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冒険家 ナサニエル は、流れ者 ギルバート を占った。
次の日の朝、自警団長 アーヴァイン が無残な姿で発見された。
《★占》 流れ者 ギルバート は 人間 のようだ。
噂は現実だった。血塗られた定めに従う魔物“人狼”は、確かにこの中にいるのだ。
非力な人間が人狼に対抗するため、村人たちは一つのルールを定めた。投票により怪しい者を処刑していこうと。罪のない者を処刑してしまう事もあるだろうが、それも村のためにはやむを得ないと……。
現在の生存者は、流れ者 ギルバート、双子 リック、修道女 ステラ、冒険家 ナサニエル、吟遊詩人 コーネリアス、学生 ラッセル、書生 ハーヴェイ、牧童 トビー、村長 アーノルド、見習い看護婦 ニーナ、お尋ね者 クインジー、医師 ヴィンセント の 12 名。
―花山邸前―
わかりました。
それでは、準備が整いましたら。
[ひとことふたこと、使いのものと話し
門へと出て待つ。月は傾いていた。]
こいつは、まったく。
[片目を閉じて、同じ側の手で覆った。]
――根が深い。
[己の式神は屋敷の様子を伝えてくる。
風が運ぶのは死のにおいと花の香りだ。
眉をかすかに寄せた。
墨染めの衣を着たおとこがあらわれたなら、共に大殿邸に向かう。途中会うものがあれば、共に行くのを拒みはしない。]
→大殿邸
[ 吾 は み や こ ゆ か り の も の よ ]
[ 喚(おらび) の ろ う ]
[嗚呼それは平安京に蓄積した積もる呪いのうち富樫影秀知る貴き者が一人顔を出したに過ぎぬ――呪詛は渦を巻き、腐敗した果実のような匂いが羅生門には蔓延している。――脳髄を狂わす甘く鼻を穢すにおい。におえばにおうほど、鼻はもげそうになるも何処か匂い続けたくなるような不快なにおい。]
[大殿邸を出た所に一つ、見知った顔がこちらに向かってくる。
誰かと目を凝らすとそれは翡翠のゆれる白藤と黒い衣をまとう者]
…お前は?ここに用が?
―大殿邸前―
橘中将さま、お勤めお疲れさま――ですかな?
[程ほどの距離で立ち止まり。]
ええ、おれは呪を見ねばなりませんし。
此方の方は、花山院の――。
[さて、なんと謂ったものかと言葉を切ったが、
墨染めの痩せたおとこ自身から
何者であるかと中将へと説明があった。
どこかあやふやなものであったが。]
修道女 ステラは、お尋ね者 クインジー を投票先に選びました。
修道女 ステラは、双子 リック を能力(襲う)の対象に選びました。
いや・・・某は何も・・・唯、若宮様が行かれたい所に行くのが最も良い事かと思うたまででございます。
[このような外出の時くらいは、若宮様を束縛したくない。ただそう思う]
呪い、だというのか。これが。
ならば某に囁く貴様は一体何者なのだ。呪いの塊であるとも言うのか?
呪いが人を殺すとでも言うのか?呪いが人を狂わせるとでも言うのか?
断じて信じぬぞ。某は・・・
……勤めではなく挨拶、だがな。
[黒い衣の男はどこか常人離れしていた様子、名を名乗り挨拶は軽く交わすのみ。そしてじろり、とゆれる翡翠を睨む。後ろに控えている鷲は何か指示を待つようにこちらを伺っている。その目は獲物を捕らえたい目であっても物の怪を捕える目ではなく]
…ふむ。別に私がお前を留め立てする権利はないからな。
好きにすればいい。先程鷹が白い鳥を追ったようだがあれはお前の式か?そうであったらすまぬな。傷つけたやもしれぬ。
[そのまま行列は白藤の横を通りぬけ、そのまま羅生門へ向かうよう]
[ふとした折に身に漂う匂い。
それは、若宮が焚き染められていた侍従香の……
匂いが肌に移るほど、長居をしていたのだろうか?
それとも、あそこに置いてきたこころの為せる業か。
[その度に五感に生々しく蘇るのだ。
若宮の、抱き締めれば折れそうに細い、そのからだの感触が。]
[昨夜、あるじと橘の中将の間でどのような話が交わされたかを、式から尋ねることはなく
もとより言葉数の無闇に多いあるじでは無い――静かに、また夜道何者かに出くわすこともなく
結局屋敷へ戻ったのは酷く遅かったが、やはり静かに夜は明けた。]
[式は、夜の明ける前にとある寺院へ出向き
かねてより受け取ることを約束してあった唐渡りの文書を取りにゆくつもりでいたのだが、
朝餉の支度や諸々の家事を行ううちにすっかりとそれを忘れていた。]
[そうした些事を置き去りにすれば、禍つ予兆もとり纏めて昨日の通りに、つつがなく陽は昇っていた。]
然様ですか。
[薄笑みで頷く。それはにらまれても同じこと。
主人と同じく、鷲は大きな眼で油断なく白藤を見ている。
おれは美味くないと思うけどねぇ、と少しの間そのまるい眼を見つめ返して、そのあと橘の眼を同じように見た。]
……白い鳥はおれの式ですな。
いいえ、お気になさらず。鷹は狩をするものだ。
[隣を通り抜けていく橘を斜に流し見て]
――羅生門へ向かわれるのですかな?
あそこは澱んでいる。お気をつけて。
忍ぶれば、苦しきものを人知れず……か。
[昨夜橘中将に口頭で伝えておいた内容を、改めて書状に認め陰陽寮を通じて正式の報告書として提出した。
陰陽頭─養父の─は何か言いたいことがあったようだが、顔をあわせて早々に簡略な報告を兼ねた挨拶を済ませて下がってしまった。
退出の後、外に出て気の紛れた折にぽかりと出てきたのがその歌だった。]
お尋ね者 クインジーは、冒険家 ナサニエル を能力(襲う)の対象に選びました。
…そう、かな。
でも…それではお前がお祖父様に叱られてしまうよ、影秀。
[気持ちは嬉しいから声は明るいが、表情は少し困ったように笑う]
…ああ、見えてきた。
あれが――――羅城門、だね。
下から見上げると、やはり大きいものだね……お前に、似ているな。
[見えてきた門と武士を見比べて少し微笑み]
[あるじの登庁の終わる頃を見計らい――すこし短めに見積もったためか、今度はときを違えることはなかった――
陰陽寮のそとで控えていたおとこは、不意に詠まれた歌に瞬いた。珍しいことだと思う]
……うた、に御座いますか。
なにぶん、歌の類には疎いもので――――続く句を知らぬのですが。
……今日はこれから、どちらへ。
[懐にしまった蝶の存在を確かめるように胸に左の手を重ねる]
……。
[羅城門を選んだのは、ひとつの賭けのようなもの。
何かあったとき、彼は本当に来てくれるのか、と]
……ずるい、な。
[自分の姑息さにため息がひとつ]
[鼻を鳴らし、控えていた式をちらりと見遣る。]
お前、らしくないと思っているだろう?
……まあいい。
少し見て置きたいところがある。
ははっ、某は羅生門程には大きな体躯を持ち合わせてございませぬ。ですが、若宮様に仇なす者あらばこの羅生門よりも強く大きく立ちはだかりましょう。
[その笑顔に微笑み返す]
しかし、何やら人気が多いようですな。
さて、一旦腹ごしらえだけはしておこうか…
[西に位置する市にて。
ゆるりと辺りを見回せば、まず探し始めるは干物を売る者。
金を出し、一つ二つ手に持ち齧りつく。
歩きつつ、次は乾飯を売る者に声を掛け。
道の隅にて箱を下ろすと、椀に水と乾飯を入れた]
…同業に話を聞くのは、避けたいところなのだが。
[啜る様に飯を喰らい、道行く人々を見ゆる。
其の目には人の流れの中に薬師や医師も見えているのか。
小さく呟けば、最後の一口。干物を口へと放りこみ]
[白藤と分かれた後向かう先は羅生門。夜にも向かうつもりだったが別に今を見ても構うまい。馬を向け、そう離れても居ないそこへ向かうと見知らぬ影と見知った影。見誤る訳もないのだが]
…若宮様?まさか…。
宮様ともあろう方が…徒歩(かち)な訳が…
[目を凝らしてみてもあの髪の色を間違えるわけがない]
[若宮には伝えていない事だが、蝶の式は主たる己とは常に通じている。
その在処は造作も無く探ることが出来る。
若宮が言った通りにあの式を持ち歩いてくれれば、その居所がたちどころに分かる仕組みであった。]
―大殿邸―
[橘中将と連れの鷹の姿が通りの向こう側に消えるころ、
眼をふいと其方から逸らし、今度は屋敷のほうへ向けて。
片羽が少し千切れた式の姿を見とめて]
――狩ねえ。
[眼を細めて呟いた。
連れ立ってきた細いおとこへと向き直り]
参りましょうか。
[庭は相変わらず花が咲き誇っている。
春なのに、空気が薄ら寒いのは変わらず。]
話は通しておきましたゆえ、
どうぞお入りください。
[おとこにそう謂って、己は庭先へ。案内は任せている。
屋敷に居たものから、不審なやからを捕らえたという話も聞いた。
あのとき見えたものだろうか。]
やれ、物好きだらけだねえ……。
[少し項垂れた]
羅生門に御座いますか。
昨夜、訪ねようと思いましたが
その途中で……いえ、多少なり暇のあるときにお伝えします。
陽の高いうちに参りましょう。
[それきりは黙って、あるじのすこし後ろへ従って歩く]
…頼もしいな。
頼りにしているよ。
[明るく笑う武士を見上げ、微笑み]
……ああ、本当だね。
何か…あったのかな……
[首を捻りながら門へと向かう。
衣を被っているせいか、幾分他の人からの視線に疎く、まさか自分をよく知る人間がそこに居るとも思わず]
[あれはまごうことなく若宮様。しかし隣にいる武士は何者か?
身なりからしてそこまで身分あるものではあるまい。
雑踏の中、部下数名引き連れて宮の近くのその武士…富樫の背後に馬の上から太刀の刃を突きつける]
…貴様、ここで何をしている。その方をどうするつもりか。
[右の手を左の手に重ねる。
其れはぱっと見ただけなら風に少しだけ煽られそうな衣を留める仕草に見える。
少年の意図からすれば、その存在を更に確認するため]
…次は、いつ、お会いできるのか…。
[あいたいと願ったところですぐにはかなわないその歯がゆさが、左の手に重なる右手が少しだけ爪を立てた仕草に変わる]
・・・
[声を掛けられ振り向くと、身分の高そうな姿の御仁とその取り巻き数名がこちらをけん制しているのが分かる。言葉から若宮様を把握されている様子]
某、このお方に仕えている者でござる。失礼、御仁はこのお方の知り合いでござるか。
[面識の無い御仁に対し、若宮様の反応を確認しつつも太刀に神経を尖らせる]
─都大路─
[貴賎取り混ぜ往来行く人の中でも、とりわけ目立つ橘中将の一行。]
言わんでも分かる。
あんなに目立つのは、あのおとこに決まっている。
[眉間にはやはり縦皺。]
[影秀を仰いでいたところに不意に割り込む鈍い光にさっと顔が蒼くなり。
慌ててその相手を見上げれば見覚えも何もない相手が馬上に居て]
ちょ、ちょっと、あの、待ってください…!
何も、問題は…っ…。
[ここで相手の名前を呼んでいいのかわからず、中将と影秀の間で視線を往復させてひどく慌てて]
あの、頼んだのです、彼に、ここへつれてきてほしい、と。
[ひどく二人に申し訳なさそうに頭を下げて]
若、御気にする事はございませぬ。
こちらの御仁とはお知り合いでございますか。
[とはいえ知らぬものとの対峙。万が一はなさそうだが気は抜けない]
[とりあえず、その落ち着きぶりからやましき様子はなさそうで。
しかし「仕えている」といわれても俄かに信じがたく。
とりあえず刀を納め、宮の手前下馬し]
……お仕えしている者だと?
しかし六条邸でそなたを見たことはない。
そなたも私を知らぬとあれば尚更だ。
[問答しているうちに若宮様から弁解が来る。流石にそれを無視するわけにはいかず、急ぎ宮を助け起こしてから深く礼をとる]
いくらお望みであっても…このような所を供一人、しかも徒歩で歩かれるとは。ご身分をお考え下さい。して、この者は真に宮が使われている者なのですか?
[ようやく目的のものを見つけ]
それって七弦琴にも使える?
そうそう、貴族の手習いとかで使うようなさ。
いいものじゃないと、困るんだけど。
[弦を一式、買っては見たものの、それがいいものであるのかそうではないのか、自分で確かめることが出来ずに歯噛みして。せめてよい弦の条件を聞いて来れば良かったと後悔した]
こちらの方の…顔も素性も、存じ上げているよ。
問題ないよ、大丈夫。
[中将と影秀、どちらもの問いかけに頷いて]
影秀には、確かに身辺警護を任せています、本当です。
…すみません、軽率でした。
あまり…その、目立ちたく、なかったので…。
[だからこそ、このように大騒ぎになってしまったことが余計いたたまれず、あまり大きいとはいえない体を縮めて、その表情は曇り]
このような騒動を見に来た訳では……
中将どのも何ぞあてられて、
気が立っておられるのでしょうか。
[さてどうしたものかとあるじの渋面を伺った]
[すたすたと無造作に一行に近付いていく。
足取りには迷いも遠慮も無い。]
これはこれは橘中将殿──
思いも描けぬ所でお会いするもの。
[慇懃に声を掛け、おざなりに一礼する。]
[屋敷の褥では落ち着かず、狐はやはり河川敷の草むらを枕としていたのです。
ふと目を覚まし頭を上げると、傍らにはなにやら、憔悴しきった烏帽子の男が居るではありませんか。
壮年の…服装からして、身分の高い方と思えました。]
…そなたは?
[寝起きの狐が呆然と声をかけると、その御方は恨みと苦しみに表情を歪め、そして消えてしまうのでした。
後に残るは、あっけにとられたままの、狐一匹。]
[右を重ね、左を重ねた白蝶が、すこしだけ。
ふわりと、暖かくなったような気がして]
…?
[不思議そうに、少しだけ何かの期待をするように瞬きは繰り返され]
―大殿邸―
ん、大殿さまが少しばかり安らかな顔に?
[屋敷のもののうちのひとりにそんなことを聞いた。
白い、極彩色の輪をまとうものが現われた後わずかに、だが たしかに、だそうだ。病に精通しているものがいうのだから信用できるのだろう。]
やはり、形代なのかねぇ……?
あの陰陽師の話に似てるように思うんだ、が。
[顎に手を置いて独りごちる。
都を守るために尽力していた、いつか一度ちらと見えたきりの陰陽師。かれの識なのだろうか。白藤は屋敷のものにこう告げた。]
そいつは識だろう。危害を加えようとしたわけじゃなさそうだ。
むしろ――肩代わりしようとしたかね。
[なんにせよ、尋ねてみねば分からないか。]
(しかし、それにしても主が姿を見せないのはおかしな話だな、
……もうこの世にいない のかもしれないが。)
[買うものも買って、今度はただぶらりと市の中を見て周り]
[見れば道の端で椀をすする男を見つけ]
薬売り、かな。
[置かれた箱へと目を向ける。そして自分の掌を眺め]
[人影が去り、誰も居なくなったあと]
……っ、つ
[白藤は小さく声を漏らした。
眼を閉じて顔を片手で覆い、俯いて柱に凭れかかった。]
―――あぁ……
[薄く眼を開き]
……だめだ、
もたなか、った―――か
[小さく呟く、笑みはなくただ悲しげで、悔しげ。
はらり、と木々に結ばれた白が
薄櫻色に滲んで、やがて濃くなりはなびらのように落ちた。]
[椀の中の米が無くなれば、一度強く振って水を切り。
布で水気を取るとはこの中に仕舞い込む]
やれ…
[ぼんやりと人の流れを見ていたが。
ふと目に入るのは。短き髪の少年。
其の前に居るは楽を扱っている商。
ふぅん、と小さく声を出し。箱を背負うと傍へと寄る]
…弦…
[市にはよく立ち寄るためか。其の商とも顔なじみらしく]
君が使うのかい…?
[若宮からのとりなしもあり、とりあえず刀は納めるものの、大分目立っていることには変わりなし。警備中と目に見えてわかる行列でなければ大騒ぎになっていた所]
…影秀と申すのか、そなた。このお方が身分を保証されるというのなら私は特に否やはない。しかしこのような高貴な方を人目にさらすとは。思慮が足りぬ。
[説教垂れている後ろから聞こえる声は寝不足の原因]
…そして貴方も何しにここに来る…影居殿。
[鷹が一声、威嚇に鳴いた]
これは失礼致しました。
[中将に向き直り]
某、若に仕える富樫影秀と申します。以後お見知りおきを。
何かと使いを申し付かる身故、公の場に若と出ることはあまりござらぬ故、ご認識頂けてないかとは思いますが。
[ぼんやりと人の流れを見ていたが。
ふと目に入るのは]
…どうした。怪我でもしたのか?
[椀の中の米が無くなれば、一度強く振って水を切り。
布で水気を取ると、箱の中に仕舞い込みながら。
童に声を掛ければ]
病じゃあ無ければ特に金は取らぬ。
[本当はすぐにでも駆け寄りたいところを必死の思いで我慢をして。
それ故に、瞳はひどく揺れて、揺れて]
…っ……。
[ぎゅう、と重ねた手に力がこもるのは、感情を抑えようとするために]
[涼しげな顔で両の口の端を上げる。]
……はて。いけませんかな?
陰陽師が怪異の現われた場所を検分するのに他に何の理由が要りましょうや。
[気の所為か、眉間の縦皺が浅くなっている。
或いはこれも念の入った皮肉なのやもと思わせる。]
[中将と影秀の合間で視線を往復させてはおろおろとするような表情を浮かべていたけれど、中将を中将と認識してわざと声をかけてきているらしい男の姿に目を見張り]
…貴方、は……?
[少しだけ語尾に疑問が含まれて上がり調になる]
そうか。御所に上がらぬものであれば私も知らぬが道理。
しかし六条の使用人ならほぼ知っているものなのにまだその方のような者がいたとはな。
橘智鷹と申す。富樫とやら、六条で見えた時はよろしく頼む。
[汐の方から声が掛かると、歩み寄り]
ねえ、薬売りの人?
