見る。
少女の姿した少年も、訝しげに彼を見るしかなかった]
…。
[確かに、護符があれば姿は違って見えると聞いたのに、どういうことなのかがわからず]
誰に対して詫びる?
そしてお前は誰から恨みを買うた?
[いつかたわむれに話していたこと思い出し]
お前も誰かに知らぬ間に恨まれていたか。
人のことは、いえないな?
[おとこは、若宮がいぶかしげに止まった理由が分からず、暗い目で見えがたそうに目を細めた。]
…はて。
[おとこに見えているのは、若宮の淡く宝玉のごとく光る《いろ》のみ。
近づいてみて、確かに若宮だと思った相手が、少女のような見目形をしていることに気付いた。周囲に人は多いが、大路を行く高貴な者をはやす声も聴こえない──。
暫しの沈黙ののち、おとこは若宮が何かの術を帯びていることに気付いた。]
…ああ。
申し訳有りません。[声を潜める]
わたしは目が暗いせいか、
人とは違うものが見える──のです。
─羅城門─
[おとこはふらり、無造作に骸の前に立ち尽くす人々に近付いて行く。
見るも無残な有様であった。
体の九穴から這い出る蛇、
血の池に沈む躯は、内腑がごっそり失せているのがはっきりと分かる。]
蛇蠱か。
[厭わしげに目を眇めた。]
…さようでございましたか。
[周りに聞かれても、あまり当たり障りのない言葉を選び、そして猫を抱き上げる]
…永漂さまは、どちらへ?
先ほど…中将殿か、影秀を、と…その名前が、聞こえましたが…。
[中将が殺されたのは知っていたが、何ゆえにそこに影秀の名が並ぶのかわからず首をかしげ]
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