156 The Nightmare ─百鬼・咲麗─
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【墓】 冒険家 ナサニエル
私には恋い焦がれるものなどなかったからな。
触れる理由がない。
黄泉路に行く前の土産に一度はよかろうよ。
魂に温さがあったには…驚いたが。
[霞のような鏡に視線を送るとそこに映っているのは現世の死体に泣く汐の姿]
…汐が…お前を見ているな。触らぬ方がよかったか？
吟遊詩人 コーネリアス
…わたくしは。
[彼の従者の言葉に、はたと顔をあげるのです。]
わたくしは、お優しい方に匿われ…て……
[言葉は次第に消え入るのです。
己を此処へ留めている、気持ちはいったいなんであろうと。]
牧童 トビー
[床を踏む音が響き、男が振り返る。気づかれていると判り、肩を竦めて姿を見せる]
気づいてるなら、言ってくれてもいいのに。
少しだけ服でも失敬しようと思って、入ってきたんだけど、話し声が聞こえたからね。
[既に自分の身分を隠すつもりもなく、言葉遣いは童のもので]
あんたんとこの主人が、変なものつけたんだよ。
[そう言って体を捻り、背を見せた]
吟遊詩人 コーネリアス
[物音に、びくりと身を竦ませるのです。
白い夜着より覗く狐尾は、ふたつは未だ白いまま。
最後のひとつは赤黒く、斑に染まって居るのです。]
見習い看護婦 ニーナ
兄さん…
愛する者が、手に入らぬ…勝手に。壊された…
ならば…どうすれば、良いのです…
[熱を持つ目頭は、ぽつり、ぽつりと。
地に雨を降らす。
染みこんだ赤。拭うことが出来ず、ただ濡らすだけ]
だが…分かることもある…
私は、憎い…
兄さんを此処に誘ってしまった私が。
なのに、何も出来なかった私が。
そして…兄さんを殺した者が…
[歯を食いしばる。
涙を堪える事が出来ず。
何も見えなくなり、頭を垂らし。瞼を閉じた]
学生 ラッセル
――花山院邸・奥座敷――
――ふうん。
[呟きは、
恒仁の言葉に対してか、童の言葉に対してか。
暫く背に在る札を眺め]
動くなよ。
[札を裂くべく
背に向けて一太刀。]
医師 ヴィンセント
それに、あれらは《怨》は、空白があれば流れこむのですよ。
穢れなき《白》を纏うた男など、蟲をあつめるための灯火のようなもの。
ましてや、穢れを祓う陰陽師。
それを生業とするならば、いつ何時、
的となり、血肉を抉られ死しても不思議はないでしょう。
医師 ヴィンセント
ましてや、
まだ、怨念に染まりきらぬ人食いを、
罪なきはずのけものの怨みが──とり殺した後なれば。
・・ふ …ふふ
（葛木──。）
（あれの、罪なきはずのけものの背負うた
穢れが、あわれ 愛おしい。）
（今も、苦しんでいるやもしれぬ。）
牧童 トビー
[動くなよ、といわれ、息まで止めて身を硬くすると、風を切る音と、ひらりと剥がれて落ちていく札]
ああ、取れた。ありがとう、式の人。
[くるり、帳の方を向いて中を覗き込むように]
そこにいるのって、あの笛の人、だよね。
どうか、したの？
[軽く。少しだけ心配そうな響きを持って]
学生 ラッセル
――花山院邸・奥座敷――
[真二つに裂けた符をすこし睨み]
嗚呼、恒仁は笛の人、か。
さあ――どうしたものかな？
お前こそ
何故あんなものをつけられて居たのかな――
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