だったら、いい塗り薬ないかな。傷に効くようなやつ。
傷位、と思ってたけど。
手が傷だらけだとまずくてね。水だって染みるしさ。
[鷹から身を隠すように頭を垂れ
あるじの後ろへ控えながら、
ふしぎな色合いの貴人らしきものと、強面の侍をそっと見た。名前は知らぬ。
中将殿はよからぬ気にあてられたと言うよりは凶相からして睡眠不足らしい。さもあらん。]
[四辻にはのろいが。
大殿様にはたたりが。
都には澱みが。]
……は、……
[再びもれたのはかすかな息。
ぞ、と背筋に走るのはつめたいなにか。
首を横に振って、顔から手を離した。
苦しげな表情は今は見えない。]
……
[踵を返すと、大殿の臥すところへと向かった。
誰かに声をかけられたなら]
四辻の呪いが、動いた。
[とだけ、答えて。]
……そうか、ご自身を怪奇と自認しているわけだな、影居殿。
道理で私の鷹が鳴くわけよ。
[皮肉を言われると寝不足手伝って言葉も汚くなろうか。
そして影居に不思議そうな目を向ける若宮と富樫へは]
…ご紹介いたします。
陰陽寮に勤めます安部影居殿にございます、宮。
…今の方は一体。
[狐は一陣の風へと変じると、今しがた消えたその気配を追いました。
たどり着くのはあの禍々しき羅生の門。]
[人の姿に化けると、物陰へとそっと降り立ちます。
気配は其処で途切れて消えてしまいました。]
初めてお目にかかる。某、こちらの若に仕える富樫影秀と申す。以後お見知りおきを。
[頭を軽く垂れるが、陰陽師としては白藤殿と比べて胡散臭いという印象を得る。とはいえ、元来陰陽師自体を胡散臭いと感じる性分ではあるが]
こちらは・・・さる高貴なお方だ。
ああ。薬師だが…塗り薬、ねぇ。
[自身の主な範囲では無いためか、何処か気のない声で返し。
箱の中を探し…軟膏を取り出す]
まぁ。傷を見せてみろ。
[蓋を開けて中身を見やり。問題が無かったのか童の方へと見やり]
確かに傷に滲みるのは困る。
[見つめていた手を、汐の方へと差し出す]
古傷もあるんだけどね。大体は擦り傷とか切り傷とかさ。
毎日怪我するから、どうしても消えないんだ。
[開いた手には、浅くはあったがいくつもの傷跡が残っていて。まだ血が滲んでいるものもある]
[じっと視線を新たな男に向けていれば、中将からの紹介に、淡い色の瞳を幾度か瞬かせ]
陰陽寮の方でしたか。
………安倍殿、と、仰るのですね。
[ふと、一度中将と安倍の間で視線を往復させ]
…中将殿は、安倍殿のお力が如何程かご存知なのでしょうか?
[恭しく礼を取るその声に被さる様に、若宮のすぐ耳元で少し擦れた寂びたおとこの声が響いた。]
……季久さま。
お会いしとうございました。
修道女 ステラは、吟遊詩人 コーネリアス を能力(襲う)の対象に選びました。
…そうか…
確かに此だけ在れば水にも滲みよう。
[童の手を持てば、片方の手で軟膏を塗りつつ。
手に視線を落としていたが、ふと視線を上げ]
…こんなに…傷を、何処で負うんだ?
―大殿邸の内部―
[屋敷は騒然となっていた。
激しく苦しみだした主を何とかして癒そうとしても、
手立てがまったく分からなかったという。
なきがら。乱れたしとね。死のにおいがいっそう強くなる。
其処にあるのは意志だ。
殺そうという意志だ。
何処からか此処へと向けられた、
明確な殺意。
ちからのないものでもそれとわかるほどに。
ざわついている。口々に騒いでいる。]
[なんということだ]
[たたりだ][呪いだ][祓いが足りなかったのか]
[次は誰が][誰が此れを][殺される][この屋敷は祟られている]
[大殿様が][ああ、お知らせしなければ]
[―――四辻の呪いだ!]
陰陽師としての腕は確かかと。高名な陰陽師の一族でございます。
近衛府でもその噂が流れその名その腕知らぬ者はおりませぬ。
[流石にいつものように言うわけには行かないが宮の前とは言えこうも陰陽師を褒めなければならないのが妙に腹ただしい]
何事かあったのですか?
このように皆様お集まりになって。
[さも散歩の途中のように白糸の男は現れて、集まる方々に声をかけるのでした。]
…どなたか尊い御方が亡くなったのではと、そんな胸騒ぎが致しました。
[当の本人は、中将の内心の苛立ちなど何処吹く風と、涼しい顔で式部卿宮に説明するのを聞いている。
あまりにも過分な褒めようだが、否定する気も謙遜する気もないらしい。]
かげゐさま。あれを
[聡い鷹や狐はなにかを感じたようだった。
目の上、羅生門の頂く常緑の瓦に、
あかい筋がひとすじ
どうやら雫のようで するすると瓦を伝い
あかい尾を伸ばしていた。
辻の呪に誘われたか、
ころそうという意のあらわれか
如何にせよ日中にあって怪異の生ずることはただならぬと
鳶尾は指までもにわかに粟立っていた。]
……!
[小さく、そう、とても小さく息を飲む。
望んでいた言葉が、どういうわけか耳に届いて。
思わずまじまじと、彼を見つめて]
[一瞬、眉根に深い皺が寄り渋面が戻ったが、直ちにそれは消え、平穏な顔ををつくる。
ただ、橘中将に向けて一瞬目配せを送った。]
[無我は囚われたまま 茫とした面を虚空へ向けた]
[渦巻き逆巻く黒紅の怨恨を 囚われてなければ この一身に*請け負うものを*]
[喩え この身 消えようと]
[使いが馬を走らせる。
この恐ろしい事態は、恐らく然程時間がかからず
都に響き渡ることになるだろう。
ちからあるものは、既に気づいているかもしれぬ。
あの出来事の後に重ねてこれだ。
ただの不幸では最早片付けられまい。]
―――……
[そなたたちが居たというのに、役立たずが!]
[声を上げたのは血縁のものだろうか。
陰陽師を責める、それを聞いても白藤は僅かに眼を伏せただけで
表情を変えることはなかった。]
[聞かれればにこりと笑み]
京に来るまでに負った傷と、後はここに着てからかな。
ただ路を歩くだけなら、こんな傷は負わないんだろうけど。
あんまり頓着しないんだ。どこで傷を負ったとか。
気づいたら、増えてる。
[恐らくは、屋敷に入り込むときに負った傷なのだろうと思うが、一々覚えてはいられないのも事実で。もし本当に羅生門を宿にしていたのだとしても、この程度の傷は負うのだろうと見当をつける。
事実、手の未だ治りきらない傷には、宿として使う際、柱を登るときなどに負ったものもあった]
[ざっと検分するに、あまり中将も影秀も、あまり安倍という男によい視線を投げかけることはなかったけれど]
…嗚呼、あの、安倍のご一族。
ならば腕も確かでしょうね。
後ろの方は…ええと……
[人の気配がない、とは口に出せずも赤髪の男をみやった。
少しだけ口元に右の手重ねて思案げな表情浮かべ、それから中将のほうへ視線を向ける]
中将殿。
先日のお話、安倍殿にお頼みしたいと思うのですが…。
[ちらり、と安倍のほうへと視線を向けてから再び視線を中将へ]
[苛つく最中であったがふと影居より一瞬目配せがある。
鷹も何かを知らせるようにばさりと羽ばたく。
若宮には見られぬよう、視線だけで鷹の目を追うとそこにあるのは常世にあるまじきもの。
その途端、我慢ならなかったのか鷹がその怪めがけ飛びだった]
[傷に薬を塗りおえたのか、指と指とで摺り合わせ]
成る程、な…
お前も流れて来たか。
[ぽつ、と呟き…小さく息をついた]
しかし。
水に滲みるというならば、少しは気にすると良い。
[布の端で指を拭くと童を見やり。
禿の髪を掻きながら]
襤褸切れを手に巻くぐらいは出来よう。
[こくりと、頷く。
声に出すわけにもいかず、そのまま、ただ、胸のうちに告げたい言葉だけがいくつも浮かぶ]
…貴方様がくださったものだから…。
特に、これは肌身離さぬようにと…そう仰ったから…
[隼のごとく飛び掛るが一瞬遅かったようで。
鷹はそのつめに何も捕らえることはできなかったよう。
それでも気配は暫く残ったのか、鋭い声で威嚇をする]
…宮様はお下がりを。
[鷹の様子からしてまだ怪は遠ざかっていないのだろう。
暫く宮をかばうように後ろに下げ、鷹を見守るがまもなく戻る。
手柄は無かったが労いに餌をくれてやり]
…失礼しました。どうやらあの門になにやら鼠でも見つけたようで。
[布で指を巻かれると、しまったなぁと思いながらも顔には出さず]
ちょっとね。
布で巻いてしまうと、指先の感覚がなくなるから、余り巻きたくはないんだ。
でも、ありがとう。
[暫く巻かれた指を動かしていたが]
そうだ、もう一つ聞いてもいいかな。楽に詳しい? といっても、聴く方ではなくて弾く方のことだけど。
弦を買ったのだけど、いいものかよくわからないんだ。
あぁ……よろしくない。
まったく、厄介だ。
[俯いて呟く。翡翠は項に掛かっていた。
澱みはいっそう濃く、指先を冷やすような、焼くような感覚だ。
囚われている白磁の識神、そちらは開放してよいだろう、と
屋敷のものに伝えたが聞き届けられるかどうか
客人である墨染めの衣のおとこにも落ち着いた表情で声をかけて]
聞いておられると思いますが、
大殿さまが亡くなられました。
正確に謂うなら、殺された―――ですかな。
騒がしくなります。それも、今までにないほどに。
あやかしの類によるためだけでなく
花を散らすものが現われるでしょう。
あの物語で、葵の上がそうされたように。
[ほんの刹那、瞳に痛みに似た何かが過ぎるが
それはすぐに消えた。]
…中将殿も、こちらに?
[軽く頭を下げつつも、気になるは屋根の方の禍々しき気配。
隠すように密かに浮かぶ狐火は、二つ三つ。]
[紙片ははらり、地に落ちると、風に吹き飛ばされるようにいずこかへと消えた。
一連の動作は宮の前に跪いている間に、瞬時に終わった。
立ち上がり、何事も無かったかのように目を伏せる。]
[呼び声に短く応える]
[宮様が御前、あからさまに刀へ手を掛ける訳にはいかなかったから、いつでも刀を抜けるようにすこし腕を前へ出した]
…傷を治したいなら暫くは巻いておけ。
滲みても良いなら外すと良い。
[其の言葉に何を思ったのか、片目を瞑り。
小さく口元を吊り上げ]
…聴く方も、弾く方も無縁、だな。
流れには縁無き事。
…しかし。
市に行くついでに頼まれることは多少ある。
[ほれ。と。
手を差し出し童を見やった]
…え?
───っ─?!
[戸惑う間もなく、強く鋭く響く猛禽類の啼声にびくりと大きく肩を震わせ]
…一体、何が…あったというのですか……。
[中将の元に戻り餌にありつく鳥を見つめたところで答えなど期待できず]
・・・鼠?
[若宮様を庇うように羅生門に向かい前に出、軽く太刀に手を掛ける]
まさか、一連の件と関係ある輩ですか?
[そういうと、別の客人が中将殿に話しかけているのを見かける]
[視界の端が、紙が舞うのを捕らえる。
いちはつ、と聞こえた音が後ろの赤い髪の男の名前なのだろうとおぼろげに認識するも、問いかける間もなく月白の啼声によって其れは達成されなかったということになる。
立ち上がった男をじっと見て]
…葛木か。そなたも羅生門にきていたか。
[銀色の男、宮より誰何されれば紹介を。彼は食客であり身分もないゆえに尋ねられねば紹介は控えるつもりだが。
いまだ緊張感の残るその場、鷹が捕らえられなかった気配は影居が始末してくれただろう。しかし彼のこういった動作は久しく見なかったせいか、一瞬驚きにも似た表情を表してしまう]
…宮様、お申し出の件、私からも安部殿を推薦いたします。
やはり力があるものが務めるがよろしいかと。
[先ほど買ったばかりの弦の一式を取り出し、汐へと見せる]
売ってた人に三度確かめたけど、一度目はとてもいい弦だといったのに、二度目は少し色が濁ってると言い、三度目はいい弦だが、音には弾き手の個性が出るから、とか言い出した。
最初の言葉を信じてみようと思って買ったのだけどね。
[弦を渡し、自分は布の巻かれた指を見る]
(手は、出さないようにしないとなぁ。傷を負ったといったら、若君様に心配をかけそうだ)
[差し迫った変事の所為で後回しにしたが、新たに現われた異相のおとこ──の姿をしたもの──へも鋭い視線送る。]
あれか。お前の言っていたのは。
[と囁くのは、己の式に向けてか。]
[先ごろのあるじの呼び声には応えなかったが、
鳶尾の指の下では袖に隠れ、紙片のひとつがじくじくと血を流していた。
そっと握りこみ、手の中で潰した。]
あれに御座います。
・・・
[安倍殿の推薦という言葉を聴き、多少怪訝な表情を浮かべる。中将殿の隣に居る銀髪の男性といい、今日はあまりいかにも怪しいという人物ばかりと初にお目にかかる日だとうっすらと考えていた]
[弦を見やると、箱の中から白い布を取りだし]
まぁ。お前がどれくらいの金を出して買ったか。
修練用なのか、それとも何処ぞ使いなのか。
其れによっても決まるとは思うがな。
[まず、弦を白い布の上で指で張り。
目を細め…片方の爪を立て、小さく引いた]
…
[微かな音を立てた弦。
童に視線を戻すと、弦を返した]
まぁ。修練には問題ないと思うが。
語る貴族の人間が会に使う様な弦じゃあ無い、と思う。
一連のことと関係があろうがなかろうが私にはまだわからん。
「祟り」やら「呪い」やらが関係するのなら複雑なのだろう。
しかしあの先日の件といい、先程の件といい。少し常軌を逸しているな。富樫殿も宮をお守りするなら張り付く覚悟で行かねばならんな。
[鷹は次にそこにいる人外二人──狐と式神──に射抜くような視線を与えているが今はまだ騒がない。この話、宮に聞かせるべきかどうか悩んだ末にわざと聞こえぬように喋ってはいたが]
[本音を言えば、随身の富樫某にも思うところはある。
が、それを表に出すには、このおとこはあまりに若宮を思いを掛け過ぎていた。]
承知。中将殿も某でお力添え出来るような事があればお声をおかけ下さい。
[しかし、何やら胡散臭いのは気のせいだろうか。そもそも中将殿の周りにはどうも不気味な者達が多すぎる気がする]
…えぇ。
嘆きと無念を湛えた気配を追ってきたところ、此方へ。
…常ならぬ様子で事切れた方なのでしょう。
[潜めた声で中将へとそう告げ、門の向こうを見遣りました。
渦巻く怨嗟に眉を潜めます。]
…恐れていた事が、始まったのやもしれません。
…あぁ。よろしく頼む。
[周りは怪しくとも自分はそうでないつもりなのだが。
やはり友人知人は選ばないといけないだろうか。
流石にこの後宮を歩かせるわけにも行かず、礼に反しない程度に行き先までの護衛を申し出る。元々参内ついでに寄った羅生門。
他の者に自身は参内する旨を伝え、護衛をしてもしなくても御所へと向かうことに*]
―大殿邸、庭先―
[おとこから離れ、庭へと降り立つ。
花びらに紛れて濃紅に染まった白の紙を拾い上げた。
無残に千切れてしまっている。
ちらと池に眼をやると、何やら術のあと。]
……
[眉を寄せた。
ちからある、都を守るためと謂っていた陰陽師は
どうやらやはり、もういないのだろうと
何処かで確信した様子で。]
それでは私は件のお屋敷に向かうことと致します。
詳細は後ほどご報告いたしましょう。
[宮への手前、一応中将を立てる口振りで告げた。]
・・・
[中将殿の申し出は現状を考えれば有難いが、そもそもこの外出には若宮殿の気晴らしの意味もある。羅生門には異様な匂いも強いが離れれば自身のみで護衛は可能だろうと考えた]
中将殿の申し出は非常に有難きお話ですが、何故当方も忍びの用もございますので。それ程時間もかからず大殿へと伺うことにもなっておりますので御気になさらぬよう。
いかがですか、若?
[これから参内するとて去って行く中将一行を眺め、苦味含んで言の葉零す。]
良く持ち堪えた……と言うべきなのだろうかな。
これからは忙しくなるな。
[踵を返し、災禍の中心となったあの、*屋敷へ。*]
『お気になさらず』。
奇縁にて導かれた、唯の通りすがりでございますよ。
[訝しげな視線を投げつける侍に、クスリとやわらかく笑みを返して。
やがて行くものを見送ると、
件の嘆きの残り香を追うように、*一陣の風になるのでした。*]
[呪いは波紋のように広がり多くを飲み込むだろう。]
……どうするかねぇ。
[櫻の古木に凭れ見上げて呟く。
翳した濃紅に染まった紙は
程なく端から塵になって風にさらわれてしまった。]
またも、及ばなかった――か。
[眼を伏せて俯いた。
長い前髪が憂いの横顔を隠す。
屋敷より呼ぶ声に其方を向いた表情はいつもと変わらなかったから、隠さずとも誰に見られるわけでもなかったのだが*]
[若宮が関わりさえしなければ、このみやこ、滅んだとてこころ痛まぬであろう──
人で在り続けるという枷を掛けたこの身、時に疎ましくもなるが。]
あなた様がいらっしゃるから、私は人のこころを保ち続けていられます──
影居のこころは常に季久さまの元に。
この先何があろうとも、*それをお忘れ無きよう──*
それは、昔の話。
呪いにかかったひとがいた。
祓おうとしたものがいた。
ちからおよばず
ころされてしまった
遠い影に今も囚われている。
ああ、
あれもずいぶんと
厄介な――根の深いものだった。
[手をそっと袖の中に隠してあるじへ従った。]
――影居さまの読みのうちで?
[道々、屋敷から遣いに出された馬と行き違った。
内裏へゆくのだろう。
辿りついた屋敷は、悲しく、騒々しく、
しかし、渦中故か何処かすこし静かだった。
吹き散らされたあかいものの名残が*過って行った。*]
[手をそっと袖の中に隠してあるじへ従った。]
――影居さまの読みのうちで?
[道々、屋敷から遣いに出された馬と行き違った。
内裏へゆくのだろう。
辿りついた屋敷は、悲しく、騒々しく、
しかし、渦中故か何処かすこし静かだった。
吹き散らされたあかいものの名残が過って行った。
やがて白藤の姿を見止め、事の次第を*訊ねる。*]
・・・
[若宮様が返答に困っているのを観て]
中将殿、大変申し訳ないが本日につきましてはそのようにお願い頂ければと。
[中将に頭を垂れ、少し強めに若殿様の手を引き、その場を後にしようとする]
…ま。
琴をよく知らずに買ってきた弦、と言われれば…
上等、だろうよ。
[禿の髪を掻きつ、小さく笑う。
…今は未だ。羅生門で起きた事も。件の屋敷にて死人が出た事も知らぬ。
しかし。人が集まる市に噂話が広まるのも時間の問題か*]
[若と共にその場を離れ]
・・・若宮様、大変申し訳ございません。ですがせっかくの外ですので、いま暫く若宮様のお好きなところに行きましょう。
[そう複雑な笑顔を*若宮様に向けた*]
――花山院の私邸――
[何かしらの胸騒ぎがする。物の怪、怪異というものは都に住む者の気を惑わせる何かがあるのかもしれぬ。]
面妖な…
――私邸付近――
[都は騒然としている。何か悪い前触れでなければよいが。ひとりの若者をつかまえる。]
これ、そこの若い衆。何が起こっておるのだ。少し私にも話を分けてくれまいか。
[幾人かの者に聞いてみるものの、話は一向に纏まる姿を見せない。おそらく嘘はついていまいと察するが。尊い方が雲隠れした噂が目立つ。
腕の立つ陰陽道の者や、薬師の者なども近くへ来たというのも耳に挟む。]
この目で確かめたほうがよいやもしれぬ。
――大殿邸の前――
[すこぶる空気が寒い。何かの前触れでなければよいのだが。
大殿の噂もよろしくない。]
やれ困ったものだ。真かうそかは分からないが、狐か狸か物の怪か、都に住む人を苦しめているのではないか。
これではまるで。三百年前に清涼殿に落雷が落ちたと言われる時と同じではないか…
何かのたたりなのではないか。
蓄えを使ってでも、誰かを雇ったほうがよいのやもしれぬが。
[ひどく寒気に襲われる。]
吟遊詩人 コーネリアスは、村長 アーノルド を投票先に選びました。
…やはり、そうですか。
[亡くなられたのは、件の屋敷の大殿だと。
彼の方のみを狙っていたと言うのならば、静まっても良いはずなのに、
未だ其処には、最初に感じた気配が色濃く。
いや、ますます強く感じられるのでした。
紅梅の花びらかと思いて手に取ったものは、千切れ染まった紙片の欠片でした。
例の櫻の大樹に身を寄せて、
狐は静かに、嘆きと憤りを調べとなすのです。]
修練用、かぁ。
(女の姿でならば買えるだろうか)
そんなに、期待はしてなかったんだけど。そもそもそんな会で使われるような弦は、市で売ってないね。
でも華やかな場所で使うような弦を、おれが贈るのも変な話か。
ありがとう、わかったよ。
[弦を汐よりまた受け取って、そこに腰を下ろし、市を眺めた。活気があるのは良いことだ、と呟きながら]
大まかのところは此方でも把握している。
仔細を聞こうか。
[と、遠慮会釈なくずばりと用件から切り出す。]
…前に来た時には無かったものの気配があるが、あれはお前のか?
[言外に屋敷内に囚われている式の事を*尋ねているらしい。*]
…ありがとうございます。
[安倍への礼もそこそこに、影秀と中将の合間に三度立つはめになれば困ったようにかたをすくめて。
なんというか火と土のような交わるようで交わらないらしい気質だとおもって上手く水になるような返事を考えているうちに、影秀に手をとられて]
…?!
中将殿、後程、また…!
[慌てて言葉だけ残せば安倍たちにも頭をひとつ下げて]
影秀、あれでは中将殿に…!
[さすがにたしなめようとするも、自分のわがままを押し通してくれたのだと解ればそれ以上何も言えず]
…ありがとう。ごめんなさい。
[少しだけ沈んだ表情のあと、改めて*歩き出した*]
わるい夢をみていたようです
わたしは あのおそろしい気配のただよう屋形を辞し
女人はすでにひとりもおらぬがゆえ 文を届けることが出来なかったと
あるじの元へ かえったはず なのです
ああ ああ ああ
わたしは夢のなか 何故にか ぬかるみのような怨念の渦に溺れておりました
うらめしいという 声 声 声の喧噪
ときには下品な罵声だけではなく 笑い 嬌声 までもが混じります
ふところを見やると あるじからお預かりしているはずの
大切な文が手元にありません
……─返してください──かえしてくださいいいぃぃいいい──かえしてかえし──かえしかえしててぇええええええええええ─────返し───くだい──かえてくださいいいぃぃいいい──かえてかしししえし──かえしかえしててぇええ──いいいいいぃぃいいい───……
不可思議なことに
わたしの声も 渦の中で奇妙にねじれてゆくのです
これではまるで わたし自身が
百鬼夜行のむれの一員になってしまったかのようではありませんか
何故にか はらの裡より ふつふつと
うらみが湧いてまいります
わたしよりもさきに取り立てられた 卑しいあの男に
わたしをすげなく袖にした 取り澄ましたあの女に
ふられ腹いせに買った傀儡のおんな の 莫迦にしたような笑みに
すべてに 怨…──
[白鳥や鷹のように上空より俯瞰することがひとに叶うのならば、くだんの四辻の呪で封じられた屋形に、都に渦巻く怨念が塊となり、吸い寄せられるように流れ込んで行く様が見えたことだろう。
魔除け、宿直のたいまつが掻き消え、
一陣のなまぬるく不気味な風が屋形中を吹き荒れた。
──刹那。一時は、僅かな安静を取り戻していたかに見えた大殿が、突如苦しみだしたのだった。]
「・・政敵が呪いか。この身のうち 煮…え、滾るゥぅう」
[それがひととしての大殿の最期の言葉。
後は、狂うた野犬のごとき咆哮とともに躯を反らし、部屋の隅で四つ這いになり、そして人であることを失うて絶えた。大殿の傍には、何故か乾いた犬の体毛。
寝所に貼られていた封はすべて破れ朽ちて、酷い臭いのする赤黒い手形がべたべたと廊下に*張り付いていたと云う*。]
―大殿邸―
[影居と付き従う式神の姿に見た目は丁寧に礼をして]
さすがに、早いことですな。
[ずばりと切り出す影居の言葉には、
薄い笑みに似た表情を浮かべ]
ならば、四辻の呪が動いたことは気付いておられますな。
抑えておりましたがもたなかった。
――また、及ばなかったようです。
[古い話はぽつりとだけ。屋敷へと顔を向けて]
酷い有様です。
獣と死とくさったにおいがする。
大殿さまは最期、もはやひとではなかった。
祓う祓わないではない事態が都に広がっていくでしょう。
[去り際にもう一度礼と、自身の名前を告げて、その場を離れる。市を出たところで、さてどこへ行こうと四辻を見比べて]
大殿のお屋敷、ねぇ。ほんとに何が起こったんだかな。
少しばかり様子を見に行ってみようか。
ああでも。
(あの男に見つかるとまずい)
[わかってはいるのだが、それでも気になるものは致し方ない、と、足は自然と其方へと向かう。無論、鳶尾にが居ればすぐに気づけるように、向かう先に視線を凝らし、辺りの気配に耳を澄ませて。
それで気づける相手のようには思えなかったが]
怨――ですな。
[そのほか、仔細を更に聞かれたならわかる限りは返し]
あぁ、捕えられた識がいるのです。
おれの式ではありません。
十中八九……――影居さまもご存知でしょう、都の守りに力を尽くしていた陰陽師の識、ですな。
今ははぐれているようですが。
[影居たちに向き直り]
にしても……こちらに来られたということは、
直々にこの件、そちらにも話しが行ったということですかな。
――厄介ごとには縁があるようだ。
[眼を細めた。]
――件の邸――
[白藤の話をひととおり聞き終え、そっと口をはさんだ]
新たな気配とは。嗚呼、あれはもしや昨夜わたしが行き違ったものではありませぬか。
[そのおもての白きこと、夜闇に浮かぶ衣の美しかったことを暫し語る。
言葉に熱が篭りかけたが、はたと我に返り]
……ああいったものをしてひとはあやしき哉と云うのでしょう。
口が利けぬのか、わたしが訊ねたところで要領を得なかったのですがあれは白藤殿の遣いにありますか。
はぐれて……?
[敢えて更に問いただすことはせず話を聞いた。
”厄介ごと”と、白藤がまるで面倒そうに言ったとみえて、すこし睨んだ。]
[やがて見えてくる邸へと目を走らせて、どこか禍々しさを感じ取る]
やっぱり、やな気配だ。
[物々しい様な雰囲気にも包まれていて]
でも、この前ともまた違うな、何かあったのか。
[どれ、と邸内を覗こうとして、我が手を見る。包んで貰った布を見つめ、*塀を登ることはあきらめた*]
そう、――はぐれている。
[ゆっくり繰り返し。]
そう睨みなさんな。
ひとつの言い方さ。
[調子を少しばかり軽くして謂った。]
ふうん――
[いかにも胡散臭いものを見るように、白藤を眺めた。]
して、此度のこと何者の仕業か見当はお持ちでしょうか。
[訊ねた後、あるじに申し出てそっとその場を*離れた。*]
[胡散臭そうな視線もどこ吹く風の様子で]
見当か、さてね。
ただ、奇妙な縁(えにし)に繋がれた誰かではあろうよ。
星が示すその数を
影居さまなら既に読んでおいでだと思いますが。
[首を少しばかり傾けて影居を見て。
そう、読んでいる筈だ。
波紋を広げる凶星はふたつ、
添うものがひとつ――それから。*]
――大殿邸/いずこか――
[黄昏でもないのにこの邸は朱がかかっている]
[湿ったような匂いと醗酵したような噎せる草の匂い 怨ゝとした獣の匂いが混ざり合う処――薄闇い場所で 身動き一つせず正座をしている]
[動きを封じるは どこの術師か]
─故大殿邸─
[それまで黙って耳を傾けていたが]
まあな。読んではいるさ。
[口を開き憮然と]
おれが四辻の呪いを解かなんだは、どうせ祓ったところで更に強力な呪が掛けられるだけ、と踏んだからだ。それも更に巧妙な形でな。
ならば、出来るだけこのままの形で保たせてその間に……と思ったのだ。
白藤。
おまえがどの程度気付いているのかは知らんが、おれはこの屋敷に掛けられた呪が全てのはじまりであるとするのは、実は違うと思う。
元々このみやこに溜まり溜まった澱みが、焦点となる意志を得て、堰を切ったと見る。
おれたちに出来ることは、だから、その怨念の奔流の湧き出す口であり、みやこを覆う呪の核となるその者を、取り除く事だけだ。
このみやこそのものを祓うことなど、出来得る筈も無い。
それ故に、祓う祓わぬという類のものではない、と言った──
だが。
はっきりとしておいた方が良い事もあるのも事実だな。
[瞳、半眼に閉じ、厳かに宣る。]
おれの見立てでは、凶つ星は二ツ……
それに添う伴星は一ツ。
対して、食い止める手立てを持ち得る星は十──
しかしこの一角は元より崩れる定めにあったから、今は九ツだ。
書生 ハーヴェイは、村長 アーノルド を投票先に選びました。
[内裏での政務中。間もない加茂祭の仕事もあるのに飛び込んできたのはあの大殿の怪異。仔細質すとまさに怪死としか言えぬよう。
そして飛ばしていた鷹がずっと落ち着かない。急ぎ大将に報告し、指示を仰ぐと]
…承知いたしました。ではこの件、私めが責任をもって。
[近衛府、検非違使の権を預かることとなる。恐らく陰陽寮もかなりこき使うことにはなるだろう。別の陰陽官に卦を立てさせると時刻、方角ともに良い兆しは見えない。その結果をひっつかみ、鷹を連れ、急ぎ大殿邸へと駒を走らせる]
九ツの星はそれぞれに果たすべき役目と定めを持っている。
それは追々明らかになろう。
この九ツの星が凶星に呑まれた時、みやこもまた闇に堕ちる──
[ふっと目を開け、]
……ざっとこんなところだ。
これ以上はおれにも分からん。
[唇をへの字に結んだ。]
[急ぎの為に従者は数名。故大殿邸は自身でも感じられる程濁っていた]
…何事か…。昨日はまだ空気に清浄さもあったのに…。
[卦の結果。自身らが羅生門を歩いていた時刻…取り分け卯から巳の刻、巽に現れることは普通の怪異足りえぬという。しかしそれでも現れたあの怪は何なのか。
もやは誰かに案内を請う必要もなく、庭へと踏み入れる。鷹も警戒してか、肩の上に止まり辺りを見改める]
―西の市―
商と繋がりがある方々が多いからな。
そうでなければ…機が良くなければ手に入らぬだろうさ。
[腰を下ろす童にそう言えば、薬師は箱に肘をつく。
ぽつ、と呟いた事には小さく相づちを打ち]
…桐弥、ね。
私の名前は汐…あまり怪我をするなよ。
[別れ際。名前を聞けば、其の背に名を返す。
童が市を去った後も、箱に肘をついて人の流れを見ていた。
と言うのも…
聞こえてくる話し声。
人々が口にする噂話に耳を傾けていたからだった]
[二つ、一つと九つの星。
それぞれ明らかになればきっとあるじは告げてくれるだろうし、明らかになるまでは何も言うてはくれぬだろうから、鳶尾は何も問わず静かにその場を離れた。]
[さほどの人数ではないが、それでも一種の静寂を破るに十分な騒がしさで到着した一団があった。]
……嗚呼、これは中将殿。
斯様な場所へご足労を──嗚呼、あちらへ影居さまと白藤殿が。
[鷹の様子を伺いながら、敷地を出る。]
いえ、中将殿への無礼は某に責任がございます。
何卒ご容赦を。
ささ、次へ参りましょう。
[そう言いつつ、若宮殿が心赴くまま歩いていくのを後ろからついていく]
[肌へ、ざわざわと何かが纏わりつくようで酷く気分が悪いのですこしだけ屋敷を離れた。
ただならぬ様相のなかにあって確りしなければいけないとは思うのだが、塀の外へ出るとすこし生きた心地がした。しかし、すこし離れたところでうしろへ屋敷の控えている以上は何も変わらないような気もした。]
[袖からそっと手を出すと、あやしき血糊は夢であったかの如くに消えていたが、手を濯(そそ)ぎたくもあった。]
―故大殿邸・庭先―
[読んではいる、という影居の言葉に頷く]
――まぁ、結果ご覧の通りでしたな。
[肩を小さくすくめて]
四辻のそれは、呼び水のようなものだということですな。
たったひとつの呪が、都すべてを巻き込めるとはおれも思っては居ない。
見立てが甘かった部分もあったのも
間違いはないのでしょうが――
ところで。
話は変わるが、その、はぐれ式とやらだが。
是非に見てみたいものだ。
おれは、件のお方は父の話にのみ聞いただけで、直にお会いした事はないのだ。
道を究めたと名高いお方なれば、一目なりとも、な。
[少しく瞳輝かせそう言いつつ、尚も渋面を崩さないのは、*それが習い性となっているらしい。*]
…なんとも。
厄介な物だ、ね。
[件の屋敷の主が居なくなったとかなんとか…
誰かの呪いだ、と。此は物の怪の仕業、と。
そう言えば、役人が動きがどうの…
好き放題に言っておる…]
…笑うに笑えんのが辛い所だな。
陰陽師…白藤の兄さんが居た。か。
まぁ…私にも分かるほど陰の気が濃かった。
なれば、その他にも雇っていてもおかしくは無かろう…
[しばし、人の流れを見ておったが。
立ち上がると箱を背負い]
そんな中、何処ぞの貴族が呪を施したとは考えにくい。
なれば…祟りの方、かね。
どれ。一つ話でも聞きに行くとしようか。
[星の数を口にする影居。
それを己の見たものの記憶と照らし合わせる。]
ええ。
見立ては同じですな。
九ツの星のなかに、恐らくは
性質の違う“見る”ものがひとりずつは居るでしょうな。
どの星がそう、というのは分かりませんが。
[顎に手をやり、付け加えた。]
はぐれ識を?
[眼を一度瞬かせて。
眉間の皺は変わらないものの、眼が輝いているようすにすこし笑む]
なるほど、その気持ちは分からないでもない。
捕らえられたまま、まだ開放はされていないのでしょうから。
[恐れる気持ちゆえ、致し方のないことなのだろうが。
屋敷のものに聞いていたところ、
門の前が騒がしくなった。]
――おや、橘中将さまもお着きか。
[白鳥の式神が大きな木の上で鷹をじっと見ている。]
あちらから来るのは――いつぞやに見掛けた薬売りでは無いか。
[なんとなく袖の中に手を隠し、
箱を背負った禿のものに歩み寄った。]
もし。
薬売りと見えるが、そこな屋敷へ商いか。
[箱を背負い、傘も背負い。
ゆっくりとした足取りで。
近づくにつれ強くなっていく陰の気。
小さく息をつけば、禿の髪を掻きつつ]
…酷くなっておるのか?
[ぽつり、呟くも。足を止める事はない。
足を止めるならば、自身の言葉ではなく]
ええ。確かに薬売りですが…
商いもありましょうが、どちらかと言えば噂、でありましょうか。
嘘か真かは分からずとも。話を聞ければ御の字でございましょう。
[此方へと歩いてきた者にそう返すと顎に手を当て。
ゆるりと屋敷を見やった]
…白い鳥……
[庭先に止まっているものは式神か。以前鷹が襲ったものと同じ姿。
それはおそらく白藤のものだろう]
…いるのか、奴も。
[翡翠はこの妖気をいくらかも防いでいるのか。
とりあえず屋敷の中に入れば彼ともであうだろう]
ほう。
恐らく薬の入用はあるまいが。
[薬売りの言葉にすこし興味を引かれた]
噂か。噂の内容へついては大方の予想はつくが。
して薬売りが噂の真偽を確かめて如何するつもりだ?
たしか先日もこのあたりをうろついてたろう。
おや、其れは残念ですねぇ。
なれば、屋敷の主が消えたと言うのは真でありましょうか。
[男の言葉を聞けば、視線を戻し]
さて、ね。
私は流れの薬売りです故。
そういう話には、少々敏感なくらいが丁度良い。
[ふふ、と小さく息を漏らせば。
眼を細く頷いた]
よく覚えてますねぇ。
確かに其処の屋敷に居た兄さんと世間話をしておりました。
[橘が現れたなら、丁寧に一礼する。
影居は常どおりに対応するだろう。]
お勤めお疲れ様、ですかな。
[と、先刻謂ったのと同じ様なことを口にして]
まことのことだ。いずれ知れようが。
[袖から出ている手を顎に添えた]
……商いの種とする、か。
逞しいことよの。
……私は屋敷での事件に関る方に遣えて居るのでな。
出入りのものの顔を覚えておいて損はあるまい
誰が何処で係ってくるか知れたものではないからな。
それに……その背負いものは目立つ。
…面倒が起きたな。お前らも御苦労なことだ。
[最近眉間にしわが出るようになったのはこの影居のせいだと思う]
大殿の件は聞いた。天文官からもな。
お前たちはここで何をしている。大殿の死にざまは見たのか?
いやいや…
知らぬのと知っているのとでは、知っている方が断然良いですからねぇ。
教えてくださってありがとうございます。
[小さく笑えば緩く頭を下げる]
成る程…だから事について詳しいのですか…
本当は其処の屋敷にいた兄さんに話を聞こうと思っていたのですけどね。
この屋敷に入るか否か、少々迷っていたのですよ。
[こめかみを指で掻くと緩く首を傾げ]
…こればっかりはしょうがないとしか。
薬売りが売る薬持ってないんじゃ、話になりませんからねぇ。
もう少し、軽くなれば良いのですけど、そうもいかないのが。
[橘の眉間の皺を見て、
何か思ったように影居のほうへちらと視線を向け
薄笑みのまま眼を閉じ]
いえ――
おれは面倒へと足を踏み入れるのはいつものことですから。
が、今回の面倒は本当にただごとではありませんな。
[言葉の端に常にはない重みがかすかに滲んだ。]
影居さまは此方の調査にいらしたので。
……おれは、雇われておりますからな。
呪が決壊したからといって勝手に逃げ出すわけにも行きますまい?
[否、騒ぎに乗じ去った陰陽師も居るだろう。
白藤は自らの信条に従って此処にいるのだが
それは誰に謂うべきことでもない。]
大殿さまの死に様は―――
[頷く。揺れる翡翠]
ええ。見ましたとも。
酷い有様だ。死に際のあれはもはやひとではなかった。
獣のにおいと、濃い呪いと祟りと――怨が渦巻いている。
死んだのではない、……殺されたのですな。
[僅かに滲むかげ、隠すように眼を伏せた。]
望まれるならば、ご覧になれますがどうしますかな?
それがお前の商いの道具とあれば仕方あるまい。
身を立ててゆかねばならぬだろうから、
切って切れる縁でも無かろうよ。
……兄さん?
…………這入るか?
這入っても善きことなどはひとつも無かろうが――
影居は調査か。この後陰陽寮からいやというほど依頼がくるのにな。御苦労なことだ。
私が聞きたいのは大殿がなくなった後に何か処置などはしたか、だ。白藤、お前の居る理由はもう聞いている。
天文官より四辻の呪、羅生門の凶星、それに関係する九曜、見解があった。大殿も何やら深い縁にとりつかれていたともな。
このことにそなたらの見方と似るか異なる点はあるか?
大殿はまだ動かしていないのか…。
お主の翡翠も他人の魔は防げぬものか。しかし…
[祟り、呪いは陰陽寮の天文博士と似た見解。しかし獣臭いとは何事か]
なにやら呪い、祟りを背負った獣でもいたということか。
とまれ大殿にはお会いしよう。案内せよ。
さて素性も知らぬ薬売りだが
よきものもよからぬものも集まるとすれば
素直に導いて影居さまに見て頂いたが得策か?
中将どのも居られるから、
何かあれば鷹が嗅ぎつけようか。
ええ。重くて切れませんねぇ。
[ふふ、と小さく息を漏らす。
しかし、続く言葉には一つ瞬きをして]
…良いんですか?
良いなら…兄さんもいらっしゃるだろうし。
残っている方々に薬を売る事も出来るやも知れません。
[そう言うともう一度屋敷の方を見やり]
…流石に、大事にはならないでしょう。
白藤の兄さんは陰陽師、ですしねぇ。
調査が入るという話でしたからな。
動かしてはおりません。
[屋敷のほうへ体を向け、一歩進み]
翡翠か……其処までの力があればよかったのですがね。
承知しました。こちらです。
[手を差し伸べて、歩みを進める。]
……邪魔になれば摘み出されるだろうがな。
[素性も知れぬ薬売りだが
怪しきものとも知れぬなら、
いっそ呼び入れて他の方々に判じて貰うが良かろう
とは無論のこと言わなかったが]
……嗚呼。白藤殿、か。
薬売り、名はなんと?
[なんとは無しに、胡散臭げに薬売りを見た。
促し、屋敷へ]
[案内された場所に安置された大殿に一度手を合わせてからその姿を見る。呪いと簡単に一言で済ませられるのに実際の死にざまの凄まじさ。眉間の皺はそれこそ天の割れ目のように深まった]
……なんという無残な…。
どれほどの恨みを引きこめばこうにもなるのか…。
確かに内裏で大殿によからぬ感情を持つものもいたが。
人の恨みとはかくもあるのか。
それとも別の何かか……私にはわからぬな。
お役人様の居る前で、邪魔をする気はさらさらありませんが…
摘み出されればそれまで、でしょうねぇ…其れまでの見聞で我慢いたしますよ。
[其の目に小さく笑いつつ、促されれば屋敷へと]
汐、と言います…
先ほど貴方が言ったとおり、流れの薬師をしております。
……安倍影居さまに遣える、鳶尾と云う。
[屋敷へ入ると、白藤は中将殿に従って大殿の遺体の検分へ行ったと聞いた。また、酷い有様だとも]
待てばそのうちに白藤殿らも戻られようが、
逢いにゆくのか?
……然う云えば。
薬の道は、あるところでまじないの道へ通ずるところもあると聞く。お前のほうでは、なにか心得でもあるのか。
[入り口付近に立って、橘が検分する間
落ち着いた表情のまま、再度無残な部屋を見ていた。]
――都中の溜まり溜まった澱みが、焦点となる意志を得て、堰を切った――とは影居さまの言ですが。
中核となる“何者か”が居るのは確かでしょうな。
凶星は2つ、添え星は1つです。
[星の示したそれを口にし]
うらみはおそろしいものです、橘中将さま。
澱みはひろがり、ひとを手にかける。
明確な意思のもとに、です。
鳶尾様…ですね。
[名前を覚える様に。小さく呟いて。
話を聞けば禿の髪を掻きつつ]
…まぁ。会いに行った方が早いのかも知れませんが…
役人でも陰陽師でもない私めが逢いに行けるのでしょうかねぇ…
[鳶尾を見たが、其の後の問いには視線を上へと]
そうですねぇ。
一応、陰陽五行説…と呼ばれる考えにて薬をお売りしておりますが…
陰陽師の方々の様に、織で何かとか、法力で何かとまでは。
…あの内裏も女御更衣をはじめ政敵を陥れようとする意思は数え切れぬものだからな。そして私も人を呪わぬように願うのみだ。
帝に危害がないよう、陰陽寮に北斗を祀らせてはいるがこれも効果があるものか。
…凶星と添え星……それは何を意味するのか…。
そなた思い当たることはないか?陰陽が見るところの凶星は何を目的とするのか。京の混乱か?
さあな。
それに、故人のまわりで騒ぎ立てるのが良いとも思えぬ
……が、好きにすれば良いだろう。私はここの番をしているわけでも、無い。
[道をあけるように一歩動いたが、そよとの音も立てず]
……呪や怨霊に関してはどうだ?
ええ、その意思が形を持ってしまうでしょうな。
紫式部の物語ではありませんが
夢をみるかもしれません。
酷く生々しい夢を。
其れと知らぬうちに。
さて――確信をもってこういうものである、というふうには分りかねますが都の混乱を招くは確かだと思いますな。
目的は知りませぬが、結果として都は混乱するでしょう。
現状でこれですからな。
都の安寧を願うなら、凶星は落とさねばなりますまい。
…ふむ。お亡くなりになられた、と。
まぁ。多少なりとお手伝い出来れば良い、か。
出来なくも、後々逢えるよう取り付く事が出来れば良い…
[少々其の動きが気になった様ではあったが。
では、と。鳶尾があけた先へと歩き出し]
…私が祓えるのは病、ですよ。
多少、聞きかじった程度の知識ならともかく。
いや、
わたしが訊きたいのは祓う側ではなく
のろう側のことだ。
齧った知のうちにはそういうものもあったのかな。
[汐のうしろへついて進んだ]
物語の怪はそうも京を乱すものか。
人を一人二人とり殺す程度、ましてや一人を出家させる程度ではな。
それとて色恋の嫉妬からならまだおとなしいだろうよ。
さて…刀でそのような凶星を打つことはできるのやら。
見つけることはできようがな。
[外を見ると松には月白が止まっている]
…そりゃあ…ねぇ。
[後ろから聞こえる声に、肯定の意を示しつつ前を歩く]
魔除けの話を聞こうとすると、どうしても…どんな呪いか知る必要が出てきますので。
最も、細かい事が分からないんで…
恐らく私がやったら…出来ぬか、出来たとしても穴二つ、って、ねぇ。
[影秀の非礼を詫びる言葉に困ったように小さく微笑み、それから羅生門を回って見てはその凄惨な内部には触れることを許されなかったけれど、そのかわりに自分の立場の重みを嫌な形で自覚することになる。
あまり浮かないかおではあったがそのかわりに視線は強く、強く。
ややしてから門を後に、向かうは大殿の邸。
ここでも徒歩で現れたことに咎めを受けつつ他に来ている人物を知れば少し目を丸くしてから案内されるままに中へと]
…出来たとしても穴二つ。か。
あながち間違いじゃあ…ない。
[前を往く禿の顔。
口元が自嘲気味につり上がって]
私が出来るのは…蟲の業で喰らい尽くさせるか。
もしくは。猫の怨を向けさせるか…
[其の瞳が鈍く光った]
…呪い返しの抗が必要なくらい。
私も知っておりますが、ね。
ええ――……人喰いという話も聞きますがね。
[富樫の言葉を思い出しながら謂って]
あぁ、色恋の嫉妬ですか。
ふ、確かにまだかわいらしいもの――と謂いたいところですが
侮ると恐ろしいですよ?
[冗談か本気か分からない口調だ。]
……常は人のすがたでありましょうな。
あやかしや物の怪が変じているのと同じです。
斬れるかどうかはさて……わかりませんが。
[視線を追うと、先に居たのは橘の鷹であった。]
……あぁ、不穏な気配に聡いお連れですな。
先刻鋭い眼で見られましたが。
[くつと笑い、まぁ、怪しいでしょうがねぇ。と呟いた。]
医師 ヴィンセントは、村長 アーノルド を投票先に選びました。
ふうん。
穴二つ、とは常の理ではないのかな。
[適当に相槌を打ちながら、居ないかの如く静かに歩き、血のにおいが強くなってきたあたりで歩みを止めた。]
先へゆけば白藤殿も居ろう。
取り次いでいただけるかは知らぬが。
[大殿の邸の傍で、じっと中の様子を覗っていたが]
……あれ、若君様だったよな。
傍についてたのは、誰だ? 若君様がお雇いになったのかどうか。
でもこれで、ますます中には近づけなくなった。
…そうだね。町で、大殿に異変ありとの話は聞いていたけれど…。
[何かあったのかと首を捻りながら通された先は亡き主の居室。
その痛ましい様子に少しだけ足がすくんだ]
……色恋には疎くてな。知らず恨まれぬように用心だけはしよう。
[自分で振りながら少し面白くなかったらしい。
左大臣の子息がこの年になっても妻を娶らないのは不自然で。
周りから勧められてはいるのだがどうも気乗りがしないだけ]
…月白はお前を見ても威嚇することはなかった。羅生門にて見た怪には襲いかかってしまったが。ならばお前は怪しむべきものではないのだろう。あの鷹は信用できる。
まぁいい。妖切れねばそれなりに考える。
ところでお前、屋敷に呪を防ぐ呪を張ることはできるか?
そうなのでしょうかねぇ。
まぁ。其処までして呪いたいとは思われたくないものです。
[後ろより聞こえてくる声だけが頼り。
足音が聞こえぬ故…話をしなければ後ろを度々振り返っておっただろう。
それ故か。先にいると聞けば、振り返るのを忘れたまま]
分かりました…ありがとうございます。
[其の先へと歩いていく。
先にあったのは…酷い臭い。
眉をひそめつつも歩けば、人に道をふさがれ]
もし。
白藤様はいらっしゃいますか?
薬師の汐が逢いに来た、と。
これはなんと・・・人喰いがいるという噂が真となったという事か。
[強くなっていた厭なにおいがこれであったのか、とようやく悟った]
・・・ 呪いが、人を殺すか。しかし。
[昨晩の白藤殿の言葉を思い出す]
[門の傍にいた男に、少しだけ銭を渡し、中で何があったのかを聴けば、考え込むように俯き]
呪、ね。
ここの主はそれほど恨まれていたのか。
それとも、別の理由か。
例えば、貴族同士で争いでもあったとか……。
[首を捻り]
[立場なの様子がおかしかったのか、くすりと笑んで]
そうですな、お気をつけを。
其れと知らぬうちに恨まれてしまうのは――罪ですからな。
[少しばかり悪戯っぽく。]
然様ですか。月白、というのですな、お連れは。
怪に襲い掛かったとは、勇敢な。
信用いただけるのは、嬉しいことですが。
……屋敷にですか?ええ、張れますが。
[話しているうちに若君と富樫が来たなら
道を開け、丁寧に礼をする。]
[奥から聞こえる声にふと頭をあげる]
…宮様?なぜこのような所に?
あの冨樫とやらがお連れしたのか?
[いくら若宮の願いとはいえ人死にの起きた穢れた場所に訪れるとは不用心にも程がある。あの武士め、叩き切ってくれようか。
元々顰めていた顔に不機嫌以上のものが現れる]
──大殿の屋敷──
[白藤と共に屋敷に入ったおとこは、何やら堅苦しい話をする陰陽師たちの話を、部屋の隅でぼんやりと聞いていた。
中将や影居におとこが見とがめられることがなかったのは、屋敷中が慌ただしく動き回っていた所為、またおおくのひとびとが出入りしていた所為だろう。あるいは、単におとこの痩せた身が、影の薄いものだったからかもしれぬ。
おとこはひとり、しげしげと廊下のあかい手形を眺めていたが。]
[中には役人や陰陽師と呼ばれる者たちがいるのだろう、と予測は付いた。
中が気になったが、入るわけにもいかず]
どうすっかなぁ。
―大殿の死した部屋―
……宮様?
[呟く。流石に白藤も僅かに目を見開いた。
高貴な雰囲気をまとっているとは思ったが、よもや親王とは。
後に続いた使いのものが、「汐という者が呼んでいる」
と伝えてきたならば頷いて]
[暫くの間、中を気にしていたが]
あの男に見つかると厄介だからな、中に入れない以上はここにいても致し方なし、と。
若君様に見つかって、「弥君」の正体がばれるのもまずい。
けれどあの男、邸では見たことなかったけど、「姫」には近づけないようにしてるのかも、な。
[もう一度邸を振り返り、そして離れていく]
……黙れ。
[からかわれるのは好まない。
下げる翡翠を一度ぐい、と引っ張ってから宮の姿を確認し、礼を取る。しかし見上げる顔に咎めの色はありありと]
…宮様、何ゆえにこのような所におわします?
ここは酷い穢れの場、早々にお引き取りを。宮様のお体に障るやもしれませぬ。
──大殿の寝所──
・・犬の毛がおちていますな。
[いつのまにおとこは、寝所に入り込んでいたのか。
飄々とした様子で、おちた毛に節くれた長い指をのばす。
薄い笑みを浮かべ、新しくやってきたばかりの若宮と影秀に顔を向けた。]
[返ってきた言葉はしばし待て。
どうやら、遠めで見る限りでは…若そうな男が見えた]
…物好きなのか。
其れとも。あの方も陰陽師や役人の類なのか。
[聞こえぬよう、ぽつりと呟いて。
箱を背負い直し白藤を待つ]
[怨<won>──]
[寝所に反響する うらみの 渦 渦 渦]
[そこにはまだ あかく くろい 残滓がみちてる]
これは、中将様。大変申し訳ござりませぬ。
まさかこのような事になっているとは知らず通されたもので。
全く中将様のおっしゃる通りでございます、ささ、若宮様。外へ出ましょう。
[近くに白藤殿がいるのを確認し]
これが、人喰いとやらか。白藤殿。
[道を開けてくれた白装束の男に軽く頭を下げる。
それから明らかに機嫌の悪そうな中将の言葉に向かう姿勢はあくまで冷静]
…もとより、こちらに伺うつもりでいたのです。
それに…穢れとはいえ、大殿が自ら望んで穢れたわけではないでしょう。
亡き知己を痛む暇も与えてくださらないのが、近衛府の流儀なのですか?
[咎めの視線に悲しそうな表情を浮かべ、静かに見下ろし]
問題ありません、影秀。
場に居合わせた以上、事の顛末を問う資格くらいはあるはずです。
下がるのなら、置いていってくれてかまわない。
[不意に見せる意固地、こんなときに限って少年は頑として武士の意見を却下する発言を返す]
あぁ――お気に触ったのならば、失礼を。
[が、言葉の端に滲んだのは笑みだ。
橘にふいに翡翠を引っ張られて、眼を瞬かせた。
橘が言葉を紡ぐ間に、一歩退く。]
……ええ、犬の毛です。何か感じますかな?
[墨染めのおとこに謂って。
富樫に問われ頷いた。]
然様です。人喰い、凶星の仕業ですな。
……酷いものだ。
─故大殿の寝所─
[面倒臭かったのか、良く喋る白藤にもっぱら説明を任せ、自分は相も変らず面白くもなさそうな顔で形ばかり付いて回る。
が、流石に式部卿宮が現われた時には、その渋面も色をなし、]
何故、
[と思わず呟いた。]
……おれを訪ねてきているものが居るようなので失礼を。
橘さま、先の話し、続きがあるならば後ほど。
[“屋敷に結界を張れるのか”という問いについてであろう。
また礼をすると、部屋を辞して廊下へ出た。
向けば、すぐに汐の姿が見え]
(……さて、これも奇縁か、物好きゆえかねぇ。)
[そちらへと歩いていった。]
――大殿の寝所→寝所傍の廊下
若宮様・・・
ならば、某もお傍に。その事の顛末を見定める若宮様を守るのもまた某の使命故。
・・・犬の毛?まさか、人喰いとは犬だというのか?
弔いのご意思はご立派にございます。
御不快を重々承知で愚臣申し上げますが大殿は何が原因でなくなられたのかわかりませぬ。そしてこの部屋の異常さも然り。下手人がまだ控えているやもしれぬのですぞ?
大殿も自ら穢れに触れたのでなければ宮様がこの場にて穢れをお受けになることも望まれますまい。
上に立つお方が自ら死地に飛びこまれるとは元服前の子供と何が違いますか。
[一息いれて顔を幾分ゆるませ]
故人にはこの後僧都に祓いをして頂きましょう。
その上でお別れを申されても十分礼に則っているかと存じますが如何?
[おとこは影秀を見上げ、鬼のような大男だと思うた。
感情の読み取りがたい薄い笑みを浮かべたまま、]
…いやあ、人が人を食うたのではないでしょう。
呪に成り果てたあわれな獣が乗り移り、内側から大殿さまの魂ごと喰ろうたのではないかな。
[白藤の言葉を否定するようなことを、淡々と云う。]
[…彼の黒衣を来た法師が見えれば、流石に微かに目を丸くしていたが。
白藤が此方へと向かってきてるのが見えれば表情も元に戻り]
…祓いの最中でしたか?
白藤の兄さんに起きた事を聞いておきたいと思ったんですが…ね。
[小首を傾げ、微かに目を細め。
白藤を見ていたが]
…急ぎでないならば、少し、この場から離れませんか…?
陰の気も酷いですが…臭いも。
[そこに安倍の姿を見ればかすかに瞠目の後、小さく会釈を一つ。
影秀の言葉に小さく意気をついたのもつかの間、中将の言葉に少しだけ眉根を引き寄せ]
………わかり、ました。
[溜息とともにかすかな音量の言葉を紡いだ少年は、その後少しだけ唇を噛んで俯く]
…僧都に祓いを願うのであれば、少しだけ、安倍殿をお借りすることは出来ますか。
先ほどは詳しいことをお話できなかったゆえ。
[一度安倍を見てから中将へと視線を向け]
成る程、そのようなことがあり得るならば合点は行くが。
・・・して、先ほどから見上げておられるお方、失礼ですがお名前は?
もちろん、獣がみずから呪に成り果てる事などありませんゆえ。哀れな犬畜生を呪に仕立て上げたのは、ひと──其処のお役人の方がおっしゃられる《下手人》なのでしょうが。
[そう云った後、ここにある大殿の屍骸はすでに抜け殻とばかり、犬の毛を無造作に床に放り捨てた。]
─故大殿の寝所─
[やつれた形の法師と、式部卿宮の随身が何やら言葉を交わしているのに、ちらりと視線を走らせる。
恐らくその内容も耳に入っているのだろうが、口を挟む気はないようだ。
すぐに視線を戻し、式部卿宮と中将の前に恭しく目を伏せた。]
―大殿邸・寝所傍の廊下―
いいや、どちらかというと検分かね。
上にも伝わっているから、騒がしくなっているのさ。
まさか若宮様まで出てくるとは思わなかったが。
[部屋のほうへ眼を向けた。
墨染めのおとこの犬、という言葉を聞いても特には何も謂わず]
やはり物好きだねぇ。
そう遠くなく話は広がるだろうが。
[におい、と聞いて口元と鼻先に手で軽く触れ]
あぁ……それは、そうか。
いけないな、ずうっと此処にいるから麻痺してるのかねぇ。
[大殿邸より幾分離れた頃、ようやく緊張を解いて]
戻るか。
腹も減ったしな。
若君様が戻る頃には支度も整えておかないといけないし。
後、今日の歌も詠まないと。
なんだ、結構やることあるんだな。
[六条の邸へと歩き出した]
…助かります。
影秀、その方から詳しい話をお聞きしてくれるかな。
後ほど、報告を。
[中将に短い感謝を述べれば武士に仕事を一つ与える。
それから、安倍のほうへ視線を向けて]
…では、安倍殿。
少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか…?
[少し首をかしげると、何度か訪れたこともある屋敷ゆえに話が出来る場所を求めて人気の少ない場所へと返事も待たずに歩き始める]
[あの黒衣の男は見覚えがある。つい先日にまみえたばかりの…確か花山院という男。蔵人所の花山院殿の血縁者か何かか?]
…そういえば札もすべて焼き切られていたという話だったな。
そしてその犬の毛とこの血痕…なんぞつながりがあるのか?
[目が暗く見えがたいのか、影秀を無礼なほど見つめたまま、わずかに眉を寄せる。口元の笑みは消さぬ所為で奇妙な印象を与えるかもしれぬ。
影秀だけではなく、高貴な身とおぼしき若宮に名乗る必要性を感じたのか、おとこは今までの名乗りに比べ、幾分まともな言の葉をはく。]
ああ。…高貴の方の前で失礼を。
わたしは、永漂(えいひょう)。数年前に出家し、都を出たはずが兄に呼び寄せられて戻った花山院の者です。
宮さまがお生まれになった時のお話は、父からは聞き及んだことはあるのですが、──透き通る膚と髪色の淡色の宝玉のような宮さまだと。お初にお目にかかりますな。
[水晶数珠を持ち、礼のかたちを取った。]
検分…まぁ…下々の私達に伝わっていて上に伝わっていない方が不思議、ですか。
若宮様…?
へぇ、あのお方が。
[同じように目を向け。遠目でしか見えぬが微かに目を細め]
若宮様も私の様に物好きなのでしょうか。
…何、早めに話を聞けた方が…逃げるにせよ、除けるにせよ。
良いと思いまして、ね。
屋敷の近くで鳶尾様に逢いまして…
[そう言って後ろを見やるも。
既に歩みを止めていた鳶尾は後ろにいるはずもなく。
…こめかみを掻きつつ視線を戻した]
…先ほどまではいらっしゃったのですが、ね。
[小さく苦笑いを零すと、部屋から離れる様に。
門の方へと足を向け]
使いも走っていたしな。
[向けた視線の先では
橘が富樫のちかくの墨染めのおとこに何事か問う横、
若宮と影居が伴って出て行っていた。]
……目の前で見る機会に遭うとは思ってなかったねえ。
なるほど、どちらにせよ知っていたほうが得策ではあるか。
鳶尾、――ああ、影居の式か。
不意に現れて不意に消えたりするもんだからな、
気にしてないさ。
[謂いながら、汐の後に続いた。]
永漂、殿とおっしゃるのですね。
…お父君が…そのように?なんだか、そのような評価を頂くと、照れてしまいますね。
ありがとうございます。
[少しだけ照れたように微笑むと、そのまま安倍を促して人気のないあたりへ。
庭へと降りることはなかったが、人気もほとんどないあたりを知るは何度過去の屋敷で迷子になったことがある故に]
…こちらなら、人の耳もまずはありません。大丈夫でしょう。
[そこまで来て足を止めれば安倍のほうを振り返り、少しだけ微笑み]
花山院の方でしたか、これは大変失礼した。
某、こちらの若宮様にお仕えする富樫影秀と申します。以後お見知りおきを。
して永漂様、となると大殿を亡き者にしようと犬に呪いを掛けたものがいる、という事でしょうか。
[声がまったくないことが、ひどく不思議で、ひどく不安で。
時折視線を少しだけ後ろに向けては、そこに彼がいることを何度も確認して]
[さて、人々が件の大殿のところに集まると見えて、
狐もその後ろから様子を伺いに参りました。
ところが、足が竦んで中には入れぬのです。]
…犬、とは。
[その残る気配に、すっかり怯えてしまっています。]
[急に話しかけられるようになったと、口の中で呟く。
が、気色は変えず。中将に、]
都に戻ったばかりの夜。
千切れたまま空を飛び、うらめしげな犬の生首を──
と、こう云った怪異の話を、そのままお役人の方に話してよいものか……
[周囲の空気に頓着せず話していたかと思うと、おとこは急にもごもごと口ごもりはじめる。昨日の薬売りでも傍に居れば、と思うものの、汐がこの屋敷に入り込んでいるとは思いもよらないのだった。
どう話したものか、首を捻った後、]
ああ。
廊下にはり付いた血まみれの手のかたは…人のものに見えますねえ。犬の形ではないのは誰がみても明らかで。
・・・色んな呪が。
入り交じって居るのじゃないですかねえ。
私は市に居たのですが…飯が終わった後で。
もう、噂は広まりつつありますからねぇ。
[知るものもいるものの。何やら皆、話をしている様子に視線を戻す。
ある程度部屋から離れれば箱を背負い直し。
白藤の方へと向き直る]
…あの方が…式?
はぁ、全く分からないものですねぇ。
確かに、兄さんの鳥なら見たけど…
[顎に手をやりつつ、思案していた様だったが]
…とと。兄さんに聞きたいのは鳶尾様の方じゃなかった。
結局…あのお方はどういった事でお亡くなりに?
何やら…呪にしては、陰の気が残っているのが気になるのですが…
[何度も何度も振り返る若宮を、その度にやわらかい慈愛の篭った眼差しが迎えた。
おとこはひっそりと、影の様に常に若宮の後ろに居た。]
[陰陽師を見る少年の表情は、少しだけ緊張したような色合い。
琥珀の瞳を少しだけ伏せたあと]
…お聞きしたいことが、あるのです。
先日、中将殿が邸にいらして大事ないかとお尋ねになりました。
なんでも、彼の方の笛の音が濁りを見せたとのことで…琴の清浄に異変がないかと、そうお尋ねになりました。
結論としては、異変あり、ということになります。
ちょうど、中将殿のいらっしゃる半刻ほど前に、変えたばかりの琴の弦が一本、切れてしまいました。
…ひょっとして、今回の異変を察知したものではないかと、そう思っています。
……貴方様なら、どうお考えになりますか?
[じ、と琥珀の瞳でまっすぐに安倍を見つめ]
あぁ、静かにされていた所を騒がせて申し訳ない。
怪異等はなれている。誰かのせいでな。
これも職務、申し訳ないが色々聞かせて頂こう。
[勿論誰とは言わないが]
呪…交るもの、か。この手の呪いとは一人がするものか、それとも不特定多数の者の恨みが集まりこうなるのか…。大殿の場合どれも思い到る故に面倒だな。
[ちらり、と外の鷹をみた、緊張は解いていないようだ。
だが鷹が潜めた妖気を感じ取れるのは朝の清浄な空気の中でだけ。
今は恐らく無理だろう。あまりにもこの空気は汚れすぎている]
[おとこの記憶が無いのはちょうどおとこが出家をしたあたり、数年前からだ。そして、大人になってからの兄に関する記憶が思い出せない。出家前、父が亡くなる前後の記憶まではあるのだった。
目が暗い所為で、おとこには若宮の表情までは視界がぼうとして読み取れぬのだが、五月のころの若芽をおもわせる宮の髪色、瞳の色の薄さは、うつくしく感ぜることができた。
微笑んだ気配に、]
おやさしい声をしておられる。
大殿はもはや魂の残らぬ抜け殻、とは云え、外にいかれるがよい──ですなあ。
この場は、確かに穢れている。
[と云って、若宮と出て行く影居を見送った。]
[本当は、もっとこんな話よりも、別の話がしたかった。
こんな他人行儀な会話ではなくて。
罰当たりな話かもしれないが、抱きしめて欲しくもあったし、罰当たりは重々承知の上で抱きしめて欲しくもあった。
けれど、自分のわがままで彼の未来を曇らせてしまうようなことは、したくはなくて、結局甘えの一つも言い出せぬまま]
・・いや。
花山院と云っても、俗世を捨てた身ですゆえ。
富樫どの。そう堅くならずとも…
[かしこまられると、すぐに困ったように背を丸める。
一度、影秀から顔を背け、若宮の去った方角を見やり、また顔を戻した。]
…………。
ああ、若宮さまは。
お守り甲斐のありそうなおかたですな?
[少し、ひそやかな声でそう云ったのは、空気を崩そうという意図か。]
[汐が、気付かぬまま歩いて行ったあとも暫く鳶尾はその場に佇んで居たが、奇しくも白藤の言ったとおりにすう、と急に消えた。]
[次に鳶尾があらわれたのは建物の外だった。
桜の樹のした。
指に犬の毛をつまんでいる。]
……おや。
お前はいつぞやの……つねひとと言ったか。
人の口に戸は立てられぬ、かねぇ。
[薄笑み、眼を細めて]
あぁ、そうか。知らなかったか。
無理もない、そういう風には見えやしないしな。
なに、おおむねは人みたいなものだ。
おれの式と違って話すし世話も焼く。
[いまだ式はいくつか飛ばしていた。
橘の鷲に見つかったら追われるだろうか。
腕を組み、汐を斜に見た。]
……大殿さまは、まぁ、さっきの酷いにおいにも関係あるんだがね。
呪いと祟りに殺されたんだな。
酷く澱んだ陰の気が集まったようだ。
けもののように暴れ吼えて、事切れたよ。
・・…富樫 影秀…
おまえは、若宮に 欲望 を感じぬ──か?
[寝所に溜まっていた澱みの中から、影秀に向けて声が響く。
それは、永漂の声のようであり、永漂の声でないようでもある。]
身の裡から わき上がる
乾き 飢(かつ)えを── 感じぬ だろうか…?
[少年らしい真っ直ぐな式部卿宮の問いに、少し考えるような素振りを見せ、]
そうですね…
確かに此度の異変との関わりはござりましょう。
その予兆と申しますか、余波のようなものをお感じなったものかと。
正味のところ、大殿を害し奉った呪は、ただ一人(いちにん)に拠るものにあらず、このみやこそのものの成り立ちと今の有様に深く関わりがあるものと、影居は考えておりまする。
故に、水面を渡る波の様に、その影響は大小を問わず広くみやこに現われて参りましょう。
…余波、ですか…。
[ぽつり、呟く言葉は苦く]
……都は…いえ、この国は…このまま、荒れてしまうのでしょうか…。
[彼を見上げていた視線は落ち、そのまま足元へと落ちて]
……主上のお心乱すようなことになってはほしくないのに…。
[呟く言葉は、父を案ずる純粋な思いその物で出来ていた]
…そう言う事でしょうねぇ。
まぁ。皆が皆、戸を立ててしまったら、私は生きにくいのですが、ねぇ。
[ふふ、と小さく笑んで。
式の話には…聴きたい事ではない、と言いつつも興味深げに聞き入る]
概ねは人…話す上に、世話もやく…
其の話を聞けば、さぞ便利なのでしょうねぇ。
独りには羨ましい話ですよ。
[口元をつりあげる…が。
腕を組み話す様には、一つ、目を瞬かせて]
呪いと…祟り?
獣の様に…すると、呪いによって獣の祟りを引き寄せたのですか?
それとも。誰かが施した呪いに、祟りがたまたま憑いたのか…
[こう正直に自らの考えを申し述べたは、式部卿宮の聡明さと芯の強さを感じ取ったからであった。
闇雲に真実から遠ざけ庇護するよりも、今起こっている事態を知った上で最上の選択をして欲しいと思っていた。]
[己同様、淡い色彩の若宮様が陰陽師であるという方と出て行かれるのを見送り、
墨染めの衣姿を認めて、その方に声をかけます。]
失礼ながら、徳の高い御方とお見受けいたしました。
亡くなられた彼の御方にお目通りしたいと思ったのですが、…どうもこの気配は苦手でございまして。
清められるのであれば、お願いしたく。
[怯えたまま弱弱しい声で、狐は希(こいねが)うのでした。]
…犬の呪。
蠱毒と言うものを聞いたことがございます。
鎖に繋いだ犬の、餓えの限りにあるものに食物を見せ、
喰らいつかんとした瞬間に頸を刎ねてしまうとか。
その恨みを力となして、祟りとするそうで…。
っと、話を戻しましょう。
お話を聞く限りでは、人がいたかもしれぬ跡もあるという事ですか。
ならば中々に複雑ですな。まずこの屋敷内に出入りしたものを怪しまねばなりませぬ。
・・・突然その人食いとやらが虚空から現れ、虚空に消えたと言うのであればもはやそれも徒労に終わりますが。
[一人先程の白藤の言葉に頭をひねった]
…凶星…がこの祟りを成している……か。
凶星2つ、添え星1つ。仮にこれらが祟っているとしてもこの京の人数をどうやって探せというのだろうか。せめて何かしらの手掛かりがあればいいのだが…。
[卦ででた関係する九曜と禍星3つ合わせ12。
一人、ぐるぐると思案にくれているがそれを口にはまだ出さない]
……ひっ!
[背後から赤毛の従者に声をかけられて、情けなくも思わず怯えた声をあげるのです。]
そ、それをどうにかしていただきたく…。
[視線の先にあるのは、彼の指につまんだ数本の毛でございました。]
[若宮の気持ちを知ってか知らずか、おとこは臣下の距離を保ったままであった。
やさしい瞳で、若宮を見詰めるばかりであった。
その胸の内に秘めたものを表に出すには、おとこは若宮を大切に思い過ぎていた。]
……私は今は戻ろう。少々気になることがある。
[検分者には屋敷の状況とそれぞれの言葉をすべて記入させ、兵をまとめさせる。寝所内にいる者達に去る旨告げ、屋敷をでた。途中すれ違う見知った者達にへは急いでいたこともあり場合によっては目もくれなかっただろう*]
それはおれもだな。
流れの宿命というやつかねぇ。
[薄笑みのまま謂って]
ちからの強い式であればこそ、だな。
術者でなくとも、縁があれば仕えることもあるそうだがね。
[瞬きするのを見て、眼を細め]
さぁて、それは仔細にはわからないねぇ。
何せ呪が縒り合わせた糸のように絡んでいるからな。
中心となる者がいるのは確実なんだが。
[星をもっと読むべきだろう。
この奇縁に導かれた星を。]
[もうとうに都も国も荒れて果てているのだ、とは言えなかった。
先見で得た、この国の未来の姿も。
戦乱。大火。疫病。飢饉。
更に多くの人間が死に、地には怨嗟が満ちよう。]
冒険家 ナサニエルは、書生 ハーヴェイ を能力(占う)の対象に選びました。
……追い立てられでもしたかな。
[少し笑った。
毛を摘んでいた指に息を吹きかけた。]
狗を使って蠱毒というのは、あまり聞かぬように思うな。
[本当は。
帝も、都も国もどうなろうと構いはしなかった。
あの時、若宮に逢わなければ、
迷子となった若宮を、見さえしなければ、]
笑い事ではございませぬ。
[ほんの少し機嫌を損ねた風に、赤毛の彼を軽く睨むのです。]
わたくしも聞きかじったのみで詳しくは無いのですが…
良く世間で知られるのは、壷に蟲どもを詰め込み、それぞれ互いを食い殺させて、最後に残ったものを使役するものでございましょう。
犬神を使った蠱毒は、それよりも更に強いとも。
[影秀に、]
穢れには、似つかわしくない澄んだいろの──宮ゆえ。
呪だけではなく、いっそ、けがして見たいと云う下賤のやからもあらわれそうな──。
……守れるものならば、守って差し上げねば。
[云ってから、過去の何かを思い出したのか、苦い顔になる。
おとこは、首を振って大殿の屍骸の傍にかがみ込んだ。]
[おとこの顔に影がおちる。]
──…お前自身が、宮を穢すので無いならば。
[声はくわんくわんと耳を打つ鐘のごとく反響し、法師の姿は、富樫にだけ水面の波紋のごとく揺れてあやしく見えただろう。
影秀の声には答えはなく──]
[部屋の床より あかくくろい 血満水があらわれて影秀の足元を濡らす。]
[────ぴちゃぁあああん]
[ぬめりをおびた反響]
[>>212生真面目そうな中将の言葉に、大殿の屍骸の傍にしゃがみ込んだまま、独り合点したように相づちをうつ。]
ああ。
お役目で呪いやら何やらに関わられていては。
嫌気がさす事もあるでしょうなあ。
わたしは、権謀に長けた鬼の跋扈する都をおちて、田舎で人の死を弔うておりましたが…飢えて恨んで死ぬるも辛いが、都は羨みそねみ憎しみなぞも。
おのが野心のため、犬の蟲毒を、使うて大殿を陥れん者が──居たのやもしれませんが…、
[銀色の姿の狐がよわよわしい声をあげるに、>>222驚いたように顔をあげ、狐ならば分かるかとまばたきをだけを繰り返す。]
先が分からぬのと分かるのとでは断然、という事でしょうねぇ…
[顎にやっていた手で頬を撫で。
薄笑みを見やれば、親指を唇の端へと持っていき]
力の強い…ほぅ、縁が在れば、か。
夢見て現を抜かしそうな話ですねぇ。
[目許は笑っているものの。
其の続きを聴く様子は何処か余裕は無く]
ふぅん…絡んだ糸ほど厄介なものはないねぇ…
…と言う事は、祓うというか。除ける事も難しいわけかな…?
弱った…ねぇ。
[片目を瞑り、小さく息をつくと髪を掻き]
…その、中心となる者、って言うのは。
やはり、この呪いを…この屋敷の主にかけた者、って事…なのかな?
ふふ、済まぬな。
[気安げに笑ったが、すぐに顔を引き締めた]
狗神か。
犬は忠義も尽くすし、恩義も感じるそうだな。
さてもそういった心を持つものを遣えば
より強き念をもって、強き呪を行えるか。
……それがもし人ではどうであろうな。
[口をつぐみ、静かになってあたりの様子を見る]
[影居らが星の話をするを、おとこも聞いていた。
四つ辻の呪と、犬の蟲毒と、廊下に残った無数の血の付いた手形(まるで血塗れの人の群れが通って行ったかのような)とは、すべて別口の呪いであり、さまざまな呪が複合して作用し、たまたまあるいは必然的にこの屋敷に兆しがあらわれたのではないか──と思えたが。
さて、怪異を解さぬ風の影秀や、生真面目なカクカクとした役人の中将にどう説明したものか、おとこが口ごもっているうちに、中将は慌ただしく出て行ってしまった。]
[おとこは思う、
若宮を奪い、全てを捨てさせることはいとも容易い。
己にとりては身分も家も、何の意味も持ってはいない。
人の身にありては禁忌となることも、己にはそうでない。
人のこころを無くせば、人で在ることを止めれば、簡単に全てが手に入る。
それを為すだけのちからと……狂気が、己には備わっている。
だが、奪われた若宮はどうなるだろう?
人で在ることを止めた己は、若宮の身もこころも貪り尽くして已まぬだろう。
恋うるが故に己は鬼となるだろう。
その後は?]
[永漂様の言葉に眉間に皺を寄せ]
何人たりとも若宮様を傷つける事はさせませぬ。
お言葉ですが、不謹慎な事は慎んで頂きたい。
[それは機嫌を損ねたというよりは、真剣にその可能性を避けたいという意思が出ただけのようだった]
某は。
違う。某は−
[視界に入ったその血満水に顔をしかめつつも、目が離せない]
一体、某はどうなってしまったというのか・・・
そうだねぇ。
上手く立ち回らなければくたばっちまうからな。
[汐を斜に見たまま柱に軽く凭れる。
俄かに馬の蹄の音がしたのは、橘が去っただからだろう]
現を抜かすのは罠ってやつだな。
あぁ、……此処にもいまはぐれの識がいるが。
聞かずやの陰陽師が解放すれば見れるかもな。
[片目を瞑る様子にはふむ、と項に手をやって]
凶星は2つなんだが――見つけ出すは難しかろうな。
添え星も居ることだし。
もうちっと星を読めば絞れてくるかもしれんがね。
[橘の鷹なら見えるかもしれんが、とは思考の中でだけ呟く。
星の示す“見るもの”のひとりなのであろう。]
だろうねぇ……明確な殺意を感じた。
流れ者 ギルバートは、医師 ヴィンセント を投票先に選びました。
[中将を見送り、]
…お役人の方は何時も忙しい。
[聞かれたことに答えきらぬうちに去って行く相手に困ったのか、困らぬのか、人ごとのような淡々とした声の響き。おとこは残った下っ端の役人の喧々とした態度に話す気力をそがれたらしい。
顔をきょろきょろとさせてから、改めて、銀色の青年に近寄り、至近距離でじっと見つめた。]
…きみとは。
[至近距離でぱっと見て、尾が見えない事。狐耳など見えぬ事を確認し、何故、すぐに狐と思ったか首をひねる。そのまま、狐の髪を一房とり、くんと匂いを嗅ぐ。
そしてやはりと云って、狐にだけ聞こえるように、こっそりとやわらかい声で囁いた。]
わたしと、山で会ったことがないかい?
わたしは、行き倒れていた時に、銀狐に助けられたことがある。
[それは、果たして。おとこの失われていた記憶のひとつが、ぽおんと蘇った瞬間だったのであろうか。]
…ひとにて、しゅを?
[声を潜めて聞き返しつつ、思案げに指を口元に当てます。]
よくは判りませぬが…。
恨み辛み憎しみにて、生きながら祟りなすものは、人のみ。
と…聞いたこともございます。
獣にも、心あるものは居りますけれど。
[ぴちゃぁあああん──]
[おとこが銀狐の傍に歩みよる時、朱の霞がいっそう濃くなり、影秀の足元の血満水もまた揺れた。]
ええ…全く。
[柱に凭れる白藤の様子を見やれば、薬師も背負っていた箱を下ろし、その上に腰掛ける]
何事も現を抜かしてては上手く行く事も行きませんよ。
しかし。罠、と言うのも分かる気がしますねぇ…
何故か。そうしてしまう、と言う意味では。
はぐれの織…?
其れは滅多に見れる物じゃないですからねぇ…見れると良いのですが。
[一つ、目を瞬かせる。
まさか、車の上にいた者とは思うはずもなく。
膝に肘付き、頬杖をつけば白藤を上目で見上げる様に]
凶星…二つ?
よく分からないですけども。
明確な殺意、か…恨み辛みが募った輩…なのですかねぇ。
でも、獣の祟りなら…そうも言えないのか。
[急に傍へと寄られて、狐はその細い目をやや丸くして瞬きました。]
…もしや、あのときの?
[身なりも違えば、あのときのような髭面でもなかったが故に気づくのが遅れてしまいましたが、
確かにその彼の匂いにも、声にも覚えがありました。]
此れは見違えました。
すっかり宜しくなられたようで。
[鳶尾の言葉に、銀狐と同じタイミングで口を開いた。]
人を蟲毒の材料にする──人を使った呪かい?
それは、ひどく悪趣味だ。が……
怨念をあつめるという意味なら、
[目元を暗く染め、]
──案外簡単かもしれないね。
くっ。
[昨晩から殆ど寝ていないのが祟ったか、眩暈を覚える]
若宮様、申し訳ございません。少し庭の空気に当たってまいります。すぐ戻ります故。
永漂様、またお話をお聞かせ願えればという事で。失礼。
[わずかばかりでも疲れを癒すため、*席を外した*]
この屋敷にも、無数の手形が残っているくらいだから。
天文地暦がわかり、呪を都に配置することの出来る者。あるいは、術者を雇うことが出来る者が,望むなら。
[庭木を見ていた視線を、箱に腰掛ける汐に戻して]
ふ、そりゃぁそうだな。
どうしても人ってのは楽なほうに行こうとするもんだからな。
どうも――形代の識っぽかったようだがな。
まぁ、逢えれば縁、ということだろ。
[既に邂逅しているとは知らないため、そう謂って。
見上げてくる汐と視線を合わせると、翡翠がまた揺れ。]
まぁ、星を読むってやつだ。卜(うらな)いだな。
凶星二つ、添え星一つ。
あとは其れを照らす為の星九つ――かね。
[影居と己の記憶を辿り。
それを橘もまた見ているとは知らなかったが。]
恨み辛みなんだろうねぇ。
獣はけしかけられただけだろうと思ってるんだがな……。
[おとこは、記憶の片鱗が蘇ったことに、心の裡でおののきを感じながら、]
…髭は、都に来る時に、剃らされたのだよ。
あの時のわたしは、痩せすぎて蚊のようだったかもしれないね。
[山中でなにも覚えていないと云う、おとこに最寄りの寺の場所を示してくれたのが、銀狐だった。その時の狐はやさしかったと確かに思い出した。
だが、肝心の行き倒れた理由は、その時、銀狐にも話したが以前霞の中である──。]
…有り難う。葛木だったか。
何故か都に居るきみのためにも、清められればよいのだが──抜け殻に残滓とは云え、わたしに清められるだろうか。
[おとこはそう云って、また大殿の屍骸に顔を向ける。
屍骸は屍骸であったが、澱んだ残滓のいろは、あかく霞んでいてそしてくろかった。]
[──ぴちゃぁあああん]
[何処かでまた、血の玉がはじけるような音が聞こえた気がした。]
楽な方楽な方へ。
だけどそうも言ってられない人間の方が多いんですけどねぇ…
どうも。貴族の方々を相手にしてると其れも忘れてきてしまう。
[弱ったものです…そう小さく苦笑いを浮かべ]
形代…?
己の呪いや病を其れに憑かせる…って物でしたっけね。
織にしちゃあ情も湧いちゃいそうなものですのに。
…そうも言ってられないのが今なのかも知れませんけどねぇ。
縁があるなら真っ先に言うのは助けの言葉、ですか。
[小さく肩を竦めて見せて。
視線が合えば緩く首を傾げ]
…それで、凶星って言うのは根元、って言うのは何となく分かるんですけど。
其れを照らす為の星九ツ、とは…一体?
[疑問に思った事を尋ねる]
[寝所の中央、穢れが色濃く残っている場所へ、瞑目して歩を進める。]
(わたしが田舎で──何時もしていたのは)
(清め と云うよりは寧ろ…・・)
(否、今は云うべきではないのかもしれぬ…・・)
[無我の力で、暫し清浄であったこめかみがまた軋りと痛み始めた。
おとこは、部屋の隅ではなく、澱みのすぐ手前に立つ。
痛みに息を吐いてから──]
[―――ぽこり]
[邸の離れ 綴じられた部屋の外 怪異がうごめいた]
[地から這い出す蟲はいざなみ統べる冥界の種 いずこより来たりてとぐろ巻き長い縄となり邸へ散ってゆくのは五蛇 合わせ五色の蛇――其は半透明で淫靡に身をくねらせながら進む]
[術師が気づいたのは直ぐのこと――]
[同じく 邸の様々なところで]
[ぽこりぽこりと―――]
ああ。無我と一緒なら出来るかもしれないね。
[ぽつり、呟く。
捕われのはぐれ識の話をしている頃は、おとこは廊下で血塗れの手形を見聞していたのか。]
兄の話をしていたら、行ってしまった。
[あれは、やさしく聡いのだろうかと首を傾け]
──呼べば、またあえるだろうか。
わたくしが此処へ辿り着いたのも、何かの縁(えにし)でございましょう。
[法師殿の背後より件の骸を垣間見て、ぞくりと総毛立つ気分でございました。]
…やはり、この御方で。
夢うつつに見たのは…確かにこの方でございました。
人々よりも、向こうの岸に近い生まれだからなのでしょうか。
以前より度々、死に切れず迷うていられる方々の姿を見る事がございまして。
…そなたに出会ったときも、最初はそのような方かと思ってしまったのですがね。
[人の姿をした狐は、ぴくりと身を竦ませて、
辺りを慎重に見回しました。]
…何か、居る?
[耳は這いずるその音を、かすかに捉えておりました。
袂に隠して、狐火を二つ三つ。]
あれは住む世界が違うからねぇ。
こちらとあちらには隔たりがある。
[とん、と指でひとつ腕を叩いて]
そうだ。そういう識も居るのさ。
情が湧く者とそうでない者がいるからな。
あの識のあるじがどちらだったかはわからないがねぇ。
一身に呪いをうけてくれ、……か?
[ふ、と少しだけ苦味の混ざる笑み。]
呪いを祓うために引き寄せられた何者か、ということだろう。
まぁ巻き込まれたって方が良いのもいるかもな。
陰陽師の術とはまた違う――力をもつものが居るのさ。
[と、ぴくりと何かに反応するように笑みを消して辺りを伺う]
[部屋と、抜け殻を清めても、わずかな慰みにしかならぬのだ。
真にこの屋敷を清めたいのならば、うらみを抱えたまま屋形を去った犬の呪と、大殿様の魂の行方を追ってそれを清めねばならず。
また、大殿の魂をただしき場所に還すには、他の何かを祓い清めねばならぬのかも知れず。また、それは凶星に関わるのかも知れぬ、と云う連鎖。
──はたしておとこが、そのようなたいそれたことに関わる事が出来るのか。
おとこがあの識にあいたいだけかもしれぬ。]
[おとこの気色は部屋の者には見えず。
背を向けたまま、銀狐にいらえを返す。]
ああ。
行き倒れる前の記憶はもどらぬままなのだよ。
おのれの過去を失ったと云うのは、彼岸に逝きかけていたのからなのかねえ。
[薄く笑みをはく、おとこはまだ蟲には*気付いていない*。]
でしょうねぇ。
同じと言うには、ちょっと差が激しすぎる。
[ふふ、小さく息を漏らし]
ふぅん…私には無理でしょうねぇ。
よほどかわいさ余って憎さなんとか、って事がない限りは。
…其れもまた自分勝手なのかも知れませんがね。
そうしてくれると、不安になることなく都に居れるのですが…
[…ふぅ。息をつき]
呪いを祓うために引き寄せられた…巻き込まれた。
巻き込まれた者なら都全部見渡せば九ツじゃ足りなさそうだが…
陰陽師の術とは違う血から…で。呪いを祓える物なのでしょうか…ね…
[白藤を見つめていたが、其の表情が変われば言葉も消え入る様に。
白藤より一拍遅く、辺りを見回した]
[俄かに屋敷自体が騒騒しくなったから、どうやら屋敷中に色々とあらわれたらしい。
ぬらぬらと這うまじものへ刀を立て、
それがきちんと相手を貫いたかを確めもせず、ふいと消えた。]
[あるじの側へ誰ぞ居たものか、
人目も憚らず、侘びる間もなく影居のそばへ*あらわれる。*]
関わり合いが多い分、余計にそう思うんだろうな。
[薬師がそうであるように、
流れの陰陽師がそうであるように。]
ふ、まぁそいつは一般的だろうねぇ。
おれも割り切るんはちっと厳しいかな。
識ってのは何らかの目的を持って呼ぶ。
目的がある時点で自分勝手さ。
[安心して、という言葉には一度目を閉じて]
さぁてね、ただ巻き込まれただけじゃない
奇縁、偶然、或いは必然だろうかね。
―――……
[汐にも見えただろう。
半透明の五色の蛇が泡沫のように浮かび上がってくる。
そして蟲 ざわりざわりと忍び寄り 這いより]
……千客万来か。
[白藤が片手を薙ぐと、白い鳥に似た紙が空に浮かび
地面と柱に円を描くように貼りついた。
淡く光り、結界をなす]
汐、そこから出ないことだ。
[身をくねらせる極彩色を白で弾く。
眉を寄せた、皮肉げな笑み。]
ああ、まったく――厄介だねぇ。
[翡翠が*揺れた。*]
両方の立場を見れる立場だからか、ね。
[白藤の考えとは違うかも知れない。合っているかも知れない。
しかし、結果ありきで理由なぞ些細な事]
一般的、か。生き物は、生き物、としか。
まだ、見れませんからねぇ…
[織…小さく呟けば、髪を掻き]
成る程、ね。
最初から目的があって呼ぶのであれば、確かにそうなのかも知れない。
お願いではなく、命令、だから、か。
…奇縁、偶然、或いは必然。か…
一体。誰なんだろうねぇ…
[占星術も。陰陽の術も。どちらも出来ぬ薬師はぽつ、と呟いた]
…何だい、あれは。
[見えてしまった極彩色に、眉をひそめ。
白藤を見やると、白が周りに舞っている事に気付く]
成る程。そういう類の物か…
いや…初めて目に見えたな…
[白藤の言葉には、頬杖をついたまま小さく頷いて。
極彩色に白が舞い、動いては弾け。
其の光景を、ぼう、と見やる]
出ないよ…うん。
此をどうにか出来るなんて、私には思えないから。
[邪魔にならぬよう、小さな声で答え。
終わるまでは結界の中、箱に腰掛けているだろう*]
[何れ事は宥められるという励ましに、少年の表情は心持ち明るさを増し]
…そうですね。
皆が頑張っているのに…自分がひとりで不安になっているのは、失礼ですよね。
……ありがとうございます、安倍殿。
[そう礼を告げて微笑む様は白い花蕾が*綻ぶように*]
[揃えた二ッ指を振り上げると共に、墨染めの法師の足元で青白い炎が上がりました。
ギチリと軋む音と共に、禍つ蛇の焦げる臭い。]
数が多うございますね…。
[周囲に浮かぶいくつもの狐火を油断無く構えながら目を凝らします。
結界の呪符等は扱えませんから、
近寄るものを仕留めはすれど、それでは埒があきますまい。*]
−六条院邸−
[「弥君」の姿へと移るのも慣れて、やってきた「義父」に歌を見てもらいながら、聞くのは大殿の邸のこと]
獣のように、死んだ、ね。
おれが入る方法って言うのはない?
この格好でなら、或いはだけど、姫じゃないおれを知ってるやつもいるんだ。
「童の姿ではなおさらであろう」
そうか、そうだな。
無理にいく必要だってないんだが、気になるものは気になるんだ。
[この姿で、理由をつけて参るのは、簡単であるのかもしれない。けれど、それもごまかせない相手がいる、と感じていて]
「若宮を呼びに行く命を与えようか」
[その姿で、と付け足して、笑う]
やはり、それか。
余り、気は進まないのだけどな。
[溜息を落として、*白いままの短冊を見つめた*]
──失礼仕る…。
[と寂びた声で囁き、すっと式部卿宮を抱き取った。
両の腕(かいな)のあいだに宮を抱いたまま、早九字を切る。]
臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前
[宙に描かれた薄く光放つ格子が網のように拡がる。
ふつふつと光の粒子弾ける音、音にならぬ喚きとともに、何か目に見えぬモノを絡め取り、襲い掛かるその動きを食い止めたのだ、と見て取った次の瞬間、]
鳶尾。
[指のあいだに紙片取り出し、当たり前の如くすぐ傍に出現した式に*呼びかけた。*]
[外へ出るための表着に召し替えて、白粉をいつもよりは厚めに塗り、女房達の少しばかりの感嘆の声を聞き流し、牛車に乗って六条院を後にする。
一人付きの女房と、外には武士を一人引き連れて、牛車は大殿の邸へと]
「若宮様がおられぬときはどうなさるのですか」
無理にでも入るさ。その為にこの格好で外にまで出たのだから。
牧童 トビーは、学生 ラッセル を投票先に選びました。
[手を取られ、胸が震える。
抱き込められれば肩が震えた]
…っ……影居、様…っ…!
[幽かに声が上擦り、吐息は震えた。
このまま甘えていられたらよいのに。
そんな儚い夢すら見るほど、少年は餓えていた]
[抱き取った瞬間。
若宮のからだの感触、その匂いが、危険なほどおとこの血を滾らせた。
潮の如く総身が若宮に惹きつけられてゆくのが分かる――
――だが、その陶酔に身を委ねる暇はない。
今は全神経を研ぎ澄まし、目の前の妖魅を討つことに集中せねばならなかった。
そうして、瞬時におとこは冷たく鋭く己のこころを鎧った。]
――花山院の自邸――
たたりじゃ。など不遜な者の仕業じゃ。などと騒いでおる。
噂は噂を呼ぶ。眉唾に足が生えて歩いているのは明らか。
[口を僅かにとがらせ、思案に耽る。
ひとつ、ふたつならぬものが外へ出る。都を飲み込もうとしている、と感じ]
ふ…
[と、僅かに言葉を発する。]
[痺れを切らしかけた頃、ようやく牛車が邸まで到着し、傍目には女房に手を引かれるようにして降り立ち、門をくぐる。慌ただしくしているためか、それほど誰ぞの目に留まるわけでもなく、ただ、役人の一人には呼び止められて]
こちらに、六条院の若宮様がおられるとお聞きしたのですが、その六条院様より言付けを頂き、こうして参った次第でございます。
[一礼し]
して、若宮様はどちらに?
[扇で口許を隠したまま、役人の一人に問うと、あちらだと指された先へと足を向ける]
[邸内はざわついていて、人の行き交いが多く、幾人かに呼び止められたが、六条の名を出しただけでそれ以上聞かれることはなく]
(いい加減、この声にも慣れた、な。始めはどうかと思ったが。余り、大きな声を出さないようにしなければ)
[楚々と足を進めて、大殿の寝所傍まで来ると、見知った顔が目に入り、そこで足を止める]
(若君様に、付の男、……あの男もいる)
[更に顔を向ければ、薬売りの男や何処かで遇うた陰陽師の姿も目に入り、顔には出さずただ、*ぴくりと無い眉が動いた*]
[自身に物の怪を祓う力があるかは怪しい。太刀の振り方もままならぬし、自らの内から目に見える力を発した事も、目に見える何者かの力を借りた事も知識こそあれど、実践した事はない。
だがそれを内へ取り込むには苛烈に危険でありまた絶好の好機でもある、と捉えるのだった。]
身近な所から、いろいろ奏しあげたほうがよいのかもしれぬ。
修道女 ステラは、村長 アーノルド を投票先に選びました。
修道女 ステラは、流れ者 ギルバート を能力(襲う)の対象に選びました。
かの僧から聞くべきか、あるいはあの時の若い衆、はたまた更に腕の立つ者がよいのか。
[束帯から身軽な服装に着替え、草鞋を履き*門の前に立った*]
─邸内・故大殿の寝所を離れて人気も絶えたところ─
──此処に。
[僅かにこたえ、あるじの衣へ裾の付くか離れるかのすぐ近く、従う影の如くあるじの背に背を合わせ。一歩離れて指先で刀の鍔を押し上げた。
太刀筋は素早く、何かを斬り、払い除ける。時折、濁った泡沫を潰すような音。太刀を振るう際の踏み込む音は軽い。]
[扇で顔を隠す女御の姿に、一度だけ*目を向けた。*]
修道女 ステラは、吟遊詩人 コーネリアス を能力(襲う)の対象に選びました。
[薄闇い一室の中]
[無我を中つとし五芒の形に符が空に張られている]
[符の周囲 燐光は撒かれた塩のよう]
[きしり]
[ ― 凛 ― ] [符が鳴る]
[床から ぽぅかりと黒い泡(あぶく)が立ち 立て板を滑るようにするすると近づいてくる ―― ]
[べたり]
[無我の背後の壁に小さな手形がついた]
[ひとつ]
[符が噛み切られ 破られる]
[ふたつ]
[符に赤黒い手形がこびりつき 朽ち落ちた]
[みっつ]
[符が腐り落ち 床につく間に屑すら消え果てて]
[よっつ]
[黒い泡より出でた蟲 百足芋虫やすでが符を食べる]
[いつつ]
[ぱらりと五芒がなくなれば 怨一挙に押し寄せて ―― ]
[澱んだ呪いを一身に どろどろとした黒紅の渦に巻き込まれ]
[その白い指もその墨色の衣も極彩色の輪模様も 一様に穢れの色に染められ 無我の表面をじくじくと蚯蚓が這うように呪いが蠢いている]
―大殿邸・廊下/影居たちとは真逆側―
[汐が腰掛動かぬと見ると一歩踏み出して
円を描くように手を動かす。
再び現れた鳥の式。
蟲を蛇を極彩色を眩い白が包んでいく
その狭間、楚々と歩む――鮮やかながら、こちらは人のものの色彩が現れた。]
――姫君?
[ちらとこちらを向いた扇の端から覗く目。
いつかの盗賊と同じだとは気づかない。]
一体何処の。
なんだってこんなときに。
[訝しげに呟く。]
修道女 ステラは、流れ者 ギルバート を能力(襲う)の対象に選びました。
[九曜と禍星、そしてその添え星。
九曜とは空の星、天にあるままにそれぞれ引きあうという。
あの屋敷の凶事が間が禍星の仕業ならそれを読み解こうとするものがその九曜なのであろう。知らずあの屋敷が騒ぎの中心となり得るやもしれぬ。ならばあの屋敷にいたもの達を徹底的に洗うか。
影居の父親、天文博士に相談した結果、陰陽寮にで紫宸殿、後宮を中心に総出で魔除けの結界を結んでもらうこととした。これなら滅多なことで帝に危害が及ぶことはあるまい]
さて面倒だが。月白よ、主には明日から飛んでもらわねばならぬな。そして影居の言葉も気になることよ。
[宮に対し発した「関わりを持ってしまった」とは何事だろう。
恐らくその九曜や禍星に関係することだろう。
政務が慌ただしくなるなか、一息いれた時に鳴らす笛に静かさはなかった*]
―大殿邸・廊下/影居たちとは真逆側―
…凄いねぇ。
[ぽつり。
起きている事が自身に降りかかる事がないと分かっているためか、緊張感という物がまるでなく。
極彩色を染めていく白を見やっていたが]
おや。
何ぞ、貴族の方々は物好きが多いのですかねぇ。
[ふと視界に入る人影。
服装から見て女性…扇により顔は見る事は出来なかったが]
臭いも酷いし、遣いの者に頼めば良いのにねぇ…
[まさか布を巻いてやった童と思うはずもなく。
視線はまた白藤と極彩色。白に戻す]
[ようやく辿りついた先、若宮の姿を見てほう、と一息入れ。
見れば、見知った顔を見つけて安心したようにも見えるのだろう。
当人はただ、今一度声を出すために息を吐いただけであったのだが]
若君様、このようなところにいらしたのですね。
六条院さまより、早くお戻りになるよう、仰せつかって参りました。
わたくしが参ったことについては、ご心配なきよう。わたくしが自ら、この役を申し出たのですから。
たまには、外の様子を見たいと、我が侭を。
ただ、このような場所とは思いもしませんでしたけれど。
[虫の鳴くような、小さな声で告げ、ふわりと笑みを作り、辺りを見回した。両の手に巻いた布は見えぬよう、袖の下に隠したまま]
この臭気は、大殿が亡くなられただけではありますまい。
[やや眉を顰めて通ってきた寝所の方を*見る*]
そうかも、な 、
……――ッ!
[姫の姿に気を取られた隙、
蛇の這う感触に息を呑んで手を振るった。
次いで、色彩を掻き消す白。]
(凶星、添え星、そして照らす星九ツ。
身分在り様問わず千客万来――)
[蛇の掠めた左手の甲に白い鳥がとまる。
尾の端から穢れの極彩色を吸うように滲ませてはらりと落ちた。]
こいつらも引寄せられて来てるんだろうが
……ひどい呼び水だねぇ。
百鬼夜行も賑わしくなりそうだ、が
歓迎はできないねぇ。
[さして面白くもなさそうに呟いて一歩下がる。
極彩色は散り敷いた花びらのように床に広がって
どろりと溶けていった。
白鳥の姿をした式を肩に止まらせて咽を撫ぜ]
凶星は落とさないとな。
[眼を細めた。瞳の奥に確かな意志。
白は古くより死者を弔う色である。]
あやかしも人も惹きつける…魔性の呼び水、かい?
やれ。それならば…
あやかしは言うまでもなく、貴族の方々が出向いてでも欲しがるのは分からぬ事もない。
[極彩色の雫。
蛇より形を変え、地に滲み消えていくのを見やると小さく肩を竦め。
肩が白の宿り木に。咽を撫ぜる様に]
百鬼夜行…元より。
歓迎などしては居ないのですけどねぇ…
[頬杖を付きながら息をつく。
其の後。誰に言うでもなく呟いた]
其の凶星とやらは…どうすれば堕ちてくれるのやら。
え…?!
[謝罪の言葉、何かと思えばいつの間にか自分は安倍の腕の中にいて。
強い光、一瞬で現れた赤髪の男にただただ、目を丸くするしかなく]
これは、一体……?!
[光の残滓を視界にとどめながら、少年はただ驚くばかり]
[守られているのだな、と実感する。
同時に、守られることしか出来ない自分を歯がゆくも思う。
けれど、少しだけ初めて出会った時に似ているな、と思った。
迷子になって、はぐれたどこぞの式を見つけてしまって、あの時も影居に助けてもらったのだと、そんなことをぼんやりと]
――都の北側――
[漂う空気がどことなく薄黒い。
大殿の方角へ足を向ける。蔵人としての務めもあるが、まず腕の立つ者に近づく事が先決。]
誰かの仕業なのかこれは。不吉な…
[項に手を遣りながら、翡翠に触れて]
……真実、どうかはわからないがねぇ。
百鬼夜行に好んで飛び込むやつがいるなら、
そいつはくるいびとってやつだ。
凶星が人の姿をしているならば、
絶つために屠るか呪い殺すかか、ねぇ。
人を呪わば穴二つ――ってな。
[ことばにこもっているのは、確かな実感。
ふと片目を瞑り、翡翠に触れていた方の手で覆った。
視界は門の上の式が見るものとなる。
屋敷の近くにまたひとり、物好きが来たようだ。
――見たことのないおとこだった。]
─邸内・故大殿の寝所を離れて人気も絶えたところ─
[妖異のあらかたは鳶尾に任せ、己は霊符にて式部卿宮を護る結界をまずは作る。
呪とともに、滑らかな手指の動きだけで四方に符を張ってゆく。
符のなす辺のひとつを越えて内側に入り込もうとしたモノが、その際で一瞬半透明の蛇形を顕わにし、瞬く間にほろりと崩れて消えた。]
金は木を剋す──
[滑らかに宙に図を描く指先を少しだけぼうとして眺めるも、今の状況を思い出して、守られてばかりの子の状況がそこはかとなく申し訳のない気分にさせて、ちらりとだけ安倍を見上げる]
…すみません。
[ぽつり、呟く言葉はひどく申し訳なさそうで]
─邸内・故大殿の寝所を離れて人気も絶えたところ─
[見れば高貴な姫が供を連れ、此方に渡って来るところ。
溢れるる蛇妖にも気付いておらぬ気に、扇で顔を隠して若宮に語り掛けている。
す、と目を細め、]
お止まり召されい。
[手挟んだ紙片を投げれば、中空で鳥の姿に変わる。
あでやかな色彩備えた羽打ち振るい、姫君の方へと鋭い鳴声を上げて真っ直ぐに飛び掛り──
すぐ足元の蛇妖を嘴で咥え、食い千切った。]
―大殿邸廊下―
……あぁ、来た。
[首を傾けて門のほうを見る。ゆらり、翡翠が揺れ]
また物好きのご来訪だねぇ。
出てもいいぞ、汐。
この辺は大体祓ったから大丈夫だろう。
[訪ねてきた“物好き”が汐の知っている人物であるとは
夢にも思わないまま門へ向かい]
此方に。
[と、門前に現れたおとこへ返事をした。]
[自分に語りかけてくる弱い声。
まさか、とは思いその方を見れば]
弥君様───?!
[驚いたところで、そちらへ向かおうとするも安倍の腕に引っかかって動きは止まり]
…おじいさまが、そのように?
ですが、今はそれどころでは───
[ない、といいかけた言葉が鋭い式の鳴声に思わず目をつぶったことで音になることはなく]
[「すみません」
若宮の申し訳なさそうな呟きが耳に入る。
ふ、と唇綻ばせ、]
これが私の役目でござりますれば──
[その表情には何の曇りも無く。]
季久さまをお守りすることが私のよろこび……
そのようにお気になさりませぬよう──
[小さな囁きが若宮の耳元で弾けた。]
[見慣れぬ者が眼前に現れた。何かを装ったただの使いの者だとも思いにくい。
かと言いつつも都の魑魅魍魎を運ぶ者であるとも考えにくい。
目の前の男に話しかける。すこぶる興味本位で。]
やれ。何をしておるのかな?誰かに頼まれた、とやらか。
何のためにそこへおるのかな?
─邸内・故大殿の寝所を離れて人気も絶えたところ─
[と──
おとこがふと、眉を顰め、
蛇の形を為していた怨の気が、瞬く間に薄れて散じ、
始まった時と同じく唐突に、妖異は消え去った。]
―大殿邸・門前―
[庭まで降りて、おとこに一定距離まで歩み寄り]
然様、おれはやとわれの陰陽師。白藤と申します。
この屋敷に蔓延る怪異を祓う為、と此処におりましたが――
[首を横にゆるりと振って]
ことは既に起こってしまいましたな。
此方は穢れてしまった。
あやかしどもが先ほどから湧いておるのですよ。
此方に居ては、御身にも危険が及びましょう。
[――踏み入れた時点で、既に“関わって”しまったのであろうとは思ったが口にはせずに]
まぁ、確かに。正気の沙汰では無いでしょうねぇ…
…人の形をしていなかったら、兄さんの術でどうにかして貰うしかない、って事。か。
任せるしか無いですか、ね。
[出ても良い、と言われれば、よ、と箱から立ち上がる。
其の箱を背負えば、顎に手をやり]
お疲れ様…初めて祓うところを見たが。
思っていたよりも優雅…に感ずるものだねぇ…
おや。また物好きな貴族様かい?
[門の方へと向かっていった白藤を見る。
一拍遅れてゆっくりと其の後を追う]
[今の妖異を収めた「もの」の存在に気を取られるあまり、おとこは若宮が見ているということを完全に忘れていた。
深谷の如き、眉間の皺。
これを見たことの無いのは、恐らく若宮くらいである。
それくらいいつも渋面で過ごしているということなのだが。]
[何かしらの気配が周囲を包んでいるのは漠然ながら全身で感じる。いや、感じない可能性もある。全身が痺れているような――]
大殿の件ですかな? それとはもしや異なる何かかな?
確かに危険やもしれぬな。だがいてもたってもいられなかったのだ。
…ありがとう、ございます…。
[小さく、甘い溜息が零れる。
その旨に少しだけ頬寄せれば、少しだけ自分に近い香りがして、頬がかすかに緩んだ]
[深く眉間に刻まれた皺に、かすかにきょとんとする。
自分が見たことがあるのはさっきまでも、この間も、柔らかい視線と表情だけで。
かといって其れは不機嫌だと判断することはなく、むしろ少年はそれを真面目な表情と勝手に勘違いして捕らえていたからどうしようもない。
至極興味深そうに視線は安倍を見上げて]
[少しだけ、軽い笑みがこぼれる]
…そんなお顔も、なさるのですね。
[少しだけからかうような、小さな甘い声。
意外な一面が垣間見えたのが嬉しい、そんな気配]
大殿さまの件を発端とし、
あやかしや様々な呪が複雑に絡み合って
都を覆っていますな。
[いてもたってもいられぬ、という言葉には]
……物好きなことだ。
[細めた眼に僅かに苦笑が滲んだ]
やはり、か。 都が安寧を保っておられるのは今上の君の賜物である所が大きいと私は思っている。
だが…それだけでは抱えきれぬものもあるのだろうな。
しかして、それらの面妖なものに対して、手をこまねいている訳でもあるまい?
[神妙な面もちで周囲の空気を探りながら語りかける。]
…おや?
[遅れて白藤の後ろまで来てみれば、見覚えのある男が居て。
一つ瞬きをし]
花山院…師輔様…?
[ぽつり、と。其の名を呼ぶ。
聞こえてくる話には、顎に当てていた手の親指を口の端へと押しやり]
珍しいところで逢うものだ…
はて。
そうでしょうとも。
[薄笑みで謂う。]
抱えきれないものを支える為に
仕えるものが居るのでしょう。
動いてはおりますよ。
流れのおれの動きではたかが知れましょうが
既に橘中将、安倍影居さまも動いておりますゆえ。
[屋敷の方を見て。
不意に怪異の気配が“吸い込まれるように”消えたのを感じ眉を少しばかり寄せた]
お尋ね者 クインジーが「時間を進める」を選択しました。
お尋ね者 クインジーは、学生 ラッセル を能力(襲う)の対象に選びました。
中将…が。
[門を見上げる。何も屋根に泊まってはいないが、何かがいるような気がして寒気に襲われる。]
今宵の雲はひどく厚い。まだまだ何かが起こるであろう。だが、何もなければ越したことはない。
とは言うものの私にもそれらを祓う力があればよいのだが…簡易なものでよいので、それを身につける方法はないものか。
[まだ抱いている式部卿宮が、じっとこちらを見上げているのに気付くと、ハッとした表情ですぐに眉根を開く。
顔色は変わらねど、幾分かは慌てていたと見える。]
……これはこれは。ご無礼を──
[腕を解いて、一歩下がって*頭を下げた。*]
双子 リックは、学生 ラッセル を投票先に選びました。
…往来で、ちょいと、ね。
薬を売った相手、でもないし。
ゆっくり話し込んだわけじゃあ無いけど。
[白藤の言葉には頷いて]
…こんな所でお会いするお方ではないと思っていましたが、ねぇ…
[しかし。祓う方法、と言うのには興味があるのか。
白藤の後ろで佇んで]
ええ、中将さまがでです。
[繰り返し。]
祓う力、ですか。
[考えるように顎に手を遣り]
――難題ですな。
一朝一夕に備わるものでなし。
識を従えるか、祓う力のある刀を持つか。
ええ、中将さまがです。
[繰り返し。]
祓う力、ですか。
[考えるように顎に手を遣り]
――難題ですな。
一朝一夕に備わるものでなし。
識を従えるか、祓う力のある刀を持つか。
……お守りでも持ちますかな?
[掌の上には、折り鶴]
[少し慌てる様子の相手に、少年は少しだけ微笑み。
それから、一礼をして彼の傍らから少し離れる]
…それでは、僕はこれで。
先ほどのお話は、また後日…よろしければ、我が邸にて。
[ぺこり、と頭を下げてその足は弥君のほうへと静かに向かう。
一度だけ安倍のほうを振り向いて、微かに微笑んだのは紛れもなく現実]
修道女 ステラは、お尋ね者 クインジー を投票先に選びました。
[汐の言葉にははじめは気づかなかったが、おとこの注意が脇へ逸れたのがきっかけにより、汐の存在に気づく。]
おお、そなたはあの時の…汐殿。
それでは薬というのももしや、なのか。
[師輔に名を呼ばれれば、顎にやっていた手を下ろして。
頭を下げ]
覚えていてくださり光栄です…
いいえ、私の薬は呪いや祟りとは。
[顔を上げると、首を横へと振った]
病は祓えますが。ねぇ…
恐らく、気が楽になる程度でしょう。
[残念ながら。
そう、言葉を続ける]
…確かに。
端から見てても滑稽だったかも知れないねぇ。
[ふふ、と白藤に小さく笑えば。視線は掌の折り鶴へ]
滑稽ね、ちと見てみたかったか。
[折り鶴を少し掲げて]
こいつは―――
まぁ、おっしゃる通り術がかかっておるわけですが。
多少の禍なら追い払うでしょう。
尤も、数度で崩れ去りますがね。
[ 嗚 呼 ]
[ さ か し い お と こ ]
[ 己(おの) が 力 で 吾 が 怨 ]
[ と ど め よ う と し た お と こ ]
[ 陰 陽 師 ] [ 字(あざな) た る は 白 藤 ]
[否] [我よわしよあたいよわたしよ]
[怨(won)怨(won)怨(won)怨(won)怨(won)怨(won)怨(won)]
[汐の言葉や男の言葉をありがたく受け取る。]
気が楽になる。というものはとても大切なものだ。
正しい行いは、正しい状態に時こそ思いつく、為せるものだからな。
今の都がどうにか平安を保っておられるのも、そなた達のような人々の力添えがあってこそ、と痛感するよ。特にしがない字書きのような私にとっては。
[掲げた折り鶴に目を遣りながら]
使い方、などはあるのだろうか?
弥君様…どうしてこちらへといらしたのです。
使いでしたら、わざわざ貴方がいらっしゃらなくとも…。
[少しだけ困ったような、僅かに怒っているような、けれど口ぶりはあくまで穏やか]
…申し訳ありません、折角迎えにきてくださったのに…失礼なことを申し上げてしまいましたね。
[扇で顔を隠す少女に謝る。
そこで初めて気がついたが、自分と少女の背丈はそれほど変わらないらしい。
むしろ、彼女のほうが背が高いような気もして、あまり近くによるのは申し訳ない気がしたのか少し手前で立ち止まり]
学生 ラッセルは、見習い看護婦 ニーナ を投票先に選びました。
ええ。兄さんも見てたら。
そう思ったんじゃないですかねぇ。
[ふふ、小さく息を漏らせば]
流れの薬師にそう仰ってくださると有り難いです…
時折、厳しい言葉や難題を投げかけられます故、尚更、ですねぇ…
[師輔の言葉に、もう一度頭を下げ。
視線は折り鶴へと]
その折り鶴で…ねぇ…
――勿体ないお言葉です。
[ゆるく、礼をして]
字書き――うたなども詠まれるのですかな。
[ふ、と懐かしげな表情になったが説明を始めるとそれは薄れ]
こいつを手にのせて、
軽く息を吹き掛けていただければよいです。
白鳥となり、禍を弾くでしょう。
――まぁ、お守りですから、過信は禁物ですがね。
[若宮へは穏やかにその表情繕っていたが、眼差しは何処かほろ苦いいろが混じっていた。
丁度釣り合う年頃と見える姫君。
あれが六条邸に迎えられた養女なのであろう。
口振りから見るに親しい間柄と思しく、どうやら若宮に懸想している気配さえある。
若宮も、その好意を好ましく思っているようだ。]
もしや…私および私の周囲に何かしらあれば、頼む。
うたか。歌は、少しだけたしなんでおる。
たらちねの、母元を…やめておこう。今は詠む刻でもなさそうだ。
[万が一、この鶴が災いをもたらすものであっても、それはそれでよいやもしれぬ、と思った。]
これは、頂戴してよろしいのか?
[はじまったと同じく、唐突に去った怪異。
やや戸惑った風に刀を納め、六条式部卿宮の手前、静かに膝をついて身を低くした。
式部卿宮が、あるじへ向かって笑みかけたことへ、訝しげな顔も伏せる。あるじが子供に好かれるような人物とは思ってもみなかった。
二人の間に一体どのようなやり取りがあったものか。]
……影居さま。
このような善くなきところへ長く居られてはいずれ式部卿宮さまの身体に障りもありましょう。……姫君も。
[囁くように提言]
[ちらり、と。
もう一度だけ振り返る。
彼がどんなことを考えているかもわからなくて、その姿が見えたが嬉しいのかまた少し微笑んで]
[若宮を腕に止めた男が放ったものが鳥に変わり、足元で蛇の形をしたものを食い千切る。その一部始終を目線だけで追い]
(あやかし、か。邸中の臭いと、この着物のせいでどうにも勘が鈍ってるな……。とはいえ、ここで気づいて避けるのも姫としては変な話、か)
あやかしの類でございますか、なんと恐ろしい場所なのでしょう。
そこの、陰陽師の方、でしょうか? 危ないところをお留めいただき、お礼申し上げます。
[その傍へと現れた、赤毛の男とは目線を合わせぬように]
……そうですな。
このような折りでなければ
是非聞きたかったですが。
[一度瞬き、頷いて]
ええ、こちらでよければどうぞ。
[と、差し出した]
[怪異が収まった後、若宮が解放されたのを見て知らず、息をつき。
その後若宮の咎めるような響きの言葉には、困ったように目を逸らす]
六条院さまも同じようにお留めになられましたけれど。
いつも邸より同じ風景しか見ておらぬものですから、ついぞこのようなところまで足を伸ばしてしまいました。
歩いてゆくとも云うたのですが、それは叶わず。
若君様の心遣い、ありがたく思っております。けれど、それほど心配されることではありませぬ。
このところは、体の調子も良いのですから。
[弥君が安倍のほうへと声をかけるのを見守ってから、もう一度安部のほうを見て軽く頭を下げただろう。
ただし、その傍らにある鳶尾を見た視線は少しだけ───]
では、また、いずれ。
[軽い目礼とともに、弥君の侍女が先を歩き始めればそれに従うように歩きだす]
…無い事を願いますが、ね。
しかし、師輔様の…花山院には、法師様がいらっしゃいますでしょう。
そう、大事には至らないと思いますが…
[師輔の言葉には、緩く首を傾げて見せる。
あの黒衣の法師。そして…
話を聞こうとも思ったが。聴いてどうする、という話でもないのかも知れない。
そう思ったのか、口を噤み]
実際、私も見ているだけならばそうしていただろうねぇ…
[白藤の言葉に口元を緩めた]
馴染む、か。
それが一番良いのかも知れませんが、ねぇ。
馴染み、と言う事は、少なからず相性は良いって事ですから。
[今、おとこの身のうちは荒れ狂う炎と化していた。
苦しく、狂おしく、悲しく、寂しい。
じりじりと灼き尽くされるように息苦しく、さりさりと何かが失せていく。
怒りであるのか、嫉妬であるのか。
哀しみであるのか、諦めであるのか。]
[結局笛はいつものようなすんだ音は出さなかった。
穢れが自分にも染み付いているのか。
内裏の結界については安部の天文博士に任せれば問題はないだろう。帰り際、あの博士より忠告があった。あの穢れに触ることへの忠告。しかし今はそんなことを気にしている場合ではないのも事実]
穢れとは呪う人の心か。
心の呪いがまた狂いにつながるというわけだろうか。
人の心が京を乱すことと美女に溺れ国を滅ぼすことのどちらがましか。
[ふ、と自嘲気味に笑う。先程から続く検非違使の騒ぎに自身も疲れてしまったこともあるのだが]
…歩いてなど、床に眠るが常の方のお言葉とも思えません。
さぁ、参りましょう。
おじいさまが、お待ちなのでしょう?
[どうも祖父は彼女に甘いらしいのが見て取れて、少年は困ったように溜息一つ。
邸へ戻るべく、弥君を促し、途中で影秀に声をかけて]
[去り行く式部卿宮の姿を、その姿が消えるまでずっと見つめていた……まるで何かに惹かれるように。
それ故に、少し離れた場所に佇む黒白(こくびゃく)の影に、目を向けたのは随分と後のことであった。
この男にしては、かなり珍しいと言わねばなるまい。]
―大殿邸・門前―
待つものがいるのは、幸ですな。
[と、ふと小さく呟いたのは
“私の周りのもの”ということばに対してであったようで。]
かたじけない。
[折り鶴、を受け取る。ただの鶴ではなさそうだ。]
ついで、と言ってはなんなのだが。
どの手の類のものが出やすい、であろうか?
[若宮の方へと向かうと、わずかに自分の方が目線が高いことに気づき]
(おれもそれほど高くはないと思っていたが、若君様はもっと小柄なのだな……)
[内のみに感想を漏らす。
若宮が別れの挨拶を口にすると、自分も二人へと頭を下げて]
六条院さま以外の邸など、初めて訪れたものですから、いろいろなものに目移りをしてしまいまする。
あの庭も、美しく。
[歩きながら、庭の方へと視線を移し]
(夜に見たときと、またずいぶんと違う)
もう、庭の主はいないのですね。
[目を伏せて]
[汐の言葉を聞く。]
うむ。私は年の離れた弟がいる。うつつの代わりに、私には見えないものが見えるのだろう。私の気づかないものによく目の行く男だよ。
牧童 トビーは、書生 ハーヴェイ を投票先に選びました。
修道女 ステラは、吟遊詩人 コーネリアス を投票先に選びました。
流れ、いつ死ぬかもわからない身の上。
及ばなかったゆえにうしなわれてしまったものにくらべれば
それは塵のようなもので。
―――
つみをわすれないように
白を纏っていた。
翡翠がゆれる。
[珍しくもあるじの鈍感である間、鳶尾は僅かにおもてをあげ、
伏せ控える墨染めの衣を見るとは無しで、それでも目を奪われたように暫く見ていた。すぐに注進しなかったことはこれもやはり珍しいことではあるが。]
花山院の?ああ、あの墨染めの―――
[屋敷に思わず眼を向けて]
……いらっしゃいますな、今。
[口元を緩める汐にはだろうな、と薄笑みを返す。]
…そうですか。
もっとお体が丈夫になられたら、いろいろなところにご案内しましょう。
この館の庭もすばらしいのですけれど、内裏の景色もそれは素晴らしいのですよ?
[極自然に内裏という言葉を使っていたが、その実で彼女が内裏に上がれる身分かどうかも考えていないのが所詮は箱庭育ちというものなのだろう。
主の居ない庭を見つめては、歩を止めることはなかったけれど、目を伏せたことには少しだけ目を見張るだろう。
かといって慰める様子もなく、だからといって気を利かせぬわけでもない]
…そうですね。
特に、この庭の桜は本当に素晴らしいのですよ?
何でも、南都に植わっていた古いものを先代様がこちらに植え替えたとか。
この都の桜も美しいですが、南都の桜には清廉な気配があって、なんとも惹かれるんです。
[折り鶴は見るときによっては淡く輝くだろう。]
出やすい?あやかしのことですかな。
あやかしでしたら――
大殿さまの寝所では獣のにおいがいたしました。
犬、ですな。
あとは先ほど蛇と蟲が。
…や。弟様でしたか。
[師輔の言葉に一つ瞬きをして]
羅生門の傍にて、助けて頂きまして…ね。
私が気付けなかったあやかしを追い払って頂きまして…
其の時、名を教えてはくれなかったのでありますが…
花山院。家の名だけは教えて頂きました故。
[頭を下げ礼を言い。
白藤の言葉に、ほぅ、と息を漏らすのだった]
…いらっしゃるのですか。
いや、いらっしゃってもおかしくはない、か。
あの方なれば、あやかしに対しての抗とも成り得ましょう。
[男の苦悩を、少年は知らない。
知る術を持たないし、彼のことを純粋に信じきっていたから。
まさか、彼が誰かに嫉妬という感情を向けることがあることすら、気づいていない。
その視線に、気づいていないのだろう。
弥君の傍ら、会話の合間に見せる表情は穏やかなもので]
[歩きながら、目線だけで邸内を探る。鋭さは伴わず、ただ、眺めるように]
床に臥してはおりますが、臥してばかりではますます悪うなりますゆえ、たまには歩いても良いと思うのですが。
六条院さまも若君様も、わたくしを見縊っておいでなのです。
[若宮の後をついていくと、途中から大きな男に声をかけて。遠目で見た付きの武士だと気づく]
(弟君……にしては、奇妙な扱いだったが)
[祓ったときのことを思い出し、少しばかり首をひねった。
だが、あの僧だろう。間違いなく。]
大殿邸に行きたいと仰ってな。
なにやら感じ取ってのことだったやもしれないがねぇ。
[明らかに人ならぬ異形の美を湛え、端然とそこに佇む黒白のもの。]
お前は。
式、か。これは……何と。
[些か驚嘆含んだ声音が唇より洩れる。]
[陰陽師の発する犬、等の言葉を訝しげに聞く。]
犬などか。ふうむ…
[顎を擦りながら思案に耽る。]
人よりも思考は単純、あるいは持たないものの仕業なのか。ならば対するのも単純でよいのだろうか。
[薄笑みを返されれば]
そう言う事じゃあ…薬に馴染みも何もあった物ではありませんからねぇ。
客が馴染み、と言うのは嬉しくもあり悲しくもあり。
なんとも、手放しでは喜べません。
[笑みを浮かべるも、其の指はこめかみを押さえ…]
…元より。流れに馴染み、と言うのが難しいのかも知れませんが、ねぇ…
[汐の言葉に]
私に頭を下げても何も出るものではないよ。そうかしこまらずに。
[とはいいつつも、その姿は自らの心を和ませるものではある。]
[地に手をつけたまま 半ばまで面をあげる
其は黄金 幾何学直線が世の理へ軌跡を遺す
未だゆるゆると空気が澱む中 月下に照らし出された地面は 白鼠の色]
[驚嘆の声と注がれる視線にも茫とした表情がまま 己(おの)からは身じろぐことなく おそらくは続く言葉を待っているのだろうか]
…そうですか?
ですが…おじいさまも僕も、心配なのです。
どうか、そのことだけは覚えて置いてください。
[あまり丈夫ではなかった母を思い出して、少しだけ瞳は霞を帯びて。
しばらくすれば、一台の車が外に大柄な武士を伴って大殿の邸から六条邸へと向かい始める]
内裏、ですか。さぞやお美しいのでありましょう。
わたくしも見られると良いのですけれど。
[見てはみたいが、無理であろう、と思い、その後に続く若宮の慰めのような言葉には笑みを浮かべて]
桜……。桜の花は散る様を見てなんと美しい景色であろうと、思うて以来、その時期が楽しみになりました。
満開の桜も良いのですけれど、風に舞う花弁の一つ一つが、命を持っているようで。
[思い出すのはいつも散り際で、それがどこで見た桜でも、美しいと思い]
[報告を聞けば羅生門にまた怪のいくばくかが見えたらしい。
幸い検非違使達と僧都の祓いでその場は収まったらしいが。
後から聞けば大殿の屋敷でもその手の騒ぎがあったとか]
これが人の乱であれば蔵人所がでしゃばろうに物の怪故に陰陽寮などと任に就かなければならないとはな。
[一人ごちた後、御所に戻る前に白藤から聞いた言葉>>164を思い出す]
…これが色恋絡みの恨み事なら巻き込まれるのはまっぴらだ。
自分も経験があれば気持ちもわかろうが今は理解もできん。
政的に恨まれ憑き殺されるならまだ納得もしようにな。
[ぶつくさ言いながら鷹を撫でてやる。
主人のそんな愚痴を聞いても困るだけだろうに。とまれここですることは終えた。自宅に戻るなりなんなり、改めてゆっくりと笛に浸りたいものよ、と思いながら]
いつか、参りましょう。
[さも当然のように少年は夢を語る。
桜を楽しみにしているらしい様子に静かな微笑み一つ、瞳を細め]
ええ、本当に。
……そうだ、中将殿に花を見せていただけると約束を頂いたのです。
もしよろしければ、具合にもよりますが…一緒に、お伺いしませんか?
……どうでしょうね?
獣でも、聡い者はおりますよ。
[たとえば――中将の鷹は、利口であると思う。]
単純に見える獣を……
けしかけたのはひとであると思っておりますがね。
…あながち、間違いじゃあなかった、という事でしょうかねぇ。
確かに…居た…のでしょう?
[法師の事を思い返してみる。
…薬師にはほとんど何をしたのかさえも分かっていなかったのだが…
其の力が確かだと言う事を認識させるには充分だった]
…いえ。
礼もろくに言えぬまま、去ってしまわれたので…
お兄様なれば、其の礼を受けとってくださってもおかしくはないはずです故。
[師輔には小さく笑んで。箱を背負い直し]
[真白き膚(はだえ)。無毛の、陶器の如き艶持つそれは、光を溢し。
紋様浮かぶその衣さえ。]
いや。
形代なのか、お前は。
であるとするなら、どのような執念がこれ程の器を生み出したのだ……穢れを全て収めんとする程の。
[純粋な興味のいろ浮かべておとこは歩み寄り、その顔の前に手を翳した。]
[門まで来ると、そこには三人の男が立っていて、見知った二人には余り顔を見られぬように一礼し、女房に手伝ってもらい、車へと乗り込む]
(あんまり中は探れなかったけど、でも収穫はあった。あの桜の樹ではない。それにもう、あの邸は盗みに入ることは出来ない。それだけで、十分か)
[御簾の隙間から、外に立つ汐を見て袖の下へ隠した両手を思い出し、ぎゅっと握り締めて]
中将様のお邸に、ですか?
わたくしも連れて行ってもらえるのでしたら、是非にと。
楽を好きな方ですから、きっと庭の方もお美しいのでしょう。
学生 ラッセルは、修道女 ステラ を投票先に選びました。
ふむ…恐るべきは獣よりも獣遣い、か。
気をつけなければならぬな。
よもや私に降りかかるならば、可能な限り振り払わなければなるまい。
[折り鶴を手に二人へ強い意志を持って*答えた*]
[ふたたび狐に背を向け。
内側から獣に喰われ、大勢の人の手で襤褸布のように裂かれた、大殿の体──湧きいでた人の腕ほどのおおきさの蛆にまみれた、ぐにゃりとして臭気を放つ肉塊を、おとこは愛しげと云ってよい所作で抱きよせ、清潔な白布で包んだ。]
[おとこの手には透き通る水晶の数珠。]
・・…──
[ささやくような声で真言を唱え、
数珠の一粒を取り、澄んだ輝きを屍骸にかざす。
数珠が大殿の屍骸の穢れを吸い込み、蛆とともに腐れた果実のように朽ち果てるのを──静かに見届けた。]
お尋ね者 クインジーは、冒険家 ナサニエル を能力(襲う)の対象に選びました。
[屋敷の者たちに、言い含めるようにおとこは言の葉を紡ぐ。]
蟲は燃やしてしまうしかない。
遺骸も、抜け殻にすぎないが、燃してしまうしかない。
ああ。屋敷のすべてを清らかにしようと考えてはいけないよ。
清浄にしすぎると、空白が出来、
余計に穢れを呼び込んでしまうから──。
[大殿の手には、殿が生前に使用していた数珠を持たせ、枕を北にする。
屋敷の者に向かい、おのれが花山院の者であることを告げた上で、寺に連絡を取らせ、大殿の遺骸を火葬にする手はずを整えた。]
[姫君と若宮が来たならば道を開け、頭を下げる。
姫の正体に感づく様子もなく。]
―――そうですな。
ゆめゆめ注意を怠ることなかれ、ですか。
[と、口にした。]
[おとこは、部屋にのこり、床、壁、布にはり付いた蟲に手の平を翳す。]
[喝]
[蟲はおとこの手の前で、溶けるようにして消える──。]
[思えば二十歳そこそこの若造が中将などとなれば蔭位の制とはいえ周りからどれだけ羨まれていた事か。わが身も危ないと思ったほうがよさそうか。自宅への牛車の中、ぼんやりとそんなことを考えていた。
そして自宅へ戻り、衣を変えていた頃に先触れが入る]
…宮様が?…丁重にお迎えを。父は不在の旨も忘れずにな。
香を焚き座を整えよ。
[控え、影居の様子を見ていたが、あるじの気が白い膚へ向き、白い膚の湛えた目があるじの姿をうつしたとみえては
日頃より音沙汰気配の少ない存在ではあったが、輪をかけてしずかに、風に揺れた衣の影で人知れず姿を消した。]
[…姫と若宮が来れば道を開け、頭を下げ。
傍にいなくなれば頭を上げて。
…姫の正体に気付いている様子はない]
…ええ。振り払わねば…ね。
[師輔の言葉に小さく頷く様に口にするが]
振り払う。か…私も何か。ちゃんと考えた方が良いのかねぇ。
──中庭──
[屋敷は騒がしい。陰陽師、役人、永漂以外の法師。葬儀を進めるために呼ばれた僧たち──。それにくわえ、若宮だけではなく、姫君が来訪と、他ならぬおとこの兄の訪れを聞く事が出来た。]
…兄上、も か。
[とうとう、おのれは兄に対面するのか、とおとこはひとり息を吐く。]
冒険家 ナサニエルは、双子 リック を能力(占う)の対象に選びました。
[答(いら)えの無いことも気にならぬ態で、水底思わせる瞳を覗き込む。]
お前は何のために作られたのだ?
その器に何を盛る…?
おれは。
目の前の親王に何を期待しているのだろう。
ただの庶民であるおれからすれば、雲の上のような人で。
何も期待することなどない。
弥の君は男なのだから、期待させすぎてしまうのもダメだ。
おれはいつか、あそこを出るのだから。
[くらいひとみの男の見る先。
どうやらそれは、かれの“兄”である様子で。]
……。
[邪魔にならぬよう下がる。
やはり、奇妙な雰囲気だと思った。]
[おとこの姿がまた波紋のごとくゆれる。]
[怨] [うおぉぉおおん]
[かなしげな犬の鳴き声]
[最後の一頭が身の裡に抱き込んだ 煮え滾る毒──][蟲毒の呪は、大殿をひとで無くさせころしたあとも ・・・ ]
[許さぬ] [祓う事等出来ぬ] [怨]
見習い看護婦 ニーナは、吟遊詩人 コーネリアス を投票先に選びました。
[わずかに揺れる車の外を見る。遠くに離れていく三人の男。姿がばれずに済んだと一つ息をつき]
ああ、若君様、外に出たついでにこちらを求めてまいりました。
昨日の餅のお礼になれば、と。
聞いた所によれば、修練用としてならば使えるのだと。
[懐から弦の包まれた袋を取り出し、若宮の方へと差し出す]
[ふと。見やる先には黒衣の法師が居て。
頭を下げ…]
どうも。
あの時はありがとうございました…
[そう、一歩下がる。
しかし。何処か、其の目の色が気になった]
[ゆっくりとした動作で右の袖を引き上げる
紅碧 薄蘇芳 をはじめとし 種々の徴が白い腕を覆っている
安倍影居であればわかるであろう]
牧童 トビーは、学生 ラッセル を投票先に選びました。
冒険家 ナサニエルは、村長 アーノルド を投票先に選びました。
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